球磨川『学園都市?』 > 後日談・佐天涙子の場合 > 01


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後日談、というか今回のオチ、というかあの事件からのあたしの周りについて話したいと思う。 
 
あまり表立ってこういった説明をしたことがないので、上手く伝えることができるかは少し疑問ではあるが、 
 
やっぱりあの事件に関わった以上、それによってなにやらヘンテコな能力を持つことができた以上、あたしは話さなければならないのだろう。 
 
あの事件、と称してなかなか首謀者であるあの人の名前を出せないのはなぜだろうか? 
 
そんなことを初春に話してみたところ「ひょっとして恋ですか?」と頭に咲く花から漂う香りよりも甘く、その飴玉を転がしたような声よりも甘い発言をしたので、とりあえずスカートを捲っておいた。 
 
苺柄だった。 
 
違うよ、と言ってしまえばそれで終わったのだろうが、言えなかったあたり決して初春の言うことに間違いはないかもしれないが、 
 
あの人に持つ感情は恋ではなく、それに近い別の何かだと思う。 
 
感謝の気持ちともまた違うこの感情は、いかんせん語彙が乏しいあたしでは表しきれないのだ。 
 
あたしの気持ちを察してくれたあの人。 
 
あたしに能力を与えてくれたあの人。 
 
あたしをどん底まで落としてくれたあの人。
 
三人。 
 
これはあたしが能力の試運転のために傷つけた人の数。 
 
殺してはいないし、別段何か障害が残ったわけでもないが、それでもあたしがあたしの理由で傷つけたのだから謝罪をしなければならい。 
 
でも、いまだにあたしはそれを行動に移せないでいる。 
 
それについては白井さんに相談をしてみたら 
 
「今にでも行ったほうがいいですけど、もう少し気持ちの整理をしたほうが相手にも上手く伝わると思いますわ」 
 
そう言って笑ってくれた。その笑顔はあたしを助けに来てくれたときと同じで、とても優しいものだった。 
 
その言葉に勇気付けられたあたしは、その日の内にご丁寧にメモ帳に謝罪文をビッシリと記入して、入院している彼等をたずね謝罪した。 
 
きっと怒られるだろうとふんでいたあたしを待ち受けていたのは、なぜか彼らからの謝罪だった。 
 
無能力者を馬鹿にしていて申し訳ない。それが三人が三人ともあたしに言った言葉。 
 
混乱しているあたしは三時間かけて書いた謝罪文の一行目にあった「ごめんなさい」という言葉しか言うことができず病室を後にした。 
 
どうやらあたしに怪我をさせられて何か思うところがあったようだが、残念ながらあたしは読心能力など持っていないので知るよしもない。 
 
「人間は他人を理解できない、らしいわよ」 
 
これを言ったのは御坂さんだった。 
 
ただ御坂さんも自分で辿り着いた意見ではなく、あの時、あの場所で、あたしが気絶をしている間にあの人が上条さんに言った言葉らしい。
 
それを聞いてあたしは少し噴き出した。いかにもあの人らしい意見だな、と思った。 
 
だけどあたしは他人を理解しようと決めた。少なくとも大事な親友たちの気持ちぐらいは。 
 
さて、前置きが長くなってしまった気がするけど、ようやくあの事件におけるあたしのエピローグを語りたいと思う。 
 
あたし、佐天涙子の最初で最後の一人舞台。不慣れな点もあるかもしれないがどうかそれは見逃してほしい。 
 
だって、これはあたしが初めて主人公として語る後日談なのだから、それくらいは欲張ってもいいでしょう? 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
後日談・佐天涙子の場合 
 
 
 
 
 
 
 
