***正午を少しまわった頃。学生寮で熟睡していた工作員が目を覚ました。眠そうに目を擦りながら、真上に太陽が上っているのを確認する。スネーク「…ん、もう昼か」オタコン「やっと起きたのかい。今日は第十一学区の調査をするんだろう?」スネーク「ああ。メタルギアの情報を手に入れる為にな」オタコン「それについてなんだが、君は麻酔銃とスタングレネードしか持っていない。装備を揃えた方がいいんじゃないかな」ポーチの中にはスタングレネードが一つと、麻酔弾のマガジンが二つ。スネーク「確かにこれだけでは心許ないが…どうやって揃えるんだ?学園都市には銃の取り扱い店でもあるのか?」スネーク「この学園都市には『警備員』と呼ばれる治安維持組織が存在する。彼らの装備を拝借するのさ」結局のところ現地調達か。まあ『フィランソロピー』は慢性的な財政難だ。麻酔銃の調達も大変だったろう。ここはその案にスネークも賛成した。スネーク「なるほど。その『警備員』の武器庫の場所は?」オタコン「第二学区に彼らの訓練所がある。そこに装備や試作兵器などが置いてあるらしい」スネーク「分かった。学園都市の最新装備を拝見させていただこう」
到着した『警備員』の訓練所。警備員を眠らせるまでもなく監視カメラや警備ロボットのセキュリティを突破し、武器庫にたどり着いた。そこには最新兵器の更に上を行く兵器が山積みされていた。防弾装備やアサルトライフルだけでなく、試作兵器の大型ショットガンなどもある。警備員が生身での使用を前提とした対障壁用だ。スネーク達にはそんなことはわからないだろうが。スネーク「オタコン、このスプレー缶の様な物は?」オタコン「それは『攪乱の羽』だね。チャフグレネードと似たような電波攪乱兵器の一種さ。金属箔にはマイクロモーターが仕込まれているから、対空時間は非常に長い」スネーク「REXのレーダーやソナーを潰せるかもな。少し貰っていくか」腰のポーチを広げ、『攪乱の羽』を四つほど詰め込んだ。スネーク(ここまで潜入するとなると実弾が欲しいな…)やはりこの先、発砲することも必要になるかもしれない。隠しやすい小型の拳銃を選ぶために、五~六種類の拳銃を眺めていたが、
ビー!! と、警報が鳴り響いた。女声のアナウンスが第一級警報、つまりテロリストの侵入が確定したことを伝える。スネーク「馬鹿な…見つかってはいないハズだぞ!」オタコン「と、とにかくすぐにでも彼らが踏み込んでくるはずだ!急いで逃げるんだ!」しかし、武器庫から逃げ出す前に一人の男が入ってきた。スネーク「クソッ!」品定めしていた最中の銃を構えて男に向ける。安全装置も外し、いつでも引き金を引ける状態で。だが、警備員A「おいおいおい!俺はテロリストじゃないぞ!銃を下ろせって!」スネーク(…?)
スネークの頭に疑問がよぎる。コイツは俺を排除しに入ってきたのではないのか。その疑問に答えるように男は続ける。警備員A「テロリストは第十一学区から侵入してきた。早く着替えるんだ。ブリーフィングに集まるぞ」スネーク「あ、ああ…少し待ってくれ」警備員A「先に行ってるからな。急いで来いよ!」大型のライフル(見た事もない形だったが)を抱えた男は部屋から出て行った。スネーク「どうやらテロリストは俺のことではないようだな」オタコン「どうする? どさくさに紛れて脱出するかい?」スネーク「いや、それより警備員のフリをして第十一学区に入る方が得策だな。テロが起きたのなら出入りが制限されているだろう」オタコン「警備員に紛れて潜り込むということか。多少危険も孕むが、構わないのかい?」スネーク「それ以外の方法が無い。これより警備員のブリーフィングに向かう」
会議室には同じ格好をした警備員が二十人ほど集まっていた。黄泉川「全員集まったか?これから十一学区を襲撃したテロリストの対策会議を始めるじゃんよ」黄泉川「テロリストはロシア系で、数は二十人ほどじゃん。そのほとんどがライフルで武装しているじゃん」警備員A「テロリストの要求は?」先程部屋に入ってきた警備員の質問だ。黄泉川「彼らの要求は二つ。一つは学園都市で開発されている新型兵器の開発を中止すること」新型兵器、というのはメタルギアの事だろうか。日夜軍事開発を行っている学園都市で断定は出来ないが。じゃんじゃんとやかましいなこのジャージ女はなどと内心思いながら適当に聞き流していたが、黄泉川「もう一つは、リキッド・スネークとかいう人物のDNAマップの提供じゃん」
心臓が止まったかと思った。リキッド・スネークだと?彼は、SMI事件で未知のウイルス『FOXDIE』によって死亡したはずだった。スネーク(奴の遺伝子情報を、学園都市が……?)あの『恐るべき子供達』計画を学園都市は行おうとしているのだろうか。そして、テロリストはそれを手に入れて何をするつもりなのか。クローンの製作か、それともゲノム兵の復元か。はたまた、ソルジャー遺伝子の解析か。
スネークはまた面倒で危険な仕事を増やそうとしていたが、それを察知したオタコンから通信が入ってきた。オタコン「落ち着け。君の仕事はメタルギアの調査であって、リキッドの事まで気にかける必要はない。余計な事は考えるな」スネーク(ぐぬぅ…)声は発さず、歯ぎしりをする。黄泉川「要求が飲まれなかった場合、都市部に核を撃ち込む、とも言っているじゃん」警備員B「核だと? どこから撃ち込むつもりなんだ?」黄泉川「戦術核兵器……個人で携行可能な核兵器を奴らは所持している、とのことだ」警備員B「!! そんな物を人口の密集する場所に撃ち込まれたら…」黄泉川「第十一学区の封鎖をしていても、放射能汚染による被害は免れないじゃん」警備員C「要求を飲む、という選択肢は?」
