佐天涙子は消えたわけではなかった。
彼女は上空に浮かぶ要塞、ベツレヘムの星へフィアンマを撃破するために移動していた。
あの男をとめることが出来れば、この戦争を止めることが出来るのかもしれないからだ。
ベツレヘムの星の壁や天井が崩れ、内部の様子が見て取れた。
右方のフィアンマは夜空の向こうに掻き消えるほどの長大な剣を振るっていた。
──そして、ツンツン頭の少年の右腕が肩のところから綺麗に切断されている瞬間が見えた
佐天「フィアンマァァぁぁぁぁぁ────ッ!!」
フィアンマ「くくく、一足遅かったな」
フィアンマ「ついに、掴んだ……コイツの右腕を──!!」
フィアンマ「世界環境はベツレヘムの星によって整えた、そして媒体となるべき右手も切断した!」
フィアンマ「後は俺様の『本来あるべき力』を振るえば、救済は終わる」
佐天「救済……ですって!?」
フィアンマ「ズレてるんだよ、この世界の属性が……この第三次世界大戦の根底にあるドロドロとした莫大な負の燃料といいな」
フィアンマ「どうしようもなくズレてて、歪んでる。まるで世界そのものが老朽化してガタがきてしまったかのようにな」
フィアンマ「だから俺様はそのズレを──古い世界を改良する」
フィアンマ「この戦争で、悪意の表出も出来た」
フィアンマ「そして、最後の鍵となる右腕も入手した──」
ズグン、と右方のフィアンマの体が揺れた。
右腕を手に入れた第三の腕の力によるものだろう。
そして……、世界に変化がおきた。
天空が、大きく開く
赤、青、黄、緑。明らかにこの世のものとは違う人為的に配置された夜空の闇が裂けた。
方々から巨大な亀裂が生まれ音も無く広がっていく。
──その向こうから現れたのは黄金の光だった。
佐天「う、おりゃあぁぁぁぁぁぁああ!!」
六対の翼をもつ佐天涙子が、フィアンマへ攻撃を仕掛けたが──
フィアンマ「ふん。お前如きでは俺様を止めることはできんよ」
第三の腕が佐天涙子の力に合わせ、力を出力し佐天涙子の攻撃を受け止める。
耳を劈くような音が炸裂し、佐天涙子は吹っ飛ばされてしまう。
佐天「ぐっ……、うおぉぉおりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
フィアンマ「何度やっても無駄だ、俺様は“世界を救う”そのためにはお前たちは不要なんだよ」
フィアンマ「光栄に思え上条当麻、お前の人生の価値は無事に刈り取れ────」
フィアンマの放った攻撃で佐天涙子と上条当麻と彼と一緒に居た御坂美琴は消滅するはずだった。
なのに、少年達は消滅してなど居なかった。
惑星をも消し飛ばすような攻撃が、少年を中心に二つに裂けている。
フィアンマ「な、なんだ……」
フィアンマ「お前の右腕は取り込んだ……、なのにどうしてお前はまだ力を持っている!!」
フィアンマ「どうしてだ!!上条当麻ァァ!!」
佐天「────、これが……」
返答は無かった。
自身の血で頬を濡らす少年は俯いたままだった。
目の前の少年の傷口に圧縮されていく莫大な力は
佐天涙子の力よりもフィアンマの力よりも見劣りしてしまうほどに感じてしまうほどの力に感じられた。
佐天涙子の背中から伸びた六対の翼が、全て砕け散った。
まるで彼の力に吸い寄せられるかのように。
──そして。
そして上条当麻は自らの力で莫大な力を握りつぶした──
上条「『テメェ』が……何処の誰かなんかは知らねぇ」
上条「ただ……、ここでは黙ってろ……。こいつは俺が片付ける」
ずるずるずるっ!!と湿った音を立て、上条当麻の肩口から右腕が伸びていた。
あれだけあった莫大な力を殺し、新たに肉体の一部が生み出された。
フィアンマ「(捨てた……?アレだけの力を捨てて、『幻想殺し』を取り戻しただと……?)」
フィアンマ「(──!?俺様が取り込んだ『幻想殺し』の力が失われていく──!?)」
