空に、黒い影が躍る。大きさの割にはほとんど音は感じない。そもそも、学園都市製の戦闘機に常識をあてはめる方が間違いなのだろうが。「―――来たか」茶髪の少年が、笑みを浮かべる。戦闘機が、目の前に着陸する。普通なら、強風が吹き荒れるはず。だが、やはり普通とは違い、ゆっくりと着陸した。「……行くぞ、お前ら」少年の言葉と共に、周りの者たちは前に進みだす。その胸に、それぞれの想いを抱きながら。
「いらっしゃいませ!何名様ですかー?」「もう少し静かにはできないのか……」操縦席には、見るからに寡黙そうな男と、やたらにテンションの高い金髪の女性が座っている。「……畜生、砂皿テメェ女連れかよ爆発しろ」「おぉっ!砂皿さん砂皿さん!カップル認定ですよ!あ、私はステファニー・ゴージャスパレスです!」砂皿が、はぁ、と溜息を吐く。一方通行が同情の目で見ていたが、他は羨ましそうにしていたので仕方ないだろう。「それじゃ、皆さん席に着いてくださーい、あ、シートベルトも忘れずに!」どこの修学旅行だ、と突っ込む声も聞こえたが、彼女の前では無意味だった。「……なあ、砂皿よぉ」「……なんだ?」「お前、こんなモン操縦できたのかよ」「……自動操縦だぞ?」あ、ホントだ、と垣根が操縦席のモニターを覗きこむ。そんな姿に、砂皿はこんなリーダーで大丈夫だろうか、と少しだけ感じた。
「それで、どこから侵入すんの?どうなろうと盛大なお出迎えが待ってるんだろうけど」「決まってる、正面から堂々と、だ」垣根帝督が、きっぱりと、自信あり気に言い放つ。「そんなにはっきり言うなら、なんか備えがあるんだろうけど……ホントに大丈夫なのか?」「は…これだけ時間があって、俺が何の手も打ってねえとでも?」そう言って、垣根は笑う。心の底から、その『手』を披露するのが楽しみというように。「……ハン、言うじゃねェか、まァ、精々楽しみにしとくわ」「おぉ、テメェの驚く顔が楽しみだぜ」
―――学園都市、窓のないビル「―――どうやら、ようやくあちらを発ったらしいぞ」その言葉に、水槽の中に、逆さまで浮いている人間は歓喜の表情を浮かべる。もっとも、常に近くに繋がれているエイワスにしかその表情の変化は読みとれないだろうが。「……長かった、実に、長かった」無感情な声で、人間――アレイスター・クロウリーは呟く。効率にこだわる彼らしくない、意味もない言葉を吐く。「さあ、来るがいい…私の計画の道具たちよ」そう言って、彼は凶悪な笑みを浮かべる。(……道具、か)(果たして、その道具はどんな可能性を見せてくれるのだろうな)黙々とプランの遂行を第一とする人間と、世界を楽しむ少なくとも、人ではないモノ。2つの存在は、あまりにも共に居るには真逆であった。「……成程、こりゃ壮観だね。駆動鎧が数百か」「……どうする?ここが予定地点だが」「構わねえよ、ここで着陸しろ」垣根帝督が、不安は無いという風に言い放つ。そう言われては、従うしかなかった。音も、衝撃もほとんどなく、戦闘機が着陸する。そして、ゆっくりとハッチが開いていく。一同は、あまりにも無防備に外に出る垣根に続く。
「―――動くな!」声のした方に目を向ければ、指揮官らしい男と、その補佐らしい男が立っている。「貴様たちは殺さず確保しろ、という命令が出ている…大人しくしてもらおうか」「……断る、と言ったら?」「無傷で連れてこい、という話ではないからな……少々痛い目を見てもらおう」その言葉に、それぞれがいつ撃ってきても大丈夫なように構える。しかし。「おっと!残念ながらAIMジャマーが起動している……能力は使えないぞ?」「くっ…」能力が封じられれば、大幅に彼らの力は削がれる。能力なしで戦える者も居るが、この状況ではあまりにも無力である。これでチェックメイト。……そのはずだった。
指揮官らしき男は、視界の端に、自分の補佐が懐から何かを出すのを見た。(あれは…何だ…黒い…ナイ、フ?)そこまで考えてから気付くが、既に遅い。それはAIMジャマーに向けられた。「……残念でしたね」切っ先を向けられた機械が、どんどんと分解されていく。そうして、その現象を起こした男は仮の姿を捨て、さらにまた違った姿となる。「内部に敵が居るのは考えなかったのですか?やれやれ…不用心すぎますよ」「海原…光貴…ッ!」「またそっちですか…ホント、本名で呼ばれませんね」余裕そうに、海原が告げる。それが癇に障っつのか、指揮官は激昂し、叫ぶ。「……殺せっ!今すぐに!」数体の駆動鎧が、彼に銃口を向ける。だが、トリガーを引く前に、それらは忽然と姿を消した。
「……ちょっと埋まっちゃったけど、いいかしらね」「いいんですのよ。お姉様の敵ですもの」入れ替わるように、二人の少女が現れる。「黒子っ!?それに――」「話は後ですのよ、お姉様……今は目の前の敵を!」そう言いながら、風紀委員の腕章を着けた少女は跳躍する。己の信じるものの敵を討つために。「そういうこと…挨拶は後にしてくれる?」そう言い放つ少女は、軍用ライトをかざし、次々と対象を跳ばしていく。そして、戦闘が始まる。圧倒的な蹂躙を、戦闘と呼べるのなら。
「……黒子」「お姉様…言いたいことが沢山あるでしょうが、黒子の答は一つですの」「……え?」「お姉様の正義が、わたくしの正義ですのよ」その瞳に迷いは無く、偽りなどは見受けられない。だが。「お姉様、黒子はかつて、正義のためならばお姉様の敵にもなると言いました」「そうよ…それなのにどうして―――」「決まっていますの、そもそもお姉様がそんな間違った道を歩むはずなどないのですから」それは、全幅の信頼。学園都市よりも、美琴を大切に思う、後輩からの強い信頼。「ありがとう、黒子…私って、ホント幸せ者ね」「……お久しぶりですね」「そうだな、海原…で、いいのか?」「本名は、エツァリです。そちらでも構いませんよ」そうか、と上条は頷く。少し間を空けて、エツァリが口を開く。「約束は、覚えていますね?」「ああ…お前だけじゃなく、アイツ自身にも誓ったよ、御坂美琴とその世界を守る…ってな」それならいいんです、とエツァリが返し、また間が開く。「…御坂さんを、頼みますよ」「ああ…わかってる」
「……さて、俺はコイツらと暴れてるから、お前らはとっとと行ってこい」唐突に、垣根帝督が告げる。「オマエ、良いのか?アレイスターに随分執着してただろォが…」「執着、ね」垣根が目を閉じながら、続ける。「確かにそうだった…だがな、今はそうでもねえんだよ。お前らに毒されたのかもな」「ふゥン…」「行けよ、さっさと馬鹿をぶちのめしてこい……後でメシくらい奢ってやる」「は、オマエに奢られるほど貧乏じゃねェよ」「言ってろ、借金ある癖に」
「……おかえりなさい」「あ?ああ…お前かよ」現れたのはドレスの少女。ゆっくりと、垣根の傍に寄る。「……約束は覚えてるよな?」「ああ、あなたと付き合うってヤツ?いいけど、ホントに浮気しないのかしら?」「オイオイ、信用ねえな…」「だって、見た目からして軽そうじゃない?」うぐ、と垣根が呻く。どうやら、以前にも言われたことがあるらしい。「……ったく、締まらねえな」
「そうでもないわよ、ホラ、リーダー頑張って!」「うわあ、すっげえ心がこもってねえ」愚痴りながらも、垣根は懐から通信機を取り出す。そして、「―――行くぞ、『暗部連合(リヴォルト・ユニオン)』の初仕事だ」やっぱりネーミングセンス無いわね、という突っ込みが背後から聞こえた。
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