佐天「…アイテム?」17

あらすじ

フレンダは外国人を積極的に受け入れている第十四学区に向かっていく。

そこでステファニーを知る人と出会うものの、現在のステファニーの状況に繋がる情報は得ることが出来なかった。


しかし、フレンダはステファニーと一緒に行動していると思われる傭兵の正体を掴む事に成功する。
その情報を得ようとし、彼女は翌日に向けて滝壺と一緒にちょっとキスして休む。


同日、ステファニーと砂皿緻密が学園都市に来学する。
姉と妹の思いが交わるとき、物語は始まる――!






――翌日

ステファニーは宿泊した調布付近のホテルで目を覚ます。


「うー…今何時?」


寝起きの顔にはまだ少しだけ少女の様なあどけなさが残っている。
彼女は起き上がる。
気づけば隣のベッドで寝ていた砂皿がいない。


砂皿さん、どこいったんだろう?と思うが直後にシャワーの音が聞こえてきた。
その音を聞いてひとまず彼女のパートナーがいることで安堵する。


(今日は情報収集かなぁ、やっぱり。昔のツテでも当たってみますかね)


妹が学園都市のどこにいるか。
そう考えたステファニーは妹であるフレンダの目撃情報を募る事にした。
となれば行く先は大体決まっている。


外国人を主体に受け入れている第十四学区。
そこで旧知の間柄の黒人男性に接触する。

連絡先はわからないので直接アポイントメント無しで行くことになるが、構わなかった。


(後は…アシの確保ですね、金には困ってないんで車かバイクを買った方がいいんじゃないですかね)


彼女は今日一日の予定を頭の中で組み立てていく。
まずは第十四学区へと向かうアシの確保。


レクサスIS350Cは砂皿の車なのでとりあえずは自分用の車かバイクを手配しなければならない。


(アメリカンとかいいかも…ってまた砂皿さんに目立ちすぎだって言われちゃいますかね?)


ステファニーはその目立ちすぎる容姿ゆえ、この暗殺稼業には向かない。
砂皿はそのことを慮り、何度もこの業界から足を洗うように警告したが、いかんせん、それは彼女には受け入れられない内容だった。


学園都市の教諭として教職に就いた傍ら垣間見てきた路地裏で展開される抗争。
教員として裕福な暮らしをし送る反面、能力を用いて戦う学生達や徒党をなすスキルアウトをも見てきた彼女はいつしか、世界の戦場を見てまわろうと決心した。


果たして、本当の戦場とはどんなものなのだろうか?


彼女の探究心は実際に戦場に赴くまでにむくむくと膨れ上がっていた。
しかし、彼女の傭兵としての人生のデビュー戦であるコスタリカでは対戦車ヘリでボコボコに打ちのめされ、最悪な結末。


カナダ軍として統合タスクフォースに身をおいていた時は、軍務に服しながらも、戦闘に参加する事はなかった。
学園都市でも警備員としてスキルアウトや能力者と戦ったものの、大規模な戦闘は経験する事はなかった。


そんな彼女は自分の腕を試してみたい、という思いがあったのかもしれない。
ステファニーは気付けば学園都市の安全な生活空間から離れ、硝煙の立ち込める戦場に向かおうと決意したのだった。


しかし、いざ実際に戦場に来てみれば、学園都市で起きている抗争とは比べものにならない惨劇が展開されていた。
結局は人は死ぬ直前まで行かなければ自己の生命をの危機を顧みることはしない。


コスタリカで対戦車ヘリに追い詰められたとき、ステファニーは初めて自分がぬるま湯の生活を送っていたことを自覚したのである。


(けど、結局、ここに戻ってきたって訳ね)


妹の口癖を不意に思い出して心中でつぶやいてみる。
久しぶりに対面したら妹は私になんていうだろうか?「バカなおねえちゃん」とか「何で早く迎えにきてくれなかったの」とか。


とにかく、妹にどんな事を言われようが構わない。

妹がこの街の闇に浸っているというのならば奪い返すまで。


自分は戦場に身をおくことをよしとしている反面、ステファニーはそうした何かしらの惨劇な光景や凄惨な話しを妹にする事を極度に嫌っていた。
ステファニーは両親を失って以後、汚いものは自分に、綺麗なものだけを妹に見せようと思っていたのだ。


理由は単純だった。
交通事故で両親が亡くなった時、フレンダはおお泣きした。
あんな妹の姿をもう、二度と見たくなかったから。





フレンダにだけはせめて良い人生を。
どうか、彼女に、どうか、どうか、今後、良い人生が待ち受けていますように。


両親が亡くなってから、ステファニーは両親に代わって、フレンダを守るために強くありたいと思うようになった。
カナダ軍に入隊したのもそれがきっかけなのかもしれない。


しかし、彼女がそう思えば思うほど、フレンダと会う時間はなくなっていった。
そして、いつしか高校生に相当する年齢に達した時、二人は別離していた。


取りたてて中が悪くなった訳でもないのに。


ステファニーはフレンダを守ろうと思う反面、世界を見てみたいと思ったのだ。
学園都市の裕福な生活にひたっているのも良い。警備員としての格闘技術も修得し、それなりに自信があった。


ちょっとだけ、そんな気持ちでステファニーは学園都市を離れ、戦場を回った。
しかし、気付けば学園都市を抜けだし、はや数年が経っていた。




そして傭兵生活が板についてきた、と思った矢先だった。
そう。先日、北京に退避した華僑の連中の襲撃現場で見つけたフレンダの顔写真。

あの写真がステファニーを再び学園都市に舞い戻らせるきっかけになったのだ。




(今度はもう絶対にフレンダから離れない)





汚れた世界を見るのは自分だけで良い。フレンダ。
お前まで私みたいな事をしちゃダメじゃないか。


ステファニーはひそかに妹をこの学園都市の闇から掬(すく)いあげようと決心した。
そう考えると、自然と顔が強張り、こぶしに力が入る。


(フレンダ、私は学園都市に戻って来たよ。一緒に故郷に帰ろうね)



ステファニーは妹を救おうと固い決意を胸に秘める。



とその時、ガチャリと砂皿がバスタブから着替えて出てくる。
ステファニーはいつもの笑顔の能面を作っていく。


「にゃははーん、今日は色々まわってきますねん☆」


「わかった。俺は横田の在日米軍に掛け合って爆薬を購入してくる」




二人の傭兵は妹を助ける為の下調べと下準備を始めた。


――アイテムの共同アジト(ステファニーと砂皿が下準備を始めたのとほぼ同時刻)

「ねぇねぇ」


「何?フレンダ」


フレンダの顔が滝壺の胸の辺りからひょっこり顔を出す。
何も身長差がそこまであるわけではない。


フレンダが滝壺の顔を見れるように、あえて下がっているのだ。なのでベッドから足が出てて、フレンダはちょっと寒かったりする。
けれど、その寒さを埋めてなお余りある滝壺の温かさに身をゆだねてしまえば、寒さなどどうでもいいと彼女は思う。


「今日も…その、ありがと」


「平気だよ、気にしなくていいよ」


滝壺はそう言ってやさしく微笑み返す。


フレンダは滝壺の背中に手を回す。
片方の腕がちょっとしびれるけど気にしないでおく。


「フレンダって甘えん坊だったの?」


「まぁ…ね…もう少し…こうしていい?」


「いいよ」


フレンダが滝壺の薄い胸板に顔をうずめる。


それに応えるように滝壺はフレンダの頭を優しくなでてやる。


その状況がしばらく続いて、フレンダはおもむろにベッドから立ち上がる。
フレンダを抱きかかえる体勢になっていた滝壺は立ち上がった彼女を見上げる。


「今日も…探しにいくの?」


「うん。ちょっと警備員に聞きに行ってみる…私みたいな子供に機密情報なんて教えてくれるかわからないケド…」


「行ってみないとわからないよ…。一緒にいこっか?私、今日暇だし…」



「良いの?結局、何も情報なくて肩透かしに終わっちゃうかもなのに?」


しばらくの沈黙のあとフレンダは滝壺にそういった。


仕事のない日はそれぞれ自由に行動するアイテムのメンバー。
フレンダは、私の勝手な人探しに付き合ってもらわなくても…と思う反面協力してくれる姿勢を見せてくれる滝壺がちょっと嬉しかった。
でも…と彼女は思う。


(滝壺…確かに嬉しいよ。でも…私は…お姉ちゃんの手がかりを見つけたら…アイテムを抜けるかもしれないのよ?)


そんなアイテムを裏切ろうとしてる私に協力してくれるの?フレンダはベッドから起き上がって眠気眼をこする滝壺をまっすぐに見据えながら思った。


今日はまだ麦野から連絡が来ない。
急に仕事が入ることもあったが、現段階では仕事はない、と決めてフレンダは外出する支度に取りかかる。


「肩透かしになってもいいよ。私、仕事ない日はここでずーっとぼーっとしてるだけだし」


滝壺はそう自嘲気味につぶやくと「ね?」とフレンダに同行する許可をもらうために首を少しだけかしげて見せた。
結局、フレンダは滝壺の協力を断り切れず、一緒に警備員の詰所に行くことになった。


フレンダは思う。

姉が学園都市に来ているかどうか、それすらも定かではない。
しかし、このまま学園都市の暗部に身を沈めていく事は絶対に承服できない。


姉を探すために暗部に堕ちた彼女が、そこで斃れてしまうなど本末転倒だ。
大好きな姉はまだ生きているのか。どこかの戦場でのたれ死んでいるのか?


