佐天「…アイテム?」18


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――横田基地

旧日本陸軍の横田基地を拡大整備したこの基地は学園都市内にありながら唯一、米国扱いされている土地だった。
そんな基地内のハンガーに止まっている車はトヨタのランドクルーザー。
砂皿がレクサスの他に所有している車の内の一つだった。


車に搬入されていく数々の武器弾薬。
実際に使うのかもわからないが、念には念をだ、と砂皿は自分を納得させると武器を横流ししてくれた兵士にドル札の束を渡す。


英語で「また頼むよ」と白い歯を見せながら笑う米兵。
それに片手をあげるだけで答えると砂皿は車内に乗り込み、キーを回して武器格納ハンガーから出て、門に向かっていく。


(ずいぶん手に入ったな…)


後部座席に置かれている武器弾薬や備品を感慨深げに見つめる砂皿。
セムテックス、数十キロのHMXオクトーゲン、マガジン、手榴弾、グレネードランチャー、などなど、まるで今から戦争にでも行くかの様。


ずっしりと重たい各種部品を搭載したランドクルーザーが程無くして在日米軍基地内を抜けて昭島方面に出る。
そこから本拠を構えている調布方面に向かっていく。


横田基地を出てすぐ、赤信号でランドクルーザー(ランクル)が止まる。


砂皿は黒のランクルのボンネットに反射しているまぶしい夏の太陽を忌々しく思いレイバンのキャラバンシリーズを手に取る。
光を遮断し、快適な運転空間を創出したサングラスに砂皿は満足すると携帯に視線を移す。


八月の狙撃以後更新していない携帯電話。赤信号のさなかにメールを確認しようと思った砂皿はちょうどメールが来ていた。
誰からだ、と思うよりも早く受信フォルダを開き、メールを見ていた。
ステファニーが何か新情報を掴んだのか?と思いつつ携帯を開くが、宛名は以前狙撃を依頼してきた学園都市からだった。


(一体なんの用だ?)



From:Multi Active Rescue

Sub:要請

しばらくとある人物の護衛を頼みたい。

護衛リスト:アイテム.jpg 佐天涙子.jpg


アイテム。
砂皿とステファニーが探しているフレンダが所属している組織の名前は確か中国語で“項目”だった。
邦訳すると“アイテム”。予想だにしない展開に砂皿は息をのんだ。


(何らかの手段を使って俺たちの行動を予想した学園都市の牽制か?)


学園都市からアイテムにフレンダを救い出すという作戦。
昨日来学したばかりだったが、どんな最先端技術がつかわれているか判然としない学園都市。
結局情報と言う物はいつしか看破られるもの。それがはやいか遅いかだ、と自分を納得させた砂皿は冷静に返信メールを作成する。


護衛の要請を承り、ステファニーの妹に接近しようと考えた砂皿はMARに仕事を受ける旨のメールを送信した。
いくら学園都市の技術が進歩しているからと言って、まだフレンダに接触してすらいないので情報漏洩の線は無いと判断する。



何も情報が集まってこない状況。
ならば、まだ実質何もしてない。
砂皿は学園都市からの仕事の要請を渡りに船だと考えた。


――MARのオフィスビル外

「ありがとね!涙子!」


「へ?いや、私は何もしてないよ!?ただ、一緒に行っただけで…」


フレンダがしきりに頭を下げる。
滝壺は先ほどから一言も発していないが、何かを訴えかける様な目でフレンダと佐天を交互に見ていた。


「ま、これで実際に警護に来てくれた砂皿緻密に接触すればいいって訳よ!」


「そ、そうなるね。でも、警護ていっても私の住んでる学生寮の回りでしょ?」


「…そうね。だから涙子の所に来たら私に連絡してほしいって訳よ…!良いかしら?」


佐天はお願い!と懇願するフレンダを見て宿題を一緒にやってほしいと初春に頼み込んだ自分自身もこんな姿だったのかな、と場違いな事を考える。


「良いよ。ってかそうしないとフレンダの恩師だっけ?見つけられないものね」


「あ、ありがとー!涙子ー!」


フレンダは勢いよく佐天に飛びかかる。
このクッソ熱いのに、こいつときたら!と佐天はフレンダを引きはがそうとする者の離れなかった。
ぎゃあぎゃあと喚き散らしている二人を視界にとらえている滝壺はぼそりとつぶやいた。


