--------------------------------------------------------------------------■報告書--------------------------------------------------------------------------○天使の力を行使? 学園都市の中学生 佐天涙子(さてん るいこ) Saten Ruiko 先日のアビニョンでのテッラとの戦闘時において、強大な天使の力を観測 発生源は、学園都市の女生徒である【佐天涙子】によるものと特定。 彼女の学園都市での超能力のレベルは0である。 しかし、彼女の左手に超能力とも魔術ともいえない力を確認。 その能力は“時間を操作”する能力とされる。 時間の操作といっても自由自在に操作できるわけではない模様。 以下に確認されている彼女の能力を記述する。 ・時間を遅くさせる (20~30秒程度) ・時間を止める (3~5秒程度) ・範囲指定の時を止める (彼女を中心とした5メートル程度か) ・特定物体の時間逆流 (未確認情報) 以上の能力を有するとされている。 そしてアビニョンで佐天涙子から天使の力を観測 目撃者の証言によると姿は【天使】のようだったと。 双眸から真っ赤な涙がとめどなく流れ 左手には鈍色の羽根に包まれており、頭上には透明な輪があったとの証言である。 また、学園都市に神の右席であるアックアが【上条当麻】を殺害しに赴いたが 佐天涙子については殺害対象からは外れていた模様。---------------------------------------------------------------------------- ----------------------------------------------------------------------------
◆──ピッ、ピッ規則的に聞こえる病院でしか聞けない音をBGMに初春飾利はベッドの横の花瓶の花を取り替える。初春自身も入院するほどではないが多くの怪我を負っているが、それももう癒えてきた。十月九日この日に垣根帝督と名乗る少年から攻撃を受け、怪我を負った。その直後くらいだったろうか、痛みで意識が朦朧としている中で友人の姿があった。あの日、コンサート前広場で初春に何かを隠して行った佐天涙子は怪我をして現れた。深くは追求できるような状況ではなかったし、もし怪我をしていなかったとしても何も追求できなかっただろう。明滅するする視界に現れた彼女は、一瞬だが──ほんの一瞬だが……。 “天使のようだった”その天使は左手を初春に差し伸べそして初春に折り重なるように倒れた。その左手が初春に触れた瞬間に垣根帝督から受けた重い傷は癒えてしまった。こうして入院もせずに歩き回れるのは彼女のおかげだとあれは『幻想』などではないと初春は信じていた。
初春「ふー、やっぱり朝は早起きするに限りますね!」初春「10月の朝の空気はとても気持ちがいいですよねー」初春「早起きは三文の徳といいますか、どうも最近寝覚めがいいんですよ」初春「まっ、佐天さんは目覚まし時計を壊すくらいのお寝坊さんなんで無理でしょうけど」初春「それはともかく聞いてくださいよ佐天さん!」初春「また白井さんが風紀委員の仕事でヘマしましてねー」初春「どうやったら発注数1個を10個と見間違えられるんでしょうね!」初春「おかげで経費で落とす筈のマグカップが10個も届いちゃって」初春「結局マグカップは経費で落とせないし私が全部買取ですよ!?」 (あははー!何それー!!それは初春が悪いに決まってるじゃんー!!白井さんグッジョブっ!)初春「……、わ、私は悪くないですよ!!ちょっとマグカップが壊れたから──」ピッ、ピッ、ピッ (経費で落とそうとするからバチが当たったのだよ初春君!!ズル、よくなーい!!なんてね)ピッ、ピッ、ピッ初春「──なんて佐天さんは言うんですかね……、」グス (おー?どうして泣きそうなのかなー?あ!!もしかしてこないだスカート捲った事まだ怒ってるとか!?)初春「……ひっく、怒って……ないですから……、だから、だから……いい加減目を覚ましてくださいよ佐天さん……」
問いかけに返事をするのは、無機質で一定のリズムで音を鳴らす機械の音のみ。佐天涙子が、生きている事の証明。十月九日彼女は怪我をして初春と同じくこの病院へ運ばれた。当初の診察によれば、単なる擦り傷や打撲といった軽い診断結果だった。しかし、次の日になっても彼女は目を覚まさない。身体的異常は全くない。精密検査の結果も正常であった。どうして佐天涙子が眠り続けているのかは不明、だった。原因がわからないまま佐天涙子は眠り続けていた。初春飾利は彼女の意識が戻らないことを知ると、毎朝毎晩病院へ通うようになった。基本的には朝は患者との面会はさせない方針なのだが「もしかしたら友人の声という音波が脳を刺激し、覚醒するかもしれない」との一声から特別に彼女は朝の面会を許されていた。初春飾利の朝はとても早いだろう。何しろ患者の友人と言っても学生である。基本的に登校時間に間に合うようにするには、この病院を7時半には出て登校しなければならないだろう。面会時間は朝の5時から7時半ギリギリまで。朝5時にこの病院へ来るのには彼女はどのくらいの時間に起きているのだろうか。それを土日を除いて毎日、だ。十月十日から十月十六日である今日までの六日間初春飾利は5時の面会時間に来て7時半に学校へ向かう。風紀委員の仕事を終え、夜の面会時間ギリギリまでずっと佐天涙子に話しかけ続けている。医者は、初春飾利の負担を考え辞めさせようと何度か説得していた
医者「……(ふーむ、佐天涙子さんの件をいち早く解決しないといけないね)」医者「お忙しいところをお越しいただきありがとうございます、木山先生」木山「ふぅ、忙しいとはとんだ皮肉だな」医者「おや、これは失礼しました」木山「それで、何の用ですか?この私をわざわざ連れてきてまで」医者「……、実は少し診てもらいたい患者が居るんだね」木山「『冥土帰し』の異名を持つアナタが私に──?」医者「大脳生理学の専門チーム所属だった貴女なら別なアプローチができるかもと思ってね」木山「……、それで患者は──?」医者「これがMRIとMRAとCTによる検査結果だね」木山「ふむ……。………?」パサ木山「………………………」パサパサ木山「すまない、異常があるようには見えないのだが……。」医者「そうか、もしかしたら……と思ったんだけれどね」木山「力になれなくてすまない」医者「いや、恐らく“異常なし”コレは恐らくあっている」木山「何……?」木山「(まさかこれは……?)」医者「──暴走能力の法則解析用誘爆実験」
木山「まさか!? あの実験がまだ極秘裏に行われていたと言うのですか?」医者「わからない。だから君を呼んだんだね」医者「それを踏まえた上でもう一度見てくれるかな?」木山「……………」木山「しかし……それでもこれは……」医者「そうか……残念だ」木山「もしかしたら、と言うこともありますのでこれを持ち帰っても……?」医者「患者のプライバシーは守るモノなのだけれどもね」医者「正直な話、藁にも縋る思いなんだね」医者「だから木山先生にはそれをお預けします」木山「わかりました、では……」木山「何か判ったら連絡をします」医者「あぁ、頼んだよ」医者「これで……、保険はある程度掛けた、といってもいいのかね?」医者「正直これ以上佐天涙子さんを意識不明にさせておくのはマズイ」医者「初春飾利さんのことも心配だしね」医者「さて……」医者「……(あの『負の遺産』だけは頼らない事を祈ろうかね)」PiPiPi
◆日本ではない、どこか……イギリス辺りだろうか?一組の男女が暗い個室で密談を交わしているようだ。女のほうは真っ赤なドレスを着ていてまるでお姫様のようだが、お姫様はなにやら羊皮紙を読んでいる。男のほうは高級そうなスーツを着、さらにはピッっと淀みのない姿勢で立っている。キャーリサ「ふーん、何の霊装も無しに天使の力を行使したっつーの?」騎士団長「報告にはそうありますが」キャーリサ「本当に天使の力を行使していたのか疑問だし」騎士団長「報告書には書かれてませんが“天使の力に限りなく近い何か”だった模様です」キャーリサ「重要なポイントを報告書に書かないのはコレ書いた奴が無能だからか?」騎士団長「……、正体が掴めないまま報告書を作成するよりかは天使の力と決め付けて書いたほうが楽だったのでしょう」キャーリサ「ったく、そんなんだからこの国はダメな訳だし」キャーリサ「まーこの娘を計画に加える、と言うよりかは騙して協力させたほうが楽だし」騎士団長「騙す、ですか。中学生といえど馬鹿ではないでしょう」キャーリサ「別に。【交渉】も軍事のうちだし」 ◇ここは……?夢……かな……?真っ白だし、変な夢だなぁーというか、うーん?何か重要なこと忘れているような……?あれー何だっけ……?そもそも、あたしって誰なんだっけ──? 『知りたいか?』へ?あたしの夢なのに誰かから返事がー!!
