とある魔術と木原数多 > 13


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8月19日午前9時00分、第5学区のとある研究所

 
 
極端に静かなその研究所を見て、マイクは面倒くさそうに吐き捨てた。
 
 
「……クソッ、警戒されてんな。少々厄介だ」
 
「なんなら、君は1人でお留守番でもしているかい?」
 
 
それをバカにした口調でからかったのは、同じ『猟犬部隊』のステイルだ。
 
彼も木原の命令で、神父服からマイクと同じ装甲服へと着替えてある。
 
いや、厳密には少しだけ異なる仕様になっているが。
 
そんなステイルに対し、マイクは顔も向けずに言い返す。
 
 
「調子に乗るんじゃねぇよ魔術師。ヘマしたらどうなるか分かってんだろうな?」
 
「ふん。言われた事ぐらいこなして見せるさ。……あの子の為にも」
 
 
言い合う2人を見て、背後に従っている『猟犬部隊』10名が不安そうに顔を見合わせた。
 
昨日の段階で、木原は自分に敵対した一族の人間を潰す為に『猟犬部隊』を召集。
 
今回は相手が魔術師ではないので、『対魔術師用特別編成隊』以外の一般隊員を用意したのだ。
 
もちろん、彼らは魔術の事など何も知らない。
 
そんな彼らを指揮するリーダーとして、マイクとステイルが選ばれた――が。
 
つい最近殺し合いをした2人の仲は険悪そのもので、今にも互いを攻撃しそうな雰囲気を見せている。
 
 
(大体、何故俺がこの男と……)
 
(能天気なヴェーラ辺りに任せてくれればいいものを)
 
 
文句ばかりのマイクだが、やがて諦めたように任務に集中した。
 
 
(メンバーに文句があろうと、任務を失敗する事は許されない)
 
(下らない任務は、さっさと終わらせるに限る)
 
 
それはステイルも同じようで、作戦時刻が近づくにつれて表情は真剣なものに変わっていく。
 
そもそもこの任務にステイルが選ばれた理由は、彼の新武器を実戦で試す為なのだ。
 
良い実験材料が手に入ったと喜んでいた木原の顔を思い出して、ステイルがこめかみをわずかに痙攣させる。
 
 
(あの男……自分の親族が敵に回ったというのに、嬉々として実戦データを求めるとは)
 
(つくづく科学者というのは、頭のおかしい人種だ)
 
(しかしあの子を守るには、このまましばらく耐える必要がある)
 
(そうだ。相手が誰であろうと、容赦なく焼き殺す)
 
(……もう僕は、すでに戻れないところまで来ているのだから)
 
 
ステイルの瞳が、ほの暗い闇色に染まる。
 
彼は昨日、木原から『管理個体』を紹介された。
 
 
――「き、きみは!?」
 
――「初めまして、すている。私はべーしっくです」
 
――「ど、どういう事なんだ、一体……!?」
 
――「そーんな風に驚いたら、このガキが可哀想だろー?」
 
――「彼女は、神裂にそっくりだ!」
 
――「当然だろうが。クローンなんだからよぉ」
 
 
それから語られた信じられない出来事は、14歳の彼にとってあまりにも重かった。
 
(神裂……すまない……)
 
(死して尚、あの男に利用されるなんて思ってもみなかったんだ……)
 
(……この責任は僕が必ず取る)
 
(あの男は、この僕がいつか必ず殺す)
 
(絶対にこの手で……!)
 
 
そうするには、何よりも力が必要だ。
 
木原に叩きのめされてその事を痛感したステイルは、その力を身に付けるまで大人しく言う事を聞こうと決めた。
 
 
(ここにいる、あの男の一族)
 
(所詮、同じ穴の狢なんだろう? ならば、遠慮はいらない)
 