テロリストの要求は、スネーク達の目的に繋がっているかもしれない。ここで学園都市が彼らに従えば、メタルギアの計画が凍結する……かもしれないし、戦闘に参加する必要はなくなるのだが、黄泉川「上としては、その選択肢は存在しないらしい」スネークは心の中で舌打ちした。何十、何百もの市民の安全より、兵器開発の方が優先されるというのか。だが、腐った上層部の下には有能な部下がいるもので、黄泉川「だから、最優先目標は戦術核兵器の確保。子供達への被害はなんとしてでも食い止めるじゃん」
***スネークの紛れる警備員は、第十一学区の商業ビル群に身を潜めていた。その中の一つのビルを、テロリストは占拠していた。黄泉川「ここからなら奴らが良く見えるじゃん」黄泉川は監視カメラの映像と自分の目で、ビルの構造と敵の死角を確かめていた。見晴らしの良い屋上から警備を確認する。そこへ、暗視カメラを用いてビル内の状況を調べていた女教師がやって来た。警備員D「報告します。奴らは見張りを地上全ての入り口及び屋上に置いています。例の核は最上階近く、都市部を見下ろせる場所にあります」黄泉川「分かった。全員集めるじゃん。作戦の説明するから」了解しました、と彼女は持ち場に戻ろうとした。が、黄泉川はそれを引き留め、黄泉川「あと、MSR-001を三丁と、兵員射出用カタパルトを用意してほしいじゃん」警備員D「はぁ……」彼女は何がしたいのか良くわからない、という表情を浮かべていたが、警備員D「それにしても磁力狙撃砲って…彼らは射[ピーーー]るんですか……?」やはりMSR-001という単語に食いついてきた。敵といえども人を[ピーーー]のは抵抗があるのだろう。テロリストを慈しむような彼女の発言にどう答えようか少し迷ったが、黄泉川「……私は子供に銃は向けない主義だけど、子供のために銃を向けるのは躊躇しないじゃんよ。ま、うまく事が進めば人は死ななくてもすむかもしれないじゃん」警備員D「…はい。それでは皆さんを集めてきます」
***ビルの会議室に警備員は集まっていた。黄泉川と名乗る女の作戦はこうだ。班を三つに分け、一つの班はテロリストと交渉して時間を稼ぐ。二つ目の班は一階から監視の目を避けて核を無効化させる。最後の班は二つ目の班が失敗した場合、屋上の警備を無力化した上でカタパルトによるダイナミックエントリーを目指す。スネーク(そのための狙撃銃か…)黄泉川と名乗る女性はかなりの美人だが、平和ボケした甘い考えで自らの首を絞める程無能でも無いようだ。彼女の分けた班では、スネークは運よく二つ目の班だった。二人の仲間とチームで潜入する。スネーク(単独潜入なら得意なんだがな…)スネークの任務はほぼ単独潜入のため、こういった実戦のチームプレイに慣れていない。複数人での潜入などFOXHOUNDの訓練以来だ。スネーク(落ち着け、訓練を思い出せ…)深呼吸してから、ビルへ向かった。テロリストの占拠する高層ビルへ、仲間と共に。
彼らが占拠しているのは商業ビルで、軍事施設と比べて監視カメラの数は格段に少ない。加えてフロアの数も多いため、警備員の侵入を警戒し巡回を行うのも難しい。言ってしまえば、警備はザルなのだ。スネーク達は入口の見張りを無力化し、階段を使って八階まで来ていた。九階に上る階段を上がる途中だったが、突然、テロリストと鉢合わせた。テロリストA「誰ーーー!」覆面を被っていたが、驚きの表情を浮かべていたであろう。彼が冷静さを取り戻す前に、スネークは拳をテロリストの顔面に叩きつけた。グシャァ!と潰れるような音が響き、彼はその場で倒れ込んだ。意識を失い、鼻が不自然に曲がっている。
目の前の脅威を排除したことに一安心している暇もなく、テロリストB「どうした?誰かいたのか?」もう一人の見張りに異変を察知されたようだ。仲間の警備員達にロシア語は分からないが、怪しまれていることはわかる。潜入失敗の報告をしようと無線機に手をかけたが、スネークがそれを手で制する。スネーク「ああ、書類を踏んづけてしまっただけだ。異常は無い」流暢なロシア語で誤魔化した。スネークは六ヶ国語に加え謎のサル語まで介することが可能なマルチリンガルなのだ。納得した様子で持ち場に戻るテロリストに驚いていた仲間達だったが、すぐに表情を引き締め階段を上り始めた。核弾頭は最上階の二十五階で発射可能な状態だ。
警備の目を盗み、監視カメラの死角を探しながら二十五階まで到達した。スネーク(敵の警備状況はーーー)核弾頭の近くに二人、巡回しているのが三人、交渉を行うリーダーと思われる人物が一人、このフロアのテロリストは計六人だ。仲間と作戦を練った結果、まず巡回している三人を排除することにした。
