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あれから、また三日後……
「こっちに避難するじゃん!!」
「せ、先生! あっちからも来ました~!」
街に、逃げ惑う人々の悲鳴と、彼らを守ろうと奔走する警備員達の怒号が飛び交う。
重装備で街を駆けていた警備員の一人が、足を止め、暗くなった空を見上げた。
「くっ……! 馬鹿でかい芋虫の次は空飛ぶライオンじゃん!?」
太陽を隠していたのは獅子。
体長3メートルを越す巨大な獅子だ。
だが、ただの獣ではない。
背中から生えた白い翼が、羽ばたくたびに突風を巻き起こす。
その風が、巨体を蒼穹に舞わせていた。
獅子は警備員の一人に狙いを定め、威嚇する様に吼えると、凄まじい速度で地上に落下する。
「そうだ! やるならこっちを狙え! ケダモノ相手なら容赦しないじゃん!!」
迎え撃とうと、警備員は重火器を構える。
しかし分かっていた。
そんな装備で太刀打ちできる相手ではないと。
それでもそうせざるを得ないのは、彼女が子ども達を守る警備員であり、教師だからだった。
「せめて……! せめて手傷を負わせるくらいは……!!」
彼女が覚悟を決めた、その瞬間だった――
キンッ――――――
何かを弾いた様な小さな金属音。そして――――――
【第二話・音速! 常盤台の超電磁砲!!】
ある日の昼下がり。
そこは、ひと時の安らぎを求め学生達が集まる、古風な雰囲気の喫茶店。
コーヒーの芳醇な香りに誘われ店内に入ると、そこに流れるのは今どき珍しいレコードの音。
そしてそれを引き裂く――
「フッザけんじゃないわよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
怒号。
店の角に位置する四人掛けのテーブルを両手で叩き付け、御坂美琴は立ち上がった。
黒子「お姉さま。落ち着いてくださいまし。お静かに――」
美琴「はぁ!? これが落ち着いていられるかってのよ!!」
黒子「いえ……あの……店内ですの」
そう言われ、美琴は我に返り店内を見回した。
何事かとこちらを伺う学生たちと、訝しげな表情のマスターが視界に入る。
コホンッ。と、一つ咳払いして、美琴はイスに座った。
美琴「……でも、納得いかないわよ……」
こころなしか小さい声で、美琴は不満を口にする。
美琴「どうしてこんな状況なのに、何の対策も打たれないワケ?」
黒子「確かに……風紀委員の方にも、巡回の強化以外の許可が下りませんの」
それは、不可解なことだった。
あの日、あの『アルカイザー』と名乗った紅い『ヒーロー』が現れたあの日。
あれ以来、学園都市に堂々と現れるようになった怪物たち。
自分達を『ブラッククロス』と名乗る奴らは、日々その活動を活発にしていた。
黒子「わざわざ名前を名乗るだなんて。まるでこちらを馬鹿にしているようでムカつきますわ」
美琴「そう。『お前達如きに止められるものか』ってね……!」
今まではコソコソしていたクセに……
たった一度姿を見られた程度のことで、今度は逆に自分達から表舞台に出てくるなんて!
その挑発的な態度が、御坂美琴の精神を逆撫でした。
そこへ、カランカラン……とベルの音を立て、二人の少女が入店してきた。
初春「こんにちわー。待ちました?」
黒子「遅いですわよ初春」
白井黒子の相棒。風紀委員所属の花飾りの少女。初春飾利。
そして――
佐天「どうもー。『佐天』さんが喫『茶店』に舞い降りましたよー」
レベル0の無能力者。佐天涙子。つまり私だ。
美琴「こんにちわ初春さん。それと――」
佐天「それと……?」
美琴「今のは無いと思う。佐天さん」
佐天「ガーン! 鉄板ネタなのにぃ~!!」
四人が知り合ったのは、そう昔の話ではない。
ある日、同僚である白井黒子の紹介で、初春と私は、憧れのレベル5である御坂美琴と出会った。
最初こそ超能力者に反感を持っていたけど、共に過ごすうちにその悪感情は消えていった。
そして何よりも。あの一連の事件が、私達の距離を劇的に縮めた。
佐天「へー……また御坂さんお手柄じゃないですか~」
美琴「まあね」
黒子「まあね……ではありませんの! お姉さまは一般人ですのよ!」
初春「そうですよ~! もう『怪人』に向かっていったりしちゃ駄目ですよ!」
『怪人』とは、ブラッククロスが街に放っている怪物達の総称だ。
怪物を『怪人』。それに従う大勢のタイツの男達を『戦闘員』と呼ぶらしい。
美琴「なによ……じゃあ、あの時あの警備員を見殺しにすれば良かったっての?」
黒子「いえ……そうは言いませんが……」
美琴「ふん……私はそこら辺の、誰かが不良に絡まれてても見てみぬふりする様な奴らとは違うのよ」
佐天「……」
御坂さんは、真っ直ぐで真っ直ぐで真っ直ぐな人だ。
絶対に曲がらない。
曲がらないがゆえに、努力に努力を重ねて学園都市の頂点に立ったような人なのだ。
美琴「そもそもおかしな話なのよ! 生徒が何人犠牲になってると思う?」
初春「数えるのも嫌になります……」
美琴「そう。それなのに、学園都市の上層部は動こうとしない」
黒子「ですが……」
美琴「だったら。私たち自身が自分で動くしかないでしょう?」
佐天「…………」
レベル5。常盤台の超電磁砲。第三位。
どこまでも快活に大胆に、自分がコレと決めたことを貫き通す、物語の主人公。
私のともだち。
私の憧れの人。
私の目標。
美琴「でもさ。あいつは一体なんだったのかしら?」
初春「あいつ?」
美琴「アルカイザーよ!」
佐天「ブッ!!?」
初春「さ、佐天さん!?」
佐天「ゲホッゲホッ!? い、いや何でも……! 気管に入っちゃっただけ……!」
な、何で御坂さんが私のことを!?
美琴「あいつ……あれからぜんっぜん姿を現さないじゃない!」
黒子「いえ、ですから一般人の方は……」
美琴「あんな恥ずかしい格好の一般人がいるはずないじゃない!!」
…………ですよねー。
美琴「つーか! アイツの所為じゃないの!? 今の状況って!!」
初春「どうしてですか?」
美琴「だってあいつが街中で暴れたから、連中は開き直って暴れるようになったわけでしょ?」
佐天「そ、それはちょっと~……言いすぎじゃ……」
美琴「そう? でもさ~。あいつヒーロー名乗ったのよ?」
初春「ヒーローですか」
美琴「そうよヒーローよ! アルカイザーよ! 恥ずかしげも無く!!」
ごめんなさいごめんなさいもう許してください。
あの日もベッドの中で「あああああああああああああ~」ってなったんです。
黒子「いいえお姉さま。いずれにせよ、連中が活動していたのは間違いありませんの」
初春「そうですよ。むしろ表面化した分こちらも対処できますし……」
美琴「むぅ~……まぁ……でも、ヒーロー名乗るなら責任ぐらいは取って欲しいわよね」
佐天「……です……かねぇ…………?」
そこで、御坂さんの怒りは一段落した。
その後は、とくに当たり障りのない現状報告と、ケーキとお茶の感想。
最近流行っている都市伝説『バイオ肉』のことなんかを話し、完全下校時刻に合わせて解散となった。
御坂さん達と別れ、私と初春は自分達の寮へ向かう。
楽しい時間は早く過ぎるもので、いつのまにか、空は赤く染まっていた。
初春「御坂さん荒れてましたね~」
佐天「しょうがないよ。最近、ずっとこんななんだもん」
きっと。御坂さんのことだから、自分達に降りかかる火の粉は残らずぶっ飛ばす気なんだろうな。
佐天「ねぇ……もう、鼻大丈夫なの?」
――先日の一件。あのベルヴァと名乗った巨人が、初春の顔面を蹴り飛ばした。
実際に戦った私には分かる。あの巨人の一撃は半端じゃない。
それが、手を抜いていたとはいえ女の子の顔を捉えたのだ。
初春「大丈夫ですよ~。包帯も取れましたし~」
佐天「ならいいけどさ……」
初春「私は風紀委員ですから。怪我をすることぐらい覚悟の上です」
佐天「……」
初春「でも。佐天さんは無茶しちゃ駄目ですよ?」
佐天「うん。大丈夫だよ! 御坂さんじゃないんだから!」
ごめんね初春。
あの時戦ったことは、初春には聞かせられないね。
また秘密ができちゃったね。
でも大丈夫だよ。
私はもう変身しない。
私は無能力者の佐天涙子。
ヒーロー・アルカイザーじゃない。
だから大丈夫だよ。
