球磨川『学園都市?』 > 08


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9982号は目の前の人間の行動が理解できなかった。
 
御坂美琴。学園都市でも7人しかいないレベル5の第三位で、常盤台中学に通う中学2年生のお嬢様であり、自らの製造の元となったオリジナル。
 
レベル5という事実だけで周りから敬遠され、コミュニティの輪の中心には立てても輪に入れない彼女は友人が限られている。
 
羨望の眼差しは浴びても、同等の扱いは受けない。
 
そんな彼女は、数少ない友人に傷つけられ、罵倒されても彼女は立ち上がった。
 
そして自身のクローンという過酷な存在から、嘲笑され、批難されても彼女は立ち上がった。
 
どれだけ傷ついても。
 
どれだけ拒絶されても。
 
どれだけ心を壊されようとも、彼女は立ち上がった。
 
ボロボロの体を何度も蘇らせる理由。
 
それは9982号には、自身の存在意義を他人だけでなく、自分に持たないクローン体の彼女には
 
例えどれだけ時間を重ねても解るはずもないこと。
 
自身の為ではなく、誰かの為に何度も立ち上がるという、人間なら誰しもが持っている理由だった。
 
傷つけられた白井黒子のため。
 
負に堕ちた佐天涙子のため。
 
その二人を心から想う初春飾利のため。
 
そして、目の前の9982号を含む全ての妹達のために、御坂は何度でも立ち上がる。
 
「アンタ達の……痛みなら……」
 
呼吸が乱れながらも、御坂は懸命に声を絞り出す。
 
「どれだけでも……受け止めてやるから……」
 
片腕を押えながら、重い体を引きづりながら、99892号に歩み寄る。
 
「せっかく……また会えたんだから……」
 
もはや、その歩みを止めることが9982号にはできない。
 
「やっと……全員……姉妹がそろったんだから……」
 
理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能。
 
「な、なんで……お姉様は……」
 
9982号は姉の行動が、言葉が、表情が、理解できなかった。
 
「だから……今度は皆で……」
 
「そんなボロボロの体で、なんで……」
 
そんな姉を拒絶することが、妹には出来なかった。
 
そして気がつけば――優しく抱きしめられていた。
 
「アイス……食べに行くわよ……」
 
「なんで、なんで……」
 
なんで貴女は笑っているのですか?
 
