上条サイド ―アメリカ ラスベガス― 竜神当麻は旅掛の泊まっているホテルから少し離れた所にあるコンビニに買出しにやってきていた。旅掛としては、ホテルにあるレストランバーの方がお奨めだったのだが、竜神が人目の少ない場所を望んだ為、酒とおつまみをコンビ二で買い、旅掛の部屋で呑み直す事となったのである。 さすがに目上の人間をパシリに使う訳にはいかなかったので、自ら買出しを申し出て、現在に至る、 ラスベガスの街は一見、通常の営みを見せているように見えるが、街の所々に戦争の爪あとが残っている。竜神が入ったセブンイレブンの向かいのブロックはいくつかの建物が倒壊しており。その建築物の一つ、恐らく映画館があったと思しき一角には、巨大な天使の輪のようなオブジェが突き刺さっていた。その周りには、米軍がバリケードを築き、軍関係の車両や、研究機関の科学者と思われる人々がせわしなく出入りしている。上条『これって……』竜神『ん?ああ。お前が見るのは初めてだったか……。フィアンマの起こそうとした変革の名残だよ』上条『あの変な輪っかは何なんだ?』 竜神はプラスティックのカゴに、六本パックの瓶ビールと自分の分のコーラをつっ込みながら、つまらなさそうに答える。竜神『天使を構成しているのと同じ物質でできた物だ。それ以上でもそれ以下でもない。フィアンマ自身はこれを戦後復興のための資源として人類に与えたかったみたいだな』上条『どんな役に立つんだ?』竜神『何の役にも立たないさ。普通の人たちにはこれを加工する事もそのまま利用する事も出来ない。学園都市の工学力を持ってしても無理だろうな』上条『ただのゴミって事か?』竜神『身も蓋も無い言い方だけど、その通りだな』上条『そもそもフィアンマは何がしたかったんだろうな……。世界を救いたいってのは分かるんだ。魔術の事は分からないけど、アイツが言うんだからきっと世界は本当に危機的な状況なんだろ?』竜神『さあな。世界の歪みってのが発生してるってのは俺にも解る。でもそれが自然な変化なのか不自然な変化なのか、俺には判別できない』上条『お前にも分からない事があるんだな』竜神『そりゃそうだろ。所詮天使の知識しかないからな。しかも、元は上条さんの頭脳だし』上条『なんか安心した』竜神『お前な、自分のオリジナルがお馬鹿な事に安心するなよ』 続いて、おつまみやスナック菓子を選ぶ。アメリカの食品のサイズは、大き過ぎる。竜神は、食べきれんのかなっと独り言をつぶやきながら、ポテトチップスの塩を眺めて途方に暮れていた。竜神『……まあ、フィアンマとしては、ベツレヘムの星とこの星をリンクさせる事で、世界の歪みを正したかったんだろうな』上条『リンク?』竜神『呪い人形に五寸釘を打ち付けるようなもんさ。そうだ、小萌先生とステイルが姫神の怪我を治した時の事覚えてるか?』上条『ああ、大覇星祭の時か?確か、小萌先生が空き缶とかその辺のゴミを拾ってなんかやってたな』竜神『あれはなんていうか、姫神の周りの環境を模したミニチュアを作ろうとしてたんだよ』上条『空き缶でか?』竜神『素材や形なんて何でもいいんだ。要はそこから魔術的な記号が抽出できるかがポイントだ。魔術的には『箱庭』って言うんだけどな』上条『ふーん』竜神『ミニチュアが完成したら。その場を天使に加護してもらって、ミニチュアの内部を力で満たしてから、ミニチュアと現実世界をリンクする。ミニチュアが傷つけばそれに対応する者も傷つくし、ミニチュアの傷が癒えれば、それに対応する者の傷も癒える』上条『へー。小萌先生ってそんな事してたのか』竜神『同じように、フィアンマはこの星のミニチュアを作って、この星の傷を癒そうとしたんだと思う。十字教における神の子の誕生を応用した複雑で小難しいフォーマットを利用してるけど、基本原理は、そんな感じだ。加護を得る為に召喚した天使はミーシャ=クロイツェフ。力はフィアンマの聖なる右腕。ミニチュアはベツレヘムの星だな。もっとも、四大元素の歪みそのものを直すつもりだったから、あらかじめ正しい四大元素の配置を整えたベツレヘムの星を用意して、大天使にこの星の四大元素の配置を変えて貰う事で完全にリンクしたみたいだけど』上条『ん?どう違うんだ?』竜神『この星に合わせてミニチュアを作るんじゃなくて、ミニチュアに合わせてこの星を作り変えたのさ。大天使が顕在した瞬間、星の配置が変わったろ?』
上条『そうか、それでアイツはミーシャが消えても余裕だったわけだ。リンクするのに必要な星の配置はそのままだったからな……』竜神『そうやって土台を整えた上で、世界の悪意を砕くつもりだったんだな。土台が古いままだと、ただ悪意を砕くだけじゃ、じきにまた元通りだしな』上条『それがアイツの言う、壊れた歯車の交換ってやつか……』竜神『土台となる異界の層そのものを、十字教が生まれた瞬間と同じ状態にリセットしようとしたんだ』上条『でもそれって……』竜神『ああ、文字通りリセットだ。ゲーマーがよくやるセーブ&リセットと同じだ。アイツにとってこの世界は無理ゲーにでも見えてたんだろ。攻略に詰まったから、リセットボタンが押したかったんだよ』上条『フィアンマ……』 ”俺様は、『世界中』なんていうのが、どれだけ広い場所なのか分からない人間だぞ”そうフィアンマは言っていた。彼は、世界に広がる漠然とした膨大な悪意なの前に絶望していたのかもしれない。だからこそ、リセットといった極端な手段に逃げてしまったのだろうか。 彼は、生き延びる事が出来たのだろうか。 救われたこの世界は、一体どのように、彼の目に映っているのだろうか……。 上条は、どこで何をしているかも分からない、あの孤独な男に思いを馳せた。
―ホテル― 街の中心部にある、高級級ホテルの10階。建物のおよそ真ん中くらいにある部屋の中に、竜神と旅掛はいた。二ヶ月程前、アドリア海の女王の中でぶん殴った司教と似たような名前のホテルだった。 部屋の窓からは、広大な人工の湖とその沿岸にある噴水が望める絶好のロケーションだ。この展望を作る為に、湖一つを人工的に作り上げるというのだから、アメリカ人のスケールのでかさには驚かされるばかりだ。竜神「めちゃくちゃ豪華な部屋に泊まってんだな」旅掛「この部屋は、俺が今引き受けてる仕事の依頼人が用意した部屋だからな」竜神「部屋も報酬の一部って訳だ」旅掛「しかし、それだけでよかったのか?今からでも、ルームサービスが頼めるが」 竜神が購入してきた飲み物とおつまみ類の入った紙袋を一瞥しながら、旅掛は備え付けの電話に手を伸ばす。何でも奢ると言った手前、それ相応の対価を払いたかったのだろう。しかし、竜神は両手のひらを前に突き出し、拒絶の意を示した。竜神「いいって。それと、さっきこの部屋に結界張っといたから、ルームサービス呼んでも何も届かないぞ。情報の遮断と外部からの進入を拒む強力なヤツだから、電話すら出来ないかも」旅掛「驚いたな。そんな事まで出来るのか?」竜神「今だけは特別なんだ」旅掛「君が学園都市から逃げている理由と関係あるということか?」竜神「そういう事」旅掛「よければ聞かせて貰えるか?力になれるかも知れない」竜神「旅掛さん、秘密は守れる方か?」旅掛「君がそれを望むなら、守ろう。これでも、一端のフリーとして仕事をしてるもんでね。信用ってのが一番大事なんだ」竜神「信用か……分かった。俺も旅掛さんに訊きたい事あるし。話せる事は全部話すよ。とりあえずは……」 パキパキっと氷が割れるような音と共に、表面の仮面が剥がれ落ち、竜神当麻の素顔がさらされる。旅掛「なっ!」竜神「これが俺の本来の姿だ。さっきまでは常盤台中学の理事長の孫の姿を借りてたんだ」旅掛「……君に会ってからというもの、驚かされっぱなしだな」竜神「これくらいで驚かれても困るんだけどな」旅掛「君はあれか?デュアルスキルというやつか?」竜神「もっと上の存在ってやつだ。俺は上条当麻の肉体を借りて顕現した天使なんだ」
エッアリサイド? ―学園都市 第七学区― 第七学区のとある病院の大規模な地下駐車場に、その者達はいた。黒い戦闘服と学園都市が開発した最新鋭の装備で身を固めた20人程で構成された部隊。かつて木原数多が率いていた、猟犬部隊と呼ばれる闇の住人達だ。様々な車種の盗難車の中に、小隊ごとに分かれて乗り込んでいる。 9月30日の事件によって木原数多を失い、多くの戦力を一方通行によって潰された彼等は、戦争が終わった今もなお、学園暗部の汚れ仕事を請け負っていた。若干の補充人員があったものの、以前の猟犬部隊とは比べ物にならないくらいに規模が縮小されている。現在、猟犬部隊を率いているのは、メイソンというコードネームで呼ばれている男だ。もちろんメイソンは外国人ではない。中肉中背で黒髪短髪の日本人だ。 ハッタリの効いた派手なコードネームをつけるのは木原数多の趣味なのだが。未だに彼等がその習慣を守っているあたりに、木原という男が猟犬部隊に及ぼしていた絶対的な影響力が窺える。 このままでは後が無い。部隊の中でも一番の古株であるメイソンはそう考えていた。学園都市の捨て駒というのは、暗部に属する全ての者に言える事だが、現在の猟犬部隊はその中でも、最低辺に位置する存在といえた。これ以上の失態は許されない。 メイソンは無線を使い、各隊員に任務の最終確認を取る。各小隊の端末には、二人の少女達の顔写真が映し出されている。ショチトルとトチトリという名の少女達だ。メイソン「今回、我々の任務は、病院内に入院しているターゲット二名の暗殺だ。抵抗された場合は、各自所有火器で応戦。目標の殲滅を最優先しろ」 無線に、レイチェルというコードネームの女が割り込む。レイチェル「ターゲットってスパイのガキ二人だけでしょ?20人がかりで、囲むような相手なの?」メイソン「どうやら、学園都市とは違う方式の能力者らしい。他に仲間がいる可能性もある。油断はするなよ」レイチェル「了解。って、えっ!何こっふぐっ!!――――」 ゴワァッっという奇妙な爆音と共に、レイチェルからの通信が途切れる。 メイソンが慌てて車の外を見ると、レイチェル達の部隊が乗っていた車両のボンネットが原型が留めない程に潰されていた。車のシャーシ全体が激しく歪み、額から血を流したレイチェル達が必死に外に出ようと足掻いているものの、あれではドアなど開きようがない。車内のガソリンに引火していないのが不思議なくらいの壊れ具合だった。その車両の前に一人の男が立っている。 灰色の作業着を身に包み、頭に白い鉢巻を巻いた黒髪の男。その上着は肩にかけているだけで、左手に何故かデッキブラシを持っている。中に着込んだ、日の丸柄のTシャツが印象的だった。削板「病で動けない女の子を暗殺しようなんて、お前等根性がたりねぇな!」 轟っという爆発音と共に、男の背後にカラフルな爆煙があがる。メイソン「クソッ!!一体どこから襲撃の情報が漏れたんだ」 このまま車内に留まっては、敵のいい的になると考えたメイソン達は、速やかに外に脱出し、付近の車の影に隠れる。
あっという間に、削板は猟犬部隊に周りを包囲されてしまった。 車の影から、削板に銃口だけを向けた状態でメイソンが訊ねる。メイソン「何者だ!?」削板「あん?俺か?俺は学園都市のレベル5、第七位の削板軍h」 削板が名乗りを上げ終わる前に、猟犬部隊のマシンガンが一斉に火を噴く。相手が超能力者。それも、レベル5だと分かった以上、反撃の隙を与える訳にはいかない。そうでなければ、捕らえて情報を引き出すという選択肢もあったのだが、生憎、メイソン達は先日、レベル5二人に部隊を壊滅状態に追い込まれたばかりである。そんな悠長な真似をしている余裕は無かった。時間にしておよそ三十秒間。猟犬部隊は装填していたマガジンの弾をすべて吐き出してしまった。あたりに硝煙の匂いと、薬莢が地面に跳ねる音が広がる。 メイソンはゴクリと唾を飲み込む。恐怖でトリガーにかけた指先が震えるのを自覚した。正体不明な煙の向こうで、男の影がむくりっと起き上がるのが見えたのだ。削板「ぃ痛ってぇ!!テメェら人の話は最後までよく聞け!ったくそんなんだから根性が足りないって言われんだ」メイソン「くっ!化物がっ!!何故貴様が我々の邪魔をする?」削板「俺の服見れば分かるだろ?アルバイトだ!!」メイソン「アルバイトだと!?」削板「そうだ!この病院の清掃係だ!!」 削板は猟犬部隊に背を向けると、ビシッと上着に書かれたロゴを指差す。そこには確かに病院のロゴとSTAFFの文字がプリントされていた。メイソン「何をいってるんだ!!貴様は学園暗部に歯向かっているんだぞ!?」削板「へっくしゅっ!!……ああすまん。くしゃみしてて聞いてなかった。っつか、ここ煙いな」 そう言いながら、削板はズズズっと鼻を鳴らして、鼻水を吸い込む。メイソン「クソっ!話にならん。班を二つに分ける。ロバートとマリーの班は、コイツの足止めとレイチェルの班の救出に当たれ!残りは俺について来い!!」 病院の入り口に繋がる通路に向けてメイソン他8名の男女が駆け出した。削板「おい!!ちょっと待て!そっちはやばいぞ!!」 削板の警告を無視して、マガジンを交換した足止めの部隊が一斉にマシンガンを連射する。削板「くそっ!どうなっても知らないからな!!だああぁぁっもうめんどくせぇ!!すごいパーンチ!!」 削板のわけの分からない力で、部隊の半数が吹きとばされるのを横目で見ながら。メイソンは地上へと向かう階段に足をかけようとした。今回のミッションはスパイの暗殺だ。最低でもそれだけはこなされければ、自分達に明日は無い。 しかし、彼等の願いは叶えられない。 階段の上方、直線距離で7メートル程先に彼等の行く手を阻むかたちで、金髪の女が立っていた。彼等は知る由もなかったが、それはステファニー=ゴージャスパレスという名のスナイパー(笑)だった。 障害を排除する為、マシンガンを構えようとしたメイソン達の目が驚愕に見開かれる。ステファニーの持つ得物が目に入ったからだ。 細身の彼女に似合わない大筒。対戦車用ロケットランチャーだった。メイソン「たっ、退避ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」 例え、先にマシンガンの弾が相手を貫いたとしても、万が一、ランチャーが発射されてしまったら、自分達もただでは済まない。咄嗟にメイソン達は散開し、回避行動にでる。ステファニー「はいはい。御免なさいねー。私らゴミ掃除しないといけないからさ。……とっとと吹き飛べよ」
メイソン「はぁはぁはぁ……ぃい、一体何なんだこの病院は、こんなの聞いて無いぞ!?」 部隊の半数以上が、衝撃波で戦闘不能に陥っているのを確認しながら、ステファニーは残りを始末する為の武器を取り出す。ステファニー「ったく。今日は砂皿さんが入院してくる日なんだから、手間かけさせんなっつーの。色々準備で忙しいんだからさ。さっさと死ねよ!!……あっ殺しちゃ駄目なんだったっけ?まぁいいか。半殺しにしよ」 病院の地下駐車場に機関銃の音と複数の悲鳴が響き渡った。
―病院内のとある部屋― とある部屋の中で、椅子に深く腰掛けながら、カエル顔の医者が電話をしていた。相手は統括理事会の理事の一人である貝積のブレイン。雲川芹亜だ。カエル顔の医者「本当にありがとう。君が襲撃の情報提供とアルバイトの紹介をしてくれて助かったよ。おかげで患者さん達を守る事ができた。砂皿緻密さんの治療は僕が責任を持ってやっておくから、安心して欲しいって、貝積君に伝えておいてくれるかな?一応僕からも連絡は入れておくけど、君からもよろしく言っておいてくれると助かるんだけど」
雲川「了解。それと、貴方に感謝される云われは無いと思うんだけど。砂皿の件にしても、勝手に死んだ理事の後始末を押し付けただけ。削板の件にしても、こちらには原石の件で借りがあることだし、それを返したと思えばこれでイーブンなんだけど」カエル顔の医者「あの件に関しては、彼女達も進んで協力してくれたからね。患者さんを働かせるような事は、本来したくないんだけど、人道支援という事なら仕方ないんだね。気にする事はないよ」雲川「シスターズにリスクを負わせた事に変わりはないんだけど」カエル顔の医者「そうだね。でも、そのアフターケアも含めて君がやってくれたんだろ?」雲川「はぁ、相変わらず甘い男」カエル顔の医者「僕は患者を治す事を仕事とする医師だ。患者を出さないように計らうのは君の仕事だろ?」雲川「まあ、そうなんだけど。……そういえば貴方こんな所でのんきに電話なんかしてていいの?」カエル顔の医者「そうだね。そろそろ患者が搬送されて来る頃だし、僕はこれで失礼させてもらうよ」 冥土帰しは受話器を置き。彼の戦場へと舞い戻る。患者の命と救う為に、今日も彼は戦う。カエル顔の医者「それにしても、あのアステカの子供達は無事に逃げられたのかね……」
上条サイド ―アメリカ ラスベガス―旅掛「……にわかには信じがたい話だな」竜神「本当の事なんだけどな。二重人格みたいなもんだと思ってくれていい。まあ、信じるかどうかは旅掛さんの勝手だよ」旅掛「いや。信じよう。というより信じないことには話しが進まないだろ?」竜神「そうだな」旅掛「君は学園都市の計画の全貌を掴み、それを阻もうとしている。という事でいいんだろうか?」竜神「ああ」旅掛「そうか……そういえば君は、俺に訊きたい事があると言っていたな」竜神「ああ、旅掛さんが、ちょっと気になる事を言っていたからな。学園都市が原石を回収したってのは本当の話なのか?」旅掛「確かな情報だ。何せその作戦に俺の娘と同じ顔の女の子達が使われたって話だからな。かなり込み入ったところまで調べ上げた」上条『御坂妹が!』竜神「その後原石達が何に利用されているか分かるか?」旅掛「普通の留学生として受け入れられたらしい。回収作戦そのものは原石達の保護を目的としたものだったんだ」竜神「保護?」旅掛「当時CIAが中心となって、同時多発的に原石を拉致し、世界中の研究機関で原石の解析をしようという動きがあった。そういった研究所に回収された場合、原石達が非人道的な扱いを受ける可能性があったから、CIAより先に学園都市が回収、保護する必要があった。ってのが学園都市側の言い分だな。事実そうだったらしい」
竜神「学園都市にしてはやけに人道的な活動だな」旅掛「この話には裏があったのさ。確かに原石の回収にあたった連中は、真っ当な理由で動いてたらしい。そこに裏はない。でも、原石を拉致する為にCIAが作成していた原石のリストそのものが、学園都市から流失したものだったんだ」竜神「つまり、CIAを利用した茶番劇だったって事か?」旅掛「俺はそう睨んでいる」竜神「何の為に……」旅掛「超能力開発における学園都市の優位性を保つ為じゃないのか?万が一、学園都市外の超能力開発機関が発足したら、困るのは学園都市だろ?」上条『ああそうか。今んとこ超能力開発市場は学園都市が独占してるからな』竜神「……いや、違うな」上条『なんでだよ』竜神「外部の超能力研究機関が開発に成功する可能性はゼロだ。断言してもいい。それを少なくとも統括理事長は理解してたはずだ」上条『ゼロ?』竜神『外部の研究機関の連中は超能力とその他の異能の力の区別がついてない。原石も魔術も超能力も全部同じ異能の力として研究してるんだ。超能力の開発ってのは、魔術について十分な知識を持った人間が、科学的な視点で原石を解析する事で、ようやくその原理が理解できるような代物だ。すべてをごっちゃ混ぜにしているただの科学者じゃ無理だ』竜神「問題は何故、統括理事長は原石を回収したのかって事だ」旅掛「市場の独占以外に理由があると?」竜神「それが、統括理事長の意思で行われた事なら、必ず理由がある」竜神(原石ってのは、この世界の特異点だ。それを一箇所に集めるってことは……学園都市を『箱庭』にするつもりか?原石をこの世界とリンクさせる事でこの世界の理をあやつる……でもそんな事、一人の魔術師が出来るのか?仮にこの仮説が正しかったとして、『箱庭』に満たす力はAIM拡散力場。出力調整は……風斬氷華を利用すれば可能か。でもどうやってその力をまとめ上げる。リンクさせる為のラインはどうやって…………クソッ!情報が少なすぎる。大体、こんなめちゃくちゃなフォーマット、俺の天使の知識ではカバーできねえ。魔術と科学がごちゃ混ぜになってやがる。仮説そのものが間違ってるのか?)旅掛「……一つ気がかりな情報がある」竜神「?」旅掛「原石が回収された日、学園都市に侵入した者がいたらしい」竜神「侵入者?」旅掛「ああ、その侵入者が何をしたのかはよく分からないが、原石の安全を確保する為に学園都市に対して何らかの圧力をかけたのは確かなようだ。うわさでは学園都市のレベル5第七位を一騎打ちで打ち負かしたらしい」竜神「第七位ってどんなヤツなんだ?」旅掛「レベル5の第七位、名前は削板軍覇。一応念動力系の超能力者って事になってるが、原石だという情報もある」上条『レベル5を一騎打ちで打ち負かす外部の人間って……』竜神『ああ、十中八九魔術師だな。それも神の右座レベルの実力で。しかもどこの組織にも属していない』上条『どうして、どこの組織にも属してないって分かるんだ?』竜神『どっかの国や組織に属してたら、戦争になってる。神の右座が俺達を殺そうとしただけで、第三次世界大戦になったんだ。もし、どっかの組織に属してるヤツの仕業なら、もっと問題が大きくなってるはずだ。でも、そんな話は俺達の耳に入ってない』上条『じゃあ、ながれの魔術師。闇咲のおっさんみたいな人か』竜神『単純に原石の安全を確保したかったお人よしなのか。でも、さらに深い意図があるとすれば……。その人は俺達の味方かもしれない』上条『敵の敵は味方ってことか?』竜神『それだけじゃないけど。……いや、今は情報が少なすぎてなんともいえないな』竜神「旅掛さん。できる限りでいいんだけど、その侵入者についての情報を集めてもらえねえかな?仕事の合間に聞いたうわさ話とかでもいいからさ」旅掛「それが君に足りないものなのか?」竜神「ああ。今は情報が欲しい。特に原石がらみの情報が」旅掛「そうか……分かった。……君は俺が探していた”アレイスターを倒す”為のカギになりそうだな」
竜神「…………」 竜神と上条は美琴と御坂妹達の事を思いだす。 旅掛は一体どこまで知っているのだろうか……。旅掛「その顔だと、知っているんだろ?俺がアレイスターを倒す。その理由を」竜神「うん、想像はつくな」旅掛「なら教えてくれないか?アイツが俺の娘に、美琴に何をしたのか?娘と同じ顔をしたアレは一体なんなのか?」 旅掛は悲痛な面持ちでそう切り出した。 自分の知らない所で、娘が傷ついているかもしれない。そんな不安を抱えて生きる事の苦しみは、人生経験の少ない上条にも想像は着く。 しかし……。竜神「……それはできねえよ」旅掛「何故だ?」竜神「美鈴さんにしても美琴にしても、旅掛さんに秘密事があるのには、何か理由があるはずだ。どんな理由かは知らない。もしかしたらくだらない意地かもしれないし、単純に旅掛さんを巻き込みたくないからかもしれない。でも、あの二人が秘密にしている事を俺がアンタにしゃべる訳にはいかない」旅掛「俺は美琴の父親だ!娘を守る義務がある!!」 そう言い放った旅掛の姿が、かつて海の家で見た父、刃夜の姿と重なった気がした。子を守りたいという親の必死さが、ひしひしと伝わってくる。 だからこそ逆に、父を巻き込みたくないという美琴の気持ちも痛いほど理解できた。
竜神「だとしてもだ。俺は美琴を信じてる。アイツの決意を踏みにじりたくない。もう二度と」 旅掛は身を乗り出し、竜神の胸倉に掴みかかった。息がかかる程の距離までにじり寄る。旅掛「ならば約束しろ!どんな事があっても美琴の事を守りきると!アレイスターの魔手から娘を守ってみせると!それが出来ないならそんな口は利くな!!」竜神・上条「「約束する。”上条当麻”は、御坂美琴とその周りの世界を守ってみせる!」」 旅掛の目を正面から見据え。アステカの魔術師と交わしたあの約束の言葉を再び宣言した。旅掛「…………」竜神「むちゃくちゃな事言ってるのは分かってる。自分の知らないところで、大切な人が傷つく事の恐怖は、俺にも少しは経験があるしな。でもこれだけは譲れない。俺は美琴の味方だから」 竜神の胸倉を掴んでいた手が離される。旅掛はうつむき、しびしぶといった感じで了承した。旅掛「……分かった。今はそういう事にしておこう」竜神「ありがとう」旅掛「いや、すまない。俺も熱くなり過ぎた」 旅掛は深く呼吸しながら、再びソファーにどっぷりと腰掛けた。それに倣い竜神も座り直す。竜神「いいんだ。旅掛さんが怒るのは当たり前だ」旅掛「…………」
旅掛はうつむいたまま、しばらく沈黙していた。ふと何かに思いいたったのか急に表を上げて竜神に質問を投げかける。旅掛「……一つ聞きたいんだが、君は美琴の”友達”なんだよな?正確に答えてくれ」 一度伏せられた視線が再び竜神へと向けられる。先程とは違った意味での父親の顔を貼り付けた旅掛の姿がそこにあった。竜神「ああ、竜神当麻にとっても上条当麻にとっても大切な友達だよ」旅掛「そうか……」竜神「ただ、携帯の料金設定はペア料金だけどな」上条『おい!なに口走ってんだテメェ!!』旅掛「何だと!?おい!どういう事だ!!」竜神は小指で耳かきをするジェスチャーをしながら。白々しく言い放つ。竜神「さあ?上条当麻と美琴が結んだ契約だから、俺は詳しい事は知らないんだ。ただ、どうやら美琴の方から持ちかけた話らしいぞ」上条『嘘つけ!!お前全部知ってるだろ!?』旅掛「嘘だ!そんな……美琴ちゃんはまだ中学生だぞ!?」上条『おい!こらテメェ!!旅掛さんにちゃんと説明しろ!!あれはストラップが目的であって、俺とペア料金にしたかった訳じゃないって!!』旅掛「おいこら、竜神当麻。上条当麻はお前の中で、この話を聞いてるんだよな?」竜神「ああ、しっかり聞いてるぞ」旅掛「上条当麻ぁぁぁ!!う、うちの娘をもてあそびやがったら、ただじゃおかねえぞ!!分かってんだろうな!?」上条『だから誤解だって!!クッソッ!不幸だあぁぁぁぁぁぁ!!ってか竜神いぃぃぃ!!どういうつもりだ!!』竜神『どうゆうつもりもなにも、俺は事実だけしか言ってないだろ。……まあ、あれだ。お前も一度、客観的な視点で自分の行動とか人間関係とか見つめ直した方がいい』上条『答えになってねえ!!』竜神『で?旅掛さんにはなんて答えたらいいんだ?』上条『そりゃあれだろ?俺と美琴はただの友達だし、もてあそぶつもりなんて毛頭ないって』竜神「”もてあそぶつもりなんかない”だそうだ」上条『だから!なんでそんな誤解を招く言い方しかできないんだテメェは!?」旅掛「……そうか。あくまでも本気だと言いたたいんだな」 旅掛が口角を上げ無理やり笑みをつくる。なんだか凄く怖い、全然目が笑ってない。上条『ほら!なんか誤解してるって!』竜神(携帯のペア契約までしといて、そんな言い訳が通用すると本気で思ってるんだろうか?思ってるんだろうな……上条さんだし。はぁー)旅掛「いいだろう。お前が約束を守ってる内は娘の側にいる事を許してやろう。だが、決して交際を認めたわけじゃないからな!!勘違いすんじゃねえぞ!!」上条『なにこれ!?彼女の両親に、結婚を申し込みにいって断られた彼氏みたいな状況になってるよ!?完全に、娘はやらん!!って感じのオーラ出しちゃってるじゃん』竜神「上条当麻にはよく言い聞かせておくよ」旅掛「お前もだからな竜神当麻!!」竜神「俺にとっては純粋にただの友達だからな。安心しろって」旅掛「分かったものか……ちっくしょー!!」 竜神は旅掛の機嫌をとる為に、買ってきていたビールを一本あけ、ホテル備え付けのグラスになみなみとそそぐ。竜神「さあさあ、一杯どうぞ」旅掛「くっ!!」 旅掛は竜崎が注いだビールをいまいましげに見つめた後、ぐいっと一気にヤケ酒をあおった。
エッアリサイド ―学園都市外 貨物列車― エッアリとショチトル、トチトリの三人は学園都市郊外に向かう貨物列車のコンテナの中に忍び込んでいた。 カエル顔に医者から、猟犬部隊襲撃の知らせを受け、急遽予定を早める事になったのだ。ショチトル「どうしたエッアリ?なんか険しい顔になってるぞ」海原「いえ、特に理由がある訳ではないのですが。何だかちょっとイラっとしたもので」ショチトル「変なヤツ……」海原「ひどいですね。そんな事より、体調はどうですか?これからしばしの間、必要悪の教会の目を盗みながらの、あてのない旅になります。無理は禁物ですよ」ショチトル「余計なお世話だ。……お前はこれでよかったのか?」海原「学園都市を出た事ですか?」ショチトル「そうだ。あの街には、お前が熱を上げてる”女子中学生”がいるのだろう?」海原「だから!自分は別に彼女が中学生だから好きになったわけではないと、何度も説明したでしょう?」ショチトル「言い方が悪かったか?ロリコンエッアリ」海原「ロリっ!?どこでそんな言葉を覚えたんですか!?」ショチトル「お前の”仲間”のグラサン男が教えてくれた」海原「あのシスコン野郎!!今すぐに、そんな言葉は忘れなさい!ショチトル!」ショチトル「ふん」 ショチトルはそっぽを向いたまま黙り込んでしまった。海原「……まあ、これでよかったんでしょう。どの道、自分達に残された選択肢はほとんどありませんでしたし」ショチトル「あの猟犬部隊とかいうやつらか?あの程度の連中、お前なら容易く返り討ちにできただろう?」
海原「そういう問題ではないんですよ。あれは自分達に対する警告です。早くこの都市を出ていけというね。たとえ、彼等を返り討ちにしても、あの都市に残っている限り、いずれ本命の部隊に奇襲を受けていたでしょう。そうなれば互いに甚大な被害が出る事になる。だからこそ、使い捨ての駒を使って警告してきたんですよ」ショチトル「私達を追い出す為だけにか?」海原「はい。それだけ学園都市は切迫しているのでしょう。自分達にしても、必要悪の教会に捕まるわけにはいきませんからね。利害は一致しています」ショチトル「……私達はそれでいいかもしてないが、トチトリはまだ治ってもいないんだぞ」薬が効いているのか、トチトリは未だ夢の中にいた。今はショチトルの隣で静かに寝息を立てている。テクパトルに施された術式の影響で、トチトリの精神は壊れてしまった。カエル顔の医者の懸命な治療の成果で、体の方は日常生活を営める程度には回復したものの、未だに精神の障害が残っている。重度のパニック障害と失語症だ。 トチトリは声を失ってしまった。海原「確かに、出来る事なら学園都市の医療を受けさせたかったですが、こればかりは仕方がありません。あのカエル顔の医者の言葉では、もう肉体的な損傷は癒せているという話ですので、後は自分達が彼女の心を癒してあげるだけです」ショチトル「…………私達にできるだろうか」海原「できますよ。トチトリの親友である貴女なら」 励ますように、海原はショチトルに微笑みかける。 三人の当て無き長い旅が始まった。
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