もうこんな力、本当にいらないんだ。
望んで得た力じゃない。
記憶と日常を犠牲にした力なんて、私の身に余る。
だから――――
今は、無力な無能力者の佐天涙子。それでいい。
そう、夕日に照らされた彼女の顔を見て、誓った。
ある日の夜。
そこは、ひと時の安らぎを求め一仕事終えた教師達が集まる、場末の屋台。
焼酎の芳醇な匂いに誘われて暖簾をくぐると、そこに聞こえるのは別に珍しくも無い酔っ払いの愚痴。
そしてそれを引き裂く――
「フッザけんじゃないじゃああぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
怒号。
「黄泉川先生……呑みすぎですよぉ……」
「鉄装! これが呑まずに居られるか!!!」
眼鏡をかけた女性が、先輩にあたる黄泉川に注意し、逆に怒られた。
鉄装綴里(てっそう つづり)と黄泉川愛穂(よみかわ あいほ)。
この学園都市を守る警備員『アンチスキル』に所属する教師である。
二人とも、抜群のプロポーションをもつ若い女性だが、自ら志願して危険に身を晒している。
能力を持つ生徒で構成される風紀委員と違い、全員が無能力者の教師で構成される警備員。
次世代兵器が配備された彼らは風紀委員よりも権限が高く、より踏み込んだ危険な捜査を任されている。
黄泉川「ってぇ! その私らにさえこれ以上の深入りを許可しないってどういうことじゃんっ!!!」
鉄装「ひぃえええぇぇぇ……!? あ、暴れないでくださいぃぃぃ!!!」
「本当ですよね~。一体どうなっちゃうんでしょう……」
黄泉川「そうじゃん! 小萌先生もそう思うじゃん!」
黄泉川に同意したのは、同じく教師の月詠小萌(つくよみ こもえ)。
一見こどもにしか見えないが、れっきとした成人女性である。
小萌は警備員には所属していないが、黄泉川と同じ学校で教鞭を振るう同僚であり、
彼女達三人はこうして集まっては酒を呑んでいる。
小萌「うちの生徒も怪人に一人襲われて、不幸だぁ~! って言いながら逃げ帰ってきたんですから」
黄泉川「これ以上生徒に被害が広がるのは許せないじゃん!」
鉄装「それは……そうですけど……」
黄泉川「………………」
鉄装「黄泉川先生?」
黄泉川「決めた」
鉄装「な、何をでしょう?」
黄泉川「鉄装。私等だけでも連中を調べ上げるじゃん!!!」
鉄装「はいぃ!!?」
黄泉川「そうと決まれば今日は景気づけじゃん! オヤジ! もう一杯!!」
小萌「おじさん! ワニのお刺身ですー!!」
鉄装「まだ呑むんですか~!?」
黒子「キャンベルカンパニー?」
風紀委員第一七七支部。
その事務所のデスクで報告書を処理しつつ、白井黒子は固法美偉の話に耳を傾けていた。
固法「そう。例の巨人の破片の一つが見つかってね。私が能力で透視してみたの」
固法美偉の能力はレベル3の透視能力『クレアボイアンス』。
視覚に頼らずに物を見る能力で、彼女の場合は主に透視を行う。
黒子「あの巨人の……? あれはどこかの研究機関が根こそぎ回収したと……」
街中で赤い鎧の人物と死闘を繰り広げた謎の機械仕掛けの巨人。
あれがブラッククロスの一員であることが判明し、警備員がその破片を回収したが、
上層部からの命令で、その全てを研究施設に渡してしまった。
固法「ええ。でも、その回収作業から漏れた物が残っていてね」
黒子「それを固法先輩が? 一体どういう経緯で……」
固法「たまたま。取り押さえたスキルアウトが隠し持っていたのよ」
スキルアウトとは、能力を持たない無能力者たちが徒党を組んだ武装集団のことである。
学校に通わず、集団で行動して問題を起こす、いわゆる不良たちの総称だが、
犯罪行為に手を染めることが多いため、度々風紀委員によって補導されていた。
固法「でね。あの巨人の人工筋肉の下、骨格の部分だと思うんだけど。そこにロゴがあったのよ」
黒子「それがキャンベルカンパニーの……」
だとしたら、その会社がブラッククロスと関わっている可能性が高い。
今後の調査の方針が決まった。
報告書も仕上がり、黒子は一息つこうと、美琴から差し入れられた、缶ジュースを一口飲んだ。
ちなみに新製品の「無農薬キャベツソーダ」である。
初春「ただいま戻りました」
そこへ、巡回を終えた初春飾利が戻ってきた。
黒子「ああ、初春。いいところに戻ってきましたわ」
初春「何ですか?」
黒子「あなた向けの仕事が出来たところですの。キャンベルカンパニーについて調査して下さいな」
初春「キャンベルカンパニーですか? どうして……」
黒子「例の巨人の部品がそこで作られていましたの。おそらく、兵器か何かの製作に携わっているはず」
普段踏み込まないような、重大な学園都市の暗部に調査を進めようとしている。
黒子は、自分達がとんでもないことに首を突っ込もうとしているのではないかと、内心震えていた。
しかし、見過ごすわけにはいかない。
『だったら。私たち自身が自分で動くしかないでしょう?』
敬愛する先輩。御坂美琴の言葉。
彼女の言うことは常々正しいと、黒子は思っていた。
自分達にできることを。学園都市を守るために……!
