十月十九日という日は運命の日と人々は口にするのだろう。人によってこの日の捉え方は違うだろうけど。第三次世界大戦。どれだけ奇麗事を言おうが『神の右席』が裏で糸を引いていようが始まってしまった戦争は簡単には止まらない。佐天「なんて、言っても……フィアンマを止めないことには戦争は終わらないよね」佐天「学園都市とロシアによる戦争──魔術と科学の対立といってもいいかもしれない……」佐天「この時点で“あの人”が動いてないというのは……、そういうことですよね」佐天「第三次世界大戦が始まってからもう十日は過ぎてるわけだし……」佐天「うーん何はともあれ、この状況を何とかしないとなぁ……」佐天「見渡す限りの白ですね……、十月下旬とはいえ流石はロシアといったところですか」佐天「……(当麻さんは先にロシアに潜入してるはずですが……)」佐天「……(インデックスちゃん……)」佐天「……(エイワス──、恐らくアレが居る限り打ち止めちゃんは……)」佐天「その為にも、必ずインデックスちゃんを助けないと!!」佐天「(──それに、この先のためにも)」
◆十月三十日のロシアは信じられないほどに寒い。しかし佐天涙子は『とある男』を待っていた。少し前に起きた────イギリスの件で知ってしまった事柄について、彼に説明する必要があった。カーテナ=セカンドの力を借りて一対の翼を生やした佐天涙子を襲ったのは莫大かつ重要な情報だった。その情報を伝えるために、寄り道をしているといったところだろうか。佐天「あたしの読みが正しければそろそろ来るはずですが──」??「驚いた……、一体君は何者だい?」佐天「あたしは、佐天涙子です」??「……、佐天涙子か──。なるほど……しかし何故──」佐天「あなたの力が必要なんです、オッレルスさん」オッレルス「!! 最初の質問に答えてもらおうか、一体君は何者なんだい?」佐天「それは────」
佐天「──という事なんですが、協力していただけますか?」オッレルス「……、それが事実というのなら協力せざるを得ないだろうが」オッレルス「事実ならば……俺は今君をこの場で殺害したほうがいいのじゃないのか?」オッレルス「──いや、無駄か……分かった。協力しよう」佐天「ありがとうございます、それではあたしはこれで」オッレルス「ちょっと待ってくれないか」佐天「……、何ですか?」オッレルス「本当は君は……、いや君は今無理をしてるんじゃないのかい?」
◆──無理をしてるんじゃないのか?自分ではそんなつもりは一切無かった、しかし考えないようにしていただけかもしれない。ただの中学生が、第三次世界大戦という戦争に足を突っ込んでそして、戦場に足を踏み入れて戦争を止めようとするのも──。佐天「ええい!!だめだめ!!ネガティブな考えはダメっ!!」佐天「ポジティブシンキングよ!!佐天涙子っ!!」佐天「とりあえず、当麻さんと合流しなくちゃ」佐天「と、言ってもこの広いロシアの中で当麻さんを果たして見つけることが出来るのでしょうか……」佐天「とりあえず教えてもらったエリザリーナ独立国同盟を目指そうかな──」佐天「──ん……?あれは……?」遥か遠くに何かがある。それはこの白く広いロシアで初めて出会う車だった。遠くにいた車は佐天涙子に気付くと、此方へ近づいてきた。塗装が剥げ、茶色い錆まで見えている乗用車。そのハンドルを握っているのは、日本人だった。
佐天「!?もしかしなくても日本人……ですよね??」??「そういうお前も日本人だな?どうしてこんなところに居るんだ?」佐天「あたしはとある男を追ってロシアに着た佐天涙子って言います」??「俺は浜面仕上っつー学園都市からちょっと……」浜面「まぁこの助手席に居る滝壺を助けるためにな」佐天「学園都市から!?今このロシアじゃ日本人ってだけでも襲われるというのに」佐天「まぁあたしも学園都市の人間なので浜面さんのことは言えないですよね……」浜面「学園都市の人間……だと?」ピク佐天「はい、ちょっと色々事情があって──」──カチャリ、と佐天涙子に拳銃が突きつけられた。佐天「──、な……!?」浜面「事情……だと?吐け、俺たちが狙いか?」佐天「ち、違いますけど……」浜面「第一こんな所で偶然学園都市の人間に出会うこと自体が可笑しいんだ」浜面「お前が学園都市の刺客だというのならば、俺はお前をここで殺す」滝壺「はまづら……大丈夫……」浜面「滝壺?いや、このタイミングで学園都市の人間が俺たちの前に出てくるなんて可笑しいだろ」滝壺「ううん、この子は大丈夫なの信じていい」佐天「??すいません何が何やら……」
浜面「──、いきなり疑ってすまん。俺たちも色々ワケありでな」佐天「い、いえ……ただ吃驚したというか……」滝壺「私の名前は滝壺理后っていうの、よろしくね」佐天「は、はぁ……。答えなくても良いんですけどその……ワケって……?」浜面「んー……何だその……、滝壺の体内に“体昌”ってヤツの影響が出てな」浜面「まぁその体昌の影響を取り除くには学園都市の科学は必要不可欠なんだが……」浜面「…………」佐天「なるほど……、学園都市に追われてるのはワケありで話せないと」浜面「すまん」佐天「いえ、いいんです。初対面の人間にペラペラ話すようなことでもなさそうですしね!」佐天「……(体昌って……、ポルターガイスト事件の時のアレの事、だよね)」滝壺「どうしたの?」佐天「えっ?あぁ……ちょっと考え事してて」浜面「俺たちはそんな感じなんだが、お前はどうして?」滝壺「さっき、とある男を追ってるってさっき言ってたけど……」フラフラ浜面「滝壺、無理しなくていい」
佐天「本当に大丈夫なんですか……?今からでも学園都市に戻って治療したほうが──」浜面「その学園都市が敵なんだ!!戻ったところで殺されるだけに決まってるだろ!!」佐天「ご、ごめんなさい……事情も深く知らないのに無神経なこと言って……」浜面「……いや俺も怒ってすまん」浜面「……、あーくそっ!!何やってんだ俺は……くそっ、クソッ!!」浜面「よしっ!!俺は俺だ!!俺のやりたい事をするッ!!」浜面「俺はこれから滝壺を助けるための術を探すが、お前はどうするんだ?」佐天「あたしは……、追っている男が居るんで別行動になっちゃいますかね」浜面「そっか、お互い大変だろうが頑張ろうぜ」佐天「そちらも。滝壺さんの為に何もお役に立てずに申し訳ありませんでした」浜面「いい、気にするなこっちはこっちで何とかするさ」
◆佐天「さて、と……エリザリーナ独立国同盟は目の前ですが」佐天「モチ警備の人居るしうーん……。潜入しようにも時を操作しても限界があるだろうし……」佐天「それにまだアレは使いたくないし……うーん……」佐天「せめてフィアンマの目的の一つでもあるサーシャ=クロイツェフさんの情報でも持ってればマシだったんですが」佐天「参ったなぁ……」佐天「────!?」佐天涙子の視線の先、エリザリーナ独立国同盟の教会のような建物。その建物が、瓦解した。全てを押しつぶすかのような、巨大な剣によって。長さだけで三~四〇キロメートルはありそうな、もはや剣と呼べるか怪しい巨大なものによって。佐天「!?(襲われてる!?誰に?誰が!?)」ダッ佐天「(決まってる、フィアンマが当麻さんかサーシャさんを、だ!!)」佐天「警備の人達なんて気にせずに潜入すべきだった!!」
エリザリーナ独立国同盟の街が、一直線に切り裂かれている。佐天涙子が目指すはその剣撃の威力の最も高い場所だった。石造りの建物が木っ端微塵に砕け散った場所に、何人かの人間がいた。それは、上条当麻であったりレッサーであり──そして右方のフィアンマがいた。佐天「フィアンマっ!!」フィアンマ「なるほど、そういえばお前がいたな佐天涙子」上条「涙子ちゃん!?」フィアンマ「だが、だがだぞ佐天涙子。お前は俺様の計画には必要が無い」フィアンマ「使いどころが無いといったほうが正しいか」佐天「あなたの計画がどうであれ、この戦争を止めるためにはあなたを止めないといけませんからね」フィアンマ「なるほど、戦争を止めるためにこの俺様を止めると言うか」フィアンマ「だが例え俺様が斃れたとしてこの戦争が簡単に止まるとでも?」佐天「すぐには止まらなくても、長引くことは無いはずです!」フィアンマ「例えば、だ。あまり俺様を舐めるなよ?」上条「フィアンマ!!」フィアンマ「お前はメインディッシュだ。食べる前には下準備をしなくてはな」フィアンマ「佐天涙子、お前は俺様の計画に相応しくない」佐天「なん、ですって?」フィアンマ「相応しくないんだよ、お前の気味の悪い左手と共に消えうせろ」ヒュッ
ゴバッ!!と閃光が迸った。フィアンマの右腕からだった。力を誇示するという次元ではなかった。軽く、まるで目の前の羽虫を払うような仕草で右腕を振るっただけなのになのに佐天涙子の体は遥か彼方まで吹き飛ばされた。
◆一方通行は現代的なデザインの杖をつき、辺りを軽く見回す。彼の周りは、元々ロシア軍の基地だったのだろう。だったのだろう、というのはそれは基地が基地として機能していないからだ。学園都市。彼らがこの基地を粉砕した。一方通行「(チッ、一足先に襲われてやがる)」彼の手には、羊皮紙の束が握られている。一方通行「(あの学園都市がこの俺の追撃と同レベルで“コレ”の回収をしに来たつゥことは)」一方通行「(間違いなくコレが只の落書きっつーワケがねェ)」一方通行「(これがエイワスが言ってた別な法則かは分からねェが、しかし重要なモンだろう)」一方通行「(この基地を襲った連中に奇襲を仕掛けるなら今がチャンスってモンだろ)」一方通行「ン……?」一方通行は迷っている暇など無いここの基地を襲ったのが学園都市の暗部組織ならばすぐさま足を追うべきなのににも拘らず、一方通行の足を止めるものがあった。8月に、あの実験で無謀にも一方通行に戦いを挑んだ少女。佐天涙子が倒れていた。一方通行「──テメェ……」佐天「う……、あたしは──ここはどこ……」一方通行「……(ンだァ?何でこの女がこのロシアにいやがる?)」佐天「あ……あなたは────」『動くな、そこの学園都市の人間ども』
◆気付けば、エリザリーナ独立国同盟からかなりの距離を吹き飛ばされていたようだった。それほどまでに右方のフィアンマの攻撃は強烈だった。左手ですら、フィアンマの攻撃を防御しきれなかった。 「──テメェ……」佐天「う……、あたしは──ここは……」佐天「あなたは──!!」白い髪に真っ赤な瞳をした一方通行が目の前にいた。普段の佐天涙子ならそれだけで彼に襲い掛かったかもしれないが、しかし一方通行は何かを抱えていた。それは、息も絶え絶えの打ち止め。『動くな、そこの学園都市の人間ども』いつの間にか、彼らを囲む影があった。佐天涙子が倒れていた場所は滑走路のある平面のだだっ広い構成だ人が隠れられるスペースは少ない。しかし、10人近い人影は彼らをいつの間にか囲んでいた。彼らは皆、古めかしい修道服のようなものを着込んでいた。男「学園都市の人間だな?」一方通行「そォ言うオマエの方こそ、この基地を襲った連中じゃねェのか?」男「否定はしないのだな」修道服を着た男の声のトーンが下がった。それを一方通行は覚悟を決めた合図と受け取り──首筋の電極のスイッチをオンにしようと手を伸ばそうとしたが佐天「ここはあたしに任せてくれませんか」一方通行「あァ?」とんとん、と首を叩く仕草をする佐天涙子。佐天「節約、しておいたほうがいいでしょう?」佐天「それに、打ち止めちゃんを“守りながら”戦うのには慣れてないでしょう?」一方通行「……チッ、好きにしろ」佐天「えぇ。好きにさせてもらいます、だから目的があるなら早く行ってください」佐天「打ち止めちゃんを助けにこの国に来たんですよね?」一方通行「何で知ってやがる……」佐天「──【禁書目録】、この言葉を頼りに頑張ってください」一方通行「……ッ!!」ダッ一方通行は脚力のベクトルを操作したのか、一瞬で彼方まで行ってしまった。節約しろ、と言ったのになぁと佐天涙子は嘆息するが──佐天「──さて、あなた達は魔術師のようですが」男「知っているのか。どちらにしろお前もさっきの男も殺す」佐天「出来ると?」男「冗談で使う言葉ではない」
佐天涙子を取り囲む魔術師の人々は、早速魔術を構築していく。あるものは水の槍を、あるものは氷の刃を。様々な攻撃が、殺傷能力を有する魔術が佐天涙子に襲い掛かる。しかし佐天涙子は動かなかった────いや、動き終わっていた。佐天「そんな遅い攻撃で、あたしが止められるものですかっ」佐天涙子に攻撃魔術をぶつけたと思っていた人々は驚いたことだろう。なにせ相手に放った攻撃が、まるまるそのまま自分に帰って来たのだから。迎撃魔術を組む暇さえなかった。これが、佐天涙子だった。数々の修羅場を超え、彼女は成長した。魔術師十数人を相手にできるほどまでに。佐天「──全員、死んでないね……気を失ってるだけか」佐天「……、とりあえずエリザリーナ独立国同盟に戻らなきゃ……」チラリ、とエリザリーナ独立同盟国の方角を向く。空は相変わらず青いが、ときたま轟音と共に学園都市の超音速飛行機が飛んでいる。一瞬で遥か彼方まで飛んで消えてしまった超音速の飛行機は、何かを投下したように見えた。それは先ほど一方通行が消えた彼方のほうへ落ちていったように思えた。佐天「一方通行さん……きっと大丈夫、ですよね?」タッ佐天「あたしは、エリザリーナ独立国同盟に戻らなきゃ……」
◆エリザリーナ独立国同盟の中は悲惨なものだった。元は綺麗な広場だったのだろうが、煉瓦やコンクリートで出来た家などがボロボロに崩れている。佐天涙子が戻ってくる頃には、この国はまるで敗戦国のような有様だった。その中を佐天涙子は走っていた。佐天「はっ、はっ……あそこに居るのは」かつて学園都市を襲ったローマ聖教の最終兵器────神の右席の前方のヴェントそんな彼女が激しく崩れた瓦礫の上でろくに手足も動けない状態で治療を受けていた。佐天「ヴェント!?どうして」ヴェント「……ったく、忌々しい顔を見るのは今日で三人目だ佐天涙子」佐天「こんな所で何を──」ヴェント「ハッ、決まってるだろ気に食わないやつをぶっ飛ばしにさ」ヴェント「まぁこんな有様じゃ偉そうにできないケド」佐天「……当麻さんは何処に行ったかはわかりますか?」ヴェント「あのガキは女連れて右方のフィアンマの野郎を追ったよ」佐天「何処に居るか見当はついてるんですか?」ヴェント「多分、国境の向こうにある基地だ。ったくこの台詞を言うのも二回目だ」
佐天「ありがとうございます」ヴェント「どうしてテメェがこんなにもこの戦争に足を突っ込む?」ヴェント「上条当麻のように大事なものを取り返すためってワケじゃねぇだろ?」佐天「大事なものを護りたいからです」ニコヴェント「……アンタ、変わったね」佐天「え、そうですか?」ヴェント「強くなったな、この前までは只のガキだったけどヨ」佐天「うーん?自分じゃあまり変わった気はしないんですけどー」ヴェント「うるせぇうるせぇ、フィアンマのクソを追うならさっさと行ってきなさいよ」女「口を挟んでしまい申し訳ありません」女「お急ぎになったほうがよろしいですよ、学園都市の女生徒様」女「先ほど出発された同じく学園都市の少年様が乗られていた大型車が何者かに襲われたと通信が入りました」
淡々とヴェントの治療をしながら佐天涙子に語りかけた。佐天「襲われたって一体誰に!?」女「それが不明との事でしたが」佐天「が……?」女「あなたと同じく学園都市の生徒さんだったそうです」佐天「!?……(もしかして浜面さん達が……、いや襲う理由が無いから一方通行さんか)」女「襲った学園都市の少年を先ほどの上条当麻様が撃破なされまして、こちらへ送還する予定です」女「そして只今上条当麻様達は基地へ向けて出発なさったと通信が入りました」佐天「分かりました、ありがとうございます(一方通行さんが当麻さんを襲った理由は分からないけど……)」女「破損したりした備品や霊装の替えを届けるために一台ほど彼らの後を追いますので──」佐天「……(一方通行さんにあの事を話すべきかな……?)」ヴェント「おい」佐天「は、はい!?」ヴェント「左腕に隠してあるそれについて考えてるのか知らないケド、話聞いてるのかにゃーん?」佐天「!?なっ……」
ヴェント「これだけの時間を私の前で突っ立ってれば分かるよソレ」佐天「……、一応切り札なのですが……」ヴェント「いや、一体全体ソレが何なのかは分からないケド……仕草を見てれば左腕に何かを隠しているのはバレバレよ」佐天「…………」女「あの」ヴェント「ほら、話聞いてやれよ」女「それで、間もなく此方の準備が整うので同行されるのならばお早めにしてくださいと」佐天「あ、すいません。少しだけ、その……ぐぅ……」女「どうかなされましたか?」佐天「……、あっ!!その、紙とペン持ってませんか?」女「メモ帳程度の紙でしたら今すぐにでも用意できますが」佐天「書ければ何でもいいのでお願いします」女「はぁ、どうぞ」サッ佐天「ありがとうございます!!…………」カキカキカキ佐天「できたっ!!これを当麻さんを襲った人に渡してください」女「分かりました、大型車ならあちらのほうに待機しておりますのでお早めに」佐天「ありがとうございますっ、ヴェントさんもお大事にっ」ヴェント「チッ、早く行け」 ──────────── ────── ─ -
◇ 「さて、どうする」学園都市のどこかでそう呟いたのは人間ではない。【エイワス】と呼ばれるもの。そして向かいにいるのもまた、人間ではない。 「…………」僅かに茶色の混じった黒く長い髪、眼鏡越しのオドオドとした瞳、スタイルのいい少女。そういう風に見える彼女はAIM拡散力場の集合体である【風斬氷華】と呼ばれるもの。エイワスと対峙する彼女の瞳はいつもの不安そうな眼差しではない。芯のある、戦意があった。エイワス「ロシア国内では君に似た存在が確認されてたな、大天使『神の力』」エイワス「いや、不完全性を個性として認めるのならばミーシャ=クロイツェフと呼ぶべきか」エイワス「ともあれ、アレが現在の人類の技術や軍事力でどうこうできる問題ではない」エイワス「もし、蹂躙が始まれば多くの悲劇が訪れるだろうな」風斬「だから私に戦えといっているのですか?」エイワス「ソレはソレで興味深い選択肢の一つだな」エイワス「ロシアでのAIM拡散力場については心配要らないだろう、『妹達』を媒体にすれば問題ないだろう」風斬「またあの人達の頭にウイルスを送るというのですか?」エイワス「必要とあらば」風斬「…………」エイワス「さて、どうする」
風斬「私に似て非なる存在が、私の……、友達……と呼べるほど接点がありませんがともかく」風斬「私の友達が今ロシアに居ます」エイワス「『佐天涙子』か、なるほど着眼点はいい」風斬「それは私に言っているのですか?それとも彼女に?」エイワス「どちらも、と言いたいが」エイワス「佐天涙子の着眼点はすばらしかった、確かにアレを使えば【hg黒shyt】も──」エイワス「ふむ──正しくは無いが言えないのならば仕方が無い、佐天涙子の“ガブリエル”も安定するだろう」エイワス「オリアナ=トムソンは“クロノス”と表現したみたいだが、それでも正しいとは言いがたいな」風斬「──恐らく佐天さんは、この戦争の先を視ているのでしょう」エイワス「上条当麻の件を抜けばイギリスのクーデターはアレイスターにとって本来どうでもいいことだった」風斬「佐天さんさえ居なければ、ですが」風斬「もし、もしも……あのクーデターに佐天さんが関わってなければ」風斬「私はあなたの言葉に乗せられ、ロシアに行って護るための戦いをしたでしょう」エイワス「可能性の話をするのならば、佐天涙子はミーシャ=クロイツェフに惨敗する可能性のが高い」風斬「佐天さんは私の友達で、恩人で、人間なんです」風斬「人間だからこそ、可能性が生まれる」エイワス「面白い」風斬「ただし、次の戦いでは……『共食い』になったとしても……私はあなた達の敵に回ります!」エイワス「脅しというには甘い、それは逆に私の興味を引きかねないぞ」 ──────────── ────── ─ -
◆石で出来た狭い部屋だった。元は砦か何かだったのだろう数百年前の建物に最新の設備である蛍光灯やエアコンなどが取り付けられている様は少しシュールに感じられた。エリザリーナ独立国同盟。ロシアの雪原で無能力者の少年に敗北して、一方通行が目が覚めた場所はそこだった。どうやら、無能力者の少年の計らいでここに運び込まれたみたいだった。一方通行のいる部屋から見える限り廊下や、窓から見える外では迷彩服を着た男女がバタバタと忙しそうに動いている。一方通行「バッテリーはこンなモンか」一方通行「学園都市と電圧・電流・プラグが違ェが現地のアダプターを分解して調整すりゃイイだけの話か」一方通行「問題はこの羊皮紙の中身だ」一方通行「……(呪文みてェなモンが書いちゃいるが、意味がわからねェ)」一方通行「……(取扱説明書みてェな感じだな、何かの手順を踏むよォに連続描写してンのは分かるんだが)」女「もし」一方通行「あァ?」女「少しよろしいですか?おや……?」チラ一方通行「この羊皮紙の内容が分かるのか?」女「一応は【魔術】を使えはしますが……ふむ、これは魔術の変換条件のようなリストですかね」女「ローマ正教式の魔術をロシア成教式で発動させるためには、ここをあれに置き換えてとかそのような感じですかね」一方通行「──、」女「この羊皮紙ぐらいのレベルとなりますと、エリザリーナ様でなければ解読できませんね」
一方通行「……(この女はさっきから何を言ってる?魔術?ローマ正教?)」一方通行「そのエリザリーナってヤツは何処居やがる?」女「野戦病院のベッドの上にいらっしゃいますが」一方通行「何だ?」女「意識が戻られるのは数時間後かと」一方通行「チッ、よりにもよって頼みの綱が病院のベッドの上で呻いていやがるとはな」女「そちらの女の子は大丈夫なのですか?」一方通行「大丈夫なよォに見ェンならテメェこそ病院に行くべきだな」一方通行「こっちは国外脱出してまで縋り付きに来てンだぞ」女「でしたら尚更動かせないのでは?」女「今からどう動くにしろ、女の子を連れまわしては不自由でしょう」女「学園都市の最新テクノロジーとは比べられませんが、私達の病院に預けたほうが良いかも知れません」一方通行「別に殺し合いをするつもりはねェンだがな。エリザリーナ以外にこの羊皮紙を解読できるヤツは?」女「私を含め、学問としての魔術を学んでいる者は少ないためこの羊皮紙の解読はエリザリーナ様でなければ難しいかと」一方通行「眠り姫が起きるのは数時間後か……」女「女の子はどうします?ベッドがいるのならば早いうちに言って頂かないと」一方通行「……、確かにガキを背負ったまま戦ったりするのは間抜けな構図だな」一方通行「こいつの体調を考えれば病院にでもブチ込んでおいたほうがイイのかも知れねェ」が、と一方通行は付け加えパパンパンパン!!と唐突にズボンのベルトに挟んだ拳銃を取り出し、近くにいた兵士達の両足を打ち抜いた。
女「ッ!?」一方通行「スパイだよ、ガキを預けるのなら綺麗さっぱりクリーンな環境を整えなきゃな」一方通行「通信機の範囲は狭い、恐らく外に本格的な装置を持ったやつが通信兵が居るだろ」一方通行「当然、もう逃走準備を始めてンだろ」カツンカツン一方通行「宿代の代わりだ、一掃してきてやるよ」女「お待ちください」一方通行「あァ?」女「あなたに話しかけた本来の意味を忘れるところでした」一方通行「何だァ?」女「佐天涙子様から貴方宛にお手紙を預かっていますので、これを」カサリ一方通行「あのクソアマから?………チッ」女「何と書かれていましたのですか?」一方通行「答える必要はねェな」女「そうですか、ではお気をつけて」
◆周囲には何もない。夏に来ようが、ここは只の草原が広がっているだけなのだろう。フィアンマへの足取りを追う上条当麻を追う佐天涙子であったがそれにしても、随分と出遅れてしまった。佐天「まずい、かもしれません……」佐天涙子が乗っている大型車両には他にも数人乗り込んでいた。そのうちの一人が佐天涙子の呟きに話しかけた。男「何か、まずいのか」佐天「もしかしたら、合流できないかもしれません」男「ん?いや、後一時間も走らせれば合流できるはずだが──」佐天「っ!?」男「──ッ!?」
彼らの前で起きたことを説明すれば簡単なことかもしれない。しかし、目の前で起こった現象を信じれる人間がどれほど居るというのだろうか。その時。フランスのモン=サン=ミシェル修道院から巨大な尖塔が引きちぎられた。その時。イタリアの聖マリア教会から複数の柱が抜き取られた。その時。インドの聖ヨセフ教会から荘厳なパイプオルガンが飛び出した。二〇億人以上の信徒を抱えるローマ正教の世界各地にある、教会や修道院などがそれらの中にある特に重要な物品が──魔術を帯びた物品が取り外された。まるで磁石に吸い寄せられるかのように、そうした物品はある方向へ飛来していった。ロシアへ。右方のフィアンマの待つ、極寒の地へと。数百、数千、数万、数十万とかき集められた物品は一箇所に集まると、複雑に絡み合う。始めから整えられたジグソーパズルのようではなく、無理やりに絡み合っている。巨大な構造物の塊は、一辺が一〇キロメートル以上ある基地よりも膨張を続けている。そして、変化はそれだけに留まらなかった。ゴッ!!という轟音と共に雪の大地が──持ち上がった。右方のフィアンマはこれをこう呼んだ。──ベツレヘムの星、と。
佐天「……信じ……られない……」男「要塞を作って……空へ浮かべた……?」佐天「────あっ、あああぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」男「なっ、どうしたんだっおい!!おい!!」──その時、右方のフィアンマはベツレヘムの星のどこかでポツリと呟いた 『出撃だ、ミーシャ=クロイツェフ全てを吹き飛ばせ』と──
世界が、夜へと変じた。全世界の空が、一瞬にして黒く塗りつぶされた。ロシアの上空、雲よりも上に黒く塗りつぶされた空間から青い光点が垣間見えた。凝視すれば、それは人のカタチに見えたのかもしれない。星の輝きにも似た小ささの光。ただの点にしか見えないような小さな光。だが、その光から伸びた巨大な翼のようなものが水平に空を引き裂いた。音が消えた。男「おいおい……なんだあれは……」男「青い点から何か飛び出て……、学園都市の爆撃機をまとめて吹っ飛ばした……?」男「まともじゃない……」男「おい、お嬢さんはアレが何なのか分かる────」先ほどまで、自分の傍で苦しそうにしていた佐天涙子といわれる少女は消えていた。男「!?おい、誰か!!学園都市の女の子が何処に行ったのか知ってるやつはいねぇかぁ!!」
◆その変化は御坂美琴も目撃した。彼女もまた上条当麻を追い、学園都市の超音速爆撃機に乗り込んでいた。勿論上層部の命令で軍事力として投入されたわけではない。ハイジャックのような……、いや完璧にハイジャックしていた。先ほどまでは地上から浮かび上がった凄まじく巨大な塊に近づこうと思っていたのだが。唐突に世界が漆黒に覆われ、遥か遠くに青い光点が見えたかと思うと────。御坂「嘘でしょ!?何よあれ……」青い光点の中心に何かが居た。人間じゃ、ない。何故ならば、その背中から水晶のような、孔雀のような、不可思議な翼が生えている。その翼が振るわれた。遥か遠くに飛んでいた御坂美琴が乗る超音速爆撃機の胴体が真っ二つにされた。御坂「嘘ッ!!!何──」地上三〇〇〇メートルに投げ出された御坂美琴は恐怖よりも先に、あることに気付いてしまった。先ほど現れた巨大な要塞の中に────見慣れたツンツン頭の少年が居ることに。時間にしても一瞬、だが御坂美琴は確信していた。あの浮かんでいる巨大な要塞の中に追いかけていた人がいると。
御坂「(くっ、どうするっ!!)」御坂「(このままじゃ地面に激突して悲惨なことになっちゃうけど)」御坂「(む、あそこにあるのは攻撃ヘリ!?なら──)」御坂美琴は磁力を操作した。攻撃ヘリに張り付くのではないこの高度と速度で接触すれば自分の体などトマトジュースのようになってしまう。重要なのは、明確に張り付かない程度の半端な磁力。ゆっくりと、しかし慎重に磁力を操作しながら雪原へと降りていく。御坂「……っ、何とか上手くいったものの」御坂「さて、どうやってまた雲の上を目指そうかしらね」白い雪原の上で御坂美琴は空を見上げていた。こうしている間も、あのツンツン頭の少年を乗せた巨大な要塞は高度を上げているようだった。御坂「ええい!!ここまで来て蚊帳の外とか絶対ありえない!!どうにかして近づく方法を考えないと」御坂「どう考えてもアイツはこの騒乱のど真ん中に居るっ!!」御坂「私が学園都市でどれだけ心配したのか説教するには、まずは安全なところに引きずり出してからよ!!」
誰も居なかった雪原で御坂美琴は予期せぬ出会いがあった。それは──佐天「…………」御坂「佐天さん!?ど、どうしてこんな────!?」佐天「…………み、みさかさんですか……」御坂「ど、どうしちゃったのよ佐天さん!!顔色が──いや、明らかに具合が悪そうだけど……」佐天「き、きにしないで……ください……」御坂「佐天さんがこんな危ないところに居るのもだけど、気にしないでくださいってそんなの無理よ!!」佐天「さっき、あの空に浮かんでる要塞みたいなのに行きたいって、仰いましたよね」御坂「佐天さん?」佐天「行け、ますよ……私の左手の力さえあれば」御坂「足も震えて……、佐天さん────」佐天「当麻さんはあの空の要塞に居ます」御坂「!!」佐天「私、も行かないと……」佐天「ここに落ちているあの要塞から落ちた『物の時を逆流』してあげれば……っ」御坂「佐天さん!!そんなの無茶よ──」佐天「しっかりあたしに掴まっててくださいね、高度とかについても時を操作してどうにかしますから」御坂「ちょっと待っ────」
ぶわっ!!、と落ちていた空に浮かぶ要塞の一部だったモノと一緒に二人は上昇する。時を逆流すれば、落ちて来たとおりに戻る。回転をしながら。佐天「この要塞の欠片の周りの時を固定しましたので、振り落とされることは無いですが」御坂「──────」佐天「御坂さん自身も止めておいて正解だったのかな?酔いそう……」
◆御坂「はっ!?ここは……」佐天「あの空中の要塞まで無事に来れましたね」佐天「要塞の一部が側面のほうにあって助かりました」御坂「佐天さん!!具合のほうは大丈夫なの──」御坂「明らかにさっきより具合悪そうじゃ、ない……」佐天「能力を使いすぎてちょっと疲れちゃっただけ、ですから……」佐天「それより、あの先に居るのは──」スッ佐天涙子が指を刺した先には、ツンツン頭の少年が──拘束具のような衣装を華奢な体を締め付けている少女と対話していた。御坂「あの野郎ォォォォォ!!こんな時もかぁぁぁぁあぁ!!」一目散に上条当麻の元へと駆け出した御坂美琴であった。
──佐天涙子は上条当麻の居る方向とは別の、ある方角を向いていた。青い光の中心点に立つ、先ほどから佐天涙子を押しつぶさん限りの力の根源である天使。ソレはミーシャ=クロイツェフという。その天使は、体の大きさはそれほど異様ではない。二メートル前後の、女性的なシルエットを保っている。細部が人間とはかけ離れている。皮膚の変わりにすべすべした布のようなもので体表を覆い、顔には目も鼻もついていなかった。そして、巨大な氷の翼。その天使は遥か上空から、一気に地上へ────戦車や駆動鎧の密集する場所へまるで隕石が着弾したかのような衝撃の後、氷の翼を四方八方へと振り下ろす。もはや、戦争どころではなかった。天災、災厄の類。そんなものを前に人間がどうにかできるはずなどなかった。
◆上条当麻とサーシャと何故かこのベツレヘムの星に居た御坂美琴と共に走っていた。上条「……、まだこの要塞の高度が上がってるな」御坂「ってか!!何でアンタがこのワケわかんない戦争の真ん中に居るわけ!?」上条「参ったな……サーシャに説明を任せた」サーシャ「第一の解答ですが、何故私が説明をしなければいけないのでしょうか」サーシャ「それに私が貴方がここに居る理由を知りませんし」上条「くっそ、俺はフィアンマの野郎の居場所さえ分かればいいんだが」御坂「いやいや、そのフィアンマって誰よ。つーかそこの変な衣装来てる女は誰よ」サーシャ「………(ワシリーサ、殺す」ボソッ上条「おい!!あそこにモノレールみたいなのがあるぞ!!」御坂「いや!!だからアンタは────」上条「悪い御坂、今は説明している時間も惜しいんだ」上条「サーシャも御坂もここで待ってても────」サーシャ「第二の解答ですが、それが出来れば苦労はしません」上条「……、だよな。パラシュートかなんかでも見つけない限りはここから逃げることも出来ないしな」上条「よし、フィアンマの野郎をぶっ飛ばしたらそっちについても考えないとな」上条「とりあえず御坂、モノレールとかって動かせるか?」御坂「~~~~~っ!!あーもう!!色々言いたいことあんのに!!」御坂「わかったわよ!!動かせばいいんでしょっ!!動かせばさっ!!」上条「すまん!!助かる!!」
御坂美琴のお陰でモノレールは暫く要塞の中を進んでいたがやがてトンネルを飛び出すような格好で天空へと車両をさらけ出した。一面の黒。真っ黒に塗りつぶした、星一つもない暗黒の空だった。遥か下方では、先ほど出現したミーシャ=クロイツェフが暴れているのか赤く輝く地域がはっきりと見て取れた。ギリ……とわずかに奥歯を噛む上条。その時だった。地上の赤く輝く地域から、何か水蒸気のようなものが噴き出た。上条「地対空ミサイルだと……ッ!?」一つや二つではない、五〇、一〇〇の噴出炎が夜の闇に風穴を開ける。地上に居る人々にとっては起死回生の一手なのかもしれないがそのミサイルは上条たちが居るエリア一面へと向かってくる。爆発音が炸裂した。モノレールのガラスが砕け散る。車内に突風が入り込んでくる。耳を押さえた一行があることに気付いた。ミサイルが、直撃してガラスが砕ける程度で済むわけが無いと。何者かに、ミサイルは打ち落とされた。窓の、外には巨大な翼を備えた怪物、大天使ミーシャ=クロイツェフが。長い間上条当麻は目の前でモノレールと平行してる大天使と視線を合わせていた。しかし、上条当麻は背筋に嫌な感覚が走るのを確かに感じた。上条「(まずい……!?攻撃して来────)」ゴギィィィィ!!!と、岩と岩をぶつけたような凄まじい音が炸裂した。
驚きのあまり、心臓が止まったかと思った上条当麻だったが攻撃をしたのは、大天使ミーシャ=クロイツェフではなかった。攻撃をしようとしたミーシャに対し何者かが猛烈な速度で飛び蹴りを放ち、ミーシャを薙ぎ払った音だった。サーシャ「だ、第一の質問ですが、一体何が……!!」大天使へと有効打を加えられる存在なんて、まともじゃない。ここはかなりの高度に存在する要塞だ。こんなところまでやって来れる魔術師など、上条当麻は知らなかった。魔術師だけに限って言えば心当たりが無いだけの話で例えば、九月の終わりにヴェントが学園都市に攻め込んできた日に見た存在風斬氷華という存在ならば、知っていたが。上条当麻達の目の前で大天使に飛び蹴りを食らわせたのは風斬氷華ではない。自分も良く知っている人物、先のイギリスのクーデターのときも────もっと記憶をたどれば、夏休みに寺へバイトしに行ったときから知っている女の子。上条「る……涙子ちゃん……?」腰まで伸びた黒くてストレートの髪の毛に花飾りのピンをしている少女。ただ、自分が知っている佐天涙子という女の子は……。目から赤い涙を流したりはしていなかったし、頭上に輪などついていなかったし何より、左腕に羽根など生えては居なかった。佐天「────────」上条「……、」御坂「……っ」此方を見た後に、視線を大天使ミーシャ=クロイツェフに移す。飛び蹴りを食らった大天使は反撃をするために佐天涙子へ攻撃を仕掛ける。攻撃を受け止めた少女は、モノレールから離れるように空中を凄まじい速度で離れてしまった。大天使は標準を佐天涙子へ移したのか、佐天涙子が離れていった方向へ大天使もまた、凄まじい速度で飛んでいく。
◆フィアンマ「……つまらん」フィアンマ「学園都市が用意したミーシャ=クロイツェフの対策がこれだと?」フィアンマ「こんなものか、俺様の敵は。大天使が出てくればどのように戦況に響くかシミュレートできていないとは言わせないぞ」フィアンマ「この大天使の足元にも及ばんぞ、あの小娘は」フィアンマ「せめてイギリス時のような変革があれば話は別だがな」フィアンマ「しかし、あの変革はカーテナの力を借りないと無理なのだからな」
圧倒的だった。突如として現れた大天使に呼応するかのようにまた突然出てきた化物は圧倒的に負けている。小柄な少女のような化物が動いた時にはすでにミーシャ=クロイツェフは動き終え少女に攻撃を加える。寸前で回避するために、移動する少女の先に待ち受けているミーシャ=クロイツェフ。大天使の背にある巨大な翼が振り下ろされた。ゴッ!!、という衝撃音は少女のような化物が地表へ激突した音だった。佐天「──√レ _」ミーシャ「hbo・・帰・・…fbyuo」佐天「ふ……──これ──で─いい──」ミーシャ「帰る。fr 位置。正しい座uj。天界 元の。あるべき qe場所。」佐天「そう─√レ─帰る──の─おい、で─z_」何かが、ブレている。水の天使がブレている、佐天涙子に向かって飛び出すように輪郭がぼやけている。ミーシャ=クロイツェフが二人になったように見えた瞬間ソレは起こった。音が、光が、一瞬だけ世界から消えたように感じた。佐天「取り敢えずは、成功……したよね」音が、光が世界に戻ってきた中心に居たのは──腰まで伸びた黒髪ストレートの少女である佐天涙子。先ほどと違う点があるとするならば瞳から赤い涙を流すようなことは無く、左腕の羽根も消え去っており佐天涙子の左腕は人間のソレだった。ただ、彼女の頭上にある眩しいくらいに黄金に光っている輪と彼女の背に生えている、真っ白な六対の翼だけが人間と違っていた。
フィアンマ「なにっ!?どうなってる!!」フィアンマ「あの女が大天使の力を“吸収”しただと……?」フィアンマ「そんなこと……不可能な筈──」 『実際出来たんですから、不可能じゃ無かったって事です』フィアンマ「……っ!!」フィアンマ「俺様とミーシャ=クロイツェフの五感はリンクしている……吸収したというのは本当のようだな」 『確かに、あたしが一人でアレを吸収するのなんて無理なことでした』フィアンマ「…………ッ!?カーテナかッ!!」 『正解です、こないだのクーデターの後にこっそり回収しておきました』 『その所為でロシアへ行くのが遅くなっちゃいましたけどね』フィアンマ「……、貴様が吸収した大天使の総量は凡そ三分の一だ」フィアンマ「いくらカーテナの力を借り、吸収に成功したとしてもまだ力の差は歴然だ」フィアンマ「行け、ミーシャ=クロイツェフ。目の前の小賢しい小娘を粉砕しろ」
◆佐天「さて、と。第二ラウンドといきますかね?ミーシャ=クロイツェフさん」ミーシャ「被害。無視。優先。帰る。正しい。位置。必要。邪魔。悪。判断。全て」ゾワッ!!と大天使の中から絶大な力の渦が巻き起こった。ミーシャの背の翼が一際大きく振られ、佐天涙子と激突する。ゴッ!!と。球状の衝撃波がロシアの平原の何処までも広がっていった。ビリビリと空気が震えた。ミーシャ=クロイツェフは何も持たない右手を緩やかに振り、氷の剣を虚空から生み出しそのまま佐天涙子へと振り下ろす。佐天涙子は左腕を突き出し、それをガードする。氷の剣は佐天涙子の左手の先の虚空で止まっている。まるで鍔迫り合いをしているかのようなガリガリガリ!!という音が響く。その鍔迫り合いをしている両者の背にある翼は生き物のように蠢く。音速を超える勢いで翼がそれぞれ別な角度から標的を狙う。鍔迫り合いの最中に行われていた人知を越える攻防を制したのは────
佐天「──ぐぅぅ!!ッ!!」氷の剣を振るうミーシャ=クロイツェフだった。佐天涙子も負けじと翼を振るう。氷の翼が振るわれ、真っ白な翼が千切られる。真っ白な翼を振るい、氷の翼を砕く。切り落とされたり、砕かれたりして主を失った残骸は空中で細かい粒子となって散らばり辺り一面に光の雪を降らせた。しかし佐天涙子が氷の翼を一つ砕く頃にはミーシャ=クロイツェフは佐天涙子の二つ目の翼を破壊しようと攻めてくる。ジリジリと、佐天涙子は押し込まれていた。佐天「(ッ!!このままじゃ──!!)」ミーシャ「補足。必要。羊皮紙。情報。入手。」佐天「!!」佐天「一方通行さんのとこに行く気か──ッ!!」
◇地面の白い雪を爆風のように吹き飛ばしながら、一方通行は二体の天使の元へ突撃した。片方は氷の剣、もう片方は透明な何かをぶつけ合う二体の丁度真ん中へ。反射を適用させて。ゴバッ!!という轟音が炸裂した。一方通行「(この能面みてェな氷っぽいヤツにはまともに反射が機能しない)」一方通行「(もう一方のコイツにはまともに反射が機能したな)」佐天「一方通行さん!!」一方通行「く、は、面白ェ。何なンだァ?その姿はよォ」佐天「色々あるんですよ」一方通行「手紙に書いてあった事ァよォ冗談かと思ってたンだが、その姿じゃ冗談ってワケじゃねェんだろ?」佐天「手伝って、くれますか?」一方通行「そりゃァこの怪物を始末してからだ」佐天「そ、ですね……」佐天「──あそこの可哀想な天使の幻想を私達で止めましょう」
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