上条「──、ようやくわかってきた」
フィアンマ「何……?」
上条「随分と大層な計画だとは思ってた『ベツレヘムの星』にしても戦争にしても……何もかも」
上条「テメェは怯えていたんじゃねぇのか……」
上条「──本当に自分の体の中に『世界を救えるほどの力』があるかどうか分からないから」
フィアンマ「──黙れ」
上条「世界が終わったことなんて無い」
上条「大昔の神話の時代がどうだったかは判らないが……」
上条「少なくとも現代で神話に描かれているかのような世界崩壊が起こったなんて事はない」
フィアンマ「……、黙れ……」
上条「そして、世界が終わるほどの危機が訪れなければ世界を救う力を発揮する機会なんて無い」
上条「一度も世界を救ったことの無いやつに世界を救う力があるのかなんて分かるはずねぇだろ」
フィアンマ「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
フィアンマ「俺様に限った話ではない!!この惑星に生きている以上、死なずに生きてる以上世界崩壊を経験してるわけが無い!!」
フィアンマ「それを言うならお前は『世界を救うほどの力』を実感したことがあるのかっ!!」
上条「あるに決まってるだろ」
上条「この地球に住む全人類なんて大仰なもんじゃない、でも俺は助けたぞ」
上条「ちっぽけだろうが何だろうが、“一人分の世界を救った瞬間”を!!」
上条「そこに居る御坂だって、涙子ちゃんだって何度も世界を救ったことなんかあるんだよ!!」
上条「世界を救ってやる、なんて思ってるだけのやつにこの世界は守れない!!」
上条「なっ?そうだろ涙子ちゃん」
佐天「──はい……」
上条「お前に救われなきゃいけないほど俺たちの世界は弱くない!!」
◆
御坂美琴は正面を見た。
少年と共にフィアンマという男と戦っていたのだが、わけの分からない攻撃でやられてしまっていた。
少年から不思議な力が発せられ目が覚めた御坂美琴が目にしたのは
無能力者の少年の切断された肩口から右腕が生えてくるところだった。
肉体再生という能力者は居るが、自身の肉体を再生するなんて話は聞いた事が無いし
そもそも目の前の少年は無能力者だ──では一体何故……?と思う前に少年は言う。
世界は、救われなければいけないほど弱くは無い、と。
御坂「(全く……ホント……馬鹿よね……でも、コイツは本気でそう思ってるんだから──)」
御坂「(でも……私も、私の妹達も……、あんな男に救われなきゃいけないほど弱くないんだから……)」
踏ん張らなきゃいけないのになぁ……。と思うのだが体に力が入らない。
あの男から受けたダメージの所為だけじゃないことを薄々ながら感じていた。
単純に、悔しかった。
そしてまた御坂美琴はロシアまで追いかけた少年の前で気を失った。
上条「終わらせよう、フィアンマ」
上条「イギリスと学園都市、ローマ正教とかロシア成教とか……そんな風にいがみ合うのも」
上条「科学と魔法で争いあうのも全部、ここで終わらせよう」
フィアンマ「出来ると思ってるのか」
上条「出来るさ、俺はお前と違って人間の強さってやつを知ってるんだから」
◆
白い雪原を静寂が包んでいた。
一方通行は打ち止めの記憶のバックアップから歌を抽出することに成功し、歌い続けていた。
魔術と呼ばれるソレは能力者である一方通行を拒絶反応という形で蝕んでいたが、その歌も止んだ。
一方通行の全身は自身の赤い血にまみれていた。
もう、歌は歌えない──でも。
──もう歌う必要なんかないのだから。何故ならば
打ち止め「……大、丈夫……?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」
揺らいで、いつ消えるのか分からなかった大切な彼女の命は守れた。
これ以上、理不尽な暴力に苛まれることは無い。
その事実を、一方通行は深く噛み締めていた。
震える両手を伸ばし、未だにぐったりと体の力を抜いている打ち止めの体を強く抱きしめた。
一方通行「……、よかった……」
一方通行「ちくしょう。良かった……本当に良かった……ッ!!」
漸く取り戻したぬくもりを確かめながら一方通行は思う。
確かに、この世界は冷たく厳しく、どうしようもないほど悪意に満ちていた。
しかし、同時に救いもあったのだ。
自ら進んでいれば、歯を食いしばって前に進んでいけば。
あがいてあがいてあがいてあがき続ければ、かならずその先に光があるのだと。
番外個体「感動の再開に水を差すようで申し訳ないんだけどさ」
番外個体「このクソったれの戦争はこのままハッピーエンドで終わりそうもないみたいよ?」
ゾワリ!!と真上から莫大な重圧を感じた。
海原光貴、水の天使、羊皮紙、それから放射されていた力を凄まじく強くしたような重圧が
一方通行は打ち止めを抱きしめながら真上を見上げる。
そこには浮かんでいる巨大な要塞があった。
そして大空を埋め尽くすかのような黄金の光が一点へ集束されている。
得体の知れない力の矛先は、地上へと照準を合わせているように見えた。
あの光の意味は分からない、だけど発射されればまともな結果を有無とは思えない。
一方通行「……ふざけやがって……」
呟いた直後だった。
一方通行の背中から真っ黒な墨のような翼が噴出した。彼の怒りの象徴である黒い翼。
一方通行「番外個体、俺はあれを止めてくる。このガキを任せられるか」
番外個体「ロシア側から?それとも学園都市側から?」
一方通行「全てからだ」
打ち止め「……、何処に行くのってミサカはミサカは質問してみたり」
打ち止め「何処にも行かないよね?」
一方通行「心配はいらねェよ。すぐ終わらせる」
打ち止め「──嫌だよ……ずっと一緒に居たいってミサカはミサカはお願いしてみる」
一方通行「そォだな……」
一方通行「──俺も、ずっと一緒に居たかった」
◆
ズゥゥゥゥン!!という莫大な衝撃がベツレヘムの星を大きく揺らした。
フィアンマが放った黄金の光が、大陸をも消滅させる力が食い止められた。
フィアンマ「な……何故……。必要な出力は満たしていたはず……」
上条「もういいだろ?もう、この辺りがお前の幻想の引き際だよ」
上条「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
だんっ!!と。
大きな音を立て、ただ前へ。フィアンマへ向かって矢のように駆けた。
上条「テメェが、そんな方法でなきゃ誰一人救えねぇってんなら──」
上条当麻の腹のそこから言葉があふれた
その激情に逆らわず、彼は右の拳に全ての力を乗せる。
上条「──まずはその幻想をぶち殺す!!」
◆
崩れていくベツレヘムの星の中を上条当麻は歩いていた。
彼にはまだやることがあった。
すでに気絶した御坂美琴とフィアンマを別々の脱出用コックピットへ乗せ終えたが
まだ、すべきことが残っていた。
もう脱出用コックピットは見当たらない。
このベツレヘムの星が地上に落ちたのなら、どれほど深刻なダメージを与えるのか分かったものではない。
この問題を解決しなければならない。
上条「それに……まだ────」
佐天「これを、探してるんですよね当麻さん」
上条「なっ!?涙子ちゃんそれは──」
佐天「私は他に脱出できる手立てがあるんで、気にしないでください」
佐天「それに、コレを壊さなきゃ……ですよね?」
佐天涙子が右手で持っているソレは、先ほどフィアンマが持っていたインデックスの遠隔制御霊装だった。
フィアンマの手を離れたが未だに起動しているのだろう。
ゆらり、と。
空気から浮かび上がるように透き通る少女の体が浮かび上がった。
『とうま、どうして脱出しなかったの?』