「お腹減った」


――レストラン「Twigy」

立川駅の近辺にあるレストランに到着した佐天達一向。


「いやー、にしてもありがとね、涙子」


「もーいいよ、フレンダ、私も今日暇だったし」


「うん。滝壺もありがとね、一緒に来てくれて!」


フレンダは先ほどから一緒に来てくれた滝壺と佐天にしきりに礼を述べていた。
時刻は14時。
朝ごはんを食べてきたとはいえ、それ以外に何も食べていない三人はかなり疲れていた。


三人は料理を頼むとソファになっている座席に腰をだらんと伸ばして座る。


「にしても、面白いわねー、まさか暗部の連絡係と仲良くなるなんてさ」


「本当。電話の女の正体って誰なんだろうって話してたらたまたま隣の座席にいるとか奇跡だよ」


そう言うとフレンダと滝壺が目を見合わせてクスクスと笑う。
佐天は苦笑するしかなく、あはは…と気まずそうに笑って見せた。


にしても…佐天は思った。
昨日まで連絡をよこすだけの繋がりだったのが、今では一緒にご飯を食べるまでに。
いつも共に行動している四人やアケミ達とはまた別の繋がりが出来た様な感じがして佐天はうれしかった。


雑談に興じていると時間はあっと言う間に過ぎていった。
かつ丼を食べ終わると佐天は三人でプリクラを取ろうと提案する。


ゲーセンのプリクラ撮影機の中に入り、百円ずつ入れていく。
四百円でとれるプリクラ。足りない百円はフレンダが今日一日付き合ってくれたお礼として出す。


コインを入れるとお勧めに任せるがままに撮影を開始する。
撮影が終了すると撮影されたプリクラに楽書きをしていく。


出来栄えは上々だった。
三人とも昨日初めてあったとは思えないくらいに親密なのが小さいプリクラの画像からはうかがえた。


落書きを終えたプリクラがしばらくして撮影機械の横からぺろんと出てくる。それをゲーセンにすえ付きされているハサミで三等分していく。
佐天はそれを仕事用の携帯電話にぴたっと一枚張る。

「にひひ…私もはろっと」


「私も」


佐天がプリクラの写真を一枚携帯に貼ったのを見てフレンダと滝壺も携帯電話に同じくプリクラを張り付ける。


ゲーセンから出ると最終下校時刻が近付いていた。
三人は夕日の多摩川の土手沿いを仲良く歩いていた。
部活がえりの学生やまだ練習中の学生達が頻繁にすれ違っていく。


その景色の一つを構成しながら佐天達は歩いていた。


「今日一日でかなり仲良くなった気がするって訳よ。涙子」


「そーだね!私も面白かった!」


「電話の女は電話越しでも実際に会ってもテンション高いんだね」


滝壺の言葉に佐天は顔を夕日の様に真っ赤にする。
こいつときたら、と言いたかったが、実際今日の自分はかなりハイな感じだったと佐天は思った。


「そ、そうかな?ま、他の人に私明るいとか言われるけど…そんなに?」


「うん。かなり明るいと思うよ」


歓談しながら三人は土手を歩いて行く。
その情景だけ見れば青春映画の一コマにも見えなくもなかった。


――対岸

多摩川の川幅は広い。
といっても霞ヶ浦程でもないのだが、やはり対岸にいる人がどんな人なのかは双眼鏡でもない限り確認は難しいだろう。


「待てや、コラ!勝負しろ!」


「ま、待てよ!ビリビリ!」


「だからビリビリって言うなって言ってるだろ~ー!」


一見、仲の良い男女が遊んでいる様に見えるのだが、実際はそうではなかった。
手のひらから繰り出される電撃を放つ美琴はその電撃を打ち消す少年―一方通行の絶対能力進化計画を阻止した男―に戦いを挑んでいるのだった。


