【禁書】5+0+0+5【SS】 > 4


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 美琴が破壊した電球の責任を問われる前に、四人は逃げるようにデパートを後にした。季節
も本腰を入れて移り変わろうとしているのか日が落ちるのも大分遅くなった。オレンジ色の夕
日が学園都市中を柔らかく包む。夕日がビルとビルの間から覗く光景は、そのまま切り取って
額縁にでも入れればそれでもう立派な芸術だろう。そんな科学と自然が織りなすキャンパスの
中で、当麻と美琴は飽きることなくやっぱりじゃれていた。

「お前バカですか!? デパート中の電球壊すとか一体いくらかかると思ってんだよ!?」

「あーもー、うっさいわね。過ぎた事にクヨクヨしてんじゃないわよ」

「監視カメラに映ってませんように……俺に賠償金来ませんように……」

 胸の前で手を組み、オカルトを真っ向から否定する立場の学園都市の人間が神頼みする。デ
パート全ての電球代なんて一体いくらするのか見当もつかない。何十万円か、はたまた何百万
円か。美琴はどうだかは知らないが、当麻にそんな額を払うほどの余裕は無い。月に一回の仕
送りはきっかり五万円。そこから食費やら光熱費やら出さなければいけない上、大食漢の居候
に猫までいるのだ。ただでさえ苦しい家計なのにその上借金まで抱えるなんて自己破産街道ま
っしぐらだ。

「よかったですね。二人が仲直り出来て」

「三下にもうちょい脳みそがありゃァ、なお良かったンだけどな」

「んー。でもそういう所が上条さんの魅力と言えば魅力と言えなくもない様な……」

「言えねェだろ、鈍感すぎンぞ。俺でもなンとなく分かるってのによォ」

「デスヨネ」

「御坂苦労すンぞ。アレ」

「御坂さんは御坂さんでアレですから」

「まァな」

 相変わらず前でじゃれている二人の後を歩きながら、佐天はふと気付いく。一方通行と躓く
事なく話が出来てる。朝は大分無理をして、それでも会話と沈黙の時間が半々だったのに、今
は友達と話すのと変わらないぐらい自然に話せている。一方通行も返事をするだけでなく、話
を返してくれる。
 慣れた。そう言ってしまえばお終いだし、確かに一日一緒にいて慣れたのもあるだろうが、
それだけではないと思いたい。佐天としてはもうすっかり一方通行とは『友達』だと思ってい
る。『ただ今日一日一緒にいただけの友達の友達』ではなく『友達』だと。二人で話をしてい
て楽しいし、一緒に居ても苦しくない。呆れながらも見せる美琴や当麻への気配りや優しさは
素敵だと思うし、自分が正面に居る時は目を見て話すのも、今のように並んで歩いていて時折
気にするようにこちらに視線を向けてくれるのも好感度大だ。初めて一緒に遊んだ男性が、一
方通行でよかったと思う。
 

「ねー、ちょっと早いけど今日はこれでお開きでいいかしら?」

「悪い! 俺晩飯の金も無くなっちまったんだ。まだ夜は少し冷えるし立ち話でもして風邪引
くのもアレだしさ」

 少し前を歩いていた当麻と美琴が振り返る。

「私も門限あるし……っていうか門限よりも黒子に色々詮索されるのウザいし。もし黒子が私
を探しに来て、この現場を見られたらもう黒子殺すしかないし……」

「えっ」

「まァそう言う事なら仕方ねェな。どォせ俺が奢るとか言ってもお前は……」

「いや! 今日は昼メシ奢ってもらってるしこれ以上は悪いからいいよ」

「だろうよ」

「なら、今日は解散しましょうか」

「悪いな佐天さん」

「いえいえ」

 本音を言えば、もう少し一緒にいて、もう少し一緒に話したかった。しかし自分の我儘で当
麻の言う通りみんなが風邪をひくのは申し訳ない。

「じゃあまた今度な! 俺は御坂送って行くことになってるから!」

「またね。佐天さん、一方通行」

「おォ」

「おつかれでーす。今日はありがとうございましたっ」

 美琴は当麻の横に並ぶと今まで持たせていた荷物を受け取ろうとする。「いいよ、結構重い
し家まで運んでやる」と当麻は渡さなかったが、美琴が強引に片方の荷物を奪っていた。
 

