黄泉川「(何か手掛かりは……)」と、その時だった。警備員A「そういや、あれどうなったんだっけ?」警備員B「あれって?」背後から部下の警備員たちの会話が聞こえてきた。警備員A「何でも学園都市の全域を囲む壁の数箇所に、対能力者用のキャパシティダウンを設置するとかなんとか……」黄泉川「………………」警備員B「ああ、能力者の脱走を塞ぐために東西南北8ヶ所に分けて配備されるってやつだろ? 確かこの間、キャパシティダウンを搭載した7台目のトラックが配備し終えたところって話だ」警備員A「ん? じゃあ8台目は?」黄泉川「………………」背中越しに警備員たちの会話を耳に入れる黄泉川。警備員B「もうそろそろなんじゃないかな?」警備員A「どこに配備されるんだ?」警備員B「南ゲート、って聞いたけど」黄泉川「!!!!!!!!!!」その瞬間、黄泉川の表情が変わった。
警備員「隊長!!」黄泉川「ん?」と、そこへ1人の警備員が叫びながら走ってきた。警備員「来ました!! 例のトラックが!!!」言って警備員は指を指す。黄泉川「来たか」黄泉川が視線を向けた先……そこに、ごつい形をしたトラックが警備員の誘導によって近付いて来るのが見えた。班長「おおお」班長たちが感嘆の声を上げる。警備員「あれが……」黄泉川「最新型のキャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だ。無理を言った甲斐があったじゃん」トラックを見て満足そうな笑みを浮かべる黄泉川。そんな彼女に警備員は訊ねる。警備員「しかし、話に聞くと御坂美琴は能力を失ってるようですが……わざわざ配備を早める必要があったんでしょうか」黄泉川「『不安定な自分だけの現実(UPR)』は別に演算能力を失うわけではないじゃん。能力を実現化出来ないだけ。だからどの道効果はある。レベル0の無能力者なら話は別だが、奴は何だかんだ言ってレベル5の超能力者。能力を一時的に使えなくなってても特に問題は無いじゃん」警備員「なるほど。これなら鉄壁ですね。今、アンチスキル最強の男もこちらに向かっていると聞きますし」黄泉川「ふん。これで御坂美琴も終わり……忌々しい雷も、雨雲さえ消えてしまえば恐れる必要は無いってわけじゃん」言って黄泉川は不適な笑みを浮かべた。
黄泉川「……………………」黄泉川「………ま、休息あってこそ有事に動けるもんだな」警備員「え、ええ」表情を緩め、警備員にそう答えると黄泉川は踵を返した。黄泉川「分かった。10分ほど休むじゃん。異常があったらすぐに呼べ」警備員「了解」言って黄泉川がトレーラー型の装甲車に向かおうとした時だった。ィィィィィィィィィィ………黄泉川「ん?」ピタィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン……黄泉川「待て」警備員「は?」ィィィィィィィィン………黄泉川「バイク?」警備員「え?」どこからともなく、バイクの走行音が聞こえてきた。
ィィィィィィィィィン………黄泉川「近付いてくるな……」音は徐々に大きくなっている。ィィィィィィィィィィィィン……と、次の瞬間だった。イイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!黄泉川「!!!!!!!!」背後から聞こえたバイクの音に驚き、振り返る黄泉川。黄泉川「………………」その一瞬、検問に並んだ自動車の横を通り抜けて、警備員の制止も無視してそのままU字路を駆け抜けていくオートバイが………そして、どこか見覚えのある姿格好でそれを運転する少年と後部座席に座る少女の姿が………黄泉川「…………っ!!」――目に入った。
黄泉川「いたぞおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」警備員「えっ?」黄泉川「御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!!」警備員「ええっ!!!???」咄嗟に走り出す黄泉川。黄泉川「1班2班、出動準備!!! 今逃げたバイクを追うじゃん!!!!」走りながら黄泉川は無線に指示を入れる。黄泉川「7班と8班も準備が整い次第、直ちに我々の後に続け!!! 5班6班は引き続きこの場に残って検問作業!!! 以上だ!!!!」『了解!!!!』ノイズに混じって、8人の班長たちが一斉に返答する。黄泉川「来い!!! 奴らを追うじゃん!!!!」そこら辺に立っていた警備員たちを走りながら叩き、促す黄泉川。黄泉川「せっかく巡ってきたチャンス!! 逃すわけにはいかないじゃん!!!」言って黄泉川は1台のアンチスキルの自動車の助手席に乗り込む。黄泉川「他の連中は!?」運転手「既に出発してますよ!!!」黄泉川「さすが優秀な連中だ。我々も負けてられない。逃げたネズミを捕まえるじゃん!!!!」運転手「了解!!!」黄泉川を乗せた自動車が出発する。
一方、無事渋滞に巻き込まれる前に一足早く十字路を脱出していた1台目のアンチスキルの車は、黄泉川を乗せた車と合流していた。イイイイイイイイイイン!!!!!!!!2台が追うのは、これだけの迷惑を起こしておきながらいまだ飄々と逃げ続ける上条と美琴が乗ったオートバイ。黄泉川『これは警告である。これは警告である。そこのバイク、今すぐ止まるじゃん!!! 止まらなければ撃つ!!!!』上条美琴「「………………」」もちろん美琴と上条は聞いていない。寧ろわざと無視しているようにも見える。黄泉川「チッ…舐めやがって……っ!」黄泉川『これは警告だ!!!! そこのバイク止まれ!!!! 止まらないと撃つ!!!!』上条美琴「「……………………」」黄泉川「やれ」警備員『了解』無線を通して黄泉川から命令を受けた、1台目の車の助手席に座っていた警備員が、窓から身を乗り出しその両手に拳銃を構えた。パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!容赦なく警備員は、オートバイのタイヤを狙って発砲した。イイイイイイン……と、ほんの少しバイクの速度が緩んだ。黄泉川「やったか!?」イイイイイイイイイイイイン!!!!!!!が、追跡車両を嘲笑うかのようにバイクはまたもスピードを上げた。黄泉川「クソッ!!!」警備員「……しぶとい奴め」パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!再び警備員はタイヤを狙って撃つ。イイイイイイイイイイン!!!!!!だが、バイクは僅かに蛇行するだけでスピードを落とす気配は無い。
イイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!黄泉川「あっ!!」と、そこでオートバイは歩道に乗り上げた。黄泉川「クソッ……歩道は人が通るから撃てないじゃん!!」黄泉川は苦虫を噛み潰したような顔になる。イイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!一方、オートバイは歩道を驀進する。最終下校時刻を過ぎていたため、人が少ないのは幸いだったが、歩道を歩く人々にしてみれば只事ではなかった。「うわ!」「ちょっ」「きゃあ」「ひょえっ」「わああ!」避ける通行人たちの間をバイクは華麗にすり抜けていく。そのバイクに拳銃を向ける黄泉川だったが………黄泉川「チッ…ダメじゃん。これでは撃てん」イイイイイイイン………と、そこで歩道も途切れのか再びオートバイが道路に戻ってきた。黄泉川「よし!!」警備員「バカめ。わざわざ撃たれに戻ったか!!!!」窓から身を乗り出し、警備員が発砲しようとする。イイイイイン……と、その時バイクのスピードが急激に落ち、追跡車両との距離が縮まった。警備員「?」黄泉川「何だ?」その様子を後ろの車から訝しげな目で窺う黄泉川。
と、その時だった。黄泉川「!!!!!!!!」黄泉川「危ない!!!!!」警備員「!!!???」プアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!再び十字路に差し掛かった時、バイクを追う1台目の車の右手から、トラックが飛び出してきた。警備員「よけろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」運転手「…………っ」慌てて右ハンドルを切る運転手。車が右に曲がり車体の右半分が僅かに浮かび上がる。運転手は一か八か、トラックの右手に滑り込もうとハンドルを限界まで回す。ガァン!!!バンパーの右側部分がトラックの右ヘッドライト付近と衝突し、そのまま砕け散る。キキキイイイイイイイッ!!!!!!と嫌な音が鳴り響き、その衝撃で横転状態となった車は道路を滑っていった。ドォォォン!!!!!!やがてスピードを減らしていった車は電灯のポールにぶつかるとそこで停止した。シュウウウウウウ………運転手「………ハァ…ハァ…ハァ…」警備員「………クソッ!!!」ガンッ!!警備員は悔しそうに、助手席のグローブボックスを叩いた。
ィィィィイイイイイイイイイン!!!!!!!!一方、オートバイを追う黄泉川は。黄泉川「4号車と5号車、現在位置を報告せよ」『こちら4号車、現在123番通りを西に向かって走行中』『こちら5号車、同じく123番通りを西に向かって走行中』黄泉川「了解。なるべく早くこちらと合流せよ」カチッそこまで言って無線を切る黄泉川。黄泉川「さあ、ここまでやった分、落とし前つけてもらうじゃん!!! 御坂美琴!!! 上条当麻!!!」彼女は前方を行くバイクを見据える。イイイイイイイイン……バンッ!!!!………ィィィイイイイイン!!!!!!坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再びバイクは地面にタイヤをつけ走り始める。ブオオオオオオオン……バンッ!!!!………ブォオオオオオオン!!!!!!同様に黄泉川を乗せた車も坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再び地面にタイヤをつけ走り始める。パァァン!!!! パァァァン!!! パァァン!!!!箱乗りし、バイクに向かって発砲する黄泉川。イイイイイイイイイイイイン!!!!!!だが、バイクは一向に止まる気配は無い。黄泉川「何故……当たらないんじゃん!!!!」言って黄泉川は後部座席からアサルトライフルを取り出すと、今度はそれをバイクに向けて発砲し始めた。ダカカカカカカカカカカカカ!!!!!! ダカカカカカカカカカカカカカン!!!!!!容赦なく、黄泉川はライフルを掃射する。
プアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!耳をつんざくような警告音が鳴ったかと思うと、オートバイは既に踏み切りの向こうへ着地していた。黄泉川「止まれえええええええええええええ!!!!!!!!」運転手「…………くっ!」キキキキキキキイイイイイイッ!!!!!!!!摩擦音を響かせながら、黄泉川を乗せた車が横滑りする。このまま突っ込めば、猛スピードで走る電車にまともに衝突するのは必至。キキキキィィィィィィッ!!!!!!黄泉川「……………っ」キキキキィィィィィィ………車内が揺れに揺れ、窓の外の景色が遊園地のコーヒーカップに乗っているかのように巡る。
ィィィィィッ………黄泉川「…………っ!?」ピタッ………ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタン………黄泉川「………っ……ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……ゼェ……」顔から大量の冷や汗を流しながら、黄泉川は大きく肩で息をする。運転手「ハァ……ゼェ……」隣に座る運転手も同様だった。黄泉川が乗る車は、線路に対して平行に並ぶように、踏み切りに立ち入るか否かの僅かな位置で停車していた。カタンコトンカタンコトン………電車が走る音が小さくなっていく。黄泉川「ハァ………ゼェ……」生きている感触を確かめるように、黄泉川はただ、息を吐き続けた。電車が過ぎ去った踏み切りは、今までの喧騒が嘘かのように静まり返っていた。
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