『知りたいか?』知りたいか?って一体何を……ですか 『お前の知りたいことを』あ!それなら先ずあたしは誰かって事を教えて欲しいなー 『お前の名は、佐天涙子でありhg黒shytだ』佐天涙子……って あ……思い出した──って!いつも思ってたけどそのhg黒shytって何なのよ!! 『それはお前が辿り着く答え、我が教えることではない』えーケチー!教えてくれたっていいのにー 『他に聞きたいことは無いか?ならば戻るがいい人よ。待っている人が居るのであろう』あ、うい……はる……そっか……そうだよね……あたしがあたしである事を教えてくれただけで十分よね! 『……、そうか。』あっ!ズルしちゃおっかなー、なんて学園都市統括理事長の計画って奴を教えてくれちゃったりなんかするのかなー 『それは────』
初春「それでですねー佐天さん──」 ガチャ医者「失礼するよ初春さん」初春「あ、先生──と……そちらは?」医者「あぁこちらは────」コツコツコツ、と部屋に踏み入る黒髪のツンツン頭の男が一人。無言で窓際の佐天涙子を見、そして近づく。わっ、と初春は声をあげたが彼はとまる様子は無かった。彼が佐天涙子の直ぐ傍まで来ると、漸く声を上げた。上条「──ごめんな涙子ちゃん。気付いてあげられなくて」スッスッと彼は【右手】を佐天涙子の額へと伸ばす。彼の右手が彼女の額へ触れると──────パリン
◆佐天「あ……ここは……」初春「あ……あぁ……」ボロッ初春「ざ、ざでん……ざてんさぁ゙ん……」佐天「初春……それに……当麻さんも」上条「……、長い間気付いてあげられなくてごめんな涙子ちゃん」佐天「あはは……、気にしないでくだ……うっ……あっ」医者「起きたばかりだ、無理をしなくて良いね」佐天「だ、大丈夫で……す……お願いがあるんですけどいいでしょうか……」医者「何だね?患者の求めるものを揃えるのが僕のポリシーでね」佐天「それは良かったです……なら、あたしを────」 「──殺してください」
医者「な、何を言っているんだね!?」佐天「──……、あたし……少しだけ……少しだけ分かっちゃったんです」佐天「分かっちゃったから……、分かっちゃったんです……」医者「分かった?一体何をだい?」佐天「私の役割──統括理事長の計画の一部が……、分かったんです」医者「!?──いや、しかし……」佐天「あたしが……あたしは……うぅうぅぅぅ……」バタッ初春「佐天さん!?しっかりしてください佐天さん!!」上条「涙子ちゃん!?(幻想殺しの効果がない……、気絶したのか?)」医者「……、脈拍と脳波に異常なし──気を失っただけだね」医者「……後は僕に任せて、君達はもう帰りなさい」初春「で、でも佐天さんが──」医者「心配ないね、ただ気を失っただけだからね?さっ……」上条「本当に大丈夫なんですか?」医者「心配ないとは思うがね?一応検査をするから君達は帰るんだね」初春「わ、わかりました……」 ◆ 十月十七日佐天「んっ……、ここは──」佐天「あぁ病院、か……」佐天「──、なにか……思い出せないけど、大事なことを忘れてる気がする」医者「おや?目覚めたかね」佐天「お医者さん……?えっと、あたし気を失う前何か言ってませんでしたか?」医者「──、いや何も言ってなかったね?」佐天「当麻さんのお陰で目が覚めて、初春が居て……そこまでは覚えてるんですけど……」医者「君はそこで気を失ってしまったんだね」佐天「うーん、そうですか……ありがとうございます」医者「(記憶があやふやになっているのか……好都合だね)」佐天「えっと?」医者「ん、あぁ……、もう少し検査して特に異常がないようなら退院してもいいね」佐天「そうですか、わかりました」佐天「うーん……(何か……重要なこと……?)」
佐天「ぐへぇー、何か自室に帰ってくるの久しぶりだなぁー」佐天「もう夜も遅いし、寝るかなーん」PiPiPi佐天「??……、嫌な予感が──」??『こんばんは退院おめでとうだにゃー!佐天涙子ちゃん』佐天「はぁ、誰ですか?凡その予想は付いてるんですけど……」??『随分と荒んでるんだにゃー俺だよ俺、大覇星祭の時の土御門だにゃー』佐天「あ、あー……やっぱりそうですか。で、何のようなんですか?」土御門『うーん、ちょっと説明が面倒ではあるんだけど涙子ちゃん最近ニュースとか見てるかにゃー?』佐天「いえ、ここ1週間以上見てないですけれど……」土御門『ふむ。まぁ何と言うかイギリス──フランス間を繋ぐユーロトンネルが爆破されたんだ』佐天「……、はぁ……それでどうしてあたしに?」土御門『まぁその爆破した奴が魔術師の可能性が高いんだにゃー』佐天「それで、どうしてあたしが?」土御門『うーん……、ちょっと分かり辛いかもしれないがフランスとイギリスを繋ぐトンネルの所為でな』土御門『どちらの国も被害者として調査したがっているんだにゃー』