どれだけ時が経ったのか。
 
9982号は御坂に抱きしめられる形のまま立ち尽くしていた。
 
一分、十分、一時間。それとも十秒程しか経っていないのかもしれない。
 
そこでようやく、口を開くことが出来た。
 
「お姉様の行動が全く理解できません、とミサカは抱きしめられたまま口にします」
 
「いいの、別に理解しなくても」
 
その言葉に少し照れたような物言いの御坂だったが、9982号も特にそれ以上を問い質すことはない。
 
「全く甘いですね……まだミサカはナイフを持っているのですよ」
 
「何度も言わせないでよ。アンタの痛みは全部受け止めるわよ」
 
「そうですか、それなら遠慮なく、とミサカは抱きしめられた体制からナイフを取り出し……」
 
「ちょ、ちょっと!少しは空気を読みなさいよ!」
 
「ミサカは風力使いではありませんので大気を読むことはできませんが、とミサカは会心のボケを繰り出します」
 
「自分で会心のボケって言っておきながらまったく面白くないわね……」
 
空気の読めない妹に呆れながら、ようやくその両腕を9982号の胴体から離す。
 
「……で?まだやるつもり?」
 
少し表情を強張らせて問う。
 
9982号は首を横に振って答えた。
 
「この距離なら負能力が発動する前にお姉様に気絶させられるでしょう、とミサカは弱点をばらしたことを猛省します」
 
「ならいいのよ。佐天さん達も決着付いたみたいだし」
 
もうこの戦いは終わりよ、と初春に抱きつかれている佐天を横目に両手を上げる御坂。
 
「……そのようですね」
 
9982号もこれ以上は戦う意味がないと悟ったのか、サブマシンガンを地面へ下ろす。
 
「さて、と。球磨川の場所について教えてもらうわよ」
 
「了解しました、とミサカは敗者は勝者に従うのみという理論に基づいてお姉様の問いに答えます」
 
そう言って、先程爆発のあった研究所を指差す。
 
「研究所……ビンゴだったみたいね」
 
本日襲撃予定だった研究所内に、球磨川が居る。そこから恐らく打ち止めもこの中に囚われているだろうと御坂は推測した。
 
「それじゃ、私達は行くけど……アンタや佐天さんはどうするの?」
 
御坂には、もう白井や初春を置いていくつもりはない。
 
ここまで来たのだ。白井や初春も危険は承知だろうし引き返すつもりもないだろうから、最後まで皆で行こうと思ったのだ。
 
その問いに、9982号は即答した。
 
「ミサカはついていきますよ、それは佐天涙子も同じ気持ちでしょう、とミサカは頷きます」
 
 
「へぇ、枕元に私が立って助けを求めてたの?」
 
「そうですの!絶望に染まりきったわたくしを希望の光で照らして下さったのは紛れもなくお姉様の神々しい御姿!」
 
「眠っていた黒子の頭を優しく、やさし~く撫でてくださった後にわたくしの体の調子を気遣ってくださいましたの!!」
 
研究所内に入った御坂達は、入院していたはずの白井がどうしてここに居るのか説明を受けていた。
 
以下、白井による病室内で御坂?と交わした会話の独り芝居。
 
 
「大丈夫?」
 
「なんとか会話出来るまでは回復しましたが、大丈夫ではありません……身も心もずたずたにされてしまいましたわ」
 
「そんな黒子にお願いするのは酷だけど、助けてほしいの」
 
「お姉様……しかし黒子は……」
 
「これは黒子にしか頼めない」
 
「黒子にしか……ですか?」
 
「そうお姉さ……ゲフンゲフン。私を助けてくれるのは黒子にしかできないのよ」
 
「お姉様……」
 
「だから、立ち上がって私を助けて。そうしたら何でも言う事聞いてあげるから」
 
「!!」
 
「お、お姉様……何でもというのは……」
 
「こ、言葉の意味の通りよ!ミサ……ゴホンゴホン。私をアンタの好きにして良いってこと!」
 
「それは夜な夜なベッドに侵入しても?」
 
「許す」
 
「お姉様にあんな下着やこんな下着を装着させても?」
 
「ゆ、許す」
 
「侵入したベッドの中で夜の営みも?」
 
「許す許すよ許します!とミサカは半ば投げやりに叫びます!」
 
「お姉様?その語尾は……?」
 
「さ、最近のマイブームよ!とミサカはもうどうにでもなーれ」
 
「お茶目なお姉様も素敵ですわ……ハァ」
 
「で、助けるのか救うのかどっち!?とミサカは選択肢を投げかけます」
 
「選択肢が一つしかないのですが……当然。こんなところで寝ている場合ではありませんの!」
 
