白井の言う"感じのいい店"は、美琴から見ても、高評価を下せる場所であった。 外見はどこか古ぼけた洋風の小さな店だったが、内装の方はというと派手すぎず地味すぎず、ちょうど英国のバーのような控えめな洒落っ気を持っている。 にも関わらず暗い感じがしないのは、調度品がほどよく明るい色で揃えられ、ランプ(のような電灯)が温かみのある光を落としていたからだろう。 昼時にも関わらず、それほど広くない店内には彼女たちしか客の姿はない。店主兼コック兼ウェイターである初老の男性も、気を利かせてなのか、それとも元々そういうタイプであるのか、注文を全て出してからはカウンターの奥に引っ込んでいた。「それで、お姉さま」 紅茶で満たされたティーカップを口元から下ろしながら、白井は正面に座る美琴を見た。 二人がけの丸い木製テーブルには、もう食べ終わった皿は残っておらず、あるのは自家製らしいクッキーが一山と、それぞれの紅茶だけである。「ん? なに?」と、美琴。浮かんでいるのは明るい微笑みだ。 茶葉も上質、煎れ方も上手い。近場であれば常連になったかもしれない味に、美琴の機嫌もよいようだった。「いえ、この後はいかがしますの? もしもどこかのショップに寄ると言うのでしたら、わたくしがお送りいたしますが」 敬愛する(白井の場合はそれ以上の)相手が上機嫌であれば、自然とこちらの感情も上向こうというもの。我知らず笑みを零しながら、白井はそう提案した。 ここに来る道中、ゲコ太グッズがなんとか言っていたような気がする手提げバックは、いまも美琴の足元に置かれている。 趣味に対する感想はともかく、白井としては美琴の手助けになれることは問題はない。というか、むしろ歓迎すべきことでもある。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。
下から選んでください: