禁書(わたし…)
御坂美琴を見る。
禁書(わたし、ほんとうに…)
長いまつげ、整った顔立ちに、良い匂い。
小さく、心臓が脈打つ。
禁書(わたし、ほんとうに………気持ち悪い)
欧米では同性愛に寛容らしいが、今のインデックスには微塵も理解できない。
同性愛なんてものは歪んだ性欲に歯止めが効かなくなった、一番醜い愛の形だ。
加えて、仮にも主に仕える身であるシスターが、同性に対して恋慕の情を抱くのはいかがなものだろうか。
そう考えると、御坂美琴と一緒にいる時の自分が、理解不能の感情が湧き出る自分が、たまらなく気持ち悪い。
禁書「………わかんないや…」
ベッドを出よう。
とりあえず、この人から距離を取るために。
自分の心に、距離を取らせるために。
そっとすり抜け、毛布と布団をかぶせてあげた。
時刻は午前5時5分前。
まだまだ、外は暗い。
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美琴「ん…」パチッ
あたたかい。
昨日とは比べものにならないほど、あたたかい。
美琴(何時…?)
頭の上に置いてあるはずの携帯電話をつかもうと、なかなかの速度で腕を持っていく。
と、
ゴッ!
美琴「ほぉぉぉぉぉん!」
中指と薬指が、勢いよく壁に激突した。
朝から、妙な声が出た。
美琴(なんで壁があんのよっ…!)
指先からの刺激で、完全に覚醒した。
びりびりとしびれる指をもう片方の手で握りしめながら、昨日を振り返る。
ああそうか。あのままベッドで寝てしまったのか。
あのまま…
美琴(………)
また、自己嫌悪におちいった。
かってに頬にキスをして、かってに抱きしめて、かってに添い寝して。
美琴(…ハハッ。サイテーだわ、アタシ)
同性相手に向けるべきものではない感情。
同性相手にとるべきではない行動。
理解しているのに、わからない。
わかりたくない。
美琴(あれ?そういや、インデックスがいない…)
そう、故意ではないとはいえ、昨日は一緒に寝たのだ。
不思議に思って身体を起こすと、
美琴「ッ!」
インデックスが、床の布団で寝息をたてていた。
美琴「そう…よね。やっぱり…イヤ……だよね」ギュッ
はだけた布団と毛布を握り締める。
そりゃそうだ。
おとといは全裸で押し倒し、今回は添い寝だ。
気持ち悪くて当然だ。
こんな気持ちの悪い人間とは、別々に寝たいというのもうなずける。
美琴「なーにを考えてんだろアタシ。ホント…バカじゃないの」
自分を罵る。
溜まった涙が、こぼれて落ちない様に。
心が、崩れてしまわぬように。
美琴「ホント………バカだよ」ツゥ…
冷たい涙が流れたのを皮切りに、溜まった涙が流れておちる。
最近、泣いてばかりだ。
美琴「ひぐっ…ぐすっ……うぇぇ………」ボロボロ
下を向き、声を潜めて泣く。
あの子を見ていると、本当に自分を殺してしまいそうだから。
たった2日、それだけで、こんなにも苦しいのか。
などど思っていると、
禁書「…みこと?」
美琴「ふぇ…?」
一番見られたくない人に、一番見られたくないところを見られてしまった。
禁書「みこと…どうかしたの?」
布団からひょっこりと顔を出しているインデックスと目があった。
なんだか眠たそうに、布団からもぞもぞと這い出してくる。
美琴(やめて……)
身を切るような寒さで冷える涙。
パジャマの袖口で拭えどもども拭えども頬を切り裂く冷たい涙。
美琴(来ないで……)
インデックスが再びベッドに戻ってきた。
ベッドの中央で泣く美琴の横でちょこんと正座をしている。
禁書「大丈夫?どこか痛いの?」
優しい言葉をかけてくれるシスター。
だが、私の心の弱いところが、それは偽りの優しさだと言っている。
この子は私のことがキライなんだと言っている。
美琴「……」
どうせなら、どうせ嫌われているなら言ってしまおうか。
『お前のせいだ』と。
そして『大好きだ』と。
隣にいる少女を思いっきり抱きしめて、言ってしまおうか。
その刹那、ふわりと背中があたたかくなった。
禁書「みこと…」
美琴「…うん」
禁書「大丈夫?」
美琴「…うん」
禁書「どこも痛くない?」
美琴「…うん」
安心感から、すうっと涙が引いていく。
気がつくと私は、
禁書「みこと」
美琴「うん?」
禁書「…落ち着いた?」
美琴「………うん」
逆に抱きしめられていた。
禁書「よかった…」ギュッ
美琴「ありがと。ゴメンね、心配かけて」
禁書「いいんだよ。…で、どうしたの?」
美琴「………ちょっと…」
禁書「うん」
美琴「………怖い夢を見ただけよ」
美琴「それだけ」
今日一日が、ゆっくりとはじまった。
------------
禁書「おなかへった…」グデー
小さなテーブルでぐでっとうなだれる銀髪。
寒さもあってか、完全に電池切れしている。
禁書「誰だよぅ、『冬はつとめて(キリッ)』とか言ったおバカはぁ…」
枕草子の冬の一節を全力で否定する欧米人。
清少納言もさぞかしビックリしているだろう。
美琴「しょうがないわよ。あいつらブルジョアなんだし」
平安のブルジョア、貴族たちは、早朝の寒さに対して趣があるといったのではない。
クソ寒い中、せわしなく動き回るメイドさんに趣を感じているのだ。
などという説明しながら、カレーをインデックスの前に置く。
禁書「うわぁ!いただきまーす!」
水を得た魚のように生き返る少女。
ちなみに本人は気付いていないが、私が動き回り、インデックスが毛布にくるまって朝食を待ち焦がれる光景は、まがうことなき冬の一節だった。
美琴「てか、よく知ってたわね、『枕草子』。」
禁書「うん。とうまの教科書に書いてあったんだよ」モグモグ
美琴「…え?読めるの?」
禁書「バカにしないで欲しいかも」モグモグ
美琴「はぁー…外国人なのに、スゴイわね」
禁書「それくらい当然なんだよ」フフン
無い胸を張って誇らしげにする少女。
口の端には白米がついている。
美琴(……いとをかし)
『いとらうたし』でもいいかなと考えたが、話の流れからして『をかし』の方がいいだろう。
禁書「わたしは古文でも漢文でもアラビア文字なんでも読めるんだよ」フフン
美琴「ふぅん、そりゃすごいや」
禁書「……なんかバカにされてる気がするかも」
美琴「いやいやめっそうもない」
禁書「…………ホントは?」
美琴「教科書の注釈見たのかな~と」
禁書「むぅぅぅ!やっぱり信じてないかも!本当に読めるんだよ!」ブンブン
美琴「わかったわかった。だからスプーン振り回すのやめなさい」
禁書「むぅぅぅぅ」プクー
美琴「ほら、ふくれないの」グイッ
禁書「ひゃあ!ほっへたひっはららいへぇ!」バタバタ
おそらく、『ほっぺた引っ張らないで』と言いたいのだろう。
いやぁそれにしても…
美琴(かわいいなぁ…)ギュー
禁書「にゃがい!みひょと、にゃがい!(長い!みこと、長い!)」バタバタ
美琴「あっ、ごめん!」パッ
禁書「う~…じんじんするんだよ…」
美琴「いやぁちょっと考え事してて」
禁書「ふんだ!みことなんか嫌いなんだよ!」プイッ
美琴「え……えっ?」
禁書「えっ?」
美琴「えっ…………うえぇ…」グス
禁書「えっ!?えええええっ!?」
美琴「うぇ……ふぇぇぇ」グスグス
禁書「え!?ちょっとなんで泣いちゃうの!?冗談なんだよ!会話の流れの中の虚構なんだよ!」
美琴「………ほんと?」グスッ
禁書「当たり前なんだよ」
美琴「じゃあ……」
禁書「そりゃあもちろん………」
禁書(………ん?)
インデックスは考える。
このまま『好きだよ!』って言ってしまってもいいものか、と。
なにか、なにかが心にひっかかる。
禁書(わたしの気のせいかな?なんだかニュアンスがおかしかったような……)
美琴「答えてよぅぅ」グスッ
やばい、また泣く。
美琴「う、うぅぅ」グスグス
-ー-ちゃんと考えろよ!
まずスプーンを置け!
カレーなんて食ってる場合じゃねえ!
カレーなんてものにうつつをぬかしてる間にも目の前の女の子は泣き続けちまうんだろ!?
だったらもっと考えろよ!
お前だって望んでるんだろ!?
目の前のカレーよりもスパイスの効いた最高のレスポンスを!
含まれている可能性のあるニュアンスすべてに対応できる至極の返答を!
いいかげん言っちまおうぜ!
シスター!
禁書「み、みことはっ!」ガタン!
美琴「ふえっ?」
禁書「わたしの…」
美琴「わたしの…?」
禁書「……………た、」
美琴「た?」
禁書「大切な人なんだよっ!!」
美琴「…………」
禁書「…………」
美琴「……………えへ」
禁書「!」
美琴「えへへへ、そっか、『大切な人』か、えへへへへ」
ありがとう、脳内とうま!
やってやったんだよ、最高のレスポンスを!
ミッションコンプリートなんだよ!
美琴「えへへへへ」テレテレ
禁書「………ふぅ」
なんだか、ドッと疲れた。
----------
禁書「ごちそうさま!」
美琴「………」
禁書「みこと?」
美琴「へっ?あ、あぁ、うん、おそまつさまでした」
禁書「お水にお皿浸けてくるね」カチャカチャ
美琴「はーい……」
…言われてしまった。
美琴「『大切な人』…か」
美琴「~~~ッ」カァァァ
胸が苦しくて、身悶えする。
体の芯が、とてつもなく熱い。
美琴(『大切な人』って、『大切な人なんだよっ!!』って、~~~きゃー!)クネクネ
その様子をキッチンの陰から覗くインデックスは、
禁書「………」
禁書(一回、病院とかに連れて行こうかな……)
美琴の頭のほうを心配していた。
美琴「ふぅ…」
禁書(なんだか晴れやかな顔をしているんだよ…)
美琴「さっ!洗い物しちゃお!」ガタッ
禁書(うわっ!こっちにきたかも!)ビクッ
美琴「あれ?インデックス、まだいたの?」
禁書「あ、ええと、その…て、手伝おうと思って!」
美琴「いいのよぉぅ別に~、テレビでもみてなさい☆」キャピッ
なんだろう。
この得体の知れないハイテンションは。
なんだか気持ち悪い。
とにかく、今は離れよう。
なんだかこわい。
禁書「あ…わ、わかったんだよ」タタタッ
美琴「ふふん♪ふふふーふふふふーん♪」
キッチンからは、終始鼻歌が聞こえていた。
----------
キュッ
静かなキッチンに、蛇口を閉める音が響いた。
カウンター越しに見えるインデックスは、ぼーっとした目でテレビを見ている。
おじさんが名目上『国民のため』の政治論を建築し、その他のおじさんたちがそれを取り壊す番組。
勧善懲悪もなければ正解不正解もない、そんな無味乾燥な番組。
そんな番組がつまらないのか、少女は大あくびをしている。
そんな光景を見た後、私はそっと外へ出た。
音もたてずにドアを閉める。
冷たい外気に抱きしめられると、私が私になっていくような、そんな感じがする。
美琴「……」
眼下に広がるのは無人の駐輪場。
一直線の廊下にも、人の姿は見えない。
私一人の空間。
目新しいものなんて無い、私を中心にまわる世界。
そんな何もない世界にいると、人はいつもより自分自身を客観視することができる。
冬の空は、私にノスタルジーに似たものをを運んできた。
ここに来て3日目だが、いろいろなことがあった。
私が知らない自分。
わがままな私。
いじっぱりな私。
意外と料理ができる私。
ちょっと寂しがりやな私。
そして、甘えん坊な私。
美琴「………」
甘えん坊な私…
甘えん坊な…
『アタシのこと…………スキ?』
美琴「…………」
『インデックスぅ、アタシのこと…………スキぃ?』
美琴「………………」
『ねぇ~ん、アタシのことぉ………………スキ?』(笑)
美琴(うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!やっちゃったぁぁぁぁぁぁ!!)ガバッ
寒空の下、男子寮の廊下で、女の子が一人。
美琴(うわぁぁぁぁぁぁどうしよぉぉぉぉぉ)
頭を抱え、懊悩している。
まるでどこかの原住民に捕らえられたイモムシのように、うねうねうねうねうねう
??「…………御坂?」
美琴「へあっ!?」ビクッ!
見られてしまった。
わたくし御坂美琴の人生でも最もドス黒く輝き続けるであろう歴史の片鱗を。
??「あー………」
美琴「えーと、えーと………………ね?」
何言ってんだ私。
脳みそフル回転で導き出した言葉が『ね?』って。
??「…………とりあえず、入るかー?」
美琴「…おじゃまします」クスン
間違いない。
今日は厄日だ。
舞夏「兄貴は仕事でいないから、ゆっくりしていけー」コトッ
美琴「アリガトウゴザイマス…」ズズッ
市販のものとは比べ物にならないほどおいしいカプチーノ。
だが今はそんなシロモノでさえも無味に感じる。
たくさんのトレーニング器具といかがわしいメイド系雑誌であふれかえっている部屋。
その部屋の中央のテーブル、私の対面に座るメイド少女、土御門舞夏は…
舞夏「ニヤニヤ」
二ヤケ顔で、私を見ている。
舞夏「で?」ニヤニヤ
美琴「…なにが」
舞夏「なんで部屋の前でうねうねしてたんだー?」
美琴「……直球で聞くわね」
舞夏「あんなの変質者くらいしかしないからなー。気になる」
美琴「はーい黙秘権ー。プライバシーの権利ー」
舞夏「あっ、こらー!耳をふさぐなー!」
美琴「答えなきゃ……だめ?」
舞夏「『だめ』って言ったらー?」
美琴「刺し違えてでも…」
舞夏「落ち着けー、変質者。」
美琴「変質者言うな!」
『姦しい』という言葉は女性が三人集まるとぎゃあぎゃあと騒がしいというのが由来らしいが、二人でも十分騒がしい。
間延びした声が、優秀なペースメーカーとしての役割りをしているのだろうか?
舞夏「で?」
美琴「今度は何よ…」
舞夏「なんで3日前から隣に住んでるんだー?」
美琴「あれ?よく3日前からってわかったわね?」
舞夏「実はそこに穴が空いているのですー」
美琴「それホント?本当なら今粛清しちゃうけど」バチバチィ!
舞夏「キレやすい若者はダメだぞー。冗談に決まってるだろー?」
美琴「じゃあなんで知ってるのよ?」
舞夏「だってお前ら、うるさいからー」
美琴「…そんなにうるさい?」
舞夏「うるさいぞー。うるさすぎて兄貴と
イチャつけないんだぞー」
美琴「えっ」
舞夏「ん?」
美琴「いや、アンタの兄貴って確かアイツと同い年じゃ…」
舞夏「そんなことより、」
美琴「露骨だけどすごくキレイなスルーね」
舞夏「御坂ー、なんか悩んでないかー?」
美琴「………え?」
舞夏「どうなんだー?」
美琴「……いや、悩みなんて何も…」
舞夏「あーウソついたー」
美琴「ホ、ホントよ!ウソじゃないもん!」
舞夏「………メイドさんはなー、」
美琴「ん?」
舞夏「ご主人様の身のまわりのお世話だけじゃ無くて、表情から気分や体調、その他もろもろを察せなきゃいけないんだぞー?」
美琴「………」カチャ‥
冷えたカプチーノを口に含む。
空気を介して侵入してくるマイルドな香り。
食道を通過した冷たい液体が、噴門を通り、するりと胃に落ちる。
舞夏「で、御坂自身はどうありたいんだー?」
すべてを見透かしたような目を向ける少女。
このまま、すべてを話してしまおうか。
シスターではなく、メイドに。
ぶちまけるように、懺悔してしまおうか。
美琴「アタシは…」
無意識に、ギュッと服を握りしめる。
私は、インデックスのことが好きだ。大好きだ。
あの子を見るたび話すたび、好きな気持ちが膨らんで、張り裂けそうで、苦しくて。
でも、私は、私はまだ、
上条当麻のことも、大好きだ。
今朝の情緒不安定な行動。
それは優柔不断な情けない私が、心の奥から這い上がってきたものなのではないだろうか。
そもそも、アイツとインデックスを同じ天秤に乗せる勇気が、私にあるのだろうか。
私は、『どうありたい』のだろうか。
美琴「アタシは…」
美琴「アタシは…」
臆病で優柔不断な私の、小さな決断はまだ、
美琴「姫で、いたい」
秘めていたい。
舞夏「…そうかー」
舞夏「じゃ、これ以上は詮索しないわー」
美琴「………あの」
舞夏「んー?」
美琴「今日は……ありがとね」
舞夏「どういたしましてー」
心の奥に、想いの炎をそっと隠した。
優柔不断なお姫様の、ささやかな秘めごと。
私は、上条当麻が大好きだ。
でも、
泣いた顔。
笑った顔。
怒った顔。
眠そうな顔。
不安そうな顔。
空腹の顔。
満腹の顔。
私と同じ髪の匂い。
触れていたい体温。
かわいらしい仕草。
そのすべてが臆病者の私を勇敢にしてくれた。
守って、護って、目ってあげたい。
たとえ彼女が私のことを好いていても、嫌っていても。
全力であの子を笑顔にしてあげたい。
この想いがばれないように、姫でありながら。
美琴「じゃあ、そろそろ行くね」
優柔不断な私の心よ。
もう今朝のように迷うことはないだろう。
今の私には選択肢が一つしか無いんだから。
---私は、インデックスを愛してしまったんだから
舞夏「おー。気をつけてなー」
美琴「気をつけてって、すぐ隣じゃない」クスッ
舞夏「…御坂ー」
美琴「ん?」
舞夏「選んだ道は、けわしいぞー」
美琴「……メイドさんってのは、みんな読心能力者か何かなの?」
舞夏「さぁなー。ま、一応応援するぞー」
美琴「ありがとね。一応でも、うれしいわ」
舞夏「じゃ、暴食シスターによろしくー」ヒラヒラ
ひらひらと手を降るメイド少女を後ろにその部屋を出ると、冬の朝の清々しい風が私を迎えた。
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まぶたに光を感じる。
朝の冷たい空気。
深い眠りからゆっくりと、しかし確実に覚醒へと向かう脳。
階段を一歩一歩登るような感覚。
毎朝の楽しみの一つだ。
この階段を登り切った後、いつものように俺は
??「あなたー!!」ピョーン
一杯のブラックコー…ドスン!!
??「うが…ァァァァァァ……!」
とんだ思い違いをしていた。
今まで階段だと思い込んでいた段差は、クソったれなエスカレーターだったらしい。
??「ふぐゥゥゥゥゥ…うァァァァァ…」ゴロンゴロン
打ち止め「あれ?もしかして入っちゃった?ってミサカはミサカはもやしっ子なあなたを心配してみたり」
10歳くらいの女児一人の体重を30㎏弱だと考えよう。
人体におけるの弱点一つであるみぞおち。
そこに10歳前後の女児が突っ込んでくるというのは、先のとがった米俵をみぞおちにぶつけられたのとほぼ同義なのだ。
悶絶、どころの騒ぎでは無い。
一方通行「死ンだ……俺今絶対死ンだァァァ………」
たとえ、学園都市トップの男であってもだ。
打ち止め「大丈夫!生きてるよってミサカはミサかは体を丸めてるあなたに全力エール!」フレーフレー
ああもう最高に黙らせたい。
ガムテープでもはってやろうか。
一方通行「こンのォ…………アホガキがァァァァ!!」ガバッ
打ち止め「あ、起きた!」
一方通行「『起きた!』じゃねェよクッソガキィィィ! お前やっていいことと悪いことの」
打ち止め「おはよう!あなた!」ニコッ
一方通行「……………おゥ」
その後すぐにタタタッと部屋を出て行ってしまった。
怒鳴った時は恐がっているそぶりを見せなかったが、やっぱり、恐かったのだろうか。
正直、少しもの寂しい。
方法はどうであれ、起こしてくれたことにはかわりない。
なにも怒鳴ることなんて無かっ
打ち止め「ヨミカワ隊長! ねぼすけウサギを起こしてきました!」ビシッ
黄泉川「よくやった! 打ち止め一等兵!」ビシッ
打ち止め「ありがとうごさいます! あいかわらずのモヤシでした!」フンス
よし、シバく。
打ち止め「う~~~、痛い~ってミサカはミサカは非難がましい目であなたをギロリ」
一方通行「ほォう、まァーだチョップされてェのかァ?」
打ち止め「う~~~! あなたのいじわるっ!ってミサかはミサかはポカポカ!」ポカポカ
一方通行「反し…」カチ
打ち止め「えいっ」ビリッ
一方通行「sdffgvdjsefyvdjb!!!」ボフッ
打ち止め「えへへへへーってミサカはミサカはソファーでもぞもぞしてるあなたに頬ずりしてみる」スリスリ
一方通行「ぶっはァ! てンめェェェェェ! まァた予告無しに」
黄泉川「うるさいじゃん!」カッ!!
一方通行「……………ハィ」
芳川「ふふ…朝からアツいわね」ズズズ‥
一方通行「コーヒーだよな? そのコーヒーのことなンだよな?」
芳川「あら、あなたが一番よくわかってるんじゃないかしら?」
一方通行「ニートこじらせて頭おかしくなったンですかァ?」
芳川「………ロリコン」ボソッ
一方通行「今なンて言ったコラもういっぺン言ってみろやニートコラァァァ!」ガタッ!
黄泉川「一方通行…?」ニコッ
一方通行「…………ゴメンナサイ」
黄泉川「桔梗も煽らないじゃん」
芳川「うふふ。自宅警備員に説教は効かないのよ」ズズズ‥
黄泉川「もう、桔梗もさっさと職探したらどうじゃん?」
芳川「間に合ってるわ」ズズ‥
黄泉川「何が間に合ってんじゃん…」
芳川「………愛穂」
黄泉川「なんじゃん?」
芳川「そんな小言ばっかり言うなら、もうよがらせてあげないわよん」ウィンク☆
黄泉川「なっ……///」カァァァ
一方通行「」
芳川「ま、それでも探せっていうならしょうがないわね」
黄泉川「あ! いや、その…なんじゃん…ゴニョゴニョ///」
芳川「んー?なぁに聞ーこーえーなーいー」
黄泉川「そ、そんなこと…言わないで欲しい…じゃん………///」
芳川「うふふ、しょうがないわねぇ愛穂は」
黄泉川「///」
打ち止め「ねぇあなたー、ヨガラセルってなぁに?ってミサカはミサカは好奇心をあらわにしてみる」
一方通行「ダルシムのことだよ。ヨガを極めたすごいやつだよ」
打ち止め「そうなんだ!ってミサカはミサカはまた一つ賢くなったぜイェイ!」
黄泉川家の朝はあわただしく過ぎてゆく。
----------
芳川・黄泉川「ごちそうさま」
打ち止め「ごちそうさまってミサカはミサカは何も言わないあなたをじ~~~っ」ジロジロ
一方通行「…………ごちそうさま」ボソッ
芳川「よくできました一方通行」
黄泉川「エライじゃん一方通行」
打ち止め「やればできるじゃん一方通行ってミサカはミサカはヨミカワの口調をまねてみる」
一方通行「おまえらバカにしてンだろ」
芳川「ええ」
一方通行「……クソレズニート」
芳川「レズじゃないわよ。ただ可愛い人が好きなだけよ」
芳川「打ち止めは今日どうするの?」
打ち止め「今日は服を買いに行くのってミサカはミサカは漠然としたプランをさらしてみたり」
一方通行「ほォう、誰と?」
打ち止め「あなたに決まってるでしょってミサカはミサカはまたまた不満!」
一方通行「ハッ、お出かけは夢ン中だけで十分だろォが」
打ち止め「えー!そんなのヤダヤダってミサカはミサカは足をバタバタして猛抗議!」バタバタ
一方通行「バタバタしてもダメなもンは
ダァメですゥー」
打ち止め「ヤダヤダヤダヤダ!」バタバタ
黄泉川「一方通行、いじわるしないで連れてってやるじゃん」
一方通行「……チッ、しゃァねェなァ…連れてってやるよォ」
打ち止め「ホント!?やったー!ってミサカはミサカは感謝感激!」
黄泉川(最初から連れてってやるつもりだったクセに…素直じゃないじゃん)クスッ
芳川「最初から連れて行ってあげるつもりだったクセに…素直じゃないわねぇ」
黄泉川「なんで言っちゃうじゃん…」
打ち止め「そうだったの?ってミサカはミサカはあなたの顔をのぞき込んでみる」
一方通行「バッ…! ン、ンなワケねェだろォが! 思い上がンな!」
打ち止め「……そうだよねってミサカはミサカは意気消沈…」
芳川「あーあ。やっちゃった。あーあ!」
黄泉川「桔梗…いつもよりなんかかがやいてるじゃん…」
一方通行「だァァ! もォうっせェ! オマエも早く着替えてこいクソガキ!」
打ち止め「! うん!ってミサカはミサカはあなたの優しさを再確認!」タタタタタッ!
一方通行「優しさ、ねェ…」
芳川「……一方通行」
一方通行「あン? まァたなンか嫌味ですかァ?」
芳川「違うわよ。あなた、気づいていないの?」
一方通行「はァ?」
芳川「いや、気づいていないフリをしてるのかしら?」
一方通行「はン。なンのことだかサッパリだぜェ」
芳川「あの頃のあなたと今のあなたが、ぜんぜん違うってことよ」
一方通行「……ハッ、意味わかっンねェな」
芳川「結論から言わせてもらうと、あなた、そうとう人間らしくなったわ」
一方通行「俺が…?」
芳川「あなた以外に誰がいるのよ」
一方通行「俺が…人間らしくなっただァ?」
芳川「ええ」
一方通行「………くきゃ…くきゃくかかかかかか!」
一方通行「この汚れた手のクソッタレなクズヤローが人間らしいだァ?」
一方通行「笑わせンじゃねェよ!」
一方通行「俺は…俺は汚れてなきゃいけねェンだよ…キレイじゃダメなヤツなンだよ!」
黄泉川「一方通行、それはちが」
芳川「それは違うわ」
一方通行「!」
芳川「一方通行、あなたが鏡に映った自分を汚らしいと思おうが思うまいが、正直どっちでもいいわ」
芳川「でもね、打ち止めと出会って、打ち止めと一緒にいて、打ち止めを護って、何か変わったと思えるものが心のどこかにあるんじゃないかしら?」
一方通行「…っ」
芳川「一方通行、あなたはもっと胸をはって、堂々と生きるべきよ。」
一方通行「…でも、俺なンかにそンな資格は」
芳川「資格って何よ。生き方に資格が必要なら、日本全国のニートはみんな死んでるわよ」
芳川「もう一度言うわ。もっと胸をはって生きなさい、一方通行。そうでなきゃ打ち止めにも失礼だわ。」
芳川「あなたは昔より、ずっとずっと優しくなったんだから」
一方通行「芳川…」
黄泉川「桔梗…」グスッ
芳川「幼女だけには、ね」
一方通行「芳川ァ………!」
黄泉川「台無しじゃん…」
ガチャ!
打ち止め「おまたせーってミサカはミサカは……ってあれ? どうしたの?」
黄泉川「なんでもないじゃん……」
打ち止め「ふーん? それよりあなた!早く早く!ってミサカはミサカはあなたをエスコート!」
一方通行「チッ…エスコートの意味わかってンのか………よっと」グイッ
黄泉川「///」ボンッ
打ち止め「ヨミカワ!ヨシカワ!行ってきますってミサカはミサカは元気にあいさつ!」
一方通行「じゃ、行ってくる」カツ.カツ.
芳川「うふふ…いってらっしゃい」
黄泉川「車に気をつけるじゃん」
一方通行「…………芳川ァ」
芳川「ん?」
一方通行「その……ありがとな」ボソッ
芳川「さぁ、なんのことかしら」
一方通行「…….ケッ」
カッ.カッ.カッ...バタン!
芳川「……さて、愛穂」
黄泉川「は、はい!」ビクッ
芳川「私たちは私たちで……楽しみましょうか」グイッ
黄泉川「ひゃ、ひゃあい……///」
芳川「うふふ…」
----------
ガチャ
鋭く冷えた金属のドアを、私はためらい無く開けた。
嗅ぎ慣れた甘い匂いが、鼻腔から全神経を占領していく。
大好きな匂い。
いつの間にかカレーの匂いはどこかに消えてしまったようだ。
美琴「ただいま」
外出が悟られないよう小さな声で、かつ帰宅を知らせるよう大きな声で。
二つの背反した目的がぶつかって、最終的には不自然な大きさの変な声が出た。
がやがやとしたテレビの音。
その波に混じって「おかえり」という帰宅を歓迎する言葉は聞こえない。
「おかえりは?」という風に必要以上に耳をすましてしまうあたり、私はまだまだ小さいようだ。
生活スペースまで一直線に伸びる冷たい廊下。
その先にいるであろう少女は、どんな顔で、どんな目で、どんな体勢で私を迎えるのだろうか。
玄関で少し立ち止まって考る。
もしもイヤそうな、「来ないで下さい」という空気で迎えられたら、私はどうなってしまうのか、と。
おじさん達の保守的な政論をBGMとした、静かな部屋。
私はためらいながらも、凍るようなフローリングに降り立つ。
一歩、また一歩と進むたびに悪魔が囁く。
『お前のことがキライだから、「おかえり」と言ってくれないんだ』
『同性愛者かもしれない人間に、優しくしたら何をされるかわからないだろう?』
臓物を直接犯されたような吐き気が、突然襲ってきた。
自分の弱いところを圧迫されて、水鳥みたいにキーキーもがく。
足取りは、重い。
こんなにも、こんなにも自分が弱いとは思わなかった。
パジャマを着た、小さな背中が見えた。
ドクン、と鳴くチキンハート。
あいかわらず退屈そうな感じで、テレビのある方向を向いている。
打ち立てた被害妄想。
さっき私が悪魔の囁きと言い換えた、脆弱な自分の心。
それがより現実味を帯びて、私にのしかかってきた。
もう一度、『さっきのは何かの間違いかも知れないから』と言い聞かせ、
美琴「………ただいま」
すがるように、言葉を発する。
返事はない。
キッチンカウンター越しに見えるインデックスの背中。
机に身を預けているので、柱に顔が隠れて見えない。
一歩進めば、目が合うだろう。
さっさとそうすればいいのに。
そうすれば全部、全部悟ることができるのに。
私の足は鉄球を付けた囚人のように、動くことを拒んだ。
美琴(やっぱり…か)
ハハッと乾いた笑いがでた。
諦めの混じった、卑屈な笑い。
返事は、ない。
打ち止め「ねーねーあなた、レズってなぁにってミサカはミサ」
一方通行「気にすンな。おまえには一生縁のねェもンだ」
打ち止め「むぅってミサカはミサカはちょっぴり不満」
パジャマの少女の背中は動かない。
息をするたびに、膨らみ、しぼむ。
ただそれだけ。
美琴(………ん?)
何かがおかしい。
カウンター越しに見える背中は、とても覚醒状態にある人間のものとは思えない。
打ち立てられる一つの仮定。
それの最も簡単な証明方法は、一歩前へ進むこと。
美琴(もしかして…)
仮定にすがりつく形で一歩、前へと進む。
するとそこには、
美琴(やっぱり)クスッ
天使のような顔をした、ねぼすけがいた。
ーー真実は時に人を殺し、時に蘇生する。
どこかで聞いた格言を簡略化したものだが、その通りだと思った。
さっきまで私の中であぐらをかいていた悪魔はもういない。
弱い心が、少し強くなったような気がした。
くぅくぅと寝息を立てるインデックス。
がやがやと騒がしいおじさん達の怒号。
机に上半身をあずけ、すやすや眠る少女。
それはまるで彼女だけがどこか別の場所から切り取られ、貼り付けられたような異質さを漂わせていた。
美琴「もう。こんなところで寝てちゃ、風邪ひくわよ」
母親のようなことを言い、近寄る。
すると机には、
美琴「うおっ!」ビクッ
世界地図が、具体的に言うとユーラシア大陸が、唾液で描かれていた。
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湯で温めたタオルで顔を拭いてあげる。
少女は『いやいや』をしたが、「構うものか」と強引に、だが優しく肌を滑らせる。
美琴「ほら、だらしないことしないの!」フキフキ
禁書「う~~~!」イヤイヤ
「ベッドで寝なさい」とたしなめ、テレビを消すためにテレビに近寄る。
カチッというプラスチック的な音と共にテレビの電源が落ちた。
「まったくもう」と言って振り返ると、
禁書「うゆ……」フラ~
美琴「うおおおおい!」キャッチ!
また、粘液の海にダイブしようとしていた。
その頭を必死でキャッチする。
美琴「はぁ…」
ため息をつく美琴。
その顔はどこか嬉しそうで、ニヤニヤとしていた。
美琴「まったくもう…よいしょ」グイッ
本日二度目の『まったくもう』の後、俗称:『お姫様抱っこ』でベッドまで運ぶ。
禁書「ふふ…」スリスリ
『思ったより軽いな』などと思っていると、胸に頬ずりをして甘えてきた。
美琴「あ~もう、猫かお前は」
本来ならばそのまま抱きしめて頬ずりをしたいほど愛らしいが、もし起きてしまった時を想定して、悪態をつく。
終始、二ヤケながら。
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禁書「ぅん…ん?」パチ
ありのままに起こったことを話そう。
『私はテレビを見ていたのに、いつの間にかベッドで寝ていた。』
何を言ってるかわからないと思うが、私にもわからない。
禁書「………」
くだらないことがスラスラと出てくるあたり、私の脳はきちんと覚醒しているようだ。
ムクリと起き上がり、辺りを見回す。
が、御坂美琴の姿は無い。
禁書「………みことー…」
…返事がない。
出かけているのだろうか?
禁書「むぅ…またわたしを放ったらかしに…」
そこまで言って思い出す。
あの変な御坂美琴を。
トチ狂ったテンションの、絡むとめんどくさいランキング上位に君臨しそうな御坂美琴を。
私の優れた記憶力は、瞬時にフィードバックさせた。
禁書「何だったんだろ…アレ」
この時ばかりは、『夢だった』で片付けられる人間が羨ましい。
私の優れた記憶力は、夢オチを許さない。
うんうんと考えていると、
美琴「ただいまー」ガチャ
ドアの音が聞こえた。
ベッドから跳ね起き、裸足でペタペタと玄関までかけて行く。
禁書「お、おかえり!」
「また変なみことだったら変装を疑おう」と、アステカ辺りの原典を脳内で開く。
見た感じ魔翌力は無いな、と思っていたら、
美琴「あ、起きたの」
美琴「ただいま、インデックス」ニコッ
そこには
禁書「う、うん」ドキッ
いつもの、御坂美琴がいた。
美琴「『コンビニ行って来ます』って書き置きして行けばよかったわね。寂しかった?」
禁書「むっ!子供扱いしないで欲しいかも!」プクー
ここに来て何度も見た仕草。
この子は気に入らないことがあった時、
頬を膨らませるクセがあるようだ。
美琴「そうよね。インデックスはオトナだもんね」
禁書「そうだよ。 わかればいいんだよ、わかれば」フフン
腕を組んで胸を張り、仁王立ちをする銀髪の少女。
しかし私の知っている仁王様はこんなにちんちくりんではない。
美琴「じゃあこの……」ガサゴソ
禁書「?」
美琴「子供に大人気のホイップクリームプリンはいらないわね」
禁書「………」ジ~ッ
何だかギラギラとした視線がホイップクリームプリンを持つ右手に突き刺さる。
まるで『おあずけ』をくらった犬のような表情だ。
禁書「ま…まぁ、今日くらいはお子様気分を味わってあげてもいいかななんて思ったりしちゃったりするんだよ」
美琴「なに錯乱してんのよ。 そんな無理しくても、アタシが食べるからいいわよ」
禁書「で、でもでも! いつまでも若々しい気持ちを保つにはこういうのも必要だって、主様が言ってたり言わなかったりしてたんだよ!」
美琴「カミサマはそんなこと言わないわよ。 それ以前に今のはシスターとしてどうなのよ」
禁書「でもでもでも! そのホイップクリームプリンはわたしの胃袋に入ることを望んで止まない感じかも!」
美琴「どんだけマゾなのよこのプリン。そんな危なっかしいものならアタシが食べてあげるわよ」
禁書「むむむむむ……!」
美琴「もう終わり?」ニヤニヤ
禁書「む~~~!」ジワッ
美琴「へ!? いやいやプリンくらいで泣かないでよ!」
禁書「罪悪感に…ヒグッさいなまれると…いいんだよっ……!」ウルウル
美琴「なに小者っぽいセリフ吐いてんてよ! わかったから! わかったから泣き止んで! ね?」
禁書「ほんと……?」ウルウル
美琴「ホントホント。ほら、居間に行きなさい」
禁書「…わかった」ゴシゴシ
美琴「ほんとにお子様ね…」クスッ
禁書「違!…わないけど違う…ことも無いっていうか…」ゴニョゴニョ
美琴「もうイジメないから素直に『違う!』って言いなさいよ」
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テーブルを挟んで対面する二人。
ベッド側にはインデックス、テレビ側には美琴が座っている。
先程からインデックスは落ち着きが無い。
禁書「さぁみこと………さぁ!」バッ!
片ヒザを立て両手を広げ、キラキラした目でプリンを迎えようとする。
なんだか、テンションがおかしい。
美琴「わかったから、ちょっと落ち着きなさい」ガサゴソ
禁書「わくわく」
美琴「はい」トン
テーブルの真ん中に、赤いパッケージで長方形のおかしが置かれた。
禁書「…………へ?」
そう、
美琴「おいしいわよ?」
ジャパニーズ・トラディショナル・スイーツの代表、『都こんぶ』である。
禁書「」ズゥーン
突然鉛のように沈んだインデックス。
まるで地球が終わるかのような表情をしている。
美琴「そ、そんなに沈まないでよ。 はい。 」コトッ
今度はちゃんとプリンを置いた。
すると、
禁書「はぁぁぁぁ」キラキラ
花が咲いたように元気になった。
この子はとてもからかい甲斐がある。
禁書「みこと! ありがとう!」ニコッ
美琴「ふふっ、どういたしまして」
さっきまでイジメていた人間に、懐いてきた。
この子がDV野郎に引っかからないか、とても心配だ。
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禁書「~♪」モチャモチャ
美琴「……それ、そんなにおいしい?」
禁書「うん!」モッチャモッチャ
美琴「そ、そうなんだ」
禁書「なんていうのかな、この味付けがたまらないよね! 」モッチャモッチャモッチャ
美琴「…うん」
禁書「これがエキゾチックジャパンなんだね! ううん、そうに違いないかも!」モッチャモッチャモッチャモッチャ
どうやら、いたく気に入ったようだ。
禁書「ごちそうさま! もう無いの?」ズイッ
美琴「寄るな。 酢昆布くさい」
嫌がらせのために購入した、『みやここんぶー』を。
禁書「えー! なんでもっと買わなかったの? 『みやここんぶー』!」
美琴「そんなにおいしかったの?」
禁書「うん! なんていうのかな、あのビネガーの」
美琴「わかった。 わかったから『都こんぶ』に『ビネガー』なんて小ジャレた言葉を使わないで」
禁書「あー! 『みやここんぶー』をバカにしちゃダメなんだよ! カミサマの天罰が下るかも!」
美琴「力の使い所を間違えたクソくらえな神様ね」
禁書「はぁ…これだからニッポン文化を知らない人は」ヤレヤレ
美琴「アタシ日本人。 あなた外国人。 OK?」
美琴「だいたい何よ、『みやここんぶー』って。『ぶー』って何よ?」
禁書「『みやここんぶー』は『みやここんぶー』なんだよ」
美琴「とろろ昆布は?」
禁書「とろろ昆布だよ」
美琴「なんだかややっこしいわね」
禁書「えへへー」
美琴「褒めてないわよ?」
禁書「むぅ…」
禁書「とにかく、『みやここんぶー』は『みやここんぶー』であって、それは『みやここんぶー』以外の何者でもないっていう『みやここんぶー』が創り出した『みやここんぶー』独自の『みやここんぶー』」
美琴「あーもう、ぶーぶーうるさい!」
禁書「ぶぅ」プクー
美琴「てかなんで都こんぶだけ『みやここんぶー』になるのよ…」
禁書「それだけじゃないよ。 『けいたいでんわー』もあるよ」
美琴「………へ? 携帯電話?」
禁書「うん。けいたいでんわー」
美琴「持ってるの?」
禁書「うん。 なんと! ぴかぴか光るんだよ!」フフン!
美琴「残念ね。 アタシのも光るわ」
禁書「むぅぅ」ムスッ
美琴「ていうかさ、そういうのは先に言いなさいよ。今どこにあるの?」
禁書「………行方不明なんだよ」
美琴「携帯電話を携帯しない人って、ダメだと思うの」
禁書「う~~~! だって! わたしのけーたいでんわーはブルブル震えるんだよ!
ぴかぴか光って、大きな音が出るんだよ! 明らかに怪しいでしょ!?」
美琴「残念ね。アタシのもブルブル震えてぴかぴか光って大きな音が出るわ」
禁書「まねっこ無しなんだよ!」
美琴「そういうモンなのよ」
禁書「なんだ。そういうものなんだ」
美琴「ちょっと待って、すぐ探すから」
禁書「? どうやって?」
美琴「こうやって」バチッ!
美琴「ベッドの下辺りから不自然な電波が出てるわね……」
禁書「えーっと」ゴソゴソ
禁書「あ! 何かあるんだよ!」グイッ
美琴「お!見つかった?」
ばさっ!
『週刊:オトコの世界 ~今月はノンケ祭り~』
禁書「……………」
美琴「……………」
禁書「で、電波が…」
美琴「出てないから早く戻しときなさい」
禁書「うん………」
禁書「あ! これっぽいかも!」ゴソゴソ
美琴「あなたの切り替えの早いところ、好きよ」
禁書「あった!あったよみこと!」
美琴「よかったわね。じゃ、赤外線で交換しよっか」
禁書「せきがいせん? なんだか強そうかも!」
美琴「残念ながら強く無いわ。 たとえ強かったとしても不可視光だから見えないのよ」
禁書「不可思考? 考えちゃダメってこと?」
美琴「誤認して漢文にシフトしちゃったか。 まぁいいわ、貸して」
禁書「…………大切に、してあげてね」
美琴「数十秒で返すわよ」
ピッピッピ……ピロリン♪
美琴「はい。登録しといたから」
禁書「ありがとう! おかえり、けーたいでんわー!」
美琴「もうなくしちゃダメよ?」
禁書「うん!」
美琴「…………それよりさ、」
禁書「?」
美琴「あの本……インデックスの本?」
禁書「『月刊:オトコの世界 ~今月はノンケ祭り~』のこと?」
美琴「素晴らしい記憶力ね。うん、それ」
禁書「そんなわけないんだよ。わたしは腐女子じゃないし」
美琴「赤外線知らないのになんで腐女子は
知ってんのよ。どんだけかたよった知識よ」
禁書「まいかに教えてもらったんだよ」
美琴「あのメイドは一回オシオキしないといけないみたいね」
美琴「ん?」
ということは、あの本は必然的に上条当麻の所有物ということになる。
アイツが?アイツがあんなの買うの?
いやいやそんなワケない。
こんなに可愛らしい白人ロリシスターがいるのに、あんな色々とゴツい雑誌買うワケない。
おおかた、あの友達たちにもらったんだろう。
そうだ、そうに違いない。
禁書「おーい、みことー?」
美琴「ふえっ?」
禁書「話聞いてたー?」ムスッ
美琴「あー、ごめん。ぼーっとしてた」
禁書「もう。もう一回言うから、聞き逃しちゃダメなんだよ。今日、どこか行かない?」
美琴「ああ、そんなことか。いいわよ。どこ行きたい?」
無理やりに自己解決して、早々に忘れ去ることにした。