***自分達が行動を起こした理由。敵の本拠地である学園都市でテロを起こした理由は簡単だ。今すぐにでも起こるであろう、祖国ロシアと学園都市の戦争。生まれ育った地を核の炎で焼き尽くさんとする脅威を取り除く為にここでテロを起こした。現在は学園都市の上層部と交渉をしている。その交渉の最中でーーードサッ と、人が倒れ込むような音に気が付いた。頭上に?マークを浮かべて、ヘッドセットを付けたまま振り返ると、数分前と同じように警備についている者はいなかった。一人は眠りこけたようにいびきをかいて、一人は何か恐ろしい物でも見たように泡を吹いて気絶していて、一人は口を封じられ、うつ伏せに押さえつけられていた。反射的にライフルを構えて見えない敵に銃口を向けるも、手遅れだった。右から、左から、後方から、三つの銃口が自分を取り囲んでいる。完全に詰んだ。
***核弾頭を二人の仲間に確保させ、スネークはリーダー格の男から情報を聞き出そうとしていた。スネーク「少し聞かせてもらおうか。学園都市の新型兵器……それはなんだ?どこにある?」リーダー「……メタル、ギア」やはり、彼らの要求はメタルギアだったようだ。リーダー「…そいつは第二三学区でテスト中だ。対ロシアのステルス核も含めてな」学園都市で開発されているメタルギアを仮に「改良型REX」としておこう。その改良型REXには、プロトタイプの一番恐ろしい部分も受け継がれているようだ。スネーク「もう貴様に用はないが…一応聞いておこう。なぜリキッドのDNAを?」リーダー「学園都市はREXのデータと同時に、リキッド・スネークの遺伝子情報も保管している。何をするつもりかまでは知らないが」スネーク「そうか。それさえ聞けばもういい。少し寝ていろ」リーダー「!!貴様、何をーーーー」懐から麻酔銃を引き抜き、引き金を引いた。ANEST弾は男の眉間に突き刺さり、静かになった。
それと同時に、下の階を制圧した警備員がドアを突き破って入って来た。スネーク「少し仕事が入ってしまった。事後処理を頼む」了解しました、と一緒に潜入した二人が答える。行くべき場所はわかった。目的地は第二三学区。そこに改良型REXがある。オタコン「仕事は終わったようだね」スネーク「ああ。そしてメタルギアは第二三学区にあるらしい」オタコン「第二三学区か…多くの研究所や実験施設があるからね…一つ一つ確認していくしかないな」スネーク「そうだな。第二三学区にはどうやって行けばいい?」オタコン「多くの資材が運び込まれているはずだから、貨物列車に相乗りさせてもらうというのは?」スネーク「なるほど。ここから一番近い駅はどこだ?」
***第二三学区には、学園都市と海外を結ぶ空港だけでなく、航空・宇宙開発分野の研究所もある。科学技術は平和利用の為だけではない。気に入らない相手を消し飛ばす為にも使われる。そして、この研究所でも都市を一つ地図の上から消し去る悪魔の兵器が開発されていた。その兵器こそがメタルギア。そして、それを遠巻きに眺めている、浅黒い肌の金髪の男はーーーー
***浜面仕上は逃走していた。死者の鮮血や内臓を踏み潰して追いかけてくる「怪物」から。学園都市の第四位に君臨する女から。レベル5の一人、麦野沈利から。
***貨物の中に、リストに記入されていないダンボール箱が紛れていた。「第二三学区行き」と書かれているが、その中身はICチップでも人工衛星のパーツでもない。スネーク(やはり一番落ち着く格好だ)スーツを着た一人の男が入っている。第二三学区の駅に着いて、コンテナを運び出す前にクレーン群がそびえ立つ資材集積所から離れた。ダンボール箱を捨ててしまうのは惜しかったが、脇に挟んで施設に潜入するのは気が引けた。
施設を一箇所ずつ入念にチェックしていく。地下に大きな空間が無いか、巨大なエレベーターは無いか。スネーク「ここもハズレか……」オタコン「となると、残るはあのロケット発射管制センターだけだね」スネーク「俺は最初からあそこが怪しいと踏んでいたんだがな……」オタコン「そんな事を言われても…まあ、気を付けて潜入してくれ」あの施設の地下に改良型REXがあるとするならば、警備は今までより厳しいはずだ。隣接している航空機試験場からは激しい音が響いている。何か実験でもしているのだろうか。
しかし、決心だけで上手くいく物ではない。無線機を懐にしまった途端、ジリジリジリジリ!!!と警報が鳴り響いた。いつの間にか自分の後ろに立っていた少女ーーーーあの少年の家にいた電撃使いーーーにそっくりな風貌だったが、電磁波や磁力線を読み取る為のゴーグル、右手の小型警報装置。超電磁砲の量産型クローン『妹達』の一人だ。(スネークは知らないだろうが)そして彼女はこう告げる。
その時、懐の無線機がコール音を発した。スネーク「クソ、発見されてしまった、オタコン!……オタコン?」コーデックに表示された周波数はいつものオタコンの物では無かった。そして、そこから聞こえてくる声も。???「スネーク!早くそこから逃げろ!その建物に『六枚羽』が向かっている!」この声は。コーデックのディスプレイに表示された、この顔は。スネーク「ナスターシャ!何故ここに?!」ナスターシャ「説明している時間は無い!とにかく、早くその建物から離れーーー」彼女が言い終える前に、空気を切り裂く鋭い音が会話を遮断した。
ミサカ「本家スネークにも気付かれず尾行できるとは中々の実力、とミサカ17600号は警報を鳴らしながら自画自賛します」スネークにわかっていたのは、この少女に後をつけられていた事。ミサカ「さて、『アレ』が来る前にさっさと退散しておきましょう。とミサカは小型ブースターで逃走を計ります。あ~ばよ~、とっつぁ~ん」スネーク「待て!」そして何だかよくわからないが、『アレ』が来る事。
