――― 学園都市から、少し離れたとある市にあるビル。 そこにいる"ご主人様"のもとへ人形は帰ってきていた。人形「ただいま戻りました、フリアグネ様」 人形の前には、長身の男がゆったりとした様子で佇んでいた。 純白のスーツを身に纏い、その上には、同じく純白の長衣を羽織っていた。フリアグネ「あぁ、お帰り、マリアンヌ。まったく、怪我をしているではないか。ほら、こちらへおいで」 線の細い美男子だった。しかし、彼が紡ぐ声は、調律の狂った管楽器のような妙な韻を含んでいた。 "狩人"フリアグネ それが、彼の名前だった。
マリアンヌ「ご主人様、申し訳ございません。勝手に動いてしまって。しかもこの様なんて……」フリアグネ「謝らないでおくれ、マリアンヌ。構ってやれなかった私も悪いんだ。……それに、面白い報告も聞けたしね」 フリアグネは、笑みを浮かべながら続ける。フリアグネ「封絶の中でも動け、私が作った"燐子"を、触れただけで壊す。さらに、それは"徒"でも"フレイムヘイズ"でもないとは。ふふふ、実に面白いね」マリアンヌ「フリアグネ様……」 マリアンヌ、と呼ばれた人形が言う。それに気付いたようにフリアグネは言った。フリアグネ「……"狩人"として、その彼の力が欲しいね。ちょうど"都喰らい"の準備も大方片付いたところだ。マリアンヌ、君との永遠は、もう少しだけ待ってくれるかな?」マリアンヌ「はい。フリアグネ様のお心のままに……」フリアグネ「では、行こうマリアンヌ。その学園都市とやらに」 こうして、"狩人"は、御崎市をあとにした。 "幻想殺し"を狩るために――――
七月十三日 上条当麻は、昨日少女にやられた頭をさすりながら登校する。上条(……頭がまだ痛いってことは、やっぱり昨日のあれは夢じゃないんだな) 昨日。上条は『この世の本当のこと』を教えられた。学園都市に小学生の頃から暮らし、科学が日常だとと思っていた上条に突然降りかかってきた非日常。 上条は最初こそ混乱していたが一日たった今では、思考は落ち着いていた。上条(……この世では、なんの罪もない人が日常的に消えている。それが現実、か……) 上条は、そんな現実は許せない、と思う。しかし、同時にあまりにも昔から続いている『現実』に無力感も感じていた。 上条の右手は"幻想殺し"。『現実』を[ピーーー]ことはできない。
そんなことを考えながら歩いている上条がふと前を見ると、見知った顔を発見した。御坂「またあったわね。昨日はよくも逃げやがってこのっ」 ビリビリ中学生である。名前はお互いに覚えていない。そもそも、友達になろうという仲でもないのだ。上条「……なんだ、ビリビリか」御坂「だっからー!! 私には御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ!! いい加減覚えろ!!」上条「あー、はいはいイササカノミコトさんですねわかります」御坂「全然違うわよー!!」 興奮した御坂の前髪から電撃が飛び出した。 そう。ここは学園都市。超能力育成機関である。 ここにすむ180万人の学生は日々超能力の開発を行っている。 そして、このビリビリ中学生は、学園都市に七人しかいない超能力者のうちの第三位である。
そんな第三位様を右腕一本であしらった上条は、ふと思った。上条(……まさかビリビリ、トーチじゃないよな) 不吉なことを考えた上条は御坂美琴に近づいていく。御坂「なに、ようやくやる気に……ってひゃあ!! 何すんのよ!!」上条「ふぅ、よかったよ」 御坂の頭に触れた上条は、彼女が消えないことに安堵した。 そう。上条にはトーチは見えない。しかし"幻想殺し"はすべての異能を打ち消す。 それが例え、消えた本人の残り滓だとしても。上条「ん、どうしたビリビリ? 顔真っ赤だぞ、夏風邪か?」御坂「死ねー!!」 本日最高の電撃が上条を襲った。上条「うわっなんだよおい、不幸だぁー!!」
――― なんだかんだで時間をとってしまい、遅刻ギリギリで学校へ駆け込む上条。青髪ピアス「なんやー、ギリギリやなーカミやん。また女の子とフラグでも立ててたんかいな」土御門「まぁカミやんはフラグ体質兼不幸体質だからにゃー。大方女の子に追いかけ回されてたんだろうぜい」 話しかけてきたのは、青い髪にピアスを開けた学級委員(男)青髪ピアスと、金髪にサングラス、アロハシャツの大男、土御門元春である。上条「あのなぁ、不幸体質ではあるが、上条さんには駄フラグしか立ちませんよ」小萌「今までド派手な学校生活をエンジョイしてきた上条ちゃんがなにを血迷ったこといってるんですかー?」 突然後ろから聞こえた声の持ち主は、月詠小萌である。 身長は135センチ。昨日の少女よりも小さいこの女性は、これでも上条のクラスの担任である。上条「あれ、一時間目小萌先生の授業でしたっけ?」小萌「いえー、ちょっと上条ちゃんに用事があってきたのです」上条「俺に?」小萌「はい。上条出席日数的に、後一日でも休んだら夏休み補習確定ですからねー。忘れないで下さいね」
