美琴「え……?」 ある日の放課後、御坂美琴は一人常盤台中学学生寮の裏庭で立ち尽くしていた。 両手に猫缶を抱え、秘密の日課である野良猫たちへの餌やりをしようとここに来ていた。 もっとも、日課とは言っても美琴が近づくとみんな逃げてしまうのだが……。美琴「え……?」 美琴はもう一度疑問の声を口にする。 いつもなら美琴が近づくともぬけの殻になるはずのそこに残っているモノがいたからだ。 普通ならぱぁっと目を輝かせて大喜びするところだが、生憎そこにいたのは猫ではなく――禁書「むにゃむにゃ……お腹へったんだよ…………」 意地汚い寝言をつぶやき涎を垂れ流す真っ白な服の少女だった。
禁書「お腹へった」 少しして目を覚ました少女は開口一番空腹を訴えだした。美琴「え?」禁書「お腹へったって言ってるんだよ」美琴「いや、急にそんな事言われても……」禁書「それ」美琴「へ? それ?」禁書「あなたが今持ってる物をくれると嬉しいな♪」ニコッ 目の前の少女が要求するのは美琴の持つ猫缶、では無くもう片方の手に持つビニール袋の中身。 猫缶と一緒に買った美琴の昼飯のサンドイッチである。美琴「いや、これは私のお昼で……」禁書「」ニコニコ 美琴「いや、だから……」禁書「」ニコニコ美琴「はぁ、分かったわよ……」
禁書「あぐあぐモグモグむしゃむしゃ」禁書「ごちそうさま! 量は全然足りないけど助かったんだよ」美琴「はいはいよかったわね。……えーっと、アンタ名前は?」禁書「あ、自己紹介がまだだったね、私の名前はインデックスって言うんだよ」美琴「なにそれ、能力名? それとも通り名? そういうのはいいからちゃんと名前を教えて欲しいんだけど」禁書「だから私の名前はインデックスって言うんだよ! これが本名なんだよ!」美琴「え、マジ?」禁書「マジなんだよ」コクリ美琴「…………目次ちゃん?」禁書「その呼ばれ方はなんか嫌かも……」
美琴「で、見たとこインデックスは日本人じゃなさそうだけど一四学区から来たの? 結構遠いわよ?」禁書「一四学区っていうのがどこなのかは知らないけど多分違うんだよ。私は見ての通り教会の者だから。あ、バチカンじゃなくてイギリス清教のほうだね」美琴「(見ての通り?)宗教関係者か、じゃあ一二学区から?」禁書「だからそのナントカ学区っていうのはよく分かんないんだよ。私は外からここに来たんだから」美琴「分かんないって、そんな訳ないでしょ。この学園都市の外から来たってそのぐらいわかるわよ」禁書「ふーん、ここは学園都市って言うんだ?」美琴「え? まさかアンタそれも知らないの? よくそんなんでここを見学しに来ようなんて思ったわね……」禁書「違うよ」美琴「は? 違うって何がよ?」禁書「見学なんかじゃないよ。だって私はここに逃げこんできたんだからね」
美琴「『外』から逃げてきた、って……なによアンタ、追われてるわけ? 保護者は?」禁書「ううん、いないよ。私はずっと一人で逃げまわってるから」 こんな年端もいかない少女が一人で逃げているという。 普通ならそんな馬鹿なと思うところだ。 が、人間の闇を見たことのある美琴には一概に切って捨てることは出来ない。 美琴「……誰に追われてるの?」 スッ、と目を細め美琴は真剣な表情でインデックスを見つめる、が禁書「魔術師だよ」美琴「………………はぁ?」
美琴「魔術師って、あの魔術師?」禁書「うん、魔術師」美琴「能力者じゃなくて?」禁書「うん」美琴「……………………はぁ…………」禁書「あ! なにかなそのため息は! 信じてないの!?」美琴「だって、アンタ、言うに事欠いて魔術って……」 禁書「魔術は本当にあるんだよ!」美琴「へぇ、じゃあその魔術とやらを見せてみなさいよ」禁書「わ、私は魔翌力が無いから魔術が使えないんだよ……」美琴「へえ、ふうん、そおなんだぁ、たいへんねぇ」禁書「ムッキー!! じゃ、じゃあこの服! これはね、歩く教会って言う極上の防御結界なんだよ! これを着てればあらゆる攻撃から身を守れるんだからね!」
