とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) > 17

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~第九学区・『黄色い家』~ 手塩「数が、多過ぎる。このままでは、弾丸(タマ)が尽きるぞ!」 黄泉川「持たせるじゃん!今救援を呼んだじゃん!!」 姫神「ッ!」 2:06分。芸術と工芸に特化した第九学区の学生街、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホがかつて作り上げようとした芸術家達だけの村に由来する『黄色い家』と名付けられたアトリエに四人は立て込もっていた。 特殊兵A「吸血殺し(ディープブラッド)を連れて投降しろ!そうすれば命だけは保証してやる!」 狭い路地を擦り抜け、所構わず据え置かれたオブジェを掻き分け、満月が照らす石畳を駆け抜ける敵兵。しかし―― オリアナ「イヤねえ?ここにこーんなイイ女がまだ三人もいるのにお目当てさんしか口説かないだなんて――」 ピッ!とワードレジスターの形を模した『速記原典』の内一枚を噛みちぎると ドオオオオオオン! 特殊兵A「がはっ!?」 手榴弾でも炸裂したかのように突入部隊の先陣を切った特殊兵を閃光と共に吹き飛ばす。 そしてその閃光の一撃から身を踊らせ飛びかかるは―― オリアナ「お姉さん拗ねちゃうわよ?」 バキィッ! 特殊兵B「ぐべぇっ!」 急角度に跳ね上がる右ハイキックで特殊兵の顎骨を蹴り砕くオリアナ=トムソン 黄泉川「生徒じゃないなら――キッツいお仕置き、お見舞いするじゃんよ!」 ゴッ!と全身を覆う防盾をハンマー代わりに横殴りにフルスイングする黄泉川愛穂 手塩「だから、足を、すくわれる!」 ガウン!ガウン!とオートマチック拳銃で物影から四人を伺っていた特殊兵の一人の右腕と右膝を撃ち抜く手塩恵未。 ステイル=マグヌスが魔術師を引きつけている間に少しでも距離を、時間を稼がねばならない。だが―― 姫神「(どうすれば。私は。私はどうしたらいいの)」 アトリエのマホガニーデスクの下に身を隠し、頭を庇いながら姫神秋沙の顔色は蒼白になっていた。 耐えざる緊張、絶えざる銃声、堪えざる重圧に押し潰されてしまいそうだった。 姫神「(また。私のせいで。誰かが。命を落としたら)」 三沢塾では死に絶えていた感情が、上条当麻との出会いで、月詠小萌との巡り会いで、吹寄制理との語り合いで、結標淡希との触れ合いで芽吹いた感情が寒風に晒される。 姫神「(お願い。誰も死なないで。お願い。お願い)」 今や姫神にとって、周囲の誰かが自分のために命を落とすという現実はあの寒村での惨劇を想起させる。 吸血鬼であろうと人間であろうと、自らの『吸血殺し(ディープブラッド)』が招く災厄がもたらす『死』は。 姫神「(――淡希――)」 ギュッと結標淡希の赤髪から形見分けのように引き取った髪紐を握り締めながら姫神は耐えた。 破綻しそうな叫び声を、決壊しそうな涙を、辛うじて踏みとどまる。 微かに香るクロエの残り香、つい数時間前に離れたばかりなのに、今生の別れを告げたばかりなのに―― 姫神「(無事で。いて。逃げて。生きて。淡希)」 姫神にはオリアナやステイルのような魔術も、黄泉川や手塩のような戦闘技術も使えない。 頭を低くし、背を屈め、声を出さないという『耐える戦い』しか出来ない。 避難所で決めた、姫神秋沙の戦いはまだ終わらない。終わらせる事など出来はしない。 『生きる』のではなく『死なない』事…それだけが今姫神に出来る全てだった。 ~第七学区・学舎の園~ 結標「秋沙…!」 2:07分、結標淡希はとある高校から旧学舎の園まで座標移動を繰り返しながら第九学区を目指す。 火を飲み込む思いで、無尽蔵とすら思える敵の進軍の真っ只中を突っ切る! 魔術師d「屋根だ!狙え!一人も生かして出すな!」 轟ッッ!とミサイルのような氷柱が円陣を描いて結標の周囲を旋回する。 同様に地中海風の石畳を直走る魔術師が、次々と氷飛礫を雨霰とばかりに結標目掛けて撃ち放つ! ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! 結標「いい加減しつこいのよ!私の道に――立ち塞がらないで!!」 座標移動・座標移動・座標移動―! 窓ガラスを粉々に打ち砕く氷の弾丸を 石造りの壁面を軽々と貫通する氷の矢を 屋根瓦に易々と風穴を開ける氷柱を 繰り返す空間移動で 地面を転げ回って 物影に飛び込んで死に物狂いで回避する! 結標「キリがないわ!ゴキブリの方がまだ慎みがあるわよ!」 既に避難所を覗いて第七学区の至る所に『原石狩り』の魔術師が、『能力者狩り』の傭兵が次から次へと侵攻してくる。 それだけならまだ良い。問題は――その後に次から次へと虚空より出現してくる―― 魔術師d「チャリオッツだ!チャリオッツを投入しろ!一気に踏み潰せ!」 魔術師e「“六枚羽”を展開させよ!制空権を奪って虱潰しだ!」 魔術師f「テルス=マグナ=オルデン(白銀近衛騎士団)!押し潰せ!」 見た事のない白銀の戦車が瓦礫の山すら押し潰し、見た事のある無人戦闘ヘリが宙を舞い、見たら忘れられない白銀の騎士が次々に学舎の園を埋め尽くして行く…! 結標「ゴキブリじゃなくてネズミ算式ね…こっちは!時間がないのよ!」 結標は知らないが、垣根帝督が撃破し、ステイル=マグヌスが交戦している今はその白銀錬成(テルス=マグナ)は大幅にその力を削られている。 しかしそれでも一個中隊を下らない軍勢に、結標は―― 結標「―――!!!」 迷う事なく、地面を蹴った ~旧学舎の園~ 安っぽく命を懸けて、馬鹿っぽく身体を張る。 闇の底(暗部)に身を置いていたクセに、偽善者ぶって避難所のボランティアまでやってる。 誰かの笑顔って、お金より尊い物? 感謝されるのって、気持ち良い事? 恋をするのって、幸せな気持ち? わからない。 わかりたくもない。 理解しようとも。 理解したいとも思わない。 そもそも、興味が無い。 そもそも、関心が無い。 他人がどうとかよりも。 自分がどうしたいかの方が大事。 なのに。 何で一度も言い訳しないかな。 あんな酷い事言われて、何で続けられるかな。 ああ――そうか 馬鹿なんだ。 頭が悪いんだ。 レベル4の癖に。 ああ――そうか 馬鹿なんだ。 私も。 ―――――――結局―――――― ――「みんな馬鹿ばっかって訳よ!!」―― ~第七学区・学舎の園2~ ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!! 結標「!?」 魔術師def「「「!?」」」 結標が地面を蹴り出した瞬間、侵攻していた戦車部隊の先頭部分が『爆破』された。 キャタピラー部分が吹き飛ばされ、底部から炸裂した爆発が下から上へ吹き抜けて炎上して…! 魔術師d「――対戦車地雷だと!?引け!この瓦礫はカモフラージュだ!前進止め――」 しかし――それを見やっていた少女 「ブービートラップって知ってる?」 闇夜の中にも光輝く金糸の髪をちょこんと乗せたベレー帽 「この国じゃ“馬鹿”とか“間抜け”って意味なんだけど」 学園都市ではやや珍しい碧眼を、飛びっきりの悪戯が成功したように輝かせ 「私も麦野から馬鹿とか間抜けとか詰めが甘いとか口が軽いとか言われるんだけど――結局、爽快な訳よ」 伸びやかな脚線美を振り上げ――踏み鳴らす!!! フレンダ「自信満々の馬鹿(マヌケ)を嵌めたこの瞬間が最っ高ーに快感な訳よ!!!」」 ドガンッ!ドオンッ!ボオンッ!ズガアアアアアアアアアアン!! 魔術師def「「「何だとオオオオオオオオオオオ!!?」」」 爆発、爆破、爆裂。フレンダが手にした着火装置をオンにした瞬間、学園都市の科学技術を結集させた対戦車地雷が次々に戦車部隊を誘爆させて行く! フレンダ「あっはっはっは!どや顔で突っ込んで来た自慢のやわらか戦車が木っ端微塵!って訳よ!」カチッ ズガン!ズガン!ズガンズガンズガンズガンズガンズガン!!! さらに廃虚と化していた学舎の園の地中海風の建築物にまで爆弾を仕掛けていたのか、次々に石造りが雪崩となって後続の戦車隊の行く手を塞ぐ! 結標「貴女…どうして…」 突如として始まった、フレンダの手による火祭りに茫然自失気味に口を開く結標。 それをそっぽを向きながら狂乱状態の戦車隊を見やり―― フレンダ「どうしたもこうしたも、避難所外部の守りは“アイテム”の仕事って訳よ。そういう貴女こそどうしてここにいる訳よ?」 そう。避難所の外の『狩り』はアイテムが担当する。オリアナが手渡したハザードマップを元に、フレンダは待ち構えていたのだ。 突如として現れた白銀錬成の騎士団に出鼻こそ挫かれたものの。 結標「あ、貴女には関係な――」 フレンダ「フレンダ」 結標「―――?」 フレンダ「私の名前。結局、私達お互いの名前も知らない訳よ」 そう…四日目に無理矢理組まされた時は険悪を通り越して最悪の空気のまま物別れに終わったのだ。 お互いの名前すら知ろうとしない、暗部同士の流儀。 結標「――保健所に連れて行かれそうな馬鹿猫を奪り還しによ、フレンダさん…私は淡希、結標淡希」 フレンダ「ふーん。変な名前――」 魔術師d「キサマらァァァァァア!!」 そこに、戦車隊の大半を壊滅させられた魔術師が 結標「危な―――」 魔術師d「死―――」 目を見開く結標目掛けて何やら魔法陣の描かれたカードを取り出す―― ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! 「背中ガラ空きでしょうが、この馬鹿」 …より早く、その魔術師の上半身は闇夜を切り裂いて放たれた… 結標「…えっ…」 アイスブルーの閃光により『食いちぎられた』。まるでライオンに頭から喰われたように フレンダ「馬鹿だねー…結局」 彼方から放たれた光芒の御手…有象の障壁など、無象の防壁などものともしない――魔弾の射手 麦野「フーレンダぁ…」 レベル5第四位『原子崩し』麦野沈利 絹旗「フレンダ超油断大敵です」 レベル4『窒素装甲』絹旗最愛 滝壺「ふれんだ、余所見はめっ」 『八人目のレベル5』滝壺理后 フレンダ「結局――“アイテム”は一人じゃない訳よ」 そして――フレンダ 学園都市暗部『アイテム』…再集結―― ~第七学区・学舎の園3~ 結標「(これが)」 赤々と燃え盛る学舎の園、口の中の飲み込めない唾液、鼻につく火薬と人間の焼ける匂い、産毛がチリチリと焦がれるような感触、阿鼻叫喚の断末魔。 結標「(これが―――アイテム)」 男所帯だった『グループ』とは違い、『アイテム』は噂に聞いていた通り女所帯だった。 だが実際目にすると――その若さ、統一性のなさ、そして―― 麦野「パリイ!パリイ!パリイ!てかァ?笑わせんじゃねえぞ糞袋が!!戦争ごっこのケンカ程度でこの街の闇(暗部)をどうにかできると思ってんのかァ!!?」 暗部に身を置いていた結標ですら目を背けたくなるような残虐性に戦慄する。 特に今、『元リーダー』らしい麦野沈利の『制裁』は群を抜いて凄惨だった。 小萌と約束した焼き肉の時に思い出したら嘔吐を催すほどに。 フレンダ「今日の麦野は気分ルンルンな訳よ!一人生かして帰すみたいだし。あんなんなっちゃってるけど」 結標「…あれで機嫌悪かったらどうなるのよ…」 フレンダ「大丈夫大丈夫!だって今日――」 麦野「フーレンダぁ…余計な事言わないの…」 3:36分。アイテムと結標淡希の一時的な共闘によって侵入して来た敵軍は全滅した。 戦車部隊はフレンダが 戦闘ヘリ部隊は麦野が 騎士団は絹旗が 魔術師は結標がそれぞれ撃破した。 同時に敵の包囲網も解け、後は突破を残すのみ。 結標「…ありがとう、私だけじゃ突破出来なかった」 滝壺「避難所は、みんな助け合いだよ」 絹旗「超ついでです」 フレンダ「目障りだったんで一緒に吹き飛ば…人助けって訳よ!」 麦野「フレンダ、アンタしゃべるととことんダメな娘ね…」 結標「(………………)」 結標もふっ…と思う。もし避難所で水先案内人などという仕事をしていなければ、今頃自分はどうなっていただろうか。 白井黒子と出会わなければ、あの場から月詠小萌や生徒達を救出する事など出来なかった。 削板軍覇が迎え入れてくれなければ、そもそも水先案内人になどなろうとしなかっただろう。 フレンダとぶつかり合わなければ、自分は今この場で敵陣を突破する事など不可能だった。 木山春生と話し合わなければ、姫神秋沙への恋心を認められず、今の自分などありえなかっただろう。 黄泉川愛穂と差し向かなわなければ、誰かを守るために、もう一度立ち上がろうなど思いもよらなかった。 そこへ―― 『ヒトミニウツス ミライニダッテ イツモツヨクテ コンナキミハボクサ キミハマダマブシイケド オナジキモチデ コノテノバシテ~♪』 鳴り響く、着信音 結標「…出て良いかしら?」 アイテム「「「「ご自由に」」」」 携帯を取り出し、開かれた画面 発信者――『ナンバーセブン(削板軍覇)』―― ~第七学区・全学連復興支援委員会本部~ 削板「オレだ!!」 結標『着信見ればわかるわよ。それで何かしらナンバーセブンさん。私今忙しいんだけど』 雲霞の湧き出る敵対勢力が避難所目指して侵攻してくる。 削板「うむ!頼みと言うのは他でもない!」 減らしても減らしても止む事のない魔の手 削板「お前に、迷子の案内をしてもらいたい!さっきアンチスキルの黄泉川先生から援軍要請があってだな――」 結標『ちょっ、ちょっと待ってちょうだい!私今――』 何度『幻想(ぜつぼう)』をひっくり返しても、何回でも押し寄せてくる『現実』 削板「――迷子は第九学区を抜けて第二十三学区を目指してる。女の尻ばっかり追い掛けてる根性無しどもから逃げながらだ!!」 結標『―――!!!』 単騎で軍隊と渡り合えるレベル5が全員結集してすら、支えられるギリギリの限界点。 削板「水先案内人!仕事だ!迷子(姫神)を案内(導いて)してやれ!右も左も敵ばかりだが――根性でなんとかしろ!!」 結標『…!貴方…どこまで知って…』 削板「返事はハイかイエスだ!!」 夜明けまで持ちこたえられるかなど誰もわかりはしない。敵も味方も誰も彼も。 結標『――やってやるわよ!!根性で!』 削板「よしよく言った!!お前の根性、確かに受け取ったぞ!!」 通話を切る。携帯をしまう。戦う相手は倒せば終わる軍隊などではない、敵は終わらない絶望(げんじつ)だ。 ~避難所・表口~ この世界に英雄(ヒーロー)はいない。 いるのは 災誤「吻ッッ!!」 寮監「破ァッ!!」 鍛え抜かれた身体で生徒を守るべく兵士達に拳を振るう大人。 月詠「もっと重いものを!このままでは破られてしまうのです!」 戦う力がなくとも、バリケードを築き上げて生徒達の盾になろうとする教師。 禁書「杜撰だね!外側にばかり意識が向いているから簡単に割り込まれるんだよ!」 謎の力で魔術師の魔法から避難所の狙いを逸らせるシスター 初春「だ、第27番カメラに異常!来ます!」 固法「私が行くわ!初春さんはここにいて!」 鉄装「わ、わっ、私だっています!行きます!」 白井「出ますわ!…これで最後ですの!!」 戦えない生徒達の代わりに闘う風紀委員(ジャッジメント)と警備員(アンチスキル) 佐天「て、てりゃー!!」 金属バットを振り回して戦う無能力者(レベル0) 坂島「こ、ここは通さないぞ!!く、くっ、来るな来るなー!」 ハサミに代わって日曜大工のトンカチを握って虚勢を張る美容師 黒妻「スキル」 郭「アウトを」 服部「舐めんじゃねえええええええええええええええ!!」 侵入して来た兵士を袋叩きにして放り出すスキルアウト(武装無能力者集団) 絶対等速「やっとこ見つけたオレの居場所に入ってくるんじゃねええええ!!」 刑務所帰りの能力者までいる。 芳川「この中に隠れなさい。大丈夫、ここの守りは甘くないから」 木山「みんな、終わるまで出てきちゃダメだ」 吹寄「大丈夫、お姉さんがいるからね」 子供達を地下収納室へと隠れさせ、そこを守る女性達もいる。 心理掌握「――――――」 心理定規「えげつない力ね。敵が可哀想になるわ」 人間の深層心理に働きかけ、自我と人格が崩壊するような心の傷を広げて兵士達を昏倒させる少女達―― この世界に、ヒーロー(英雄)はいない。 ~避難所・裏口~ 雲川「お馬鹿の大将」 削板「おお?」 体育館の裏手より、迎撃に移るべく歩を進める削板の背にかかる声音。 非常用避難口のライトグリーンの光の下、カチューシャにまとめられた髪を退屈そうにいじるは…全学連復興支援委員会副委員長、雲川芹亜。 雲川「行くの?」 削板「決まってるだろう!オレは根性を決めたぞ!女が根性を見せたってのに、男のオレが根性を見せん訳にはいかん!」 雲川「…普通リーダーはどっしり構えるもんだと思うんだけど?」 削板「机の前であれこれ頭を悩ませるのはお前に任せた!オレに出来る事は身体を使う事だけだ!なんせここが――ここが根性の見せ所だからな」 削板は振り返らない。鳴り響く轟音がパラパラと体育館の壁から粉を散らす。 その背を見つめていた雲川は、リノリウムの床に落ちる影に視線を落として 雲川「…お前みたいなお馬鹿な大将でも一応居てもらわなきゃ困るんだけど。だから――」 雲川の表情は俯き加減であり、薄暗がりで伺う事は出来ない。しかし削板には背中越しにも 雲川「だからとっとと片付けて――さっさと帰って来て欲しいんだけど」 雲川がどんな表情をしているのか――見ずともわかるようで。 削板「任せとけ!!!」 そう言って削板は駆け出す。外に広がる『戦場』へ向かって。 一度も――そう、今の表情の雲川を見まいと、見られたくはなかろうと。 雲川「…戻ってきたら、覚えておけバカ大将。言いたい文句が山ほどあるんだけど。溜まってる書類、全部押し付けてやりたいんだけど」 そして…雲川は独り言ちた。 雲川「――前ばっかり見てないで――たまには振り返って欲しいんだけど」 ~削板軍覇~ 削板「だァァァらっしゃァァあああああああああああああああああああああああああああ!!」 削板軍覇は駆け抜ける。 グラウンドを、敷地内を、残す所1000を切った白銀錬成の兵団目掛けて。 削板「最低だな、オマエら。やる事為す事闇討ち紛いの根性無しめ。たかだか“能力者狩り”のために――オレ達にケンカを売るってか」 根性(なかみ)のない白銀の騎士などものの数ではない。 何故ならば――削板軍覇は知っているからだ。 削板「見せてやるよ!本物の根性ってヤツを!!」 ――かつて魔術サイド全てを敵に回し―― 削板「大それた理由なんかいらねえ!」 ――学園都市最暗部にたった一人で喧嘩を売り―― 削板「曲がらず!腐らず!正面を行く男は!!」 ――さらに自分を打ち破った男――『北欧玉座のオッレルス』を知っているからだ。 削板「赤の他人だろうが…何だろうが!」 オッレルスの力は、強さは、優しさは、こんなものではなかった。 削板「傷つけられた女の子のために立ち上がる事が出来るんだ!!」 そう、この世界に英雄(ヒーロー)はいない。 いるのは、傷付きながらも今日を生きようとする者達 痛みに耐えながら明日を目指す人々がいるだけだ。 削板「――来い!!さもなきゃこっちから行くぞォォォォォォ!!!」 英雄(ヒーロー)に救われなければならないほど――自分達の世界は、弱くなどないと 削板「お 前 ら の 根 性 叩 き 直 し て や る ! ! ! ! ! ! 」 そして――削板は敵軍の真っ只中へ、敵陣の真っ正面から、敵兵を真っ向から打ち破って行く。 『世界最高の原石』と『人工の白銀』の戦いへと―― ~第九学区・『黄色い家』~ 黄泉川「いっ…生きてるじゃん?」 手塩「死、死んでは、いない」 4:16分…黄泉川愛穂と手塩恵未は追っ手を全滅させ、黄色い壁面から屋根の上半分が消失するまで戦い抜き… 今、二人は流血の後も生々しい満身創痍の状態で瓦礫の山に寄りかかっていた。 黄泉川「あ…あいつら…無事空港…ついたじゃん?」 手塩「恐らく、な。そうだと、信じ…たい」 姫神秋沙をオリアナ=トムソンに託し、二人は今頃第二十三学区まで辿り着いているかと…二人は言った。 絶え絶えでの青息吐息の中…黄泉川はニカッと笑った。 黄泉川「これで…あいつらに顔向け出来るじゃん?」 壊滅させられた第十五学区のアンチスキルの隊員達の顔が浮かぶ。 彼等は『被害者』ではなく『殉職者』と黄泉川は呼びたかった。 同時に自分に問い掛ける。彼等の無念を万分の一でも晴らせたかと。 手塩「そう、ありたい、ものだな」 徐々に白み始めようとしている初夏の夜明けを探すように手塩は空を仰ぐ。 暗部にいた頃、眩し過ぎて見上げられなかった空を、疲労困憊の中で―― フッ… 手塩「…ああ」 見上げた夜明け前、空を舞う赤髪、あの時と違う二つ結びでは無くポニーテールを靡かせ、空を見えない階段でも駆け上がるような…少女の姿が見えた 手塩「全く、眩しいな」 かつて少年院で対峙した時と似た露出度の高い服装。忘れようにも忘れられない、自分達を打ち倒した…あの能力者…名前は確か―― 黄泉川「なに寝ぼけてるじゃん?寝たら永眠確実じゃん」 そう手塩がかつて激闘を繰り広げた少女がテレポートして行った後ろ姿を見やっていると…黄泉川が肩を貸して手塩を立ち上がらせた。 手塩「そう、だな、もう、夜が明けるのに、寝てはいけないな」 そして二人の女性(アンチスキル)は互いに肩を貸し合いながら瓦礫の中を歩み始める。 黄泉川「さっ、行くじゃん」 手塩「ああ、行こう」 間もなく昇る、朝陽に向かって――

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