佐天「…アイテム?」33


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――柵川中学学生寮前

今日は学校の日だ。というか既に遅刻確定。
昨日の夜遅くまで、自分のやった行為を考え直していた佐天。
結局、自分のやった行いは正しかったのか。いや、それとも間違っていたのか。


そんな葛藤に駆られながら彼女は寝て、そして起きた。
そしてついさっきまで麦野と電話していた。


(あぁ…今日は学校かぁ…なんだか行く気がしないなー…)




ピンポーン…




(え?こんな朝に誰?)


佐天はパジャマ姿のまま、眠そうな表情でドアを開ける。
するとそこにいたのは美琴だった。


今更居留守を使ったとしても直ぐにばれてしまうだろう。
佐天は覚悟を決めて、ドアを開けた。


「御坂さん…?」


「おはよう、佐天さん」


「こんな朝早くにごめんね、時間平気かしら?」


佐天は腕に嵌っているハミルトンの時計を見る。
遅刻確定の時間だったが、別に構わなかった。



佐天は美琴に部屋に入るように促す。


「佐天さん、今後どうするつもり?」


「……正直なにも考えていません……」


「そっか……」


「私はね、自分の話しになるけど、あなたと同様、人を傷つけた事がある。それは間接的にだけれども…」


「……そうなんですか」


うん、と美琴は頷く。佐天はその事に関して深く聞こうとは思わなかった。


「友達を続けるっていうのは……やっぱり難しいと思う……結局あの計画の事を思い出しちゃうから……」


「そうですか…」


「でも、一緒に佐天さんのやった事を考えつづけたいって思うの。自分勝手だけどさ」


佐天はえぇ、と美琴の自嘲気味な呟きに同調する。
少し意外そうな顔をした美琴だったがその表情のまま床に目を落とす。


「私は確かに人を殺しました。自分では手を下していませんが、命令を伝達した立場として。その非は認めます。
フレンダを学園都市から逃がす事を幇助して免罪符を得たかったんですけど、それでもやっぱり人は死んじゃった」


「御坂さんの気持ちはすっごい嬉しいですよ?ただ、私は学園都市の闇にとっぷり浸かってますよ?このままみんなハッピーに終わるなんて事、あり得ないです」



佐天の言うことに美琴は反論出来なかった。
いくら美琴が佐天の事を考えると言っても結局はそこまでなのだ。一緒に考える。それは確かに嬉しい。自分の境遇を理解してくれる理解者が居たら嬉しい。


「でも、御坂さん?私は御坂さんの言う計画に加担してたんじゃないんですか?それは御坂さんにとって思い出したくない、嫌な事。そんな事に加担した私の事を考える事が出来ますか?」


言いよどむ美琴を前にして佐天はしゃべり続ける。


「私は御坂さんの事をちゃんと考えた事はありません。いつも能力が使える凄い人っていうフィルタを通してみてました。
もうレベル5の御坂さんと私じゃ、境遇が違いすぎますよ…」


「でも、一緒に考える事は出来る。自分が周りの環境に呑み込まれるんじゃなくて、自分を貫き通す意志があれば、佐天さんも決してこの街の闇には屈しない!私はそう信じてる」


「貫き通す意志……ですか。それこそがパーソナルリアリティ(自分だけの現実)の強さってヤツなのかもしれませんね…」


ため息混じりに佐天はそう言うと立ちあがってカーテンを開けた。
唐突にパーソナルリアリティの話しを振られた美琴はきょとんとした表情だ。

残暑も終わり、徐々に肌寒くなっていく西東京、学園都市の朝の光を浴びて佐天はつぶやく。


「自分を貫き通す事って難しいんだよなぁ…人を助けたと思っても、それで他の人の人生を台無しにしてるんだから…」


「……」


しばらくの沈黙の後、美琴は「また今度連絡する……」とつぶやき、寮を出ていった。



美琴が帰ってから少し時間が経ってから、再び寮のインターホンが鳴る。


『佐天さん?私です。テレスティーナ。覚えてるかしら?』


「あ、はい」
(て、テレスティーナ!?)