「あの二人はホントに仲良いですねー。あっ結構綺麗かも」

 佐天は携帯を取り出すとカメラ機能を起動した。そして二人の背中を画面の中心に入れると
カシャッとシャッターを切る。オレンジの西日で薄く化粧をした薄雲、広がり始めた紺色の空、
肩がぶつかるくらいの距離で並んで歩く二人。科学と自然の織り成す芸術がまた一つ生まれた。

「うんっ。いい感じ! あとで御坂さんに送ってあげよう」

「また顔赤くすンじゃねェの?」

「あはっ。確かにそうかもですね」

 写真をきっちり保存して携帯をパチンと閉じる。同時に街の至る所に設置されてあるスピー
カーから六時を告げるメロディーが流れた。中学生以上の人間は誰も気にしないが、小学生に
とっては強制帰宅の合図だ。高学年になるにつれ、それを守る人間なんていなくなるが。

「一方通行さんも、今日はありがとうございました」

「別に……暇だったから来ただけだっての」

「また暇だったら遊んでくれますか?」

「おゥ」

「やった! なら今度メールしますねっ!」

「はィはィ」

「それじゃ、私はこっちなんで……」

「あっ、おィ」

「なんですか?」

「いや、アレだ…………帰り道なンかあったら俺に連絡しろ」

「子供扱いしないでくださいよっ」

 フフッと笑って佐天は当麻たちとは逆側へ歩いて行く。何度か振り返り一方通行に手を振り
ながら歩くもんだから、一方通行も中々背を向けて歩き出せない。結局、佐天が角を曲がって
姿が見えなくなるまで、一方通行は佐天が振り返るたび手を振っていたのだった。
 


「だァー、疲れた」

 一方通行が自宅の玄関前に備え付けてある落下防止用の手すりにコツンと軽く額をぶつける。
ドアを開ければソファがあって、ココで立っているより暖かいし落ち着けるが、今はそれはし
たくない。顔をあげると先ほどまでオレンジと紺のグラデーションが綺麗だった空は、すっか
り紺一色の夜の顔になっていた。
 三人と待ち合わせをして地下街に行く時、佐天は異性と遊ぶのが初めてだと言っていた。だ
から今日は楽しみだと。しかしそれは一方通行だって変わらない。一方通行だって、同年代の
異性遊ぶのは初めてだった。それでも家には打ち止めもいるし黄泉川もいるから自然に話すこ
とぐらい簡単だと思ってた。しかし、いざ二人きりになるとそうもいかない。地下街までの道
のりは正直かなりきつかった。佐天が色々話しかけてくれていたのに返事をするのがやっとだ
った。当麻が美琴と手を繋いでるのを見てそれが普通なのかと真似したのも手伝って緊張しっ
ぱなしだったのだ。佐天は何も言わなかったが、おそらく手汗も酷かっただろう。
 ギュッと手を握って開く。さっきまで感じられていた温かみはもう感じられす、代わりに少
し冷たい夜風が指の間を通って行った。

「佐天涙子」

 不意に名前を呼んでみたくなった。それが何故だか一方通行自身にはわからない。ただ、今
日一日佐天がいた隣が少し寂しい。ぽっかりと穴が開いたような、そんな気分だ。今日は楽し
かった……と思う。色々慣れない事をして、緊張や疲れは有ったが楽しかった。佐天は魅力の
ある女性だとも思った。だから最後に分かれる時、柄にもなく送ってやる。とか言いそうにな
ったのだ。結局踏みとどまったが。当麻といるとちょっと感覚がおかしくなると、一方通行は
当麻のせいにしてみた。
 ふと佐天の見せるヒマワリのような笑顔が脳裏に浮かぶ。ついでに無邪気な明るい声も。
 ガツンッと再び手すりに額をぶつけた。今度はかなり強めに。ジンジンと痛みが広がって行
き、一方通行の額には一本の赤い線が出来てしまった。

「なァに考えてンだ俺は」

 どうせ今日一日だけの、期間限定の出来事なんだから。アドレスと電話番号の交換もしたが
多分掛かってくる事は無いだろう。自分はただの練習相手。今日で佐天も男といるのには慣れ
ただろうし、これからは誰か適当な相手を見つけて付き合うんだろう。結構、可愛かったし佐
天がその気になれば拒否する男なんていな……
 全力で手すりに向かって頭を叩きつける。鉄製のパイプは少しへこんで一方通行の額からは
真っ赤な血が滲みでる。痛い。もんのすごく痛い。それでももう一度同じ強さでぶつける。