佐天「は、はぁ……」土御門『まぁそれで涙子ちゃんにはそのイギリスに行ってもらう事なるんだが』佐天「え゙!!ひ、一人でですか……?」土御門『いや、上やんも一緒に行くからその点は安心してくれ』土御門『まぁそっちの寮の外に迎えの車をよこすから待っていてくれ』佐天「……、わ、わかりました……」土御門『もっと詳しい説明は現地に天草式の誰かを用意させておくからソイツに聞いてくれ』佐天「えっと、これは学園都市からの……?」ズキ土御門『いや、今回はアレイスターからの命令ではない』佐天「……っ!!」ズキン土御門『そういうことだから、よろしく頼んだにゃー』ブッ佐天「痛っ……ん?何か一瞬頭が……?」佐天「…………?」佐天「まぁいっか……よし今回も行ってくるか」佐天「初春──は……まだ風紀委員の支部にいるか……」佐天「書置きくらいしておこうかな」カリカリ佐天「っと、よし!それじゃあ行きますか」
──第二十三学区──佐天「ぐっ……この飛行機は……」佐天「こないだも乗ったトラウマ飛行機じゃ……」佐天「落ち着け落ち着け落ち着け落ち着くんだ佐天涙子……っ!」佐天「今回は当麻さんもいるんだ……うぅぅぅ……だめだ、やっぱこの飛行機嫌だよぅ」佐天「しかしもう乗っちゃったしなぁ……」佐天「…………」佐天「予定フライト時刻まであと少しだけど……当麻さん遅いんじゃないかな」佐天「あたし以外に乗客もいないし……」 ニャー佐天「ぬっ!?土御門さん??」スフィンクス「にゃー!にゃー!」佐天「なんだ、猫か……」ゴゴゴゴゴゴ佐天「って!!動き始めましたケド!?当麻さああーん!!」スフィンクス「にゃー……(まぁお嬢ちゃん諦めようぜ……)」佐天「いやぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
──イギリス──??「到着予定時刻は過ぎたが、少し遅いな……」??「ふむ。写真と一致している少女が一人居るな」??「あれが佐天涙子か……」佐天「空港に、ついたのよね……もうだめ……周りは外国人ばかりで無理……」佐天「というか、現地に天草式の人がいるらしいけど──」??「もし、そこのお嬢さん」佐天「は、はいっ!?(日本語?)」??「佐天涙子殿と見受けられるが……?」佐天「そ、そうですけど……貴方は?」??「これは失礼。私は騎士団長と呼ばれているものだ」佐天「ふぇっ?えっと……、天草式の人が来られるとお聞きしていたのですが」騎士団長「少し事情があってな、今回は私が案内をする為にここに居る」佐天「そ、そうなんですか……」騎士団長「ユーロトンネルの事について説明は受けているのか?」佐天「えぇと、一応聞いてはいるんですけど……」騎士団長「ふむ……(好都合といったところか)」騎士団長「では、説明は現地で行うものとして付いてきてくれるかな?」佐天「は、はい……」
建宮「あれー?上条当麻の野郎と佐天涙子ちゃん遅いのよ」スフィンクス「ニャー」建宮「猫は居るんだが……」
◆佐天「で、でかっ!?」騎士団長「キャーリサ様のご住居だ。大きくて当然といったところかな」佐天「キャーリサ様?すいません不勉強でどなたかご存じないんですが」騎士団長「他国の事について事細かに覚えていることを望んではいないよ」騎士団長「キャーリサ様はこのイギリス女王の第二王女であらせられる」佐天「お、王女!?そ、その冗談ですよね??」騎士団長「冗談ではない、ユーロトンネルの事等について君に頼みたくてな」騎士団長「そのためにキャーリサ様は君を日本から招集したのだ」佐天「あ、あたしに!?そ、そんな恐れ多い……」騎士団長「……、あくまで個人的な頼みごとだからな……断ってくれても構わない」佐天「は、はぁ……その、頼みごとって奴を聞いてから判断したいと思います」騎士団長「そうか(ふむ。中学生と聞いていたが、そこそこ良い精神をしているな)」