目の前で自らの服について熱弁を振るう少女を見て美琴は大きく溜息をつく。 あらゆる攻撃を防ぐってどこぞの第一位でもあるまいし、と。美琴「あらゆる攻撃を防ぐのよね? ならもちろん電撃も防げるのよね?」禁書「当たり前なんだよ!」美琴「ふーん……えい」ビリビリ 空想好きな目の前の少女を少々驚かせてやろう、そう思い電撃を目の前の少女に放った。 とある無能力者の少年に放つような強力なものではなく、最新の注意を払って演算したごくごく弱い電撃をだ。だが――禁書「……今、何かしたのかな?」フフーン 美琴「え、あ、あれ? そんなはずは……。も、もう一度よ!」 もう一度、先程と同じ電撃を放つがインデックスは平気そうにニヤニヤとしている。 それならばと徐々に出力を上げて何度となく電撃を放つがその尽くを防がれる。美琴「そ、そんな……」禁書「ふっふーん、どうかな? これで魔術を信じる気になったかな?」 事ここに至り、ようやくこの少女が只者でないことに美琴は気づいた。
美琴(まさか、本当に魔術!? いやでも、あの馬鹿みたいな能力者って可能性も……)
美琴「ちょっとそのフード貸してもらっていい?」禁書「うん、いいよ」 超能力は物には宿らない。 だからもしこのフードだけで美琴の電撃を防ぐことが出来れば――美琴「………………」 禁書「ね?」 すなわち超能力以外の異能の力、『魔術』がある事の証明にほかならない。 そしてそれはインデックスが『魔術師』に追われていることが本当であることも意味していた。
美琴「……疑って悪かったわ。さすがにこんなの見せられたら信じないわけにはいかないわよね」禁書「うんうん、分かればいいんだよ」美琴「で、なんでアンタは狙われてるのよ? その服が狙われてるとか?」禁書「たしかにこの服も貴重品だけど、それよりも私の持っている10万3000冊の魔道書を狙ってるんだと思うんだよ」美琴「10万3000冊って、その年で図書館でも持ってるの?」禁書「ううん、違うよ。全部持ち歩いてるよ」美琴「…………はぁ?」
美琴(それも魔術とやらで何とかしてるのかしら……ほんと何でもありね) 美琴「まぁ、いいわ……で、アンタはこれからどうするのよ?」禁書「んー、とりあえず教会まで行こうかなって。そこまで逃げきれれば匿ってもらえるから」美琴「その教会はどこにあんのよ?」禁書「ロンドン」美琴「遠っ! そんなとこまで逃げ切れるわけないじゃない!」禁書「あ、大丈夫だよ。日本にも支部はいくつかあると思うし」美琴「…………一人でそこまで行くつもり? 私に助けを求めたりしないの?」禁書「大丈夫だよ、今までも一人で何とか逃げてきたし」美琴「…………そう、頑張ってね」禁書「うん、サンドイッチ美味しかったんだよ」
ばいばい、と手を振り去って行くインデックスを見送りながら美琴は考えていた。 大丈夫だよ、と言うインデックスに美琴が食い下がらなかったのは理由がある。 経験上あの手のタイプは口で言っても協力を拒む。 それは自身が身を持って分かっている。 なら方法はひとつ、こっちから相手の事情に土足でずかずかと踏み込み巻き込まれてやればいい美琴(ったく、私もあの馬鹿の事言えないわね……) 小さく苦笑した美琴はポケットからチョーカー型の小さな機械を取り出した。