それすらもわからない。
ただ、アイテムで身を擦り減らして終わるつもりなど毛頭ない。



電話の女との接触によって回り始めた姉の捜索作戦という歯車が回り始めた。
まだまだ解決しなければいけないことは山ほどある。



しかし、フレンダは姉を探すための小さな、小さな第一歩を歩み始めたのだ。


――第十四学区 

ステファニー=ゴージャスパレスはバイク屋でハーレーのFLSTSBを購入する。

大排気量を備えたアメリカンバイク。バイカーの垂涎の的でもあるハーレー。
その中でもファットボーイと呼称されるソフテイルファミリーで大排気量を誇るこのバイクは妹捜索の今後のよきパートナーとなるのである。


ファットボーイをとある学校の校門の前に止めるとステファニーはヘルメットを華麗に脱ぎ、抱えたまま学校に入る。
この高校にかつての友人が働いているのだ。


立哨の警衛に話をつけるとなにやらつぶやいている。
昨日も白人が云々とぼやいているが気にしない事にする。


(職員室は…確かこっちだったわね…)


ステファニーはかつて教鞭を握っていた頃の職員室の配置図を思い出し、階段を上っていく。
記憶が正しければ二階に職員室がある。


昔の顔なじみがいるだろうか、と考えるが、ほんの数年の教員生活だ。
自分の事を覚えてくれている人の方が少ないだろう。そんな事を考えながらステファニーは職員室の扉をノックする。


ノックをして彼女はドアを横にスライドさせる。
職員室はやはり外国人受け入れの第十四学区らしく、外国籍の教員の姿が目立つ。


何人か見知った顔があり、ぺこりと挨拶をすると、ステファニーはその中に面会を希望する黒人教師を見出そうとする。
しかし、一通り見ても見あたらない。授業中だろうか?とステファニーが考えるのもつかの間。


「あぁ…隣の部屋に来てくれって言ってましたよ、ステファニー先生」


久しぶりに“先生”と呼ばれ、一瞬動揺しつつもステファニーは隣の教室へ。
彼女の事をよんだ人物はかつて警備員として一緒に働いた英国人の教師だった。


その男性に「よっ!相変わらず結婚してないんですかぁ?」と隣の部屋に向かいつつ、茶化し文句を言ってやる。
男は顔を赤くして「Shut up!」と言うと腕時計をちらと見て教室を後にしていった。


ステファニーはその男と反対側の出口から退出すると隣の応接室にノックをして入っていく。
すると黒人教師が待っていた。ステファニーはその黒人に軽く会釈をする。


「こんにちわ、久しぶりですね」


「久しぶりだな、ステファニー」


二人はお決まりのあいさつをいくつか述べて世間話を交える。
そして一通り懐かしい話も終わると男がため息をつく。
それを合図にするかのように男の目が冗談めいた会話をする時とは異なる真剣なまなざしになった。


「昨日お前の妹が来た」


開口一番に黒人教師はフレンダが昨日この場所に来た事を告げた。
ステファニーは一日前に自分が探している妹がこの場に来ていた事を聞かされ、自分の肌がぶると粟立つのを感じた。


警衛がつぶやいていた”白人が云々”とはフレンダの事だったのかも知れない、と内心につぶやく。


「にゃははーん。いっきなり本題来ましたね、ま、私も世辞とか話すつもりはないんですけどね」



ステファニーは飽くまで平静を装っているが、高鳴る胸の拍動を抑えられそうにはなかった。
妹がこの学校に来ていたと言う事実、そしてここらから話すであろう妹の所在に関して…胸をときめかせない訳にはいかなかった。


ヒュボッ…


しかし、期待と不安に渦巻く心境のステファニーの要求にはおいそれと応えない黒人教師。
彼はスーツの裏ポケットからデュポンのジッポーを取り出して、胸ポケットから取りだした煙草に火をつけていく。


着火した煙草をひょいとくわえ、「ふーっ」、と男は口から煙りをはく。
そして、一拍置いてから口を開く。


「妹さん、お前の事を聞いて来たよ」


瞬間、自分の体を確かにびりりと電気が走り抜けるのをステファニーは知覚した。
彼女は「本当?」と黒人教師に聞き返すと、その男はこくりと頷く。


「私の妹、フレンダは、何を聞いてたんですか?」


「お前の行方だよ」


ステファニーが妹を探している様に、妹も私の事を探しているのだ。
それが彼女にとっては嬉しかったし、同時に辛かった。


フレンダ…お前は何で私の事を探してるの?ステファニーは妹が自分の事を探す理由…が何となくわかり、自分の胸が締め付けられる様だった。
半ば放置同然で妹を学園都市においたまま海外へ。
それを知らずに学園都市で姉を捜し続けた妹…ステファニーは罪悪感を感じずにはいられなかった。


彼女は散々フレンダの来学には反対した。しかし、フレンダは学園都市に来た。
しかも、北京で回収した資料を見るからではどうやら学園都市の闇で活躍しているようだった。


いや、活躍ではない。とステファニーは自分に言い聞かせる。



結局は戦火に身を置き、苛酷な命のやり取りをしているのだろう。
活躍というたった二文字の背後には何かこう、硝煙と血生臭い雰囲気をステファニーは感じずにはいられなかった。



