【第十二話・出現! トワイライトゾーン!!】

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 シュウザー城……  学園都市の秘境に潜むそれは、無数の廃墟が連なり、折り重なって形成された一つの要塞。  窓と窓、屋上から屋上へと橋が渡され、建物の内と外が交互に入り乱れている。  自分が先に進んでいるのか、それとも、更なる混沌の中へと迷い込んでいるのか。  方向感覚を乱された侵入者は自分の存在を見失い、闇の中に潜む魔物達に葬られることになる……  その魔城へと足を踏み入れたアルカイザー、御坂美琴、そして黄泉川を初めとしたおよそ百人の警備員達。  この夜。  学園都市における、アルカイザーと四天王「最後の聖戦」が始まろうとしていた――  【第十二話・出現! トワイライトゾーン!!】 黄泉川「第一から第三部隊まではここで待機! 残りはアルカイザー、御坂美琴を先頭に突入開始!!」  黄泉川の檄が飛ぶ。  一部隊の人数は十余名。三部隊・三十人がシュウザー城の出入り口に待機し、突入部隊の援護に回る。  そして、下水道で体力を温存したアルカイザー、御坂美琴両名が先陣を切り、シュウザー城攻略作戦の幕が上がった。 美琴「私は最初っから全開で行くわ……アルカイザー。アンタは何が何でもシュウザーって奴を倒しなさい」 アルカイザー「はい! 行きましょう!」  二人が階段を駆け上り、警備員達が後に続いた。  唯一の出入り口である鉄の扉に向かって、まずは開戦の狼煙をあげる。  キンッ……!  小さな金属音。  そして、ノック代わりの超電磁砲が放たれた。  扉の奥に待機していた戦闘員達が木っ端微塵に砕かれて吹き飛ぶ。 アルカイザー「……これ、建物崩れませんよね?」 美琴「全開で行くって言ったでしょ?」  遂に、いくつものわだかまりを乗り越えた二人のヒロイン。  「悪の組織を倒し、友達を助け出す」  共通の目的を持ち、共に信頼を得たこの二人に、果たして敵があるだろうか?  あるとすれば、それは――  城内は入り組み、扉一つ隔ててまったく別の場所へと通じている。  分かれ道のたび、警備員を一部隊ずつ調査に向かわせ、残った面子で先へと進んだ。  何故こんな大人数の警備員を導入することが出来たのか? 黄泉川「これだけの規模の基地を、余所者の連中がこれ以外に作れるとは思えないじゃん」 鉄装「ということは、ここがブラッククロスの本拠地ですか……?」 黄泉川「かも知れないじゃん!!」  少なくとも、ここを叩けばこれ以上の活動を続けることは出来ないだろう。  つまり警備員達にとって、これは学園都市における事実上の「ブラッククロス殲滅作戦」なのだ。  これで一連の事件に終止符を打つことが出来るかもしれない。  その事実が二百を超える警備員達の心を団結させ、上層部への伺いも立てず即座に出撃するという決断をさせた。 黄泉川「各部隊! 生徒を見つけたらすぐに連絡を入れて脱出しろ!!」  そして、これだけ大規模な基地であれば、おそらくは攫われた学生たちが捕らえられているはず。  彼ら警備員の第一の目的は、被害児童の救出だった。 黄泉川「アルカイザー! 御坂美琴! あんまり離れすぎるな!!」 美琴「大丈夫ですよ! こんなの、全然相手にならないんですから!!」  やれやれ、と呆れつつも、黄泉川は安心していた。  二人は、四天王とかいう化物を一蹴してしまうような実力者なのだ。  余計な心配か。  それに、彼女らが居る限り、自分達は行方不明者の捜索に専念出来るだろう。 黄泉川「アルカイザー! 御坂美琴! あんまり離れすぎるな!!」 美琴「大丈夫ですよ! こんなの、全然相手にならないんですから!!」  美琴は、そう言って前方に電撃を放った。  無数の戦闘員たちが、その一撃で撃破される。  だが、その陰に隠れていた、青い獣の群れが飛び出してきた。  さそりの尾、蝙蝠の羽、そして犬の体。人のような顔で、長い舌を出しニヤニヤ笑っているように見えた。 美琴「ちっ!」  獣の群れは美琴の電撃を察知していたのか、ひらりとかわして迫ってくる。  狭い廃墟の中は、美琴たちには歩き辛く、逆にああいった柔軟な生物には恰好のフィールドだ。  獣の群れは、壁を蹴って立体的に跳び回る。  電撃をことごとく回避し、その爪を突き立てようと、美琴目掛けて飛び掛った。  『カイザーウイング!!』  紅い風が獣の体を真っ二つにした。  上半身と下半身に分けられた獣が空中で爆発し、それに巻き込まれたモノが誘爆した。 アルカイザー「御坂さん!」 美琴「大丈夫よ。ありがとう……ねぇ、今の見た?」 アルカイザー「爆発ですか? 不自然でしたよね……?」 美琴「こいつら、腹ん中に爆弾が入ってるわね……!」 アルカイザー「そんな……!? じゃあ、特攻!?」  もはや、敵は手段を選んでいない……!  通路の奥からは次々に、爆弾つきの獣の群れが現れる…… 美琴「とにかく……敵を接近させないことね……!」  意識を戦いに戻し、美琴が獣達を睨む。  アルカイザーはレイブレードを消し、両手に光の弾を用意した。 美琴「おうりゃぁあ!!」  美琴から放射状に電撃が放たれ、獣の半数を仕留めた。  電撃を回避した獣達は空中に跳びあがる。 アルカイザー『アルブラスター!!』  それを、アルカイザーの光の弾丸が撃ち抜いていく。  爆弾が起動し、美琴の攻撃で一箇所に誘導されていた獣達が大爆発を起こした。  壁が破れ、そこから外の風景が覗ける。 美琴「ここから隣のビルの屋上に出れるわね。 ショートカットかしら? どうする?」 アルカイザー「……たぶんですけど、シュウザーはその先に居ます」  奴の性格を考える。  一言で言えば「卑怯者」。手段を選ばず、危なくなれば迷わず逃げる。  私たちを呼び出しておいて、おそらく自分に危険が迫った時のため脱出の準備をしているはずだ。  この間の戦いでは、突如現れたヘリで逃走した。  空に逃げられては私には追うことが出来ないからだ。  そして今日も、私たちは地上ルートでここに来た。  空の足は用意していない。 アルカイザー「アイツの脱出経路は、たぶん空です」 美琴「オッケー。じゃあ上に進めばいいのね」  そう言って、美琴は大胆にも壁の穴から飛び出した。  危なげなく隣のビルの屋上に着地する。 アルカイザー「ちょ、ちょっと!? そんな無用心に……!」 美琴「ちんたらしてる暇ないでしょ? さっさと来る!!」  ここが敵の根城だと分かっているんだろうか……?  しかし、その気持ちも分かる。  ……順調すぎるのだ。 美琴「……何?」  屋上の中心近くまで進んだ美琴が、何か違和感を感じた。 美琴「……!? 来ちゃ駄目!!!」  美琴の足元が膨らんだ。  下から、何かが屋上を押し上げているのだ。  ボゴンッ! ボゴンッ! と、ひび割れて持ち上げられるコンクリートの床。  そしてついに―――― 美琴「うわぁあああ!!?」  屋上のど真ん中を貫通し、緑の巨人が現れた。  額に一本の角を生やし、ベルヴァ以上の巨大を誇るその肉体は、所々に分厚い装甲を装着している。  顔の中心に、一つだけ大きな目が付いていた。  その衝撃で、美琴は天高く打ち上げられた。  屋上の瓦礫に含まれた鉄骨に磁力を流し、何とか体勢を整える。  しかし、着地はどうする?  「グオォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」  いや、まずはこの巨大な怪人を何とかしなければ、落下する前にひねり潰されかねない。  緑の巨体が宙高く飛び上がり、打ち上げられた美琴を追撃する。  振りかぶられる拳。  一緒に吹き飛んだ瓦礫を磁力で操り、美琴はそれを防ぐ。 美琴「……ぐ!!」  巨大なコンクリートの塊が、たった一撃で粉砕された。 アルカイザー「御坂さん!」  アルカイザーが美琴を追って飛び上がり、彼女を受け止めて着地した。  単眼の巨人も着地するが、その重量に耐え切れなかった地面が崩壊し、そのままビルの中へ沈んでいった。 美琴「な、何よあれ!?」 アルカイザー「自爆の次は、自分達の基地を壊しながら暴れてる……」 美琴「本当に、もうなりふり構わず倒しに来てるわけね……!!」 黄泉川「おい! お前ら!!」 アルカイザー「こっちは危険です! 来ないで下さい!!」  今にも駆けつけて来そうだった黄泉川をいさめ、二人は次の襲撃に備えた。  まるで巨大なもぐら叩き。  次は、どこから現れる……?  足元に注意する。  さきほどの応酬を見るに、別に能力自体は大したこと無い。  そもそも、四天王であるベルヴァでさえ、今のアルカイザーたちには手も足も出ないのだ。  正攻法で勝てないからこその不意打ち。  なら、その策を破ってやればいい。 アルカイザー「出てくる前に叩き込めば……」  アルカイザーの右手に光が灯った。  気配を感じた瞬間に、渾身のブライトナックルを叩き込む。  静まり返る屋上。 美琴「……」  美琴も、体を帯電させて迎撃態勢に入っている。 美琴「……?」  それが幸いした。  電磁波の流れがおかしいのに、いち早く気付けた。 美琴「アルカイザー!! 後ろよ!!!」 アルカイザー「!?」  背後にそびえる、この屋上よりも背の高いビル。  その壁をブチ破り、単眼の巨人が姿を現した。 アルカイザー「しまっ――――!?」  予想しなかった方角からの攻撃。  反応が遅れ、敵の接近を許してしまった。 美琴「間に合えぇええ!!」  美琴がアルカイザーの前に飛び出し、そして―――― アルカイザー「――――」 黄泉川「どう……なった……?」  そして、美琴と巨人の姿が忽然と消えた。 アルカイザー「御坂……さん……?」  呼んでも、どこにもその影は無い。  消滅。  消失。  何故? アルカイザー「御坂さん!! 返事してください御坂さん!!!」  「無駄だアルカイザー……!」  巨人が飛び出してきた背の高いビル。  その頂点に、満月を背に受けて男が立っていた。  銀の髪を逆立て、鉛色の腕を胸の前で組んでいる。  二メートルを超える巨漢でありながら、真っ向からの戦いを拒否し策を弄する卑劣漢。 アルカイザー「シュウザァァアアア!!!」  ブラッククロス四天王・シュウザーが、ついにその姿を現した。  …………  ……  ……ここは?  気が付くと、目の前が真っ暗になっていた。  まさか死んだのか?  たったあれだけのことで?  ……  いや、違う。  体の感覚はある。  自分がどこかに立っていることも分かる。  何かぶよぶよとした足元の感触……  ……あの怪人は?  アルカイザーは?  黄泉川さんたちはどうなったの?  『ようこそ御坂美琴……』  どこからともなく声が響く。  誰……!?  『私はブラッククロス。ブラッククロス首領だ』  …………!!? 400 名前:以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga] 投稿日:2010/12/06(月) 00:16:52.63 ID:QiKIqhoo (22)  へぇ……首領さんが直々に相手してくれてるってわけ? 首領『そうではない。貴様の相手は、その目の前のサイクロップスだ』  サイクロ……?  そして、唐突に視界が戻った。 美琴「……!? な、何よこれぇ!!?」  いつの間にか、周囲は暗闇に包まれている。  目の前に立っているのは、おそらく『サイクロップス』という名の単眼の巨人。  どうやらブラッククロス首領の姿は無い。  そして足元には―― 美琴「悪趣味ここに極まれり……って感じね」  巨大な円盤状の眼球が、唯一つ、この暗闇の中に存在する「床」になっていた。  それらの光景が、何重にも「ブレて」折り重なるように見える。  ぶよぶよしてたのはこの目玉の感触ってわけね……  それにしてもこの「ブレ」は……残像ってワケでもないし、世界がゆっくり揺れているような――  うげ……気持ち悪くなってきた…… 首領『ようこそ御坂美琴。不思議空間「トワイライトゾーン」へ』  トワイライトゾーン……?  つまり、どこかへ閉じ込められたのか?  冷静さを失わないように、ゆっくりと深呼吸をする。  ……アラクーネの「術」を体験しておいて良かった。  この状況でも、まだ頭の回転は鈍らない。 美琴「つまり、私は『術』か何かでここに閉じ込められてるわけね……?」 首領『そういうことだ。流石に物分りがいいな』 美琴「で? どうやったらここから出られるわけ?」 首領『何、簡単だ。術の核となっているサイクロップスを倒せばいい』 美琴「へぇ……答えてくれるんだ……?」  舐められているのか……  いや、違うな。 美琴「悪いけど。あんなのが相手じゃあ私の足は止まらないわよ?」  時間稼ぎ……  私を倒すんじゃなく、私とアルカイザーをバラバラに戦わせるのが目的か。 首領『どうかな?』 美琴「私を止めたいなら、四天王クラスを連れてきなさい……!!」  一閃――――  迷うことなく、初手で超電磁砲を放った。  こんな茶番に付き合うつもりは無い。  あの怪人を瞬殺して、アルカイザーたちに合流する……! 美琴「うそ……?」  しかし、全力の超電磁砲を受けた巨人は平然とそこに立っていた。 美琴「そんな!?」 首領『言い忘れたがな……』  トワイライトゾーン内では、ブラッククロスの怪人の能力は三倍に膨れ上がる……!! 美琴「三倍……?」  それはつまり、単純に「攻撃力」も「防御力」も、さきほどまでの三倍の性能になったということ?  ……一体どういう仕組みなのか。 美琴「何でもありなわけ? その『術』っていうのは……!?」 首領『ではな。健闘を祈る』  そして、ブラッククロス首領の声はそれっきり聞こえなくなった。 美琴「いつか引っ張り出してやる……!!」  その言葉がきっかけになったのか。サイクロップスが動き出した。  ビルを粉々にして移動する馬鹿力。その三倍の攻撃力だという。  それだけは、確実に回避しなければならない。  美琴は身をかがめ、慎重に敵の動きを観察した…… 美琴「……っ! 速い!?」  サイクロップスの巨体は尋常でない速度で加速した。  まるでアクセルを全開にした大型トラック。  電磁波で動きを察知していなければ、今ごろ轢死体が一つ出来上がっていただろう。  サイクロップスの突撃を横に飛び退いて回避した美琴は、電撃による攻撃を試みる。 美琴「いくら頑丈ったって!!」  しかし―― 美琴「うわわっ!?」  そんなものを意に介さず、巨人の腕が振るわれた。  美琴の電撃はサイクロップスの皮膚を貫けない。 美琴「超電磁砲も効かない……電撃も効かない……!?」  他に攻撃手段は?  例えば、ここに巨大な鉄塊でもあれば、さっきとは比べ物にならない全力全開の超電磁砲が撃てる。  例えば、ここに大量の砂鉄があれば、それでチェーンソーを作り出してあの皮膚を切り刻める。  だが、ここには何も無い。  無限に続く闇と、ただこちらを見据える巨大な眼球。 美琴「歩きにくいうえに役にも立たない! 人のスカートの中をじろじろ見るな!!」  短パンだけど。  「グゴオォォオオオオオオオオオオオ!!!」  雄たけびを上げ、サイクロップスが天高く飛び上がった。  三倍の脚力による跳躍。  なるほど、先ほどの急加速も頷ける。つまり「機動力」までも3倍なのだ。  普通、あんな風に宙に浮くのは自殺行為だ。  何故なら、空中では身動きが取れない。  地上からの狙い撃ちで、あっさり迎撃されてしまうだろう。  だが――この戦いにおいては別だ。 美琴「くっそぉ!!」  美琴には攻撃手段が無い。  どんなに電撃を浴びせても、超電磁砲で狙い撃ちにしても、あの体を貫けない。  今の美琴には、ただ逃げるしか出来ない。  サイクロップスの『ボディプレス』――!  激しい衝撃が、円盤状の眼球を揺らした。 美琴「うわあぁあ!?」  美琴は、揺れ動く眼球から振り落とされないようにしゃがみ込んだ。  ここから落ちたら、そこに待っているのはおそらく無限の闇……  宇宙空間に放り出されるようなものである。  踏ん張りの利かない眼球の表面にしがみつこうと両手を付いた。  そこへ、再びサイクロップスが迫る。 美琴「しまった!?」  この体勢では飛び退くこともできない。  叩き潰される……!?  サイクロップスの腕が振り上げられる。  その腕には、金属製の分厚い装甲が装着されている。  せめて……あの腕を切り取ることが出切れば、それで渾身の超電磁砲を―― 美琴「……なんだ。いけるじゃない……!!」  攻略法が見えた。  俄然、力が湧いてくる。  そして美琴は、逃げるのではなく、その場に踏みとどまることを選んだ。 美琴「いっけぇ!!」  美琴の額から放たれた放射電撃が、迫り来るサイクロップスの全身に浴びせられた。  しかし、電撃がその皮膚を貫くことは無い。 美琴「まだだぁあああ!!」  それでも、美琴は電撃を浴びせ続ける。  何故なら――――  「グ、グルォ……?」  サイクロップスの動きが止まった。  美琴の電撃がダメージを与えたのではない。  彼女の放った電流は攻撃のためのものではなく―― 美琴「ラッキー……その装甲、どうやら鉄製みたいね!」  サイクロップスの装甲を磁力で操り、押し返すためだったのだ。  美琴の腕力は女子中学生のそれ。決して強くはない。  だが、能力を使えばこの通り。どんな強靭な筋肉も、その出力を上回ることは出来ない。  それゆえに『レベル5』。それゆえに『第三位』。  例え、その肉体が通常の三倍などという、ふざけた現象を起こしていたとしても。  否――  「グルォオオオオオオオオオオオ!??」  なればこそ、この状況はまずいのだ。  サイクロップスは、ただ押し返されているだけだというのにも関わらず、体の異常を訴える。 美琴「そもそもおかしいのよ……このトワイライトゾーンっていうのは」  何故、そんな便利なものを今まで使わなかったのか?  例えば、四天王がこのトワイライトゾーンで戦っていたら、おそらくアルカイザーでさえ手も足も出ないだろう。  だがそうしなかった。 美琴「無理やり能力を引き上げれば、必ずその反動がある!」  幻想御手『レベルアッパー』。  その使用者は、一時的にとはいえ数レベル上の能力を身に着けた。  そして、その後昏睡状態に陥った。 美琴「限界を超えて体を酷使している状態で、さらにそれを上回る負荷がかかれば……!」  サイクロップスの腕が、ショートして火花を上げた。  人工筋肉の千切れる音がする。  だが、それでも―― 美琴「っぐ!!」  サイクロップスは尚、美琴を押しつぶそうと肉体を酷使する。  己の生命を何とも思わない機械兵士の戦い方。  ある意味で、命がけの戦いを挑む巨人の圧力に、美琴も怯む。 美琴「上等じゃない……力比べってワケね!!」  戦いは続く。どちらかが力尽きるまで。  恐らく、この力比べに美琴は勝利するだろう。  しかし――  この戦いは美琴を足止めするために仕組まれたものだ。  つまり、サイクロップスを瞬殺できなかった時点で、すでに――  美琴は敗北していた。 アルカイザー「シュウザァァアアア!!!」  アルカイザーは、姿を現したシュウザーへ飛び掛ろうと地を蹴った。 黄泉川「危ない! 下がれアルカイザー!!」 アルカイザー「!?」  黄泉川の声で、間一髪後ろへ飛び退いた。  さっきまでアルカイザーの立っていた場所に、眩い光線が撃ち込まれる。  それは、赤と青の二重螺旋。  光のドリルが、コンクリートを穿ち爆発を起こした。  土煙が晴れる。  そこには、何一つ残されていなかった。  回避が遅れれば、アルカイザーでさえ骨も残さず掻き消えていただろう。 シュウザー「ふふ……その女のおかげで命拾いしたな……」  シュウザーは、ビルの奥へと消えていった。 アルカイザー「待てっ!」 黄泉川「落ち着けアルカイザー!!」  再び、黄泉川によっていさめられる。 黄泉川「頭に血がのぼってる……それじゃあ、みすみす殺されに行くようなもんじゃん……」 アルカイザー「……」  ……たしかに気が立っている。  あの男が絡むと、どうしても冷静さを失ってしまう。 黄泉川「……今、他のルートに進んだ別働隊から連絡あった。拉致された学生たちが見つかったらしい」 アルカイザー「!! 初春は!?」 黄泉川「残念ながら、彼女は特別扱いじゃん……」  初春の無事はまだ確認できない……だが、それはつまり。 黄泉川「この先に、必ず居る……お前への人質として……!」 黄泉川「私たちは別働隊と合流して学生達の脱出を手伝う。だから――」  初春飾利は、お前の手で助け出せ!! 黄泉川「冷静にな……? 初春飾利も、お前も死んだりしたら許さないじゃん!」 アルカイザー「……はい!」  瓦礫の山を超える。  もう、雑魚の出る幕は無いということか、私の進行を邪魔する敵は現れなかった。  ビルの中を素通りし、シュウザー城で最も高い屋上へ出る。  そこに待っていたのは、意外なことにシュウザーただ一人だった。 アルカイザー「……一対一で正々堂々と戦う……ってつもりじゃないんでしょ?」 シュウザー「くっくっ……そう見えたか?」  初春は……彼女はどこに……? シュウザー「お前は、この俺がいたいけな少女にナイフを突きつけて脅しをかけるような、そんな二流の悪党だと思っていたのか?」 アルカイザー「……どういう意味?」  人質は使わないとでも……? シュウザー「そんなものはな、何の意味も無いのだ。殺せば人質としての価値はなくなってしまう」  男は、ベラベラと聞いてもいない講釈をたれ始めた。 シュウザー「と、いうことはだ。自暴自棄にでもならない限り、人質の安全は保障されているようなものだ」 アルカイザー「いい加減にしろ! 初春は――」 シュウザー「初春飾利はな……俺を殺せば、同時に死ぬことになっている」  別の場所か……? アルカイザー「初春はどこに居るの……?」 シュウザー「ここだ」  シュウザーは自分の「こめかみ」を指差した。  あの鋼の爪でだ。少し動かせば、簡単に貫いてしまいそうに見える。  そこを指差して―――― シュウザー「俺の頭には、初春飾利の脳が埋め込んである……! やれるか、アルカイザー……!!」  落ちこぼれのヒーローは、最悪の再会を果たした。  【次回予告】  初春飾利の脳が、宿敵シュウザーの頭に?  絶望し、なされるがままになるアルカイザー!  美琴もいない! 黄泉川もいない!!  ならば、一体誰が彼女を救えるというのか!?  次回! 第十三話!! 【決着! 不死鳥の如く!!】!!  ご期待ください!!  【補足】  ・トワイライトゾーンについて。   原作では割と序盤から登場するこの設定。   でも四天王戦ではやっぱり使われなかったんだよね。   なので、「どうして使わなかったのか?」って考えたらやっぱり副作用でもあんのかな……と。
 シュウザー城……  学園都市の秘境に潜むそれは、無数の廃墟が連なり、折り重なって形成された一つの要塞。  窓と窓、屋上から屋上へと橋が渡され、建物の内と外が交互に入り乱れている。  自分が先に進んでいるのか、それとも、更なる混沌の中へと迷い込んでいるのか。  方向感覚を乱された侵入者は自分の存在を見失い、闇の中に潜む魔物達に葬られることになる……  その魔城へと足を踏み入れたアルカイザー、御坂美琴、そして黄泉川を初めとしたおよそ百人の警備員達。  この夜。  学園都市における、アルカイザーと四天王「最後の聖戦」が始まろうとしていた――  【第十二話・出現! トワイライトゾーン!!】 黄泉川「第一から第三部隊まではここで待機! 残りはアルカイザー、御坂美琴を先頭に突入開始!!」  黄泉川の檄が飛ぶ。  一部隊の人数は十余名。三部隊・三十人がシュウザー城の出入り口に待機し、突入部隊の援護に回る。  そして、下水道で体力を温存したアルカイザー、御坂美琴両名が先陣を切り、シュウザー城攻略作戦の幕が上がった。 美琴「私は最初っから全開で行くわ……アルカイザー。アンタは何が何でもシュウザーって奴を倒しなさい」 アルカイザー「はい! 行きましょう!」  二人が階段を駆け上り、警備員達が後に続いた。  唯一の出入り口である鉄の扉に向かって、まずは開戦の狼煙をあげる。  キンッ……!  小さな金属音。  そして、ノック代わりの超電磁砲が放たれた。  扉の奥に待機していた戦闘員達が木っ端微塵に砕かれて吹き飛ぶ。 アルカイザー「……これ、建物崩れませんよね?」 美琴「全開で行くって言ったでしょ?」  遂に、いくつものわだかまりを乗り越えた二人のヒロイン。  「悪の組織を倒し、友達を助け出す」  共通の目的を持ち、共に信頼を得たこの二人に、果たして敵があるだろうか?  あるとすれば、それは――  城内は入り組み、扉一つ隔ててまったく別の場所へと通じている。  分かれ道のたび、警備員を一部隊ずつ調査に向かわせ、残った面子で先へと進んだ。  何故こんな大人数の警備員を導入することが出来たのか? 黄泉川「これだけの規模の基地を、余所者の連中がこれ以外に作れるとは思えないじゃん」 鉄装「ということは、ここがブラッククロスの本拠地ですか……?」 黄泉川「かも知れないじゃん!!」  少なくとも、ここを叩けばこれ以上の活動を続けることは出来ないだろう。  つまり警備員達にとって、これは学園都市における事実上の「ブラッククロス殲滅作戦」なのだ。  これで一連の事件に終止符を打つことが出来るかもしれない。  その事実が二百を超える警備員達の心を団結させ、上層部への伺いも立てず即座に出撃するという決断をさせた。 黄泉川「各部隊! 生徒を見つけたらすぐに連絡を入れて脱出しろ!!」  そして、これだけ大規模な基地であれば、おそらくは攫われた学生たちが捕らえられているはず。  彼ら警備員の第一の目的は、被害児童の救出だった。 黄泉川「アルカイザー! 御坂美琴! あんまり離れすぎるな!!」 美琴「大丈夫ですよ! こんなの、全然相手にならないんですから!!」  やれやれ、と呆れつつも、黄泉川は安心していた。  二人は、四天王とかいう化物を一蹴してしまうような実力者なのだ。  余計な心配か。  それに、彼女らが居る限り、自分達は行方不明者の捜索に専念出来るだろう。 黄泉川「アルカイザー! 御坂美琴! あんまり離れすぎるな!!」 美琴「大丈夫ですよ! こんなの、全然相手にならないんですから!!」  美琴は、そう言って前方に電撃を放った。  無数の戦闘員たちが、その一撃で撃破される。  だが、その陰に隠れていた、青い獣の群れが飛び出してきた。  さそりの尾、蝙蝠の羽、そして犬の体。人のような顔で、長い舌を出しニヤニヤ笑っているように見えた。 美琴「ちっ!」  獣の群れは美琴の電撃を察知していたのか、ひらりとかわして迫ってくる。  狭い廃墟の中は、美琴たちには歩き辛く、逆にああいった柔軟な生物には恰好のフィールドだ。  獣の群れは、壁を蹴って立体的に跳び回る。  電撃をことごとく回避し、その爪を突き立てようと、美琴目掛けて飛び掛った。  『カイザーウイング!!』  紅い風が獣の体を真っ二つにした。  上半身と下半身に分けられた獣が空中で爆発し、それに巻き込まれたモノが誘爆した。 アルカイザー「御坂さん!」 美琴「大丈夫よ。ありがとう……ねぇ、今の見た?」 アルカイザー「爆発ですか? 不自然でしたよね……?」 美琴「こいつら、腹ん中に爆弾が入ってるわね……!」 アルカイザー「そんな……!? じゃあ、特攻!?」  もはや、敵は手段を選んでいない……!  通路の奥からは次々に、爆弾つきの獣の群れが現れる…… 美琴「とにかく……敵を接近させないことね……!」  意識を戦いに戻し、美琴が獣達を睨む。  アルカイザーはレイブレードを消し、両手に光の弾を用意した。 美琴「おうりゃぁあ!!」  美琴から放射状に電撃が放たれ、獣の半数を仕留めた。  電撃を回避した獣達は空中に跳びあがる。 アルカイザー『アルブラスター!!』  それを、アルカイザーの光の弾丸が撃ち抜いていく。  爆弾が起動し、美琴の攻撃で一箇所に誘導されていた獣達が大爆発を起こした。  壁が破れ、そこから外の風景が覗ける。 美琴「ここから隣のビルの屋上に出れるわね。 ショートカットかしら? どうする?」 アルカイザー「……たぶんですけど、シュウザーはその先に居ます」  奴の性格を考える。  一言で言えば「卑怯者」。手段を選ばず、危なくなれば迷わず逃げる。  私たちを呼び出しておいて、おそらく自分に危険が迫った時のため脱出の準備をしているはずだ。  この間の戦いでは、突如現れたヘリで逃走した。  空に逃げられては私には追うことが出来ないからだ。  そして今日も、私たちは地上ルートでここに来た。  空の足は用意していない。 アルカイザー「アイツの脱出経路は、たぶん空です」 美琴「オッケー。じゃあ上に進めばいいのね」  そう言って、美琴は大胆にも壁の穴から飛び出した。  危なげなく隣のビルの屋上に着地する。 アルカイザー「ちょ、ちょっと!? そんな無用心に……!」 美琴「ちんたらしてる暇ないでしょ? さっさと来る!!」  ここが敵の根城だと分かっているんだろうか……?  しかし、その気持ちも分かる。  ……順調すぎるのだ。 美琴「……何?」  屋上の中心近くまで進んだ美琴が、何か違和感を感じた。 美琴「……!? 来ちゃ駄目!!!」  美琴の足元が膨らんだ。  下から、何かが屋上を押し上げているのだ。  ボゴンッ! ボゴンッ! と、ひび割れて持ち上げられるコンクリートの床。  そしてついに―――― 美琴「うわぁあああ!!?」  屋上のど真ん中を貫通し、緑の巨人が現れた。  額に一本の角を生やし、ベルヴァ以上の巨大を誇るその肉体は、所々に分厚い装甲を装着している。  顔の中心に、一つだけ大きな目が付いていた。  その衝撃で、美琴は天高く打ち上げられた。  屋上の瓦礫に含まれた鉄骨に磁力を流し、何とか体勢を整える。  しかし、着地はどうする?  「グオォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」  いや、まずはこの巨大な怪人を何とかしなければ、落下する前にひねり潰されかねない。  緑の巨体が宙高く飛び上がり、打ち上げられた美琴を追撃する。  振りかぶられる拳。  一緒に吹き飛んだ瓦礫を磁力で操り、美琴はそれを防ぐ。 美琴「……ぐ!!」  巨大なコンクリートの塊が、たった一撃で粉砕された。 アルカイザー「御坂さん!」  アルカイザーが美琴を追って飛び上がり、彼女を受け止めて着地した。  単眼の巨人も着地するが、その重量に耐え切れなかった地面が崩壊し、そのままビルの中へ沈んでいった。 美琴「な、何よあれ!?」 アルカイザー「自爆の次は、自分達の基地を壊しながら暴れてる……」 美琴「本当に、もうなりふり構わず倒しに来てるわけね……!!」 黄泉川「おい! お前ら!!」 アルカイザー「こっちは危険です! 来ないで下さい!!」  今にも駆けつけて来そうだった黄泉川をいさめ、二人は次の襲撃に備えた。  まるで巨大なもぐら叩き。  次は、どこから現れる……?  足元に注意する。  さきほどの応酬を見るに、別に能力自体は大したこと無い。  そもそも、四天王であるベルヴァでさえ、今のアルカイザーたちには手も足も出ないのだ。  正攻法で勝てないからこその不意打ち。  なら、その策を破ってやればいい。 アルカイザー「出てくる前に叩き込めば……」  アルカイザーの右手に光が灯った。  気配を感じた瞬間に、渾身のブライトナックルを叩き込む。  静まり返る屋上。 美琴「……」  美琴も、体を帯電させて迎撃態勢に入っている。 美琴「……?」  それが幸いした。  電磁波の流れがおかしいのに、いち早く気付けた。 美琴「アルカイザー!! 後ろよ!!!」 アルカイザー「!?」  背後にそびえる、この屋上よりも背の高いビル。  その壁をブチ破り、単眼の巨人が姿を現した。 アルカイザー「しまっ――――!?」  予想しなかった方角からの攻撃。  反応が遅れ、敵の接近を許してしまった。 美琴「間に合えぇええ!!」  美琴がアルカイザーの前に飛び出し、そして―――― アルカイザー「――――」 黄泉川「どう……なった……?」  そして、美琴と巨人の姿が忽然と消えた。 アルカイザー「御坂……さん……?」  呼んでも、どこにもその影は無い。  消滅。  消失。  何故? アルカイザー「御坂さん!! 返事してください御坂さん!!!」  「無駄だアルカイザー……!」  巨人が飛び出してきた背の高いビル。  その頂点に、満月を背に受けて男が立っていた。  銀の髪を逆立て、鉛色の腕を胸の前で組んでいる。  二メートルを超える巨漢でありながら、真っ向からの戦いを拒否し策を弄する卑劣漢。 アルカイザー「シュウザァァアアア!!!」  ブラッククロス四天王・シュウザーが、ついにその姿を現した。  …………  ……  ……ここは?  気が付くと、目の前が真っ暗になっていた。  まさか死んだのか?  たったあれだけのことで?  ……  いや、違う。  体の感覚はある。  自分がどこかに立っていることも分かる。  何かぶよぶよとした足元の感触……  ……あの怪人は?  アルカイザーは?  黄泉川さんたちはどうなったの?  『ようこそ御坂美琴……』  どこからともなく声が響く。  誰……!?  『私はブラッククロス。ブラッククロス首領だ』  …………!!?  へぇ……首領さんが直々に相手してくれてるってわけ? 首領『そうではない。貴様の相手は、その目の前のサイクロップスだ』  サイクロ……?  そして、唐突に視界が戻った。 美琴「……!? な、何よこれぇ!!?」  いつの間にか、周囲は暗闇に包まれている。  目の前に立っているのは、おそらく『サイクロップス』という名の単眼の巨人。  どうやらブラッククロス首領の姿は無い。  そして足元には―― 美琴「悪趣味ここに極まれり……って感じね」  巨大な円盤状の眼球が、唯一つ、この暗闇の中に存在する「床」になっていた。  それらの光景が、何重にも「ブレて」折り重なるように見える。  ぶよぶよしてたのはこの目玉の感触ってわけね……  それにしてもこの「ブレ」は……残像ってワケでもないし、世界がゆっくり揺れているような――  うげ……気持ち悪くなってきた…… 首領『ようこそ御坂美琴。不思議空間「トワイライトゾーン」へ』  トワイライトゾーン……?  つまり、どこかへ閉じ込められたのか?  冷静さを失わないように、ゆっくりと深呼吸をする。  ……アラクーネの「術」を体験しておいて良かった。  この状況でも、まだ頭の回転は鈍らない。 美琴「つまり、私は『術』か何かでここに閉じ込められてるわけね……?」 首領『そういうことだ。流石に物分りがいいな』 美琴「で? どうやったらここから出られるわけ?」 首領『何、簡単だ。術の核となっているサイクロップスを倒せばいい』 美琴「へぇ……答えてくれるんだ……?」  舐められているのか……  いや、違うな。 美琴「悪いけど。あんなのが相手じゃあ私の足は止まらないわよ?」  時間稼ぎ……  私を倒すんじゃなく、私とアルカイザーをバラバラに戦わせるのが目的か。 首領『どうかな?』 美琴「私を止めたいなら、四天王クラスを連れてきなさい……!!」  一閃――――  迷うことなく、初手で超電磁砲を放った。  こんな茶番に付き合うつもりは無い。  あの怪人を瞬殺して、アルカイザーたちに合流する……! 美琴「うそ……?」  しかし、全力の超電磁砲を受けた巨人は平然とそこに立っていた。 美琴「そんな!?」 首領『言い忘れたがな……』  トワイライトゾーン内では、ブラッククロスの怪人の能力は三倍に膨れ上がる……!! 美琴「三倍……?」  それはつまり、単純に「攻撃力」も「防御力」も、さきほどまでの三倍の性能になったということ?  ……一体どういう仕組みなのか。 美琴「何でもありなわけ? その『術』っていうのは……!?」 首領『ではな。健闘を祈る』  そして、ブラッククロス首領の声はそれっきり聞こえなくなった。 美琴「いつか引っ張り出してやる……!!」  その言葉がきっかけになったのか。サイクロップスが動き出した。  ビルを粉々にして移動する馬鹿力。その三倍の攻撃力だという。  それだけは、確実に回避しなければならない。  美琴は身をかがめ、慎重に敵の動きを観察した…… 美琴「……っ! 速い!?」  サイクロップスの巨体は尋常でない速度で加速した。  まるでアクセルを全開にした大型トラック。  電磁波で動きを察知していなければ、今ごろ轢死体が一つ出来上がっていただろう。  サイクロップスの突撃を横に飛び退いて回避した美琴は、電撃による攻撃を試みる。 美琴「いくら頑丈ったって!!」  しかし―― 美琴「うわわっ!?」  そんなものを意に介さず、巨人の腕が振るわれた。  美琴の電撃はサイクロップスの皮膚を貫けない。 美琴「超電磁砲も効かない……電撃も効かない……!?」  他に攻撃手段は?  例えば、ここに巨大な鉄塊でもあれば、さっきとは比べ物にならない全力全開の超電磁砲が撃てる。  例えば、ここに大量の砂鉄があれば、それでチェーンソーを作り出してあの皮膚を切り刻める。  だが、ここには何も無い。  無限に続く闇と、ただこちらを見据える巨大な眼球。 美琴「歩きにくいうえに役にも立たない! 人のスカートの中をじろじろ見るな!!」  短パンだけど。  「グゴオォォオオオオオオオオオオオ!!!」  雄たけびを上げ、サイクロップスが天高く飛び上がった。  三倍の脚力による跳躍。  なるほど、先ほどの急加速も頷ける。つまり「機動力」までも3倍なのだ。  普通、あんな風に宙に浮くのは自殺行為だ。  何故なら、空中では身動きが取れない。  地上からの狙い撃ちで、あっさり迎撃されてしまうだろう。  だが――この戦いにおいては別だ。 美琴「くっそぉ!!」  美琴には攻撃手段が無い。  どんなに電撃を浴びせても、超電磁砲で狙い撃ちにしても、あの体を貫けない。  今の美琴には、ただ逃げるしか出来ない。  サイクロップスの『ボディプレス』――!  激しい衝撃が、円盤状の眼球を揺らした。 美琴「うわあぁあ!?」  美琴は、揺れ動く眼球から振り落とされないようにしゃがみ込んだ。  ここから落ちたら、そこに待っているのはおそらく無限の闇……  宇宙空間に放り出されるようなものである。  踏ん張りの利かない眼球の表面にしがみつこうと両手を付いた。  そこへ、再びサイクロップスが迫る。 美琴「しまった!?」  この体勢では飛び退くこともできない。  叩き潰される……!?  サイクロップスの腕が振り上げられる。  その腕には、金属製の分厚い装甲が装着されている。  せめて……あの腕を切り取ることが出切れば、それで渾身の超電磁砲を―― 美琴「……なんだ。いけるじゃない……!!」  攻略法が見えた。  俄然、力が湧いてくる。  そして美琴は、逃げるのではなく、その場に踏みとどまることを選んだ。 美琴「いっけぇ!!」  美琴の額から放たれた放射電撃が、迫り来るサイクロップスの全身に浴びせられた。  しかし、電撃がその皮膚を貫くことは無い。 美琴「まだだぁあああ!!」  それでも、美琴は電撃を浴びせ続ける。  何故なら――――  「グ、グルォ……?」  サイクロップスの動きが止まった。  美琴の電撃がダメージを与えたのではない。  彼女の放った電流は攻撃のためのものではなく―― 美琴「ラッキー……その装甲、どうやら鉄製みたいね!」  サイクロップスの装甲を磁力で操り、押し返すためだったのだ。  美琴の腕力は女子中学生のそれ。決して強くはない。  だが、能力を使えばこの通り。どんな強靭な筋肉も、その出力を上回ることは出来ない。  それゆえに『レベル5』。それゆえに『第三位』。  例え、その肉体が通常の三倍などという、ふざけた現象を起こしていたとしても。  否――  「グルォオオオオオオオオオオオ!??」  なればこそ、この状況はまずいのだ。  サイクロップスは、ただ押し返されているだけだというのにも関わらず、体の異常を訴える。 美琴「そもそもおかしいのよ……このトワイライトゾーンっていうのは」  何故、そんな便利なものを今まで使わなかったのか?  例えば、四天王がこのトワイライトゾーンで戦っていたら、おそらくアルカイザーでさえ手も足も出ないだろう。  だがそうしなかった。 美琴「無理やり能力を引き上げれば、必ずその反動がある!」  幻想御手『レベルアッパー』。  その使用者は、一時的にとはいえ数レベル上の能力を身に着けた。  そして、その後昏睡状態に陥った。 美琴「限界を超えて体を酷使している状態で、さらにそれを上回る負荷がかかれば……!」  サイクロップスの腕が、ショートして火花を上げた。  人工筋肉の千切れる音がする。  だが、それでも―― 美琴「っぐ!!」  サイクロップスは尚、美琴を押しつぶそうと肉体を酷使する。  己の生命を何とも思わない機械兵士の戦い方。  ある意味で、命がけの戦いを挑む巨人の圧力に、美琴も怯む。 美琴「上等じゃない……力比べってワケね!!」  戦いは続く。どちらかが力尽きるまで。  恐らく、この力比べに美琴は勝利するだろう。  しかし――  この戦いは美琴を足止めするために仕組まれたものだ。  つまり、サイクロップスを瞬殺できなかった時点で、すでに――  美琴は敗北していた。 アルカイザー「シュウザァァアアア!!!」  アルカイザーは、姿を現したシュウザーへ飛び掛ろうと地を蹴った。 黄泉川「危ない! 下がれアルカイザー!!」 アルカイザー「!?」  黄泉川の声で、間一髪後ろへ飛び退いた。  さっきまでアルカイザーの立っていた場所に、眩い光線が撃ち込まれる。  それは、赤と青の二重螺旋。  光のドリルが、コンクリートを穿ち爆発を起こした。  土煙が晴れる。  そこには、何一つ残されていなかった。  回避が遅れれば、アルカイザーでさえ骨も残さず掻き消えていただろう。 シュウザー「ふふ……その女のおかげで命拾いしたな……」  シュウザーは、ビルの奥へと消えていった。 アルカイザー「待てっ!」 黄泉川「落ち着けアルカイザー!!」  再び、黄泉川によっていさめられる。 黄泉川「頭に血がのぼってる……それじゃあ、みすみす殺されに行くようなもんじゃん……」 アルカイザー「……」  ……たしかに気が立っている。  あの男が絡むと、どうしても冷静さを失ってしまう。 黄泉川「……今、他のルートに進んだ別働隊から連絡あった。拉致された学生たちが見つかったらしい」 アルカイザー「!! 初春は!?」 黄泉川「残念ながら、彼女は特別扱いじゃん……」  初春の無事はまだ確認できない……だが、それはつまり。 黄泉川「この先に、必ず居る……お前への人質として……!」 黄泉川「私たちは別働隊と合流して学生達の脱出を手伝う。だから――」  初春飾利は、お前の手で助け出せ!! 黄泉川「冷静にな……? 初春飾利も、お前も死んだりしたら許さないじゃん!」 アルカイザー「……はい!」  瓦礫の山を超える。  もう、雑魚の出る幕は無いということか、私の進行を邪魔する敵は現れなかった。  ビルの中を素通りし、シュウザー城で最も高い屋上へ出る。  そこに待っていたのは、意外なことにシュウザーただ一人だった。 アルカイザー「……一対一で正々堂々と戦う……ってつもりじゃないんでしょ?」 シュウザー「くっくっ……そう見えたか?」  初春は……彼女はどこに……? シュウザー「お前は、この俺がいたいけな少女にナイフを突きつけて脅しをかけるような、そんな二流の悪党だと思っていたのか?」 アルカイザー「……どういう意味?」  人質は使わないとでも……? シュウザー「そんなものはな、何の意味も無いのだ。殺せば人質としての価値はなくなってしまう」  男は、ベラベラと聞いてもいない講釈をたれ始めた。 シュウザー「と、いうことはだ。自暴自棄にでもならない限り、人質の安全は保障されているようなものだ」 アルカイザー「いい加減にしろ! 初春は――」 シュウザー「初春飾利はな……俺を殺せば、同時に死ぬことになっている」  別の場所か……? アルカイザー「初春はどこに居るの……?」 シュウザー「ここだ」  シュウザーは自分の「こめかみ」を指差した。  あの鋼の爪でだ。少し動かせば、簡単に貫いてしまいそうに見える。  そこを指差して―――― シュウザー「俺の頭には、初春飾利の脳が埋め込んである……! やれるか、アルカイザー……!!」  落ちこぼれのヒーローは、最悪の再会を果たした。  【次回予告】  初春飾利の脳が、宿敵シュウザーの頭に?  絶望し、なされるがままになるアルカイザー!  美琴もいない! 黄泉川もいない!!  ならば、一体誰が彼女を救えるというのか!?  次回! 第十三話!! 【決着! 不死鳥の如く!!】!!  ご期待ください!!  【補足】  ・トワイライトゾーンについて。   原作では割と序盤から登場するこの設定。   でも四天王戦ではやっぱり使われなかったんだよね。   なので、「どうして使わなかったのか?」って考えたらやっぱり副作用でもあんのかな……と。

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