上条「何も終わってないからだ」
上条「この霊装もそうだが、要塞のほうも面倒見なきゃいけないしな……」
上条「それにインデックス……」
『なに?とうま』
上条「ごめんな……、お前に俺は酷いことをしてきた、ずっと、騙していたんだ」
上条「俺は……俺は……」
『良いよ、そんなの、どうでもいいよ』
『いつものとうまが帰ってきてくれるなら、そんなのどうでもいいよ』
上条「──、」
上条「……必ず戻る」
上条「こんな霊装ごしじゃない、ちゃんと戻って直接お前に頭を下げるから」
上条「イギリス清教の方に伝えてくれ。周波数五〇・九メガヘルツ、それでこのスピーカーとつなげられる」
『無理だよ、わたしは自分の意思では体に戻ることはできない』
上条「だよな、だから……先に戻っててくれ」
右手を伸ばし、佐天涙子の手の上の霊装を掴む。
たったそれだけで彼女を蝕んでいた力がボロボロと崩れていく。
半透明だった彼女も、消えていく。
上条「涙子ちゃん、霊装みつけてくれてサンキューな」
上条「脱出手立てがあるなら今すぐにでも脱出するんだ、ここは俺が何とかするからさっ!」
佐天「──数分、でしょうか……戻ったインデックスちゃんが周波数を合わせてこのスピーカーに繋げられるのは」
上条「な、に?どういうことだ?」
佐天「このロシアに入ってからこの時を待ってました。当麻さんと正真正銘二人っきりになれる瞬間を」
上条「二人っきりになる瞬間?何なんだ?」
佐天「イギリスのクーデターの時に、あたしに変革があったことを覚えてますか?」
上条「あんなこと、忘れるわけが無いだろう」
佐天「その時、自分の力の本当の意味を知ったんです」
上条「……?自分の力の意味?」
佐天「──そして学園都市の統括理事長であるアレイスターって人の狙いが」
上条「なに……?」
佐天「アレイスターは、当麻さんと一方通行さんとあたしと他多数の人を犠牲にして“神”という存在になるつもりなんです」
佐天「猶予はまだ少しだけあります……年末に、アレイスターの計画は完成する予定です」
佐天「アレイスターの計画を止めるためには、当麻さんや一方通行さんの力が必要なんです……助けてください!!」
『──こ……ら……ステイル……聞こえるなら応答してくれ……こちらステイルだ』
佐天「思ったより早かったですね……、この話はここで終わりにしましょう」
上条「あ、あぁ……」
『上条当麻、聞こえてるなら返事をしてくれ──』
上条「あぁ!!聞こえてるぞステイル──」
◆
これでいい。
伝えるべき人全員に伝えたつもりだ。
オッレルス、一方通行、そして上条当麻。
諸悪の根源、その学園都市統括理事長のアレイスター。
どんな人なのか、どんな力を持つ人間なのか、はたまた人間なのかは知らない。
だけど、これ以上悲劇を生ませるわけにはいかない。
佐天「そうは、思いませんか?ミーシャ=クロイツェフさん」
右方のフィアンマに協力していた大天使は冬のロシアの大地で再びその体を取り戻そうとしていた。
力を取り戻そうと、自分の存在の本来ある『座』へと帰ろうとしていたところだった。
左腕に、カーテナの破片を埋め込んだ佐天涙子が来たのは。
佐天「悲劇を生ませないためにも、あなたを止めないといけませんよね」
ミーシャ「足りない。完璧ではない。だが足りない。完璧ではない。」
ミーシャ「だが hwsr 足りない。完 zvdf 璧では zbfd ない。」
ミーシャ「だ ggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggggaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」
佐天「フィアンマが四属性のズレを修正したなら、『神の如き力』と『神の力』の交じり合った存在ですかね」