アイテムという組織が学園都市の治安を維持している一部隊なのはわかった。何をしているのかも大体想像できる。
しかし、そうした汚れ仕事をしているフレンダに対して取り立てて、しかるとか、おこるとかそうした感情はステファニーには湧かなかった。


寧ろ、自分の明るい性格の反面、勝手に我が道を行き、妹が心配するから、と理由付けして勝手に放置同然で妹をおいて学園都市を去った自分のせいだ、とステファニーは自分の内心に言いつける。


かつて教諭として学園都市に来て、警備員としても勤務していたステファニー。
風紀委員と警備員以外にも治安を維持する部隊がいるとは…と彼女は内心に少し驚くが、反面、学園都市の治安を維持する為にはやはりそういった組織があるのか、と納得する。


(有志の教諭と学生だけってのが無理な話しなのよねー)


いまさらながら、学園都市の治安維持体系を嘆いても、何もはじまらない。
ステファニーの黙考を見つめていた黒人教師はおもむろに話し始めた。


「で、君も妹を探しにきたってのか。妹とすれ違いかー」


「そうなっちゃいましたね」


平坦な表情で淡々とステファニーは黒人教師に言い放つ。
男は目の前にいる彼女の淡々とした表情の中に妹を奪い返そう、と固く決めた炎の様なものがゆらとその双眸に映るのをみた気がした。


「ちなみに、妹はどこにすんでるかとか、わかりますか?」


「すまない、そこまではわからないんだ」


「……許されるなら、赤坂の情報網でどうにかなりませんか?私じゃもう警備員の情報バンクにアクセスする権限がないんで…」



ステファニーは不意に男の本業の地である赤坂の名前をついつい口に出してしまった。そして彼女は学園都市外に存在する地名を思い返す。
六本木、溜池山王と言った一等地から程近い所には在米大使館が置いてあり、その一区画には極東CIAが本拠を構えている。


在日米軍は隠れ蓑。
この黒人教師の本質は極東CIAの在日支部の男なのだった。


ステファニーはかつての教諭友達でありながら警備員としても活躍している、有能な情報将校でもある彼を信頼して妹の事を聞きだそうとした。
しかし、男からの返答は苦笑いと二本目の煙草を吸おうとして取り出したジッポのカチンという音だった。


ステファニーは内心に舌打ちしながら、黒人教師―とは名ばかりのCIA要員―が口を開くのを待った。


「すまないなぁ…学園都市だけはわれわれの諜報能力をもってしても…手厳しく監視されていてね…情報収集もままならないんだ」


「そうですか…」



ステファニーは少しでも期待した自分をたたきつぶしてしまいたい衝動にかられると黒人教師から聞き出せる情報はない、と判断した。
そして早くも次は…と次点での訪問先を考えていた。



だが、黒人教師の「待てよ…」という発言にステファニーの金髪の眉がぴくりと反応した。
そして「何?」と彼女は聞き返す。


「八月の最初の週に学園都市で狙撃事件が起こった。知っているだろう?」


「えぇ。もちろんですとも」


ステファニーはその狙撃があたかも自分の手柄であるかのように胸にドンっ!と手をあてる。
実際は彼女と行動を共にしているスナイパーによるものなのだが。


「その狙撃手の狙撃を要請した警備員の部署に行くとか行ってたな…」


「なるほど」

(じゃ、妹はどこからか得た情報で私と狙撃手…砂皿さんが一緒にいるって事を知ってるって事か?)


けど、とステファニーは思う。フレンダは警備員のどの部署が狙撃を要請したか知っているのだろうか?
適当に警備員の部署に行けばいいと言う訳ではない。果たして、フレンダはどのようにして砂皿に狙撃を要請した部署を知りえたのだろうか?


まさか当てずっぽうに行くわけでもあるまい。
各学区にある警備員の支部だけでも相当数に上るのだ。
それをひとつひとつ聞き出していたらいくら時間があっても足りないだろう、とステファニーは思う。


ともあれ、ステファニーは妹も自分の事を探してくれているという事に嬉しく思った。
と同時にいつも迷惑かけてごめんね、とまだ見ぬフレンダに頭を下げたい気持ちになるのであった。


――柵川中学校の学生寮

佐天は夏休みを最後の最後まで満喫しようと思い、今日は秋物の服の偵察にでも、と思い吉祥寺に行こうとした。
しかし、その予定を実行に移そうと思い、パジャマから私服に着替え始めた時だった。


インターホンがピンポーンとなる。
佐天は一週に留守を装おうと思ったが良心の呵責で結局ドアを開ける。
するとそこには寝起きの佐天と同じくらい、いや、それよりももっと眠たそうな表情の少女。滝壺がいた。


「おはよう。電話の女」


「あ、え、あぁ…おはよう…」
(滝壺…理后?)


