【第十九話・終幕! 落ちこぼれ英雄譚!! (前編)】
上条「御坂、前だ!」美琴「分かってる!!」美琴の体から高圧電流が放出され、戦闘員たちをショートさせていく。しかし、連中はいつものように簡単には倒れず、次々に仲間を集めていく。美琴「しぶといわねぇ!!」一気にトドメをさそうと駆け出す美琴。が――横から現れた、『トリケラトプス』に吹き飛ばされる。美琴「……っ!? 恐竜まで飼ってるわけ!!?」体勢を立て直し、再び帯電する美琴。対するトリケラトプスは、ギロリとこちらを見据え、いつでも飛びかかってきそうだ。その隙に、負傷した戦闘員達が、他の戦闘員に連れて行かれる。美琴「くそっ……逃がした!!」上条「御坂、大丈夫か?」美琴「へ、平気よこのぐらい!」上条「そうか……なら、あの恐竜を!」美琴「分かってるてば! アンタは引っ込んでて!!」いまや、この学園都市は紛争地帯だ。街中のいたる所で、ブラッククロスとの戦闘が行われている。能力者はまだいいが……無能力者たちは……ともかく、美琴に出来ることは目の前の敵を倒すことだけだ。隣にいる上条当麻のためにも、いつも以上に活躍しなければ。騒がしい市街地から少し離れた、人気のない公園。そこで、初春飾利は血だまりに沈む親友の亡骸を抱きかかえていた。白いセーラー服が血に染まることも、鼻をつく悪臭も気にならない。初春「佐天さん……」両手両脚が無い。ひょっとしたら、腹の中身さえ無いかもしれない。そんな、無残なアルカイザーの顔を、ずっと覗き込んでいた。仮面の奥にうっすらと、眠るように目を閉じる佐天涙子の顔が見える。初春「ごめんなさい……ごめんなさい……」初春の口から、無意識に謝罪の言葉が漏れ出した。初春「私が、風紀委員なのに……頼りないから……」初春「だから……佐天さんはいつも無茶して……こんな……ことに……」ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。無敵のヒーローは、もう立ち上がれない。立ち上がる足が無い。だから、初春は絶望に暮れる。謝るしか、できない。黒子「……そういうことでしたのね」白井黒子が目を覚ますと、そこには怪人と戦う美琴の姿があった。怪人を次々に蹴散らしていく美琴。加勢しようと、黒子が鉄矢を構え走り出す。だが――『アル・ブラスタァアア!!!』声が響くと同時に、光の弾丸が、美琴の体を撃ちぬいた。重力に従い、ドサリと重い音を立て、地面に横たわる美琴。初めは信じられなかったが、すぐに合点がいった。黒子「佐天涙子……あなたは、ブラッククロスの人間でしたのね……」アルカイザー「……」騙されていた。皆騙されていたのだ。だから、お姉さまも簡単に背中を撃たれた。だから、お姉さまをあれほど苦しめた。だから、あの黒いロボットと親しげにしていた。だから、アレだけの力を突然手に入れた。黒子「ジャッジメントですの!!!」憎きカタキの眼前に転移し、強烈な蹴りを叩き込んだ。突然顔面を蹴られ、アルカイザーが後ろに吹っ飛ぶ。何がどうなってるの……!?黒子「ジャッジメントですの!!!」人を襲う金色のロボットを、アル・ブラスターで撃破した。電流をそこら中に垂れ流す、危険なロボットだった。その途端、突然現れた白井黒子が、私の顔を蹴っ飛ばした。アルカイザー「白井さん……?」黒子「馴れ馴れしく呼ばないで頂きたいですわね……裏切り者!!」アルカイザー「何を言って!?」黒子「お姉さまのカタキ!!!」アルカイザー「!!?」テレポート――――!目の前から忽然と姿を消し、再び別の空間から現れる。その度一撃ずつ攻撃が加えられ、何をされたのかも分からない間に戦いが終わっている。いや、打撃ならいい。問題は、鉄矢による串刺し。一瞬で、全身のあらゆる場所に鉄の棒が突き刺さる。アルカイザー「……づっ!!!??」頭や心臓を狙わないのは、流石に良心からか?……なら、ここは――アルカイザー『ブライトナックルッ!!!』黒子「な……!!?」