佐天「…アイテム?」15


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あらすじ
アイテムはフレンダの任務が終わり、ちょうどファミレスでお昼ご飯。
その頃、学園都市の暗部の連絡要員を集めたテレスティーナ主催の会合に参加した後
初春とランチをする約束をしていた佐天は待ち合わせをした後、ファミレスにはいっていく。





レストランのドアを開けるとカランカランと入店を知らせる音が聞こえる。
佐天と初春はウェイティングのかかっている状況の店内を一瞥する。


ワイワイガヤガヤという擬音がまさに当てはまる情景だった。
ランチの時間帯、しかも駅前、そんでもって夏休み。


来店してください、と言わんばかりの立地にあるファミレスはこの日、案の上、大盛況だった。
そしてそのファミレスに佐天と初春はやってきた。


「うげー…込んでるね…どうする?他にする?」


「他って言っても…この時間帯はどこも同じだと思いますよ?」


「確かに…」


お昼時のこの時間帯は夏休みと言うことで主に学校が休みで遊ぶ学生でごった返していた。
佐天と初春はレジ前に置かれている台座に置かれている記帳ノートに名前を書き、店員に呼ばれるまで待つ事にした。


待ってる間に二人は他愛のない雑談をするのだが、初春の質問が佐天をびくりと震わせた。


「佐天さんは今日午前中にどこに行ってたんですか?」


「あ、えーっとね…あはは…えーっと多摩センターだよ、多摩セン!」
(言えない!絶対初春には言えない!)


午前中に学園都市の治安維持機関主催で連絡要員向けの会合があり、それに参加していたなんて口が裂けても言えなかった。
しかも、その会合で司会を務めていたテレスティーナとか言う白人女性は警備員の一部門の指揮官だった。
その名を出せば初春に、自身が何か、警備員や風紀委員といった組織に関与しているのではないか、と思わせてしまうかもしれないと考え佐天はその場を濁そうとした。


「そうですか、佐天さん…その言いにくいんですけど…」


初春も何やら言いにくそうに頭の中で何を言おうか考えながら言葉を選んでいるといった素振りをしている。
その様子を見て、佐天は「どした?」といつもの元気な表情で下を向いている初春を覗き込む。


(何よ?初春?まさか、今日のホールに入っていく所…見てました…とかそんなオチじゃないでしょーね!?)


一瞬最悪なシチュエーションを想像し、ぞっとするが、彼女の懸念は外れた。
何故なら「やっぱり幻想御手に関していろいろあったんですか?」と心配げに聞いてきたから。


佐天は初春の問いを「違うよ~」と笑って否定して見せる。
「補習は終わったんだけどね…ちょっと知り合いがさ…」と言ったは良いものの、先が思いうかばない。


初春の質問に窮し、彼女は気まずそうに「あはは…」とひきつった笑顔を浮かべる。
佐天の言動に初春は首をかしげるがあまり気にしていない様子だった。
というのも、彼女たちの前にいる学生の客が開いた座席に通され、次に自分たちが呼ばれる番だったからだ。


「ではご案内します。佐天様ー」


ファミレスの店員に名前を呼ばれ二人はレジ前の椅子から立ち上がり、店員の案内の元、指定された座席に向かう。
がその時、佐天の視野にはとんでもない光景が映った。


なんと目の前にいるのはアイテムだった…。


(ちょっと…何でここにアイテムが?ってかあれってアイテムよね?)


「こちらでよろしいでしょうか?」


店員がにこり、と営業スマイルを浮かび上がらせる。
初春は「はい、ありがとうございます」と気品が求められる風紀委員に恥じない素振りで店員に礼をする。


初春のそんな丁寧な対応とは対照的に、佐天はドキドキする鼓動を落ち着かせて初春に気付かれないように、静かに深呼吸する。
その間に「どうしたんですか?佐天さん」と質問する初春に「大丈夫」と小さくか細い声で佐天は言い放つとアイテムの隣の座席に座った。


(うわぁ…生で見るアイテムだ…)


今まで写真でしかみたことのないアイテムが今、座席を隔てて佐天の隣にいるのだ。
ほんもののアイテムが彼女の目の前にいた。


佐天と初春は座席に座る。
初春がアイテムが見える位置に、佐天はちょうど背中を向ける具合に座った。
と言っても、初春はアイテムという組織の事なんかしらないだろうが。


佐天はアイテムが何を話すか気になってどれどれ、とちょっとだけ耳をそばだててみた。
するととんでもない内容の話をしてるではないか。


「ねぇ、電話の女って誰なんだろうね…」


確かに聞こえた。
麦野と思しき声が佐天の耳元に到達し彼女の耳朶を打つ。
瞬間、佐天の血が沸騰するかのように体が熱くなる。
自分の隠していた何かがはがれてしまった様な感覚を彼女は覚える。


お昼御飯を食べるとかそういうレベルではない。
佐天は一気に緊張し、はやくなる自分の心臓の鼓動を落ち着かせようとする。



麦野自身もふと思いついて言いだしただけだった。
しかし、一度話し始めると皆、話に乗ってきた。なので麦野はこのまま電話の女の話を続ける事にした。


「電話の女の正体ねぇ…確かに、気になる訳よ…」


「うーん…機械音声じゃないしね」


フレンダと滝壺が一様に首をひねる。
確かにいつも自分たちに指示ばっかりだしている電話の女が一体誰なのか、それはアイテムのだれしもが思う事だった。


ここ最近まで人材派遣とかいう男がアイテムに指令を送っていたものの、夏休みに入ってから人材派遣にとってかわられた。
それが電話の女だった。


「年齢不詳…わかるのは女って事だけ…口癖って程でもないけど“こいつときたらー”って言うわね」


麦野が右手を頭にあてながら思いだしていく。
他のアイテムの面々は「むぅ…」と電話の女の特徴を思い出そうと考える。
麦野が不意に言った疑問を解決しようとアイテムは懸命に考えているようだ。


「なぁ、麦野?」


「ん?」


と、その時、浜面が麦野に話しかける。
彼は何か妙案でも思いついたのだろうか。



「電話しよーぜ、今」


「あ、それいいかも!で、この際に聞けば!」


浜面の提案にフレンダは指をパチン!と鳴らして賛成するが、麦野のため息にそれも打ち消される。


「馬鹿…そんな簡単に答えてくれるわけないだろ、あっちは学園都市の治安維持を本職にしてるんだぜ?馬鹿っぽそうな声出してても曲りなりにね」


麦野はそういうと再び「むぅ…」と考え込む。
しかし、浜面が言いだした計画以外妙案が思いつく事はなかった。
そこで絹旗が「何も良い計画が思い浮かびませんが…」と前置きをして小さい口から言葉を発していく。


「でも、正体は超知りたいですね、気になります」


「ね、私も気になるって訳よ」


「むぅ…でもどうやって正体突き止めればいいんだろう?」


滝壺が「はぁ」とため息をはく。
万策尽きたか?


砂をかむような思いとはこの事だろうか?
佐天は注文してから数分して出てきたハンバーグランチを食べていた。


しかし、先ほどからちらほらと聞こえてくるアイテムの会話が彼女を食事どころではない精神状態に追いやっていたと言っても過言ではないだろう。
彼女が注文した美味しそうなハンバーグランチはただの何も味がしない、無味乾燥な三流料理になり下がってしまった様だった。
おそらく緊張によるものだろう、と佐天は推察する。


聞こえてくる会話から判断して、なんでもアイテムの構成員達は電話の女の正体を知りたがっているようだった。
アイテムを見るだけでも彼女にとっては大事件なのに、あまつさえアイテムのメンバーが自分の正体をつきとめようとしているなんて前代未聞な事態だった。


「どうしたんですか?佐天さん?さっきからテンション低いようですが…何かありました?」


「え?あ、あぁ!気にしない!気にしない!私は元気だよ!」
(あぁ…何でよりによってアイテムが後ろに…あー!あいつらときたら!!)


「ならいいんですが…」


初春は怪訝そうに佐天を見つめながら特大パフェを平らげていく。


「にしても佐天さんの後ろにいる人たちにぎやかですね見てて面白いです」と初春は呟きながら、くすりと笑って顔をほころばせる。
しかし、佐天はそんな悠長な事を言える余裕も後ろを振り向く勇気もなかった。


(私みたいな年下の子供に指示されてたなんて知れたらぶち切れて、きっと私の事拷問とかかけちゃうのかな…?)



麦野さんとかプライド高そうだし…年上の人のふりしてきた私が実は中一なんてばれたら…やばいやばい。
佐天は取りあえずは目の前にあるハンバーグランチを全て食べようと決め、ハンバーグをかっこむ。
折角初春と約束してまでファミレスに行ったというのに…待っていたのはアイテム。


佐天は内心「不幸だー!」とどこかのつんつん頭の少年の様に内心に慟哭の叫びをあげた。
彼女の背後数十センチを隔ててアイテムがいる。
振り向きたい衝動にかられつつも振り向いたら負けな気がする!と思い必死に振り向きたい衝動を抑え、冷静にハンバーグを食べていく。


「あ、佐天さん、すいません」


「ん?どした?初春」


初春が不意にスカートのポケットに手を当てる。
携帯電話を片手に持っている。
どうやら風紀委員の緊急連絡の様だった。


「はい、初春です。もしもし…はい…はい…」


電話を続けていくうちに初春の表情がどんどん曇っていく。
どうやら風紀委員の緊急招集という事らしい。
電話が終わるころには初春はすかりローテンションになった表情を佐天の前に浮かべる。


「すいません…ちょっと緊急で風紀委員の招集が掛けられて…いろいろ久しぶりにはなしたいことがあったんですが…」


「いいよ…初春は風紀委員だもん。ちゃんと頑張ってね。ほら、なんだっけ…よく白井さんと初春が言ってるやつ…」


佐天は思いだせないと言った風に頭のおでこの部分をこする。
初春が間髪置かずに「己の信念に従い、正しいと感じた行動を取るべし」と言い放つ。


佐天は「うん、それだ」と頷くと「風紀委員頑張って」と親指をぐっと立てる。
「はい、また近いうちに遊びましょうね、佐天さん」と初春が言うとスカートのポケットから腕章を嵌めてレストランを飛び出していった。


佐手のいる座席には伝票と食べ終わった食器が置かれていた。
「あ、初春、特大パフェの金払ってない…」と佐天はぽつりと言った。



「へぇ…風紀委員ですかぁ…超頑張りますね」

ついさっきまで隣の座席で特大パフェを頬張っていた少女が携帯電話の連絡一本で血相を変えてレストランを出ていくのを絹旗は映画雑誌の上からぼんやりと見つめる。
残った一人は一人っきりで超かわいそうですね…と、どーでもいいことを考えながら再び彼女は雑誌の映画特集の項目を見つめていく。


「結局、電話の女の正体はわからずじまいって事?」


「うーん…そういうことかなぁ…あ」


フレンダの質問に一度は首肯したものの、麦野は何かを思い出したようで、再び下を向き考え始める。


(そういえば…今日の任務終了連絡はしてなかったよなぁ…ちょっとメールで聞いてみるかね…)


取りあえず任務終了連絡をしようと思った麦野は携帯電話のメール作成ボタンをポチポチと押し、任務完了の旨が記載されたメールを送った。
麦野はメールを送ると再び電話の女の正体はどんなやつだろう、という興味に注がれていく。とその時だった。


ういーん…ういーん…


麦野がメールを送った直後に携帯電話のバイブレーションの音が鳴る。
彼女は「誰かの携帯なってるわよ」とアイテムのメンバー一人一人を見ながら確認を取るが誰も居ない。


(おいおい、ちょっと待て。私が任務終了メール送って何でちょうどこのタイミングでバイブレーション音が聞こえるんだよ…)


麦野はおかしいな、と思い、周囲を見渡す。


窓側座席の一番端に位置しているアイテムの座席から携帯のバイブレーションが聞こえる座席と言えばとなりの座席しかありえなかった。
通路を隔てて前に位置している座席に座っていた客は麦野が電話の女に携帯電話の番号を送る前に退店している。



偶然なったと言うこともあり得る。
確かめるために、麦野はもう一度メールを送ってみた。


今度は何も記載していないメール。
もし電話の女に怒られたら適当に間違えた、とでも言っておけばいいだろうと考える。


麦野は窓側座席の隣に座り、こちらに背中を向けている女…あれはどこの中学の制服だったか?と記憶を思い返そうと思った時だった。
不意に携帯電話のバイブレーションが鳴った。
音の発信源は間違いなく隣の座席の女だった。


「おい、そこの中学生」


麦野は背中を向けて座っている中学生に、外れていたらごめんと思いつつも話しかけていた。
呼びか掛けられた女は「私ですか…?」と緊張した面持ちだ。


違うか?と麦野は自分の推測が外れたのか?と後悔する。
アイテムの他の構成員達も麦野に懐疑の目を向ける。


「おい、麦野、いきなりなんだって女の子に話しかけるんだよ」


「そうですよ、中学生超びびってるじゃないですか」


「結局、麦野のオーラに圧倒された女子中学生Aって訳ね」


「麦野にすごまれた中学生を私は応援するよ」


四者四様とでもいおうか。
麦野に話しかけられた中学生に同情するように佐天を見つめる。
しかし、麦野はその中学生の少女に懐疑の眼差しを向けるのを辞めなかった。



「おい、そこの中学生」


心臓が止まるかと思った。
佐天は初春が風紀委員の仕事に引き抜かれた時に同時に帰れば良かったのだ。


しかし、いまさら帰ることなど出来ない。
仕事用のタブレット型携帯電話は柵川中学のバックにしまってある。


電池が無尽蔵なのでここ最近は電源を切っていなかった。
いや、バイブレーションの設定だけでもオフにしておけば…。


よりによってなんで数あるファミレスで偶然アイテムと鉢合わせしてしまうんだ?
しかも隣の座席!私が一人になって時に…携帯が鳴る…!


