《第三次世界大戦》終結――――――キィィィィ……ン寒いロシアとは一転し、暖かく綺麗な夜景が映えた『学園都市』の上空を飛行する一機の小型旅客機。機内の窓際では一人の少女がその風景を見下ろしていた……。「……………」少女の格好は全身真っ白に僅かな模様が入ったタイツのようなスーツ……。何と言うか奇抜で、それこそアニメにでも出てきそうな戦闘服……そんな印象だった。「久々の学園都市かぁ………夜だってのに相変わらず眩しいわね」
下の景色にそう呟く少女の名は『番外個体《ミサカワースト》』……。『妹達(シスターズ)』第三次製造計画(サードシーズン)で作られた御坂美琴のクローンである。「もうすぐ、か……」窓淵で頬杖をつくその容姿は、御坂美琴(オリジナル)よりも随分と大人びていた……。「…………」ロシアから出発し、大した時間も掛からず目に映った故郷の光景に……番外個体はどこか感慨深い表情を作る。??「―――気分はどうだ?」ふと横から声を掛けられ、振り向いてみると……そこには白衣を着た中年の男性が立っていた。……風貌から察するに、どうやら科学者のようだ。
「んー……悪くないかな」適当にそう返し、再び窓から外を見つめる。科学者の男は素っ気無い彼女の態度を気に止める事なく、また話し掛けてきた。科学者「あと五分ほどで着陸だ。その時はさすがにベルトを装着しておいた方が良いぞ?」番外個体「ハァ……あれ窮屈だからイヤなのよねー…」科学者「なら着陸時の『G』に逆らわず宙を舞うか?」フフッ番外個体「……わーったわよ。っていうかさ、『超音速旅客機』ってもっと『G』がキツイんじゃなかったっけ?」科学者「この旅客機はその一歩先へ進んだ……言わば『最先端』だ。どうだ? 快適だろう? 普通なら飛行中に立つことなど 不可能に近いからな」番外個体「ふーん……だからこんな“小っちゃい”んだ…」科学者「まぁな、……だがいずれは『大型』として一般的に運用される日も近いだろう。さすがに離着陸時に発生する『G』の 看破とまではいかないがな……。それにまだコイツは『試験機(テストマシン)』のようなものだ。実用化は当分先 になるかもしれんな」番外個体「はぁ? そんなのにミサカを乗せたワケ? 墜落でもしたらどう落とし前つけてくれんのよ?」ジロッただでさえキツイ目つきを更に鋭くさせる。
その視線に一瞬身を竦めた科学者の男は、少しだけ小さい声になる。科学者「……俺は別に『アッチ』の方でも構わなかったんだが……お前はそれでも良かったのか?」番外個体「はっ、イヤに決まってんでしょ! あんなのもう二度とゴメンだわ!」科学者「やれやれ、わがままな………調整ミスったかな……」ハァ番外個体「ああ? 何か言った?」ギロリ科学者「いや、何も……それよりその目で睨むのはやめてくれないか? ……正直かなり怖いんだが」番外個体「あんだけマイナスの感情が流れてくりゃこんな目つきにだってなるっつーの……だいたいそれ、自分で生んだ子供を 批判してるのと変わんないし」科学者「……まぁ色々と不満はあるだろうが、もう少しで第二十三学区内に入る。とりあえず着陸までは我慢してくれ」番外個体「ふん……」プイ興味なさそうに頬杖をつくが、他に会話をする相手がいないせいか……互いの口数は減らなかった。しばらく続いた会話の後、科学者の男は番外個体にこう警告する。
科学者「念のためにもう一度言っておくが、次はないぞ? お前が作られた本当の『目的』を忘れるな。お前だってタダな訳じゃない が、“代わり”はいくらでも用意できるんだからな? 再度のチャンスがこうして与えられたことだけでも寛大だと思え」番外個体「またそれ?……何度も何度もしつけーっての。いい加減ウンザリなんだけど?」科学者「ふっ、そうか。まぁいいが……あまり『ハメ』を外しすぎるなよ?」番外個体「…………分かってるわよ」科学者「さて、じゃあ俺もそろそろ着陸に備えるとするか」スタスタ番外個体「…………」意味有り気な笑みを零してその場から去っていく科学者の背中を、番外個体は目を更にキツくして睨んでやった。「……チッ」忘れている訳がない……自分には妹達の『負の感情』が全てこもっていると言っても過言ではないからだ。「一方通行(アクセラレータ)………」
しかし―――「………………」―――ジッと見つめるのは自身の左手。 彼女の脳裏に甦る“あの時”の記憶……。「………………」
己のリスクを、利害一致のために曝してまで。彼らしくない方法を選んでまで………。「だから……何なんだよ」そう……だがあれは所詮一時的な共闘だ。交渉によって利害が一致したから仕方なく手を組んだようなものだ。終わった後はまた『敵同士』に戻る……。これが当たり前……。「……………」なのに、何故か左手の感触は消えない……。彼の手の感触が、あの時に彼の手から伝わってきた『強い意志』が……今もまだハッキリこの手に残っている。「…………どうするかなんて、決まってんじゃん。今さら後になんて…」………引ける筈もない。
少女は今、何を思う?あの時、彼は言った……。『学園都市に吠え面をかかせてやる』と……。『そのために協力しろ』と……。よりによっていつ背中を刺されても不思議ではない相手に、彼はその背中を預けたのだ。
「そうよ、ミサカに変更のオーダーはインプットされていない。……今度こそ―――」「―――第一位を……一方通行を、殺す」グッ調整も終え、憎しみ(負の感情)も再び組み上げた。身体の調整も終わった今、自分の仕事をする以外の道など彼女には用意されていない。それ以外の『存在理由』が彼女には無いと言ってもいい。どの道自分がやらなければ、また別の個体が作られて彼の元へと派遣されていくだけだ………。番外個体は左手が覚えている感触を拭い去るかのように拳を握った。「………そんなことになるくらいなら……」いっそのこと……自分が終わらせてやる。自分がこの手で終わりにさせてやる…ッ! と、番外個体はギプスのとれた右腕にも力を入れて気を引き締めた―――。―――その時だった。ドォォォン!!!