昨日、ファミレスで会ったばかりなのだが、その時と全く同じ眠たそうな表情を浮かべている彼女は佐天の暮らしている寮のドアの前に立っていた。
佐天は動揺しつつも滝壺の後ろに申し訳なさそうにしている金髪ブロンドの少女も目撃した。


「フレンダも…どした?」


「今日は、ふたりで来たの」


滝壺の後ろに隠れているフレンダに変わり、滝壺が佐天の問いに応える。
時計は既に十一時。夏の日差しが徐々に上がっていき、さながら殺人まがいの熱線になりつつある頃会いだった。
佐天は「えーっと何か?」と苦笑しつつ首をかしげた。


「涙子には申し訳ないけど、今日一日付き合ってもらいたい訳なんだけど…」


「わ、私が?」


佐天はフレンダの要望を聞き驚きを隠せない様子だった。
しかし、そこはクソ度胸の佐天。
驚きはしたものの、どうしたのだろう?と興味が先行し、彼女はフレンダに質問していた。


「な、なんの用なの…?」


「昨日の続きなんだけど…いいかしら?」


昨日の続き…佐天はふと思い出す。
確か昨日は夕方レストランからかながら帰還した時にフレンダの人探しに協力して少しだけ情報データを閲覧したのだった。
とりたてて拒否する理由はなかった。佐天はいいわよ?と鷹揚に答え、寮の部屋に二人を案内した。


「「おじゃましまーす…」」


「はい、どーぞ」


佐天は取りあえず二人を寝室とリビングを兼ねている部屋で二人を待つ様にいうと箱で売っているアイスを三本取り出し、二人に渡す。
一本は自分用だ。


「ありがと」、とフレンダと滝壺がいう。
アイスを頬張りながら佐天は「私は何をすればいいの?」とフレンダに問いかけた。


「昨日みたいに情報バンクに入ってほしんだけど…」


フレンダの申し訳なさそうに頼み込む姿に佐天は拒否する理由もないので寮の入室と同じように許可。
佐天はアイスをくわえながら枕の下にしまってあるタブレット型携帯電話を取り出す。


既に電源はつけられており、佐天はモニタにタッチして情報バンクにアクセスした。
そしてバンクの目次の所まで簡単にやってくると何を調べればいいの?と言った素振りでフレンダに向き直る。
するとフレンダは「警備員の報告書とか見れないの?」と恐る恐る佐天に告げる。


「は?」


いきなりの質問に佐天は一瞬目が点になってしまった。

警備員の報告書。果たしてそんな代物が佐天の目に触れる事が出来るのだろうか?
そしてフレンダはなぜ、それを見ようとしているのだろうか?


さまざまな質問が彼女の頭の中に浮かんでは消え、それを繰り返しつつ、佐天はフレンダの要望通り、警備員の報告書ファイルにアクセスを試みる。
やりかたはwebの検索の様に簡単にできる。

ただ、その内容が一般人に触れられるレベルにあるか否か、それに尽きるのであった。


「何を検索すればいいの?見れる情報は限られると思うんだけど…」


「八月の一週目の狙撃に関して」


即答。まさしくこの通りだった。
フレンダは佐天の質問に即座に答えると、食べ終わった、アイスの木の棒をくわえながら結果を待つ。


(八月の狙撃?なんだそりゃ?)


佐天はアクセスできるか疑問に感じつつも、警備員の情報が開陳され、時系列順にまとめられているサイトに到達した。
そしてその時系列の中から今年の八月をピックアップする。すると八月の狙撃に関しての情報が出てきた。


佐天はフレンダと滝壺にその事を言う前に自分で情報を読んでいく。
報告書にはおそらく記載されているのであろう、狙撃手を要請した警備員の場所は見えない様にぼかしてあるが、それ以外は閲覧できた。


「砂皿緻密…警備員の要請で狙撃をした男の名前ね」


「その男…情報バンクでヒットしないかな?」


フレンダが佐天の後ろからモニタをひょいとのぞき込む。
佐天はフレンダの要望通り、“砂皿緻密”という男の情報を調べていく。
検索結果からヒットしたものの、現段階でどこにいるかどうかは把握できなかった。


フレンダの知り合いのステファニーにしろ、砂皿とかいう狙撃手にしろ、現段階でどこにいるかを把握する事は出来なかった。
けれど、と佐天は思った。
一人だけ…もしかしたら、フレンダが知りたがっている砂皿という男の正体を知っていそうな人物がいる。


佐天はほんの少しだけ、心当たりがあった。いや、心当たりと言うかむしろ、ほぼ確証など無いのだが。


ともあれ、情報バンクで調べても、出てくるのは最近の情報だけで、連絡先や、現時点でどこにいるかと言ったことは把握できずじまいだった。
ならば、実際に外へ出て、行くしかなかった。そう。佐天がおよそ面識があると思える警備員の人物は一人しかいなかった。


