佐天「…アイテム?」22


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あらすじ

時期は夏休みがあと少しで終わる位。
テレスティーナから麦野に送られたメールの内容はフレンダがアイテムを抜けようとしているのではないか?
という猜疑のメールだった。

麦野はリーダーとしてフレンダにそのメール内容が事実か否かをフレンダに問いただすが、フレンダはそんな話しは嘘だときっぱり断言する。
要するにアイテムを裏切る事はない、と宣言した様なものだった。





――木原数多の指揮する猟犬部隊のオフィス


『今日の朝、多摩川河川敷で発見された男性の遺体は身元不明ですが、依然として捜査は…』


今朝から流れているニュース。
数多はオフィスにあるテレビから流れてくるニュースを忌々しげに見つめた。


(ったく消されたな…ケイトの野郎…!)


数多は歯をぎりっと鳴らしつつ、ケイトの死は確定だな、と思う。
ニュースで報道されている男の遺体はおそらくケイトだろう。配下の猟犬部隊を確認に向かわせているがそいつらの報告をまつまでもない。
数多の勘がそう告げていた。彼はオフィスの机をダァン!と強く殴った。


猟犬部隊を殺した犯人は砂皿と見ていいだろう。
ケイトがベティに報告した情報によれば、奴らは妹を捜している。


推論になるが、砂皿とペアを組んでいるステファニーとアイテムのフレンダは姉妹だ。
そして何らかの手段で彼らは接触をはかろうとしているに違いない。


(……俺の妹の読みはあたったのか?アイテム、いや、フレンダが怪しいという線はヒットしたな……)


プルルルルル


数多のオフィスの電話がなる。彼は受話器を取ることなく、デスクに据え付けられている、外部音声の接続ボタンを押す。


「木原だぁ。符丁確認」


「こちら、符丁はベニントン。警備員の浸透要員からの報告に依りますと、身元はケイトでした」


「……ちっ。わかった」
(やっぱりやられたか)



数多は苦々しい表情で部下から掛かってきた電話を切る。
今の報告に依ればケイトは死んだ。


ここで砂皿の居を構えているホテルに攻勢をかけて叩き潰すか?
しかし、砂皿はアイテムの連絡係の護衛役を請け負っている。
連絡係、もとい電話の女の護衛という任務を遂行中の砂皿を今の段階で殺してしまえば、妹のテレスティーナの出したオーダーに形式上ではあるが逆らったことになる。


そうなれば数多は学園都市に抗命した事になる。
しばしの独考の後、数多は妹、テレスティーナ=木原=ライフラインに連絡した。


「俺だ、数多だ」


『何?』


「朝からやってるニュースみたか?」


『えぇ、見たわ。まさかとは思ったけど、兄さんの所の隊員だったのね』


「まぁな、恐らく砂皿の野郎による仕業だな」


『経歴からするに、砂皿緻密はよく訓練された兵士よ』


「そんなこたぁ、わかってる。で、テレスティーナ。頼みがあるんだが」


『なに?』


「砂皿緻密をアイテムの連絡係の護衛役から下ろして欲しいんだが」



『それで、どういう反応を砂皿がとるか見るって事?』


「あぁ。お前の力でなんとかならないか?」


『私の権限、というか砂皿をアイテムの連絡係役に当てたのは私だから、問題はないとおもうわ。それに今回の件は統括理事会から自由にやれって言われてるから平気よ』


数多はテレスティーナの話しを聞いてにやと笑う。
これで砂皿がどういった反応に出るかがわかる。
今まで後手で回っていた対応からこちらから仕掛ける形に展開出来る。


砂皿が佐天の護衛役を解任された時、どのような反応を見せるか、これでアイテムの間にある何らかの策謀を看破出来る。
数多はそう考えたのもつかの間、大事な事に気付いた。


(ケイトを殺した時点で砂皿がどこにいるかわからないんじゃねぇか?)