かつてフレンダに砂皿の連絡先を教えてくれた人物だったが、結局は佐天達に尾行をつけるのを認めさせた女だ。

がちゃりとドアを開けるとキャリアウーマンといった出で立ちで立っているテレスティーナが居た。


「ど、どうも…」
(今日は御坂さんの他にもお客さんが来ますねー)


「佐天さん?あなたに学園都市から逮捕状が出てるわよ?」

テレスティーナはそう言うとにっこりと笑って逮捕状を見せる。
初めて見る逮捕状に佐天は動揺を隠しきれなかった。

「え?これが……私に…?」


「えぇ。あなた、ゴージャスパレス姉妹の学園都市脱出を幇助した疑いがあるのよね?どう?ご同行お願いしても良いかしら?」


「……わかりました……」


ありがとね、とテレスティーナは言うと後ろに立たせていたMARの隊員達を首でしゃくる。
すると佐天の両サイドに屈強な隊員がガードするような格好になり、彼女は連れてかれてしまった。


――府中 学園都市刑務所 面会室

ドラマでよく見るような部屋に佐天はいた。
ここは府中刑務所の面会室。佐天はMARの隊員達に連れてこられたのだ。


「ここで誰と話すんですか?」


佐天はテレスティーナに聞くが、彼女は「ふふ」と笑うだけで答えなかった。
同じくMARの隊員達もなにも答えずに部屋から出て行ってしまった。


(誰なんだろう…?)


捕まった事で佐天は動揺し、今さらここから走って逃げようなどとは思わなかったが、自分と面会をしようとしている人物が誰だかわからず、相手が来るまでどきどきしていた。


「もう少しでくるわよ?じゃ、私達はここらへんで」


テレスティーナはそう言うと配下の隊員達を従えてそのまま去っていく。
その直後、入れ替わりで、ガラスに仕切られた反対側の部屋から人が入ってきた。


面会希望人は一人ではなかった。金髪でサングラスの男、真っ赤な髪でツインテールのように髪を結っている女、ポーカーフェイスでにこにこ笑っている男、そして――。



――アイテムのアジト


浜面がシャケ弁と適当にチョイスしたパンを買ってきた。
麦野がちょうど風呂に出て、新しい服に着替えた後だった。滝壺は麦野と交代で風呂に入っているようだ。


「弁当買ってきたぞ。ほら、シャケ弁だぞ」


「ん。ありがと」


麦野は浜面から弁当を受け取る。


「ねぇ…浜面」


「あん?何だよ」


「私とあんたって付き合ってたのよね」


「あぁ、付き合ってたな」


「今は?」


麦野は浜面に問いかける。
質問された浜面はその答えに戸惑う。


「付き合ってるつーか…なんと言うか…お前が多分俺と付き合ったって事が信じられないのは、スクールにいた女に頭の中いじくられたからだろうな」


「そうね…」


浜面と付き合っている事実は確かにあるのに、全く好意が湧かない。
麦野の心理状態は心理定規に操作されて、次の日に当たる今日も、全く回復しなかった。



「…私、どうしたらいいかな?浜面」


麦野が髪をかき分けつつつぶやく。
かき分けるときにちらっと薬指に嵌っている指輪が見えた。


「指輪…つけててくれたんだな…」


「……うん」


「俺とお前の距離だかなんだかしらねぇけどさ、今からやり直せばいいだろ?麦野」


「そう……なのかな?私、全然浜面に好意湧かないよ……?」


「そしたら、それでも良い。これから色々大変だと思うけどさ、頑張ろうぜ?恋人としてじゃなくて、アイテムと下部組織の構成員って関係からで良いからさ」


麦野は小さくこくんと頷く。
滝壺と麦野、そして浜面。これから三人はどうなるのだろうか。



――府中刑務所 面会室

佐天のいる部屋とは反対側にいる四人の男女。
正確に言えば男三人と女一人。


その中でも白髪でひょろい男がどかっと椅子に座った。
サングラスをかけている男に早く本題に入れ、と言われている。


白髪、いや、銀髪の男は「うっせぇな」と悪態をつきつつも佐天に向かって話し始めた。


「よォ。昨日はご苦労様ってことだ」


「は?何のことですか?」


「まァそう謙遜すンなって。クカカ…アイテムの連絡係さン?」


「……」


佐天は思った。
目の前にいるこいつ等は自分の事を知っていると。


「私に何の用ですか?まさか死刑?」


「そンなンじゃねェって。統括理事会が独立記念日に起こった事は全てチャラにするってお達しを伝えに来た」


「チャラ…?」
(じゃあ、フレンダ達が脱出したことも不問に?)