「だったら、風紀委員支部に向かってちょうだい。そこに詳しい情報があるわ」
 
「わかりましたの!それでは行ってまいります」
 
以上、独り芝居終了。
 
 
「それで風紀委員支部へ向かったら、初春のパソコンにこの住所が映ってましたの」
 
そう言って、満足げな表情で説明を終える白井。
 
その説明で場の空気が死んだ。
 
「あ、慌てて飛び出したので、そのままになってたんですね。はは……」
 
「相変わらずだね……白井さんは……」
 
「お姉様、このツインテール風紀委員から滲み出ているオーラに身の危険を感じるんですが……」
 
「あの病院にいる妹達にはお仕置きが必要ね……」
 
四人が四人とも引いていた。それはもう思いっきり引いていた。
 
「と、とにかく。黒子も無事退院したし!佐天さんも見つかったし!全員無事だから万事オッケーね」
 
死んだ空気を無理やり蘇生させようと、明るい張った声を出す御坂。
 
かすかに、今夜が楽しみですわ。と聞こえた気がするが、全力でスルーしていた。
 
「そうですね。あの、御坂さん……」
 
そんな御坂に同意しつつ、佐天が申し訳なさそうに話しかけた。
 
「ごめんなさい!私ひどいこと言っちゃって……」
 
立ち止り、頭を下げる。
 
しかし御坂からは一向に反応がないので、恐る恐る顔を上げると、そこには同じように頭を下げている御坂の姿があった。
 
「私こそ、ごめんね……佐天さんのこと、考えてなかった」
 
「御坂さん……」
 
頭を下げ合い、微動だにしない二人を再起動させたのは初春の声だった。
 
「さ!これでお相子ですよ!御坂さんも、佐天さんも友達なんですから!」
 
「そうですわよ、雨降って地固まる。ですわ」
 
明るい弾ける様な笑顔で言う初春に白井も頷く。
 
「そう、だよね……友達はみんな私と同じになってくれるんだよね」
 
負能力を使わなくても、と付け加え呟く佐天。
 
公平構成はオンオフの切り替えが出来ない。なので現在彼女の周りにいる友人たちは全て効果の対象内に居る。
 
しかし、そんな能力は関係ない。
 
この友人たちはそんなことをしなくても私と同じ所まで来てくれるんだ、と佐天は感じていた。
 
「イイハナシダナーと感動したいのは山々ですが、目的地に到着しました、とミサカは空気を読まずに告げます」
 
歩みを止めて一枚の扉の前に立つ9982号はそう言った。
 
「ここの部屋に我らがボス。球磨川禊がいます」
 
その言葉で場の空気が一瞬にして緊張する。
 
これで終わりではないのだ。
 
全ての元凶を叩いてこそ、この事件は全ての解決を迎える。
 
「それじゃ……入るわよ」
 
御坂は扉を開き先頭に立って部屋へと入った。
 
そして御坂は、目の前に飛び込んできた光景に絶望する事になる。
 
かつて妹達を巡り戦った時に、第三位でありながら彼女が手も足も出なかった男が、数本の螺子を体に螺子込まれ倒れ伏していたのだ。
 
その男の名前は一方通行。
 
学園都市最強の第一位の超能力者だった。
 
倒れ伏す一方通行の前に、刺さっている螺子と同じ物を両手に携えている一人の少年がいた。
 
その少年に、御坂は見覚えがある。
 
あのビデオに写っていた少年。
 
打ち止めをさらった少年。
 
白井を痛めつけた少年。
 
佐天を、9982号を巻きこんだ少年。
 
全ての元凶となった球磨川禊だった。
 
『やぁ、涙子ちゃんにミサカちゃん遅かったね?その子達が例のお友達とお姉さん?』
 
『始めまして!球磨川禊でーす!』
 
『ってツインテールの風紀委員さんじゃないか!退院できたんだねおめでとう!!』
 
『いやぁ、実際心苦しかったんだよね。君みたいな可愛い女の子に暴力をふるっちゃうことが』
 
『まぁでも、無事に退院できたんだから許してくれるよね!ありがとう!』
 
突然の来訪者にも関わらず、まるで予想していたかのように平然と螺子をしまい、笑顔で喋り出した球磨川。
 
その顔面には、一方通行のものと思われる血液がこべり付いていた。
 
明らかに意識を失うほどの重体を負った一方通行に、笑顔を浮かべる球磨川という異様な光景に、誰も喋ることが出来なかった。
 
『その様子だと涙子ちゃん?“僕の言ったとおり”仲直りできたみたいだね!』
 
球磨川の言葉に、9982号以外の人間の視線が全て佐天へ向けられる。
 
「さてん、さん……?」
 
俯いたままの佐天に初春が消え入りそうな声をかける。
 
そして佐天は顔を上げ、笑顔で球磨川に答えた。
 
