球磨川『学園都市?』 > 13


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「本日も快晴ですよーっと」
 
右手に学生鞄を持ったまま、空に向け両手を伸ばしながら上条当麻は歩いていた。
 
本日は平日。学生である彼が向かう先は当然、自らが通う高校ということになる。
 
ここ一週間は実に平和な日々を送っていた上条だったが、そんな平穏な生活の中には少なからず違和感を感じていた。
 
その要因としては、ビリビリ中学生もとい御坂美琴に一度も遭遇しなかった事と、彼の学友が数人連続して学校を休んでいるという事があった。
 
上条の通う高校は偏差値やレベルが高い生徒が多くないとはいえ、
 
そこに通う人間たちは学校が大好きなので長期に渡って学校を休む、なんてことはあり得ないと言っていい。
 
インフルエンザや、上条のように怪我をして入院、というなら分からないでもないが、
 
担任の月詠小萌に尋ねてみたら「連絡がないのですー」という寂しい表情で寂しい返事が返ってきたため、その線は消える。
 
生徒に絶対的な信頼を置かれている小萌に連絡がない。これははっきり言って非常事態だった。
 
当然のごとく上条から欠席者達へ電話をしてみたところで繋がる訳もなく、
 
それならばと思い欠席者の一人で隣人でもある土御門元春の自室を訪ねてみても不在だった為、事の真相は分からずじまいだ。
 
だからと言って上条も学校を休んでいい訳でもないので、こうして級友が休んで若干面白みの欠ける高校へと登校を続けている。
 
だいたいこれ以上の欠席をしてしまったら冗談抜きで留年が確定してしまう。
 
土御門の抱える事情を少なからず知っている上条はきっと今も世界中を飛び回っているのではないだろうかと推測するが、
 
他の生徒の欠席する理由が解らない。
 
何か事件に巻き込まれたのではないかと思い、意図的に路地裏などを通ってみてもスキルアウトに絡まれるだけで情報は手に入らない。
 
御坂についても同じことが言える。
 
確かに今までも連絡を取り合って会っていた訳ではないが、一週間も遭遇しないとなぜか先程の件と無関係ではないように感じてしまう。
 
またなにぞろ事件に首を突っ込んでいるのではないか、それとも妹達になにかあったのではないか。
 
そんな考えが浮かんでは消えていく。
 
こんな時に限って御坂妹をはじめとする妹達の一人にすら会う事が出来ない。
 
彼女たちが居る病院へ顔を出したところ、
 
上条の担当医でもある冥土帰しに「調整中だから」や「外出中だよ」とはぐらかされてしまい、面会は叶わずじまい。
 
上条はそんな冥土帰しの様子にも不信感を覚えたが、普段から御世話になっているため食い下がることはできなかった。
 
「あー、こんな晴天なのに上条さんの心は曇り模様ですよ」
 
そんな訳で、上条当麻は絶賛モヤモヤ中だった。
 
せっかく前回蓄えた食糧も健在で、居候の機嫌も良く噛みつかれることが少なくなってるというのに、その事が彼の足取りを重くしてしまう。
 
(というか姫神は小萌先生の家に居るんじゃないのか?)
 
欠席中の友人の一人を思い浮かべる上条だったが、小萌先生が知らないというのであれば知らないのだろう。
 
そこに何かしらの事情があったとしても、それを詮索するのは無粋というものだ。
 
(アイツは……まぁ死んではないだろうけど、一番学校を休む奴じゃないよな……)
 
思い浮かべるアイツは心配はいらないだろうが、それにしても小萌先生ラブのアイツが無断欠席というのは最早天変地異の前触れとしか思えない。
 
そして、色々と考えている内に学校に到着していたが、見えてきた、見慣れた校舎の様子がおかしい事に気がつき、
 
走って敷地内へ入ろうとし校舎全体が目に入ったところで、上条の足が止まる。
 
校舎が崩壊していた。
 
窓が割れ、壁が崩れ、鉄骨がむき出しになっている校舎は、まるで地震に見舞われたかのような有様だった。
 
「っく!!」
 
一瞬目の前の状況が理解できず固まってしまった上条だったが、クラスメイトの身を案じて全速力で校舎内へと走っていく。
 
上履きなどに履き替える暇もない。階段を一段一段昇る余裕もない。
 
そして息を切らしつつも自らの所属するクラスの教室に辿り着いた上条は恐る恐る扉を開ける。
 
教室内に居たのはただ一人。
 
数いる欠席者の内の一人で、上条の隣人。土御門元春が、背中に裂傷を負い倒れ伏せていた。
 
「土御門!!」
 
上条はそう叫び、土御門の元へ駆け寄る。
 
彼が所有する能力、肉体再生のおかげで出血は止まっているものの、痛みのせいなのか気を失っていて。
 
「くそ!待ってろ今病院に連れてってやるから……」
 
そう言って救急車の手配をするために携帯電話を取りだし、ボタンを押そうとした瞬間、何かが上条の前を通り過ぎた。
 
「え……?」
 
目の前の光景に思わず声が漏れる。
 
上条が今の今まで手に持っていた携帯電話が、宙に浮いているのである。
 
そして、何かが通った筈なのだが、その物体を確認することが出来ない。
 
「能力者か!」
 
能力者による攻撃。そう解釈した上条は拳を握りしめ臨戦態勢をとる。
 
(念動力の能力者か……)
 