佐天「ミーシャ=クロイツェフではなく、単純な大天使……というヤツですか……」
ゴアッ!!と、佐天涙子から再び六対の翼が姿を現す。
それに呼応するかのように目の前の大天使も氷の翼を伸ばす。
──そして、所有する力の全てをぶつけ合った。
単純な力で攻めても、目の前の大天使は打ち破れない。
そのくらい佐天涙子は分かっていた。
佐天「(でも、掴んだ……。一方通行さんと共闘したときに思いついた技が──)」
佐天「あたしの翼の羽根の一枚一枚を──あなたが行った『一掃』のように!!集中投下する──ッ!!」
六対の翼に生えている羽毛を、雨のように大天使へと集中投下。
凄まじい威力を持った羽毛の一枚一枚が大天使へ降り注ぐ。
しかし、その攻撃を大天使は自身の翼で払いのける。
大天使「lkjh ない 損傷 hgt 0パーセント 敵。撃破。優先する。」
佐天「──。……」
防がれた。
あの攻撃は今の佐天涙子にとって考えうる限りの最強の技だったが──。
──そんなこと想定の範囲内だった。
大天使は氷の翼を振るい、佐天涙子を薙ぎ払おうとするが
佐天涙子は左手を突き出し、透明な壁のようなものでその攻撃を凌ぐ。
ギィィィ!!とロシアの大地が両者の攻撃でひび割れていく。
この大天使を消滅させない限り、また世界は大混乱に陥ってしまう。
佐天「──そんなこと!!絶っっ対に!!させないんだから!!!」バサッ
先ほどの一転集中の羽毛による攻撃をしようと佐天涙子は六対の翼から羽毛を舞い上がらせる。
おびただしく舞い上がる羽毛の数は百や千をゆうに超えていた。
一万もの羽毛が舞い上がり──そして大天使へ凄まじい速度で降り注ぐ。
大天使「無 hgy 駄。理解不明──!?」
先ほどと同じように翼でガードをした大天使に異変があった。
この羽毛による攻撃は、先ほどと違う──?
ボツ、ボツ、と大天使の翼を食い破り佐天涙子の羽毛による攻撃が大天使の体へと突き刺さる。
佐天「あたしは触れたモノの時を止めることが出来る……」
佐天「空間だってそう……、だけどあたしの体から離れちゃえば効果は無くなっちゃう」
佐天「──だから、羽毛の一つ一つに小さく空間を止めて張り付かせた!!」
佐天「これが、あたしの……全っ力、全っっっ開だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
羽毛による攻撃で世界が白く染まっていく。
ズドドドド!!という音も一緒に白い光は全てを包み込んで。
大天使の大咆哮をもかき消して、ただ白く。
◆
右方のフィアンマは震える手で鉄の扉を内側から開けた。
全身を蝕むダメージのせいで、起き上がることも出来ない。転がるように脱出用コンテナから外に出る。
低い山の上だった。
──その低い山の上で待ち受けるものがあった。
その待ち受けるものを視覚できるより早く、フィアンマの右腕は方の所から切断されていた。
フィアンマ「!?ガッ……ハッ……──!?」
フィアンマ「貴、貴様は……アレイ、スター……」
アレイスター「やはり容器を抜けると正しく認識されるらしい」
アレイスター「生命力そのものを機械で生み出すことによって探査を掻い潜ってきたわけだが……」
アレイスター「この状況じゃその加護を受けられなくて当然か」
フィアンマ「貴様は、そうか、だが……」
フィアンマ「……何故だ?」
フィアンマ「俺様には出来なかった『神の子』と同じ子の世界を救うだけの力があったはずなのに、俺様にはソレが出来なかった」
アレイスター「それは力の素質や量というより使い方に過ぎんよ」
アレイスター「まぁ本来私はここは私の出てくるべき段階ではないのだがね」
アレイスター「ミーシャ=クロイツェフと五感をリンクしている君が、佐天涙子ともリンクしてしまった」
アレイスター「今は気付いていないだろがいずれ気付く、あの左手や右手の奥にある物を」