打ち出された拳から、眩い閃光が走る――!!アルカイザー「ハァ……ハァ……!」ブライトナックルを地面に叩き込み、その閃光を目眩ましにして逃げ出した。ビルの窓枠に足を掛け飛び上がり、上階へ駆け上っていく。アルカイザー「白井さん……お姉さまのカタキって……?」意味が分からない。さっきから、何もかもおかしい。体に刺さった鉄の棒を引き抜きながら、考えを廻らせる。白井黒子だけじゃない。警備員も、一般人も、みんながまるで暴徒のように、敵も味方も無く街中で暴れている。佐天自身も、学園都市で目を覚ましてから、もう何度も襲撃を受けている。本物の怪人や戦闘員も混じってはいるが、それで起きた混乱にしては規模が大きすぎる。と、いうことは――アルカイザー「やっぱり……アレしかないよね?」ビルの屋上に辿り着き、更に上空を見上げる。そこに、まるで神のように地上を見下ろす、巨大な目玉が浮かんでいた。直径何kmになるのか、途方も無く巨大な眼球。そして……その真下。立ち並ぶビル群の中に、一際目立つ白い物体が存在していた。高層ビルに勝るとも劣らない巨体。明らかな人工物でありながら、どこか生物じみた雰囲気。キノコ型の胴体と、三本の足。長く伸びた腕の先端に、子供向け番組に登場するビーム銃みたいなものが付いている。胴体の中心には一つ目。ギョロリとした目が動き、佐天と視線を合わせた。アルカイザー「……『真の首領』――!!!」おそらく、あの巨大な目を見たせいで、皆は“ああ”なっているのだろう。誰もアレの存在を気にかけていないのがその証拠だ。そしてこれこそがきっと、『真の首領』の存在をブラッククロスの人間さえ知らなかった理由。Drクラインや元首領だった男も、こうして操られていたのだ。自分にそれが効かないのは、これもまたヒーローとしての能力だろうか?それとも単純に、この仮面がサングラスのように目を保護しているのか?ともかく、アレを何とかするのが専決だ。高位の能力者同士が戦い出したりしたら、手に負えない。アルカイザー「……っ!!?」そこへ、何かが凄まじいスピードで飛来した。直感的にソレを感じ取り、何とかギリギリで回避する。だが、目の前を突き抜けたそれは、見覚えのあるものだった。いままで何度と無く見てきた、ある少女の必殺技――美琴「ちっ……外した!!」アルカイザー「御坂さん!!?」紫電を纏い、御坂美琴が駆け出す。敵意。殺意。まるで仇敵をみるような目で、こちらを睨みつけている。何の予告も無く、死角から超電磁砲を撃ってきたことからも、それが本気だと分かる。アルカイザー「御坂さん……あなたも!!?」美琴「食らえやぁああああああああああ!!!」高圧電流が放射状に放たれ、その度、ビルの屋上が崩壊していく……瓦礫の紛れて逃げようとしたが、ぴったりと付いてくる……!流石は第三位。ただでは済みそうにない……少女達の戦いが始まった頃。別の場所で、別の物語が進行していた。白い修道服を着たシスターを、髪が赤い長身の男が襲う。それを、ツンツン頭の少年が阻止した。少年、上条当麻はこの喧騒の中、何度か正気を失いかけつつも、未だ自分を見失っていない。それもひとえに、右手に宿る『幻想殺し』のおかげである。意識を奪われそうになるたび、右手で頭を抑えてそれを無効化する。どうやら『幻想殺し』は、あの巨大な目玉の呪縛にさえ効果を発揮するようだ。上条「……ってことは、やっぱりアレって能力か魔術だよなぁ……?」シスターを安全な場所に避難させ、長身の男は気絶させた。上条は一人、町を駆けまわっていた。まともなアテなどない。だが、ひょっとしたら――――「僕を探しているのか?」上条「お前――!」蒼いローブの青年。おそらくは魔術師である不審な青年に、上条は一縷の望みをかけ詰め寄る。上条「これは、お前がやったのか?」青年「違う……とも言い切れんか。原因は俺たちだが、僕が直接手を下したワケじゃあない」上条「どういうことだよ?」青年「連中が通ってきた『通路』が出来た原因は僕だ。だが、この騒ぎには関与していない」上条「……つまり、お前はブラッククロスとは関係ないってことか?」青年「俺は――あの『通路』を閉じる為に来た」胡散臭い男だ。だが、どこか信じてもいいように感じる。それは、彼の“半身”の影響ではなく。彼自身もまた、裏切られ、騙され、利用されて生きてきたからだ。利用される“ために”生きてきたからこそ、他の者の不幸を許容できない。実直な熱血漢である上条当麻と、論理的で現実主義な魔術師の青年。間逆なようで、自身を犠牲にしてでも他を守ろうと決意した二人は、実は近しいのかもしれない。上条「そうか、お前はこの事件を解決しに来たんだな……なら、協力できないか?」青年「協力だと?」上条「そうだ! 俺のこの右手・幻想殺し『イマジンブレイカー』で、皆を元に戻せるんだ!!」青年「お前が幻想殺しか……なら、あの目玉をなんとかしろ」上条「目玉――っと!? あぶねぇ……あれモロに見たらまた意識が飛ぶところだった……」青年「あれがこの現象の核だ。あの目から出る力が、“不安”や“願望”を増幅させ、幻覚を見せている」そう言って、青年は上条に背を向けて構えた。視線の先。建物を壊しながら、体長3~4メートルはある、大きな”イカ”が現れる。長い触手を持ち上げ、「キィイイイイ!!!」と金切り声を上げた。上条「前から思ってたけど、あれって怪“人”ではないんじゃなイカ!!?」青年「さっさと行け」上条「けど――!!」青年「お前はアレとは戦えん。武器は右手のソレだけだろう」事実だ。だが、この状況で、上条当麻に人を置いて行けというのは……上条「駄目だ! 俺一人逃げるなんて――」青年「誰が逃げろといった?」上条「え……」青年「“行け”と言ったんだ。お前はさっさとあの鬱陶しい目玉を何とかしろ」そうこうしているうちに、イカの怪人が青年に襲い掛かる。触手が鞭のように振り下ろされ、風斬り音が轟く。鞭が青年を押し潰す直前――『インプロージョン』空中に透明な壁が現れ、球形に触手を囲みこむと爆発を起こした。紫の体液をばら撒き、イカは狼狽して後退りする。青年「ここに居られると邪魔だ」上条「そ、そうみたいだな……」上条は納得し、青年に背を向けて走りだす。出来るだけ早く、この異変を止めるために。自分にしか出来ないことをするために。と――上条「あ、そうだ! あのさー?」青年「何だ……早く行け……」上条「お前、名前なんていうんだー?」青年は少し考えて、仕方なく、昔使っていた“一つの名前”を教えた。彼のトレードマークである、蒼いローブが示す、とある魔術師の名を。アルカイザーは、迫り来る雷撃を避けて避けて、逃げ続けた。反撃は出来ない。相手は御坂美琴なのだ。ただ、正気を失っただけの……アルカイザー「御坂さん! 私です佐天涙子です!!」美琴「……大丈夫」アルカイザー「御坂さん……?」美琴「大丈夫よ……私は平気……アンタこそ、大丈夫なの……?」さっきから、彼女は度々、見えない誰かに話しかけている。ニヤニヤと表情を緩ませて、頬を赤らめながら、お互いを気遣いあう言葉を一方的に呟く。――――正直言って、不気味だ。今すぐ、ここから逃げ出したい。だが、悪いことは続くものだ。「お姉さま!!」白井黒子が追いついてきた。どうやら、彼女は美琴のことは認識出来ているらしい。だが、その会話は――黒子「お姉さま! よくぞご無事で!!」美琴「そうね……早く倒しちゃいましょう……!」黒子「黒子は心配しましたの! さぁ、あの不届き者を成敗しましょう!!」美琴「誰がビリビリよ……! 次言ったら許さないわよ……!」……不気味さが増した。いや――そんな冗談を言っている余裕はない……!黒子「参りますのっ!!!」美琴「行けぁあああああああ!!!」黒子の登場によって、ただでさえ困難だった状況が厄介さを増す。放射状に放たれ、広範囲をカバーする電撃。逆に、的確に急所を狙い撃ってくる空間移動。