美琴の勇気を分けてもらおうと、差し入れのジュースをもう一口――
初春「でもそれって、白井さんが飲んでるそのジュースを作ってる会社ですよね? ほらロゴが」
黒子「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
固法「汚いわよ白井さん」
黒子『ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』
美琴「きったないわねぇ……あの子……」
御坂美琴は、あるオープンカフェのテラスでケーキを食べていた。
くつろいでいるわけではない。
耳につけているのは小型の盗聴器。マイクは黒子の持つ缶ジュースの裏側だ。
美琴「まさかこうも早く情報が出てくるとはね……」
黒子を問い詰めても情報は得られない。
戦う力があろうと一般人は一般人。
事件に巻き込んでいけないというのが白井黒子のルールだ。
特に突っ走りがちな美琴になら尚更だ。
美琴「さて。それじゃあこの先は、私の個人的な喧嘩よね……」
理由は、そうだなー。
あの馬鹿みたいにでかいビルが目障りだから――とか。
美琴「乗り込んで、社長でも専務でもいいや。このくだらない騒ぎに加担した連中を――」
ビリビリっと。
――――叩きのめす。
美琴は立ち上がり、振り返って空を見上げた。
いや。そこにそびえ立つ、キャンベルカンパニー本社ビル。
通称キャンベルビルの最上階を睨み付け、右手で作った指鉄砲で狙いを定めた。
美琴「――――――バン!」
「お引取り下さい」
美琴「………………」
あれから、御坂美琴は調子よく店を出て、鼻歌交じりに真っ直ぐビルへと向かった。
威風堂々といった様相で自動ドアをくぐると、屈強な守衛の見守る中、臆することなく突き進み――
「申し訳ございませんが、本日の面会者リストに御名前がございません」
受付のお姉さんに笑顔で止められた。
美琴「いや……あのね? 私は別に怪しいものじゃぁ……」
受付「お引取り下さい」
美琴「ただね? ほら? 最近物騒じゃない? そのね――」
受付「申し訳ございませんが」
美琴「そこを……さ? ………………ね?」
受付「本日の面会者リストに御名前がございません」
潜入。
失敗。
守衛「来い」
美琴「……っ!」
仕方が無い……こうなったら……!
