七月十五日 シャナ、三日目の授業は、何種類かに別れることとなった。 初めてシャナの授業を受ける教師は、前日、前々日と同じ目にあった。 変化があったのは二度目以降の教師だ。 無視を決めつける者、シャナへ反論を行う者、通常の授業を行える者(それは子萌先生くらいだが。彼女だけは、シャナに自爆させられなかった。恐るべき幼女先生である)。 三日目にもなれば、クラスメイト達もなれ、シャナの様子を楽しんでいた。
―――
放課後 上条とシャナは、夕暮れを前にして、第二学区の爆発物の試験場に来ていた。ここならば、邪魔が入らないと上条が提案したからである。上条「本当にくるかな……」 上条は不安に思っていた。わざわざこんなところまで来て、来ませんでしたではとんだ無駄骨だ。シャナ「来なければまた明日もここに来るしかないわね」上条「不幸だ……」 二人が無駄話を十分ほど続けていると、突然、ズン、という衝撃が走った。上条「シャナ!」シャナ「ええ、来たわよ!!」 瞬間、シャナの黒くて艶やかな長い髪と瞳が灼熱に染まる。右手には、大太刀『贄殿遮那』、そして、黒寂びたコートが体を包む。フレイムヘイズとしての彼女が、燃え上がった。シャナ「"狩人"のご登場ね」 その場を埋める様に、薄白い炎が立ち上がる。 地に紋章、周囲に陽炎が残され、囲われた世界が止まった。 薄白い炎、つまり"狩人"による封絶だった。
フリアグネ「やぁおちびさん、よい場所を用意してくれたね」 妙に韻を浮かせた声がする。純白のスーツに、純白の長衣を羽織った美男子、"狩人"フリアグネが、空に浮いていた。シャナ「御託はいいから、早く始めましょう」フリアグネ「やれやれ、やっぱり無粋な子だね、君は。ふふふ、まぁいい」 フリアグネの言葉が終わる前にして、シャナは足裏に爆発を起こして跳んでいた。大太刀『贄殿遮那』を一閃する。 それを余裕の表情で避けたフリアグネは、手袋わはめた掌から、純白の炎玉をはなつ。 シャナは刀の峰を体に叩きつけ、反動で大きく返し、太刀で炎を凪ぎ払った。 音もたてず、両者が着地する。上条「すげぇな……」 上条の身体能力では、空中戦は不可能である。上条は両者と軽く距離を取っていた。シャナ「今日は、お人形遊びじゃないの?」フリアグネ「もちろん、用意してあるとも」 フリアグネが両手を大きく広げる。すると、数十もの薄白い炎が沸き上がった。 その内から、少女型の『お人形』達が姿を現す。
その人形は、カジュアルやゴスロリから、パンクルック、メイド、巫女、水着(当然のようにスクール)、ナース、メガネにブレザー等々……。上条「お前は青ピか!!」 上条が思わず突っ込んだ。フリアグネ「ん? ……まぁいい、じゃあ、やろうか」 戦闘が始まる。 三十は下らないフィギュアが一斉に飛び掛かる。 シャナは、ものすごい勢いで、フィギュアたちを葬っていく。まさに圧倒的だった。数的劣勢をものともしない。上条「くっ!?」 一方、上条のほうにも何匹かフィギュアが来ていた。ただ、上条を殺す気はないらしく、足止め程度である。 上条は、フィギュアが出す炎玉を右手で打ち消し、フィギュアに近づいていく。
シャナは、ランジェリーと、チャイナの上半身をまとめて切り飛ばすと、さらに前に進んだ。 ようやく、本命の薄白い影が見える。 シャナは、その本命・フリアグネを一気に斬りつけようと、踏切の足を地面に打ち付けた。フリアグネ「ふふふ……」 ほぼ同時に、フリアグネが右手の拳、その握りこんだ親指を勢いよく上に向けて弾いた。 ピイン、という音とともに一枚の金貨が舞っていく。どこぞのビリビリ中学生ね代名詞と同様の動きだが、しかし、その金貨は、くるくる回るたびに残像を残し、どこまでもあがってゆく。 シャナの踏み込みに合わせて、金貨の残像を、思い切り降った。その残像は金の鎖となり、シャナの上に降りかかる。