騎士団長に案内された部屋の中央には一人の女性が立っていた。赤いドレスを着た二十代後半くらいの華奢な女性だった。キャーリサ「よく来たな」佐天「あ、へ……?は、はい……」キャーリサ「そう緊張しなくてもいーし、リラックスしてくれて構わん」佐天「あ……はい……」キャーリサ「……(見た感じ普通の幼子にしか見えないし)」佐天「え、えっと?」キャーリサ「──、順を追って説明するか。問題の発端は五日前に起こったユーロトンネルの爆破事故だ」キャーリサ「イギリスとフランスを繋ぐ唯一のトンネルであるユーロトンネルは三本並んで海底を走っているはずなのだが」佐天「はずなのだが?」キャーリサ「それが全部吹っ飛ばされたわけだし」
佐天「吹っ飛ばされた……」キャーリサ「母上ももう掴んでいるだろうけど、これはフランスによる破壊工作だと」佐天「えっ……?えっ?」キャーリサ「このままだとフランスとイギリスの戦争になる」佐天「せっ、戦争ッ!?」キャーリサ「あぁ、これはどう足掻いても止めることは出来ないし」佐天「そんな!どうにか止めることは出来ないんですか?」キャーリサ「無理だな、どうあっても避けることは出来ないし」キャーリサ「戦争は、まぁいーとしてもだ、よく聞いてくれ」佐天「はい……」キャーリサ「“このまま戦争をしたらイギリスは負ける”これが問題なんだし」佐天「……っ!」
キャーリサ「というのもイギリスは【王室派】と【騎士派】と【清教派】の三つに分かれてる」キャーリサ「今、この纏まっていない三つのグループでフランス相手に戦争を仕掛けたら負けるのは確実だし」キャーリサ「だから私は騎士派と手を組んだのだが、しかし私一人で王室派という訳ではない」キャーリサ「母上と姉上と妹が居るのだが、こいつらは頭が硬くてね」キャーリサ「それに清教派のローラ=スチュワートも全部のグループで仲良しこよしって意見はハナから持ち合わせちゃ居ない」キャーリサ「別に戦争でフランスを負かして相手の人間を多く殺そうって訳じゃない」佐天「……ッ!!」キャーリサ「私はこの戦争に勝ちたいんじゃない、引き分けたいんだ」キャーリサ「“なるべく、多くの犠牲を払わないために”」キャーリサ「その準備を君に頼みたい……」キャーリサ「頼む。この通りだし」ペコリ佐天「そ、そんなっ!!頭を上げてください!!」佐天「手伝いますから!!」
キャーリサ「ありがとう……感謝するし」キャーリサ「【新たなる光】というグループで少し仕事をしてくれればいーし」キャーリサ「頼んだし佐天涙子ちゃん」佐天「はいっ!!任せてください」騎士団長「本当にいいのか?子供には少し辛いと思うが」佐天「大丈夫です!!こう見えても学園都市で何件も事件を解決してますから!」キャーリサ「それは頼もしーの、頼んだよ」キャーリサ「やっぱ天使の力を行使できるといっても子供ね」騎士団長「第二王女とはいえ皇族に頭を下げられては断れるものも断れないでしょう」キャーリサ「ふん。これで時間が稼げるなら安いものだし」キャーリサ「精々、期待してるし。涙子ちゃん」
◆佐天「えっと、貴方達が【新たなる光】のメンバーですか?」フロリス「えぇ、私はフロリス。今は二人ですが、他にも二人居ますよ」佐天「あたしは佐天涙子って言います。よろしくお願いしますね」フロリス「ほら、レッサー挨拶をしなさい」レッサー「…………」ジー佐天「え?……レッサーちゃん?」レッサー「…………」ズイッ佐天「な、なに……って、きゃぁっ」ポムンレッサー「!?………」ペタペタ佐天「むむむ、胸を、胸を触られた……」ドキドキレッサー「同い年で……くそっ……敵だな貴様!!」フロリス「馬鹿なことをするなっ!!」バコッ
フロリス「それで、これからの仕事について説明するけれど」佐天「はい!あたしは何をすれば……?」レッサー「むしろ何が出来るのよー?魔術師じゃないって聞いてるけどホントに使えるの?」佐天「ぬぬっ!確かにあたしは魔術師ではないですけど……」レッサー「でも学園都市の人間って事は、超能力が使えるんでしょ?」ミセテミセテーフロリス「確かに、気になりますね……詳しい事は聞いてはいないので」佐天「……、じゃああたしをしっかり見ててくださいっ!」レッサー「うん?……」 ドォ────z____ン!!佐天「ふっ、さっき胸を揉まれた仕返しでもしますか」サッ佐天「4,5……まだもう少し時間を止めていられる──ッ!!」佐天「8,9……9秒も止めていられる……」レッサー&フロリス「ッ!!?」佐天「びっくりしましたかー?レッサーちゃん、さっきのお返しだー!!」コチョコチョレッサー「ひゃっ、あひゃひゃひゃ!!いやぁぁぁくすぐるのは!!」レッサー「分かったから……くすぐりはランシスだろぉぉお……ひゃひゃぁぁ」