直ぐに砂皿を捜さなくては、と数多の体に電撃が走る。
ケイト殺害された時点でそのホテルに砂皿がいるとは考えにくい。
数多はデスクについているパソコンから電話番号を引き出す。


(小出しじゃダメだな。猟犬部隊が一人殺害されてる時点でこっちが出撃する口実は出来てるんだ。なんなら学園都市全体を捜索すればいいさ)


戦闘に於いて戦力の小出しは最もやってはいけない行為だ。
人海戦術で砂皿緻密を探しだしてさっさと学園都市に潜んでいる不逞(ふてい)な輩を排除しなければならない。



――猟犬部隊の所有しているビル前の訓練場にて

数多が招集をかけると、数分後には行動中の猟犬部隊以外のメンバーが全員集結した。


「今から砂皿緻密の居を構えているホテルを強襲する。良いな?」


「はっ!」


特殊部隊の隊員達は特殊部隊の格好をせず、寧ろ一般人に扮した出で立ちで数多の前に立っていた。
彼らは勢いよく返事をすると踵を揃えて数多の話しを傾注する。


「相手はよく訓練され、貴様等よりも多く場数を踏んでいる傭兵だ。決して舐めて掛かるな。遺書は書いたか?てめぇら!?」


「いいえ!」


勢いよく隊員達が返事をする。


「それでいい。任務を達成すれば生きて帰ってこれる。単純だ。砂皿緻密の首を取ってこい!」


数多の声を聞くやいなや、私服に着替えている猟犬部隊の隊員が訓練場の前に配置されている一般車両に乗り移っていく。
理路整然と隊員達が乗り移っていく光景を数多は見つつ、自分も車に乗り込む。
そして携帯電話を取りだし、テレスティーナの番号に電話をかける。


「おい、お前か?今から砂皿の首を取りに行ってくる」


『ちょっと!いきなりじゃない?』


「あっちはもう猟犬部隊の隊員を一人殺してんだぜ?相手の目的はまだ不透明で確定はしていないが、俺たちに敵対している事には変わりないからな。制圧する」



『わかったわ。そしたら、こっちからMARの隊員何人かよこそーか?』


「いや、良い」


『そ、わかったわ。じゃ、気を付けてねー』


テレスティーナが電話を切ると数多も携帯を切る。
そして数多が乗るであろう車の後部座席のドアが開く。


「どうぞ、木原さん」


隊員のうちの一人であろう男がドアを抑えたまま数多が乗り込むのを待っている。
それを見た数多は体をかがめ、乗りこむ。


日産の真っ黒のムラーノに乗り込む。
数台の車は砂皿がチェックインしていたホテルに向かってそれぞれ違う方面から向かって行く。


まだ砂皿がそこにいるとは限らない。
しかし、それを確かめる必要がある。このままの状況が続けば、徒(いたずら)に猟犬部隊の兵力を削がれるだけだ。


「待ってろよ、砂皿緻密」



――浜面が運転するセドリックの車内

アイテムの少しだけ遅いランチタイムは終了した。
フレンダが学園都市から抜け出そうと考えているかどうかの問いかけ以外はごく普通の会話だった。


麦野はテレスティーナに送られてきたメール。

“フレンダがアイテムを抜けようと画策している模様”

このメールの審議を麦野はアイテムのリーダとして、フレンダに問いただしたのだった。
そして今は浜面の運転するセドリックの車内で考え事をする彼女。



「フレンダがアイテム辞めるなんて、考えられるのかよ?」


「うーん…まだ納得出来ないのよねぇ…」



浜面が「何が?」と質問する。
すると麦野が言う。


「いやね、テレスティーナとか言う奴がデマ情報を流してきたとしてもだよ?何でフレンダなのかなぁって思ってさ」


「適当にでっちあげたんじゃねぇの?」


「そしたら、なおさら何でフレンダなのよ…?“アイテムの中にアイテムを抜けようとしている奴が居る”の方がうちらに疑心暗鬼を引き起こせそうだけど」


「…確かにな。でも、いいじゃねぇか。結局はフレンダもアイテムを抜けることはなかったんだしよ…」


麦野は浜面の発言に「ま、そうだけど…」と言うと窓の外に視線を向けることにした。



――砂皿緻密がチェックインしているであろうホテル

猟犬部隊はそれぞれ所定の持ち場についた。
砂皿のいるであろう部屋に強襲をかける手はずだ。


ホテル側には既にその事を伝え、秘密裏に避難は済ませていたのでいつでも突撃出来る状態だ。
猟犬部隊の突撃の一番手がドアをノックする。


その男の片手にはベレッタM92の消音器搭載モデルが握られている。ホールドは既に解除されており、いつでも射撃出来る状態にしてある。
彼はインカムでホテルの脱出に使われるであろう予想箇所の一カ所で張っている数多に連絡するためにインカム型電話で報告する。


