とある魔術と木原数多 > 21


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8月20日午前9時40分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
『駆動鎧』の腕が、五和の眼前に迫る。 
 
 
「……っ」 
 
 
人間の出せる速度を超えた一撃を、すんでの所でかわした。 
 
だがそれでも。 
 
空気を裂く勢いで振り下ろされた攻撃は、五和の心を凍らせるには十分で。 
 
 
「……はあ、はあ……」 
 
 
距離を取ってテレスティーナを睨む彼女の眼には、紛れもなく恐怖の色が存在している。 
 
 
「おいコラ、避けてんじゃねえよ。ちゃっちゃと死んでくれないと面倒くさいでしょうが」 
 
「な……」 
 
 
そのぞんざいな口調は、まるで視界に映ったハエに対するかのようだ。 
 
しかしそんなテレスティーナの態度を見て、逆に五和は落ち着きを取り戻していく。 
 
 
「この人じゃない。目的に集中しなきゃ……」 
 
「あ? 何が?」 
 
「我らの女教皇様は、こんな人にやられはしない」 
 
「だーかーらー、誰の話をしてんだっつうの!」 
 
 
もう一度殴りかかるテレスティーナ。 
 
けれども、今度は五和は逃げない。 
 
――ガッキィィ!! 
 
自身の持つ『海軍用船上槍』で、暴力的な打撃を受け止めて見せた。 
 
 
「……妙な現象だな、どうなってやがる?」 
 
「魔術による強化ですよ。敵地へ潜入するというのに、私達が何の対策も講じていないと思っていたんですか?」 
 
 
樹脂を利用した、“成長する”防御魔術。 
 
樹木の年輪を象徴するこの術式は、その限界を迎えるまで文字通り耐久力が増幅する。 
 
いかに駆動鎧の破壊力が凄まじいと言えども、聖人の一撃すら耐えるこの槍を破壊することはかなわない。 
 
そして。 
 
その槍をテレスティーナに向けて、五和は宣言した。 
 
 
「次は本気であなたを倒しにいきます。ですが、その前に1つだけ」 
 
「我らの女教皇様を死に追いやった張本人――木原数多はどこですか?」 
 
 
投げかけられた言葉を聞いた直後。 
 
黙って話を聞いていたテレスティーナは、耐えきれなくなって噴き出した。 
 
 
「ぶはっ、良くもまあそうペラペラ戯言をほざけるよなぁ、お馬鹿さーん!」 
 
「!」 
 
「けどなぁ、テメェみたいな馬鹿があいつに挑んだところで、相手になる訳ねーんだよぶわぁーか!」 
 
 
テレスティーナは笑いながら、兵装の1つであるグレネードランチャーを準備。 
 
そしてシュコン!と言う音がして、全く戸惑いのない一発が発射された。 
 
 
「そんな!?」 
 
 
響く轟音、粉砕される壁。 
 
近距離で発射された弾丸は逸れたものの、破壊の余波で五和は冗談のように転がっていく。 
 
 
「ぐ、つぅ……」 
 
 
圧倒的な火力を持ち出したテレスティーナは、それでも不満顔だった。 
 
 
「ああん? 何だよ、調整がイマイチじゃねえか」 
 
 
そのまま倒れた五和に近づくと、彼女の腹部を蹴り上げる。 
 
 
「がはぁ!」 
 
「オラ、もう一度さっきと同じ寝言を言ってみろや!」 
 
 
一度だけではない。 
 
何度も執拗に蹴りつけ、踏みつぶす。 
 
 
「ごふっ」 
 
「相手を見て物を言えっつーの」 
 
 
止めとばかりに全力で蹴る。 
 
だが、予想した衝撃は訪れなかった。 
 
 
(空振り……!?) 
 
 
駆動鎧の足に残るのは、五和の着ていたトレーナーのみ。 
 
ここにきて、テレスティーナが初めて驚愕の声を発する。 
 
 
「身代りか!」 
 
「言いましたよ、次は本気で倒しますと」 
 
 
敢えて攻撃を喰らい、術式の準備を完了させた五和が不敵に笑う。 
 
すでに辺りには、彼女の武器が張り巡らされていた。 
 
 
「――七教七刃!!」 
 
 
7本の鋼糸がテレスティーナ目がけて襲いかかる。 
 
そして極細の刃は、彼女の駆動鎧をバラバラに切断した。 
 
 
「これで……!」 
 
 
生身の肉体を晒すテレスティーナに、五和が肉薄する。 
 
この条件なら。あの『駆動鎧』さえなければ。 
 
確実に勝てるはず。 
 
攻撃の刹那。 
 
テレスティーナが、勝利を諦めたのか笑っているのを見て取った。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――それが、五和の見た最期の光景である。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
8月20日午前9時00分、第7学区のとある広場 
 