と、美琴が実力行使に出ようとしたその瞬間。
「ちょーっといいじゃん?」
武装した二人の女性が乱入した。
受付「おはようございます。どちら様でしょうか?」
「警備員の者じゃん。2,3聞きたいことがあるんだけど」
「お時間は取らせませんので、社長さんにお目通り願えますか?」
受付「お待ちください……」
受付嬢は表情を崩すことなく受け答えし、何処かへ内線で連絡する。
会話の内容から、どうやら社長に直接繋がっているらしい。
受付「お待たせいたしました。そちらのエレベーターをご使用ください」
促され、警備員を名乗ったうちの一人がエレベーターへ向かう。
しかしもう一人はその場で振り返り――
「来るじゃん」
と、美琴に声をかけた。
美琴「え?」
「うちに協力してくれてる子なんだけど、一人で先行しちゃってね……放してやって欲しいじゃん」
こうして、美琴はキャンベルビルに潜入することに成功した。
美琴たちは指定されたエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターガールがパネルを操作すると、社長室のある最上階を目指し上り始める。
エレベーターは広く、直径十メートルほどの円形。
全面ガラス張りで、夕焼けの、オレンジの光が差し込んでいる。
美琴「あ、ありがとうございます。でも……どうして?」
「そうですよ。見ず知らずの子どもをどうして……」
美琴が疑問を投げかけ、眼鏡の警備員がそれに同意した。
「ん? 覚えて無い?」
美琴「あ! いえ! この間の空飛ぶライオンの時の警備員さんですよね?」
それに、あー! と、眼鏡の警備員が納得したように手を打った。
「それだけじゃないじゃん……前の幻想御手事件とか、テレスティーナ木原の件とか」
美琴「はい。覚えてます。その節はどうも……」
「お。流石は。まぁ、学園都市の第三位がそんな記憶力じゃ困るじゃん?」
なぁ鉄装? と、隣で激しく頷く眼鏡の警備員に目線を送る。
睨まれて、彼女は「す、すみません……」と呟いて小さくなった。
「オホン……じゃあ改めて、私は黄泉川愛穂。で、こっちが鉄装」
美琴「は、はい。よろしく……」
鉄装「あれ? じゃあこの子を連れてきたのはその時のお礼ってことですか?」
黄泉川「ま。あれだけ活躍されて、命まで救われたらちょっと恩返ししたくなるじゃん?」
美琴「あはは。そんなつもりは無いんですけど……情けは人のためならず……って奴ですか?」
黄泉川「そういうこと」
鉄装「へー……それってどういう意味でしたっけ?」
空気が『フリーズバリア』――
鉄装「あ、あれ?」
黄泉川「私が教育委員会だったら、お前今すぐ免許剥奪じゃん?」
鉄装「え、ええ~~~!!?」
黄泉川「まあ冗談は置いといて。本当に危なくなったらこの子は逃がすじゃん」
美琴「な…………!?」
黄泉川「当たり前じゃん。連れて来たのも、あのままだと暴れだしそうだったってのがデカイじゃん?」
美琴「……それは…………」
言い返せないけど……
黄泉川「それだったら目に付く場所に置いといたほうが安全じゃん」
鉄装「流石黄泉川先生……そこまで考えてたんですね~……」
黄泉川「……本当に免許剥奪するじゃん?」
と、敵地に乗り込んだという緊張感もないまま、美琴たちの乗るエレベーターは上り続けた。
エレベーターが上っている間、美琴は思案していた。
もし、ここが敵の中枢だったら?
街にあふれ出した、あの怪人達が山のようにいるのだろうか?
だとしたら……
黄泉川「安全装置のチェックは?」
鉄装「は、はい! 大丈夫です!」
この二人はどうする?
きっと、先ほどの言葉の通り、彼女達は自分を守ろうとするだろう。
しかし、正直言って守られる筋合いはない。
むしろこちらが守る側だろうと、美琴は自惚れではなく、事実としてそう判断した。
人を二人守りながらの戦い。
それは真剣勝負の場において、どうしても不利だ。
あの日の、紅い鎧と巨人の戦いを思い出す。
あのレベルの敵が相手だとしたら。
自分はどの程度戦えるだろう?
勿論。負けるつもりなどさらさらないが…………
その時だった――
美琴「!!?」
黄泉川「な、何!?」
鉄装「ひゃあぁぁぁぁ!!!!??」
エレベーターが揺れ――――止まった。
黄泉川「ど、うやら……落下はしないみたいじゃん……?」
鉄装「じ、事故でしょうか?」
そんなはずがない。
このタイミングで、自分達の乗ったエレベーターが偶然止まるなんてそんなはず――
『ようこそ、警備員の皆さん』
美琴「誰!?」
エレベーター内に声が響く。
どこかにスピーカーが仕掛けられているのか。
『私はキャンベル。キャンベルカンパニーの社長取締役であり、このビルのオーナー。そして――』
『ブラッククロス四天王の一人――妖魔アラクーネよ……!!』
次の瞬間。エレベーターの天井が開き、十を超える影が飛び降りてきた。
鉄装「ひゃああぁああ!!!?」