「はい!球磨川さんの言った通り、皆は負(マイナス)になった私を見捨てることなく、同じ負(マイナス)になってくれると言ってくれました!」
 
 
白井が入院していた病院のとある一室。
 
冥土帰しと呼ばれる程の腕前を持つ蛙顔の名医が座る椅子の対面に、白衣に身を包んだ一人の女性が彼と同じパイプ椅子に腰かけている。
 
女性、というよりは少女と表現をした方がいい彼女はどう見ても小学校高学年ほどの容姿をしており、
 
白衣よりもランドセルを背負っていた方が様になるように見える。
 
「いきなり君が訪れると連絡を受けた時は驚いたよ?なんせ13年ぶりだからね?」
 
優しく微笑みながら、目の前の少女に話しかける冥土返し。
 
13年ぶりと言ったが、それは下手をしたら少女が生まれるより以前の事かと思うが、その言葉に少女も目を伏せながらも微笑んだ。
 
「ええ、本当にお久しぶりですね。できればこんな形で再開はしたくはなかったんですが……」
 
そう言いながら少女は、傍らの台に置いてあったブラックコーヒーを手に取り砂糖も入れず口に運ぶ。
 
「要件を聞かなくても解るよ?医師の職を辞した君が愛しの息子を放ってでも、無理に学園都市に来た理由はね?」
 
「そう言っていただけると助かります……」
 
愛しの息子、という単語に苦笑いしながらも、学園都市に来た理由を悟られ少し心がざわめく。
 
「球磨川くんの事だろう?」
 
球磨川、という単語にピクリと肩を揺らす。
 
そう、この少女がここに来た理由は球磨川禊にあったのだ。
 
「彼は今、大暴れしてるよ、まるで水を得た魚どころか金を得た賢者だ」
 
「でしょうね。彼にとって“大事な人”がいる場所ですから」
 
冷静さを装いつつも、コーヒーカップを持つ少女の手は少し震えていた。
 
冥土帰しも同じようにコーヒーをすする。
 
少し、静寂が流れる。
 
「それで、君は僕に何の用があるんだい?君は患者ではないが優秀な助手だったよ?だから君の望む物は何でも用意するからね?」
 
その言葉に一度頭を下げ、少女は口を開く。
 
「ありがとうございます。先生には聞きたいことが二つ、用意して頂きたいものも二つあります」
 
両手にピースサインを作り、冥土帰しへ向け右手の中指を曲げた。
 
「まず一つ。球磨川くんの現在潜伏している場所」
 
「それに関してはこの病院で預かっている子が知っている筈だから後で聞いておくよ?」
 
その言葉に頷いた後今度は左手の中指を畳む。
 
「次に廃墟となったあの病院から持ち出されて、こちらに保管されているという彼のカルテを見せてください」
 
いくら過去のカルテだと言っても、通常それを外部の人間に見せることはできない。
 
だが、そのカルテ自体は目の前の少女が記入したものだ。
 
「ふむ、あれは君が球磨川くんを見て書いたカルテだよ?遠慮せずに持っていくといいよ?」
 
予め予測していたのだろう。冥土返しは手元に持っていたバインダーからカルテを取り出し少女へ手渡す。
 
人差し指を立てた両手を下ろし、カルテ受け取った少女は一度それに目を通した後、「確かに」と呟き再び両手を上げる。
 
そして今度はそれを同時に畳んだ。
 
「最後に二つ。球磨川くんの“友人だった”彼の現住所と、私が記入した初診から、先生が記入した彼の最新のカルテまで、全て見せてください」
 
“球磨川の友人だった彼”という言葉に、今度は冥土帰しが微かに反応する。
 
しかし、これも彼は予想していたのだろう。しぶしぶではあるがバインダーから分厚いカルテを取り出し、少女へ渡す。
 
「そこには彼の現住所も記載されているよ?いったい彼をどうしようとするのか分からないが、彼は僕の患者だ」
 
カルテに目を通している少女に対し、頬笑みを崩さなかった冥土帰しが初めて眉間にしわを寄せる。
 
睨みつているようだった。
 
「大丈夫ですよ。“今の彼”は負(マイナス)ではないんでしょう?だから安心してください」
 
自信満々の表情を浮かべる少女にため息をつき、冥土返しは立ち上がった。
 
「それじゃ、これで要件は済んだだろう?患者が僕を待ってるんだ、悪いがこれでサヨナラだね?」
 
そして、病室のドアノブを掴んだところで一度振りかえり、口を開く。
 
「無茶はしないでくれよ?人吉瞳先生?」
 
そう言って、今度こそ冥土返しは病室を後にした。
 
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