「砂皿緻密が宿泊しているとおぼしきホテル前に到着しました。どうぞ」


『よし、速やかに突撃しろ』


数多の声を聞き、男は了解と答える。そして突撃の一番手の男は後ろにいる三人の猟犬部隊の隊員の顔を見、無言で頷く。


5、4、3、2、1…!


指で合図をしていく。カウントが1に近づくにつれて上がる心拍数。
ドアの先には銃を構えている傭兵が手ぐすね構えて待っているかも知れない。
何が起こるか分からないこの状況でしかし突撃の一番手は勇敢にドアを蹴破った。


部屋の中に入るとカーテンは閉ざされて、午後の高い日差しにも関わらずうす暗かった。
一気に砂皿のいた部屋に突撃した四人の男達は緊張しつつも僅かに肩をなで下ろす。


すると隊員の一人がバスルームから音が聞こえる旨を報告する。
突撃の一番手がささとバスルームの近くの壁に移動する。



「ただいまからバスルームに突撃します…!なにやら不審な音が聞こえる模様。音は…シャワーだと思われる」


男は数多に現況を伝える。
突撃の件に関して数多は了承の旨を無線で知らせる。
暢気(のんき)に砂皿がシャワーを浴びているとは思えなかったが、水が出しっ放しにしてあると言うことはこの部屋のどこかに潜伏している可能性がある。


他の隊員達にリビングの捜査をするように言って男ともう一人の隊員は一気にバスタブに突撃する。
蛇口から出ているであろう水は全く出ていなかった。高性能スピーカーから出力されている水音が猟犬部隊の隊員達に水が出ていると錯覚させたのだった。


チッ!やられたか!と思い、他の部屋に移動しようと思った矢先だった。
ふと高性能スピーカーのコードを目で追っていくと浴槽の中に繋がっているコードを一本見つける。


浴槽にしかれているふたをパタパタと半分ほど開けていくと、中にはなにやら大きい不審物が入っていた。



「ふっ、伏せろ!!」


男は浴槽に爆薬が仕掛けてある事を確認したのもつかの間、声を張り上げる!
突撃の一番手の男がみたもの。それは数キロのHMXオクトーゲン爆薬だった。


猟犬部隊の男の意志とは無関係にTNT火薬のおよそ23倍の爆速を誇るオクトーゲンは9200メートル秒のスピードで周囲を吹き飛ばしていく。


突撃隊員の一番手の男は伏せようが伏せまいがどうしようもなかった。
浴槽から解放された膨大なエネルギーは部屋毎、焼き付くし、そこに人がいた形跡自体を跡形もなく抹消してゆく。


それは他の部屋にいた猟犬部隊の隊員も同様だった。
猛烈な火の奔流は荒れ狂い、留まる事を知らずに全てを塵に帰した。



――猟犬部隊の強襲したホテルの近く

数多はその音をインカム越にきくと、ホテルを見上げる。
ホテルの近くに張っていた彼は爆発するホテルの階層を見つつ歯ぎしりをする。


またしてもやられた。



一度目は奇襲を受けて部下が一人やられた。そして二度目はまんまと嵌められたビル階層爆破。


「応答しろぉ…」


数多が無線で呼び掛ける。無線は永遠に沈黙した。
何度呼び掛けてもざざと不快な無線音がするだけだった。



と、その時だった。



砂皿がチェックインしていたと思われていたホテルの地下駐車場から大排気量のバイク、ハーレーソフテイルが出て来る。


フルフェイスのヘルメットを被り性別等は確認できない。
わかることは男にしろ女にしろスタイルが相当いい。


(オイオイ!さっき避難勧告は出したぜぇ?あのハーレーのドライバーは誰だ?オイ!)


