とある魔術と木原数多 > 17


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8月19日午前12時00分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
もしかしたら、想像出来ない光景かもしれない。 
 
彼らを知っているものなら、尚更に。 
 
 
「うん、美味しいんだよ! この唐揚げがもっと欲しいかも!」 
 
「ちょっとは遠慮しろ、クソガキ」 
 
「むー。そういうあまただって肉ばっか食べてると思うけど!」 
 
「あの……べーしっくも……もうちょっと欲しいです」 
 
「……ん」 
 
 
大皿に乗っている唐揚げを、木原が3つほど『管理個体』の皿に取り分ける。 
 
それを見て怒り心頭になったのはインデックスだ。 
 
 
「な、何でベーシックには甘いのかな!?」 
 
 
キーキーと怒る彼女だが、右隣に座っていたエツァリが唐揚げを渡したことで機嫌を回復させた。 
 
 
「ありがとうなんだよ、エツァリ」 
 
「いえいえ。他に何か食べたいものはありませんか?」 
 
「えーと、そっちの海鮮サラダが食べたいな!」 
 
「はい、どうぞ」 
 
 
ニコニコ顔でサラダを持ってくるエツァリに、ショチトルが静かに声をかける。 
 
 
「エ、エツァリ。その……私にも少しくれないか?」 
 
「分かりました。ではお皿を出して下さいショチトル」 
 
 
エツァリとインデックスの話が終わったので、彼女の左にいるステイルがここぞとばかりに酢豚を差し出した。 
 
 
「インデックス、こっちも欲しいだろう?」 
 
「あ、それも大好きなんだよ!」 
 
「良かった。たくさん食べてくれ」 
 
 
 
「…………何なの、この空気」 
 
「知らん」 
 
 
この場にある大量の料理を作ったナンシーの独り言に、向かいに座るマイクがそっけなく返答。 
 
そう、彼らは完全無欠に昼食中だった。 
 
意外に思うかもしれないが、『対魔術師用特別編成隊』は基本的に全員で食事を取る。 
 
その為、待機所の食堂は賑やかなものとなっていた。 
 
現在ここに居ないのは、研究が大詰めを迎えてフィーバーしているテレスティーナだけだ。 
 
※木原が帰ってきたため、寮監は帰宅している 
 
 
「木山センセ、そこの塩取ってくれる?」 
 
「これか」 
 
「ありがとー」 
 
「しかしヴェーラ、私を先生と言うのは止してくれないか」 
 
「えー。じゃあ木山ちゃん?」 
 
「……もういい。好きに呼びたまえ」 
 
 
各自バラバラに食事をしないのは、敵対勢力を警戒しての事だ。 
 
魔術師と戦っている以上、いつ攫われたり入れ替わったりされるか分からない。 
 
個人行動を極力減らすことで、その危険性を避けようというのがその理由である。 
 
――ただし、これは建前だ。 
 
実際はもっとシンプルな理由が存在している。 
 
すなわち、インデックスに外食させていては無駄に資金が吹っ飛ぶから。 
 
どうせなら全員で揃って食事をして、時間の無駄を省きたいと言うのもある。 
 
故に彼らは、食事を当番制で用意しているのだ。 
 
 
 
ちなみに。 
 
リーダーの木原は、肉以外を決して料理しようとしなかったので当番から外された。 
 
 
 
 
8月19日午後4時00分、学園都市統括理事会 
 
 
――『あの異端児、随分と面倒な事をしおって。幾らの経済損失を被ると思っておる!』 
 
――『ふむ。しかしこのデモは、些か不可解と言わざるをえないだろう』 
 
――『その通りです。わたくしはあらゆる角度から大衆心理分析を行いましたが、この抗議活動は不自然極まりないと結論付けます』 
 
――『んで、どーするよ? 一々叩き潰すのは手間だぜ』 
 
――『……面倒はキライ……』 
 
――『それについては、木原数多から報告がある』 
 
――『ほう。打開策を提案してきおったか?』 
 
――『現刻から72時間以内にこの状況を改善する、と』 
 
――『なに……?』 
 
――『本気なのか?』 
 
――『実に面白いですね。わたくし達は静観していろと言う事でしょうか』 
 
――『ただし、条件があるらしい』 
 
 
木原が提示した条件を、統括理事会の一人が読み上げる。 
 
その条件を認めるか否か、彼らは1時間ほど悩んだ。 
 
そして、結論が出る。 
 
 
――『じゃあよォ、この提案を承諾するっつー事でいいな?』 
 
――『異議なし』 
 
――『異議なし』 
 
――『異議なし』 
 
――『異議なし』 
 
――『異議なし』 
 
――『ここに統括理事会の合議が成立した。異端児の成果を期待するとしようかの』 
 
 
8月19日午後2時00分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
統括理事会が会議を開く2時間前。 
 
会議室に呼び集められたのは、インデックスやエツァリ、ショチトルにステイルといった魔術師だ。 
 
 
「やっぱり、今回使われている霊装は……『C文書』の可能性が一番高いんだよ」 
 
 
木原から事の次第を聞いたインデックスは、ハッキリそう言った。 
 
 
「教皇が宣言したことを強制的に『正しい』と信じさせる。それこそ信じられねぇ話だな」 
 
「む、疑うの?」 
 
「まさか。それぐらい出鱈目なモノじゃなきゃ、今回の不自然なデモは説明出来ねーよ」 
 
 
感心したように言う木原を、黙っていたショチトルが睨みつけた。 
 
 
「それでどうするのだ? C文書はバチカンに設置して使う霊装なのだろう?」 
 
「……」 
 
「まさかこの状況で、再びバチカンへ行く気か?」 
 
「……それなんだけどよ」 
 
 
 
 
「本当に、C文書は“バチカンだけ”でしか扱えないのか?」 
 
 
 
 
木原の問いかけに、インデックスはどういう事?と首を傾ける。 
 
 
「あのローマ教皇の態度を見る限り、こんなデモを起こすとは考えにくいだろ」 
 
「それは……」 
 
 
バチカンで対峙した時、ローマ教皇はどんな態度だったか。 
 
 
――「止まってもらおうか。貴様をこのまま放置しておけば、いずれ大きな災厄となるだろう」 
 
――「貴様の身柄を拘束し、学園都市統括理事会との交渉材料にする。私は争いを望まない」 
 
 
(そうだ。学園都市を潰す為に信徒を利用すると言うのは、ローマ教皇の行動パターンと一致しない) 
 
(それにあの会談からわずか2日しか経ってねぇ) 
 
(うんざりするほど大勢いる枢機卿の意見が、こうも早く纏まるとも思えねーし) 
 
(恐らくは、そういう正規のルートを飛び越えたところでこの霊装は使われた) 
 
(じゃなきゃこのスピードは説明がつかないしな) 
 
(それが出来るのは、間違いなくあの『フィアンマ』とか言う奴の同類だろう) 
 
(……可能性としちゃ、十分考えられる) 
 
 
そこまで考えた木原は、インデックスにこう問いかけた。 
 
 
「なあ、仮にC文書をバチカン以外で扱うとしたら、どこが考えられる?」 
 
 
アビニョンの名が挙げられたのは、それから10分後だ。 
 
 
さらにそれから30分ほど費やして、木原は自らの考えの裏付けを取った。 
 
アビニョン周辺の航空写真、物資の移動記録、バチカンからの渡航記録等。 
 
それらを分析した結果、木原はC文書がバチカンではなくそこにあると判断する。 
 
 
「完成したクローンの初陣に丁度いい。世界を混乱させるローマ正教の野望を、打ち砕こうじゃねーか」 
 
「しかし、堂々と兵士を――それもクローンを――フランスへ送り込むなど不可能では?」 
 
 
エツァリが疑問を呈する。 
 
それに同意して、ショチトルも首を縦に振る。 
 
 
「エツァリの言う通りだ。あの地域は今も暴動が続いているんだぞ」 
 
「いやいや、そこは学園都市ならではのやり方があるから心配すんなって」 
 
「……?」 
 
「俺は、今学園都市を出る訳にいかないから……作戦の指揮をマイクに任せよう」 
 
「エツァリとショチトルは、同行して指示に従え。いいな?」 
 
 
こうして、『アビニョン攻略作戦』が始まった。 
 
 
8月19日午後6時00分、同時刻、天草式十字凄教のとある拠点 
 
 
「教皇代理、全ての準備は整いました」 
 
「……そうか。なあ対馬、俺は今でも信じられんのよ」 
 
「私もです。まさか、あの方が……我らの女教皇が、殺されたなどと……!」 
 
 
その言葉を聞いて、教皇代理と呼ばれた男が拳を握る。 
 
 
「この身を焦がすような怒り、抑えようにも抑えられんのよな」 
 
「はい」 
 
「木原数多。この男だけは、俺の手で――」 
 
 
その先を言う前に、天草式のメンバー50人が彼の前に姿を見せた。 
 
同じ気持ちを抱く仲間を前にして、教皇代理――建宮斎字(たてみやさいじ)は厳然と告げる。 
 
 
「行くぞ。我らが敵の待つ、学園都市に」 
 
 
同時刻、胤河製薬学園都市支店 
 
 
統括理事会の許可を得た木原は、木山を連れて製薬会社を訪れた。 
 
 
「何故、私まで連れてきたのかね?」 
 
「ここにはよぉ、木山ちゃんが会いたい人間がいるんだわ」 
 
「……誰の事だい?」 
 
「もーすぐ会えるから、ちょっと我慢しろって」 
 
 
はぐらかされた木山は、大して期待もせずに木原の後に従う。 
 
 
(どうせ、教え子に再会させるつもりもあるまい) 
 
(この男に期待したところで、裏切られるのが関の山だろうしな) 
 
 
そんな事を思っていると、やがて2人は研究棟の地下3階へ到着した。 
 
不可解な事に、そこはまるで牢獄のように鉄格子が一面に並んでいる。 
 
 
「なんだここは? まるで牢屋じゃないか」 
 
「大正解だぜ木山ちゃん。ここは悪人を閉じ込める牢屋なんだよ」 
 
 
その時だ。 
 
フロアの一番奥。頑丈な鉄格子の向こうから、場違いに楽しそうな声が届いたのは。 
 
 
「おや、まさか君が来るとは……会えて嬉しいよ、木山君」 
 
 
そのおぞましい声を聞いて、木山は失神するかと思った。 
 
自分にとって、絶対に忘れられない人間の声。 
 
全ての悲劇の発端が、そこに監禁されて笑っている。 
 
 
 
「き、はら、幻生――!?」 
 

 
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