「待ってくれ、ビリビリ!何で俺が攻撃されなきゃいけねぇんだよ!」


「うっさい!とにかく戦いなさい!あんたも男ならちゃんと決闘に応じなさい!」


「け、決闘?」


「そうよ!その通り!あんたは得たいの知れない能力を持ってる!いっつもいっつも私の電気を打ち消して…!ちゃんと戦え!!」


美琴はそう言うとバシン!と勢いよく地面を踏みつける。
アスファルトを伝って電撃がつんつん頭の少年に向かっていくが彼は自身に右手を当ててそれを打ち消す。


「はぁ、はぁ、もう良いだろ?」


「…うっさい…!」


「あ!あんな所に!」


少年が虚空に向かって指を指す。
その動作についついつられてしまう美琴。
一拍後に彼女が視点を元に戻すと遙か先に少年は移動していた。


「チックショウ…!また逃げて…!」

名門、常盤台の少女らしからぬ舌打ちをすると美琴は流石に少年を追う気にもなれず、帰ろうと思い、多摩都市モノレールに乗ろうとする。


(こっからだったら万願寺が近いかしら?)


夕日が陣馬の山々に沈みつつある。
既に遙かに小さくなった少年を見つめると美琴は勢いよく踵をかえしてモノレールの駅に向かおうとする。


(そろそろ帰りますかねぇ~…あんまり遅いと黒子が気にするからなぁ…)


学生バックをぶんと勢いよく持ち、美琴は歩き出す。
ここ最近、彼女の機嫌は良かった。


美琴は八月の後半につんつん頭の少年に遭遇し、一方通行の狂った計画を話した。
彼はそれに応え、何の見返りも求めずに戦い、勝利した。


もう不毛な争いは終わった。
美琴は夕日を見つめつつ、そう思った。


(夏休みもそろそろ終わりね…新学期は楽しく迎えられそう…)


あと少しで新学期が始まろうとしていた。
恭しく挨拶をする後輩やいやみったらしい心理掌握と合うのはちょっぴりめんどくさいと思ったが、それすら全てひっくるめ、美琴は今の生活に満足していた。


もう、誰も死ななくて良いんだよね?
狂気の計画が終わり、美琴は平和な世界が少なくとも自分の周りに訪れたと思う反面、不安だった。


自分の知らない事で水面下で進行していたあのきちがいじみた計画。
またその様な計画が進んでいたら?


分倍河原の操車場で行われた9982号と一方通行との戦いを今でもたまに思い出すことがあった。
一方通行は確かに、9982号の脚をちぎり、そこからしたたり落ちる血を飲み、ペッと吐きすてた。


そして直後に9982号はあっけなく圧死した。


思い出す度にぐっと美琴の手が強く握られる。
そして金髪の女…人を殺すことをなんとも思っていない、いや、寧ろ快楽さえ感じれていた様な挙措だった。


許せない。狂った計画に加担した奴らを許すことは出来ない。
既に計画が破綻したからと言って一方通行やあの女達が消えて無くなったわけではないのだ。


美琴は徐々に自分が下を向きながら歩いていることに気づく。
河原に降りて自分の顔をのぞき込んでみると先程まで喜々として少年を追いかけていた時とはまるで違う、全く無感情な表情になっていた。


彼女はあの時の事を不意に思い出すたびに、ゆらと自分の内面に形容しがたい憎悪の念が吹き出るのを知覚する。
かといって、とりたてて何か復讐しようとかそういう気持ちになるのではない。
しかし、実際に一方通行やあの女達にまた会ったらどうなるのだろうか?と美琴は思う。


(ま、いつか、時間が忘れさせてくれるよね?)


黙考しつつ、美琴は河原に石をぽいと投げつける。


対岸に視線を移すと部活がえりの学生や練習中の学生達が歩いている。
その景色の一つを構成しながら歩いている一団に見知った顔があるのを美琴はちらと見た気がした。


(佐天さん?)