シャナは、金の鎖を切り上げたが、残像の鎖は斬れず、大太刀に絡まる。 シャナは、ようやくこれが、武器殺しの宝具であると理解した。フリアグネ「ふふふ、どうだい、私の『バブルルート』は。その剣がどれほどの業物でも、こいつを斬ることはできないよ」シャナ(なら、持ち主を斬る) 当然のように思ったシャナは、大太刀を引き、フリアグネとの間合いを計った。 周りからフィギュアがにじり寄り、引き合う二人の間にも幾体か入る。 シャナが、どうするか、とフリアグネを見ると、空いた手で、つい、とハンドベルを取り出した。
なにかさせる前に、とシャナは一瞬、引きを強める。フリアグネも引き返す。 瞬間、シャナは、その力を利用して、前へ突進した。 ―――間に入っているフィギュアたちを気にせずに。フリアグネ「ふふふ」 フリアグネが笑い、ハンドベルを鳴らす。 瞬間 シャナの周りのフィギュアたちが凝縮され、破裂した。 轟!!と、大爆発が巻き起こり、シャナがノーバウンドで地面に叩きつけられた。
シャナ「ーッ!!がァァァあああああああああ!!」 もろに大爆発に巻き込まれたシャナは、一発でボロボロになっていた。シャナ「っうぐ!」 シャナの体が動かない。もはや戦闘は不可能な状態だった。上条「シャナ!!」 上条がシャナに駆け寄る。まだ意識がありらしいシャナは、しかし、来るな、と声を出すこともできない。フリアグネ「ははははっ!! 素晴らしい威力だろう、私の『ダンスパーティ』は」上条「ちくしょう……。」 上条は声を上げた。シャナを一撃で潰したフリアグネは、得意気に笑う。上条「お前!! なにが目的なんだ!! この世に勝手に現れて好き放題しやがって!!」 上条が叫ぶ。その様子を見たフリアグネは、にやりと笑い言った。フリアグネ「目的? ふふふ、この"狩人"相手に、そんな啖呵をきれるきみに免じて教えて上げよう」 フリアグネが続けた。フリアグネ「僕の、この世にいる唯一無二の目的は、"都喰らい"を起こし、マリアンヌとの永遠を手に入れることさ!!」
アラストール「馬鹿な、"都喰らい"だと!!」 シャナのペンダントから、アラストールが驚きの声をあげた。上条「なんだ? "都喰らい"って?」フリアグネ「ふふふ、簡単に言うと、とあるひとつの"都"を丸ごと"存在の力"に変化させることだよ」上条「な……っ!?」フリアグネ「すでに準備は整っている。あとは、"御崎市"に戻って仕掛けを発動させるだけさ」アラストール「ありえん!! まさか、あの"棺の織手"の秘法を……」フリアグネ「僕ならできるのさ。そして、その膨大な"存在の力"でマリアンヌは、一つの存在に生まれ変わる!!」上条「ふざけんじゃねえぞ…………」 上条の瞳に、力が宿っていた。
上条は、シャナが来てから、今の戦いの中ですら、一つの迷いを持っていた。 ―――自分が、周りの大切な人たちを、傷つけているのではないか、と。 上条の右手、これを狙ってきた化物、教室への来襲、そして、ボロボロになったシャナ。 全ては、上条の『不幸』のせいなのだ、と思っていた。 自分さえなくなれば、全てがよくなるのでは、と。 しかし、そんな上条は、気付いた。 今、目の前にいる、フリアグネを 自分の『幸福』のために、たくさんの人を犠牲にしようとしている彼を許してはいけない、と。 上条は、誰かを犠牲ににして得る『幸福』なんて、いらない。 それならば、『不幸』のまま、全てを守ってやる、と。上条「いいぜ、てめえが自分勝手に他人を傷つけるっていうんなら」上条「そんな幻想、俺がぶち殺してやる」 ―――"幻想殺し" 上条当麻の戦いが始まる。
上条はフリアグネのもとへ、駆け出した。フリアグネ「おいおい、君を殺すつもりはないんだか……、死なない程度に傷つけるしかないか。いけ」 上条の元へフィギュアが襲ってくる。 上条は、そのフィギュアにたいし、ただ、右手で触れる。 それだけで、フィギュアは消えていった。フリアグネ「へぇ……、やっぱり面白いね、その力。ならこれはどうかな!!」 フィギュアが二体同時に、左右から迫ってくる。上条「ーっ!?」 上条は迷わず、片方に接近する。そして、触れると同時に、後ろに手を勢いよく向けた。 しかし、上条の右手が、フィギュアが触れることはなかった。 フリアグネのハンドベルが鳴る。それに反応したフィギュアが爆発した。
シャナ「!?」少しだけ回復したシャナが立ち上がる。フリアグネ「おや、やりすぎてしまったかな?」 シャナのときほど大きくはないが、人一人なら充分壊せる爆発をもろに受ける。 ―――しかし、上条は倒れない。フリアグネ「なっ!?」 フリアグネはの上条元へ、さらにフィギュア向かわせる。 立ち上がったシャナの元へは、マリアンヌが向かって行った。シャナ「っ!?」 立つだけでも限界に近いシャナは、なんとかマリアンヌと応戦する。
一方、上条はフリアグネへと距離を縮めていった。 もうすでに、爆発を三度、突撃を二度受けている。普通の人間ならば、とっくに倒れるような怪我をして、しかしそれでも 上条は、絶対に止まらない。 フリアグネは、その上条の様子を、じっと観察していた。 "狩人"フリアグネは、"徒"として、獲物の性質を見抜く能力を持っている。そして、彼は鋭い洞察力も持っていた。フリアグネ「……なるほど、君の力の核は右腕か」 フリアグネが呟いて上条を見る。その目には、絶対に倒れない上条への、軽い畏怖が込められていた。フリアグネ「遊びは終わりだ、この『レギュラーシャープⅡ』で、君の力の源を頂くことにするよ」 フリアグネの右手から、以前のより大きなトランプが現れた。フリアグネ「行け!!」 フリアグネの合図とともに、トランプが上条を襲う。 瞬間、上条の右腕が、ひゅんひゅん、と回転しながら宙を舞った。
シャナ「当麻!!」 マリアンヌと戦闘中のシャナが思わず叫んだ。 無理やりマリアンヌを叩き付せる。シャナ「はぁぁぁぁ!!」 シャナは、フリアグネの方へと駆けていった。しかし、まだ大量に残っているフィギュアが邪魔をする。フリアグネ「ふふふ、僕の勝ちだね」 フリアグネが得意そうに笑いシャナを見た。しかし、シャナは、なぜか呆然とフリアグネの後ろを見ていた。フリアグネ「ん? おちびさんいったい何を……なっ!?」 フリアグネは振り向いた。そして、見た 自らの右腕を切り落とされて、それでもなお 向かってくる上条当麻の姿を。
上条「はぁ、はぁ」 満身創痍になりながら、しかし、上条は倒れない。フリアグネ「な、なんなんだお前は!?」 フリアグネが焦りの表情を浮かべながら叫んだ。 上条は何も答えない。しかし、彼の目には力が残っていた。 フリアグネがその姿を見て、凍る。まるで異質のなにかを見ているように。 そして、それは突然起こった。 上条の右腕の切断面。そこから噴き出す血の流れに異常が起きる。 そこから、なにか透明のモノが飛び出した、 顎。 大きさにして二メートルを越すほどの、巨大に強大な、竜王の顎。 牙の一本が空気に触れる。それだけで、世界が変化した。
アラストール「なっ!?」 思わずアラストールが声を上げた。それほどの出来事が起きた。 一瞬にして、封絶が消えた。シャナ「なに、これ……」 シャナが驚きの声をあげる。しかし、変化はまだ止まらない。 シャナの周りにいたフィギュアたちが一斉に消えた。 シャナの黒寂びたコートが消えた。 フリアグネの手にしていた全ての宝具が消えた。 ―――そして、マリアンヌが消えた。
フリアグネ「なっ!? マリアンヌぅぅぅぅぅぅううう!!」 フリアグネが叫ぶ。フリアグネの"都喰らい"は、マリアンヌとの永遠を手に入れるためのものだった。 そして、それに必要な道具は"ダンスパーティ"。 "ダンスパーティ"が壊れたいま、マリアンヌを治して、"御崎市"へ戻っても、"都喰らい"を発動できない。 ―――フリアグネの、全ての幻想が、一瞬にして壊された。フリアグネ「ああああぁぁぁぁぁぁ!!」 フリアグネが叫ぶ。その姿は、白い鳥に変化していた。シャナ「あれは……」アラストール「本来のやつの姿だ。恐らく、人化の自在法も消されたのだろう」 白い鳥と化したフリアグネが、上条へ向かっていく。 上条は、ただ竜王の顎を最大限に開き、フリアグネを迎え、―――頭から呑み込んだ。
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