携帯電話が鳴った直後に話しかけてきていると言うことは…今送られてきたメールは麦野さんから送られてきた任務終了の報告メールだろうか?
佐天は自分が麦野に背中越しに呼ばれているさなかにどうしてばれたのか、ということを反芻していた。


いや、まだばれた訳では…と思ったが無駄だった。
二件もメールを送ってきた麦野の事だ。しっかり佐天の携帯電話が鳴っているのを確認しているだろう。


佐天は突如として訪れた自分の正体がばれるという危機に怯え、体がぶるっと震えるのを感じた。
振り向こうと体を動かした時に麦野達以外の人からフォローが入る。


佐天をただの一般中学生と思っているアイテムのメンバーの麦野のあてずっぽうの様な推理で指名された彼女(佐天)に対する配慮だろうか?
彼女はそれらのフォローを聞きつつも体の半身をよじり、アイテムの座っている座席の方に振り向く。


「なんですか…?」


「…いや…わりぃがちょっとそのままで居てくれ」


人違いの可能性も麦野は懸念しているのだろう。
彼女はまだ電話の女と確定した訳でない、佐天の方に少しだけ頭を下げると麦野の片手に握られた携帯から再び無言メールが送信されていく。
すると間髪置かずに佐天の携帯電話が震える。



「お前…まさか…ホントに」


麦野が息のむ。
フレンダ達もやっと柵川中学の生徒の正体に気付いたのだろう。


案外にも自分達に指令を出していた女の正体は若かった。
というかほとんどのアイテム構成員よりも年下だった。


「はい…私が…その…」


佐天は覚悟を決めた。
もう自分が電話の女だとばれてしまっているのだ。


麦野の送った無言メールによって震えさせられている携帯電話がひどくかわいそうなものに見えた。
そして佐天は所在なさげに、ぽつりと一言言う。


「私が…電話の女…です…」


今にも消え入りそうな声だった。
ともすればそのまま消えて行ってしまいそうなくらいにか細い声。


「オマエがあの電話の…へぇ…」


麦野はうんうん、と頷きつつ佐点を見つめる。
アイテムのリーダーであり女王である彼女がまるで宝物を査定する鑑定師の様にじっくりと見つめる。
ふーん…と鼻で息を鳴らし、うんと麦野は頷くと「はー、笑える」と一言無表情に言い放った。



「いくつよ」


「中学生です…中学一年生…」


麦野以外のメンバーから多かれ少なかれため息がこぼれる。
やはり自分たちに指示を送っていた人物が自分たちよりも年下であると言うことに驚きを隠せない様だった。
絹旗は「超、私とためですね…!」と声に出して驚いている。


「私達が今まで色んな危険を冒してまで任務にあたっていたって言うのに、とうの依頼人は中学一年生かよ」


「………すいません」


佐天は何を言ったらいいのかわからないので、取りあえず謝る。
先ほどまで騒いでいたアイテムの座席が急に静かになって重苦しい空気が彼女たちの卓のあたりに滞留し始めた。
フレンダが「まぁまぁ…」と麦野が生み出す重苦しい空気をなんとか宥(なだ)めようとしている。


「ちょっとこっちこいよ」


「は、はい…」


まるで古き良き学園物アニメの番長よろしく、麦野はアイテムの座っている座席に来るように指示する。
同時に浜面に「そこの二人用の座席くっつけて」と指示し、「はいはい」と浜面が答える。
浜面がメニューと店員呼び出しボタンを窓側座席に置き、机を動かし二名用の座席と椅子が接続された。




「ほら、ここ」


「はい…」
(何?何が起きるのよ?拷問?ひぃ…こわいよぉ…)


佐天は出来あがったばかりの即席の二名用の椅子にぺたんと腰を下ろす。
自分の手が緊張と恐怖でカタカタと揺れているのを知覚する。おそらく麦野達も気づいているのだろう。
アイテムのメンバーは佐天の両手を見て、無表情になる。