佐天「で、具体的にあたしは何をすればいいんですか?」フロリス「佐天さんにはしばらくはレッサーと一緒に行動してもらいます」レッサー「えー!?一人で十分だぜー?」佐天「酷いこと言わないでくださいよぉーレッサーちゃん」ワキワキレッサー「わかった!分かりましたからくすぐるのだけはやめてー!」フロリス「具体的な作戦なんですけれども──」キャーリサ「それは私から説明するし」フロリス「キャーリサ様!?」キャーリサ「……(計画については私から説明するからお前たちは席をはずせ)」キャーリサ「……(佐天涙子にはカーテナ=オリジナルの事は言うな)」フロリス「!!……、分かりました。私達は席をはずしますね」フロリス「行きますよレッサー」レッサー「あ、あぁ……」キャーリサ「それで今回の作戦の前に、涙子ちゃんには少し辛い情報が入った」佐天「辛い情報……?何ですか?」キャーリサ「先ほど母上と姉上と妹との会合があったのだが」キャーリサ「どうやら学園都市から禁書目録とその保護者である上条当麻を使うらしい」佐天「当麻さん!?」キャーリサ「禁書目録についてはユーロトンネルの調査に行くようだがそっちの男は違うようだし」キャーリサ「先手を取られた」佐天「先手……?」キャーリサ「フランス側に、さ」キャーリサ「【新たなる光】は全員北欧系の魔術を使う。そこを逆手に取られたわけだし」佐天「すいません、魔術については詳しくないんで……」キャーリサ「──、今日飛行機がハイジャックされたんだけども」キャーリサ「どうやらそのハイジャック犯人が北欧系の魔術の痕跡を残した」佐天「つ、つまり……?」
キャーリサ「つまり、その北欧系魔術を使った“出所”がイギリスのスコットランド地方でね」キャーリサ「北欧系魔術を扱う魔術師はイギリスに沢山居るが、出所からして“新たなる光”へ辿り着く可能性が高い」キャーリサ「うっとーしー事に母上達はまず国内の魔術結社の排除をご所望だし」佐天「って事は……」キャーリサ「秘密裏に動こうと思っていた新たなる光のメンバーは清教派から追われる事になる」キャーリサ「上条当麻は新たなる光を追うために行動するそうだし」佐天「そう……ですか……」キャーリサ「辛ければ……この城で待っていてもいーし」キャーリサ「だが、私達はイギリスの為に動く。新たなる光もそうだし」佐天「だ、大丈夫です!!あたし……やります」キャーリサ「清教派の奴らの行動も理解できないわけじゃない」キャーリサ「でもこのままフランスと戦争すれば甚大な被害がでるの」キャーリサ「私から言いたいことはもう無い。後は涙子ちゃんに任せるし」
◆『新たなる光』の二人、レッサーと佐天涙子は場末の酒場にいた。ロンドン北部にある酒場なのだが、10代の少女である二人は浮いていた。そんな二人はカウンターでオレンジジュースを飲んでいた。レッサーの足元には古ぼけた四角い鞄が置いてある。レッサーは魚のフライに夢中になっていると、佐天涙子が話しかける。佐天「それでですけど、あの四角い鞄を持って所定の位置まで行けば良いんですよね」レッサー「ふごふご……、そー。所定の位置に持っていった後は指示待ちだな──」レッサー「ぶっ!!ちょっ、ちょっ!!ちょっと待って!!」佐天「はい?どうかしました?」佐天「って、ちょっ!!鞄が──鞄が二つ!?」お互いの特徴がほとんど同じ、見分けが付かない四角い鞄が二つ。隣のおじさんがビールをぐびぐび飲んでいるが、きっとこの鞄は彼のものだろう。レッサー「(やっべー、やばいやばいやばいやばい)」レッサー「涙子、どっちが私達のものか分かる?」佐天「…………」レッサー「(うおおおお、予想以上にやばい……)」鞄の中には霊装である『大船の鞄』が入っているが、こんな所で発動するわけにも行かない。佐天涙子の左手で触ってしまえば霊装が壊れてしまうだろう。もしこんな所で霊装発動してしまえば必要悪の教会に見つかってしまうだろう。そうなってしまえば計画が崩れかねない。レッサー「(そうだ……多分右にある鞄が私の鞄だ、そうだそうに決まって──)」──ゴトリ、と音を立てて3つ目の見た目ソックリな鞄が手元に舞い込んだ。レッサー「(もうだめだ……どれが……どれがあああああ)」「ぜっ、全員動くなァァあああああああああああああああああ」