黄泉川「戦闘員……! ちっ! 本当にブラッククロスの基地だったじゃん!!!」
黄泉川は銃を構え、迫り来る戦闘員に向かって引き金を引いた。
バララララッ! と、リズミカルに打ち出される弾丸が、戦闘員に命中しその度破裂音を響かせる。
その衝撃で弾き飛ばされた戦闘員は、手足をあらぬ方向へ投げ出し、二度と動かなくなった。
黄泉川「ちっ……! 人間を撃ち殺してるみたいで気分が悪いじゃん……!!」
鉄装「ひっ! こ、こっちこないでぇ!!」
鉄装も同じように銃を乱射するが、狙いが甘くかわされる。
戦闘員の一人が素早く鉄装に接近し、手の甲から延びた鉤爪を突き出した。
黄泉川「鉄装!!!」
閃光。
否、稲光。
戦闘員の鉤爪が鉄装の腹を引き裂こうとした瞬間。
エレベーター内に激しい雷鳴が轟き、十体近くいた戦闘員が残らずショートした。
美琴「上等じゃない……騙まし討ち。不意打ち。それでこそ悪党ってもんよね……!」
黄泉川「御坂美琴……」
御坂美琴。
世界に七人しか居ない超能力者、レベル5の第三位。
常盤台中学の誇る、学園都市最強の電撃姫。
その能力は電撃使い『エレクトロマスター』。
体から電気を発生させ、それを自在に操る能力。
常に発せられている微弱な電磁波はレーダーとして機能し、危険を察知する。
磁力を操り、鉄くずや砂鉄を自在に武器に変える。
電気信号を制御し、プロレベルのハッキングをもこなす。
そして、音速を超える、彼女の代名詞ともいえる必殺技――
鉄装「あ! 危ない! 御坂さん頭の上――!!」
エレベーターの遥か上から降ってくる、黒服の男の姿が見えた。
交差した両手に機関銃を持ち、周囲に円柱形の清掃用ロボットを三機引き連れている。
頭上十メートルほどまで落下し、明らかに美琴に狙いを定めていた。
黄泉川「怪人……!!? 避けるじゃん! 御坂美琴ぉ!!」
キンッ――――
美琴が右手を頭上に向け、親指でコインを弾く。
黒服の怪人は銃を構え、清掃用ロボットの前部からも銃口が飛び出した。
男と三機のロボットによる頭上からの一斉射撃。
しかし――間に合わない……!
御坂美琴の、代名詞ともいえる必殺技。
彼女の通り名でもある、その一撃が放たれた――――
『超電磁砲』
その轟音を聞いたときにはもう遅い。
音速の三倍の速度で撃ち出されたコインは、頭上から襲い掛かって来た黒服の怪人を粉々にした。
その破片が、一旦風圧に巻き込まれて上昇し、再び落下してきた。
血液ではなくオイル。筋繊維ではなく金属繊維。
美琴「よかった。やっぱりこいつも機械仕掛けだったのね。一瞬人を殺しちゃったかと思ったわ……」
床に散らばったオイル塗れの金属片を確認し、美琴は溜息を洩らした。
鉄装「す、すごい……これがレベル5……」
黄泉川「はは……相変わらずとんでもないじゃん……」
黒子「やられましたの…………」
白井黒子は、自分の不注意を悔いていた。
黒子「まさか盗聴器とは……お姉さまも狡いことをしますの……」
初春「ど、どうしましょう!? きっと御坂さん、今頃キャンベルビルに乗り込んでますよぉ!!」
黒子「あそこがブラッククロスの関連施設だとしたら……」
ジュースの裏に仕掛けられていた盗聴器に気付いたのは、美琴がビルに乗り込んだ直後だった。
固法「……実はね? 警備員にも、この情報は回しておいたの」
黒子「警備員に?」
固法「今頃、向こうさんも調査に乗り出してるはず。ひょっとしたら、御坂さんと鉢合わせしているかも」
初春「な、なら! その人たちに――」
固法「言われて止まると思う? あの御坂さんが……」
黒子「こうしてはいられませんわ! 黒子もお姉さまの手助けに!!」
固法「駄目よ! まだそうと決まったわけじゃない……私達には、待つ以外に出来ることは無いわ」
黒子「……っ!」
沈黙。
人を助ける風紀委員でありながら、待つしか出来ない。
いつもいつも後手後手に回るのは、風紀委員のいつもの悪習慣だった。
初春「……………………?」
黒子「どうしましたの?」
初春「いえ……気のせいです」
佐天「大変だ……」
とんでもないことを聞いてしまった。
私は、初春達に差し入れでもと思い、いつもの調子で一七七支部を訪れた。
そこで――
黒子『ああ~……それにしてもお姉さまが黒子に差し入れだなんて……』
黒子『黒子……感激ですの~~~!!!』
黒子『そうですの! この空き缶は大切に大切に保管して――……?』
黒子『これは……缶の裏に何か……マイク? …………まさか盗聴器ですの!?』
初春『はい!? ……た、たしかにこれは……』
固法『ちょっと待って! じゃあまさか……さっきの話を御坂さんが!?』
黒子『やられましたの…………』
黒子『まさか盗聴器とは……お姉さまも狡いことをしますの……』
初春『ど、どうしましょう!? きっと御坂さん、今頃キャンベルビルに乗り込んでますよぉ!!』
黒子『あそこがブラッククロスの関連施設だとしたら……』
どうする……?