「別に今からお前に何をするって訳じゃねぇよ」


「は、はい」


浜面が二名用の座席に座って相対する佐天を見据えてつぶやく。
その発言にほんの少しだけ安堵の気持ちを覚える。が、依然緊張による手の震えは収まりそうになかった。


「浜面、あんたが仕切るな、っつの」


「へいへい」


佐天が安堵したのもつかの間、麦野が再び二人に割って入る。
やはり、この手の震えを収めるには麦野と話す必要がある、と佐天は内心につぶやく。



「どうして電話の女なんかに?」


「……それは…、幻想御手事件以降…いきなり携帯電話が送られてきて…」


脳内に浮かび上がる単語一つ一つを慎重に選ぶようにして佐天はゆっくり話す。
アイテムの面々は佐天の言うことに小さく頷いたり、ジュースを飲みながら話を聞いている。
皆一様に色んな事をしているが、佐天の事を見つめていた。それが彼女の緊張をいやがおうにも維持させてしまっているのだが。


「幻想御手ねぇ…あの音楽ツールのヤツね…」


麦野は思いだすようにして頷く。
そして「携帯電話が送られてきたのはいつ位なのよ?」と質問を繰り出す。
佐天は「幻想御手の一件で補習があったので…八月の第一週目です…」と今にも消え入りそうな声で話す。


「で、リクルーターからスカウトされて電話の女になったって訳ね…」


「はい。そうです…」


佐天が答えた後、しばらく沈黙が彼女たちの座席に舞い降りた。
レストラン内のスピーカーから漏れる軽快なジャズサウンドと空調の音が妙にうざったく皆の耳朶をうつ。
この状況を現出させた張本人である麦野は何とも言い難い雰囲気にうざってぇと内心ツバを吐くが、自分のせいだな、と自覚し一人苦笑する。


「はい、このムード耐えられない、浜面クン!何か一発芸!はいっ!どーぞ!」



「は…はぁ??」


浜面が自分に指を指して「え?俺?」と怪訝な表情を浮かべている。
麦野は浜面のすっとボケた表情を確認することなく「そうよ」と冷淡に言い放つと両手を顎に乗せてにこりと笑って見せた。


「じゃ…じゃぁ…仕方ない…変顔いっきまーす」


「………」

何をやろうとしても結果は見えていたと言うべきだろう。
浜面が変顔するぞ、と宣言した所でアイテムの面々が期待に表情をほころばせる事はなかった。


しかし、与えられた任務を遂行するのが浜面という男だ。
彼はぐにゃりと顔をゆがめて「いっひいっひ」と変顔をする…。


「………」


シーン…死ーん…。
空気が完全に凍りついた。
その場の空間がバキバキと壊れていくような音すら聞こえてきそうな白けっぷりだった。


「はぁ…死にてぇ…」


浜面の人生終了させたい宣言が飛び出すのもつかの間、アイテムの面々から大きなため息がこぼれた。
しかし佐点は「ぷぷぷ…」と今にも吹き出しそうになっている表情を何とかこらえそうとして必死だった。


「ぷぷぷ…すいません…おもしろすぎです…!あ…あっははは…!」


佐天は腹に手を当てて笑いこける。
その光景を目の前で目撃したアイテムの面々もつられてぎこちなく笑った。
さきほどの凍てついた空気が多少緩和された様だった。


「これからもよろしくって事かな?」


「あ、はい。そうなります…!」


窓側に座っていた滝壺が初めて佐天に対して口を開く。
佐天は滝壺の方に向くとがばっとお辞儀をする。



「お前、家族とかいるんだろ?」


「学園都市外に両親と弟がいます…」


「なら、何で暗部落ちしたんだ?」


「は?暗部落ち?」


佐天は浜面の言っている事が理解できなかった。
あくまで佐天は治安維持機関から連絡を受けて、その命令を伝達しているだけ。それが何故、暗部などという名前で呼ばれているのだろうか。


そして落ちた、とは一体どういう事なのだろうか?
佐天が脳内で浜面の質問に対する答えを見いだそうとしている間にフレンダが口を開く。


「あんた、まさか電話をするだけで自分に危険が及ばないとでも思ったの?」


「いや、だって人材派遣の人だって安全って前に言ってたし…」


「そりゃ、言うに決まってるわ。自分の後釜が決まりかけてたんだもの」


佐天はフレンダの言葉に「はぁ」と首をかしげるだけだ。
実際に危険が及ぶかどうかは分からないけど、やっぱり気をつけた方がいいと思う訳よ、とフレンダは親切心からか佐天にアドバイスを送る。


対して彼女は電話をかける仕事を始めてから数週間がたった今、身に危険が及ぶ事がなかった。
なのでフレンダの言っている事が大げさに感じられた。




「アイテムをつぶそうと課投げてるやつがいたとして、実際に手を出せないとわかったらもしかしたらあなたを攻撃して指揮系統をつぶしにかかってくるって事も十分あり得る訳よ」