◆オリアナ「連絡が入ったわ。ヤツらの一人がヘマしたみたい!!」上条「何だ!?必要悪の教会からか?」オリアナ「いえ、今のは王室派から干渉を受けているロンドン市警よ」オリアナ「何か近くの酒場でトラブった馬鹿がいるようね」上条「ここから近いのか?」オリアナ「もう着くわ!」オープンカーに乗っている二人は視界に変なものを捕らえる。煉瓦の歩道を突っ走っている小柄な女の子が一人。突っ走っているだけでも少々目を引くものがあるのだが、もっとも目を引くものがある槍。小柄な少女がビジネスマンのように肩と頬に挟んでいる。上条「何だぁ?ありゃ」オリアナ「恐らく何らかの霊装でしょうね」オリアナ「全く、魔術師というのは自分が変な格好をしているって自覚がないのかしら?」上条「………(突っ込まないでおこう)」オリアナは胸元から単語帳のようなものを取り出し、二枚引きちぎる。一枚は『人払い』もう一枚はボゴッ、という爆炎が歩道で炸裂した。辺りのシャッターや窓がビリビリと震え、夜の闇が赤く照らし出される。
上条「おいおい、やりすぎじゃないのか?」オリアナ「いいえ、むしろまずそうよ」叫び返しながらオリアナは転がるように車から降りていく。首をひねる上条当麻だったが──レッサー「文句は無いですよね?」先ほどの少女が顔と頬に挟んでいた槍の先端を車に突きつけていた。槍は車を貫通し上条当麻をも突き刺そうと──上条「オッ、ォォォォォォォオオオオオオオ!!」咄嗟に上条当麻は車を飛ぶようにして下車する。上条当麻がその中で見ていたのは、大事そうに抱えている四角い鞄。上条「おいオリアナ、何だかよくわからんがあの四角い鞄が最重要アイテムらしい」上条「女の子をぶっ飛ばすとか気が進まなかったんだが、あの四角い鞄を集中砲火でボコボコにしよう」オリアナ「そうね。あれが霊装の一種というのなら貴方の右手で殴ってみるというのも面白そうね」レッサー「よっ、よくぞこの短時間で私の弱点を見破りましたねっ!!」レッサー「しかしここでやられる訳にはいかないのです!!」レッサー「ここは戦略的撤退をさせていただきましょう」上条「俺たち二人から逃げられるとでも?」オリアナ「だとしたらお姉さんも随分舐められたものね」オリアナ「『新たなる光』のメンバーの他の“三人”の居場所と目的を吐いてもらおうかしら」レッサー「………、ふっ──」チラ
レッサー「新たなる光が、私を含めて“4人”というのは少々情報が古いですね」上条「あぁ?人数が増えようが減ろうがどうでもいいだろ」オリアナ「5人だろうが6人だろうがお嬢ちゃんに吐いてもらえば済むことよ」レッサー「ふ、ふふ……。確かに魔術師が増えたところで専門家の貴方達を撒くことは出来ないかもしれませんね」上条「何……?」レッサー「ねぇ?────佐天涙子ちゃん」先ほどオリアナが放ったレッサーを攻撃しようとした爆炎が炎の動きがおかしい。あれはまるで────止まっているようじゃ
佐天「お久しぶりですね、当麻さんとお姉さん」上条「う、嘘だろ……?どうして──」オリアナ「なっ……お嬢ちゃんがどうしてイギリスに──」佐天「二人がイギリスの為に動いているだなんて幻想を抱いているのなら」佐天「そんな幻想、あたしがここで止めてあげます!!」
◆佐天「レッサーちゃんは男の方を頼みます」レッサー「オッケー、向こうの二人とは知り合い?」佐天「はい、男のほうは右手に『幻想殺し』という異能の力を打ち消す能力を有してます」レッサー「……、じゃ女のほうは任せたよ」オリアナ「作戦会議は終わりかしら?」佐天「えぇ、まぁ」オリアナ「お姉さん吃驚しちゃったわ、どうして貴方がここにいるか聞いてもいいかしら?」佐天「お姉さん達と一緒ですよ」オリアナ「ふぅん……それで、お姉さんと戦おうというの?その、“右手”で」佐天「いえ、右手で戦いませんよ。今は“左手”です」佐天「ですが、時を遅くしたり止めたりはしません」佐天「当麻さんのサポートになってしまいますからね」オリアナ「そう……」ブチッ単語帳から引きちぎった枚数は5枚。多種多様な魔術による攻撃が佐天涙子を襲うが佐天「……(範囲指定の時止め)」佐天涙子に当たる直前に全て消える。
