球磨川『学園都市?』 > 05


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「ほらほらぁ、白井さん!さっさとその鉄矢を直接私に転移すれば良いじゃないですかぁ!」
 
「それならもう少し距離を開けさせてくださいまし!」
 
佐天涙子と白井黒子の戦いはお互いにダメージを与えることなく平行線を辿っていた。
 
空間転移を繰り返し距離をとり続ける白井に、それを追う佐天。
 
佐天の挑発に白井はああは言ったものの、当然の如く、彼女に直接転移させることなど考えてはいない。
 
今彼女が考えているのは接近戦で相手を無力化させることである。
 
先の球磨川戦では失敗に終わったが、風紀委員である彼女の技術と空間転移を持ってすれば勝負はまさしく一瞬で終わるはずだった。
 
しかし、それをさせないのが、佐天の負能力【公平構成】にあった。
 
【公平構成】の範囲外からの転移は可能であるため(バットに鉄矢を転移させたのが証拠である)距離を詰めることはできるのだったが、
 
問題は転移した後。つまり完全に彼女とのアドバンテージが無くなってからの肉弾戦だった。
 
佐天の負能力は相手の身体能力が高ければ高いほど有利に働く。
 
(何度か試していますが、かなり厄介な能力ですの)
 
既に数回の近距離戦を挑んでいる白井だったが、転移した直後に感じる違和感に負けて、金属バットさえ無効化できていない。
 
なにせ、近づけば問答無用で身体能力が落ちるのである。
 
普段何気なく動かしている自分の体が、文字通り自分の体ではなくなるのでは、普段通りの動きなどできるわけも無い。
 
引退し、長い間運動をしてこなかったサッカー選手が現役当時と同じステップを踏めば転倒してしまうように、
 
脳に刷り込まれている自分の動きに体が付いて来なくなるのは当たり前だ。
 
「やれやれ、見栄を張って鉄矢など転移させるべきではありませんでしたの。まるで釘バットですわ」
 
「あははは!白井さんありがとうございます。それじゃこの武器には【愚神礼賛】とでも命名しますね!」
 
「何処かの殺人鬼が使用していそうな名前ですわね」
 
「褒め言葉として預かっておきますよ!」
 
そんな言葉を交わしながらも、攻略の糸口を探す。
 
【公平構成】のさらに厄介な効果が、自分の“思考速度”さえも落ちてしまう事。
 
佐天の知らない技術で制圧を試みても、うまく思考のロジックが組みあがらずに結果後手に回ってしまうというのがこれまでの接触で得た教訓だった。
 
(そのくせ佐天さんはわたくしの……というよりご自身の身体能力を完全に把握してますし……)
 
(全く。とんだ平等もあったものですわ)
 
100が0になるのと、0が0になるのは、本当の意味での平等では無い。
 
(瞬間移動は遠距離のみ、接近戦ではあしらわれ、説得にも応じる様子は無い……)
 
何度も武器を捨てて話し合いをしようと提案した白井だったが、これに関して佐天は聞く耳を持たない。
 
「もっと近寄ってきてくださいよ、白井さん!悲しくなるなぁ……って御坂さん?」
 
「お姉様!?」
 
愚神礼賛(ふざけた名前だ)を振り回しながら挑発を続けていた佐天が驚きの声と共に、目線を白井からずらす。
 
その先には、気を失っていた麗しのお姉様が自分の足で立ち上がっていた。
 
「あらら。もう立ち直れないと思ってたんですけど……流石レベル5ですね。良いんですか?白井さん。セクハラしにいかなくても」
 
「……わたくしも流石にシリアスパートとギャグパートの違いくらいは理解できますわ」
 
「……へぇ、意外ですね。御坂さんより私の相手をするなんて」
 
「お姉様も貴女もわたくしの友人ですの。そこに序列なんてありませんわ」
 
それは、能力に関してもですわ、と付け加えるが、その言葉は彼女に聞こえることは無かった。
 
本当は今すぐにでも空間転移で御坂に飛び掛りたい白井だったが、そんなことはしない、できない。
 
目の前の友人を救ってやらなければいけないのだ。闇の中から掬ってやらなければならないのだ。
 
自分だけが幸福(プラス)になっては、彼女を不幸(マイナス)から助け出せるわけが無い。
 
そんな事をしていては、彼女の友達だと言う権利など、ないのである。
 
(わたくしにも武器があれば……)
 
先ほど佐天の負能力で互いに0になると言ったが、正確に言えばそれは誤りだった。
 
佐天は【公平構成】で相手を“平等”に落としただけでは不利と理解していた。その為の金属バット装備である。
 
0対0では平行線だが、0対1ではそうはならない。
 
白井の装備している鉄矢は能力を使って初めて威力を発揮するものであって、この現状では使い物にならない。
 
「結局は、特攻しか無いという訳ですわね」
 
心に覚悟を込め、今一度佐天の懐へと転移をした。
 
佐天の背後へと自身を転移する。不意を狙って彼女の首へ手をかけ、そのまま羽交い絞めで閉め落とそうという考えだった。
 
しかし、その考えは彼女の背後へ転移した直後にすぐさま振り向かれたことにより、実行できなかった。
 
「白井さーん。もうちょっと考えて転移しましょうよ。転移して目の前にいなかったら後ろに気を使うのは当然でしょう?」
 
「っく!」
 
笑顔で指摘しながら彼女が振り上げ、すぐ降ろされたバットを紙一重でかわし、そのまま体勢を崩した背中へ踵落しを仕掛けるが、地面に振り下ろされたバットをそのまま
 
旋回させて軸足を狙われる。片足のまま跳躍をし、またも寸前のところで回避することができた。
 
「佐天さんってやはり運動神経がよろしいのですわね。もしこの能力を初春がもっていたと思うとぞっとしますわ」
 
「それでも、白井さんにとっては落ちてる位でしょう?それもグッと」
 
初春、とその言葉には何も反応を見せない彼女。だがこの場合は無反応こそが、最大の反応になっているのだった。
 
やはり、今の彼女へ本当の言葉を届けられるのは初春飾利しかいないのだ。
 
(初春と向き合って会話をさせれば、きっと……)
 
だが、この状態の佐天の目の前に初春を立たせたところで、先ほどのように、バットを振り上げられる可能性が高い。
 
だからこそ、一刻も早く、彼女の動きを止める事が必要なのだがその糸口が掴めない。
 
「考え事ですか?状況を考えてくださいよ!」
 
意識をわずかにはずした瞬間、佐天の蹴りが白井の脇腹へと突き刺さる。
 
防御力に関しても下がってしまっている白井にとっては、女子の蹴りは言えどもダメージは大きい。
 
「っが……」
 
少し吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れこむ白井。受身を取ったが地面は砂地なのでところどころ擦り傷を負う。
 