何もない空間に自分の携帯電話が浮いている現状から、
 
携帯を奪った犯人の能力は念動力(サイコキネシス)の能力を保持していると推測し、
 
能力者を探すが、死角の無い教室内に、それらしき影は見当たらなかった。
 
「違う。能力者じゃない」
 
辺りを見渡す上条に、突然投げかけられる女の声。
 
この独特な区切りで話す女性など、上条の知るところ一人しかいなかった。
 
「姫神……?」
 
彼女の名前を呼ぶ。
 
すると、宙に浮いた携帯電話の真後ろにノイズのようなものが走り、徐々に人の形を浮かび上がらせていく。
 
「よかった。私のこと忘れてない」
 
そう呟いて現れた少女の右手には携帯電話が握られていた。
 
少女の名前は姫神秋沙。長期欠席者の内の一人である。
 
「……冗談はやめようぜ」
 
驚かせるなよ、と言いたげな上条の表情はどこか安心しているように見えた。いや、実際安心しているのだろう。
 
犯人が見知らぬ能力者でも、魔術師でもないことが上条に安心感を抱かせた。
 
しかし、その安心感はこの場合油断ともいえるものだった。
 
携帯電話を返してもらうよう差し出した右手をじっと見つめた姫神は、少し不機嫌な表情を浮かべた後、そのまま携帯電話を床に落とす。
 
そしてそのまま足元に転がった携帯電話を思い切り踏みつけた。
 
ガシャっという破壊音と共に幾つかの破片に砕けた携帯電話はもはや使い物にならないと一目で分かった。
 
「姫神!何を……ッツ!!」
 
上条は自分の携帯電話を破壊されたことと、傷を負った土御門の為に病院への連絡が取れなくなったことに対して怒りを露わにする。
 
だが、再び姫神の姿がブレると、完全に消えてしまった。
 
「知らない。私を忘れた人の事なんて」
 
彼女の声だけが聞こえる。そしてその言葉の後に金属が擦り合う音が鳴り響いた。
 
正確にいえば刃物と刃物を擦り合わせた音。
 
その音に危機感を覚えた上条は土御門を引きずりながら、教壇まで移動し黒板に背中を合わせる。
 
動機は不明だが、どうやらあのクラスメイトは自分を傷つけるつもりだと上条は思い、まずは無防備な背中をカバーするためにこのような行動をとったのだ。
 
静まり返る教室に緊張感が走る。
 
嫌な汗が上条の頬を伝い、床に滴った瞬間、教室に陽気な声が木霊した。
 
「よぉーカミやん。どないしたん?そんな死にそうな顔して?ひょっとして便秘ちゃうん?」
 
そう言って現れたのはまたもや欠席者の内の一人。一週間前に球磨川の元を訪ねようと上条を誘った友人、青髪ピアスだった。
 
なんて良いタイミングで現れたのだろうと、再度安堵の息を着く上条だったが、ある事に気が付き顔を強張らせる。
 
いくらお調子者の青髪だろうと崩壊した校舎の中で重傷を負った友人と、
 
死にそうな表情を浮かべている友人を目撃して、普段通りの振る舞いが出来る筈がない。
 
特に、傷ついた土御門を発見したら彼は背負ってでも病院に向かうだろう。
 
だから。あくまでいつも通りの青髪に違和感を感じたのである。
 
「なんやぁカミやん。ボクの顔になんかついとる?」
 
笑顔を浮かべたまま首を傾げる仕草もいつも通り変わりのない青髪に、警戒は解かず上条は話しかける。
 
「おい、土御門が怪我をしてるんだ。急いで病院に連絡してくれ」
 
そして、数秒の沈黙が流れた。
 
「はぁ……何をやっとるんやあの子は。つっちーは相手にするな、相手取るなら即死させろっちゅうたのになぁ……」
 
友人のその言葉の意味が、上条には理解できなかった。
 
(即死させろ?土御門を?)
 