足元を狙った雷の槍を飛び越えて避けると、着地地点にピンポイントで鉄矢が打ち込まれた。アルカイザー「~~っ!?」足が地面に縫い付けられた。鋭い痛み。だが、ここに留まる訳にも行かない。力ずくで足を引き剥がして、無理な姿勢のまま、また駆け出す。鉄矢を抜く余裕はないので、足の甲を貫いたままになっている。一歩走るごとに激痛が走る。アルカイザー「うわっ!?」無理が祟ったのか、足が滑った。いや――足が引っ張られている。横着が過ぎた。例え、多少の危険があっても、足の鉄矢をそのままにするべきじゃなかった。美琴「捕まえた……」電撃にばかり目を奪われ、美琴が磁力を操れることを、完全に失念していた。アルカイザー「がぁあああああああああああ!!!??」足を貫通している鉄の棒が、グニャリと捻じ曲がり、釣り針状になった。それが再び足の甲に突き刺さり、そのまま、まさに釣りの要領で引きづられる。美琴「もう逃がさない……ふん、褒められても嬉しくないわよ……!」黒子「さっすがお姉さま! 見事なお手際ですの!!」美琴「本当に反則よね……あんただけは……もう……」まずいまずいまずい!!このままじゃ、鉄の棒で針ネズミか、それとも黒焦げになるかの二択だ――!!指をアスファルトにひっかけ、何とか抵抗を試みる。だが、いくら踏ん張っても磁力は無限に強くなる。彼女は正気を失っているだけで、正真正銘、レベル5の第三位、御坂美琴なのだ。アルカイザーになったところで、その全力の電力に対抗できるとは思えない。抵抗すれば抵抗するだけ、足の甲に食い込んだ釣り針が深く刺さっていく……!美琴「そうね……そろそろ終わりにしましょう……」黒子「私がトドメを!」美琴「ええ……私がやるわ……!」会話にならない会話。嫌だ……こんな彼女たちを最後に見て死ぬなんて嫌だ……こんな彼女たちに殺されるなんて絶対に嫌だ……誰か――――!!上条「さぁ。やっちゃおうぜ御坂」美琴「そうね。終わりにしましょう!」追いかけっこはここまで。しぶとく逃げ回ったけど、これでこの赤い怪人もおしまいだ。所詮、私たちに敵うはずが無いのよ。私のとなりには、コイツがいるんだから……上条「御坂。まかせたぜ」美琴「ええ。私がやるわ」アイツに期待されてる。アイツに頼られてる。嬉しい……断然。体に力が湧いて来る。私は、右手に全身の電流を集中させる。この距離なら、簡単に電撃で焼き尽くせる。美琴「これで終わりよ……バイバイ!!」数万ボルトの電撃の槍が撃ちだされる。それは、轟音を上げて目標へと真っ直ぐに伸び――美琴「……何よ……コイツ!!?」突然現れた、紫色の龍に邪魔された。怪人を守るように立ちはだかる紫の龍。赤い髪をツンツンと逆立たせ、こちらを威嚇している。上条「御坂……」美琴「わ、分かってるわ!!」邪魔しないで……!もう一度、今度はさっきよりも威力を増した電撃を放つ。が、またも、龍には通用しない。黒子「お姉さまの邪魔をするなぁ!!!」となりに居た黒子が飛び出す。……あれ? 居たっけ?けれど、龍の鋭い爪が彼女を切り裂き、黒子は真っ二つになって消えた。美琴「黒子……?」上条「美琴……あいつを……倒すんだ……」美琴「分かってる……うん。分かってるから」そうだ。倒さなきゃ。コイツがそう言ってるんだから。ほら、あの公園での礼を返さなきゃ。それだけ。うん。それだけだ。今の私には――それだけでいい。上条「あっぶねぇ……ビリビリの奴! 本気で撃ってやがるな!?」アルカイザー「あなたは……?」突然現れたツンツン頭の少年に困惑する佐天。美琴の電撃をいとも簡単に打ち消し、飛び掛ってきた黒子を、右手で触れただけで止めてみせた。黒子「うぅ……ここは……?」アルカイザー「白井さん!!」黒子「……佐天さん……? 私は、一体……」黒子は正気に戻っている。何が起こっているのか。あの少年は何なのか。美琴から放たれた電撃を、さっきからもう、右手一本で二度も三度も防いでいる。黒子「あなたは……確かお姉さまのお知り合いの……ってお姉さまは何を!!?」上条「気が付いたか!? 気をつけろ! 絶対に空を見上げるなよ!!」アルカイザー「あなたは正気なんですね!?」上条「ああ! 俺の右手は、能力だろうが魔術だろうが掻き消しちまうんでな!!」能力を掻き消す右手!?良くは分からない……けど、なら――アルカイザー「お願いがあります! あの空の目を!!」上条「分かってる! けど、まずは御坂を何とかしないと……!」黒子「何だか分かりませんが……逼迫してるみたいですわね……」上条「とにかく……まずは近づかねぇと!!」上条が美琴の頭に触れるため、一歩にじり寄る。すると――上条「うお!!?」地面が捲れ上がり、中の水道管が突き出してきた。美琴「電気が効かないなら……他の方法で……」今度は、崩れ落ちたビルの瓦礫から、鉄骨が吸い寄せられて飛んでくる。上条「あぶねぇぇぇ!!?」上条が走ってかわすたび、地面に鉄骨が突き刺さっていく。鉄骨を一通り消費すると、今度は電柱や交通標識が地面から引き抜かれて空中を翔る。辺りの迷惑も法律も顧みない。いつもの美琴なら、可能でも、街のど真ん中で、ただの人間相手には使用しないような戦法。正気を失っている今だからこそ、こんな無茶が出来る。美琴「待っててね……今……やっつけちゃうんだから……!」上条「あいつめ! 無茶苦茶しやがって!!」あの飛来する鉄の塊を、幻想殺しで何とか出来るか?磁力を消せば、動き自体は止まるかもしれない。だが、下手すれば下敷き……何にせよ、無事では済むまい。アルカイザー「それじゃあ駄目ですね」上条「お前……!?」彼には、これから無茶をしてもらうんだから。せめて……無事に送り届けないと。足の鉄矢を引き抜いて、しっかりと立ち上がる。このぐらいの傷なら、一分も経たずに回復する。美琴「一対一でやろうってワケ?」アルカイザー「倒すわけじゃなくて、あくまでも足止めだっていうなら……!」少年が黒子のテレポートで移動できないというので、走って移動することになった。その間、この電撃姫が他で暴れないように、アルカイザーが引き付けておく。改めて二人が向かい合い、まるであの地下基地での戦いを再現するように、アルカイザーが駆け出した。美琴「そんな直線に突っ走って……!!」さっきまで瓦礫を操っていた美琴が、また電撃による攻撃に切り替えた。青い電流が、地面を這って迸る。アルカイザー『ブライトナックル!!!』光を纏った拳が、その電撃を真っ向から打ち砕く。そのまま、勢いを殺さずに飛び掛り、美琴を組み伏せようとする。美琴「触るなぁ!!!」飛び上がったところを、真横から鉄骨が激突して吹き飛ばした。アルカイザーはゴロゴロと地面を転がって、そのまま瓦礫の山に突っ込む。アルカイザー「ゲホッ! ゲホッ! ひっどいなぁ……」土ぼこりの中、あっけらかんと立ち上がる。……怪我は、“もう”治っている。力の出し惜しみは無しだ。黒子「……ショックですの」上条と黒子は、移動しながら情報を交換していた。上条から、幻覚の正体が“不安”や“願望”であることを聞かされ、黒子は考え込む。さっき見ていた幻覚を、徐々に思い出してきたのだ。黒子「私は、佐天さんに嫉妬していたのでしょうか……」上条「増幅されるって言ってたぜ? 本当の気持ちじゃないさ」黒子「ですが、元が0なら、増幅も何もありませんの。きっと、どこかにあった気持ちですわ」不覚。短く呟いて、それで気持ちを切り替えた。構えなおし、行く手を阻む戦闘員に鉄矢を打ち込んでいく。黒子「失態は、この任務の遂行を持って返上しますの!!」黒子の任務は上条を目玉まで送り届けること。反省は後で十分。始末書ぐらい何枚でも書ける。黒子「しかし、問題は空を飛ぶ方法ですの」上条「俺はテレポートできないからな……」飛行機?そんなものは飛ばせないし、そもそも無い。あのキグナスがあれば良かったが、ブラッククロス基地で大破した。上条「白井!!」黒子「はっ!!?」黒子が思案に耽っていると、突然、上条に突き飛ばされた。空を見ないように走っていた所為で、接近に気付かなかった。何かが、上空から滑空してきていた。突然のことに受身を取れず、黒子は尻餅をついている。黒子「痛た……」上条「す、すまん……」黒子「構いませんの……それより!」上条「……あれ? コイツはたしか……」黒子「……ラッキーですの」二人は、襲い掛かってきた影を見上げる。クリーム色の体毛。青と赤の混ざった不思議な色の羽。長い首、トカゲの尻尾、細い目。コットンだ。混乱して襲い掛かってきたのかと思いきや、どうやら――上条「ちょっ!? おま! 舐め……上条さんはおいしくありませんよー!!?」……まごうことなきコットンだ。ともかく――黒子「さあ、参りましょう!!」上条「ひとっ飛び頼むぜコットン!!」コットン「キュー!!」これで、あの神気取りの目玉に“手が届く”。正気を取り戻したコットンが翼を広げた。背に二人を乗せて、天に飛び立つ。アルカイザー「……くそ……流石に御坂さんだなぁ……」足止めを引き受けていた佐天だったが、その場に踏みとどまることが出来ず逃げ回っていた。電撃だけならまだしも、無法地帯と化している今の学園都市は、美琴にとって武器の山だ。美琴「次はこれぇ……!」公園の遊具を引っこ抜き、アルカイザー目掛けて投げつける。アルカイザーはその場にしゃがみ込み、その頭上を滑り台が飛んでいった。滑り台はそのまま生垣に突っ込み、街路樹をへし折る。美琴が戦った跡は、戦車が通ったように無残だ。これが、レベル5という存在。その本気の破壊活動。美琴「そーだ……いいことおもいつーいた……」すっかり正体を無くした美琴は、フラフラと、公園に設置された時計台へと向かう。噴水の真ん中に備え付けられた、五メートルほどの高さをもつ鉄の柱。それを、さっきまでと同じように磁力で引っこ抜く。もちろん、さっきまでの様にただ飛ばすのではない。彼女が撃ち出せる“弾丸”は、何もコインだけではないということだ。アルカイザー「さすがに……それはまずいってぇ!!?」慌てて逃げ出す。できるだけ遠くへ。だが、生垣を飛び越えた途端、ソレが目に入り足が止まった。アルカイザー「――――初春!!?」地べたにしゃがみ込んで、泥水の中で泣き崩れる、初春飾利だ。美琴「にがさない……わよ?」美琴が追ってきた。どうやら、初春の存在を認識できていない。初春は初春で周りの状況が見えていない。後生大事に、手足のない人形を抱き寄せている。アルカイザー「……っ!!!」失敗した。直線に並んでしまった。宙に浮いた鉄柱を、美琴の拳が叩く。コインとは比べ物にならない破壊力。かわせない。かわさない。受け止める……!!!アルカイザー「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」両手を広げて、足を踏ん張り、全身全霊で超電磁砲に立ち向かった――――上条「もうちょっとだ! もうちょっと!!」黒子「邪魔はさせませんの!!」コットン「キュゥゥゥゥウウウウ!!」黒子とコットンは目を閉じたままだ。コットンは、ただひたすら全速力でまっすぐに飛んでいく。黒子は音と上条の声を頼りに、進行方向の敵を撃ち落としていく。雲をつきぬけ、学園都市の町並みは遥か後方。もうここまでくれば、怪人の攻撃も無いだろう。上条「白井! 両手でしがみつけ!!」黒子「何をする気ですの!?」上条「こっから先は、垂直に真上に飛ぶんだ! もう時間がないかもしれない!!」コットン「キュ、キューーー!!!」コットンの体が持ち上がり、時間短縮のため、最短距離で飛ぶ。二人は振り落とされないように両手で必死にしがみついた。宇宙に向かうロケットのように、真っ直ぐ天頂へと白い影が疾る。上条「もうちょっと……もうちょっとだぁぁ!!!」もう、まさに眼前。そこへ――上条「嘘だろぉ!? 今度は宇宙人の襲来ですかぁぁ!!?」古いSF映画に登場するような銀色の円盤が現れた。円盤の底が開き、中から無数の『ミサイル』が発射され、上条たちに迫る。黒子は両手でしがみついている。鉄矢での迎撃が出来ない――!!『アル・ブラスタァアアアアアアアアアアア!!!!!』地上から放たれた光の弾が、上条たちに迫るミサイルを撃ち抜いた。一発残らず、目標に届く前に空中で爆散した。アルカール「また出遅れてしまったようだが……今度は間に合った!!」爆風を掻き分け、コットンは速度を落とさず突き抜けていく。上条はコットンの首をよじ登り、その鼻先を蹴っ飛ばして飛び上がった――上条「人の心を弄びやがって……こんなもんが、あいつらの本心だって言うのなら――」まずは――その幻想をぶち殺す――――!!!!!上条の右手が、巨大な瞳に触れる。その途端、一瞬にして眼球は掻き消え、光が降り注いだ。重力に従って、上条の体が落下する。コットンが彼の体を空中でキャッチし、そのまま降下を始めた。上条「や、やった……やったぞーーー!!!」黒子「ええ……やりましたわね……“よくも”」上条「うわぁ!? ご、誤解です! 上条さんは紳士で――」上条の顔が、コットンにうつ伏せでしがみついていた黒子の「おしり」に埋まっていた。上条「不幸だぁぁあああああああああああ!!!!??」美琴「は――――?」上条が上空で使命を果たしたことで、美琴も正気に戻る。しかし――もう超電磁砲は放たれていた。一度放たれれば、もう止めることはできない。美琴「佐天さん……佐天さん!!!」本気の超電磁砲を受け止め、アルカイザーは地面を削り取りながら、後ろへ押されていく。そのまま吹き飛ばされそうになる。だが、そんなわけにはいかない。耐える。背後には、初春が居る。もう体中ボロボロだ。鎧は焼け焦げているし、マントも消し飛んだ。きっと腕の骨も折れている。足の筋肉が引きつる。仮面にヒビが入った――初春「――――佐天さん!!!!!!」アルカイザー「わあぁああああああああああああああ!!!!!!」アルカイザーの体が激しく光る。心臓がこれまでに無いほど早く鼓動し、エネルギーを搾り出す。そして、それを全部攻撃力に変えて、叩き込む。何度も言う。もう、『出し惜しみ』はない。超電磁砲が掻き消え、アルカイザーは地面に倒れた。美琴「佐天さん! 私……私……!!」アルカイザー「分かってます……正気に戻って良かった……」彼女は、ゆっくりと体を持ち上げる。後ろから、泥だらけの初春も駆けつけた。初春「良かった……生きて……たんですね……」アルカイザー「死なないよ」まだ死ねない。アルカイザー「あの人……ちゃんとやってくれたんだ」空を見上げる。そこにあったのは、いつもどおりの蒼い空。もう、不気味で威圧的な目玉は無い。街のみんなも正気に戻っているだろう。アルカイザーは立ち上がる。これまでと同じように、傷ついた体で立ち上がる。超電磁砲の衝撃で半分に割れた仮面から、佐天涙子の素顔が覗いていた。長い黒髪を風に揺らし、最後の敵に向き直る。幼さの残る少女の顔は、いまや『覚悟』を決めた戦士の表情だった。その視線の先で、白い異形の巨体が、咆哮を上げた――――…………常盤台中学学生寮。その一室に、優雅に佇む少女がいた。さっきまで夢うつつだった彼女は、そのアンニュイな外見とは裏腹に、複雑な心境にあった。「私に入ってくるなんて、身の程知らずが居たものね……」心に触れられた。それが腹立たしかったので、逆に触れ返してやった。そうすると、頭の中に膨大な情報が入ってきた。いや、一夜の夢のように、一瞬で通り過ぎていっただけだったのだが……「私にこんなことを伝えて、どういうつもりだったのかしら……」助けてくれとでも、言うつもり?冗談。私が、この常盤台で何と呼ばれているのか知らないのか?……知らないのだろうな。「やれやれね……」一人で呟いて、少女、レベル5の第五位『心理掌握』はソファーから立ち上がった。To be continued…
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