どうであれ、あの管制センターの下にREXが眠っている可能性が高い。今回最後のスニーキング・ミッションだ。気を引き締めて取り掛かろう、そう決心した。
冷たい機械は一時の静寂も与える事なく攻撃を仕掛けてくる。摩擦弾頭。特殊な溝によって数千度にまで達した火の弾は、スネークの立っている床ごと燃やし尽くす。発射される寸前に横に跳躍していなければ、丸焦げどころではない骨も残さぬ死体になっていただろう。ナスターシャ「隣の建物が見えるか?あの建物の中には空挺下降実験の為の兵器が置いてあるはずだ」スネーク「アレを落とせと言うのか!?逃げ切る方法は……」ナスターシャ「無駄だ。『六枚羽』のレーダーは熱源感知や地上のセキュリティとリンクしている。君を逃がす事はないだろう」撃墜するしか無い、か。しかし、この施設からどうやって脱出する?非常用の階段も燃えている。エレベーターは勿論停止している。
摩擦弾頭の影響で床には穴が空いていたが、それほど大きい物でもなく、淵は高熱によって溶かされていた。対して、壁には大きな穴が空いている。直径3m程の穴から地面を見下ろす。この高さなら地上へ飛び降りることもできるだろう。しかし、戦闘ヘリがそれを許さない。穴から出てくるネズミを待ち構えるように『六枚羽』は居座っている。ソイツは今にも摩擦弾頭、もしくは羽に取り付けられた対地ミサイルを放ってくるだろう。機械と人間がお互いに睨み合いながら、先に相手が動くのを待っている。スネーク(……来い!)スネークの心の中の呼びかけに応じるかのように、羽の後ろからバックブラストが噴出した。ミサイルの反動を打ち消すための噴射炎を見てとったスネークは、迷わず、前方の穴に飛び込んだ。
発射された対地ミサイルは、すれ違うようにスネークの飛び出した穴に飛び込んで行った。直後、屋内でミサイルが爆発した。戦車を行動不能にする爆風と衝撃波は、建物だけでなくスネークの背中にも襲い掛かる。スネーク「ぐぁ…!」態勢を崩したスネークは地面に背中から叩きつけられる。体の芯まで響くダメージが全身を襲うが、致命傷は避けられた。呼吸を整え直しながら、隣の空挺実験施設に向かう。『六枚羽』の攻撃をかいくぐって、実験施設まで到達した。実験施設には様々な兵器があった。サイドアームの拳銃。赤子でも扱える軽反動のライフル。拳銃サイズのグレネードランチャー。『試作品』にカテゴライズされている大型銃。だが、どれもヘリの装甲を撃ち抜く威力は期待出来ない。
そこで目に入ったのが、スネーク「メタルイーターMXか…」湾岸戦争で2000m先の戦車を破壊した伝説を持つアンチマテリアルライフル、M82A1。そのイカれた破壊力の銃をフルオート化したこのメタルイーター。どんな頭の構造をすれば、そんな突飛な発明ができるのか。しかし、コイツの破壊力を持ってすれば、あのヘリを装甲を『メタルイーター』の名の下に喰い破ることができるだろう。『六枚羽』の攻撃が続くなか、鉄を喰す怪物を肩に掛け、屋上へ向かった。
『六枚羽』はスネークを見失う事はない。様々なセキュリティとリンクして、学園都市の内部ならばどんな人物の位置情報も特定できる。スネークもその事を知っていた。それを理解した上で屋上へ向かったのも、理由があった。スネーク(六枚の羽のベクトルは上方向には限定される)自分のローターを焼き尽くしたり、ミサイルを微塵切りにしないためだ。スネーク(自分がその範囲に入る前に先制する!)屋上へ到達し一息つく余裕を残して、ローター音が迫ってくる。セキュリティシステムとの情報互換に若干のタイムラグがあるためだ。匍匐の態勢でメタルイーターを構え、スコープを覗き込む。予想通りの場所、スコープの照準の中心にヘリのローターが見えた。その瞬間を狙って、スネークは引き金を引く。
ズダダダダァン!!と毎秒十二発のスピードで、重機関銃並の銃弾が飛び出す。六発のうち、四発はローターに命中。『六枚羽』の推力である回転体と本体を引き千切った。慣性の法則に従って上昇を続ける本体も、少しして地面に落下した。派手な爆発を起こし、爆風の衝撃波が建物を軋ませる。一階から倒壊する前に地上に降りなくては。幸い、施設が施設なので素早く降下する事には問題ない。一つ階を下ったあと、パラシュートを取り付けて窓から飛び降りた。炎が夕焼けのように辺りを照らすなか、REXのあるロケット発射管制センターの入り口に降り立つ。いつの間にか警報は止まっていた。それについてナスターシャに尋ねると、こう説明された。ナスターシャ「テロの後始末、危険因子の抹殺、攻撃ヘリの出動その他諸々でコンピュータが熱暴走している。…」警備システムもしばらく復帰しないらしい。今がチャンスと言う事か。棚ぼたの展開に甘えて、このままREXを破壊することにした。
地下に至る道を探しながら、スネークはナスターシャに質問していく。スネーク「君が情報提供者だったのか…どうしていままで連絡してこなかった?」ナスターシャ「しなかったのではない、出来なかったんだ。度重なる第一級警報級のアクシデントに対応するために、内部監視のシステムを緊急停止したんだ」内部監視のシステムは、学園都市内部からの裏切りを防ぐために、オペレーターなどから身元の特定できない相手への交信を制限することができる。そのシステムを停止した為、ナスターシャはスネークに連絡することが出来るという訳だ。スネーク「なるほどね……それと、なぜ君が学園都市に?」ナスターシャ「私が学園都市に来たのは半年前だ。軍事ジャーナリストの観点から兵器を査定出来る人物として招聘された。そこでメタルギアを見るとは思わなかったが…」それで俺たちに匿名で情報提供したという訳か。彼女の説明で、この話の不透明さが拭い去られた。
スネーク「貴殿の勇気ある行動に感謝する、……と。」スネークの視界に、経験と直感的に「怪しい」と感じられるモノが飛び込んできた。スネーク「ここだけ壁の色が微妙に違うな……」色だけでなく、他の板との接合部と微妙に揃っていない。おそらく、この先に何かがある。そう思ったスネークは直接壁をぶち破ることにした。肩に掛けたメタルイーターを構え、フルオートで引き金を引く。ガラガラガラガラ!!と派手な音を立て、壁が崩れた。瓦礫となった破片を越えると、地下に続く階段が現れた。スネーク「思った通りだな」得意気に笑うと、悪魔の兵器の待つフロアへゆっくりと降りていく。
五年前シャドーモセスで見たときのように、二本の足で自立する『戦車』が、そこにはあった。最初「違う」と思ったのはレーダーの形と、恐竜の『鼻』の下にアームズ・テック・インターナショナルV17バルカン・キャノン・シアリング・レーザーストーム・ハイ・エネルギー・カッターが搭載されていない事だ。ナスターシャ「メタルギアを破壊するのなら、足に爆弾を仕掛けるといい。一番効果的な部位をコーデックに送信する」ピピピッ、と着信音を発してコーデックに3Dのイメージ図が表示される。近くに遠隔操作で起爆可能な爆弾を見つけ、それを拾った。REXを取り囲む足場に向き直ったとき
???「久し振りだな、兄弟」心臓がドクンと跳ね上がった。死角からかけられたこの、スネークそっくりの声は。伝説の兵士ビッグボスの複製人間である自分を『兄弟』と呼ぶ人物は。五年前の記憶がフラッシュバックする。スネークに自分達がビッグボスのクローンであることを教えた男。「自分の内の殺人衝動 それを否定する必要はない 俺達はそのように造られたんだからな」「造られた…だと?」メリル・シルバーバーグを救うため、素手で殴りあった男。「いくぞ スネーク!」スネークを殺すため、最後の最期まで死ななかった男。「スネーク!まだだ!まだ終わってない!」その男の名は。スネーク「リ…」
スネーク「リキッド…」リキッド「そうさ。驚いたか? スネーク」『恐るべき子供達』計画によって造られた三人のクローンの内の一人。宿敵にして、兄弟。リキッド・スネークその人。彼が何故、スネーク「何故……なぜ…」ショックで続けられない言葉を、リキッドが引き継いだ。リキッド「なぜ生きている、か?」よく見るとリキッドの右手は本物に近い義手で、体の一部は機械化されていた。リキッド「言ったはずだ。俺は死なん。貴様が生きている限りは…」確かに言った。行動不能となったREXの上にリキッドによって連れてこられた時に…リキッド「とはいえ、この体に戻るのも大変だった。ナノマシンによる生存本能の強化、『負の遺産』による回復……」
リキッド「そこまでしても内臓の一部は機械頼りだ。右腕はオセロットに奪われてしまったしな」スネーク「リキッド! なぜだ! なぜ俺に拘る!」リキッド「俺は死の囚人、解放できるのは貴様だけ…あのサイボーグはそう言ったな」グレイ・フォックスの言葉が頭の中で繰り返される。「俺は死の囚人だ お前だけが俺を解放してくれる」彼はそう言ってリキッドの操るREXに立ち向かっていった。リキッド「ただし、俺は奴とは違う……俺は、貴様が死ぬ事で救われる!」リモコンで遠隔操作したのか、REXが起動し、30mm機関砲から銃弾が放たれる。それを予見していたスネークは、咄嗟に床を蹴って遮蔽物に隠れるが、リキッド「そんな盾で止められると思うな!」さっきまで立っていた地面が、火の弾によって抉り取られる。『六枚羽』と同じ摩擦弾頭だ。高熱の雨が自分に降り注ぐ前に移動する。REXの機関砲は構造的に射程距離と範囲が限定される。掃射の範囲内まで逃げたスネークはリキッドを睨みつけて、言い放った。スネーク「どうやら、四回殺した程度じゃ足りなかったみたいだな」
***浜面「どうやら、一回殺した程度じゃ足りなかったみたいだな」少年は立ち上がった。滝壺理后という少女を守るために。ソリッド・スネークと同じく、因縁の相手を打ち破るために。
***リキッドはコックピットに乗り込んだ。もう奴を外から直接狙うことは出来ない。肩に掛けていたメタルイーターを構え直し、REXという大きな的に乱射する。弾丸の牙を恐竜の甲殻に突き立てる。しかし、戦闘ヘリを撃墜し、コンクリートの壁を瓦礫の山にした12.7mm弾をもってしても装甲を貫通することは出来なかった。スネーク「チッ!」効果の無い事を確認したライフルを投げ捨て、傍らに落ちているミサイルランチャーを回収する。弾は既に装填されていた。あの時のように肩のレドームを破壊すれば、REXの『目』を奪えるはずだ。ミサイルランチャーを肩に構え、引き金に指を掛けた。ロックオンされた目標を確認して、ミサイルを発射する。頼もしい反動を残して、腕一本入る発射口からミサイルが飛び出した。噴射炎はレドームに向かって一直線だ。あとは直撃した弾頭が爆発し、レドームを破壊することを祈るだけだったが、
ガッキィィィン!!という音が響き、ミサイルは上に大きく軌道を逸らし天井に直撃した。スネーク「!?」困惑したスネークの様子を見て、リキッドは高笑いする。笑い声と重なるように、ナスターシャの声が耳に入ってきた。ナスターシャ「改良型のREXにはアクティブ防御システムが搭載されている。対戦車ミサイルなどは完全に無効化されてしまう」オタコンが手に入れた資料にもそんな記述があったのを思い出す。となると、REXにダメージを与るには直接爆弾を貼りつけるか、装甲に触れる直前で爆破するしかない。スネーク(どうすればいい?)どうすればREXを狩れる?しかし、リキッドが考える時間をくれるはずがない。REXの膝から複数のミサイルが飛び出す。学園都市製の小型ミサイルは、スネークの後ろの壁を砕き、破片を撒き散らした。