アレイスター「そうなってしまっては流石に放置はしておけん。不本意だが私の出るまくって訳さ」
フィアンマ「奥に、あるもの……?」
フィアンマ「……、お前の顔を見ていると自分のしてきたむなしさを感じるよ」
出血を抑えるために傷口をふさいでた左手を自らの意思で離す。
同時にボン!!という爆音が炸裂し、噴出す血が透明で巨大な腕の輪郭を浮かび上がらせた。
『第三の腕』
もはや自分では制御できない力だが、今ならまだ戦える。
アレイスター「無駄だと思うがね」
フィアンマ「無駄かどうかは問題じゃなかったんだ」
フィアンマ「アレイスター、貴様には一〇〇年たっても分からないだろう」
本当に、助けたいのなら勝敗なんか二の次にしなければおかしかったんだ。
そんなことに気付けなかったなんて。
でも気付けた。あの少年のお陰で。
そんな想いを踏みにじらせるわけにはいかない。
この気持ちは幻想でもない、自分の正義だから──。
──勝敗なぞ誰が見ても明らかだった。
二つの陰が交錯し、隻腕の男が山の斜面から転がり落ちたのだから。
アレイスター「たかが十字教程度で、あの右手や左手を説明しようと考えた事、それが君の失敗だ」
アレイスター「さて、佐天涙子も私を倒そうと準備をしていることだし此方も準備をしなければな」
アレイスター「彼女の能力の発現、成長によってもう計画は最終局面を迎えているのだから」
アレイスター「くく、ローラにも連絡をしなければな」
◆
ボロボロに打ち負かされた。右腕も切断された。
切り裂くような冷気を浴びても、もう指一本動かない。
その時だった、雪を踏む足音が聞こえた。
彼の視界に人影が二つあった。
シルビア「一応まだ息はあるようね」
オッレルス「純粋に彼の実力だろう、あの場面で手を抜く理由が無い」
フィアンマ「誰、だ……」
オッレルス「俺はオッレルス、かつて魔神になるはずだった惨めな魔術師だよ」
フィアンマ「……何、の用だ……」
オッレルス「やられっぱなしで終わるのも嫌だろう?当面の住処と身の安全は保障しよう」
オッレルス「君の見たモノを教えてほしい。俺は佐天涙子からかいつまんで説明を受けただけだからな」
オッレルス「アレイスターに反旗を翻すために君の見聞きしたものを教えてくれればいい」
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帰ってきた。
久しぶりに感じる学園都市の空気、雰囲気。
長らく留守にしていた初春は元気だろうか、置手紙したけどそれでも心配だなぁ
最終下校時刻はとうに過ぎ、時刻はもう深夜である
ガチャリ、と自分の寮の部屋を開ける。
そこには──、自分のベッドで眠る初春飾利
佐天「うえぇ!?うい??何であたしのベッドで寝てんのさ!!」ユサユサ
初春「……うぅ……ん……誰、ですか……?こんな夜中に────って!!」
初春「佐天さんじゃないですか!!何処に行ってたんですか!!心配したんですよ!!」
佐天「あはは、ごめんごめん……。置手紙してったから平気かなーって思ったんだけどー……」
初春「こんな『あたしの能力が必要な人がいるから、行ってくる』だけじゃ心配になるに決まってるでしょう!!」
初春「ホント……心配……グスッ……した、んだから……」
佐天「初春……、ごめん……心配かけて……本当にごめん」
初春「言ったじゃないですか……!能力者でも無能力者でも佐天さんは佐天さんだって!!私の……親友だって……っ!」
初春「相談くらいしてくれたって……グスッ……」
佐天「ごめんね……初春……ごめんね……」
腕の中で泣いている親友に会って、確信した。
あたしは、親友を護りたいから戦えるんだと。
あたしの世界は、初春が居なければ成立しないんだと。
────そして次の日、初春は学園都市に攫われた。