「ッッ!!?」グラッ突然の砲撃音と共に激しく揺れる機内。番外個体は急に訪れた衝撃のあまり、身体がシートからずり落ちかけた。「―――な、何!? 何なの!?」あまりにも唐突すぎる展開に思考が追いつかない。咄嗟に移動しようと立ち上がるが、ひどい揺れに襲われて通路の床に身体が吸い込まれる形となった。(ッ!……何が、どうなってんのよ……? まさか……マジで墜落!? ウソでしょ!?)立ち上がるのはもはや不可能だった。なおもグラグラと激しく揺れ続ける機内で、番外個体はそのまま通路を這いずって移動する。
「―――!?」横の窓から一瞬見えた小型の戦闘機……。おそらくアレがこの旅客機に向けて砲撃したのだろう。翼の方で被弾した機体が、下を向くのが分かった。もはや安全な着陸ルートは絶たれたと言えるだろう……。彼女にとってこの後の展開を予測するのは容易かった。が、「ッ……!!」グラリ激しい揺れの中での移動は決して容易くはない。それでも何とか体を床につける形で番外個体は機体前方部を目指す。「ハァ……ハァ……!」ズリ…ズリ…途中、何度も傾く機体に身体が翻弄され、思いきり壁に叩きつけられながらも何とか必死の思いで緊急避難用ハッチへと辿り着いた。「ハァ……ッ!!」ビリビリッそのまま全力で電撃を放ち、ハッチをブチ破る……。態々ニ億Vの電流をぶつけるまでもないのだが、非常事態に面倒な加減ができるような人間は少ないだろう。空いたハッチから下を見るが、やはり機体は地面へと急下降しているようだ……。
「パ、パラシュート……!」何故このような事態が起きたのかは理解できないが、このままでは旅客機と共にお陀仏だ。一緒に乗っていた科学者やパイロットなどは見当たらないが、気にするほどの間柄でもなければ余裕もない。いずれにせよ、ここに居ればあと数分であの世行きが確約されている以上ぐずぐずしてはいられなかった。「クソッ! パラシュートは一体何処にあんのよ!? こんなことなら聞いとくんだった………ッ」焦りを露呈しながら避難用具を目で探すが……明かりも切れた上に設置場所も分からないのでは探すだけ時間の無駄だった。おまけにまともな探索ができる状態でもない。大地震が続いている中で物を探すようなものだ。「あぁーもうっ!! 何が『最先端』よ馬鹿!! ホント使えねえっ……!!」分かりやすい場所に置いとけよ……と愚痴りながら壁に背中をつけて座り込む。が、そうしていても仕方がないので、とりあえず四つん這いでハッチまで近づき、もう一度下を眺めてみた。もの凄い速度で見える景色が変わっていく……。だが、確実に地面が近づいているのが分かる。のんびりしている暇はなさそうだ……。「……………」街中では無いのがせめてもの救いか……。旅客機はすでに第二十三学区へ突入していたようだ。
「チィッ……」(仕方ない……ッ!)舌打ちをして覚悟を決める。避難用具がない以上、自力で脱出するしかない。「…………」まだ地面との距離は百メートル以上ある……。もっと、もっと地面に近づかなければ……。(まだ……まだよ……………)振動する空間の中、神経を集中させ、冷静にタイミングを見極める番外固体。早ければ転落死、遅ければ旅客機と仲良く爆死……。生憎どっちも願い下げだ。(駄目、まだ遠い………もっと…………もう少し……)同じ地面(草の生えた平地)が延々と続く……。地面との距離は、もうあと僅かのところにまで迫っている。
「―――!!」そして、ついに………その時が来た。「…………今だ―――ッッッ!!!」―――バッ……!!旅客機が地面に墜落する直前、番外個体は勢いよく――――ハッチから飛び降りた。「!!!!!」体じゅうから夥しい程の電流を纏いながら、少女の肢体が地面へと落下していく。「――――ッッッ!!!!」バチバチッ今宵、学園都市に……こうして一人の少女が舞い降りた。放電によって生まれた輝きのせいか、その姿は遠くから見たらまるで精霊または天使のようにも見える……。終戦の直後に動き出したこの小さな物語は、今ここから始まろうとしていた。小型旅客機が地面と接触した事によって生じた激しい爆発音と共に―――。
――とあるシティホテルの一室広いリビングルームは明るい照明が点いてはいるが……そこには今、誰もいない。代わりに浴室から鳴り響くシャワーの音……。広めの浴室にすっかり元気を取り戻した太陽のような幼い少女と白髪細身の少年がいた。「とりゃーっ! ってぇ、ミサカはミサカは勢いよくダーイブ!」ピョンバシャーン! と湯船に少女の身体が吸い込まれた。いや、少女が淵を超えてそのまま湯船に飛び込んだのだ。「おォ!? ッ……こ、このクソガキィ!! 何しやがンだァ!?」すぐ近くで頭を洗っていた少年は、当然それによって生じた水しぶきをモロに浴びる結果となる。防御のため、咄嗟に閉じた目を再び開いて鋭くさせた彼は、波のおさまらない湯船へ向かって怒鳴りかけた。この少年こそ学園都市の頂点に立つ“最強”の超能力者、一方通行《アクセラレータ》だ。打ち止め「あ~、極楽どすなぁ~♪ ってミサカはミサカはちょうどいい湯加減に感嘆してみたりぃ…」ポカポカ一方通行「極楽じゃねェよ! 飛び込みはすンなって前も言ったよなァ? 忘れたとかほざきやがったらそのまま 沈めンぞコラ?」
最強のガンをくれても打ち止めは臆すどころか笑顔のままだった……。打ち止め「またまたぁ、照れちゃって~」一方通行「……急に何を意味分かンねェ事言い出すンだァこのガキは?」打ち止め「え? だってアナタはまたミサカのために命を張ってくれたんだよね? ってミサカはミサカはニヤニヤ しながら蒸し返してみたり」一方通行「……………」打ち止め「そんな素直じゃないけどミサカが好きで好きで仕方ないアナタと久しぶりに一緒のオフロに入れるのが 嬉しくて……ついハシャイじゃった♪ ってミサカはミサカは言い訳してみたり///」ペロッ最終信号、または打ち止めと書いて《ラストオーダー》と呼ばれる少女は照れ笑いを浮かべ、舌まで出して可愛く誤魔化そうとしたが……一方通行は青筋に不敵な笑みを混ぜた表情を作った。一方通行「……あっそォ、ンなら俺がハシャイだって何の不思議もねェワケだよなァ」打ち止め「!?」反撃の顔面シャワーが打ち止めを襲ったのはその直後だった。
~~~~~時は一時間ほど前に遡る。一方通行「…………」カツ カツ カツ打ち止め「~~~♪」テク テク テク日はすっかり落ち、辺りは暗く、街灯の光だけが二人を映していた。一方通行は杖をついて先をさっさと歩き、打ち止めは彼の服の裾を掴んで楽しそうについて来ている。一方通行「…………」打ち止め「ねぇねぇ、何さっきからダンマリ決め込んじゃってるの? ってミサカはミサカは尋ねてみる」一方通行「……なァ、ひとつ訊いてイイか?」打ち止め「なになに~? ってミサカはミサカは何を訊かれるのかワクワクしてみたり」一方通行「オマエさァ……」打ち止め「うんうん?」一方通行「いったい何処まで俺について来るつもりなンだよ?」
打ち止め「」一方通行「? ……オイ、何フリーズしてンだ?」打ち止め「はっ!? 予想外のスルーパスに一瞬思考が止まってしまった…ってミサカはミサカは不覚を負ってみたり」一方通行「予想外でも何でもねェっつの……。ガキはもォ家に帰る時間だろォが」打ち止め「んーとね……」モジモジ一方通行「?」打ち止め「今日は……アナタのおウチにお泊まりしたいな。ってミサカはミサカは頬を赤らめながらも希望してみるんだけど…」一方通行「却下」打ち止め「ガーン! ……な、なんでーっ!? ってミサカはミサカは即答で拒否られたことに憤慨してみるーっ!」一方通行「うるせェ、却下っつったら却下だ。オラ、黄泉川ン家まで送ってやっからさっさと歩け」打ち止め「冷たい! 冷たい冷たい冷たいぃぃ!! ってミサカはミサカは駄々こねてm」一方通行「ダメだっつってンのが分かンねェのかァ!?」打ち止め「わかんないっ! ってミサカはミサカは聞く耳持たず!」一方通行「…………」
打ち止め「ミサカはミサカは帰らないっ! っていう固い意志を見せてみたり!」一方通行「…………オマエなァ」打ち止め「帰りたくないの! 今日はアナタと一緒のいたいのーっ! ってミサカはミサカは一歩も退かない姿勢で訴えてみる」一方通行「ガキが定番の誘い文句をクチにしてンじゃねェ! あンまワガママ言ってっと送ってやンねェぞ?」打ち止め「いいもん! アナタに勝手について行くから!」一方通行「はァ? オイふざけンなよ?」打ち止め「いいじゃん! 何? ミサカを部屋に入れたくない理由でもあるの!? ってミサカはミサカはイヤな予感を瞬時に 感じとってみたり…」一方通行「何を予感してンだァ? 少なくともオマエが考えてるよォな事はなンもねェよこのマセガキ!」しばらく平行線を辿ったこの口論の果て……打ち止め「むぅぅ……どーしても連れてってくれないんなら、ミサカにも考えがあるんだからね!」一方通行「あァ?……ンだそりゃあ?」(まさかこのガキ、演算補助切る気じゃねェだろォなァ……)打ち止め「ミサカはここからテコでも動かないっ! ってミサカはミサカは……えーっと……ストライキに突入してみる!」ズン一方通行「…………」
一方通行(あァ……頭痛てェ…)鼻息を荒くしてその場に座り込んでしまった打ち止めに、一方通行は本気で頭を抱えた。一方通行「……立て」打ち止め「やだ!」一方通行「みっともねェ真似してねェで立てっつってンだよォ!」打ち止め「い・や!! 今日は絶対アナタのおウチで過ごすってミサカはミサカはすでに決心してるの!!」一方通行「だから勝手に決心してンじゃねェェ!!」打ち止め「アナタのおウチに行くぅ!! 行くったら行くーーーーっっ!!!」バタバタ一方通行「…………」ついには駄々っ子のように(子供だが…)手足をバタつかせる打ち止めに一方通行は……一方通行「はァー…もォ勝手にしろ」………折れた。
打ち止め「!! うわーいっ♪ ってミサカはミサカは飛び跳ねて喜びを表現してみたりーっ♪」一方通行「……はァ…」力ずくで帰そうとも思ったが、誘拐と間違われて通報されるのがオチだ。ピョンピョン跳ね回る打ち止めの横にいる最強の背中は、普段よりも三割増しの哀愁が漂っていた……。~~~~~
んで、現在に至る…打ち止め「もーう、顔謝はやめてって言ってるのにぃ…ってミサカはミサカはブーたれてみる」一方通行「その言い回しはヒデェ勘違いが生まれそォだからやめろ」やがて風呂から上がった二人はリビング(ベッド付)で寛ぐ。※打ち止めの現保護者である黄泉川にはこの時連絡済。一方通行(クソ、あの緑ジャージが……何が『ヨロシク頼むじゃん』だっつーの……人の気も知らねェで…)イライラ
打ち止め「ねぇねぇ、アナタって家出てから学生寮に住んでたんじゃないの? ってミサカはミサカは訊いてみる」一方通行「……まァな。今改装工事してンだ」 (チッ、明日からまた別ンとこ探しか……面倒臭ェ)打ち止め「そうなんだ…それならウチに帰って来ればいいのに……ってミサカはミサカは寂しげな顔で呟いてみたり…」一方通行「ひとりの方が気楽なンだよ。言っとくが、外泊許可すンのは今日だけだかンなァ?」打ち止め「えぇー………」ムスー一方通行「……ホラ、いつまでもむくれてねェでオマエもとっとと寝ろ」そう言いながらソファーにゴロンと横になった。打ち止め「……そんなトコじゃ風邪引くよ。ベッドで一緒に寝よ?」一方通行「ンなの気にしてンじゃねェよ」打ち止め「どうしてアナタはいつも素直じゃないのかなぁ。ってミサカはミサカは溜息交じりに嘆いてみる」ハァ一方通行「………Zzz」
打ち止め「そして相変わらず寝るの早いし!………おやすみ…」パサッつまらなそうな顔でベッドに潜った打ち止め。一方通行はもちろんウソ寝だが…。「……………」ロシアからコッチ(学園都市)へ戻って何日か過ぎ、打ち止めもすっかり元気を取り戻していた。ここからまた、いつもの『日常』へと戻る。………のだが、(……アイツは、今どォしてる……元気でやってンのか…?)寝る前に必ずこう考えるようになってしまった。アイツとは……そう、番外個体のことだ。ロシアで初めてその姿を見た直後、身体に戦慄が走ったのを今も忘れていない。自分の精神を壊すにはこの上ないほどに残忍な策で来た学園都市……。自分を殺すために来たと言う少女……。恐怖のあまり、思わずその場から逃げ出したほどだ。しかし、どういう訳か……その後少女と自分は同盟のようなものを結んだ。結束なんて言葉が、最も不相応な筈の相手と。互いの目的のために。そして、全てが終わった後……少女は自分の前から姿を消した。何の言葉もないまま……黙っていなくなっていた。「…………」学園都市に戻るか、残って番外個体を探すか……本当は少し迷った。研究者たちに引き取られたのなら場所が割れなくもないが、会ったところでどうする?
「一緒に学園都市へ帰ろう」とでも言えと?番外個体の生産事情を知っている彼の口からそんなことが言えるのか……?「やっぱ……ソイツは無理な話ってモンだろ…」できれば会いたくない存在だし、もう互いが手を結ぶ理由はどこにもない。一方通行は、諦めた。別れの言葉もない内に、彼は学園都市へと帰ってきたのだ。その後に残ったのは……病室で確かに掴んだ『手の感触』だけだった。「…………」ジー自身の手を見つめる……。帰ってきてからというもの、ずっとこんな調子だ。感傷に浸るガラでないことは充分に自覚しているのだが、どうにもならなかった。打ち止め「Zzzzz」一方通行「………」フッ寝てしまった打ち止めを一瞬チラリと見て、自分もそろそろ意識を闇に落とそうかと思った時―――。ドォォォン…一方通行「あァン…?」
遠くで何かが爆発したかのような音が耳に入ってきた。一方通行(ンだァ……今のは? どっかで花火でもやってンのか?)一瞬、音のした方角に目を向けるが……一方通行「…………ま、別にどォでもイイか…」特に興味もなかったのでそのまま眠りについたのだが、この時彼はまだ知らなかった。先ほどまで思考を塞いでいた少女本人が、来日していたことを―――。―――
第二十三学区は空港設備が多いため、広い平地が延々と続いているような場所である。そのど真ん中に墜落した小型旅客機の成れの果て……。辺り一面に渦を巻いて燃えさかる炎……。そこから、二百メートルほど離れた平地。
「……………ぅ」フラフラと、おぼつかない足取りで歩く一人の少女……番外個体。「………ぁ……ぁ…」炎を背に歩く彼女の口から出る声は……か細く、今にも消え入りそうだった。「…………うぅぅぅ!」突然頭を両手で押さえ、うずくまる番外個体。出てくるのは苦しみに悶える呻き声。まるで何かを“思い出そう”としているかのような……。「!!!……ッッ…」痛みに耐える彼女の表情から、やがてフッ…と力が抜けた。その直後、番外個体は崩れるようにゆっくりとその場に倒れ伏し……完全に意識を失った―――。
―――翌朝…打ち止め「おっはよー! ってミサカはミサカは朝から元気にアナタへ向かってボディプレスしてみるっ♪」ピョン一方通行「―――ブゲェ!?」ズン潰れたカエルの声と同時に意識が覚醒する。一方通行「ゲホ…ッ…このォ…クソ……ゴホッ……ガキがァァあああ!!」カチッ打ち止め「わー! ってミサカはミサカは逃亡を計ってみたりー!」ドタドタ一方通行「待てやゴルァァああ!!」バタバタ今日も朝から賑やかな二人……。
一方通行「オマエにゃ関係ねェ」打ち止め「ふーん……それでミサカが納得すると?」一方通行「できなくてもしろ」打ち止め「うん♪ って、できるかーっ! ってミサカはミサカは乗りツッコミの要領でアナタに向かって突撃ー!」ピョン一方通行「………」ヒョイ打ち止め「うぅー! どうして避けるのー!?」一方通行「当たり前だろォ。……オラ、早く着替えて来いよ」打ち止め「ミサカとお出かけする気になったの!?」パァァ一方通行「送るから着替えろって意味だ。オマエは寝巻きのまンま外歩きてェのか?」打ち止め「やだやだー! まだ帰りたくないー! ってミサカはミサカは食い下がってみる!」一方通行「だァァ! 我が儘ばっか言ってンじゃねェよ!」打ち止め「予定って何なのー? ミサカより大事な用なの?」一方通行「アホか……だいたい昨日は遊園地からショッピングまで、オマエに散々付き合ったじゃねェか。これ以上俺に何を 望ンでンだよ?」打ち止め「場所とか時間とかの問題じゃないよー! ってミサカはミサカは憤慨してみる!」
一方通行「ハァ……そォかい」打ち止め「それで、今日はどこ行こっか? ってミサカはミサカは期待のまなざしでアナタを見つめてみたり」キラキラ一方通行「帰れ」打ち止め「ブーブー! ひーどーいー! ってミサカはミサカは頬を膨らませて猛抗議してみる!」プクー一方通行「俺は今日予定があンだよ」打ち止め「……何の予定?」
一方通行「……っつーか、もォ充分遊ンだだろォがよ。今日は我慢しろ」打ち止め「どうして!? アナタはミサカと一緒がイヤなの!? ミサカが嫌いになったの!?」一方通行「……そォじゃねェ」打ち止め「ミサカは、アナタと一緒にいたい……ずっと……」一方通行「…………あァ、知ってる」打ち止め「今のアナタの顔は、何か考え込んでる顔だよ? 何かあったの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり…」一方通行「………別に何もねェよ」打ち止め「ウソ!!」一方通行「ウソじゃねェ……」打ち止め「じゃあミサカの目を見てよ! ミサカの目を見て喋らなくなったの、自分で気づいてる!?」一方通行「…………」打ち止め「何を考えてるの……? ミサカには言えないこと? ってミサカはミサカは追求してみたり」一方通行「…………」打ち止め「ねぇ! 何とか言ってよ!! ってミサカはミサk」一方通行「イイからさっさと着替えて来いってンだよクソガキがァァ!!」カッ
打ち止め「!!」ビクッ一方通行「……ッ!」打ち止め「…………」ジワァ一方通行「………ァ」打ち止め「アクセラレータのばか!! もう知らないっ!!」タタタタ バタン目に涙を浮かべて出て行ってしまった打ち止め。はっと思った時にはもう遅かった……。(……やっちまった………クソッ!)すぐに追おうとするが打ち止めの足は意外と速く、一方通行が急いで部屋を出た時には……少女の姿はすでに何処にも見えなかった。「何やってンだよ俺はァ……ッ!」ガツガツと乱暴に杖をついて移動する一方通行。(ガキに当たっちまうなンてよォ……最悪だクソッたれ!)ロビーの受付に札束を投げてホテルから出たが、打ち止めはいない。(どこだァ……? あのガキどこに行きやがったァ!?)キョロキョロと周囲を見渡すが、見つからない……次第に苛々が積もってくる。捜し始めてから数分ほどでその苛立ちは爆発した。「クッソがァァああああ!!」ガンッ
「お!!? おォォォ………」ヒリヒリ思いきりドラム缶を蹴り飛ばし、自爆して足を摩りながらうずくまる第一位がそこにいた。―――
「…………」ポツーンホテルから少し離れた公園のベンチに一人座る打ち止め。その表情は暗い……。「アクセラレータのばか……」もう何回呟いたのか分からなかった。「…………」さすがに少し我が儘だったかな、と反省はしている。けど今戻るのも若干気まずい……。目が覚めてからの一方通行は優しかった。目は自分を見てくれてなかったが、自分の行きたい場所に連れて行ってくれたし、渋々ながらも珍しく部屋に招き入れてくれた。ホテルだったが……。いつの間にか「もっと」という気持ちが膨らんでしまうのも、無理のないことかもしれない。まだ『子供』なのだから……。「……でも、ミサカも……ばか…」決して一方通行を困らせたい訳ではないのだが、それでもやはり甘えたい……何というか、難しい年頃だ。??「―――あれ? もしかして打ち止めか……?」
打ち止め「?」声を掛けられて横を向くと、黒色にツンツン頭の少年がそこに立っていた。打ち止め「あ…!」学生服に気だるそうな物腰の少年の名は上条当麻。不幸体質で無能力者の高校生だが、右手にだけ“能力を無効化”させる『幻想殺し』が備わっている。上条「よう、しばらくぶりだなぁ。こんなトコにひとりで何やってんだ?」通学途中なのは見れば分かるが、予想外な人物の登場に打ち止めは一瞬気後れする。打ち止め「え……えーっと…」上条「? どうした?」打ち止め「…………」上条「一方通行と喧嘩でもしたのか?」 ※知ってる設定打ち止め「えっ!?」上条「……まさか、図星?」打ち止め「………」コクリ
上条「……あんま時間ねーけど、話くらいなら聞くぞ?」打ち止め「……ホント?…ってミサカはミサカは確認してみる…」上条「あぁ、遠慮すんなって」打ち止め「実はね――」―――
上条「――ふーん、なるほどなぁ……一方通行のヤツが…」打ち止め「……悪いのは我が儘言ったミサカだよ。ってミサカはミサカは非を認めるんだけど……」上条「戻りにくい、か…?」打ち止め「……」コクリ上条「そうか……」打ち止め「ミサカは…ミサカは……怖いよ」上条「あー……俺の予想だけどさ、一方通行は多分もう怒ってないと思うぞ」打ち止め「どうして…? ってミサカはミサカは訊いてみる」上条「だってよ、アイツ……お前のこと大好きだから、お前が戻れば“怒り”なんかより“安心”の方がデカイんじゃねえかな?」
打ち止め「ミサカが戻ればあの人は安心するの? ミサカを早く帰そうとしたのに? ってミサカはミサカは意味がよくわから ないんだけど……」上条「それはアイツが打ち止めを想うからこそ……なのかな。これについては俺もよく分かんねえけど、少なくとも一方通行はお前 を邪魔に思ったり嫌いになったりなんかしねえよ」打ち止め「ホ、ホント…?」パァァ上条「あぁ、そこは上条さんが保障する」打ち止め「アナタは…あの人のことが分かるんだね。ってミサカはミサカはちょっぴり羨ましかったり」上条「う~ん、何となく……」(ってか、ロシアで見てるしな……)打ち止め「……ミサカ、あの人の所へ戻る!」スクッ上条「はは、そっか……一方通行によろしくな」打ち止め「うんっ!」少女の顔に光が戻り、上条の表情も綻ぶ。打ち止め「じゃあ、ミサカは行くね! ありがとー! ってミサカはミサカは手を振りながらアナタにお別れするの!」上条「おーう、気をつけてなー!」ヒラヒラと手を振って打ち止めを見送った。……実に気分がいい。今日は何か良いことが起きそうだ! と上条が上を向いてベンチから立ち上がった瞬間…
キーン コーン カーン コーン♪現実を呼ぶ鐘の音が遠くから聞こえてきた。「あははっ、完全に遅刻………不幸だ」十秒前に抱いた希望はそこで完全に潰えた。―――
一方通行「…………」打ち止め「あのー……我が儘言ってゴメンなさいっ! ってミサカはミサカは……頭を…」一方通行「打ち止め」打ち止め「は、はいっ!?」一方通行「言っておくがよ、俺は別にオマエが邪魔だとか思ってる訳じゃねェンだぞ?」打ち止め「え…?」一方通行「俺だってオマエといて退屈とか思った事ァねェしな。ただよォ、何も今日一緒じゃなきゃいけねェって決まってる 訳でもねェだろ?」打ち止め「う…うん……」一方通行「また会おうと思えばいつでも会えンだ。それで良いじゃねェか」
打ち止め「ホントに……また会える?」一方通行「あァ、約束してやンよ。俺を誰だと思ってる? 約束も守れねェよォなクズにまで成り下がった覚えはねェぞ」その言葉で打ち止めの表情が一層明るくなる。一方通行「だから、また今度な」打ち止め「うん! 今度は動物園行こうね! ってミサカはミサカは今から楽しみだったり!」一方通行「そォかい、ならその楽しみをとっとけ。そン時まで笑ってろ」打ち止め「わかった!」一方通行「それとよォ……」打ち止め「ん、何?」一方通行「さっきは……ちっとキツく言った。悪かったなァ…」ポリポリ打ち止め「…ううん、もういいの。ってミサカはミサカは笑って許してあげる」一方通行「……オマエ、何かあったのか?」打ち止め「ううんっ、なーんにもっ♪ ってミサカはミサカは駆け出してみるー!」一方通行「オイ、あンま走ってコケても知らねェぞ?」
打ち止め「そしたらまた絆創膏よろしくね!」一方通行「あァ!? 調子に乗ってンじゃねェよ!」ズビシイターイ! ナニスルンダヨー! ッテミサカハミサカハボウリョクハンタイヲウッタエテミタリーウルセェ! オレハオマエノホイクシジャネェンダゾォ!こうして二人は、並んで歩き出した。その姿は端から見たらまるで実に仲が良い『兄妹』のようである。―――
一方、ここはとある病院の一室……。「――ッ!」ベッドで眠っていた少女の目がパチリと開いた。ゆっくりと起き上がろうとするが、身体にミシミシと痛みを感じて苦悶の表情を浮かべる。「うっ!…ん………ここ…どこ?」ムクリそれでも何とか体を起こし、周りを見ながら呟く。病室なのはすぐに理解できた……。
「ミサカは……生きてるの…?」誰に対してでもなく、自分に問いかけるかのように声を漏らした。腕には点滴の針が刺してあり、着せられた患者衣の隙間から見える痛々しい包帯……。手足や頭に巻かれた無数の包帯が、重傷さを物語っている。「あれぇ……?」そんな中、“違和感”はすぐに彼女を襲った。「ミサカは番外個体、第三次製造計画によって作られた御坂美琴のクローン…」自己紹介とはまた違うニュアンスで語り始める番外個体……何やら様子がおかしい。「わかる……それはわかるよ」「じゃあ、ミサカは―――」「―――いったい何のためにつくられたの?」誰もいない空間に向かって、そう問いかけたが……「いや、そもそも『第三次製造計画』って………何だっけ?」……いくら問いかけても答えは返ってこなかった。
~黄泉川宅~打ち止め「ただいまー!」黄泉川「おーう、おかえり。ってか何で寝巻き…?」一方通行(あ、着替えさせンの忘れてた……まァいいか)黄泉川「お? お前も来たのか。久しぶりじゃん」一方通行「……すぐ帰るけどなァ、ついでだから顔見に来てやったンだよ。にしても何だその隈は? 不眠症にでも なったってかァ?」黄泉川「いや、昨夜に急な“仕事”が入ってな。あんま寝てないじゃんよ……ふぁぁ」一方通行「ふゥン……」芳川「あら、珍しい。どうしたの? ホームシックにでもかかった?」クスクス一方通行「第一声からうぜェなオマエ……っつか、まだここ(黄泉川家)にいたのかよ?」芳川「新しい住居探すとなったらそれなりにお金が要るのよ」黄泉川「別にウチは構わないけどな。お前も、寂しかったらいつでも帰ってきて良いんだぞー?」一方通行「間に合ってンだよォ。人をいつまでもガキみてェな目で見てンじゃねェっつの」芳川「充分子供じゃないの」
一方通行「あァ? なンか言ったかァ無職。余生送るにはちィとばかし早えェンじゃねェのォ?」芳川「……“クソ生意気なガキ”に訂正するわ」一方通行「そりゃドッチかっつったらコイツだろォが」ジー打ち止め「そこでミサカを見るなー! ってミサカはミサカは不満を爆発させてみる!」黄泉川「ま、ドッチも可愛い子供じゃん。打ち止め、あんたは手ぇ洗ってきな」打ち止め「はーい♪」パタタタ黄泉川「お前は朝メシ食ってくか?」一方通行「イヤ、帰るわ」黄泉川「……ちゃんと学校行ってんのかお前?」一方通行「あいにく今日は“お休み”だ」芳川「駄目よー? ちゃんと学校行かないと、将来ロクな大人になれないから」一方通行「そォだな、ちょうどイイ見本が目の前にいるし」芳川「……愛穂、ちょっと包丁をk」黄泉川「駄目だ、落ち着け。あんたをしょっぴくのはさすがに心が痛いじゃん」
一方通行「ンじゃあなァ、ガキの世話頼ンだぜェ」ヒラヒラチョット? ニゲルノ? マダハナシハオワッテナイケド?ダカラオチツクジャンヨー! ッテカ アイツニカナウワケナイジャン!バタン「ふン、なンてェか……相変わらずだよなァ。アイツらもよォ」カツ カツ甘さを感じられない顔で迫る芳川と背後からそれを押さえる黄泉川を背に、一方通行はその場を後にした。―――
アナウンサー『えー、続きまして昨夜未明、第二十三学区敷地内で発生した小型旅客機の墜落事故について速報が入りました。 乗員数は依然不明ですが、機内から発見された遺体は操縦士の○○ ○○さんである可能性が高いため、警備員 では身元の確認を―――』黄泉川「…………」芳川「愛穂…? 昨日の仕事って、まさかこれのこと?」黄泉川「ん、まあな」芳川「小型と言っても結構な大きさのハズよ。なのに見つかった遺体が操縦士だけ……? 乗客がいないなんて少し妙じゃない?」
黄泉川「それがな、何故か上から圧力が掛かって……結局捜査は途中で中止になっちまった。ほら、テレビも『遺体の身元確認を 急ぐ』ってだけで捜査を続行させるとは言ってないじゃん」芳川「そう言えば……そうね」黄泉川「なーんか引っ掛かるな……」芳川「上層部が何らかの圧力を掛けたってことは……誰か『機密』に絡む人間でも乗っていたのかしら……?」黄泉川「それはさっぱり分からんが……上が決めた以上、私達もこれ以上の干渉はできないじゃんよ」芳川「………ここは上に従っておいた方が無難ね…」黄泉川「……だな」打ち止め「……………」ゴクリ―――
~移動中のキャンピングカー内~一方通行「っつーかよォ……態々全員揃うまでもなかったンじゃねェのか?」土御門「そうも言ってられないぜい。なんたって墜落した旅客機からは操縦士以外発見されてないことになってるからにゃー」
結標「暗部が絡んでいるのかしら?」土御門「さぁな……それは分からん」海原「墜落の原因も分かってないんですか?」土御門「衛星が捉えた映像だと、外国産戦闘機による砲撃だと確認されてる……」結標「ふーん……で、私達は今回何をすればいいワケ?」土御門「今から“ある少女”と接触する」海原「全員で……ですか?」結標「ってか、それって『グループ(ウチら)』がするような仕事じゃなくない? 何よ“ある少女”って?」土御門「墜落した旅客機の生存者だそうだ」海原「それ、確かニュースでは公表されてませんよね?」結標「確かに……どういう事?」土御門「……実はその少女が少し“特殊”らしいんだが、詳しい事は俺もよく分からんぜよ」一方通行「ケ、くっだらねェ……女の扱いならオマエら二人で充分だろォがよ。なンで俺まで駆り出されなくちゃならねェンだ…」結標「その言い分だと、私は要らないみたいね……帰っていいかしら?」
土御門「駄目だ。大体、俺と海原だけじゃ幅が狭まっちゃうにゃー」海原「勝手に人の幅まで設定しないでください。自分はこれでも一途なつもりですが?」結標「もうやだ……ここの連中ときたら変態(ロリコン)ばっかり……」一方通行「黙れよショタコン」土御門「公園で男児に声掛けてんじゃねえよショタコン」海原「さりげなく自分も一緒のカテゴリーに入れないでくれますかショタコン」結標「あんたら最終的に地球の裏側まで飛ばすわよ!?」ブロロロ…―――「ミサカはミサカなの。それはわかるの……けど、うぅぅ……やっぱ無理ぃ! それ以上考えようとすると頭痛くなるぅぅ!」「……オーケー、もう結構だよ。負担をかけて悪かったね?」
ベッドで頭を抱える番外個体と、ベッドの横でその様子を見つめる『冥土帰し《ヘブンキャンセラー》』。番外個体「はぁー、なんか疲れちゃったぁ……」冥土帰し「ふむ……やはりこれは……」番外個体「ミサカは何処も悪くないよねぇ? だってほら、手足だって動くし自分の能力もわかるんだよぉ? 何? 何か問題でもあるって言うのかにゃーん?」冥土帰し「いや、大丈夫だ。君の身体は間違いなく“健康そのもの”だよ。怪我自体も大した事はない……。 じゃあ僕はこれで失礼するね?」番外個体「おーい、コラコラちょーっと待ってよ。ミサカはいつ退院できんのぉ? こんな薬臭い部屋もう ヤなんですけどぉー?」冥土帰し「……自分の『帰る場所』は分かるのかね?」番外個体「わっかんなーい☆ あひゃひゃ」冥土帰し(重症っと……)カキカキ番外個体「けど、ここよりマシなら正直何処でもいいかなぁ~」冥土帰し「そうかい。……それじゃ、また後で来るよ」バタン番外個体「あっ! おい待てこらカエル! ……チッ、逃げやがった…」冥土帰しが出て行ったドアを見つめて不満の色を浮かべる番外個体。
番外個体「……はーあ、いったいいつまでここにいりゃいいんだろ……この部屋何もないから飽きちゃった~」退屈そうに手足をブラブラとベッドで動かすが…番外個体「――痛っ! ……ッツ~、まだ無理はできないかぁ~」ズキズキ怪我人であることも失念していた。番外個体「………はぁ~…つまんねーのぉ……寝よ」―――
ブロロロ……キキーッ土御門「――お? 着いたみたいだな……」海原「いや、ここって……」結標「“いつもの”病院よね……」一方通行「まァ、特殊な患者ならここで別に不思議はねェが……」土御門「さ、行くぜい」
バタン冥土帰し「おやおや、お揃いで……」一方通行「………」(やっぱコイツが絡ンでやがンのか…)土御門「で、『例の少女』は?」冥土帰し「ちょうど今眠りについた所だ。見ていくかい?」土御門「当然♪」冥土帰し「では案内しよう。ついてきなさい」ゾロゾロ海原「……素性については明かされないのでしょうか?」土御門「『見れば分かる』らしいがな……」結標「んで、それからどうするの?」土御門「上層部の出した結論によると、少女は狙われているらしいからウチラの誰かが護衛して欲しいとのことにゃー」結標「はぁ!? 何それ……私らはSPじゃないのよ?」
一方通行「っつーか何に狙われてるってンだよ?」土御門「さぁ……学園都市外の研究機関か……あるいは内部か…」海原「つまりまだ不明ということですね?」土御門「まぁ、そうなるにゃー」一方通行「ソイツはよォ、墜落させた戦闘機ってのと何か関係あンのか?」土御門「俺も事情を把握してる訳じゃないが、多分あるんだろうな……」海原「その少女を狙って戦闘機は砲撃した。と考えるのが妥当ですね…」結標「ふーん、大体読めてきた。その子がまだ生きてるから今後も狙われる可能性がある。そこで上層部は私達を派遣した…… そんなトコでしょ?」土御門「正解♪」一方通行「ドッチにしろ、俺らがやるよォな仕事じゃねェのは確かだよなァ。上層部ってのはよっぽど人員が不足してンのかよ?」土御門「何で『グループ』に召集が掛かるのか……そこは俺も疑問だにゃー」結標「その子ってのはもしかしたらこの中の誰かの関係者だったりしてね」「!?」
海原「それは有り得ますね……我々全員『訳あり』みたいなものですし……」土御門「あぁー! なるほどにゃー! その発想はなかったぜぃ」ポン一方通行「アホか、だったら尚更全員で来る意味がねェだろォがよ。アレイスターは一体何考えてやがンだか……」土御門「『面白いものが見れるから』としか言ってなかったな……」一方通行「ンだよそれ……全員でガキに会ってどンな面白れェモンが待ち受けてンのか、是非知りてェなァ」土御門「あ、あと『約一名の面白い顔が見れる」とも言ってたっけ」一方通行「ケッ、やっぱオマエらの中の関係者なンじゃねェか。別にオマエらの馬鹿面なンて見慣れてンだからどォでも イイってのによォ……ンな理由で来させられたってンなら、今すぐ俺は帰ンぞ?」海原「まぁまぁ、折角ここまで来たんですから見て行きましょうよ。案外あなたの知ってる顔かも知れませんよ?」一方通行「あいにく俺はオマエらみてェな節操なしじゃねェンだよ。だいいち俺にそンな女なンて……?」結標「あら? 心当たりでもあるの? 顔色変わってるけど……」一方通行「イヤ、何でも………」(まさかなァ……そンな訳……)海原(あー、これはおそらくヒットですね……自分じゃなくてよかった……)フー土御門(面会時にはコイツの顔から目を離さないでおくか…)ニヤニヤ結標(少年だったらよかったのに……あーあ)ハァ
ゾロゾロ冥土帰し「着いたね。この部屋だよ」一同(ゴクリ……)ガチャ番外個体「Zzzzzz」冥土帰し「おやおや、よく眠ってるね」結標「」チラッ海原「」チラッ土御門「」チラッ一方通行「」土御門(やっぱお前か……プッ)結標(無表情で固まってる……でも、これはこれで……プフッ)海原(ププッ、何ですかこのマジ顔……ってあれ? この少女は……え!? まさか……)
一方通行「な、ンで……」土御門「一方通行、この女はお前の知り合いか……?」(←笑いを堪えている)一方通行「あァ……ってか、どォいう事だよ……コイツは…」結標(放心してるわね……けどこの女、誰かに似ている気が……)番外個体「Zzzzz」海原「……いや、似ていますが……別人……姉か何かか…? しかし…これは……」冥土帰し「君たちの誰かが護衛に当たってくれると聞いているんだが……」土御門「俺はパスだにゃー」結標「私も遠慮しとくわ……」海原「…………」結標「あれ? 海原……?」土御門(はっ!? ま、まさかコイツ……)海原「その護衛、自分が引き受けましょう!」バン一方通行「!!??」
土御門(あぁー、やっぱりか……)結標(あ、一方通行の顔が……面白い)冥土帰し「ん? そうかね、ではそれでよr」一方通行「オイちょっと待てよ」海原「ム…?」土御門(お?)結標(来た来た♪)一方通行「オマエじゃ信用できねェなァ。不純な動機が見え見えなンだが」海原「あなたこそ彼女の何だと言うのですか? それにこれは仕事です。不純な気持ちなんてありませんが?」一方通行「ウソ吐け。何が“一途”だよ。似てりゃあ誰でもイイってかァ?」海原「だから仕事だと言ってるでしょう? それとも、あなたが引き受けるんですか?」一方通行「そォは言ってねェが、何となくオマエに預けンのは気にいらねェ……」海原「なら引っ込んでてください。護衛には自分が――」一方通行「」カチッ海原「―――!?」ドムッ!
一方通行「…………」海原「かはぁ………ッ」ドサッ土御門(あ、死んだ……)結標(音速を超えたボディブローが見事に決まったわね……あれじゃひとたまりもないわ…)一方通行「土御門ォ、結標ェ」カチッ土御門「な、何だ……?」一方通行「オマエらに仕事だ。コイツをどっか人目に付かない場所に埋めてこい」結標「」土御門「」一方通行「可能ならさっきまでの記憶も消しといてくれると助かるンだがよォ」土御門「わ、わかった……善処する。行くぞ結標」結標「え? マジで……」土御門「お前がいれば穴を掘る必要はなくなる」キリッ結標「全然トキメかないんだけど……」土御門「一方通行の目がマジだ……。ここは大人しく従っておいた方が無難だにゃー」ヒソヒソ結標「そうね、いつになく怖い気がするし……面倒臭い口論になる前に実力行使する辺りが本気よね……」ヒソヒソ
土御門「と、言う訳だ……悪いな海原よ。楯突いた相手が悪すぎたってことで諦めるにゃー」結標「貴方のこと、いちおう忘れないでおくわね……」海原「」チーン…土御門「じゃ、俺らはこれで失礼するぜい。一方通行、あとは任せた」グイッ(←担がれる海原)結標「じゃあね」一方通行「……おォ、頼ンだ」
エッホ エッホバタン一方通行「行ったか……」冥土帰し「……いつもあんな感じなのかい?」一方通行「いつもはもォ少しソフトだ」冥土帰し「そう、仲が良さそうで何よりだね」一方通行「別に俺達は仲良しグループとかじゃねェよ。それよりオマエと二人だけで話がしてェンだが……ちっと 場所変えねェか?」冥土帰し「実は僕も君に訊きたかったんだ。そうしてくれるとありがたいね」一方通行「そォか……ならさっさと移動すンぞ」冥土「分かったよ、ついてきなさい……」――バタンすやすやと寝息を立てる番外個体を残し、一方通行と冥土帰しは病室を出て行った。あまりにも突然すぎる再会に冷静さを失いかけたのは事実だが、いつ目を覚ますかも分からない番外個体の前ではこのまま落ち着いて話を聞く事などできる訳がない。何の関係もない海原に任せるなど論外である事は言うまでもないが、かと言って自分が護衛につくともハッキリとは言えない。恐らく彼女は自分を抹消するために学園都市へやって来た。それは簡単に推測できるが、そんな立場の自分が護衛任務に当たれるのか? 冥土帰しの話をまだ聞いていない一方通行はこの時そう思っていた。移動中の渡り廊下に一方通行の複雑な感情が滲み出ている。これから更に複雑な事情が一方通行の身に降り注ぐ事となるのだが、今の彼にそこまでの予測はできなかった。
―――~番外個体のいる病室から離れた部屋~冥土帰し「さて、まずは君の話を聞こうか」一方通行「……まず、アイツは平気なのか? 容態は?」冥土帰し「あぁ、怪我は大した事ないね。ニ~三日後には退院できるだろう」一方通行(つまり退院までの間、アイツの面倒見ろってかァ……)冥土帰し「で、護衛については結局君が適任という事でいいんだね?」一方通行「…………」冥土帰し「どうしたんだい?」一方通行「……イヤ、それ以前に俺がアイツに何て思われてるか、オマエは知ってンのか?」冥土帰し「?……言ってる意味がよく分からないんだが?」一方通行(やっぱり『第三次製造計画』については知らねェらしいな……何て説明すりゃ良いンだ…?)冥土帰し「?」
一方通行「………姿見た時点で気づいたと思うが、アイツは、『妹達』のひとりだ。俺への負の感情が目一杯詰め込まれた “復讐のクローン体”だと思えば良い」冥土帰し「…………」一方通行「アイツと俺はちっと『訳あり』でなァ。まず普通に挨拶が交わせンのかが問題だ。クチ開いた途端、喉元に ナイフ突きつけられてもおかしくねェ……」冥土帰し「なるほど……大体察したよ。君が学園都市からいなくなってた時だね?」一方通行「さすが、オマエとは話が早く済ンで助かるわ。まァそンなトコだ。護衛に付かせる役目をグループ(俺)に 回した“アイツらの嫌がらせ”にはつくづく呆れたけどなァ」冥土帰し「……それで、護衛の方はどうする?」一方通行「やっても構わねェが、下手すりゃ退院が延びちまうぞ? 多分アイツは俺のツラを見た瞬間に豹変するだろォ からなァ。そン時はオマエ逃げてた方が良いぜェ」冥土帰し「…………」一方通行「……オイ、何そこで神妙なツラしてンだよ?」冥土帰し「目が覚めたら、一度彼女に会ってみると良いね」一方通行「あァン? オマエ今の話聞いてなかったのか? アイツは――」冥土帰し「『会ってみれば分かる』とだけ言っておくね。多分今説明するよりは早く伝わるハズだ」
一方通行「なンだそりゃ……」冥土帰し「…………」一方通行「……アイツに何かあったのか?」冥土帰し「説明するより見た方が良い。その後に補足した方がきっと分かりやすいだろう」一方通行「…………」冥土帰し「君と彼女の事情はおよそ見当がつくが、それについてはおそらく問題ないと思うよ」一方通行「ずいぶン思わせぶりだなァ。……まァとりあえずそれで良いが、オマエが訊きたい事ってのは何だ?」冥土帰し「いや、もう大丈夫。彼女の『容姿』から推測するに、君とは何らかの関わりがあるんじゃないかと少し気に なっただけだ」一方通行「そンならもォ言う必要はねェな」冥土帰し「まあね。しかし……幸か不幸か……何ていうか、これも巡り合わせなのかねぇ…」一方通行「? オイ、今のはどォいう意味だ?」冥土帰し「おっと失礼。さて、他の患者さんもいるから僕はもう行くよ? 彼女も直に目を覚ますだろうから、それまで ゆっくり寛いでいるといい。その時はまた呼びに来るから」バタンそう言い残し、冥土帰しは部屋を出て行った。
一方通行「…………」訳が分からないまま部屋に一人残された一方通行。一方通行「何だっつーンだ……? 一体よォ」扉に向かって吐かれた疑問は、鮮やかにスルーされる。冥土帰しが再び部屋に来るまでの時間が妙に長く感じたのは言うまでもない事だった。―――
~○○学区のある場所~??「―――そうか、で? 死体は確認したのか?」下っ端「そ、それが……すでに回収されてまして…」研究施設のような場所で、怪しげな会話をする二人の男。見るからに上の立場な白衣の男は顔じゅうに施された刺青が特徴的だった。??「あぁそう、で?」下っ端「は…?」
??「は? じゃねえよボケ。場所割り出して死んだのか確認したんだろうなって訊いてんだよ」下っ端「あ……その…」??「オイオイ、俺は『息の根止めてこい』っつったハズなんだが、耳に入ってなかったんか? あ?」下っ端「う……あの……しかし、あれだけの惨状で生きているとは…」??「だから確認したのかって訊いてんだろぉが! 何度も言わせんじゃねえぞコラ!?」ガンッ下っ端「ひっ……も、申し訳ありま……」ガタガタ??「あー、いい、もういいから喋んな。すげえ耳障りだからよ」チャキ下っ端「ま、待―――ッ!?」パァン! ……ドサッ??「ったく、弾の無駄遣いさせてんじゃねえよカスが」フッ煙を出す銃口を一息で飛ばす。??「ま、ハナから期待なんてしてねえけどな……。オイ、片付けろ」声の数秒後、数人の男達がやって来て“今できたばかりの死体”を回収していった。??「…………へへ」まるで社長専用に使われていそうな革製の椅子に腰を下ろし、不敵な笑みを浮かべる刺青の男。そして、楽しみと憎しみが混ざったような声で囁いた。「“敗者復活戦”までもうすぐだなぁ」と。
―――コンコン…一方通行「!」…ガチャ冥土帰し「―――待たせたね。それじゃ行こうか」一方通行「……目ェ覚ましたのか?」冥土帰し「うん」一方通行「……」スクッ立ち上がり、先を歩く冥土帰しの後に続いていく一方通行。どこか緊張の含まれた空気が周囲を漂う。一方通行「……普通に入って平気なのかよ?」冥土帰し「構わないよ」一方通行「…………」冥土帰し「……怖いかい?」一方通行「そりゃあなァ……」
冥土帰し「まぁ、まずはその目でしっかり見ることだね」一方通行「……この面倒臭がりが…」冥土帰し「こういうのは実際確認するまで信憑性がない話だからね」一方通行「チッ……」カツン カツン カツン…~部屋の前~一方通行「……入らないのか?」冥土帰し「お先にどうぞ」一方通行「いつからオマエはイタズラ好きになったンだ?」冥土帰し「そういう訳じゃないが、彼女はどうも僕の苦手なタイプでね…」一方通行「医者のくせに患者差別してンじゃねェよ」冥土帰し「誰にでも得手不得手はあるよ。君やよく運ばれてくる少年なんかは前者だがね」一方通行「ふン……」ドアに手を掛ける一方通行。一瞬ためらいも伺えるが、そのままゆっくりと病室のドアを―――開けた。
ガチャ ギィィ…一方通行「………」番外個体「………?」上半身だけ起こし、ぼんやりと窓の外を見つめていた番外個体の顔が、コチラを向いた。番外個体「………」一方通行「よォ……」番外個体「?」キョトンとした目の番外個体に一方通行はタダならぬ予感を感じたが、極めて普通に話し掛けるよう努めた。一方通行「また会ったなァ。ってかオマエ、何で俺に何も言わn」番外個体「だれ?」一方通行「!」冥土帰し「………」番外個体「ねぇカエル、そこの目つきが悪くてロシア人も真っ白なほど白くて何か変な模様の服着てるガリガリ君は何処の誰? 研修医か何か?」冥土帰し「いや、彼はね……」一方通行「」思考が停止した一方通行は、しばらく棒立ち状態のまま動かなかった。
一方通行「…………」番外個体「なに真顔で固まっちゃってんの? ……ぷっ……あれ…?」クスクス冥土帰し「?」何故か一方通行を見て急に笑いを堪えた表情になる番外個体。番外個体「なんでだろ……フフッ、あなたのその顔……やけにツボなんだけどぉ……」プルプル一方通行「!?」番外個体「―――あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃひゃひゃ!!! ひぃひひひひひ!!」ついに耐え切れなくなったのかベッドで腹を抱えて爆笑した。一方通行「…………オイ」冥土帰し「あー……いったん出ようか」グイッ一方通行「!」冥土帰しは一方通行の腕を掴んだまま病室から出てドアをパタンと閉めた。番外個体の甲高い笑い声がドア越しからBGMを演出する。一方通行「………」冥土帰し「……まぁ、という訳だ」
一方通行「何が『という訳』だよ? オイ、何だあれ?」冥土帰し「さすがに最後のは想定していなかったね。じゃ、戻ろうか」一方通行「そォだなァ……」アッヒャッヒャッヒャッヒャ ヒーヒー クルシイ一方通行(訳が分からねェにも程があンぞ……)カツン カツン~さっきの部屋~冥土帰し「まぁ、見ての通りだ。彼女は記憶喪失……いや、“記憶障害”と言った方が正しいかね」一方通行「ンなのは一発で分かったけどよォ………イヤ、おかしいだろ。アイツァ他の『妹達』と記憶やら感覚やらを共有 できンじゃねェのかよ? 仮に脳が何らかのダメージを受けて記憶が飛ンだとしても、MNW《ミサカネットワーク》 に接続する事で過去の情報は補えるハズだろォが。あのクソガキが確かそォだったぜ?」冥土帰し「どうやらそのネットワークに接続できなくなっているみたいだね」一方通行「何でだ?」冥土帰し「おそらく、脳内の電気信号が正常に働いていない」一方通行「何!?」
冥土帰し「彼女は自分が何者なのか、妹達とは何なのかについては覚えている。ただ―――」一方通行「……ただ?」「―――“自分は何故作られたのか”が理解できていないらしい」一方通行「!? なン……」冥土帰し「自分は何のために生きているのか、何をさせるために製造されたのか、言ってみれば『存在理由』だね。そこが……どう いう訳かすっぽりと抜け落ちているようなんだ。MNWに接続もできない。つまり妹達と記憶も感覚も共有ができない彼女 にはそれを知る術もない。単純な記憶喪失ならまだマシだったのかもね」一方通行「原因は墜落の時に負った傷か……?」冥土帰し「その可能性が最も高いね」一方通行「……治らねェのか? ここの『調整』で何とかならねェのかよ!?」冥土帰し「それは無理だ。彼女は他の妹達とは違う。『第三次製造計画』と『量産型能力者計画(レディオノイズ)』や『絶対能力 進化計画(シフトプラン)』で作られた妹達専用の設備しかここにはない」一方通行「それでも同じ妹達だろォが! 何の問題があるってンだよ?」冥土帰し「まず、同じ設計の培養器で作られたかが分からないんだ。それこそ“計画者”でも現れてくれれば手っ取り早いんだがね。 もし仮にここで『調整』を試みたとしても、もしかしたら他の妹達の脳内信号に影響が出るかもしれない。更に下手を すると、身体と合わない調整の影響で彼女自身(番外個体)の脳が完全に停止してしまう恐れもある」
一方通行「じゃあ……」冥土帰し「少なくとも、今分かっているだけの段階では……ここでの調整は不可能だ」一方通行「!!…………」冥土帰し「ロシアの研究機関とコンタクトを取るしかないが、それには時間が掛かる。何しろ終戦後の両国同士、迂闊な接触は望め ないからね?」一方通行「……このまま調整受けられなきゃ、アイツはどォなるンだ? まさかとは思うが……死ぬなンて事にはならねェよな?」冥土帰し「あぁ、その心配は要らないよ。彼女は他の妹達と違うと話した意味はそこにもある」一方通行「……!」冥土帰し「普通なら定期的な調整を受けなければ生命を維持できないハズなんだが、『第三次製造計画』というのは知らないが、 先の二つよりも更に発展した計画と言えるね。向こうでの調整は“生命維持”ではなく、あくまで“記憶操作”を目的に 行われているらしい」一方通行「って事は、アイツは『作られた時の記憶』を調整されて……また学園都市に送り込まれたってか?」 (俺を、殺すために……)冥土帰し「…………」一方通行「ンで、どこの馬の骨とも知れねェクソ野郎に……その記憶まで奪われちまった……と」
「…………」一方通行の表情が、除々に険しくなる。勝手に作られた記憶を勝手に奪われ、ついには己の存在理由も忘れてしまった。一方通行には理解ができない。何故? いったい何故彼女がそんな目に合わなくてはならないのか。「ざ………ンな……」学園都市が、ロシアが、ひとりの“少女の運命”を弄んでいる。まるでゴミのように。一方通行はもはや周囲には目もくれずに、腹の底から思いきり叫んだ。「ふざっけンじゃねェぞォォクソったれがァァあああああ!!!!!」ガン!! と蹴り飛ばされたゴミ箱が、中のゴミを散乱させながら宙を舞う。「何でアイツがくっだらねェ連中のためにいちいち運命振り回されなくちゃいけねェンだよォォ!! アイツがいったい何を したってンだァ!? 何でオマエ達の都合でアイツの記憶が良い様に弄ばれなきゃなンねェンだよォォォ!!!」許せなかった。自分のために作られ、自分のために死んでいく少女達を救えなかった自分自身。科学の発展を表向きにし、私利私欲に溺れて人を人とも思わない者達。全てが許せない。「…………」ひとしきり叫んだ一方通行は、横で慈悲深い表情をしていた冥土帰しにこう告げた。
「あの女は俺が守る」と。(オマエ達の思い通りになンて……させっかよ)(アイツが元気になるまでの間、少しでも近づいてみろ)(地獄に落ちた方がマシな目に合わせてやる!!)彼女も自分にとっては『守る対象』だ。その彼女に害を及ぼそうものなら、鬼でも悪魔でもなってやる。一方通行は、怪しく輝いた紅い目でそう誓った。
―――「はぁ、不幸だ……」トボトボと覇気のない顔で道を歩く上条。結局遅刻した後、幼い容姿の担任教師から「罰掃除でーす」と告げられ、終わる頃にはスーパーの特売サービスタイムも終了してしまっていた。予算で買えたのはもやしと卵。今日は肉料理を予定していただけに、この結果は残念だった。「また噛まれるよな~……」同居人シスターはまだ上条宅にて居候中。噛み砕きを覚えてからはシャレ抜きで命を脅かす存在になりつつあるシスターに上条は身体を震わせる。と、そこへ―――「とうとう見つけたわよ!!」「あん……?」聞きなれた、と言う程でもない高く強気な声が身体の震えを止めた。声のした方を見ると、そこにいたのは身体に電気を纏わりつかせたまま仁王立ちの少女だった。「戻ってたんなら一言くらい連絡入れなさいよ!! おかげでロシア中探し回るハメになったんだからね!!」何やら少女は怒っている。「御坂か……お前も今帰りかよ?」
御坂と呼ばれた少女はそのいつもと変わらない上条の態度に眉をピクつかせる。その直後、身体を纏っていた電気の一部が―――「うわっ!? ち、ちょっと!!」―――上条に向かって伸びた。「ッッ!!」さっと右手を前方に翳す。放たれた電気は右手から先に進むことなく消滅する。「うぅぅ……何か久々だなこの応酬」改めて右手に感謝し、少女をキッと睨む。睨まれた少女、御坂美琴は喧嘩上等とばかりに睨み返す。「イキナリ何すんだテメェ!! あっぶねぇーだろ!?」「アンタがコッチに帰って来たのをあの子(妹達)から聞かなかったら、私は今頃ロシアで凍死してたかもしんないのよ!? そんな目に合わせといて、連絡のひとつもよこさないってどーいう事なのかって訊いてんの!!」負けじと言い返されて「うっ…」となる上条。そもそも美琴が何故ロシアに来ていたのか。鈍感な上条は分からなかったが、訊いた途端に返って来たのは言葉ではなく音速を超えた“コイン”だった。異国の地で骨にはなりたくないので、必死にガードしたのを覚えている。ある意味フィアンマより恐ろしかった。
上条「……悪かったよ。てっきりお前も一緒の旅客機で帰ったんだとばっかり思ってたんだ」美琴「ふざけんじゃないわよ!! 先に帰っちゃうとか信じらんない! 折角人が……その、心配して来てやったってのに!」上条「だからゴメンって……」美琴「ゴメンで済んだら黒子は要らないのよ!」上条「じゃあどうしろって言うんだ?」美琴「え……そ、そうね……」ウーン上条「確かに連絡しなかったのは悪かったと思ってるよ。埋め合わせについてはは今日あんま時間ないから、また今度にして くれると助かるんだが?」美琴「! な、何でもしてくれるの?」上条「俺でできる事ならな。いちおう言っておくけど、上条さんは年中無休で貧乏n」美琴(どうしよ……てっきりいつもみたいに終わると思ったら、まさかの大収穫ってヤツ……!?)ボー上条「おーい? 御坂さーん?」コンコン美琴「!?」ビクッ上条「何固まってんだよ?」美琴「う、ううん! 何でもないっ! じゃ、じゃあまた連絡するから、ちゃんと埋め合わせなさいよね!」タッタッタ上条「……何だ? ロシアで悪いモンでも食ったのかな?」
―――(どどどど、どうしよ!? 急展開ってか……とりあえず、こないだみたいにならないようにしないと!!)※十二巻参照美琴は下を向いたまま街中を疾走していた。顔は勿論真っ赤なまま。道行く人がその様子に目を向けるが、当の本人はそれどころではない。(ま、まずは帰ってから入念にプランを立てないと! 邪魔が絶対入らない所で……そのまま……///)そこまで考えてから頭の中はピンク一色なので、説明は要らない。しばらくそのまま走っていた美琴は、人とぶつかりそうになり、足を止めた。「―――ッッ!?」慌てて足を止める。「あぁ? ……チッ」
横断した背丈のある男は走ってくる美琴に鋭い目を一瞬ギロリと向けて、また正面を向いた。舌打ちのオマケ付きだ。あとは美琴など目もくれずにそのまま歩いていった。「……何よアイツ…」前を見ずに走っていた自分が悪いのだが、男のふてぶてしい態度も気に障る。「顔に刺青で白衣とか……どんなファッションよ」去っていく男の背中に皮肉を込めた視線をぶつけてやった。「!?」立ち止まった男は、何故か足を止めて美琴に振り返った。急に振り向かれてビクリとする美琴。コチラに向けられた男の目からは驚きの様子が伺えたが、美琴の方は首を傾げるしかない。あんな男になど見覚えはないからだ。「……え?」男の表情が驚きから怪しい笑みに変わる。美琴が疑問を抱く間に、男は美琴へと再び歩み寄ってきていた。
美琴に向かって真っ直ぐ引き返してくる謎の男。「な……?」白衣を纏ったスキルアウトと言った表現が的確な長身の男は美琴のすぐ目の前で立ち止まった。まるで品定めでもしているかのように上から下までジーッと眺めている男に、美琴は寒気を感じる。「ふーん」視線があまりに不気味なせいか、やや躊躇いが生まれたが、それでも美琴は声を出した。「な、何よ……?」思ったよりも弱気で小さな声だった。超能力者の上位に立つ彼女がそう簡単に物怖じなどしない筈なのだが、何故か男のオーラというか雰囲気というか、よく分からないものがいつもの「強気」を削いでしまっている。「この男は何かやばい」「下手に抗ってはいけない」美琴の直感はそう警告していた。思わず背中に冷たい汗が流れたと同時に男の声が返ってくる。「あー、こりゃ失礼。知った顔に見えたんだがなぁ……残念。“人違い”だったわ」たった一言。それだけ告げた男はまた背を向ける。そして今度こそ振り返る事なく、男は美琴の視界から姿を消していった。「…………」何か不敵に見えた男の目が頭から離れず、美琴はしばらくその場に立ち尽くしていた。
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