とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド) > 08

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~第六学区・アルカディア~ 姫神「………………」 結標「(気まずいわね…昼間とはまた違った具合に)」 17:16分。結標淡希は水先案内人として、姫神秋沙は避難所の学生達に混じって学園都市最大のスパリゾート兼総合アミューズメントパーク『アルカディア』に来ていた。 二人は今、ほとんど貸し切りも同然の薔薇の花片が揺蕩うローズバスにて一日の汗を流していた。しかし… 結標「(無理もないわね…あんな事があった後にあんなのに会っちゃ…)」 常日頃に増して姫神が寡黙なのは他でもない…新たな水先案内人として外部より雇い入れられたオリアナ=トムソンの存在に拠る所が大きい。 途中、月詠小萌の取りなしとオリアナ本人からの謝罪があったとは言え… 間違いで標的にされ勘違いで血塗れにされた相手に顔を合わせて平然としている方がおかしいのだから。 結標「(…こんな時まで外さないだなんて…よっぽど大切な物なのかしら)」 初日からチラつく胸元に下げられた十字架…インデックスより譲り受けられた『歩く教会』の一部であるそれが姫神の吸血殺し(ディープブラッド)を抑制するために必要な霊装である事を結標は知らない。 もちろん海原、土御門、そして最終戦争を通して魔術と魔術師の存在はそれなりに理解している。 他ならぬオリアナ自身も魔術師であるとも引き合わされた時に紹介された。しかし チャプッ… 姫神「………………」 結標「(ひゃっ…くっついてるくっついてる…すっ…すごく…近い)」 湯船の中でポニーテールに結い上げた姫神が結標の鎖骨辺りにそののぼせたようにほんのり赤い美貌を寄り添わせていた。 細い二の腕が、華奢な二の足が、あたたかなお湯と共に結標の身体にぴったり貼りつく。 結標「ど、どうしたの?の、のぼせたのなら上がる?」 姫神「…いい。このままで。いて」 ようやく発した声音は、響く浴場である事を鑑みても硬質で強かった。 まるで“黙って肩を貸せ”と言われたように感じて結標はビクッと身を震わせた。 結標「(なっ、何よ…年下のクセにそんな言い方ないじゃない…心配して損したわ)」 そう内心で思いつつも身体を預けて来る姫神の、ローズバスに濡れ光る肢体をつい見やってしまう。 うっすら汗ばんだ項と、流麗な鎖骨が見て取れた。 腰の細さならば自分の方が勝っていると言う自分があったが、肩のか細さならば姫神の方が小さかった。 結標「(この娘の身体…初日にちょっと見たけど…やっぱり綺麗よね)」 姫神「結標さん。そんなに見られると。落ち着かない」 結標「へっ!?」 そんな結標の視線を不躾なものと受け取ったのか、姫神がやや尖った声音で告げる。 パチャッ…と薔薇の花片の一つをお湯と一緒にすくって、零して。 姫神「私ばかり見られるのは。とても嫌なもの」 結標「ごっ、ごめんなさい…」 姫神が苛々して見えたのはこれが初めてである。 この五日間、そんな素振りはどんなに疲れていても見せなかったのに…それが本来強気で勝ち気な結標の気勢を削いだ。 怒鳴られた事すら結標が自分自身を追い込んでしまったあの中庭の一件以来だった。 結標「(昼間は…あんなに優しくしてくれたのに)」 年下に主導権を握られ振り回されるのは歯痒った。 しかしそれ以上に――結標は姫神に嫌われる事にどこかで怯えている自分を自覚していた。 結標「(なにか…なにか話題…そうだ)」 だからつい、重い空気を振り払おうと、話題を変えようとして口を開いてしまったのだ…姫神の触れざる領域へと 結標「そのクロス(十字架)いつもつけてるわよね…ちょっと貸してもらってもいい?」 ~ローズバス・姫神秋沙~ 柄でもない情念の熾火を姫神秋沙は自覚していた。 それはオリアナ=トムソンとの邂逅によって蘇る流血の記憶。 それに連鎖して甦る家族を、隣人を、村落を全滅させた自身の身体に流れる忌まわしい血が呪わしいから。 姫神「(このお風呂は。まるで血風呂)」 浴場に揺蕩う薔薇の花片がまるで血のようにすら見える。 しかしそれらを結標に告げるつもりはなかった。 死に絶えたはずの感情が、結標に八つ当たりのように向かっている今は特に。 姫神「(結標さんの身体。少し傷がある。綺麗なのに。可哀想)」 姫神は知らない、白井黒子の鉄矢や自らのコルク抜きが突き刺さった痕。 こうやってマジマジと裸の付き合いをしているといっそうその華奢な肢体が描く曲線を意識せざるを得ない。 昼間、図書室で結標を抱き締めた時腕で感じた細さを目で確認するように。 姫神「(指で押せば。埋まってしまいそう)」 湯気の中にも少し斜めに視線を漂わせる結標の相貌が近く見える。 卵形の自分とは異なる凛々しくシャープな輪郭と、昼間自分が奪った唇が。 そして肌から伝わってくる柔らかくスベスベした感触も。 姫神「(手を伸ばせば。届く距離)」 不意に、結標に触れてみたくなって見た。肩に身体を預けているだけはまるで物足りない。 指先で、手の平で、確かめてみたくなった。 オリアナと再会し蘇る流血の記憶、流血の記憶から連鎖して甦る…脳裏に焼き付いて離れない、あの日の惨劇から目を逸らしたくて…なのに―― 結標「そのクロス(十字架)いつもつけてるわよね…ちょっと貸してもらってもいい?」 それは、女同士ならばなんの事はない他愛のないやり取りだったはずだった。 いつもの姫神ならば『大事な物だからダメ』の一言でやり過ごせたハズだった。しかし―― その一言が、揺り戻しかけていた姫神の針を振り切らせた ~ローズバス・結標淡希~ 結標「ひ、姫神さん?」 姫神「………………」 結標が十字架の事について言及すると、いつの間にか姫神が自分の方へ向き直っていた。 熱を持たぬ黒曜石の瞳が、どこか底冷えするような暗い光を湛えて。 姫神「どうしたのよ一体!?私、なにか貴女を怒らせるような事した?なら言ってよ!黙ってられたらわからないじゃない!」 結標もまたそんな姫神の態度に苛立ちを覚えていた。そんなに大事な物(クロス)ならば言えば良いではないかと。 表情が読み取りにくい、口数が少ない、何を考えているかわからない。 普段ならば気に止めないそれらの要素すら今は腹立たしく思えて―― 姫神「淡希」 結標「…!」 ゾッとするほどひび割れた声音で名前を呼ばれ、結標は蛇に睨まれた蛙のように竦み上がった。苛立ちすら忘れて。 姫神の指先が結標の両頬に這うように添えられる。あたたかいお風呂の中のハズなのに、冷たく感じられる声音。 姫神「舌を出して」 結標「…やめてよ…ここどこだと思ってるのよ…」 姫神「淡希」 結標「やめて…やめてよ姫神さん…誰か入ってきたら…んっ…」 冷たい唇が重なった。初めての時とは違う、さっきの時ともまるで違う冷たいキス。 ヌルリッ…と冷たい唾液と冷たい舌の感触。舌から逃げようとして…噛まれる。 ゆっくりと味わうように、ねっとりと絡めるように。 結標「(やめて…やめてよ…どうしてこんな事するの…)」 添えた指先で上向かされ、艶消しの黒真珠のような視線が見下ろしてくる。 姫神はキスの時目を閉じない。涙を滲ませる結標をいたぶるように。 ネチャッ、ヌチャッと深く冷たいキスが続く。ひとかけらの愛情もひとつまみの温もりも伝えない、巧みな舌使いと残酷な口づけ。 姫神「綺麗…」 ツッ…と輝く架け橋が切れるのを見送る事さえせず、姫神は泣き濡れて潤んだ結標の瞳を見下ろす。 拒もうとする手が震える。逆らえば何をされるかわからない怖さが今の姫神にはあった。 結標「もう…やめてよ…姫神さん…もう…止めてよ!!」 バチャンッ!とお湯を叩いて結標は小さく叫んだ。 その飛沫が姫神の目元まで飛ぶ。しかし姫神は構う事なく。 姫神「――私達。友達でしょう?」 氷水を浴びせるような一言。その一言にもう結標は何も言い返せない。 友達だと言う大義名分を振りかざされては、そうでないと反論すれば認めてしまうような物だ。 今日、木山春生との対話で朧気ながら自覚してしまった感情を。 ――結標淡希が、姫神秋沙に対して芽生え始めている思いを―― ~ローズバス・姫神秋沙2~ 姫神「――私達。友達でしょう?」 姫神秋沙は震えていた。自分は何を言っている?なぜこんなにも結標を苛み、苦しめるとわかっている言葉の刃を突きつけるのか。 自分自身に向かう冷えた怒りが滲み出て、関係ない結標まで矛先を向けて、傷つけて。 姫神「(おかしい。私もおかしい。謝らなきゃ。謝らなくちゃ)」 家に上げてくれた優しい結標、ご飯を美味しいと喜んでくれた結標。 つまらない事で怒る結標。自分自身に悲しんでいた結標。自分の肩で眠っていた結標―― その結標をまるで弱い者いじめをするような暗い喜びに酔うままに虐げた。 姫神「(どうして。どうしてこんな事をしたの。私は)」 謝らなくてはいけない。許してもらえなくてもひっぱたかれても。 家から追い出されても同じことかそれ以上にやり返されても…謝らなくては―― ――うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね―― ~ローズバス・結標淡希2~ 結標「うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね」 結標淡希は、泣き顔をこらえて精一杯の笑顔で見下ろしてくる姫神を見上げた。 その様子に、まるで姫神は絶望したように目を見開いて言葉を失っていた。 結標「(わかるわよ…わかってる…貴女、震えてるじゃない)」 結標には今姫神が何を考えているかはわからない。 姫神が過去の惨劇にその神経をささくれ立たせている事も伺い知れない。 それでもわかる。姫神の手が震えている事は。 結標「(そうよね。気持ち悪いわよね。女の子が女の子を好きになったかも知れないなんて気持ち悪いわよね。だからこれは、私に対する罰なんでしょ?)」 姫神の震えを、結標はそう受け取った。当の姫神は、謝る機会を失った瞬間に呆然としている事も知らずに。 結標「(でも、友達ならいいんでしょう?友達でなら側に居させてくれるって、そう言ってくれてるんだよね?姫神さんは優しいものね)」 結標は知らない。今自分が姫神に向けている精一杯明るい笑顔が、瞳が、姫神の暗さを黒く塗り潰すほど冥い事を。 結標「(最初にキスしたのは私に気を使って、二度目にキスしたのは私が泣きそうだったから…今キスしたのは、調子に乗った私への…罰なのよね?)」 ~ローズバス・二人~ 結標「うん。そうだよね姫神さん…私達、友達だよね」 その一言は姫神の中に渦巻いて黒い炎など容易く飲み込むほど昏い洞穴のような声だった。 友達だから大丈夫、好きと言っていないから安全圏、そんな両者互いに抱えきれない思いが生んだ、最悪の逃げ道―― 姫神「…そう」 互いに無自覚の中で、無意識の奧で、互いに惹かれ始めていた事を認められずにいた。 二人にとっての『最善』の道を模索するより、『最悪』から逃げ回る分水嶺を選んでしまった事を姫神は感じとっていた。 姫神「私達は。友達」 結標「そうよねー涎垂らすわ吐いちゃうわ…キスまでしちゃう大親友だもの」 薔薇の花片が貼りつく、互いの身体を抱き締め合いながら…結標淡希は心の中で叫んだ。 ごめんね木山さん。 私、やっぱりダメだったみたい。 ねえ小萌 私、友達出来たのよ。もしかして初めての それもね、親友。一緒に暮らしてるの。まだ一週間も経ってないんだけど。 野菜炒めも作れない私と違って、料理がスッゴく美味しいの。太っちゃいそう。 ねえ、復興支援が落ち着いたらさ、三人で焼き肉しようね?約束通り!私、奢るよ。 小萌と 私と 姫神さんの 三人で ~第六学区・アルカディア内ゲームセンター~ 姫神「まっ。待って結標さん。早っ。くて。ついていけな」 結標「遅い遅いわ!貴女には速さが足りないのよ!ほら私に合わせて!」 御坂「あの二人仲良いわねー」 白井「…見ていられませんの…」 18:09分。結標淡希と姫神秋沙はスパリゾート兼総合アミューズメント施設『アルカディア』内のゲームセンターにいた。 水先案内人としての護衛・護送の仕事は他のボランティアが交代で引き継いでくれたからだ。 御坂「確かにあれはないわねー。なんかもうイチャイチャアツアツ過ぎて見てらんないって言うか(アイツとあんな事してみたかったなー…って何考えてんだろ私)」 白井「(わたくしもお姉様とあんな風に…って違いますの)…そういう事ではありませんの…」 学園都市謹製のダンレボでAvril Lavigneの『Girlfriend』のミュージックに合わせて踊る二人。 手と手と繋ぎ、指と指を絡ませて、身体と身体を合わせて学園都市限定協力プレイに興じる。 正確なステップだがスローな姫神を、大雑把なステップだがスピーディーな結標が補う様は確かに『女友達』同士の息の合ったそれだった。しかし 白井「(わたくしにはわかりますのよ。結標さん)」 一見、ガールフレンド(彼女)同士のように振る舞ってみせても、無理をしているのが白井には見て取れた。 女同士とはそういうものだ。水面下で何があろうと表面上では明るく仲良く振る舞う。 白井とて彼女らと同じ『女』なのだから。しかし 御坂「私達もあの娘(結標)と色々あったけど…人って変わるもんねーホント」 白井「(あの類人猿…ではありませんわ殿方の鈍さがお姉様に移ってますの)」 発電所での仕事を一時シスターズが肩代わりすると言ってくれたので御坂美琴もまた『アルカディア』に気分転換に来たのだ。 しかし白井黒子もまた気付けずにいた。御坂美琴の変化に。 ~ゲームセンター・御坂美琴~ 御坂「(次はLady GagaのPokerface?馬鹿ね。素直に泣いちゃえばいいのに)」 『残骸』事件以来となる目視での結標淡希の姿に御坂美琴の胸中は複雑であった。 『シスターズ』が肩代わりを申し出てくれるまでに個性や感情に芽生えてくれる事は嬉しくもある。 しかし御坂は未だ行方不明の『一方通行』を許すつもりはないし、その元凶となったツリーダイアグラムの『残骸』を用いようとした結標に対しても胸裡は混迷を極める。しかし 御坂「(選曲でいちいち気持ち伝えるくらいなら、はっきり言っちゃえばいいのよ…私みたくならない内に)」 『一方通行』『浜面仕上』『もう一人の男』と共に未だ行方不明の『上条当麻』への思いを自覚した時、御坂は少し大人の女になれた気がした。 少なくとも顔で笑って心で泣く結標淡希の、笑顔という名のポーカーフェイスが透けて見えるぐらいには。 御坂「…黒子!私達もやるわよ!そこの二人!勝った方がジュースよ!」 黒子「はっ、はいですのお姉様!それはもうお互いを知り尽くしたわたくし達が負けるはずございませんの!」 結標「いいわよ?私達が買ったらジュース?そんな甘い罰ゲームなんてつまらないわ。どうする姫神さん?」 姫神「貴女達が負けたら。吹寄さんオススメの青汁。ゆっくり飲ませる。一口ずつ」 御坂・白井「「一気じゃなくてなぶり殺し!?(ですの!?)」」 少なくとも、何かを忘れたい気持ちは ~アルカディア内・ロビー~ 生徒A「(マスクメロン…)」 生徒B「(スイカップ…)」 生徒C「(オレ貧乳スキーなんだよな…)」 オリアナ「ああん♪サウナより熱い視線にお姉さん汗以外のが出ちゃいそう」 ステイル「そんなに熱いのが好きなら手を貸すが?」 一方、オリアナ=トムソンとステイル=マグヌスは『アルカディア』のロビーにいた。 こちらに熱視線を向けてくる男子学生らを含めた『能力者』達を護送するために。 オリアナ「あら?貴方の恋人みたいに子供っぽいが方がお好み?ならお姉さん出る幕ないわぁ…」 ステイル「どっちの事だ!違う!!何の話だ!!物見遊山に来たならもう一度処刑塔にぶち込まれに帰れ!!」 イライラと煙草のフィルターを噛み潰すステイル。ケラケラと笑うオリアナ。 『刺突杭剣』絡みでの一件が未だにステイルの尾を引いているのか空気は一方的に最悪である。 しかしオリアナは油断なく生徒達を見渡しながら オリアナ「うふふっ…お姉さんだってプロの端くれだよ…この間のも含めて、もう来るまでに学園都市のほとんどの地理は頭に入れて来たわ」 ステイル「当然さ…追跡封じ(ルートディスターブ)が今更名前負けだなんて笑えない冗談だ」 オリアナの頭の中には地図が役立たなくなった第七学区すらしっかり入っている。 生徒達を逃がす逃走経路、能力者狩りの連中が来るであろう侵入経路、いざとなれば避難所の全員を救う避難経路に至るまでに。 逃走のプロとは言い換えれば『どこをどう行けばどうなるか』を知り尽くしている事に他ならない。 既に絵図に起こされたそれらは『彼等』に手渡されている。そう―― ~第七学区・崩落の小径~ フレンダ「麦野ー!結局、なんか聞き出せちゃったりした訳?」 麦野「ああ?ゲロす前にくたばりやがった。手応え無さ過ぎて笑えてくるわ。こんなのしかいないのかっての!プチプチプチプチスライム潰しにわざわざ私が出張ってくるまでもなかったわね」 絹旗「話すも何も、頭と内臓以外残ってないじゃないですか。麦野昔より殺し方超グロくなってませんか?前に浜面と見に行った超C級スプラッターみたいです」 フレンダ「結局、また麦野と一緒に仕事がしたかったって訳よ!ああ良い匂い…麦野香水変わんないね…これフラゴナールのオードゥボヌール?」スリスリ 麦野「きーぬはたぁー。今はアンタがリーダーなんだから敬語止めなよ。あとフレンダ、くっつくな返り血つくよ」 一つは『アイテム』である。オリアナが起こしたハザードマップを元に、その暴虐とも言うべき戦闘力で侵入者を屠ったのは今し方の話である。 もう一つは『スクール』であり、彼等は避難所の防衛に当たっている。 夕闇に乗じて何人少数精鋭のアリ(傭兵や魔術師)を送り込もうが、単独の軍隊相手に渡り合えるゾウ(レベル5)には無駄だと言わんばかりに。 フレンダ「結局、学園都市の防衛機構が復活するまでの勝負な訳よ!あーでももうただ働きは嫌な訳よ…夏の新作バック買えなーい!」 絹旗「超久しぶりで超鈍っちゃいました。って言うか超力加減間違えて超グチャグチャです。アルカディア超行きたかったのにー…麦野とまたサウナ対決超したかったです」 麦野「絹旗、超超テンション高過ぎ。フレンダははしゃぎ過ぎ。変わんないわねーアンタ達…なんだか私だけ老け込んだみたいでちょっと憂鬱ね」 『能力者狩り』も学園都市の防衛機構も戦火の痛手から立ち直れば直に止む。止まざるを得なくなる。 今ですら行方不明だった第六位(ロストナンバー)と『八人目のレベル5』となった滝壺理后が学園都市全域を監視しているのだ。 避難民に紛れてスパイを送り込もうにも『心理掌握』の目を盗む事は出来ないし、今更ハッキングしても御坂美琴の目を欺く事は出来ないのだから。 フレンダ「結局、この死体どうする訳よ?絹旗、刻む?」 絹旗「超埋めます!夏場なんで匂うと嫌ですから。麦野は?」 麦野「焼く。欠片の肉も一滴の血も一掴みの灰も残さずに。さっ、とっととゴミ片付けて帰りましょ…今夜はお昼のビーフカレーの残りにするか」 絹旗「あれだけ超殺しまくっといてよくお肉食べれますね麦野…さすが肉食系女子。フレンダは?」 フレンダ「もちろん!サバカレーな訳よ!」 麦野「滝壺にもなんか食べさせてあげるおやつ探しに行く?他の学区に」 絹旗「麦野、服服。服変えてからいきましょうよ。滝壺さん何超好きでしたっけ?」 フレンダ「麦野麦野!私にもなんか買って欲しい訳よ!」 『殺し』は『アイテム』と『スクール』が担当し、それ以外は各々の領分で戦う。 一方通行を除けど、レベル5全員が集結するこの第七学区は難攻不落の要所となっているのだ。そして麦野も 麦野「(殺し方がグロくなったぁ?引退したからって舐めてかかる肥溜め共をドブさらいするときゃガッツリ[ピーーー]わよん)」 暗部としての仕事は一年近いブランクがあったが、殺しそのもののスパンは一週間と空いていない。 引退して腑抜けた訳でも、避難所での嫌いな馴れ合いで日和った訳でもない。 愛した男に腰砕けにされ骨抜きにされた部分は否定し切れないが。 麦野「(だから…早く帰ってきてね)」 狩りはメスライオンの仕事。そう麦野沈利は割り切っている。 そういう意味で結標が麦野に抱いた『丸くなった』という印象は間違いだった。 ただ無駄な贅肉を削ぎ落とした、シンプルな殺し(こうどうようしき)に切り替わっただけ。 この日傭兵が14人、魔術師が8人狩り殺された。 『アイテム』というメスライオンの群れによる爪と牙で。 ~第六学区・『アルカディア』ゲームセンター~ 結標「ゼー…ゼー…」 姫神「ハー。ハー」 御坂・白井「「 」」 御坂美琴・白井黒子コンビは罰ゲームの青汁でダウン。 勝者たる結標淡希・姫神秋沙チームは協力プレイから対戦プレイへ移行していた。 結標は青息、姫神は吐息、負けず嫌いな二人のダンレボ対決は互いに五勝五敗。 しかしその意地の張り合いも次のゲームで幕を下ろされるだろう。 結標「選曲、Janne Da Arcの“ヴァンパイア”」ポチッ 姫神「選曲。ジャンヌダルクの“mysterious”」カチッ ローズバスでの出来事から互いに目を逸らす。今はただ体を動かして発散したかった。 互いを傷つけるような愛撫が、心を蝕む痛みを思い出させるから。 友達より近くて恋人より遠く、親友より遠くて他人より近い二人の距離。 結標「(絶対許さない…貴女だけは、貴女だけは)」 拒めなかった自分も悪い。逆らえなかった自分も悪い。抗えなかった自分も悪い。 そう思いながら結標はステップを踏む。 姫神「(良くも。この私を壊してくれたわね)」 傷つけるようなキス、痛めつけるような抱擁、投げつけるような言葉でなぶった自分が悪い。 そう思いながら姫神はタッチを伸ばす。 結標・姫神「「((貴女がいなければ私はまだどうにでもなったのに))」」 相手への罪悪感と自分への内罰感が渦巻き、愛情と友情と憎しみと悲しみが逆巻く。 女同士の恋愛は、時に男女同士の恋愛よりも遥かに凄惨で救いのない物だと二人は知らない。 未だ入口で足踏みする二人ですら、その入口はひどく厚く高い扉に思えた。 結標「姫神さん」 姫神「結標さん」 どちらが悪くどちらが正しいなどと言う二元論はどのような恋愛であれ存在しない。 あるのは1(罪)と0(罰)の二進法が織り成す、共犯者同士の罪罰だけ。 結標・姫神「「――私達友達だよね――」」 それは肉体的な共依存による精神的な共倒れにも似ていた。 美しくなどなく、清くなどなく、正しくなどなく…二人は危うい針の上でダンスを刻む。 道化師(ジェスター)のような泣き笑いを心に秘めた結標淡希。 道化師(クラウン)のような笑い泣きすら出来ない姫神秋沙。 道化師(ピエロ)のような交わらない長針と短針で互いを見つめ合う二人。 二人の日付は、まだ変わらない。

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