「ちょっと、フレンダ?いくら何でも言い過ぎじゃないですか?」


「そうだよ、フレンダ。電話の女、ちょっとびびっちゃってるよ」


絹旗と滝壺は一様にフレンダを見つめるが、見つめられた彼女自身はその視線をよそに話し続ける。


それで良い、内心にフレンダはつぶやき、電話の女が動揺している様を確認する。
そしてちらとアイテムの女王である麦野の方を見る。
彼女はただ黙って話しを聞いているだけだった。


「いや、ダメだって思う訳よ。結局、電話の女が狙われないとも限らないでしょ?」


「確かに…」
「まぁ、フレンダの言う通りですけど」


滝壺と絹旗の二人はフレンダの指摘に頷く。


対して麦野はフレンダを見ると「言い過ぎだってフレンダ、まじでビビっちゃってる」と言い、とあごで佐天の方をくいとしゃくる。
当の佐天はフレンダの発言にすっかり怖じ気づいてしまっているようだった。


確かにアイテムに連絡するだけ、といった人材派遣の男の言葉はちょっと考えてみれば、危険な物だと判断出来るのだが、佐天はそれが出来なかった。


仮にアイテムの撲滅を願う組織が存在して、能力者であるアイテムを狙うよりもそのアイテムに指示を出している大本を絶ってしまえば…。
そう考える敵もいないとも言い切れない。
そして、その場合、間違いなく、佐天の身の周りには危険が及ぶ可能性もすかなからず、発生するだろう。


「確かにあんたの言うことは一理あるわね、フレンダ」と麦野がフレンダの発言に賛同する。
するとフレンダは「そうよね…」と得意げな表情を浮かべる。


「電話の女、お前の名前はなんて言うんだ?」


「え?私ですか…?」
(言っていいのかなぁ…?)


「佐天です…佐天涙子…」


フレンダの質問は麦野が話を変えたことによって終わっていく。
そして話題は変わって行った。




レジの会計を終えて、佐天とアイテムは解散する事になった。
いや、もはや佐天を含めてのアイテムと言ってもいいかもしれない。


佐天とアイテムの間に友情関係と言ったものは構築されていないが、彼女たちは赤の他人ではなくなったのだ。
個人的にどういった感情を抱いているかどうかは考慮しないとして、単純な繋がりで見れば、アイテムに佐天涙子は加入したと言っても差支えないだろう。


(いやー、ノリでアイテムと話したけど、ちょっと恐かったなぁ…)


佐天は麦野とは安した時の事を考える。
彼女はファミレスの駐車場で止まっている浜面の運転するシボレー・アストロを横目に映しながら自宅である柵川中学の学生寮に向かっていった。


そして、ここはアイテムのの構成員を乗せたシボレー車内。
滝壺は共同アジトに到着し、シボレーから下車。絹旗は自分の単独アジトに身を寄せた。
フレンダは「歩いて帰る」と言い、歩いてどこかに行ってしまった。


さて、車内には麦野と運転手である浜面の二人きりになった。
重苦しい沈黙が続くのか、と浜面は思ったが、それは麦野の思い出したように話す声は彼の思索を打ち消していく。


「私達ってあんな中学生に命令されてたんだ…」


「まぁ…、そういうことになるな」


中学生から発せられる命令を唯々諾々として行ってきた麦野。
ただ、それに従ってきた自分が悔しいような、笑えるようなきがした。



――第七学区、立川駅前の再開発地区

佐天は日が傾き初めた時分にファミレスを出ると一人で学生寮に向かって歩いていた。


(はぁ…まさかアイテムと話すとは…)


初めて見たアイテムの印象は何だか普通の女の子の集まりといった風だ。
取り立てて四人の仲が良いという訳でもなく、一般的な友人関係の様だ。


(にしても…私の命の危機って…どうなんだろう?私の事狙う人なんているのかしら?)


佐天は思う。
自分の命を狙う人なんて果たしているのだろうか、と。
アイテムに喧嘩を売ろうなんて考える奴、恐らく居ないだろう。


そう。御坂美琴以外と不意に彼女の頭に美琴の顔が浮かび上がるがそれをぶんぶんと頭を振って打ち消す。
佐天はおう一度ファミレスでフレンダに言われた事を思い出す。


『電話の女が狙われないとも限らないでしょ』というセリフを思いだし、いやな気分を味わう。
フレンダに気をつけた方がいい、と言われ、了承したは良いものの、実際に何をすればいいのだろう?
佐天は具体的な対応策も思いつかず、ただ、ちょっと注意深く周りを見る位の事しかできなかった。



夕日が学園都市と日本の境目である山岳地帯にかかり、真っ赤になって沈んでいく。
佐天はその夕日を見つつ、学生寮の鍵をポケットから取り出そうとしていた。


柵川中学校の制服のスカートのポケットから鍵を取り出すとカチャリと鍵穴に鍵を差し込む。
そこから勢いよく鍵を回すとおもむろにドアが開いた。


学生寮の通路の真っ赤な夕日とは対照的に部屋の中は案外に暗く、佐天は電気のスイッチに手をかけた。
その時だった。


「ねぇ?電話の女、ちょっと頼みがあるんだけど?」


不意にかかった呼び声に佐天はガバリと後ろを振り向く。
声も出さずに振り返ると柵川中学の学生寮の通路にフレンダがいた。


「さっきはごめんね、ちょっと言い過ぎちゃった」


「いえ…気にしてない…よ」


敬語で答えればいいのか、ため口でいいのか、限りなくあいまいにして佐天は答える。
フレンダはその事には別段何も言わずに、ずいと佐天の家に片足を掛けて、閉じかけていたドアを開けっ放しにする。


「聞いてほしい話があるんだけど…?」



「ごめん、実際に連絡係が狙われたことなんてないの」


「えぇ?そうなんですか?良かった」


「私たちはその可能性が捨てきれないけどね…うらやましいよ、指示するのは楽だろうね…」


フレンダはそういうと「ごめん、皮肉に聞こえちゃったかしら?」と佐天が出した氷水を啜りながら話し続ける。
佐天も「いや、こっちもごめんなさい!」といつも通りの元気の良さを端的に表している様に、ガバッ!と頭を下げる。


「結局…あんな話をしたのも一つ頼みがあるからなんだけどさ」


「なんですか?」


「ちょっと人探しを頼みたくて…」


フレンダは苦笑した。
会ってまだ数時間しかたっていないの電話の女とか言う治安維持機関からの指令を伝達する人物に接触を図っている。


彼女がなぜ佐天に接触したのか。
それは彼女が姉を探すのに佐天の権限を必要としたからである。


元々、フレンダは自分より年上の女性を想像していた。

任務を伝達する時も結構たタメ口だったし、能天気な感じがしたから。
しかし、今日偶然会ってみれば自分よりもいくつか年下のまだ中学生になって間もないあどけない少女だった。


身を危険にさらしている可能性を示唆することで佐天の周りの警備状況を推察してみたところ、彼女はどうやら護衛などを付けていない様だった。
先ほどのファミレスで露骨に「護衛はちゃんとつけてるの?」とか聞いてもアイテムの仕事仲間に怪しまれるだけだ。
ならば、多少誇張した言い方になるが暗部に所属している事から生まれる危険をほのめかし、反応を試す。


その反応を踏まえたうえで直接佐天を尾行した訳だ。
「人探しを頼みたい」とうフレンダの要求に佐天は「は?」と口を開けて聞き返していた。


「人探し?」


「えぇ。探せないの?仕事用のツールとか…そういうので」


フレンダはベレー帽を外すと佐天の小さい部屋にある鏡を見てブロンドの髪の毛を手で優しくとかす。
そしてどう?とかわいらしく首をかしげながら佐天の方を向く。


「ちょっと待ってね…」


佐天はそういうとおなじアイテムのメンバーと言うことでフレンダを信頼しているのだろう。
柵川中学校のカバンからタブレット型の携帯電話をおもむろに取りだす。

そしてそれを大切そうに佐天の家のかわいらしいちゃぶ台におき、アプリを起動する。


「やけにて慣れてるじゃない」


「最近覚えたの。かなり便利なのよね、コレ」


フレンダが「へぇ」と息まくのを視界の端に見つめながら佐天は自分の見れる権限までの情報を拡大していく。
彼女がこの携帯電話のさまざまな機能に関して気付いたのはつい最近のようだ。


「私はまだ…暗部…いや、仕事を始めてから日が浅いし、おそらく幻想御手を使った事も関係してると思うんだけど、見れる情報が限られてる…それでもいいなら」


佐天は“暗部”と言いかけた所を途端に“仕事”と言いなおす。
やはり自分が暗部に落ちた事を認めたくない、という僅かながらのプライドが彼女にまだ存在するのだろうか。


ともあれ、佐天はそういうとタブレット型携帯電話の液晶をフレンダに向ける。
フレンダが携帯電話をいじろうとするがそこに待ったがかかる。


なんでも佐天以外の人が携帯電話を触った場合強制的にシャットダウンするとか。
指紋認識にうからない場合、電源を起動する事すらままならない代物。セキュリティはピカイチだ。