スネークの体は、重い重い破片の雨に晒されることになった。コンクリート塊がスネークのまわりに降り注ぐ。叫び声を上げる前に、スネークの体は瓦礫の山に埋もれていた。ナスターシャ「スネーク!応答しろ!スネーク!スネーク!!」オタコン「スネークぅぅううううううううううう!!」リキッド「フン、呆気ない…本命を出す前に終わってしまったか…」しかし、瓦礫の山は崩れ、ボロボロながらもスネークは生きていた。スネーク「これくらいで死ぬと思ったか、リキッド・・・」ガハッリキッド「ハッ! タフな男だな!」致命傷は避けたが、肋骨が一、二本折れているかも知れない。それくらいの大怪我だったが、その間もスネークは考えていた。リキッドに一泡吹かせ、この状況を打開する方法を。
***リキッドは震えていた。REXを破壊される事を恐れているのではない。自分を実質“四度"殺した男を追い詰める、そういう武者震いだ。リキッドが今すぐ殺そうと思えば、スネークなど一瞬で粉微塵に出来るだろう。ミサイルランチャーを全て解放し、全てスネークに向けて発射すれば彼に逃げられる道理はない。それをしないのは、まだまだ痛ぶり足りないからだ。瓦礫から這い出たスネークは、こちらに駆け込んできた。リキッド(足下は安全地帯と踏んだか)確かに旧REXには足下の極狭い範囲を攻撃するために、レーザー兵器がついていた。アームズ・テック社の(当時)最新鋭兵器、アームズ・テック・インターナショナルV(ryこの改良型REXにはそのクソ長い名前の兵器は装備されていない。そして足下には機関砲もミサイルも届かない。リキッド「だが甘い!」
***REXの足下は安全地帯のはず。そう考えたスネークは、足下を素通りしようとREXに向かって全速力で駆け出した。しかし、リキッドは叫ぶ。リキッド「だが甘い!」不意にREXの装甲がバガン!と剥がれた。六枚ほどの鉄板全てが自律したレーザーユニットだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。リキッド「蛇が!光の速度から逃げられるかな!?」スネーク「クソッ…!」足の裏を横滑りさせ、走り出した勢いを止める。1mほど先の地面が切り取られた。地割れのようなエフェクトを刻みつけたレーザーだ。あの光線を人間が浴びれば、簡単にスネ/ークになるだろう。
怯えている暇は無い。第二、第三のユニットが自分を狙っている。しかし、三つ目のレーザーを躱した際にバランスを崩した。スネーク(しまった……!)それによるタイムロスは数秒間程度のものだが、既に三つのユニットがこちらに狙いをつけている。発射ボタンに指をかけたリキッドが、唇の端を歪めるのが見えた。縦一列に並んだレーザーユニットは、スネークの体をス/ネ/ー/クにーーーーーーー
しなかった。純白の閃光が、三つのレーザーユニットを串刺しに貫いたからだ。上方から放たれたそれは、スネークにとっても、リキッドにとっても、戦いを見守るオタコンやナスターシャにとっても予想外の物だった。両者ともしばらく呆然としていたが、先に動きを見せたのはスネーク。スネーク(よくわからんが、命を救われたな)大きな門のようなREXの股下を潜り抜け、向こう側へ通り抜けた。
***リキッド「チッ……」第三者からの介入により攻撃は中断された。だが、それでもお互いのパワーバランスは揺るがない。リキッド「まあいいさ。お互いに積もる話もあるだろうからな」物陰に隠れたスネークに向かって語りかける。リキッド「学園都市は役一年前、あのシャドーモセスの地に足を踏み入れた。REXの情報を手に入れる為にな」最新技術でハッキングをかければ、設計図や開発計画を盗む事など造作もないだろう。だが、実際に実物を見てみないとわからない事もある。『取り合えず造って実験する』にはメタルギアは余りにリスクが大きい。日本という国そのものが足枷となっている学園都市の軍事開発。メタルギアは『自衛のための武力』という範囲から大きく逸脱している。その事が明るみに出れば学園都市全体を大きく揺るがすだろう。短期間で計画を実行するには、実物を参考にするのが一番手っ取り早かったのだ。
リキッド「だが、連中の狙いはそれだけじゃない。親父ーーービッグボスのクローンである俺を手に入れるのも、奴らの計画だ」三人のクローンの内、ソリダスは二年前に死亡、死体は行方不明、ソリッドは生きているが他組織に与している、回収しても誰も咎めないリキッドを奴らは選んだ。今まで黙って聞いていたスネークが口を開いた。スネーク「学園都市は貴様のDNAなど手に入れて何をしようとしている?」リキッド「人の話に割り込むな。その後、俺は蘇り、こうして貴様の前に立っている……さて、質問に答えようか。貴様にも予測はついているんだろう?」リキッド「そう、『恐るべき子供達』計画の再開だよ」