上条「あれ、そんな休んでましたっけ、えーと、あれ?」青髪ピアス「まぁカミやん何回か怪我で入院しとったしなー」土御門「ほかにも色々休んでたぜよ」 悪友二人が同意した。じゃあそういうわけでー、と小萌先生は教室から出ていく。上条「はぁ……」 上条はとぼとぼと窓際の後ろのほうにある自分の席へ座る。 青髪ピアスが上条の隣の席に座わりながら言った。青髪ピアス「なぁカミやん、宿題やった? 親船先生のやつ」上条「あぁっ!! 忘れてた。すまん平井さん、宿題見せてく……れ……」 上条は後ろの席にいるであろう同級生平井ゆかりに援助を求めようと振り向いた。 しかし、そこには平井ゆかりの姿はなかった。 そこにいたのは日常の破壊者。 フレイムヘイズの少女。 凛々しい顔立ちに、腰の下まである長く艶やかな髪を背にし、堂々と胸を張って、制服まで着て、あのフレイムヘイズの少女が、座っていた。
上条「なっ、なんであんたがここにいるんだよ!?」少女「お前を狙う奴らを釣るには、やっぱりその近くにいた方がいい、ってアラストールと話したの。ま、私もこういう場所には滅多に来ないし、見物がてら、ってとこ」上条「平井は、どうしたんだ?」少女「ここにいたトーチなら、私がいなくなったからもうなくなったわよ。そして、私が平井ゆかりになった、ってわけ」上条「な……どういうことだよ!! ここにいた平井はどうしなったんだ!!」青髪ピアス「どうしたん、カミやん。大声出して。平井さんと痴話喧嘩かいな?」 青髪ピアスが割り込んできた。しかし、それで上条は正気にもどる。上条「……」少女「思い煩うことなんかないわ。そもそもなにもなくてもこれは消えていたのだから」 上条は、しかし、そこにいた平井ゆかりを覚えている。彼女を忘れたくはなかった。 目の前にいるのは、平井ゆかりではない。クラスメイトたちは、平井ゆかりと呼ぶかもしれないが、上条は彼女をそう呼びたくなかった。上条「……あんたの名前は?」少女「名前?」上条「あぁ、『フレイムヘイズ』なんかじゃない、あんた個人の名前はなんていうんだ?」少女「……」少女は、顔を曇らせた。心なしか、凛々しい顔立ちから寂しさ露にしていた。少女「わたしは、このアラストールと契約したフレイムヘイズ、それだけよ。それ以外に名前なんかない」 胸に下げた、声の出るペンダントをもてあそびながら、少女は小声で答えた。少女「ほかのフレイムヘイズと区別するために、"『贄殿遮那』の"ってつけて、呼ばせてはいたけど」上条「ニエなんとか…?」少女「『贄殿遮那』。私の大太刀の名前」上条「そうか、それじゃあ俺は、あんたを『シャナ』って呼ぶことにする」 平井ゆかり、では彼女はない以上、別の呼び名が必要だった。 かなり簡単に上条は決めたが、シャナと名付けられた少女にとっては、どうでもいいことだった。
シャナ「……勝手にすれば」 と、シャナが答えると同時に授業の予鈴がなる。上条「あれ、シャナ授業とか受けて大丈夫なのか? 開発とか」シャナ「勝手に名付けていきなり呼びつけ? まぁいいけど、開発? は知らないけど授業なんてこんなレベルでしょ?」 シャナが教科書を鞄から取り出す。上条が不幸な予感を感じたとき、一時間目の授業の先生が入ってきた。土御門(……面白くなってきたにゃー) 土御門が二人の様子を見て笑っているのに、上条とシャナは気づいていなかった。
――― 上条の予感は、当たった。 四時間目、数学の授業も終盤に差し掛かっていた。 教室は、静寂と緊張のなかにあった。 原因は、ただ一つ。いや、ただ一人。上条の後ろに座っている少女、シャナだ。 しかし、別にこの小さい少女が何かをしている訳ではない。 そう、彼女はなにもしていないのだ。教科書を閉じて、ノートもとらず、ただ腕を組んで教師を見ていた。 現在授業を行っている数学教師――親船素甘は、そのようすに動揺していた。 少女の視線には、敬意や尊重を全く含んでいないと、気づいてしまったからだ。 別に授業の邪魔になっている訳ではないのだから、放置しておけばよいのだが、親船は、耐えることができなかった。 前の三人の教師同様に――――――上条「はぁ……」 昼休み 先程までの授業を思いだし、上条は心底疲れたようにため息をついた。 ――あの後、シャナは親船の立場や、プライドと言うもののを、言葉だけでぼろぼろにしていた。 午前中四時間あったなかで、唯一小萌先生の授業だけ、その事件は起きなかったが、それでもやはりクラスメイトたちはぐったりとし、昼休みになると一人、また一人と教室を出ていった。 残ったのは、上条とシャナ、それに土御門と青髪ピアスだけである。 シャナは席でメロンパンを頬張っていた。おいしいらしく、すこし頬が緩んでいる。土御門「いやー、平井さんすごかったにゃー」 すこし離れた席に座った三人は話し始めた。青髪ピアス「なぁなぁカミやん、なんかこう、平井さんがあーやって教室達を言葉責めしてるの見ると、なんか興奮せぇへんか?」上条「お前小萌先生のことも好きって言ってたな。ロリコンでMか? 救われねぇな」土御門「カミやん、ロリ馬鹿にするのは許さんぜよ」青髪ピアス「そうやでカミやん、それにボクぁロリのみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる包容力を持ってるんよ?」上条「長いし、一個明らかに女じゃないな」