対岸から呼びかけたら聞こえるかな?と思いつつ、美琴は周囲に人がいない事を確認する。
すぅ、と息を吸い込み呼びかけようとひた時だった。


(誰かと話してる?)


野球部のジョギングの列が佐天達とおぼしき数人の集まりを通過していく。


(うわ、野球部邪魔…)


大会に向けての追い込み練習だかしらないが、美琴にとってはただの邪魔な壁程度にしか映らない野球部。
その何十人もの列が通過していくと佐天と話している人達が土手から降りていくのがちらと見えた。

佐天は消えていく二人に手を振っている。振られた方も振りかえしているようだった。


(へぇ、柵川中の知り合いかな?)


真っ赤に燃えている太陽の光が多摩川の水面にぎらとうつりこんで一瞬視界がふさがれる。
その直前にベレー帽と金髪のブロンドの女が土手から降りていく風に見えた。



一瞬、カッと体が熱くなり、Sプロセッサ社で戦った光景を思い出す。
まさか、と美琴は思い、対岸にいる佐天を呼びかけようと思った。


しかし、美琴の方にも他校の部活のジョギングの走列がやってきて佐天を呼びかける事は出来なかった。
走列がいなくなった時には既に佐天はいなくなっていた。


――調布の市街地

ステファニーはホテルでゆっくりと沈みゆく太陽を眺めていた。
高層ビル群に隣接してるこのホテルから見る学園都市の夕日は格別だった。


(結局ダメでしたねー…)


第十四学区の黒人教師と離した後はステファニーは適当にしばらくバイクを飛ばし、ホテルに帰ってきた。
なじみの警備員仲間に会いに行ってもいいと思ったのだが、妹を探している事がばれて面倒なことにならないためにもホテルに帰って来たのだった。


砂皿緻密が大事な事なので口頭で伝えると電話をよこしてから数時間。
ステファニーはその“大事な事”とは一体なんなのか推察して遅い動きの時計の針を見ないように心がける。


と、その時だった。
ホテルのドアがノックされる。
俺だ。と砂皿の声がドア越しに聞こえてくる。


しかし、声が聞こえて来たからと言ってそれが砂皿の声だと確証がとれるわけではない。
ホテルを出る前に決めておいた暗号をステファニーは思い浮かべると、Dieselのジーンズの腰の部分にグロック17拳銃を差し込み、安線装置を解除する。
そしてドアに貼りつき、取りきめ通りの暗号をつぶやく。


「デーニッツ」

『レーダー』

「ウルトラ」

『インテリジェンス』


ドア越しの男と合言葉が合致したのでステファニーはがちゃりとドアをあける。
部屋にずいと入ってきた砂皿は両手に大きめのバックを二つ持っている。


「にゃはーん。お疲れです!砂皿さん!」


「あぁ…疲れた…やはり熱い…」


砂皿はAvirexのブーツにリーバイス503のジーンズ、上着はアルファのカーキのミリタリーTシャツをタイトにきていた。
その上から明らかに鍛え上げられた体だとわかる。

ステファニーはジーンズに英国軍のラウンデルが記載されている彼女お気に入りのTシャツを着用していた。



「砂皿さん、砂皿さん!なんですか?口頭じゃなきゃダメな情報って」


砂皿はステファニーに横田から出て、学園都市のMARから連絡を受け、アイテムの護衛役の連絡を受けた、という情報をステファニーに伝えなかった。
ただ、電話で「口頭じゃなきゃ伝えられない情報を得た」とだけ言ったので、ステファニーは否が応でも気になっているのである。

期待と不安が入り交じった表情で砂皿が話すのを待つステファニー。
それを見て砂皿は苦笑しつつも、口を開く。


「俺がアイテムの連絡係の護衛役に抜擢された」


「ええ!?本当ですか?」


砂皿はあぁ、と頷くと自分でも信じられないようで肩を上下させる。
いつからですか?とステファニーが砂皿に詰め寄る。


「今すぐ行こうと思うんだが、どうだ?お前も来るか?」


「行っていいんですか?」


「あぁ。お前が言った所で状況が変わる訳ではない。おそらく平気だろう」


ステファニーは砂皿の発言に勢いよく返事をする。
砂皿は新しいTシャツにその場でさっと着替えると、腰にグロック17を差し込む。
予備のマガジンも足のくるぶしの上にあるベルトに括りつけ、準備は完了。


ステファニーはアタッシュウェポンケースを手につかみ、カチャリと開ける。
中にはヘッケラー&コックの短機関銃クルツと予備マガジンが数本。そして焼夷手榴弾が入っていた。


「にゃはは☆まさか学園都市に来て二日目になって妹の手がかりがつかめるなんて想像もしてなかったですね☆」


「あぁ。俺もだ」


砂皿とステファニーは鍵を閉め、ホテルを後にした。


――木原数多が勤務しているとあるオフィス

顔に刺青が入った男を見たことがあるか?
あまり居ないだろう。


高名な科学者や博士は時として奇行ともとれる行動を起こすことがある。
日本の細菌テロでもかつては有名な理系の学生が毒ガスを作っていたとか、そういう話もある位だ。


馬鹿と天才は紙一重。そんなことわざがある。
木原数多という男を物差しで測ってみたらどうだろうか?
間違いなく、天才だろう。


学園都市第一位の男、一方通行の開発を担当したこの博士。
学者と言う一面ともう一つは猟犬部隊(ハウンドドッグ)という部隊の指揮官も務めているのだ。


学園都市の研究分野にかなりの影響を与え、且つ、軍務にも造詣がある。
顔だけで見たら刺青が入って金髪のチンピラの様な出で立ちだ。しかし、その認識は彼においては大きな間違いである。


彼は今、妹の木原=テレスティーナ=ライフラインの頼みで部隊の数名を監視に着けさせ様としている。
妹の要請と言うこともあり、渋々ながら、と言うのが本音だったが、拒否する理由も特にないので、訓練ついでに数多は妹の要請を受けたのだった。


「よーし…っじゃ、人選はじめんぞ」


数多の間延びした声とは裏腹にザッ!と数十人の隊員の踵を揃える音が聞こえてくる。
彼はその音が自分の耳に届くか否かという時に淡々とした口調で話し始めた。


「妹からオーダーが入った。アイテムのボディガードとアイテムの連絡係の監視、それと、あ、そーだ、忘れてた、あと、肝心のアイテムの監視だ」


数多の声だけが広いオフィスに響く。
軽い冗談を吐いたつもりだったが誰も何も言わない。ま、いっかと言いつつ、木原は首をコキンを鳴らす。


「オスカーがえーっと…じゃ、てめぇはフレンダ監視な」


「ラジャ」


「ベティ。お前えーっと佐天とかいう奴の監視」


「ラジャ」


「ケイト、お前は砂皿とかいう狙撃手な。ってかコイツ前に学園都市が依頼した狙撃手じゃねぇか」


「で、それぞれ交代要員を一人ずつ回すから、計六人で監視体制に当たれ。不穏な動きがあれば逐一報告しろ」


選抜要員として選ばれた三人はザザと脚を揃えて数多に向けて敬礼をする。
そして合図も無しに同じタイミングで敬礼を辞める。

その場で猟犬部隊が解散すると数多は残った先程コードネームで呼んだ三人をちらと見る。


「監視しろ、って言われても相手が何を考えてるかわからねぇ」


「妹自身、アイテムの奴らが何を考えているかどうか分からねって言ってた」


「けど、だからと言って油断するなよ。妹も妹なりに危険で不穏なにおいを感じ取ったから俺等猟犬部隊に依頼してきたんだからよ?」


妹の感じ取った不穏な雰囲気を信じ、最低限の兵力だけれども油断せず監視に当たれと厳命する。
顔にトライバルの様な刺青の入った数多は腕を組みながら指示する。


猟犬部隊で名前が上がった選抜要員達は木原の指示通りに動く駒だ。
しかし無能な駒ではない。ひとつひとつの任務を正確にこなす数多に忠実な暗部の特殊部隊なのだ。
彼らは数多の指揮下に置かれた部隊だと言えよう。


「装備を確認し、準備ができ次第監視ポイントへ迎え」


「「「はっ!」」」


コードネームで呼ばれた三人の要員達は装備を互いに確認する。
荷物は必要最低限。数多からそれぞれ教えられる座標に向かって三人はそれぞれ向かっていった。


――移動中の車内 オスカー オーソン

オスカーはフレンダが暮らしていると言われているアイテムの共同アジトに向かっていた。
同僚の隊員が送る車の助手席に腰を落ち着かせているオスカーは折角、定時で上がれたのにと内心に愚痴る。


監視任務は解かれるまで常に見張らなければいけない。
これが結構つらかったりする。


因みにオスカーはフレンダの暮らしているアイテムの共同アジトの反対側のビルの屋上から超望遠スープによる監視。
コンビニで漫画でも買っとけば良かった、と暇つぶしのツールを買い忘れたので猟犬部隊の同僚に自分が監視中に買ってきて欲しいと頼んどいた。


「にしてもなんだって同じ暗部組織の監視をやらなきゃいけねぇんだろうな」


「言うなよ、オーソン。これは任務なんだ、木原さんに抗命したら殺されるどころじゃ済まされないぜ?」


オーソンはわかってるよ、とハマーのハンドルを握りながらつぶやく。
もうそろそろでアイテムのフレンダが住んでいるとされるアジトの反対側にあるビルに到着する頃合いだった。


どれほど監視任務が続くか分からない。
しかし、オスカーは脳裏に数多の顔を思い浮かべ、しっかりやらなきゃな、と身を引き締めるのであった。


――柵川中学付近の雑居ビル ベティとケイト

高層ビル群が建ち並ぶ再開発地区の付近にぽつねんと建てられている柵川中学の学生寮。
スキルアウトの根城とか言われていたが構わない、とベティは思い、ケイトの差し入れでお湯が入ったカップ麺を食べていた。


(実際、監視っつてもなぁ…何かごく普通の中学生じゃねぇか)


移動中に携帯端末で見た情報だと、幻想御手の一件で学園都市の暗部に墜ちた少女。
ベティ個人としてはかわいそうに、と思ったがカップ麺を啜っている最中にそんな事は頭の片隅から永遠に紡がれることはなく、消えていく。


リューポルド社製のスコープにずいと片目を宛がい、洗濯物をしまい込む佐天涙子とかいう女を覗いていく。


(普通の女の子じゃねぇか…)


真っ黒な特殊部隊の格好の男はレミントンM24スナイパーウェポンシステムと銘打たれた往年の傑作狙撃銃のスコープからのぞき込みつつ思った。
その横には照準補佐をする為に双眼鏡を首からかけ、オークリーのサングラスをかけているケイトがいた。
彼はバックの中からレミントンM24を補佐する昼夜使用可能の大型スコープをずいっとと取り出す。


「見てる限りだと、何もしねぇな…」


「あぁ…ま、話す奴が居て助かったよ。監視任務って言ってもかなり暇そうだしな」


「ってかよケイト。お前はあの子の護衛に来る狙撃手の監視だろ?いいのかよこっちに来て」


ベティはケイトに狙撃手の居場所を尋ねる。
ケイトはここら辺で見張ってたら近い内来るだろ、と笑いながら昼夜両用の暗視装置付きのスコープを組み立てていく。

恐らく木原さんの妹の過剰な警戒心から来た今回の任務なんだな、と割り切り、再び二人は佐天の監視体制に移行していった。


スコープに移るただの少女を見ている内に二人の作ったカップ麺はのびていった。


――佐天の学生寮付近

トヨタのランクルが佐天の学生寮の近くに停車する。

夕日に照らされてぎらと光って反射するボンネットを見て、まぶしいな、と砂皿はつぶやく。
ステファニーを助手席で待たせておいて腰にグロック17を差し込んだまま、佐天の学生寮に向かう。


(僥倖か…?それとも、罠?)