スネークの息を呑む音が聞こえた気がした。彼も予想していただろうが、彼にとって受け入れたくない事実だろう。リキッド「学園都市は以前に『妹達』という能力者の量産計画を実行に移している。そのモデルが変わっただけだ」リキッド「さてここでクエスチョン。キラー・インスティクトを始めとしたソルジャー遺伝子のデータ…誰が持っていると思う?」スネーク「リキッド……まさか」コックピットを展開し、スネークに見せつけるように一枚のカードをかざす。リキッド「そうさ、喜べ。そのデータはこのメモリーカードに収まっている。コピーは存在しない」自分はなぜこんな事をしたのか。なぜなら、奴に『希望』を少しでも多く持たせ、それらを『絶望』に塗り替えるのが一番の楽しみだからだ。リキッド「こいつを叩き割れば計画は止められるだろうさ。貴様がそれを出来ればの話だがな!」
グォォォォォォォォ!と、REXが咆哮を上げる。リキッドの高笑いを表すように。レーダーに表示されるスネークの位置に向かって機関砲の照準を合わせる。が、突然レーダーが使用不能になった。外の様子を中に伝えるカメラを確認すると、長さ数cmの金属箔が浮遊していた。レーダーの不調の原因は『攪乱の羽』だ。ただし、改良型REXの感覚器官はレーダーだけでない。レーダーだけを奪っても、REXを封じた事にはならない。多分スネークは、それをご存知ないのだろう。リキッド「ここでお別れだな! さらばだ、兄弟!」引き金に掛けた指に力を込める。ミサイルもロックオン済みだ。ここで奴を殺す、恨みを晴らす。そう思った瞬間、標的は口を開いた。スネーク「遺言はそれでいいか?さらばだ、兄弟」
轟!!と、REXの周囲をオレンジの爆発が取り囲んだ。全体を包み込むように連鎖的に起爆する炎はREXの装甲を毟り取っていく。灰色の内部構造が剥き出しになり、巨人のようで恐竜のような怪物はひざまずく。カメラの映像が途切れ、轟音が耳に届く前に確かにみた。『妨害気流』を背にしたスネークが、ニヤリと笑って手元の『何か』をこちらに向けて操作したのを。奴は俺の話を聞きながら、何をしていた?そして、思い出した。あのドラム缶の中身は、確かーーーーーーー
***スネークがREXの背後にまわったのは一秒でも長く生きていたいという生存本能からではない。この状況を打開する鍵がそこにあったからだ。スネーク「ナスターシャ! この中身は確か『液化爆薬』だと言ったな!」ナスターシャ「ああ、そうだが…何に使うつもりなんだ?」ナスターシャの問いに応じている暇は無い。スネーク「こいつはどうやって起爆するんだ?」ナスターシャ「その近くに無線機のような物が取り付けてあるはずだ。それのボタンを押せば電気信号が爆薬のマイクロ信管に流れ、起爆する仕組みだ」アンテナから指向性のある電気信号が流れ、信管を起動させるーーー起爆の方法さえ分かれば十分だ。
リキッドの一人ごとに口を挟み、あたかも自分が何もしないで聞いているかのように見せかける。ポーチから『攪乱の羽』を取り出し、ドラム缶のような容器の蓋を開いた。さらさらとしたまさしく『液体』の爆薬を『攪乱の羽』の容器を使ってすくい上げ、折りたたんで収納されている『羽』を浸す。ナスターシャ「スネーク、君が何をしたいのか見当がついたが……そんなに箔を浸しては飛ばないのでは?」『攪乱の羽』の金属箔はその本体の形とマイクロモーターによって浮翌遊力を得ている。少しでも重量が増せば『攪乱の羽』を放出したところで金属箔が大量に床に撒き散らされるだけだ。しかし、そんな事はスネークも知っていた。スネーク「だからこそ、君の説明してくれた『妨害気流』が必要なんだ」四つ全ての『攪乱の羽』の中を『液化爆薬』で満たし、『妨害気流』を操作する。乱数を利用したランダムな気流発生ではなく、扇風機のように一方向に風を発生させるよう設定した。
準備は整った。『恐るべき子供達』計画には流石に心を揺さぶられたが、リキッドのおもうほど俺の精神は脆弱じゃない。数百の金属箔を吹き荒れる突風に乗せ、REXのもとまで運ばせる。後は信管を起動すれば、REXを紅蓮の炎が包むだろう。リキッド「ここでお別れだな! さらばだ、兄弟!」ああ、お別れだ。貴様は先に地獄に堕ちろ。スネーク(もっとも、俺も遅かれ早かれ地獄行きだろうがな。)スネーク「遺言はそれでいいか?さらばだ、兄弟」アンテナをREXに向け、スイッチにかけた指を押し込み、大量の『液化爆薬』を起爆した。巨人のような冷たい機械が、太陽のように燃えあがった。
