球磨川『学園都市?』 > 14


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「上条君は青髪クンをお願い!あの過負荷(マイナス)に対抗できるのは貴方だけだから!!」
 
人吉瞳はそう言って教室の中央へ移動し、自らの周りに円を描くように無数のまち針を床へ刺す。
 
そして今度は瞳の身の丈ほどもある巨大な裁縫バサミをどこからともなく取り出し、構える。
 
そんな瞳の姿を見て青髪は上条へ戦う場所を変えようと提案を持ちかけた。
 
「あーあ人吉センセってば本気やん。カミやんちょっとグラウンドいこうや」
 
上条の返答を待たずに、ヒラヒラと手を振りながら教室から出て行ってしまう青髪を上条は急いで追いかける。
 
「なんで俺の名前を知ってるかとかはどうでもいい!姫神をよろしくお願いします!!」
 
「オッケーよん!成り立ての過負荷に遅れをとるほど柔じゃないわ!!」
 
瞳の返答を聞き、しっかりと頷いた後、上条はグラウンドへ向かった。
 
「姫神さん、だったけ?女の子同士ガールズトークでもしましょうか」
 
まち針で作られた円の中央から微動だにしないまま瞳は姫神に語りかけるが返答はない。
 
瞳がため息をついた瞬間、身を翻し何かをハサミで受け止める。
 
そこには姿を現した姫神が、右手に持つ出刃包丁で瞳を切りつけようとしていた。
 
「なんで分かったの?」
 
「縫合格闘技狩縫九の技『待張(まちばり)』……私の意図に気がつかなかったのかしら?」
 
「あなた。糸を」
 
姫神は気がつかなかったが、先ほど瞳が床に刺したまち針には極細の裁縫糸が張り巡らされていて、切れた方角から姫神の位置を割り出したのだ。
 
「たかが認識阻害の能力だけで私を倒すなんて二十三年早いわよ!!」
 
鍔迫り合いをするように互いに押し合う力を利用し、瞳はいきなりハサミにかけている力を抜く。
 
そのまま体制を崩し前のめりに倒れそうになった姫神のわき腹に思い切り回し蹴りを叩き込んだ。
 
壁まで吹き飛ばされた姫神は苦しそうに膝をつき、瞳を睨み付ける。
 
「認識阻害?違う。私の負能力は。存在証明に関わるもの」
 
「一緒でしょう?どれだけ姿を消したってこの待張さえあれば無意味だわ」
 
「そう。ならもう一度」
 
その言葉と共に姫神は姿を消す。ただし手に持っていた凶悪な武器は床に捨てていた。
 
「あらあら、そんな間単に武器を捨てちゃっていいのかしら?体術じゃ絶対に負けないわよ?」
 
そして巨大なハサミも地面へ突き刺し、背筋を伸ばし足を構え臨戦態勢をとる。
 
だが、姫神からの攻撃はなく、代わりに瞳へ声がかけられる。
 
「私は原石。吸血殺しという能力を持つ。それだけが存在理由だった。でも。今はそれを封じている」
 
原石。少なからず学園都市の内部へ関わりを持つ瞳はその言葉だけで彼女の言わんとすることを理解した。
 
「だから。私の存在証明は。ない。貴女の存在証明はなに?」
 
独特な話し方で瞳へ質問を投げかける姫神に対し、即答で答えを返す。
 
「存在証明?ふん!そんなものは球磨川くんを止める事よ!」
 
医師として、一人の人間として、彼を見逃してしまった彼女。
 
見逃した、見捨てた、見殺しにした。
 
自分の行動で数多くの人間が不幸になっているのだ。
 
だから、自分には彼を止める責任が、義務が、意思がある。
 
それが人吉瞳が動く理由だった。
 
そこで、瞳は異変を感じ取る。
 
「あれ?私何をして……」
 
自分が何に対して構えをとっているのか、なぜ自身の持つ武術スキルを使用しているのか。
 
その理由が分からなかった。
 
姫神が否定したように【存在証明】は自身の姿を消すわけではない。
 
光学迷彩や、認識阻害でもないのだ。
 
存在証明の本当の効果は“存在を忘れさせる”ことである。
 
視覚からの情報だけでなく、それ以外の情報ですら脳内から抹消される。
 