 
木原が『人材派遣』と接触し、また天草式が結界を張り始めたのと同じ頃。 
 
ステイルは情報入手の為、監視衛星で居場所が分かっている敵に接触を行う。 
 
 
――現在居場所を把握している侵入者は半分にも満たない。 
 
 
それはつまり、裏を返せば半数近くの侵入者の居所は知れているという意味だ。 
 
ならばまずはそこから当たるのが常道である。 
 
木原本人は用心深く姿を隠しているが、手駒までそうする必要性はない。 
 
とりあえず彼らと戦って、情報を多く入手する事。 
 
それがステイルに下された命令である。 
 
 
『む、何か大きな術式を組み始めたかも。急いだ方が良いんだよステイル』 
 
「分かった。もうすぐ到着するから安心すると良い」 
 
 
ちなみに、インデックスがカメラと無線で援護しているのも木原の命令だ。 
 
 
(こんな形で彼女と一緒に行動する事になるなんて、皮肉にもほどがある) 
 
(神様を恨みそうだ) 
 
(……やっぱり、イギリス清教を抜けて正解だったのかもしれない) 
 
(僕のような――救いようのない罪人は) 
 
 
広場でルーンの痕跡を発見した香焼と対馬は、その場で探査術式を展開していた。 
 
女教皇を殺した相手への恨みで気が狂いそうだというのに、そんな素振りは表に出さない。 
 
 
「……」 
 
「……!」 
 
 
雑誌を読むふりをしていた対馬が、異変を察知して顔を上げた。 
 
やや遅れて香焼も気付く。 
 
 
「……行くわよ香焼。近くで魔力が増大してる」 
 
「しかもこれ、ルーンじゃないすか?」 
 
「そうね、きっとここで戦っていた魔術師と同じだと思う」 
 
「けど、侵入した魔術師は学園都市に捕まったって、イギリス清教は言ってたんすよ?」 
 
「もしかしたら、隙をついて逃げだせたのかもしれないわ」 
 
 
とにかく様子を見に行きましょう、と駆けだす対馬。 
 
香焼も急いでその後に従った。 
 
 
タイミングがいささか遅い事を承知で、とある事実を述べさせてもらう。 
 
天草式十字凄教に神裂火織の死去を伝えたのは、当然ながらイギリス清教だ。 
 
『必要悪の教会』に所属する魔術師とはいえ、神裂は元々天草式のトップだったのだから連絡は当然である。 
 
しかしながら、イギリス清教最大主教ローラ・スチュアートは幾つかの事実を報告していない。 
 
すなわち、自身の部下の裏切り。 
 
禁書目録という魔術世界の禁断兵器が、学園都市の手に堕ちている事。 
 
これらの事をローラは意図的に隠したのだ。 
 
その理由は、奇しくも木原と同じ。 
 
かつて木原が、デニスを利用してエツァリ達の行動を観察したように。 
 
学園都市が如何にして魔術師と戦うのか、絶対記憶能力を持つインデックスを通して逐一把握するためである。 
 
そもそもローラは、その気になればインデックスを自由に操れるのだから。 
 
最初こそインデックスを取り戻そうと試みたものの、木原達がシェリーを完封した時から作戦は切り替わっていた。 
 
保険として用意したアステカの魔術師と、『自動書記』の遠隔制御霊装。 
 
そちらを使い、学園都市が“食べ頃”になるまで静観する作戦に。 
 
つまり天草式は、デニスと同じく捨て駒として利用されたのだ。 
 
 
 
当然、後の悲劇を予見できるはずが無い。 
 
 
 
広場の近くにある路地裏。 
 
そこに駆けこんだ香焼と対馬が見たものは、自嘲して顔を覆う魔術師だった。 
 
 
「なるほど、君達は神裂の……少し考えれば分かる事だったね」 
 
「天草式、だったかな。ここに来たのは復讐のためかい?」 
 
 
赤髪の魔術師が、同情するような視線を投げかける。 
 
既に彼は、侵入者の正体が“分かってしまった”のだ。 
 
 
「女教皇を御存知でしたか」 
 
「ああ、僕は彼女の同僚だったから」 
 
 
対馬の質問に、どこか泣きそうな雰囲気で答える魔術師。 
 
 
「そして、彼女が殺されたのは僕の所為だ」 
 
「!?」 
 
「許してくれとは言わない。全身全霊をもって僕を恨んでくれ」 
 
「神裂の事も、これから僕が君達にする事も」 
 
 
路地裏いっぱいに焼きついたルーンに対馬が気付いた時、すでに戦いは終わっていたも同然だった。 
 

 
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