数多は避難勧告を出して大多数の人達が避難したのを確認していた。
しかし、何故、今更地下駐車場からバイクが出てくるんだ?


しかも、そのライダーが運転するハーレーはギャギャギャと後輪から煙を巻き上げ、方向転換すると数多達のいる車両に向かってくるではないか!

数多の乗っている日産のムラーノの前には同じく黒塗りのトヨタのヴァンガードが止まっていた。
これも猟犬部隊の所有している車だった。


ハーレーはこちらに向かってくる。
ドライバーはハーレーのサイドからグレネードランチャーを取り出す。


ベトナム戦争で使われた骨董品だがまだまだ使えるコルトM79グレネードランチャーのカスタムモデル。
ハーレーのドライバーが右手でそれのトリガーを弾く。
すると、ランチャーはキュポンと間の抜けた音をあげる。


肉眼では確認できないが缶コーヒーより少し小さいサイズの弾がヴァンガードに向かっていく。
数多はそれら一連の動作をぽかんと見ている事しかできなかった。


数瞬、派手な炸裂音が道路にこだまする。ヴァンガードが爆発したのだ。
運転席付近に進入したグレネードは猟犬部隊のドライバーの男の右頬で炸裂する。



すると、弾頭に収納されていたベアリングが四散し、弾け、車内の隊員達を殺戮する事に貢献した。
そうしてヴァンガードの車内は猟犬部隊の阿鼻叫喚の叫び声が響く地獄と化した。


「…今のハーレーを追え!」


数多の怒号が彼の乗っているムラーノの車内に響き渡る。
その怒声を聞いた猟犬隊員のドライバーは跳ね上がる様にしてキーを回してハーレーを追走する。


「次いで周囲の猟犬部隊に援護要請」


数多はつい先程の怒声を張り上げた様子と打って変わり、冷静に部下に命令を伝える。
その命令を聞いた隊員は運転しつつ、無線で数多の命令を吹き込んでいく。






ステファニーはヴァンガードが吹き飛んだ光景を見つつも、「ちっ」とフルフェースのヘルメットの下で軽く舌打ちをする。
ハーレーのサイドミラーで確認してみると猛スピードで追撃してくる黒塗りのムラーノ。



(にゃはーん、もう一台いましたかぁー。さっきぶっ飛ばした一台だけかと思ってましたね)



ホテルに侵入したと思われる邪魔者は彼女が仕掛けたオクトーゲンで吹き飛ばした。
戦果確認ができないと砂皿はオクトーゲンの使用に反対していたが、ホテルの階層を丸まる吹き飛ばす破壊力だ。


恐らくあの階の生存者はいないだろう。しかし、ステファニーは現在、敵に追尾されている状態だ。
自分の派手好きな性格に少しだけ辟易しつつも直ぐにこの状況をどう切り抜けるか?という事に全神経を集中させる。


妹、フレンダを救い出す為には悪魔にだってなる。
例え妹が自分を罵ろうと学園都市の闇から救い上げる。
ステファニーはハーレーを運転しながら、妹を救い出すのも私の勝手な独善なのかな?と思い、つい「ふふ」と自嘲気味に嗤う。


しかし、戦闘はそうした思考をする時間を与える事はそう長くない。
ステファニーは後ろを見、未だに追撃してくるムラーノに向かってグレネードを発射する。
彼女はハーレーのサイドミラーからムラーノの車内を見る。


(顔にがっつり彫り物入ってる人、目据わってますね、あれが指揮官ですかね?)


ステファニーは網膜にトライバルの入れ墨を持つ男の表情を焼き付け、再びグレネードランチャーを放つ。


ガギャギャギャ……!


荒々しいハンドリングでムラーノが射出された弾丸を回避する。
肉眼では確認出来ないのだが見切っている。ドライバー、或いは指示を出している人物は相当戦場に慣れているプロだろう、とステファニーは推測する。



(お見事ですねっ!)



ステファニーはムラーノの運転手に感嘆しつつ、片手でポンプアクションを行うとカシャリと次弾を装填する。
そしてトリガーを絞り、グレネードを射出する。しかし、これも回避される。


(チッ!砂皿さんとさっさと合流したいのに…!)