佐天「どうする……って……」
どうする……?
どうする……? どうする? どうする?
どうする………………?
気付けば、夜の街を走り出していた。
どうして……?
あの御坂さんだよ? それを私なんかが心配して駆けつけるなんて……
佐天「どうかしてる……どうかしてるよ……私……!」
でも止まらない。
『何処へ行くんだ?』
――――――!
佐天「貴方は……」
聞き覚えのある声に振り向くと、あの黒い男が立っていた。
相変わらず、風にマントをなびかせ、仰々しく、厳しく、そして優しく。そこに立っていた。
アルカール「何処へ行くんだ? 佐天涙子……」
佐天「アルカール……さん」
アルカール「また戦う気かね?」
佐天「……私は……」
アルカール「ヒーローに、なる気はあるのかね?」
佐天「……」
アルカール「正直に言おう。君には才能がある」
佐天「……!」
才能……? 私に……?
アルカール「だが。同時に危うくもある。私では判断しかねる所だ……」
佐天「え? 危うく……?」
アルカール「だから、君が自分で決めなさい。進むか。それとも辞めるか」
私に……才能が……ある……?
無能力者の……私に?
レベル0で、落ちこぼれで、いつも守ってもらっていた私に?
アルカール「辞めるのなら。今すぐ力を返してもらうことも出来る」
佐天「え? 今……?」
アルカール「いや。今のこの街は危険だ。ブラッククロスを打倒し、しかるべき日にもう一度来よう」
佐天「……」
アルカール「その際には、君からヒーローに関する記憶を消去することになるが――」
佐天「待って下さい――――」
佐天「できるん……ですか?」
アルカール「……」
佐天「私が、御坂さんを助けることが……出来るんですか?」
アルカール「ああ。出来る」
佐天「…………!!!」
守れるんだ……
私でも、御坂さんを……
佐天「やり……ます……」
ゴメンね。初春。
佐天「私……もう一度……!!」
だって。御坂さんは……私の……
大切な友達だから……
アルカール「……分かった。君がそう言うのなら」
じっとなんて……
していられない……!!
アルカール「持って行け」
そう言って、彼は何かを投げてよこした。
両手で受け止めて確認したけど、それが何なのか分からなかった。
佐天「? これは……?」
アルカール「私が使うつもりだったが、やはり君が使うんだ」
佐天「あの? コレって一体……」
アルカール「必要なものだ。走りながら話そう。すでに戦いが始まったようだ……」
佐天「!?」
御坂さん、どうか無事で。
私も、すぐに行きますから……!
アルカール「行こう。露払いは引き受ける。君は友人の下へ」
佐天「はい!!!」
もう。記憶を失う恐怖なんて、頭の片隅に追いやられていた。
落ちこぼれのヒーローは、再び走り出した。
【次回予告】
遂に姿を現したブラッククロス四天王・妖魔アラクーネ!!
アラクーネの予期せぬ攻撃に、美琴は窮地に陥る!!
急げ佐天! 急げアルカイザー!
その魂が燃え尽きるまで!!
次回! 第三話!! 【凶悪! キャンベルビルの蜘蛛女!!】
ご期待ください!!
【補足という名の言い訳のコーナー】
・キャンベルカンパニーについて。
原作でのキャンベルの会社はこんな名前じゃありません。
そもそも何の会社なのかよく分からないんですけど……
BUCCIが社名? アパレル関係の会社に偽装してるってことでいいのかな?
なので当然ジュースは売ってません。
(裏解体は持っていないので確認できません。違ったら教えてください)
・黒服+ロボットについて。
原作では黒服さんロボットじゃありません。
でも美琴に殺させないといけなかったので怪人にしました。
連れているのも「オートポリッシャー」ですが、折角だから学園都市の清掃用ロボにしました。
・空気がフリーズバリア。
サガフロに出てくる状態異常です。
分かりにくいボケでした。