あの秘書然とした出で立ちで金髪の女性。
学園都市の治安維持部隊の一派MARの指揮官、テレスティーナ。


「ねぇ、フレンダ?」


「何よ?涙子」


「一人だけ…。その人なら知ってるかもしれない!」


「え?ホント?」


確証はないとは言い切れない。
警備員の一部門であるMARを束ねる彼女なら、外部組織に仕事の要請をした警備員たちを良く思っておらず、その腹いせで情報を教えてくれるかも知れなかった。
僅かな、ほんの僅かな可能性に掛けようと、佐天は思い、とっくに食べてなくなったアイスの木の棒をくわえている滝壺とフレンダを見据える。


「なんとも言えないけどね、いくわよ。一か所だけ心当たりがあるの」


――Multi Active Rescue(先進状況救助隊)指揮所ビル前

佐天、滝壺、フレンダ。
数日前までは決して顔を合わせる事はなかったであろう三人。
彼女たちは夏の日差しにさらされ、汗を滴り落としていたが、佐天のナビでなんとか到着した。


彼女たちの前にはビルと各種車両を収容するであろう広大な敷地があった。
このビル内にいるであろうと思われるテレスティーナに佐天は会おうというのだった。


「結局、ここまでしてもらって悪いわね…」


フレンダが申し訳なさそうに謝りながら佐天に頭を下げる。
一応、以前の多摩センターのホールで行われた会合に出席した佐天ならば、テレスティーナに会えるだろうと浅薄ながら考え、レールに敷かれた門の前にいる警衛に声をかけた。


その光景を遠巻きから滝壺と一緒に見ているフレンダは佐天に感謝した。
佐天は連絡用に使っている携帯電話を出して身振り手振りで話す。
その熱意に警衛もうんざりしたのだろうか?佐天をMARの所有しているビルに招き入れたのだった。


「フレンダ達も良いってさ!」


佐天は遠くにいう滝壺とフレンダに手を振ってこたえる。
彼女に呼ばれた二人はおそるおそる、ゆっくりと佐天の方に向かって歩いてきた。
警衛の男は佐天達に一礼すると再びMARのビルの警備という名の暇つぶしに没入していくのだった。


ビル内は案外に冷えていた。
警衛の男が佐天を代表とする女性三人がテレスティーナとの面会を希望している旨を無線で誰かしらに伝えていたのを三人は見たので、後は会うだけだった。


「ねぇ、昨日の人探しの人物とは違うようだけど」


「そうね…涙子にはなんて言ったらいいかわからないけど、昨日探してもらった人とパートナーを組んでる人なのよ」


砂皿が狙撃手として学園都市の依頼した任務を遂行したなら、彼の連絡先を掴むのも不可能ではない。
この時に問題なのが、テレスティーナが佐天の事を知っているかどうかだった。
いきなり見ず知らずの人が「連絡先を教えてください」といった所で怪訝な表情をされるのは目に見えている。


三人はオフィスビルのとある一角のまえで立ち止まる。
そしてドアをノックすると内側から「どうぞ」と声がかかり、三人の少女たちは佐天を先頭に部屋に入っていった。


部屋の中は大きな机の上に置かれたPC、壁にはテレスティーナの一家と思しき家族の写真が多数掲載されていた。


顔面に刺青が施してある、さながら顔面凶器の様な男から、果ては頭部にシミがある胡散臭そうな好々爺然とした男まで。
そして極めつけは目の前のデスクに鎮座しているこの女。テレスティーナ。


壁にかかっている彼女の一家と思しき人々のポートレイトの人物達とはあからさまに人種、肌の色が違う。
しかし、そんなあずかり知らぬ事に思索を回す事はなく、佐天は大きな回転座イスに座っているテレスティーナにしゃべりかける。


「そちらは覚えていないかもしれませんが…以前多摩センターのホールでお話をお伺いしました…」


「世辞はいいわよ?で、何のようかしら?アイテムの連絡係と、アイテムの皆さん?」


三人は一様にびくりと肩を震わせる。
MARの警衛が報告したのかどうかわからない。
しかし、テレスティーナに佐天達の正体は露見していた。


佐天が懸念していたテレスティーナが自分たちの事を知っているかという懸念はどうやら回避されたようだった。
自分たちの立場を隠すつもりは特にないので佐天は「えーっと…」とつぶやきながら頭をかく。


「肩の力抜いて?緊張しすぎよ?」


テレスティーナはそういうとガチャリと自分の大きい机の引き出しを開ける。
佐天達からは見えないがそこからひょいっとマーブルチョコレートの入っている筒状のケースを取り出す。


「黄色かな?」とテレスティーナが何かを考えるようにして一粒チョコレートをケースから取り出す。
するとお見事。黄色のマーブルチョコレートが彼女の手の平に転がり落ちてきた。