彼女ははハーレーを走らせつつちらと横を見る。
すると護岸でコンクリートに加工され、干上がっている川があったと思しき場所を見つける。



(さぁ?ついて来れますかね?)


ステファニーは後ろからやってくるムラーノを見て、考えを巡らす。


キュポンと再び間の抜けた音がグレネードランチャーから発せられる。


射出された弾は干上がっている川に張られた金網を破壊する。
ステファニーはそこに勢いよく飛び込む。


(撒いたか!?)


ステファニーはハーレーを護岸工事で整理され通路と化した川を走りつつ、後方を見る。
するとムラーノが勢いよくステファニーをおいかけてきた。


(着いてきますか…!)



ステファニーはムラーノに乗っている人達の執念に感嘆すると同時に引導を渡すためにポンプアクションし、グレネードの弾を装填する。


(よく着いてきましたケド、ここらでおしまいですよ☆)


ステファニーはカチャリとグレネードランチャーを構える。次は外さない。
今まで撃った二発が避けられている。


しかし、次は決める。覚悟を決め、走り続けながらトリガーにゆびをかける。
そしてしっかりムラーノの車体を狙う。


(やっぱり派手にパーッと吹っ飛ばすのが一番ですね☆)



パートナーの砂皿には敵の生死確認ができないと言われ、大破壊力の兵器はあまりつかわない様に言われているが飽くまでステファニー流で仕留める。
ステファニーがトリガーを勢いよくひく。
と、その時、橋桁にグレネードが触れてかぁん!とステファニーの手から離れていく。


彼女が「あ!」と声をあげた時には既にグレネードはムラーノの遙か後方に置き去りになっていた。








――ムラーノの車内

「おい、あいつ得物を落としたぞ」


「その様ですね」


助手席に座っている数多はハーレーに乗っている人物が得物であるグレネードランチャーを落としたことを運転している隊員を見ないでつぶやく。


「楽しくなって来やがった」
数多は独り言の様につぶやくと大理石超のダッシュボードから拳銃、ベレッタM92INOXを取り出す。
がちゃりとバレルを後方に絞り、弾倉から弾丸を銃筒に送る。


数多は窓をウイーン…と開く。
かなりの速度で走っており、一気に風が車内に入り込んでくる。それにもお構いなしに数多は半身を乗り出してINOXを発砲する。


パァン!パン!と乾いた音が木霊する。
発砲される度に薬莢が車内に入っていく。


「クッソォ…!あんまりあたらねぇなぁ」



そうつぶやきつつ発砲を続けると一発が当たったのだろうか、ハーレーがぐらと揺らいだ。
どうやらライダーの左肩を打ち抜いたようだった。


その光景を見つつ運転手がやった!と嬉しそうに声を上げる。
しかし、当てた当人である数多は一言も発しない。
寧ろ、ダッシュボードから次のマガジンを取り出すと再び発砲を続けた。



(生け捕りで何を考えているか吐かせてやる…!)



そう考えた数多は今度はハーレーのタイヤに弾丸を収束させる。
しかし、なかなか当たらない。


そうしてマガジンを何本か消費したときだった。
左右に用水路が別れているのが確認出来るではないか。ハーレーがどちらに行くか。


(ここでミスったらやべぇな…)


恐らくハーレーの運転手もどちらに行くか逡巡しているだろう。
遠くに見えた用水路の分岐点はだんだんと近づく。



あのハーレーはどちらに行くのだ?



――先行するハーレー

ステファニーの左肩が打たれた。
弾は貫通した様だった。しかし、焼けるような痛みが彼女の体を突き抜けていく。


(貫通ですかッ!…チク、ショ…!)


もうすぐ用水路が左右に分かれている箇所だ。どちらへいく?ステファニーが逡巡する。
これ以上の戦闘行為は出来ない。一度治療してから出直そう。


まずは猛追してくるムラーノをどう撒くか。意識はその一転に集中される。
打たれた肩を押さえる暇はない。
もうすぐそこまで分岐点は迫ってきている!!