禁書「はあ……はあ……」ステイル「まったく、手間をかけさせてくれるね。けど、鬼ごっこの時間はもうおしまいだ」禁書「わ、私はまだ捕まるわけにはいかないんだよ……」 だが言葉とは裏腹にインデックスの足取りはおぼつかない。 そして程なく足に力が入らなくなり、ペタリと座り込んでしまう。ステイル「もう、諦めたまえ。君は一人でよく逃げたよ。誰にも助けを求めずに、ね」 そう、インデックスはずっと一人で逃げ続けていた。 誰かと何気ない会話をしたのも本当に久しぶりだった。 助けて欲しい、どれほどその言葉を口にしたかったか。 衝動を抑えこむのに必死だった。ステイル「……一応、誰にも追跡されないように細心の注意を払ったんだけどね」禁書「え?」美琴「よーっす、また会ったわねインデックス」
ステイル「誰だい君は?」美琴「私? 私は御坂美琴って言うんだけど、知らない? ここじゃ結構有名人なんだけどね、不本意なことに」ステイル「……いや、全く存じ上げないね」 軽口を叩きつつ、内心ステイル=マグヌスは歯噛みしていた。 面識はないが、目の前の少女のことをステイルは『知っている』 ステイルが学園都市に潜入するに当たって、交戦を禁じられた人物の一人。 学園都市の頂点たるLv5の一角、超電磁砲・御坂美琴。 交戦を禁じられたのは学園都市側にとって重要人物だから、と言うわけではない。ステイル(お前じゃ勝ち目がないから逃げるにゃー、だって? 冗談じゃない!)禁書「な、なんで……」美琴「ん? ちょろーっと気になってね、あのまんま放っておくのも寝覚めが悪くなりそうだし」 禁書「な、何を言ってるのかな!? そんな「あーもーうっさいわね!」」美琴「文句はコイツをささっと倒した後に聞いてあげるからちょっと黙ってなさい!」
ステイル「ささっと? 簡単に言ってくれるね、僕がどういう人間だか分かってるのかい?」美琴「ええ、こっちはよく存じ上げてるわ『魔術師さん』」ステイル「……! やれやれ参ったね、女性を手に掛けるのは気乗りしないんだが」美琴「そう? 結構紳士なのね。ここで引くなら見逃してあげなくもないわよ?」ステイル「全く、素晴らしい提案だね!『Fortis931』」 瞬間、ステイルの纏う空気が変化した。 それは以前美琴が相対した学園都市第一位が纏う空気によく似たもの。 人殺しの纏う空気。美琴(こいつも『そっち側』ってわけね!)ステイル「炎よ、巨人に苦痛の贈り物を!!」 ステイルが言葉を発すると同時に燃え盛る炎が美琴へと襲いかかる。 彼女程度の運動能力では到底避けきれない速度で。だが―― ズガガガガガ!!!! どこからともなく飛来した数本の鉄骨が美琴を守るように地面に突き刺さった。 美琴「あっつー……。アンタねぇ、よりにもよって真夏に炎とか何考えてるのよ……ったく」ステイル「ちっ……」
ステイル「なるほど、さすがは『Lv5』って奴か」美琴「あれ、知ってたんだ?」ステイル「当然だろう? これから自分が向かう所の情報ぐらい調べるものさ」美琴「へー……」チラッ禁書「わ、私は急なことだったから仕方なかったんだよ!」ステイル「そして当然、ターゲットを追い込む時は入念な下準備をするものさ」ステイル「顕現せよ! 『イノケンティウス』」 先程の炎とは比較にならない力を秘めた炎の巨人が美琴の前に立ちふさがった。
美琴「それがアンタの切り札ってわけ?」ステイル「ああ、名はイノケンティウス。『必ず殺す』って意味さ」美琴「そ、折角のご登場だけどすぐに退場してもらうわ。ったく、暑くてしょうがないわよ……」 美琴はポケットからコインを取り出し、炎の巨人に狙いをつける。 それはつまり、彼女の必殺技の使用を意味している。美琴「吹っ飛べ!!!」 ゴガン!!!!!! 美琴の右手から音速の数倍で射出されたコインは衝撃波で周囲に破壊を撒き散らしながら巨人へと進む。 そしてそのまま巨人を吹き飛ばし、地面に大穴をあけた。ステイル「なっ!」 超電磁砲の力を目の当たりにしたステイルは驚愕をあらわにする。 そんな事にお構い無く、止めを刺すために美琴は放心するステイルの目の前まで歩み寄る。美琴「これでゲームオーバーね」 そう言って体の自由を奪う程度の電撃を放とうとした瞬間、ステイルの口角が釣り上がった。
禁書「だめーーー!!!!」美琴「!!!?」 ドン! と突如横合いから体当たりをしてきたインデックスの勢いに押され、美琴は地面に転がった。美琴「~っ痛ー! な、何すん……!」 美琴は驚愕した。なぜなら、つい今しがた倒したはずの炎の巨人がそこにいるのだ。美琴「そんな!? 粉々にふっ飛ばしたはずなのに!」ステイル「ちっ、余計なことを!」禁書「大丈夫? 怪我はない?」美琴「アンタのおかげでなんとか、ね。しっかし、助けに来て逆に助けられるなんてね……」禁書「あなたは私のために戦ってくれてるんだもん、これぐらい当然なんだよ」ステイル「おしゃべりしてる暇はない! イノケンティウス!」
美琴「くっ! 一回距離を取るわよ!」禁書「え? わ、わわ!」 美琴はインデックスを抱え、電磁力を行使し回避を行う。 勢い余って壁へと激突するが、炎の巨人に身をさらされるよりはマシだろう。 美琴「ぐぅっ!」禁書「だ、大丈夫!?」美琴「へ、平気よこれぐらい。それよりもアンタ、たしか10万3000冊の魔道書を持ってるのよね?」禁書「え? う、うん」美琴「教えなさい、あのムカツク奴の消し方を!」
禁書「『魔女狩りの王』自体を攻撃しても効果は無いんだよ。この辺り一帯に刻まれた『ルーンの刻印』を消さない限り何度も蘇るの」美琴「ルーン?」禁書「うん。『神秘』『秘密』を指し示す二十四の文字にして云々」美琴「講釈はいいから! 対処法!」禁書「えっと、ルーンって言うのは魔術的な意味を持つ文字や図形の事なんだよ。あの魔術師はそれを紙に書いてこの辺り一帯に貼りつけてるみたい」美琴「その紙自体は普通の紙なの?」禁書「うん」美琴「OK、それだけわかれば十分よ。全部電撃で焼き払ってやるわ」ステイル「そんな暇与えると思うかい!」
イノケンティウスを構成しているルーンの刻印は、それこそ無数と言っていいほどの数が張り巡らされていた。 いちいち探して焼き払っていてはそれこそ日付をまたいでも終わらないだろう。 ならどうすればいいか?美琴「心配しなくても、一瞬で済むわ。インデックス、ちょっと眼を閉じてなさい!」禁書「な、なにをするつもり?」美琴「こう、するのよ!」 答えは簡単、全部まとめて焼き払う。ステイル「!!!!!!?」 バリバリバリバリ!!! と美琴を中心とした超広範囲に凄まじい稲妻が荒れ狂った。
美琴「ま、ざっとこんなもんよ。どう、観念した? って、あら?」 今度こそイノケンティウスを完全に撃破され、観念したステイルがそこにいるかと思えば禁書「…………うわぁ」美琴「…………あー」 大規模放電に巻き込まれ、ステイルは完全にのびていた。
美琴「あっちゃー、ちょっとやり過ぎちゃったかな……。コイツには色々問いただそうと思ってたのに」ツンツン禁書「完全にのびちゃってるんだよ。ちょっと焦げ臭いし。これじゃ目を覚ますまで時間かかるかも」ツンツンステイル「」プスプスプス美琴「ま、まあ過ぎたことは言っても仕方ないし、とりあえず警備員にでも連らk「メッセージ、メッセージ。電波法に抵触する攻撃性電磁波を感知」げっ!!!」警備ロボ「電子テロの可能性に備え、電子機器の使用を控えてください」禁書「あ、電動使い魔」美琴「や、やば! 逃げるわよ!」禁書「あ、ま、待って」ヘニャ美琴「ちょ、なにやってんのよ!」禁書「お腹が減って、もう一歩も歩けないんだよ……」グーキュルル美琴「な、そんな場合じゃ「ビービービー」~~~っ! あーもう!」ガバッ禁書「あれ、おぶってくれるの? さっきもそうだったけどあなた結構力持ちだよね」美琴「うるさい! あーもう! こんなの絶対私の役回りじゃないわよ! ばっかやろーーーー!!!」ダーッ
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