上条当麻は不幸な人間である。 夏休み一週間であるその日も上条当麻は不幸であった。 七月十二日 朝、さぁて今日は休日だしゆっくり寝るぞー、と二度寝しようとした矢先に童貞を捨てるために不良ぶっている隣人土御門元春にゲーセン行くにゃー、と叩き起こされ、財布を落とし、クラスメイトで学級委員の変態青髪ピアス(もちろん本名ではない)と合流し、携帯を無くし、ファミレスでは上条の料理だけ忘れ去られ、あげくのはてにはビリビリ中学生に追いかけ回される。 普通の人間の一年分くらいの不幸を一日で消化した上条は、しかし、今からさらなる不幸が待ち受けていることを知らない。
そして、これから起こる出来事が、上条当麻という人間の人生を大きく変えることになる、なんてことも当然知っているはずがなかった。 しかし、それは突然訪れる。 七月十二日 上条当麻の日常は、 あまりに呆気なく、燃え落ちた。 あるいは、燃え上がった。 ―――『幻想殺し』と『炎髪灼眼』が交差するとき物語は始まる。
突然、世界が変化した。学園都市第七学区の裏通りを歩いていた上条当麻は、 しかし、特に驚きはしなかった。上条(またなんかの実験か……? 不幸だぁ。) そう、ここは学園都市。そして上条は不幸な人間である。変な大学かどこかの実験や事件に巻き込まれることは日常茶飯事であった。 しかし、だんだん様子がおかしいことに、上条は気付いていく。 なにも、気配がなかった。それどころか、周りを見渡してみると、側にいる何人かの不良が動くのをやめていた。 そう、まるで時間が止まったかのように。上条(おいおいどうなってんだ、これは。なにかの能力か?……いや時間を止めるなんて能力聞いたことないしこれは超能力者レベルじゃ……) 突然、思考が停止した。いや、させられた。上条は目の前いる「もの」を見つめていた。
そこにいたのは、奇妙な、学園都市にすらないような不可解なものであった。 一つは、マヨネーズのマスコットキャラそっくりな、しかし、上条の二倍はあるような三頭身の人形。 もうひとつは、滑らかで乾いた質感を持つ金髪をした、美女。いや、美女の人形、だった。 は、と思わず上条は口に出した。怪物たちは、上条にはまだ気づいていなかった。上条は頭が麻痺したようになりながらも、逃げないと、とだけ思った。 しかし、上条は見てしまった。 怪物達が口をぱっくり開けたとたん、 周りにいた不良達が猛烈な勢いで燃え上がるのを。
燃え上がった人々は、すぐに元に戻っていった。そう、服も焦げず肌も爛れずに。 しかし、もとに戻った人々は、先程までとは全く違っていた。そう、見た目ではない根本的ななにかが。 上条はそのさまを放心して見ているしかなかった。 そんな彼の姿を、怪物たちがようやく気づいた。キューピーもどき「なんだぁ、こいつ」金髪人形「さぁ……、貴方御"徒"では……ないわよね」キュピも「フレイムヘイズ? でもないね」金髪人形「"トーチ"ですらない……? なにかしら、これ? ……まぁ飛びきり変わった人間かしら? ご主人様が興味を示されるかもね」キュピも「やったあ、お手柄だぁ」 キューピーちゃんが上条へと走り寄ってきた。 上条は路地裏の喧嘩ならかなりなれている自信がある。しかし、二メートルオーバーのキューピーちゃんに襲われるなんて経験はなかった。 上条は立ち尽くしていた。キューピーちゃんは上条のはらを、土管ほどもある腕で掴む。キュピも「いただきまーーーーす」
そして――――
上条は突然地面に叩きつけられた。 なにがあったんだ、とふとみると、自分を掴んでる巨腕が肘からすっぱり断ち切られていた。キュピも「ごっ、がァァァァアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」片腕を失ったキューピーちゃんは、叫び、よろめいた。斬られた断面から、薄白い火花がパチパチ散っていた。 上条を掴んでいた巨腕が、同じく薄白い火花となって散った。 上条は、光が薄れた後に、見た。 灼熱を思い出すような、赤く、赤く、どこまでも赤い長い髪を。 マントのような、黒寂したコートを。 少女、のようだった。しかし少女の、コートの袖先からのぞく指は、大きな刀を握っていた。
少女「どう、アラストール?」 突然、少女が言った。??「"徒"ではない。いづれも、ただの"燐子"だ」 と、姿の見えない誰かが答えた。キュピも「よぉぉくも僕の腕をぉぉぉ!!」 腕を斬られたキューピーちゃんが、少女へと襲いかかる。しかし、次の瞬間、 少女は神速とも呼べる速度で、キューピーちゃんの膝元に踏み込み、彼(?)の足を叩ききった。キュピも「え、え、炎髪と灼眼……!!」 足を斬られ、倒れたキューピーちゃんは、自分の相手を見て、恐怖とともに呟いた。 少女はそれを気にもせずキューピーちゃんの頭部を無造作に両断した。
人形が弾け飛び、その余韻が消えるまで数秒。少女はようやく上条を見た。 少女は、中学生にも満たないような、背丈と顔立ちだった。しかし、その赤い瞳と髪は、あまりにも強烈だった。上条「……あー、その、助かった。ありがとう」 上条はなんとか声を絞り出した。しかし、少女は上条を無視して言った。少女「アラストール、コレ、なに?」??「ふむ、どうやら、"徒"でも、"燐子"でもないな。フレイムヘイズでもないようだが……、なぜ封絶内で動いている……?」少女「アラストールでもわからないのね……。っ!?」 突然、いなくなっていた金髪人形が上条へと砲弾のように飛んできた。上条「なっ!?」 上条は、とっさに『右腕』を振りかざした。上条の右腕に、金髪人形が触れる。 次の瞬間、 金髪人形は 一瞬にして弾けとんだ。少女「……!?」 少女が驚いたような顔をした。金髪人形が弾けとんだあとから、小さな人形が飛び出した。人形「ちいっ!」 飛び出した人形が炎髪の少女と対峙する。
少女「『これ』、がなにかは知らないけど、ご主人様に持っていこうとでもしたわけ? なんだかよくわからないけど、自滅なんていい気味じゃない」人形「この、討滅の道具め……!! 私のご主人様が、黙ってはいないわよ……」少女「そうね、すぐに断末魔の叫びをあげることになるわ。残念ながらおまえは聞けないけどね」 そういって、少女は人形に斬りかかった。しかし、??「後ろだ!」 少女の後ろで爆発が起こった。少女は、一瞬そちらを見た。人形はその隙に消えていった。
少女「ちっ、逃げられたようね。まぁいいわ、あの"燐子"の言い方からすると、案外大きいのが後ろにいるかもね」??「久々に"王"を討滅できるやもしれぬ」少女「うん」上条「……」 少女と謎の声が話しているなか、完全に取り残された上条は、一言呟いた。上条「不幸だ……」
―――少女「で、あんたはなんなの? なんで封絶で動いてるわけ?」 再び動き出した世界で、少女が上条に話しかけた。壊れたものは、少女がすぐに直していた。 いつの間にか、少女の瞳と髪は艶のある黒色になっていた。 少女の問いに、しかし上条にはなにがなんだか全くわからない。上条「いや、俺としてはこの状況のすべてが意味不明でして、てか、これ撮影かなんかでせうか?」 上条が逆に質問で返すと、少女は少しむすっとした表情を浮かべ、少女「すべて現実よ。というより、なにも知らないの? この世の本当のことを?」上条「?」
??「話が進まん。教えてやれ。この世の本当のことを」少女「はぁ、しょうがないわね――――」
―――上条「……嘘だろ?」 少女に『この世の本当のこと』を聞いた上条は、それ以外の言葉が出なかった。 しかし、同時にすこし納得もしていた。そうでなければ、さっきまでの現象を説明出来ないからだ。少女「すべて真実よ」 少女は、言った。この世界では、いまこの時にも、トーチとして、この世界から忘れられていく人々がいると。上条「ふざけんなよっ!? なんだよそれは、そんなのが許されるはず……」少女「でも、それがこの世界の普通なのよ。おまえが知らなかっただけでね。さぁこっちの説明はしたわ。次はおまえよ」上条「……あぁ」 上条は苛立ちを覚えながらも、自分のことを説明する。 彼の右腕には幻想殺しと呼ばれる力が備わっていること。 それは、異能の力ならば、超能力だろうが神様の奇跡だろうが打ち消すと言うことを。
少女「アラストール?」 少女が呼び掛ける。少女がかけているペンダントから聞こえてくるのは、少女の契約者(?)アラストールであると上条は教えてもらった。アラストール「……初めて聞く。紅世の力ではないな……」少女「……そう」 話ながら歩いているうちに、上条の学生寮の前にたどり着いた。上条「あ、俺んちここなんだけど……」 少女はなにか考え込んでいるのか、上条の声になにも反応しなかった。上条「待てって、オイっ」 上条は、少女を引き留めるべく少女の肩を掴んだ。 右腕で。 次の瞬間、少女の着ていたコートが消えた。 コートの下は、何故か下着だった。
少女「っ!?」 少女は一瞬にして上条から離れると、コートがすぐに現れた。上条「いや、あのですね、これは上条さんも悪いとは思いますけど、てかなんでコートの下が下着!?」 少女は顔を真っ赤に染め、刀を振りかぶる。アラス「峰だぞ」 少女のペンダントから、男の声が聞こえると同時に上条の頭に衝撃が走った。上条「不……幸……だ……」
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