アイテムのフレンダ―即ち、ステファニーの妹―と接触し、救出するという作戦の第一ステップはまず、アイテムの連絡係、佐天涙子との接触で始まったのだ。
彼は学生寮の佐天が暮らしている部屋のドアをこんこんとノックする。


『はい、どちらさまですかぁ~?』


ドア越しから声が聞こえてくる。
元気な女の子の声だった。


「護衛の任務を承った砂皿という者ですが…佐天涙子さんのお宅でよろしかったでしょうか?」


『あ、そうです、佐天です。ど、どうぞ、入って下さい…』


ドア越しに聞こえる声の主がガチャリとドアをあける。
チェーンロックを外し、すっとドアが開く。


砂皿は一礼するとお邪魔しても?と再確認。どうぞ、と佐天は言うと砂皿を家に上げた。


「え…っと何から話せばいいか…」


佐天は帰ってきて直後に、不意にやって来たボディガードの男に動揺しつつも氷水を出す。
彼女に寡黙な男の印象を与えた砂皿は水には手を着けず話しの本題に入っていく。


砂皿は一度深呼吸すると「整理しよう」と一言言う。
言われた佐天は「は、はい!」とうわずった声で返事をする。


「この仕事の依頼主が誰だか分かるか?」


「依頼主というか…護衛を頼んだのは…私って事になるのかな?」


「なんだ、君もよく把握してないのか?」


「いえ…ここ最近学園都市の中でも内訌問題がなんたらって…それで連絡係をやってる私にも身の危険があるって」


「つまり…くだらない縄張り争いに巻き込まれないようにするために俺が君を守るために派遣された…って事か」


「そういう事になると思いますね…」


砂皿はそこまで聞くと「ふむ」と一度区切り、腕を君で考え込む。
その光景を見ていた佐天は砂皿から視線をそらし、一度外をぼんやりと見つめる。


「君は何で俺を護衛に推したんだ?」


「あぁ…えーっと、フレンダさん?ちゃんって言ったら良いのかな?とにかく、フレンダっていう人が砂皿さんの事を知りたくて、今日、MARに言ったんです…連絡先を教えてくれって」


「何故、フレンダと言う子は俺の連絡先を知りたがっているんだ?」
(フレンダ…ステファニーの探している妹ではないか)


「砂皿さんの知り合いなんですよね?しかもフレンダちゃんも知り合いって言ってまして…、その…ステファニーっていう人と…」


「あぁ。知り合いだ」
(成る程。連絡係の彼女にはフレンダは姉との関係を“知り合い”と言っているのか。同じ仕事をしている関係の間柄でも一応の区切りはつけている、と言うことか?)


「やっぱり知り合いだったんですね。あ、それで、フレンダちゃんが砂皿さんの連絡先を知れれば、砂皿さん経由でステファニーさんと連絡を取れるって彼女は考えています」


砂皿は「ほう」と否定をするわけでもなく、肯定をするまでもなく、応用に相槌をうって佐天に答える。


「そしたら、砂皿さんの連絡先を教えて頂けませんか?フレンダの連絡先わかったら砂皿さんに連絡するので、砂皿さんはそこからステファニーって言う人にフレンダちゃんの連絡先を教えれば二人は連絡を取れると思うんです」


「少し面倒だが、現在では一番手っ取り早い方法だな…」


「そうですねー…でも、フレンダの連絡先は私がなんとかアイテムのリーダーに聞こうと思います!なので…近日中には教えることが出来ると思います!」


「少し話しは変わるが…フレンダは何故、知り合いのステファニーを探しているんだ?」


「……さぁ?」


「何だ、知らなくて協力しているのか」


「は、はい…」と佐天は気まずそうな表情を浮かべる。
砂皿はそんな彼女を見つつ、お人好しだな、と内心にひとりごちる。


彼は佐天の方を向くと、伝言を頼みたい、と彼女に伝える。
言われた佐天は「伝言?」とオウム返しに聞き返す。


すると数々の戦場を疾駆した男がゆらと立ち上がり佐天に伝える。






「姉も、妹の事を探しているから、待っていろ、とな」
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