ミラーを見ると刺青を入れている男がM92の弾丸を装填し終わったのだろう。
またしても半身を乗り出して銃口をこちらにむけて、構えている。


(結構痛いですね…)


革のジャケットは貫通しており、ぬらぁと暖かい血がしたたり落ちるのが自分で分かる。
砂皿さんと決められた合流地点に向かわなければ…!そう考え、ステファニーは痛みを払拭するように更にアクセルを強く踏んだ。


(左に行くと見せかけて、右…!)


あまりの痛みに左右にジグザグと進むことが出来ない。
これでは相手の射弾を回避することは難しい。が、走る。こんな所で死ぬわけにはいかない!捕縛されることなどあってはならない。


相手の正体はわからないが、私に発砲したということは敵だ。とステファニーは言い聞かせる。



そんな思考の時間すら与えまいと、パン!と再び乾いた音が用水路に響きわたる。
痛む肩を気にかけながらもかながら弾丸を回避するものの、一発が更に右足を擦過していく。


黒革のズボンからうっすらと血が滲むと同時にステファニーに痛みが走る。
彼女は手と足からジンジンと伝わってくる痛みに苛まされつつ、ヘルメットに手をかける。


(まさか…私が女だと思ってるはずないですよね?)


身元不明の人物。追撃してくる人物はそう思っているだろう。
たとえ女だと予測していたとしても、その表情をさらせば一瞬は動揺するはずだ。

確実に敵をまいて砂皿と合流する為に彼女は自分の素顔をさらす決心をした。



…分岐はもう目の前だった。
ステファニーは右にバイクを向ける。ムラーノもそれに合わせて追随してくる。


右から左へ。
その間に振るフェイスのヘルメットを取り去る。

すごい勢いの風がステファニーの顔に直撃する。
ブロンドの髪の毛がぶわっと棚引きつつ後方に押しやられる。


苦悶の表情を浮かべず、ムラーノの方を振り向く。
そしてにこりと笑う。直後彼女は一気に再び右の用水路にバイクを向け、加速する。


ムラーノはフェイクにまんまと引っかかり、左の用水路に突っ込んでいった。
急ブレーキを掛けるが、そのときには遥か先をステファニーの運転しているハーレーが突き進んでいった。



――数多達の乗るムラーノ

「クッソ!」


数多が悪態をつきつつ、がぁん!とダッシュボードを殴る。
その動作を見た運転手は直ぐさま車の向きを転換し、追撃しようとする。


「無駄だ…あのハーレーじゃもう追いつけねぇ…さっさとオフィスに戻って車載カメラの解析だ」


「はっ!……了解しました」


数多は開けた窓越しに遠ざかっていくハーレーの音を聞いた。
彼にとっては忌々しい音となって記録された。


「にしても…あいつ、女か」
(男かと思ったわ)


木原はつい先ほど、フルフェイスのヘルメットを取り、こちらに微笑みかけた金髪ブロンドの女を思い浮かべる。
あれが昨日ケイト達の報告にあった姉か?砂皿とコンビを組んでいる傭兵だろうか?


ヘルメットを外した直後、数多はトリガーを引く事を一瞬。ほんの一瞬だが躊躇(ためら)った。
何故ならライダーが女だったから。


猟犬部隊の隊員の追撃を振り切り、怪我こそすれどそれを振り切った正体が実は女だった。
そんな偏見にも似た彼の感情。それはムラーノを運転していた男にしても同じだったのかもしれない。


運転手も一瞬、ハーレーの運転手に微笑まれ、つい、進行方向を惑わすフェイクに引っかかってしまったのだった。


「す、すいません…木原さん…自分があの女のフェイントに引っかからなければ…」



男は今更ながら自分の運転ミスを悔悟しているようだった。
しかし、数多はそんなミスよりも自分があのハーレー乗りの女に致命傷を加えられなかったことを悔いた。


「……うるせぇ。俺も一瞬動揺して撃てなかった。隊長としてあるまじき行為だ。お前のやった不手際も不問だ、いいな?」



数多に言われた言葉で「は、はい」と動揺しつつ猟犬部隊の男は返答する。
彼は車をバックギヤに入れてもと来た道を帰っていった。
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