「…ま、何を考えてるかわからねェが、お前ン所の脱走者の件やそォいうの全てチャラって事だよ。お前もここで釈放だァ」


「私も…?」


銀髪の男は「あァ」と頷く。
すると隣にいる金髪のサングラスの男が今度は椅子に座って、話し始めた。


「ま、そういう事だにゃー。みんなハッピーエンドになったって事かな?生きてる奴は」


最後の言葉を協調した金髪のチンピラの様な男はサングラス越しからその双眸を佐天に向ける。


「ただ、お前は釈放の代わりに条件があるんだにゃー、佐天涙子」


「……私の釈放の代わりに……条件?」


金髪のグラサン男は無言で首肯する。


「アイテムは壊滅状態。恐らく、近々解散するだろう。その連絡はお前経由でリーダーの麦野にしておいてくれ。その代わりに…」


「私が解散するアイテムの次にあなた達の連絡係になってくれって事ですか?」


金髪でサングラスをかけた男は「察しが良いな」とつぶやく。そして弁を続けた。

「返事は今しなくても良い。近い内に聞かせてくれ。ただ、お前は本来なら学園都市の技術を漏洩し、長期間独房で過ごす或いは無期懲役だ。
それをよく考えて、どっちが良いか、判断してほしいにゃー」


金髪の男はそう言うと部屋から出て行くが去り際に「良い返事を聞かせて欲しい」と言い、にやっと笑った。
そして、その男の後ろを他の三人がついていく。その光景を見ていた佐天は小さくつぶやいた。


「釈放する代わりに…また闇に逆戻りかぁ…どうしようかな…?」


美琴と話した事やフレンダ、滝壺、砂皿色々な人の顔が彼女の脳裏に浮かび上がってくる。
どうしようか。またあの闇に戻るのか。それともうす暗い刑務所の独房でずっと暮らすのか…?


彼女は思考の海にゆっくりと沈んでいく……



――カナダ・カルガリー 快晴


カルガリー市街地から十七キロほど離れた所に位置している国際空港にステファニーとフレンダは到着した。
そこからバスに乗って市街地へ向かって行く。


「フレンダ?久しぶりだね、カナダ」


「うん。英語、喋れるかな?ちょっぴり自信ないよ」


フレンダはそう言うとバスの窓から外を見る。
バスは川沿いを走っていく。黄金色に輝いている葉はひらひらと落ちていき、水面や道に落ちていき、フレンダ達の視界一面全てを金色に染め上げていた。


「綺麗だねー」


「本当だね」


フレンダにしろ、ステファニーにしろ、昨日の戦いの傷はまだ癒えていない。
フレンダは足に包帯、ステファニーも後頭部に医療用テープが貼られている状態だ。


それでも、傷を負っていても、二人の姉妹は笑顔を絶やさなかった。
もう人を殺す世界には行かないのだ。
二人は砂皿という大事な人を失ってしまったが、それでも、彼女達はそれを乗り越えて前に進まなければならない。



「もう、二度とフレンダから離れないからね?」


「…うん。ありがとう。お姉ちゃん…」


フレンダはそう言うと隣の座席に座っているステファニーの肩の辺りにすとんと頭をもたげる。
ステファニーはフレンダの肩に手を回して引き寄せる。




もう離れない。
絶対に。



「ねぇ、フレンダ。帰ったらまずは砂皿さんの遺体を庭に埋めてあげたいんだけど、どうかな?」


「良いよ」


砂皿の遺体は冷凍状態で日本からカナダに後日送られてくる。
ステファニーは彼の遺体を丁寧に土葬しよう、と提案した。


「ねぇ…フレンダ?私ってひどい人間かな?」


「いきなりどうしたの?お姉ちゃん」


「お前の事なんかそっちのけで勝手に色んな所に行ったりして、師匠で、私の大好きだった砂皿さんを見殺しにするような人だよ?」


「そんな事言わないでよ…。私は結局お姉ちゃんがいなかったら、あのまま学園都市の闇に引きずられてたって訳よ…他のアイテムの人達には悪いけど、抜けれて良かったって思う。
だからそこから掬い上げてくれたお姉ちゃんは決してひどい人じゃないよ。砂皿さんもね」



「そっか…」


フレンダは「うん」と微笑む。
ステファニーはそう言うと安堵の表情を浮かべる。



ここで彼女達が乗っているバスが停まる。
終点だった。
フレンダ達以外の乗客が先に、皆降りていく。



最後に残った彼女達は荷物をぐいっと肩で背負うとバスのステップに足をかける。
ステップの先に見えるカルガリーの市街地。フレンダとステファニーの鼻腔にカルガリーの新鮮な空気が入ってくる。





バスから降りれば、そこから先はまだ見た事のないフレンダ=ゴージャスパレスとステファニー=ゴージャスパレスの明日が待っているはずだ。




                                                          ――おしまい
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