「寒いからな。寒さで思考回路オカシクなってンだろ。さっさと家入って温まンねェとな」

 額を割り、血を垂れ流しながらドアノブを回す。寒さとか痛みとか痛みとかでさっきの雑念
はもう忘れた。事にした。
「あァ?」

 ドアノブを引くが、鍵がかかっているのかドアは開かない。もう一度ドアを引いてみるが結
果は同じだ。外気でドアノブが冷やされたのだろう、手のひらに冷たい感覚が広がる。

「おィおィおィ、マジですかァ?」

 今日は打ち止めも黄泉川も芳川も何処にも行かないと言っていたので鍵を持って出ていない。
寝坊気味の昼寝でもしてるのかとインターホンを押してみるが、中からの反応もない。能力を
使えばドアの一つや二つ訳ないが、そんな事したら夜寒いし、何より黄泉川に怒られる。ここ
だけの話、怒った黄泉川は結構怖い。自分が怒られた事は無いが、たまに打ち止めが叱られて
るのを見て、一方通行は決心した。黄泉川だけは怒らせない。アレが自分に向けられるとなる
と泣いちゃうかもしれない。
 一方通行は携帯を取り出して電話帳を開いた。そしてヤ行の欄まで操作し、上から二番目の
黄泉川に電話を掛ける。発信音の後にコールが鳴った。一つ、二つ、三つ。いつもならこのあ
たりで出るが今日はなぜかコールが止まない。遂に、黄泉川は電話に出る事は無く、留守番電
話サービスに繋がってしまった。通話を切り、今度はメールを開く。一応メール問い合わせも
してみたがやはりなんの連絡もなかった。

「どォなってンだ?」

 今度はヤ行の一番上の芳川に電話を掛ける。打ち止めに携帯は持たせてないし、もし芳川も
電話に出なければ誰か帰ってくるまでココで待ち続けなければいけない。店に入ってもいいの
だが、額から血を垂れ流した男を受け入れてくれる店なんてあるのだろうか。
 
「珍しいわね? あなたが私に電話するなんて」

 五つ目のコールで芳川が電話に出る。これでとにかく一安心だ。

「家に誰もいねェンだけど」

「私は研究所、二人はお寿司食べに行ったわ。その後カラオケ行くとも言ってたわね」

「俺、そンなン聞いてねェ」

「テーブルに置手紙したでしょ?」

「家に入れねェンだよ」

「え? 鍵は?」

「……家ン中」

「……二人に電話した?」

「出ねェ」

「……」

「……」

 二人を沈黙が支配する。これはまさか……そんな事は……
 最悪の事態が一方通行の頭に浮かぶ

「私、あと三時間ぐらいで帰るから」

「えっ? マジで?」

「どこかお店に入っときなさいよ」 

「それ出来たら苦労はねェンだよ!」

「……? よくわからないけど私か二人が帰るまで待ってなさい。それじゃあ私忙しいからも
う切るわね」

「ちょっ!! てめェ!!」

 ブツンと通話が切られる。ディスプレイを睨むが、それで何かが変わるわけでもない。一方
通行初めてのデートの日は、まるで忠犬のように待ちぼうけに始まり、待ちぼうけに終わるの
だった。


                 * * *


 時間は少し巻き戻り、美琴たちがデパートを後にして解散した頃まで遡る。謎の電球破壊の
被害にあったデパートでは従業員たちが必死の修復作業に追われ、館内アナウンスでは、危険
なため動かないようにと客に注意を促している。そんな中、一人の少女がゆっくりとした足取
りで化粧室から出てくる。暗闇で顔は窺い知れないが、非常灯の緑の光が胸のあたりで時折反
射している。ネックレスか何かをしているようだ。
 
「凄い事を。聞いてしまった」

 ポツリと呟く。声からは感情が読み取れない。その抑揚のない平坦な声は簡単に闇に吸いこ
まれる。少女の近くを懐中電灯と大量の電球を持った従業員が走って行く。それに続いて脚立
を持った従業員も。この階でも復旧作業が始まるのだろう。従業員は脚立を広げると、割れた
電球に注意しながら新品の物に取りかえた。チカチカと瞬いた後、辺りが白い光に照らされる。
 光が戻ったその中で、少女は無表情のまま美琴たちが弁償から逃れるために使った階段を見
つめていた。
 

 

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