***鼓膜を破らぬよう抑えていた手を耳から離し、辺りの様子をうかがう。REXの装甲がはがれ落ち、両肩のレールガン、レドームがへしゃげ、リキッドの乗っていたコックピットは溶けて潰れていた。これでは移動することもままならないだろう。完全な『廃車』となったREXに背を向け、地上へ戻ろうと足を踏み出したところで、人の呻くような声を聞いた。その声の主は、リキッド「スネーク…まだだ…」足をガクガクと震わせながら、奴は立ち上がる。全身の力を腹に込め、兄弟に向かって叫ぶ。リキッド「まだ終わっt」だが、彼の言葉を遮るように。ズドォォォォォォォォン…!と、遠くで爆発音が響いた。スネーク「!?」上方からの突然の爆発音に、スネークも思わず身を固める。天井に亀裂が入り、ミシミシと音を立てて崩壊する。
その中でも大きめのコンクリート塊がリキッドに降りかかる。リキッド「ハハ…フハハハハハハハハハハh」兄弟の元に駆け寄る暇も無く、リキッドは押しつぶされた。左腕だけが手招きするようにうごめき、その動作さえも止まった。スネークに宿敵を打ち倒した闘いの喜びなどなかった。あの時と同じように、呆気ない幕引きに虚脱感を感じるほかない。ナスターシャ「スネーク! 早くそこから脱出しろ! 戦闘機の耐久実験施設で大規模な爆発が起きた。もうすぐその地下空間は崩壊する!」リキッドの近くにメモリーカードが落ちているのを見つけた。上から降ってきた鉄筋がそれを粉砕するのを見届け、生き埋めになる前に地上へ脱出した。リキッドの事は考えまい。どういう形であれ、奴は死んだ。
虚しさを強引に塗りつぶし、学園都市から離れる算段を立てる。これだけ騒ぎを起こしてゲートではいどうぞと通してくれるとは思えない。幸い、ここは航空施設の充実した第二三学区だ。ナスターシャ「ヘリポートに向え。報道用のヘリだが、脱出するには事足りるだろう」200mほど走ってヘリポートに着いた。確かにヘリポートにはカメラが搭載された報道ヘリが着陸していた。だが、スネークとヘリの間を割り込むように立っている人影はなんだ?それは異様な格好をしていた。シルエットはサイボーグのような角の多い造形だが、強化骨格とは違う体のラインに沿ったスーツを着ている。真っ白なそのスーツは、雪山なら保護色にもなるだろう。そしてバイザーを開いた顔は、茶髪の女子高生のような顔立ちだった。
彼女はスネークに語りかける。????「第三次製造計画っていえば…分かる訳ないね。まあその…なんだ。とにかく」彼女はそこで一度言葉を切ると一つ咳払いをして、本題に入る。番外個体「やっほう。殺しに来たよ。侵入者」スネークは明らかな敵意と殺意を受け取って、麻酔銃の引き金を引く。しかし、放たれた弾は命中せず、軌道を大きく逸らし向こうのヘリの鉄板に弾かれる。デジャヴだ。あの少年の寮の近くで戦闘した時もこんな事があった。スネーク(電撃使いか…)次に来るであろう反撃に身構えた。瞬きした瞬間に即死レベルの放電が放たれるかもしれない。相手の目をじっくり見て、相手の攻撃を見切る。長い経験を積んで、攻撃をしてくるタイミングは見切ることができるようになっていた。ただしそれは相手が銃を持っていて、尚且つそれを使って攻撃してくる場合だ。銃を持っていながらナイフを投げつけるような非常識な相手には通用しない。不幸にも、今回は後者だった。彼女の手には一本の釘が握られていた。その鉄釘をスネークに向け、手の平から『発射』する。音速に近いスピードで放たれるそれは、スネークのもとへ0.1秒もかからず到達する。脳が筋肉に指令を送るまで0.3秒。スネークがそれを見て避けることは不可能だ。
肉も骨も貫き、内臓を串刺しにする鉄釘はーーーーーー射線に割り込んだ『何か』によって、蛇の心臓に突き立てられることは無かった。『何か』は、月の光を受け鈍く光るマチェットだ。あのスーツ姿の女と似たような姿の“男"は、スネークの盾となるように立ちはだかっていた。攻撃を防がれたことに少し動揺していたようだが、続けて釘を放ってくる。しかしそのどれもが、マチェットに弾かれる。??「スネーク、ここは俺が引き受ける。早くヘリに乗れ」感情を押し殺したような声が聞こえた。突然現れたこの男は誰なのか。自分の記憶と照合しながらヘリに向かう。途中放電攻撃を受けたが、吸い込まれるようにマチェットに向かい、スネークには届かない。スロットルを操作し、ローターが回転数を上げていく。ヘリは学園都市の地から、空に舞い上がった。
***番外個体「へえ、全弾受け止めて逃がすなんて~。貴方は誰?学園都市の人には見えないなあ」謎の男は顔面のバイザーを展開して、こう名乗った。??「俺は雷。雨の化身」
***学園都市の夜景は綺麗だ。ヘリに乗って逃走している最中、一つの境界線で別れるように光が絨毯のように広がった。おそらく、あの辺りが第二三学区との境界なのだろう。ぼんやりと眺めていたが、不意にヘリの無線が電波を受信した。ナスターシャだろうか?ボタンを押して受信する。スピーカーから聞こえる声の主は聞き覚えがあるものだった。リキッド「俺は学園都市に骨を埋めるつもりはない」
奴はまだ生きていた。あの崩落の中から脱出するとは大した奴だ。リキッド「確かに、今回は貴様に、してやられたな……」ザザッ音声がところどころ途切れているのは電波が悪いからか、それともリキッドが瀕死だからか。リキッド「だが、覚えておけ! 俺は死なん! 貴様が生きている限り! そして貴様を[ピーーー]のは俺だ!」相変わらずタフな男だ。内心呆れていると、無線がブツンと切れた。電波が届かなくなったんだろう。ヘリのディスプレイに表示された地図を確認すると、学園都市から脱出していた。真下にある国は、日本国憲法が通用し日本の六法が適用される『日本』だ。スネーク(学園都市か…不思議な街だったな)オタコン「スネーク、近くの空港にチャーター機を手配した。搭乗して帰ってきてくれ」スネーク「わかった。これで任務完了だな」オタコン「お疲れさま」Fin
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