実は姫神は姿を消しているわけではなく、簡単に言えば極端に影が薄くなっているのだ。
 
確かにそこに居るが、認識されない。
 
ここに居る理由が無いから、見ることができない。
 
それこそが存在証明の能力。
 
「何で私はここに居るの?何で戦おうとしているの?」
 
そして、存在証明は“第三者の存在理由”ですら無くすことができるのだった。
 
「たかが球磨川くんのためだけに、学園都市に来たの?馬鹿らしいわ帰ろうかしら……」
 
能力によって戦う理由を奪われた瞳は、まち針やハサミを片付けて教室から出ようとする。
 
その背後に、ロープを持った姫神が居ることにすら気がつかずに。
 
「さようなら。貴女の意図は。ここで切れる」
 
そして、瞳の首にロープがかけられた。
 
 
瞳と姫神の戦闘が始まった頃、上条と青髪はグラウンドに居た。
 
「んーここならええかな」
 
「いちいち場所を変えて、なんのつもりなんだよ?」
 
いまいち戦う意思を見せない青髪に苛立ちを覚えつつ上条は尋ねる。
 
「あのまま教室で戦ったらつっちーが危ないし、姫神ちゃんの負能力にも当てられてまうし、そして何より……」
 
「何より?」
 
「人吉先生のご指名やからねーカミやんと戦おうと思ったら教室は狭すぎるわ」
 
相も変わらずふざけた口調で話す青髪。
 
「さて、カミやんは二人のレベル5と戦った事があるんやね?それも勝つなんてやっぱすごいわぁ」
 
「何で知ってるんだ?」
 
上条は青髪にその話をした覚えは無い。
 
一方通行、御坂美琴という二人のレベル5と戦闘をし、勝利を収めたことなどが知れたら混乱を招くし、
 
いちいち自慢げに話すようなことでも無かったため、そのことを知る人物は少ないのである。
 
「ボクは平行世界を把握できるんやで?この世界で一番近い世界の過去を覗けば一発や」
 
青髪はそう言ってケラケラと笑う。
 
「だったらどうしたっていうんだよ?」
 
「んー別に。ただ第一位と戦って勝てたんは単に第一位がひ弱すぎただけやね」
 
その言葉の意味は上条は理解できなかったが、青髪がグラウンドを踏みつけた瞬間全てを把握した。
 
グラウンドが捲り上がり、土の柱を作成しながら上条へと襲い掛かったのだ。
 
「だから、鍛えているボクにその能力があったらカミやんは勝てんっちゅうはなしや」
 
青髪は、平行世界の一方通行からベクトル操作の能力を自身へと反映させたのだ。
 
上条の脳裏にはあの時の悪夢が甦っていた。
 
妹達を巡り相対した学園都市最強の超能力者一方通行との戦い。
 
あの時はさまざまな助力のおかげで辛勝したが、今回は違う。
 
御坂も居なければ、妹達も居ない、真の一対一の戦いである。
 
「ほらカミやん!逃げ回ってたら日が暮れてまうでー!」
 
「ック……」
 
そんな上条は攻撃を回避するだけで精一杯だった。
 
実際、上条の持つ幻想殺しに対してベクトル操作の相性は最悪といっていい。
 
御坂の電撃、それに第二位の未現物質、第四位の原子崩しなどといった攻撃そのものが異能であるなら上条は打ち消せるのだが、
 
ベクトル操作で動かされている物質は紛れも無く現実のものなので、幻想殺しは発動しない。
 
割れる地面、降り注ぐ石つぶて、飛来するバスケットゴールの支柱。
 
これらを全て避けなければならない。右手で触ったところで勢いそのまま上条に当たるだけだ。
 
「よお動くなぁ。カミやん知ってる?この学校が建ってる地盤って元はかなり柔らかかったんや」
 
そう言ってポケットに手を突っ込んだまま、青髪は喋る。
 
「だから、もし地盤改良がされなかったらどうなってたんやろうなぁ」
 
直後、上条の足が地面へと埋もれる。
 
青髪は、上条の周りの地面を“地盤改良されていない”世界を反映させたのだった。
 
「避け続ければ勝機があると思った?」
 
