佐天「…アイテム?」11


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――浜面と麦野が乗っている車

「送ってくれてありがと、浜面」


「あぁ」


「寄ってく?」


「お前、怪我してんだろ、休まなくてもいいのかよ」


その言葉に麦野はかぁと体が熱くなる感覚を覚える。
浜面が自分の怪我を気にしてくれた。その事だけでもうれしい。



「怪我はもういいの…、で、どうなのよ?来るの?」


浜面に家に来てほしいと思う反面、答えを聞くのが恐かった。
もし、「いや、今日はいいや」とか言われたら、一人泣いてしまうかもしれない。
さびしい。一緒にいてほしい。彼女はそう思った。


「…じゃ、ちょっとだけ」


「ちょっと…じゃなくて…泊ればいいじゃない…」


後部座席にいる麦野を浜面はミラー越しに見つめる。
アイテムの女王と自他共に認める麦野。しかし、その女王は無能力者のスキルアウト上がりの男に完全に恋していた。
浜面の返答次第で彼女は一喜一憂するかわいらしい女の子になる。

ただ、彼女のプライドか、はたまた恋愛に対して臆病な所が彼女を一歩踏み出せない臆病者にしていた。

「…じゃ…泊るかな…取りあえず…お前ん家着いてからだな…」


「ん。わかった」


麦野は後部座席の窓を半分ほど開けて、新鮮な空気を吸う。
今日の任務は久しぶりに激しい戦いになった。


「今日はお疲れさまだったな。相手は…常盤台の超電磁砲だったんだろ」


「あぁ…憎たらしい奴だったわ。しかも助けられそうになったしね」


「いい奴じゃねぇか」


「そうかしら?」


「…いや、わからねぇけど」


最後の最後で麦野は超電磁砲に助けられそうになったが彼女の意地がそれを阻止した。
原子崩しをうまく使って助かったから良かった。


しかし、そうは言ったものの、彼女の絶対に目標を成功させようとする意地と勝利への執念がいつしかあだになる日がこないと言いきれない。
その後、二人は他愛もない会話をしながら麦野の住んでいる高級マンションの地下駐車場に到着する。


二人は車から降りる。
浜面は二人分の荷物を持つとエレベーターに入る。
エレベーターのボタンをあけたまま麦野を待つ。
すると少し足を引きずる様な歩き方で麦野がやってきた。


膝の部分だけ片方すりむいている麦野の脚が痛々しい。
彼女がエレベーターにゆっくりと乗ると浜面は最上階を押す。


麦野は浜面に抱きつき、唇を重ねる。


「おい…むぎ…?」


「うっさい、浜面」


くちゅくちゅと二人の唇からは淫靡な音が流れ出る。
最上階に上がっていくエレベーター。
動揺する浜面をよそに麦野は二度と離さない意思表示をするかの如く、ずっと唇を重ねてくる。



「滝壺の事ばっか見て…私の事も見てよ」


「俺はお前が一番だって。マジで」


「嘘」


「好きだぜ、麦野」


シャケ弁を買ってくるパシリが気付けば麦野の歪な恋人になっていた。
狂狂(くるくる)と回り始めた関係はいつしか麦野が浜面に懇願するような関係になっていた。


命令する立場だった麦野はいつの間にか気付けば命令を聞く浜面がいなければ何もできない一人の女になり果てていた。
付き合ってるとか、両想いだとか、そういう言葉の遊びはどうでもいい。
そんな遊戯の様な事に固執する気は彼女にはなかった。


ただ、今すぐ欲しい…、そんな衝動的な感情が彼女の思考を埋めていく。

「お前…頭も怪我してるじゃねぇか」


「平気…下部組織に所属してる医者は軽傷って言ってたから…多分平気だよ…」


傷の幅はそこまで広くなく、軽い裂傷程度。
浜面は「傷、気付いてやれなくて、ごめん」と唇を一度離すと麦野にあやまる。
ヒールブーツを履いていてもなお、浜面の身長には届かない。

麦野は下から浜面の事を見上げ、「ばかづら…」と一言、照れながら言うだけだった。
つい先ほどまで美琴と激闘を繰り広げていた麦野の偽らざるもう一つの姿だった。




「麦野…俺らって付き合ってるのか?」

「え?」

「だから、俺ら付き合ってるのかって」

「…………」

麦野は答えられなかった。
本当のところは「うん」と言って付き合ってしまいたかったが、麦野の脳裏には滝壺が思い浮かんだ。
そしてその滝壺をちらちらと見ている浜面の姿もまでもれなく。


「…部屋ついてから話そうよ…?ね?」

「わかった」


チ―ン……とエレベーターが最上階に到着した事を告げる。
最上階に出ると夜のせいもあってか、夏にも関わらず冷えた風が吹き込む。


「ついたぜ、麦野」


「…うん」


浜面は麦野と自分の荷物を抱えて彼女の後をとぼとぼと歩く。
麦野はポケットから家の鍵を取り出すと、ガチャガチャと鍵を回し、鍵を開ける。

「はい、どうぞ」

「おう。お邪魔します…」


麦野がブーツを脱ぎ、そのままの勢いで風呂のお湯をいれる音が聞こえてくる。
浜面はその間に荷物をリビングのはじっこの方に置き、所在なさげに窓から見える学園都市の高層ビル群を観望していた。


浜面は窓から見える学園都市の夜景から転じて同じく窓に反射している自分の顔を見つめる。



(麦野は…どう思ってるんだ、俺の事)


(俺の事求めてくるのに…好きなのか…それすら…わからねぇ…)


浜面は金髪の頭をバリバリをかく。
彼は麦野の事が好きだった。ただ、滝壺をちらちらと見ている自分が居るのも事実だった。
正直、滝壺も麦野もどっちも捨てがたかった。こんな事を言ったら即、殺されるので勿論浜面は公言しなかったが。


(先に俺の事…誘ってくれたのが、麦野だったってのが大きいなやっぱり)


初めてアイテムで仕事をこなした時、浜面に声をかけてきたのは麦野だった。

滝壺は静かでおっとりしてかわいい、ちょっと無口。
麦野は自己中だけど、綺麗だし、ああ見えて純粋そう。

これが浜面が抱いている二人の最初の印象だった。
全く正反対に見える二人になぜ浜面が興味を持ったのか。それこそ、彼の守備範囲の広範さが物を言わせている。


(今でも…正直滝壺の事ちらちら見てるのは認める…。すまん、麦野。ケド…俺は麦野が好きなんだ)


散々麦野にこき使われた揚句の決断だった。それでも後悔していない。
浜面は滝壺に対する好意よりも麦野に対する好意の方が上回っているのだ。


しかし、それを踏まえたうえで浜面が麦野に以前告白した時、彼女は浜面に「滝壺のことばっかり見て」と言い切り、返答をうやむやにした。
浜面は「見ていない」と答えたがやはりその質問の答え方は歯切れの悪いものだった。
なので麦野に一層の不信感を与える事になってしまったのだ


(…ちゃんと言おう!)


浜面がリビングで勝手に覚悟を決めていると洗面所から「痛いっ!」と声が聞こえてきた。
彼が駆け足で洗面所に向かっていくと消毒液をひたしたティッシュを裂傷した部分に当てがっている最中だった。



「麦野?大丈夫か?」


「平気じゃないから叫んだんでしょうが…!」


半ば浜面に裂傷の痛みをぶつけてきそうな雰囲気だったが、さすがにそれは辞めた様だった。
ティッシュを持ちながらマキロンを染み込ませ、それをこめかみのあたりにあてがおうとして何度も辞める麦野の素振りがなんだかたまらなく愛おしかった。

そして、浜面は気付いた時には後ろから麦野の事を抱きしめていた。


「は、浜面?何よいきなり」


「さっきの質問の答え、聞きてぇ」


「付き合ってるかどうかのやつ?」


浜面は麦野の問いに「あぁ」と小さく耳元で囁く。


「俺は麦野の事が好きだ」


その言葉に後ろから抱かれている状態の麦野はびくりと方を震わせる。


「いっつもいっつもセックスしてる時からずっと言ってるわよね、浜面」


「あぁ、そうだな」


「じゃ、私の答え…」


洗面所に貼られている三面鏡。
浜面は三面鏡に映り込んだ麦野と自分の姿を見る。


ちょうどその時、麦野と目が合う。


「私も…あんたの事大好きだよ…?」


「本当か?」


「うん…」


「じゃ、付き合えるのか…?俺ら」


「そう…ね…ただ…ひとつ条件があるの」


浜面は後ろから麦野を抱いたまま「なんだ?」と聞いてくる。
彼の息遣いが麦野の耳元で行われている。
彼女はその事を考えて体がかぁと熱くなる感覚を覚えつつ、答えた。


「私を…レベル5の麦野沈利としてでじゃなくてね…、一人の女の子として…見てほしいっていうか…後あと…」

麦野は鏡に映る浜面の目をまっすぐ見つめて話す。
浜面の腕に抱かれている彼女は鼻から下が彼の腕で見えなくなっている。


「オイオイ…ひとつじゃなくて、新しい条件が出てきたぞ!?」


「あ、えっと…あのね…」


動揺する麦野をしり目に浜面はわざとらしく笑うと「で、なんだ?麦野?」と優しい口調で聞きかえす。


「私の事…ちゃんと見てよね?滝壺…の事ばっかり見てるから…」


「…あぁ」


「ホラ、やっぱり見てたんじゃん。はーまづらぁ」


「悪い…。けど、もうお前だけしか見ないから…安心してくれ…」


「お願いね…?」

麦野は今にも消えそうな声で浜面につぶやく。
浜面はそれには答えず、ぎゅっ、と強く抱きしめる。


「ふふ…幸せだよ、浜面」

「俺も…」


麦野は後ろを振り向く。
それに気付いた浜面も麦野に応えようとして自然と唇を重ねあわせる。
走った訳でもないのに、疲れた訳でもないのに、「はぁはぁ」と運動選手の様に息まく二人。

戦いの疲れの反動からか…もう、何でも理由なんてどうでも良かった。
この光景が駄誰かに見られてもいい。
二人の歪な関係に楔を打ち込む契機になったのだから。




今日の戦いは疲れた。麦野は失神したし、死ぬかと思った。

浜面と一緒にいれればそれでいい。もう、暗部とかどうでもいい。


「恐いのよ…私からあなたが離れたら…」


「誰も私の事なんて覚えてくれない…だから…浜面だけは覚えててほしい」


「俺は絶対にお前の事を忘れない…だから、そんな事言うなよ…!」

女王が求める物は平穏と安息の場だった。
彼女は浜面と唇を重ねつつ思う。



(浜面…?大好きだよ?)


さて、フレンダと滝壺は共同アジトで一泊する事を決め、戦いの疲れをいやすべく、お風呂に入った。
風呂から出た後、二人は夜食でピザを注文した。


食べ終わると大きいもふもふしたソファで二人はぐだーっとしていた。



「振り返ると…そこは…風の街…浮かんでは消える…生まれ今日までの…ストーリー…」


「ふれんだ?その歌、何?」


「あー…浜面がいつもつぶやいてる歌あるじゃん…結局…浜面のhiphop講義を前に熱弁されてさ…殆ど覚えてないんだけど…これだけ何か記憶に残ってさ」


「浜面、hiphop好きだもんね」


「人間交差点 SD Junkasta…とかなんとか…この透き通った男の声が良いとか…今ではちょっと浜面の言ってたことが分かるかもって思う訳よ」



「生まれ今日までのストーリー、ほんの何小節かの旅路…老いた大木の様にそれぞれ分かれていく道は…」



フレンダはこの唄を初めて聞いた時、なぜか姉の事を考えた。
人は離合集散を繰り返す、人生という旅を歩む。


この街のコンクリートジャングルを時期は違えど歩いたフレンダの姉。
もう最後に会って数年になる。フレンダが学園都市に入ってから、入れ代わりで消えていったステファニー。


けれど、再び、会いたい。
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