「ん……」 
 
どこか倦怠感を身に覚えながらもゆっくりと瞼を開ける。 
 
そこでまず視界へ飛び込んできたのは記憶が途切れた研究所の天井でも、空でもなく、大きな花の群れだった。 
 
あぁここはきっと天国なのだろうか、だからお花畑が見えるのか、 
 
でもあたしはきっと地獄行きの筈だからきっとこれは三途の川原なのか、と一人で思いふけっていると、 
 
突然、その花がゆらゆらと蠢き出し一瞬で視界から消える。変わりに目に映ったのは親友の初春飾利の涙でクシャクシャになった顔だった。 
 
「うぅ……佐天ざん……よがっだぁよぅ」 
 
その顔を見てここが現実なのだと理解し、 
 
さらに言えば初春の顔面の後ろにかすかに見える天井の模様は風紀委員第一七七支部の詰め所のものだと把握する。 
 
気を失った自分をここまで運んでくれたであろう初春にとっては感動の再開なのだろうが、 
 
今にも垂れ落ちそうな鼻から伸びる液体に標準を合わせられているあたしはそれどころではない。 
 
「……おっけー初春。とりあえず顔を洗おうか」 
 
きっと予想以上にハキハキと喋ったあたしに驚いたのだろう初春は、ピクッと体を揺らし、 
 
そして自分がどんな顔をしているのかを把握して慌てて洗面所へと駆けていった。 
 
鼻水という魔の手から開放されたあたしはとりあえず自分の状態を把握する。 
 
研究所内で何か背中に刺され、そのまま気を失った。そのまま初春につれられこの支部まで来たのだろう。 
 
今、あたしは応接用のソファーの上で仰向けになって寝ている。 
 
背中には、もう痛みがない。つまりあの人の能力でなかったことにされたのか。 
 
「佐天さん」 
 
そこまで考えを巡らした所であたしを呼ぶ声が聞こえる。
 
「せっかくの再開ですのでもう少し気を掛けてやってもよかったでしょうに」 
 
あたしはソファーから飛び起きて、声のした方角を見つめる。 
 
そこには苦笑いを浮かべている白井さんと、壁にもたれかかったまま何か考えている御坂さんの姿。 
 
「だって、もう少しで鼻水があたしの顔にクリーンヒットするところだったんですよー」 
 
「それだけ軽い口がきけるのなら、別段問題は無いようですわね」 
 
「えぇ……おかげ様で」 
 
そんな会話を白井さんと交わすも、御坂さんの反応は無い。あたしは相変わらず同じ体勢を取り続けている御坂さんを見つめる。 
 
あたしの視線に気がついたのは御坂さんではなく白井さんで、自身の後ろに立つ御坂さんに小声で「お姉様」と呟いた。 
 
そこでようやく御坂さんは伏目を止めあたしへ目を向ける。 
 
「あ、ゴメンね。ちょっと考え事を」 
 
取り繕うようにワタワタと慌てながら答える御坂さんにあたしは一つ質問を投げかける。 
 
「どうなりました?」 
 
それは少しずるい質問だった。 
 
この室内に漂う雰囲気を考えれば全てが全てハッピーエンドで終わったわけでは無いだろうし、 
 
御坂さんがあんな顔をしている原因と分かっていての質問だから。 
 
あたしの問いに御坂さんは「あー」とか「えー」とか呻くばかりで一向に説明が始まる様子が無い。 
 
それに見かねて助け舟ねを渡すように口を開いたのはやはり白井さんだった。 
 
風紀委員として立ち回っているので、こういった状況説明が得意なのだろう。 
 
それがどんな伝え辛いことでも。
 
白井さんは淡々と説明してくれた。 
 
あの時、あの人があたしと白井さんと妹さんに螺子を突き立てたこと。 
 
その後、学園都市の第一位の能力者が現れ御坂さんと共にあの人と戦うも負けてしまったこと。 
 
窮地を救ったのが上条さんだということ。 
 
突然現れた第二位と第四位のこと。 
 
研究所が崩壊したこと。 
 
そして、あの人が死んだということ。 
 
「まぁ、わたくしも気を失っていたので半分以上はお姉様方から聞いた話ですが……」 
 
「その、確かにあの人は死んだんですか?」 
 
「えぇっと……」 
 
問いただしたら、急にしどろもどろになってしまう白井さんは助けを求めるように御坂さんを見つめる。 
 
あたしの言葉にだから話したくなかったんだ、という様な表情を浮かべるのは御坂さんだった。 
 
そして白井さんの言葉を引き継いだのも御坂さん。 
 
「実際に死体を見たわけじゃないけどね。あの時麦野……第四位が言うには事実らしいわ。それにあの崩壊した研究所内に居たのよ。きっと助からないと思う」 
 
「そう、ですか……」 
 
分かりやすく声のトーンが落ちたあたしのせいで、重かった部屋の空気がさらに重くなってしまう。 
 
結局その沈黙を破ったのは、ようやく洗面所から戻ってきた初春だった。 
 
「これで大丈夫です!」 
 
フンス、と主張するには物足りない胸を張りながら自信満々にそう言った初春に、あたしを含め三人が声を出して笑った。 
 
「どど、どうしたんですかぁ!?まだ何か顔についてますか?」 
 
切実に言う初春にあたし達は何も答えず、ただただ笑い続けた。初春はいきなり笑われたことに混乱している。 
 
オロオロと現状を理解できずに慌てる初春には悪いがしばらくこうやって笑わさせてもらおう。 
 
せっかく帰ってきたあたしの居場所だ。今日は疲れて寝てしまうまで笑っていよう。 
 
落ち込むのも、現実を受け入れるのも取り合えず明日へ持ち越しだ。 
 
そして、つられて笑い出した初春も含め、あたし達仲良し四人組みは結局この支部の中で夜を明かすことになり、 
 
翌日出勤してきた固法先輩に叩き起こされるまで泥のように眠っていた。
 
 
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