それをぱくりと口にし、カリカリと噛み砕いていく。
その素振りを見つめていたフレンダが緊張している佐天の代わりに口を開いた。


「すいません。今日来たのは一つお伺いしたい事がありまして」


「どーぞ?何かしら?」


フレンダの両手にぐっと力が込められる。
そして緊張を押し殺すようにして彼女は喋った。


「八月一日の狙撃に関してなんですけど…」


「あぁ、あれね。狙撃の何を知りたいの?」


「いえ、狙撃の実行犯の連絡先がわかればぜひお教えいただけないかと」


「連絡先?ちょっと待ってね?」


テレスティーナは二粒目のチュコをぱくりと口に放り込む。
フレンダはその素振りを見、はやる気持ちを抑えて、両手にぐっと力がこもる。


「今どこにいるのかはわからないけど、当時の連絡先ならわかるわよ?」


「本当ですか?」


テレスティーナは「えぇ」と言うと彼女は机の引き出しからDOLCE&GABBANAの黒ぶち眼鏡を取り出す。
サイドに小さくロゴプレートが刻まれている眼鏡を品よく身にまとうとPCに何やら打ち込んでいく。


「えーっと、電話番号は登録されてないわ。けど、アドレスならわかるわ」


教えようか?という素振りでテレスティーナがフレンダ達に向かって首をかしげる。
フレンダは「よろしければ教えて下さい…」と柄にもなく頭をぺこりと下げた。


「良いけどこれは八月の第一週の連絡先よ?それ以後、かえてる可能性もあるわ。それと」


「それと?」


「知り合いっていう理由以外に何であなたがこの男の連絡先を知りたいのか、理由があるなら教えて下さらないかしら?」


おそらくテレスティーナのPCモニタには男の詳細が反映されているのだろう。
ときたま彼女の眼鏡にゆらと反射して見えるPCのモニタに映し出された情報をフレンダは無理とわかってても見入ってしまう。
眼鏡に反射するモニタに映し出される情報を読み解こうとするものの、テレスティーナの質問に答えなければと思ったフレンダは押し黙ってしまう。


「理由ですか…」


実の姉を探すための手がかりなんです!とは言えなかった。
フレンダはテレスティーナに質問する時に姉であるステファニーの事をこの女に聞こうとしたが、狙撃手の名前を聞く事にした。


ステファニーは学園都市から出ていった身。
それを学園都市の警備員のテレスティーナが快く思っていないのではないか?と仮定したからだ。


フレンダがテレスティーナの質問に窮していると彼女はそんなフレンダにいいわよ、と優しさをみせる事等はしなかった。
「じゃ、無理ね」と小さく息まくテレスティーナ。彼女は頭に手をやると「はぁ」とため息をつく。


「知り合いなら連絡先を知ってるはずでしょ?なら、機密上、教えることはできないわ?」


「いや、だからその連絡先が…」


言い訳をしようと思うのだが、フレンダは密かに結局はここもだめか、と思った。
その時、テレスティーナが何かを思い出したように「そういえば…」と机の引き出しにあった上質紙の束を取り出す。


「ねぇ、佐天さん?」


テレスティーナの会話の矛先がフレンダから突然、佐天にシフトチェンジする。
話を急に振られた佐天は「あ、はいっ!」と素っ頓狂な声を上げて曲がっていた背筋をピンとのばした。


「ここ最近学園都市の治安維持に警備員と風紀委員だけでは手がつかないって事は知ってるわよね?」


佐天はテレスティーナの質問に無言で頷く。


「実際に学園都市の統括理事会に気に入られようとして躍起になっている組織もあるって話もあるわ」


「そういう身内の恥をさらすようで恥ずかしんだけど」とテレスティーナは苦笑しつつそのファイルを取り出して佐天に手渡そうとする。
数歩歩いてテレスティーナからその通達が記されている紙を受け取って、佐天はその資料に目をやる。


佐天が読めない単語の羅列も散見される。
内容を理解する為に国語辞典か初春が必要だな、と思いつつ、書類に記載されている、読めない漢字を飛ばして読んでいこうとする。
途端、彼女の思考をテレスティーナの言葉が遮った。


「連絡係に護衛をつけるのよ」


「え?」


佐天は素っ頓狂な声を出していた。
昨日、フレンダが佐天にいった言葉。“電話の女が狙われないとも限らないでしょ”という言葉を思い出す。


フレンダは電話の女が狙われるのは冗談だよみたいな事を昨日言っていた。
連絡係に護衛をつけるとは、やっぱり連絡係も狙われるじゃないの!と佐天は内心に吐き捨ててテレスティーナの弁に耳を傾ける。


「内訌(ないこう)問題でかなり学園都市は荒れてるのよ…縄張り争いに固執して何やってんだか…」


テレスティーナは忌々しそうに愚痴をこぼす。
そして話が逸れかけていた事に気づき、「ごほん」と咳をして一度、律する様な素振りを見せるとモニタを見るために掛けていた眼鏡を外した。





「その護衛役に砂皿緻密をつけてあげようか?」


「は?」


テレスティーナの驚くべき提案に佐天は驚きを隠せないと言った表情だった。
仮に砂皿緻密が佐天の護衛に就くことになるなら、フレンダに取って話しが有利に展開する可能性が大だ。


砂皿と佐天が接触する時にフレンダを同行させてしまえば、その場で情報を聞き出すことも不可能ではない。
情報バンクで閲覧した厳しい目つきの男の表情を佐天は想像する。


暗部の組織に任務を伝達する連絡係は今まで狙われたことが無い。
しかし、ここ最近の学園都市の治安維持部隊による縄張り争いが激化してきた今、仕事の通達係にも身の危険が迫っている可能性が無いとは言い切れないのが学園都市の本音なのだった。

テレスティーナは返事に困っている佐天を尻目に話し続ける。


「統括理事会をひっくり返そうとか考えている馬鹿な高校生とか、一杯いるのよねぇ~…」


「はぁ…そうなんですか」


「ホントに危ないらしいのよ、最近。だから、護衛をつけるわね。で、その護衛が砂皿緻密。連絡先は教えられないけど、こっちで取っておくから。で、そこで勝手に話したいことあったら話して頂戴」


佐天はただ「あ、はい」の繰り返しで話しがすすんでいく。
テレスティーナは「もし、その男に連絡繋がらなかったらごめんね☆」と彼女達にウインクする。
彼女は「じゃ、今日はここまで。会議があるから…」とつぶやき、筒状のチョコケースを引き出しにしまうと立ち上がる。


「あ、じゃ、私たちも出ますね」と佐天が言い、テレスティーナのオフィスを後にした。
部屋にひとりぽつんと椅子に座っている彼女はキーボードをカタカタと叩き、メールを作成していく。

宛名は砂皿緻密。


(金髪の女の子がどういった理由で砂皿緻密と連絡を取ろうとしてたかはわからないけど、取りあえず護衛に当ててやるか)


携帯電話のアドレスをメールの宛先欄に添付する。
暗部組織の連絡係のボディガードとして砂皿に佐天を守って欲しい旨のメールを送信した。


メールは無事に送られたようだった。後は砂皿が今回の案件を承諾するかどうかだった。


にしても、とテレスティーナは思った。
なぜ、アイテムの金髪女が砂皿緻密の連絡先を聞き出そうとしたのだろうか。
知り合いだとしたら連絡先くらいは知っているはずだ。


さっきはフレンダ達に笑顔を見せて応対していたテレスティーナの顔が考えながら徐々に曇っていく。

MARという組織の長になってからというものの、何事にも不信感を抱くようになってしまった自分を彼女は内心で嗤う。

しかし、その不信感から発信されている信号に彼女は正直に従う事に決めていた。


バーバリーの特注のグレーのストライプスーツのポケットから携帯電話を取り出すとどこかに電話をしている。
発信ボタンを押すと相手は即座に受話器を取ったようだった。


『なんだ、お前か、仕事かと思ったぞ』


「久しぶりね、兄さん」


『で、要件はなんだ?』


久しぶりに電話したのに世辞も世間話もなしか、とテレスティーナは思ったが、そんな話を今電話している通話相手とする気はサラサラなかった。
彼女は携帯電話で通話しつつ、器用にPCをいじっていく。


「えーっとね、何人か監視して欲しい人物がいるんだけど、出来る?」


『めんでぇなぁ…こっちは今、手が離せねぇんだよ。クーデター企ててる部隊とかあるらしいからよぉ…』


テレスティーナの通話相手は心底めんどくさそうにそう呟くと最終的に『手短に言え』と命令口調で言ってきた。
ともあれ、彼女の通話相手はテレスティーナの要望を聞く気にはなったそうである。

テレスティーナはPCに映るアイテムのフレンダ、佐天涙子、砂皿緻密の顔を見つつテレスティーナは受話機に呟いていく。


「アイテムのフレンダとその通達係佐天涙子、その護衛の砂皿緻密を監視して欲しいの」


『はぁ?疑わしい奴は即殺でいいだろぉがよ』


「ダメ。まだ、何を考えてるかわからないし、単に人探しって言う線もあり得る」


テレスティーナの通話相手―おそらく彼女の兄―は監視よりもすぐさま殺そうと提案する。


すぐ殺すことばっか、と言いたい衝動にかられたが、兄の機嫌を損ねない程度にやんわりと否定しておく。
そして兄が返事をよこすのを待った。


『ったく仕方ねぇ。そいつらはいまん所、何も問題起こしてないんだろ?最低限の人員を派遣すっから、で、お前に連絡が行くようにさせるわ』


「ありがと、助かるわ」


テレスティーナが礼を言っている最中に電話がぶつりと切れ、彼女に嫌な不快感を与えた。

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最終更新:2011年05月30日 20:52
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