「それではこれで終わります~」教壇に立つ、小学生くらいの身長で、ピンク髪をした少女が授業の終わりを知らせる。実は彼女、全くそうは見えないが、このクラスの担任である。「ふぅ、無事終わった~」上条当麻はバタン、と机の上に倒れ臥した。何だか今日は調子がいい。まあ他の人から見れば普通の日常なのだが、常に不幸が付きまとっている彼からすれば、絶好調なのだ。「カミやん、今日は何事も無かったみたいだにゃー」金髪アロハにグラサンという、およそ学校に来るような服装を全くしていない男、土御門元春が話しかけてくる。上条当麻の親友であり、義妹を溺愛するちょっとした変態だ。「おぉ、後は帰るだけだし、何かいいことが起こりそうな気が「おっとその先は言わせへんで」」」突然会話に割り込んで来たのは青髪ピアス。この男は、世の中に存在する全ての嗜好を網羅する、とんでもない変態である。「カミやんがそういうこと言うと、ホンマに空から美少女が降って来そうなんやもん」「あるわけねえだろそんな事!」これに上条を加えた三人が、この高校名物の三バカデルタフォースである。「青ピの言う事も一理あるにゃ~」「大体カミやんは未回収のフラグが多すぎるんや!」「上条さんがそんなモテるわけありません!」いつもの感じでギャーギャーと騒ぎながら、三人は学校を後にした。
学校を出た三人は既にバカ騒ぎを止めており、普通に談笑しながら歩いていた。「カミやんこれからどうするんだにゃ~」「う~ん、食材は昨日沢山買ったし、かといって帰る気分でもないな~」「そんなら久しぶりにゲーセン行かへん?ボコボコにしたるでカミやん」「お、久々にやるか?」「決まりだにゃ~」そんなやり取りを経て三人は目的地をゲームセンターに決め、歩き出した。が、彼らはすぐに足を止めることになる。角を曲がってすぐの所で、唐突に後ろからあの!という女の子の声が上がったからだ。振り向く三人。が、面識があるのはその中の一人だけだった。「あれ?昨日の……」上条がそう言った途端に、両サイドから悲痛な叫び声が上がった。「やっぱりカミやんだにゃー!!」「昨日からのフラグやったかあああ!さっきまでのドキドキを返せえええ!!」喚き散らす二人に困惑する少女。「えっと、あ、あの……」「ちょっと待ってろ、すぐに黙らせる」そう言って上条は二人をぶん殴った。
………………………………
ボロ雑巾の様になった二人を放っておいて、上条は少女に話しかけた。「ごめんごめん。で、どうしたんだ?何か用か?」「え、えっと、あの、生徒手帳がですね、あの、ヒーローさんで……」「?」言っていることが支離滅裂で何が何だか分からない。魔術師かとも思ったが、まさかそれは無いだろう。少女は、何も伝わっていないことは分かるのか、少し深呼吸して、ビックリするくらい大きな声で一言だけ言い放った。「ちょっとそこでお茶しない!?」「」上条当麻、高校一年生。生まれて初めて逆ナンされました。
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パコーン、と頭から小気味の良い音がする。振り向くと、初春がカバンを両手に持って立っていた。「何言ってんですか佐天さん!?」「うわ、あ、ごめん」いつもだったら許さないけど、今回に限っては許そう。「だ、大丈夫か?」「ひゃい!」うわ、声が裏返っちゃった。「ええっと、……ナンパ?」さっき言ったことを思い出して体から汗が吹き出してきた。「ち……違うんです……えっと、その~……」私は初春の方をチラチラ見る。初春助けて~。初春は、全く、と嘆息して、助け船を出してくれた。
「佐天さんが昨日お世話になったみたいなんで、お礼をしに来たんですよ」「そうなのか?……でも、良くここが分かったな」「あっ、それはですね」少し落ち着いたので、私も会話に混じる。これじゃ何しに来たのか分からないし。そう思いながら、さっ、と生徒手帳を取り出した。「昨日、これ落として行きませんでした?」上条さんは、あれ?落とした?と首をかしげ、服をゴソゴソと探し出す。まあここにあるから服の中に有るわけないんだけど。突如上条さんがうわっ、と声を上げた。「ポケットが破れてる……一週間前に新調したばっかなのに……不幸だ……」うーん、確かに上条さんにとっては不幸なのかもしれないけど。それのおかげでまた会うことが出来たんだから、不幸って言われると何だか複雑だ。「あとですね、何か奢らせて下さい!」生徒手帳も返したことだし、残る最後のミッションは、『お友達になる』ことだ。「え!?し、しかしですね、上条さん的には中学生に奢ってもらうなんてことは……」「良いから良いから~。こういう好意は受け取らないとだめなんですよ?」何だか渋っている上条さんの背中をグイグイ押して、ファミレスの扉をくぐる。うん、何だかいつもの調子を取り戻せてきた。
―――――ファミレス―――――四人席に案内され、私、初春、上条さんの順に席につく。私の隣が初春で、上条さんの隣は空席だ。私はメニューを広げて、上条さんに差し出した。「さぁさぁ、どれでも好きなのを頼んで下さい!私達の奢りですから!」「私も払うんですか!?」「当然じゃない。唯一無二の親友を助けてもらったんだよ?」「そうですけど……自分で言いますかそれ……」まったく、何言ってんだか初春は。「なぁ、やっぱり割り勘にしないか?」「ダ・メ・で・す!上条さんはちゃんと奢られてて下さい!」上条さんは上条さんで往生際が悪い!「はい……じゃあ、これで……」うーん、一番安いやつ。やっぱり遠慮してるのかな。まぁ、ちゃんと会うのは初めてだし、仕方ないよね。
「あ!」初春がパチンと手を打ち、注目を集める。「何だかごたごたしてて忘れてましたけど、自己紹介しませんか?」おぉ、初春にしてはいい事言った。「流されるままに来ちゃったけど、名前も知らない子達に奢らせるのも気が引けるしな。いいんじゃないか?」うん、上条さんも乗り気みたいだ。でもなんか合コンみたいなノリになって来ちゃったような。「じゃあ言い出しっぺの私から。えっと、名前は初春飾利です。中学1年生で、一応、ジャッジメントに入ってます。……こんなもんですかね?」「ジャッジメントなんて凄いじゃないか。入るのって大変なんだろ?」「ええまあ、大変でしたけど、訓練所で励ましてくれた人がいたから頑張れました」む~、いいな~初春。誉められてる。私にはそんな大層な称号なんてないし……
「じゃあ次は俺が。上条当麻、高1。見ての通りの貧乏学生ですよ」あ、そういえば気になってた事があったんだ。「上条さんって何か能力使えるんですか?」「いやぁ、恥ずかしながら、システムスキャンではレベル0でした」共通点発見!「そうなんですか?私もレベル0なんですよ!」「え、そうなの?……えっと」「あっ、佐天涙子です。初春と同じ、中1です!最近気になる人が出来ました!」う~ん、我ながら大胆な告白!「佐天、か。レベル0はやっぱり大変だよな?親の期待とかもあるし……」あれ、見事にスルーされちゃった。その後も、注文した料理を食べたりしながら色々お喋りしたけど、どうも上条さん、色恋沙汰には疎いみたい。う~ん、ここは積極的にアタックしないとダメかも。
その日はメールアドレスだけ交換して別れた。
自室に帰った私は、今日の反省をする。上条さんに好意を持ってる、って事が全く伝わらなかったような……「ていうか、あれだけアタックして気付かないなんて、もはやギャグじゃないの!?」誰もいない所に一人突っ込みを入れる。うん、むなしい。初春でさえも、上条さんの鈍感さには呆れてたみたいだったし。絶対に意識させてやるんだから!私は決意を固めて上条さんにメールを打って、その日は眠りについた。
―――――数日後、上条の高校―――――
「あの女の子、また来てるにゃ~」「クソォ、何でや!何でカミやんばっかり!?」ファミレスでの一件以来、放課後になると佐天は高校まで迎えに来るようになっていた。「女の子の出迎えなんて、遂に上条さんにも春がブヘッ!?」言い終わるまえにバカ二人に殴られる。何すんだ!?「ほんっと、罪な男やなぁカミやんは」「何が『遂に』だにゃ~」意味が分からん……「あっ、上条さ~ん」校舎を出た辺りで俺たちに気付き、ブンブンと手を振る佐天。中学生にしては中々発育の良い体をしているが、元気一杯に手を振ってるその姿は、やはりまだ子供っぽいと言わざるを得ない。健康的に揺れてる綺麗な黒髪がとても可愛らしい。「今日も一緒に帰りましょう!」「佐天ちゃん、気をつけた方がいいぜよ。こいつさっきいやらしい目で見てたにゃ~」「あ~、こりゃ襲われるかもしれへんな~」こいつらなんてこと言いやがる!?恨みを込めて睨みつけるが、二人ともどこ吹く風でピューピュー口笛を吹いている。
「大丈夫です!上条さんはそんな事しませんから!……それに、私上条さんなら……ゴニョゴニョ」ふふん、聞いたかバカ二人。伊達に毎晩メールしてる訳じゃないぜ。最後の方は上手く聞き取れ無かったけど。「カミやんの裏切り者ー!!」「デルタフォースは今日をもって解散だにゃー!!」捨て台詞を残して走り去っていく二人。おお、凄いスピードだ。「じゃ、じゃあ帰りましょうか」「あ、ああ」何やら赤くなった佐天が俺の手を握ってくる。余り恥ずかしそうにしないでくれ……こっちまで恥ずかしくなって来るじゃないか。
「あの」二人、着かず離れずの距離を保って並んで帰っていると、佐天が話しかけてきた。「今週の土曜日って、暇ですか?」確か土曜日は、居候も小萌先生の所に遊びに行くと言っていたし、暇な筈だ。「あぁ、暇だけど、どうした?」そう答えると、佐天はやたっ、と言って、細長い二枚の紙を取り出した。「えっとですね、商店街の福引きで映画のペアチケットが当たったんですけど、一緒に行きません?」「別に構わないけど、俺なんかとより、友達と行ったほうが楽しいんじゃないか?」思った事を素直に伝える。あれ?なんか空気がおかしくなったような……隣を見ると、佐天が信じられ無いものを見るような目付きで俺を見ていた。なんでだ?「あなたと!二人で!行きたいんです!」「そ、そうなのか?」勢いに押されるような感じで承諾する。「まったく」プンプンという音が良く似合いそうな顔をする佐天。「ま、まあ上条さん的にも可愛い女の子と二人でお出かけなんて嬉しい事ですはい」「ま、またそういうことを……」ありゃ、今度はうつ向いて黙りこんでしまった。うーん、今時の女の子はよくわからん。
「まったく、上条さんは」約束ですよ!と言い、チケットを渡して別れ、自室に戻った私はベッドの上でクッションを抱え、座り込んでいた。「まさか、女の子皆に可愛い可愛い言ってるんじゃないよね?」……そうだったら、嫌だな。そのままの姿勢でゴロン、と寝転がる。それにしても、これだけ思わせ振りな態度をとっても全然女の子として見てもらえないなんて。友達と行けば、とかさ。(私に興味がない、って事なのかなぁ……)う……ヤバイ、涙が出そうになってきた。えーい、と頭をブンブン振る。こんなの私らしくないよね!ポジティブにいかなきゃ!土曜日まで、あと少し。精一杯お洒落して、(その日、好きだってこと伝えよう!)私は密かにそう決心した。
「うーん」教室の片隅で、一枚の紙を眺めている上条。その視線の先にあるのは、昨日佐天に貰った映画のチケットだ。別にそのチケットに何かあると言う訳ではない。思い出しているのはそれを渡された時のやり取りである。「俺と行きたい……って、まさかなぁ」中学生という事もあり、佐天を恋愛対象として見れないでいた上条だが、それでも彼女は女の子である。そういった事案に疎い上条も、薄々は佐天の行動に、少なからず友情以上の『何か』が含まれているのではないか?と、感じ始めていた。まだ確信は持ち得てはいないのだが。
と、突然目の前にあった紙が引ったくられる。「何見てるんだにゃ~、カミやん」その先にいたのは土御門。土御門は、引ったくったそれを数秒眺める。そして、あの子も大胆だにゃ~、とか何とか言いながら、ニヤニヤし始めた。「これ、佐天ちゃんに貰ったんじゃないかにゃ?」「な、何で分かったんだ!?」「カミやん、この映画の大まかな内容、知らないのかにゃ~?」
有名な映画なので、テレビで予告が流れていたのを見た事がある。確か、不良に絡まれた女の子とそれを助けた男の子の恋愛映画、だった筈だ。「それと何の関係があるんだ?」土御門は心底呆れた顔で上条の顔を見つめる。「カミやん、それ本気で言ってるのか?」「?」何も分からないという顔で首をかしげる上条。そして、これは佐天ちゃんも苦労するにゃ~、と、首を振りながら呟く土御門。
「まぁこれ以上言うのは野暮ってもんだが……」「腹はくくっといた方がいいかもだぜい?とだけ言っておこうかにゃ~」「??」更に訳がわからなくなってしまった。土御門は続ける。「ま、そんときはこいつを使うといいにゃ~」そう言って土御門が取り出したのは、遊園地のペアチケットだった。「舞夏でも誘って行くつもりだったけど、カミやんにやるぜい。俺からのお祝いだにゃ~」結局何も分からず仕舞いだったが、何故か遊園地のチケットを貰ったので、一応礼は言っておいた。が、土御門は、「お礼はカミやんが全部分かった時に聞こうかにゃ~。自分に素直ににゃ~」と言って、手を振りながら帰って行った。(本当に何だったんだ?)上条がそれを理解するのは、もう少し先の話だ。
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