学園都市関連人物ファイル、という名前のフォルダを開くと佐天が現状で見れる人物達がリストアップされていく。
右端にあった大きかったスクロールバーが徐々に小さくなっていく。
見た感じだと、警備員や風紀委員、果ては他の暗部組織に至るまで、数十から数百の人間のデータが登録されているようだった。


「誰を探せばいいの?フレンダ」


「えーっとねぇ…ステファニーっていう人なんだけど…」


「ちょっと待ってね」


膨大な人物ファイルの渦中からたった一人の人間を探しだす。
そのきの遠くなるような作業をフレンダは今までずっと一人で行ってきた。


フレンダは佐天が熱心にタッチパネルで名前を入力する光景をちらと見つつ、内心で苦笑した。
自分が人一人から情報を聞き出すまで、いろいろな下調べをしてきた。


しかし今はその煩雑な動作も不要。
ただ、データの渦中から検索してヒットを引き当てればいいだけ。


フレンダがエレクトロマスターでもない限り、学園都市関連人物ファイルに接続する事は出来なかった。
それが暗部に落ちて一カ月ばかりの少女がアクセスできるとは…。
なんというか、もはやあきれるレベルである。フレンダが色んな所に足を運び聞き取りをした結果が今一瞬で明らかになるかもしれないのだ。


フレンダは永遠と思われた時間を外の学園都市の高層ビル群の景色を見つめつつ待った。
実際には三十秒ほどだったのだが、それはフレンダにとっては長く感じられた。
部屋に訪れた沈黙が破られたのは不意に発せられた佐天の音読によってだった。


「あった、ステファニー=ゴージャスパレス…カナダ出身…」

「第十四学区の…高校の教諭で英語(この場合国語に相当)と世界史を担当…第XXX支部の警備員で勤務するも辞表…現在は傭兵として活躍している」



フレンダの期待とは裏腹に佐天が提示した情報はフレンダも把握している情報だった。
そしてそれは噂と事実が入り混じった情報が本物の信頼できる情報になった瞬間でもあった。


姉が傭兵職についているなんて話、あくまで眉唾もののうわさと断じていた。
しかし、まさか本当に傭兵稼業をしているとは、フレンダは読み上げられたデータを聞くと大きくため息をついて肩を落とした。


今佐天が読み上げた内容は知っている。
半信半疑の噂だった情報が確かな情報になっただけでも大きな手柄だったが、いかんせんこれだけでは姉を探すには情報が足りなかった。


フレンダは内心にどうしよう、とつぶやく。
結局は佐天の見れる情報はこれが限界だった。
実際問題、情報を照会する限りだと、フレンダの姉は既に学園都市を後にした様だった。


フレンダがため息を吐くと、佐天が話しかけてきた。


「ごめん、フレンダ…バンクに記載されてる情報はこれだけだよ?この人、フレンダの知り合いなの?」


佐天の当然わく興味にフレンダは本当の事――実の姉であること――を言おうか迷ったが、辞める。
情報バンクに記載されていない情報を言って後顧の憂いにしてはならない、とフレンダの本能が告げる。
申し訳ないがここでは佐天に嘘をつくことに決めた。



「あぁ、私の恩師でさ…」


知り合ったばかりの佐天には本当の内容は言わない。
適当に恩師と言っておくが、フレンダの胸中はザザと焦りという波がうねり始めていた。


結局、姉がここを出てから数年たっていた。
そんな姉と、どうやってコンタクトを取ればいいというのだ。


佐天に聞いたところ、情報データバンクにはステファニーの連絡先は記載されていないようだ。
わかることと言えば、学園都市で教鞭を握っていた事と警備員として活動していただけ、と考えたところでフレンダの頭に電撃が走った感覚を覚える。


「ねぇ、ごめん涙子」


「え?」


いきなり名前で呼ばれたことで佐天は驚くが、そんな事にはお構いなしにフレンダが続ける。


「第十四学区のどこ高校だかわかる?」


佐天は再びタブレット型の携帯電話に目を通す。
そしてフレンダに高校の名前を告げる。


彼女は佐天に「メモ帳ある?」と言ってメモ用紙を貰うと高校の名前をさっと書きとめて、その紙をぐいっとポケットに入れる。
そしてフレンダは「ありがと!」と言うとドアを出ようとしていつものお気に入りのパンプスをはく。


最終下校時刻まであと少し。第十四学区はここからそう遠くない。
フレンダは勢いよく走りだしてかの地へと向かっていった。



一人残された佐天は誰なんだろう、ステファニーって、と思いつつ寮の外を出て走っていくフレンダを窓から見つめていた。
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