「………!!」
 
そこで、白井は気が付いた。
 
武器は“ここ”にあったのだ。
 
よろめきながらも立ち上がり、自己転移が可能になるまでの距離を開ける。
 
「万策尽きるって感じですか。まぁ策なんて初めから無かったんでしょうけど」
 
今の攻防で完全に優位に立ったと確信したのか、ダメージを追った白井に追撃をせずゆっくりと歩いて近づく佐天。
 
「ええ、恥ずかしながらそのとおりですわ。でも策というものは追い詰められて閃くものでもありますのよ」
 
そういって不敵な笑みを浮かべた後、瞬間移動で初春の隣へと移動する。そこに御坂の姿はもう無い。
 
「白井さん!?大丈夫ですか!?」
 
突然横に現れた同僚に驚きながらも、傷の心配をする白井。その言葉に短く大丈夫ですわと答えると先ほど閃いたという“策”を
 
初春へと耳打ちして伝える。
 
「できますわよね?初春」
 
その問いに力強く頷く初春の瞳には、風紀委員としての強さと
 
―――友人を救いたいという強い意志が込められていた
 
「1,2の3で始めますわよ」
 
「はい!」
 
そう言って白井は右手を握りめる。
 
初春もその両手へ込める力が増す。
 
「作戦タイムは終了ですか?それじゃもう空間転移で逃げないでください……ね!」
 
そんな言葉と共に佐天は二人へと突進を開始する。
 
その距離は70m。
 
「1…」
 
60m。
 
「2の…」
 
50m。
 
「3!」
 
40m。
 
そこで……
 
佐天涙子の突進は止まった。
 
「な、何を!!……何をしたんですか!?」
 
決して離すことの無かった金属バットをその手から落とし、両手で、両目を覆った佐天は痛みを堪えながら声を荒げる。
 
そしてその質問の回答は、再び真後ろへと転移したである白井から返ってきた。
 
「ええ、簡単なことですよ……ちょっとあるモノを転移させただけですわ。貴女の眼前に」
 
「……まさか、これって」
 
淡々とそう言いながら、佐天の両腕を抱えるようにして拘束する白井。
 
その言葉に佐天は転移されたものが何なのか理解ができた。
 
「あれだけ目を見開いて走れば、結構“砂”が入ってしまったんじゃないですの?」
 
「……ふっざけるなぁぁああああ!!」
 
目を閉じたまま、何とか振り払おうと暴れる佐天。
 
しかし。
 
【公平構成】によって等しいパワーバランスになっている以上、振りほどくことができないのである。
 
それでも、暴れ続ける佐天を、今度は別の手が目の前から両脇に手を回され固定される。
 
いや、これは拘束されるというよりも……
 
抱きしめられている様だった。
 
目は見えなくても、匂いなら嗅ぐ事ができた。
 
その匂いは、あの少女の頭に乗っている色とりどりの花々から発せられている甘い甘い香り。
 
そこで、自分を抱きしめている手の持ち主を理解した。
 
「うい……はる……?」
 
それは先程、自分を拒絶した少女。関わりを拒否されてしまった少女。
 
「ごめんなさい……」
 
「え?」
 
恐らく顔を埋めているのだろう。その声は少し雲っていた。
 
「さっき、私……佐天さんに酷い事を言っちゃいました」
 
「あ……」
 
―――そんな人間だったのならもう関らないでください
 
「だから、ごめんなさいなんです。悪いことをしたら、ごめんなさいだってうちの生徒会長も言っていたでしょ?」
 
その言葉に思い出されるのは、佐天と初春が通う中学校の生徒会長の姿だった。
 
「う……ぁ……」
 
なんで。
 
この少女はなんで。
 
“友達”を傷つけた私に対して、なんで。
 
「なんで……泣いてるのさぁ……ういはるぅ……」
 
気が付けば、彼女もその両目から涙を流していた。
 
―――佐天さんも、泣いているじゃないですか……
 
―――ち、違う!これは目に入った砂が……
 
―――でも、しっかり両目は開いてますよ
 
―――うぅ……
 
―――ふふ、佐天さんみっともない顔しちゃって
 
―――う、初春だって鼻水たれちゃってるじゃない!
 
―――こ、これはですね……
 
―――……なんだか、あの時を思い出すね
 
―――幻想御手の時ですか?
 
―――そう。結局今回も皆に迷惑かけちゃったな……
 
―――友達ってのは迷惑を掛け合うものですよ?
 
―――でも、さ……御坂さんにも、白井さんにも酷い事言っちゃたし
 
―――だから、それは謝ればいいんですよ。白井さんもそう言ったじゃないですか
 
―――私達は、決して佐天さんを見捨てませんよ
 
―――うん……そうだね……ねぇ初春?
 
―――なんですか?佐天さん
 
―――ごめん、それで、ありがとう
 
―――……いいですよ。私達親友じゃないですか?
 
―――ふふ……そうだね。親友だもんね
 
―――お帰りなさい。佐天さん
 
―――ただいま。初春
 
 
 
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