上条は、ふと思いシャナへとよっていった。上条「なぁシャナ」シャナ「なによ」 買い物袋に入っていた沢山の甘いものは、空になっていた。 この体のどこに入ったんだ、とすこし疑問に思いながら上条は続ける。上条「敵って、いつ来るんだ?」シャナ「さぁね、とりあえず夕方を警戒するけど」 周囲の世界との繋がりを一時的に断つ因果孤立空間、"封絶"は通常、夕方に行われることが多いらしい。上条「夕方か……って夕方!? 下手したら学校に来るかもしれないってことか!?」シャナ「当たり前じゃない、私が何のためにいると思ってんの」上条「……」 上条は、考える。さっきまでの馬鹿みたいな会話。 そんな日常を変えたくない、と。上条(まぁ、昨日の今日だしな、まさかこないだろ……)―――しかし、敵は訪れる。
――― 夕方。ホームルームを終えた教室で上条は胸を撫で下ろしていた。上条(よかった、なにもなくて……) と、上条が急いで帰ろうとした直後 世界が赤に染まった 生徒達が、ピタリと静止する。 奇妙な紋章が回りに浮かびあがる。―――封絶、だった上条「くそっ、あと少しで!!」シャナ「相手に言いなさい。来るわよ」 上条は、教室を見渡す。幸い、ホームルームの後であり、生徒は四人ほどしか残っていなかった。
上条(みんなを安全な場所に避難させないと!) 上条は、まず近くにいたクラスメイト、吹寄制理に駆け寄った。上条「吹寄!!」 ふと、右手で触れば治るのではないか、と思ったが、残念ながら変わらなかった。上条「っ、重い……」 ぼそり、と上条は呟きながら吹寄(巨乳)を運んでいく。その際に、胸が当たるのは、不可抗力である。 吹寄(巨乳おでこ)を廊下側の壁へ放り出す。 再び教室に入ると、まだシャナは、動いていなかった。 ただいつの間にか黒のコートを纏い、右手には『贄殿遮那』を持っていた。 コートを見て、昨日のハプニングを思い出した上条は、頭をブンブンとふり、窓の外を見た。
そこには、小さな何がが浮かんでいた。 それは長方形の、カードのようだった。くるり、とまわると、そこにはスペードのエースが書いてある。 その一枚のカードからはらり、と二枚目が落ちた。続けて、どんどん増え、窓の外を埋め尽くす。 次の瞬間的。轟っ!! という音とともに一斉にカードが教室に雪崩れ込んだ。上条「っ!?」 上条はとっさに右手を前に出した。しかし、その右手にカードが触れることはなかった。 シャナがコートの裾を伸ばし、上条を守ったからだ。シャナは、刺突の構えを取る。そして、跳んだ。カードの流れの一点へ、大太刀を突き立てた。??「っ、がぁぁぁ!!」絶叫が上がり、カードの流れがゆらぐ。 その一瞬を、上条は見失わなかった。上条は右手を振りかぶる。異能の力なら神様の奇跡すらも打ち消す必殺の右手を。 瞬間、トランプが一斉に消えた。
上条は、シャナの方を見ると、シャナの大太刀に粗末な作りの人形が引っ掛かっていた。人形は、体を切られており、その傷口からは、薄白い火花が散っていた。 その薄白い火花が、地面を跳ね、シャナを取り囲んだ。上条「シャナ!!」 人形の傷口から、いきなり大量の火花が飛び出した。それは、一粒一粒がドールの頭に変わり、人形の全身に張り付いた。マリアンヌ「もらったわよ、フレイムヘイズ!!」 叫びとともに、巨大なドールの頭が、上条へと向かう。シャナ「なにを?」 シャナは平然と言うと、跳躍した。 人形の巨躯を刀身に抱えたまま。シャナ「っだあ!!」 シャナが叫び、上条に向かっていたドールを、刀身の人形で叩き潰した。
上条「す、すげぇな……」 唖然とする上条。そんな様子にお構い無く、シャナは無惨な姿になった人形を床に放り落とした。シャナ「おまえの主の名は?」マリアンヌ「わ、たし、が言うとお、もうフ、レイ、ムヘイ、ズ」シャナ「ううん、ただの確認。でもまあ、無駄駒をちょろちょろ出し惜しみするくらいだから、よほどの馬鹿なんだろうけど」??「うふふ、有益な威力偵察、と言って欲しいね」 と、窓の外から声がした。 窓の外にいるのは、長身の男。 純白のスーツと長衣を着た美男子。――"狩人"フリアグネだった。
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