混乱している上条を余所に青髪は教室内に呼び掛ける。
 
「おーい、居るんやろ?ちょっと出てきてやー」
 
その呼び掛けに応えるように、青髪の右横にノイズが走り再び姫神が姿を現す。
 
さっきまでとは違う姫神のその両手には出刃包丁が握られていたのだ。
 
上条が目の前の二人を睨み付けると、青髪がその視線に気が付き頭をガシガシと掻いてから右の掌を土御門へ向け言った。
 
「ん?あぁ心配せんでもつっちーの傷は治したるで。ちょっと待ってや」
 
その言葉の通り、土御門の傷は一瞬で塞がった。
 
「塞がったってより、消えた……?」
 
まるで傷が初めから無かったかのように、体を入れ替えたかのように傷が塞がり、破れていた上着も元へと戻っていた。
 
「ま、気は失ってた方が都合ええからそのまんまで。えっとカミやん何か質問ある?」
 
相変わらずのおどけた口調で言う青髪に上条は怒号のような声を上げる。
 
「質問!?全部だよ!土御門が怪我してたこと!姫神が携帯を壊したこと!お前ら二人の妙な能力のこと!」
 
「せっかちやなぁ。それがフラグ建築のコツですかい?」
 
「うるせぇよ!質問に答えろ!」
 
「ちょっとくらいふざけただけやん……んじゃその三つの質問に答えましょうか」
 
そう言って右手の小指と親指を畳んだ状態で上条へ向ける。
 
「まず一つ目」と言って立てていた残りの指の内、薬指を畳む。
 
「つっちーが怪我してた理由。ボク達の事を調べてたから姫神ちゃんがやってもうたんや。ごめんなぁ」
 
少し申し訳なさそうに目を伏せてから、今度は中指を折る。
 
「では二つ目。携帯壊した理由なんて外部に情報を漏らさんために決まってるやん」
 
二つ目の答えはそんなことも解らないのか、とでも言いたげなニュアンスでさっさと言ってしまった。
 
そして、最後の人差し指を畳む。
 
「そんで最後の質問。これがまぁ結局全ての答えになってるも同然なんやけど……」
 
「ボク等の能力はカミやんが知ってる能力じゃなくて負能力ゆうてな、なぁーんも利点がない能力のことや」
 
両手を広げ、万歳をした青髪はまるで道化のようだった。
 
そして、その言葉の続きを姫神が紡ぐ。
 
「私の負能力。【存在証明(アイデンティティ)】。レベルはマイナス3。効果はさっき見せたとおり。でも。それだけじゃない」
 
「マイナスレベル3って言っても姫神ちゃんのはえげつない能力やで。あぁマイナスってのはボク等みたいなのの区分な」
 
姫神の説明に少ないが補足を入れる青髪。
 
「自分の存在を消せるってことか……」
 
「正確には違う。存在感を消す。それだけ」
 
上条の言葉に訂正をする姫神。
 
そして、まってましたと言わんばかりに青髪が大声を張り上げる。
 
「ボクの負能力名は【平衡戦場(アナザーシャフト)】!!なんとなんとレベルは球磨川さんと同じマイナスレベル5や!!」
 
「まぁゆうても普通のレベル5第一位と第三位位の差はあるんやけどねー」
 
カラカラと笑う青髪に上条から声が投げかけられる。
 
「ちょ、ちょっと待てよ!球磨川ってあの球磨川だろ?アイツはレベル5の第八位じゃないのかよ!?」
 
「それはただの嘘やでー。まぁ久しぶりにあの人に会うまでは気が付かんかったけどな」
 
「久しぶりって……お前球磨川と知り合いなのか?」
 
「昔ちょっとだけなぁ。さて!そんなことよりボクの能力や!気になるやろ!?知りたいやろ!?」
 
かなり重要な事をそんなことで済まされてしまい、青髪が自身の能力説明を始めた。
 
「かといってすぐに教えるのも興が削がれてまうなぁ……よし!」
 
「なぁなぁカミやん。ギャルゲーとかやったことある?」
 
「……ねぇよ」
 
突如ギャルげー等とこの場の雰囲気に似つかわしくない単語を発せられ、戸惑う上条。
 
そんな上条などお構いなしに青髪はまくしたてる。
 
「簡単に言うといろんなヒロインから一人を決めて、どんどん選択肢を選んでいって攻略するゲームなんよ」
 
「普段カミやんがやってることと同じやね!」
 
「なんだそりゃ……」
 
どうもこの男と話していると調子が狂ってしまうようである。決してシリアスにはならず、真意は伝わらない。
 
「ボクの平衡戦場はね、全てのエンド、全ての選択肢を選んだ結果が分かった状態でプレイする事が出来る」
 
「さらに言えば、途中から強制的にルートを変えることもできるんや、例えばこんな風に」
 
青髪が言い切ると同時に砕け散った筈の上条の携帯電話が、床に落ちたままであるが元の状態に戻った。
 
「これは“携帯電話が壊れなかった世界”の結果をこちらに反映しただけや」
 
「…………」
 
目の前で起きた出来事に、上条は言葉を失っていた。
 
青髪の負能力とはつまり“平行世界の結果を反映する”というあまりにも傍若無人なものだと気が付いてしまったからだった。
 
「まぁこれだけじゃなく、色々裏技もあるんやけどな、これは後からのお楽しみってことで。カミやんどうせボク等と戦うんやろ?」
 
「……でだよ」
 
一通り説明を終えた青髪に、上条は何やら呟いていた。
 
「なんでだよ!お前は……お前たちはなんで友達を傷つけるような感情を受け入れちまったんだよ!!」
 
「違ぇだろ!?何の役に立たない能力なら、役に立つように考えりゃいい!!なんでそんな不幸を受け入れちまってるんだよ!!」
 
「楽しい事も悲しい事も含めての人生だろうが!!勝手にテメェだけが不幸だけだと思うんじゃねぇよ!それを他人に振りかざすんじゃねぇよ!」
 
上条は、思っただけの気持を叫ぶ。そして少しの沈黙が流れてから青髪が口を開いた。
 
「不幸を受け入れる、ねぇ……ええか、カミやんちょっと聞いてや」
 
そう言った青髪からは先程までのおどけた雰囲気などは微塵もなく、真面目な表情だった。
 
「ボクぁ不幸のみならず不条理、不合理、不安、不信、理不尽、堕落、混雑、嘘泣き、言い訳、偽善、偽悪、いかがわしさ、インチキ、
 
不都合、冤罪、流れ弾、見苦しさ、みっともなさ、嫉妬、風評、密告、格差、底辺、裏切り、虐待、巻き添え、二次被害、災害、天災、
 
事故、古傷、腐敗、不平等、失敗、痛み、虚構、いじめ、毒舌、批評、批判、不安定、洗脳、暴利、脱法、隠蔽、違反、負完全さまで、
 
あらゆる負(マイナス)を受け入れる包容力をもってるんよ?」
 
「だから、分かったような口を聞かんどいてくれへん」
 
青髪に上条の想いは伝わらないばかりか、その胸の内に抱える膨大な負(マイナス)の前に、再び言葉を失ってしまう。
 
「なぁカミやん。本当なら君もこっち側の人間なんやで?だから大人しく今日見たことは忘れて家に帰ってくれへんか」
 
「壊したもんは取り換える、傷つけた人も取り換える。だから手ぇ引いてや」
 
そう言った青髪の表情は変わらないものの、どこか寂しげに見える。
 
普通の人間ならここで心が折れてしまうだろう。だが上条当麻は違った。
 
この負(マイナス)を抱える二人を助けてやる。そんな決意の炎が胸の中で燃え上がっていた。
 
「ふざけんな!誰がここでお前らを見捨てるんだよ!!」
 
「間違った友達を導いてあげるのが親友としての俺の役目だ!!」
 
そして、上条が拳を握った瞬間、三度教室へ来訪者が訪れる。
 
その人物は幼く、小学生にも見える姿に白衣を着用し、両手には無数のまち針が持たれていた。
 
入ってきた扉から大きく跳躍し、上条の隣へと飛び移る。
 
「よく言ったわ上条君!オバサンも貴方に協力するわ!!」
 
にやりと不敵な笑みを浮かべる少女、いや自らをオバサン呼ばわりしているところをみると実年齢は上条達よりかなり高いのだろう。
 
「“久しぶりね”青髪クン。そっちの女の子は知らないけど、どうやら彼によって目覚めちゃってみたいね」
 
「なんや、小萌先生かと思ったら人吉先生やないですか。これはこれはテンション上がるなぁ」
 
「相変わらずねぇ……小萌ちゃんも嘆いてたわよ、青髪ちゃんが真面目に授業受けてくれないですーって」
 
「そりゃあ小萌先生の困った顔はボクの大好物ですから……あ、もちろん人吉先生も大好物やでー」
 
「残念だけど、人妻子持ちの41歳よ?幾らなんでも貴方のストライクゾーンからは大きく離れてワイルドピッチじゃない?」
 
「いやいや、ボクぁ落下型ヒロインのみならずってな心情を持ってるんや。属性が増えたら増えただけ、どストライクですわ」
 
「そっか、じゃぁ全力で身を守らないとね」
 
「いやーそんな姿もそそるわー。ほな、カミやん、人吉先生?いくで?」
 
その言葉と共に姫神は姿を消し、青髪は目の前の椅子に手をかけた。
 
戦いが始まる。
 
 
ツールボックス

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