 
新たな武器を握りしめるその表情は、正に魔術師と呼ぶにふさわしく、どこか悲痛なものを感じさせる。
 
それでも彼は、止まらない。
 
いや、止まれない。
 
そうしてチカラを求める事が。
 
――木原の狙い通りなのだと、心のどこかで理解していても。
 
 
同時刻、第7学区の常盤台中学学生寮
 
 
その石造り三階建ての巨大な洋館は、古めかしい見た目と裏腹に厳重なセキュリティが施されている。
 
夏休みという事もあり、中からは学生の楽しそうな声が聞こえてきた。
 
そんな平和な光景から、最も縁遠いはずの男。
 
木原数多が、その門の前に立っている。
 
彼の隣にいるのは、外気の暑さで項垂れている木山と、興味深そうに周りを見回す『管理個体』。
 
 
「ますたー。ここですか?」
 
「ああ。俺の知り合いの中じゃ、コレしか思い浮かばなかったからよぉ」
 
「だが……本当に、この子の事以外には巻き込まないんだな?」
 
「ぎゃは。木山ちゃんは疑い深いな、俺を信じろって」
 
彼らがここにいるのには、理由がある。
 
『管理個体』の世話を木山に一任したものの、彼女では力不足だったのだ。
 
それは教育者としての力量の比喩ではなく、文字通りの肉体的な“力”の話である。
 
体格こそ幼い『管理個体』だが、彼女は『聖人』神裂の正確なコピーだ。
 
しかも他のクローンを管理する為に、ごくわずかだが『聖痕』を常時開放している。
 
そんな不自然な調整を施された『管理個体』は、未だに力を御する事が出来ないままだった。
 
昨日あの後、すでにベッドと箪笥、そしてテーブルを破壊している。
 
 
(あのガキが言うには、本来聖人は『赤ん坊の頃から、その力を安定させる手段を無意識に実践している』らしいが)
 
(クローン制御用に『聖痕』を弄ったおかげで、それが不完全になっちまった)
 
(俺とした事が、こんな見落としをしていたとは)
 
 
幾ら『学習装置』と言えども、聖人の力の抑え方などインプット不可能。
 
つまりそれ以外で、莫大な力を持てあまさないように、上手な制御法を学ぶ必要がある。
 
問題はさらに存在した。
 
『管理個体』は『学習装置』で木原の命令には絶対服従しているが、木山に対してはそうではない。
 
彼女を木山の反抗に利用されない為の処置だったが、それはつまり木原以外には『管理個体』を止められないという意味にもなる。
 
精神年齢の幼い彼女が、もしも木原の留守中に暴れたら。
 
それを確実に止める為の方法を、用意する必要がある。
 
この2つの問題を、木原はとある人物の力で同時に解決しようと考えた。
 
 
学生寮の敷地に、木原が1歩踏み込もうとしたその瞬間。
 
 
「止まれ。1歩でもその先に入れば、只では済まさん」
 
「なるほど、大したセキュリティだなオイ」
 
 
女性。見た目は20代後半だろうか。
 
華奢な体に似つかぬ力強さが、体中から感じられる。
 
眼鏡の奥の鋭い眼光は、あの木原相手に怯む様子も無い。
 
この寮内に存在するあらゆる高性能なセキュリティよりも、信頼のおける守護神。
 
あの御坂美琴や白井黒子ですら恐れる、鬼の寮監が声をかけた。
 
 
「……木原数多か。すぐに消え失せろ」
 
「ほう。俺の事を覚えていてくれたとは光栄だ」
 
「忘れるものか。あの一族で私と互角に戦えたのは、貴様ぐらいのものだったからな」
 
「いやー、懐かしいなぁ。もう10年以上前の話だもんな」
 
 
その言葉に、寮監の表情が険しくなる。
 
しかし木原は、それを無視して話を続けた。
 
 
「俺以上の異端者だったとはいえ、それでも結構な話題になったんだぜ?」
 
 
 
 
 
 
 
「テメェが“一族”を裏切った事はな」
 
 
 
 
 
隣にいる木山が、驚いたように体をピクンと反応させる。
 
しかし寮監は、それでも冷静だった。
 
 
「……消えろと言ったが?」
 
「褒めてんだぜ? 常盤台の寮監に就任したって聞いた時は、腹抱えて爆笑したわ」
 
 
中には泡吹いた人間もいたぐらいだ、と木原はケラケラ嗤う。
 
 
「ま、一族の中じゃ落ちこぼれだったから、深く追及はされなかったみてーだが」
 
「なにしろ木原一族のくせに、昔からガキが大好きだってんだからな」
 
「異端者も異端者、スゲェ浮いてたろ?」
 
 
木原の発言を、寮監は一蹴した。
 
 
「異端なのは貴様らの方だ……外に出てそれが良く分かったよ」
 
「言うねぇ。けどそんなお優しいテメェが、格闘センスだけずば抜けていたってのは皮肉だよなぁ」
 
「……私に喧嘩を売りに来たのか?」
 
「まさか。ちょっと頼みごとにな……オラ、挨拶」
 
 
木原に背中をされて、『管理個体』が1歩前に出る。
 
流石の寮監もポカンと口をあけるが、それには気付かない。
 
 
「初めまして、あなたがべーしっくの家庭教師ですか?」
 
「……家庭教師?」
 
 
唖然とする寮監の声が、学生達の喧騒の中に紛れることなく『管理個体』に届く。
 
ここにきてまた1人の大人が。
 
木原の起こす世界規模の狂乱に、強引に巻き込まれた。
 
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