青髪がニヤニヤと微笑みながら上条へ近づく。
 
「ベクトル操作中やったら負能力は発動できんと思った?」
 
そしてポケットから取り出されたのは無数のパチンコ玉。
 
「ボクが友達やから、自分に幻想殺しがあるから、助かると思った?」
 
青髪がパチンコ玉を上条に向けてゆっくり投げる。
 
「甘いで」
 
ベクトル操作によって加速したパチンコ玉はまっすぐ上条を襲う。
 
「でも、その甘さ嫌いじゃないで」
 
近づくパチンコ玉を避けようとも、足元が地面に埋もれた上条は思うように動けない。
 
だから、上条は右手を地面へと伸ばした。
 
「なんでそこでいい台詞を言うんだよ!」
 
幻想殺しの効果によって元の世界に戻ったグラウンドに上条は転がり紙一重で凶弾を回避した。
 
「おお!やるなぁカミやん」
 
しかし、青髪に動揺の色は見えない。
 
そんな青髪に上条は、拳を握り締めて、叫んだ。
 
「なんでそんなすげぇ能力を持ってるのにこんなことにしか使わねぇんだよ!」
 
「その能力を負(マイナス)って決め付けて、正しい(プラス)の事に使わないんだ!」
 
「病気の人間だって、怪我した人間だって、壊れた物だって取りかえれるんだろ!?」
 
「いくらでも幸せ(プラス)な使い方があるじゃねぇか!」
 
「いつものお前はどこにいっちまったんだよ!!」
 
「いいぜ、テメェが不幸だから他人を傷つけるって言うなら……」
 
「まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
 
拳を振り上げたまま青髪へと突進する上条。
 
そして、思い切り振りぬいた拳は青髪の顔面を捕らえた。
 
「……!!なんで避けねぇんだよ!!」
 
“わざと”殴られ吹き飛ばされた青髪はゆっくりと立ち上がった。
 
その表情は先ほど見せた冷たいものだった。
 
「……確かにカミやんの言ったとおりの使い方もできる」
 
「でもな、それじゃ何にもならんのや」
 
青髪は、どこか寂しげに言葉を続ける。
 
「代用可能理論(ジェイルオルタナティヴ)、時間収斂理論(バックノズル)」
 
上条には聞き覚えの無い単語を呟く青髪。
 
「西東天っちゅう学者の理論でな、前者は全ての物に代わりがあるって意味で後者は今起きなくても、いつかは必ず起きるって意味や」
 
「それが何の関係があるんだよ」
 
意味が分からないと、上条は首を横に振る。
 
「例えボクが悪者をやっつけてもその代わりの悪者が出てくるし、末期の病気を治してもその人は近い内に死んでまうんや」
 
「つまり、意味がないんよ」
 
それは、先ほどの上条の言葉を全て否定するものだった。
 
「それに、平行世界もちゃんと世界として機能してるんや。その世界からボクは色々奪ってることになる」
 
直した携帯電話は違う世界では壊れ、土御門は傷つき、一方通行は能力が使えなくなっている。
 
こちらを立てれば、あちらが立たず。
 
「カミやんはつまり、他の世界を滅ぼしてまでこの能力を使えって言うのと同じや」
 
「もちろんボクが借りた能力は返すし、借りる世界を選別してから取替えとる」
 
「でもな、それでも周りは不幸になるんや」
 
今度は青髪が首を振る。
 
その姿は、とうの昔に全てを諦めているように見えた。
 
「だから、カミやんこれ以上詮索せずに全てを忘れて帰ってくれ。じゃなきゃ殺してまうで?」
 
「嫌だね!俺はその幻想もぶち殺してやる!」
 
青髪の最後通牒を否定した上条の眼には、それでも目の前の友人を正そうとする光が灯っていた。
 
「しゃあないな……」
 
諦めたように頭を掻きながら、上条をに睨む青髪はもう穏便にすますつもりは無かった。
 
「その幻想をぶち殺す、ねぇ……だったら“こんな現実”はどう殺す――?幻想殺し!!」
 
 
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