オリアナ「ふふ、相変わらずねお嬢ちゃんは」オリアナ「メチャクチャな力。あっちの坊やもそうだけれども」オリアナ「あの日からお嬢ちゃんにまた相対したときの為に実は対策を取っていたのよ」佐天「スピードで勝負しようということですか?」佐天「これは決して驕りではないですけれども、無駄だと思います」オリアナ「ふふ、言ってくれるわね──」ブチッオリアナが単語帳の一枚を引きちぎるとバスケットボール大ほどの炎の球が出現し、佐天涙子目掛け飛んでいく。佐天「……?こんなの一つでどうしようと言うんですか」サッ佐天涙子は炎の球を左手でガードし────オリアナ「ばぁーん」カチャオリアナ「本当は魔術でケリを付けたいところだけども、ちょっと骨が折れそうだからね」オリアナ「貴方が左手でガードする隙に、足に目掛けて拳銃を撃って……それでオシマイよ」オリアナ「さて、あっちの坊やは大丈夫かし──」 「その程度で、勝った気にならないでくださいよ」
オリアナ「うそっ……手でガードする暇なんて無かったはずなのに」佐天涙子はオリアナの目の前に立っていた。先ほどと変わらぬ姿で──一つだけ、おかしいところが一つだけあった。オリアナ「ど、どうして銃弾が────」佐天「別に、あたしが止められるのは魔術や物体だけじゃありませんよ──」佐天「見えませんか?“止まった空気”が見えませんか?」オリアナ「なっ────」オリアナは単語帳を引きちぎろうとしたが──佐天「遅い!!」ピト
走っていた。佐天涙子は走っていた。レッサーは何処へ行ったのかは戦闘の後を見れば一目瞭然といったところか。道なりに建物や、街頭が破壊されていれば佐天涙子でもレッサー達を追うのは簡単だ。雑居ビル、だろうか町並みの戦闘の跡はここで途切れている。佐天「ここにレッサーちゃん達がいるのね」タッオリアナ「全く、試合にも勝負にも負けたって感じね」ダッ煉瓦造りの洒落た建物の中に典型的な業務用のスチールデスクや業務用コピー機がある。階段をのぼっていると、話し声が聞こえた。レッサー「……目的は達成したけど、試合に負けたのも事実」レッサー「こんなつまらない結果で、同盟を組んでいる貴方達やフォワードに迷惑をかけるのもアレですし──」レッサー「受け入れましょう、口封じするなら今がベストです」窓の外に広がる風景の一点がチカッっと光るのを見た。咄嗟に前に出て、レッサーを突き飛ばそうとしたが、レッサーの後ろにあった窓が粉々に砕け散りそして真っ赤な鮮血が噴出した。
佐天「レッサーちゃん!!」オリアナ「馬鹿ッ!!伏せなさい!!」佐天「きゃぁっ!!」佐天涙子の頭上スレスレを何かが通過する。それは30センチほどの棒に、その半分まで流線型の鏃をつけたような特殊な飛翔体だった。オリアナ「こ、これは……『ロビンフッド』……」レッサー「ふ、ふふ……涙子ちゃんを……騙していたのが心残りでしたけど……」佐天「レッサーちゃん!!しっかりしてよ!!どうして……どうして……」レッサー「……私達が輸送していたのは、カーテナ=オリジナル……」佐天涙子へ向けているのか、にっこりと血まみれの顔に笑みを浮かべながら。
◆騎士団長「──届きました」キャーリサ「なるほど」騎士団長「電子、魔術の双方の通信を傍受した限り……『清教派』の連中は新たなる光が王女を暗殺することで」騎士団長「イギリス全土に仕掛けられた対ヨーロッパ用の大規模攻撃術式を自動発動させようとしている、と勘違いしていたようです」キャーリサ「ふん。そんな胡散臭い伝説など実在しないというのに」騎士団長「そこまでの高威力の魔術が用意できるならもっと簡単に交渉を進められたでしょうし」騎士団長「なにより容易に民を死なせないための『計画』ですからね」キャーリサ「ふん。このカーテナ=オリジナルさえあればもう計画は完了したといってもいーし」騎士団長「──、これは報告すべきか迷いましたが」キャーリサ「何だ?」騎士団長「佐天涙子を狙撃し、殺害することに失敗したようです」騎士団長「そして目の前で新たなる光の一人レッサーを狙撃されたのを目撃したようです」騎士団長「恐らく彼女は今度、私達の敵となって向かってくるでしょう」キャーリサ「ふん。どうせ計画が終わったら殺すつもりだったし」キャーリサ「あの程度の小娘程度なんの障害にもならん」キャーリサ「イギリス全土に潜ませた『騎士派』の全軍に伝えよ」
「侵攻を開始せよ。 王を選ぶ剣、カーテナ=オリジナルはわが手中にあり。 これより英国の国家元首はこの私、キャーリサが務める。 平和主義の『前女王』と共にイギリスを腐らせたくない者は、自らの意思で立ち上がるといい。 新たなる英国の軌道に必要な分だけ地均しを行い、必要な分だけ破壊を行え、とな」
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。
下から選んでください: