佐天「…アイテム?」16

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佐天「…アイテム?」16」(2011/05/30 (月) 20:16:48) の最新版変更点

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あらすじ 佐天はファミレスでアイテムと遭遇して正体がばれてしまった! ファミレスから帰ってきて寮に入ろうとしたと所でフレンダに呼び止められる。 佐天を尾行してきたフレンダは、佐天の携帯電話に目をつけ、ステファニーの情報が載っているかどうかを佐天の仕事用の携帯電話で調べてもらうことに。 するとかつてステファニーが教鞭をとっていた学校が第十四学区にあることが判明。フレンダはそこへ向かっていく。 第十四学区は外国人の受け入れを主体に作られた学園都市の中でも海外の言語の説明が付け加えられている珍しい学区だ。 面積は小さいながらもかなりの数の外国人留学生がここで学園都市の能力開発教育を受けに来ている。 そんな第十四学区にフレンダはいた。 既に最終下校時刻は回っていた。 しかし、陽の光がまだともっているのでステファニーが教鞭を務めていたとされる学校へ走って向かっていく事に。 (うわー久しぶりだなぁ、ここ) フレンダは高校に向かいながらも感慨深い思いを味わっていた。 彼女が初めて学園都市に来た時、彼女を受け入れてくれたのがこの学区だった。 その裏では密入国同然のフレンダを受け入れてほしいと、ステファニーが学園都市のお偉方に掛け合ったそうだが、フレンダはあまり覚えていない。 (えーっとここでいいのかな?) 太陽の陽が没し始め、警備ロボがうろうろしだす時間帯にフレンダはかつてステファニーが教鞭を取っていた高校についた。 ここであってるよね?と携帯電話のマップに指定されている学校の名前と住所を確かめる。 「ダメだよ、もう最終下校時刻回ってるよ!?」 学校の警衛がフレンダに声をかける。 校内の二階の職員室と思しき場所には周囲の電気の消えた部屋とは別に煌々と明かりがともっているのがフレンダの網膜に映る。 フレンダは警衛に姉とは伝えず、かつての知り合いに関して聞きたいとを伝えた。 職員室に繋がっているであろう無線のスイッチを警衛がカチッと押す。 しばらく間を置いて、警衛に返信が入ってきた。 返信内容は「手短に」との事。 警衛は忌々しそうに門を開ける。 フレンダは特例を認めてくれた警衛にぺこりと一礼すると構内の見取り図を見つつ職員室に向かっていった。 海外の人を受け入れるからと言って教室の中までその国のテイストに合わせる事もあるまい。 かつてステファニーが教鞭を採っていた高校の渡り廊下をぎしっと音を立てながらフレンダは職員室に向かっていった。 既に日が差し込まなくなっていた階段をゆっくり登っていく。 妙にひんやりした階段のタイルが黒タイツ越しに伝わる感触をかみしめながら、フレンダは職員室に通じる階段へと伝っていった。 職員室の前につくと何人かの外人教師が雑談をしている。 さまざまな国籍を持っているであろう教師たちが一様にフレンダの方を向く。 日本の学校の作りである木のタイルの廊下に容姿端麗な外人教諭がいる光景はフレンダの目に滑稽に映った。 彼女は職員室前で雑談をしている教諭陣に一礼する。 すると、雑談をしている教員の内の一人がこちらに近づいてきた。 「えーっと先ほど連絡したフレンダですけど…」 「あぁ、ガードの人から連絡は聞いていたから、どうぞ」 教員はフレンダについてくるように目で促す。 フレンダは「はい」と頷くと職員室の隣にある応接間に通された。 彼女を応接間に案内した教員はドアを閉めてすぐに退出していった。 フレンダが応接間の中に入ると一人の男性の黒人教師がいた。 黒人は坊主でかなりの体躯。こぎれいにスーツを身にまとっており、体育教師か?とフレンダに思わせた。 (かなりガタイの良い人ね~…ってか英語の方がいいのかな?) フレンダはフランス訛りの英語を話そうか逡巡するが、日本語で話すことにした。 彼女の目の前にいる黒人教師が日本語を話したからだ。 「こんにちわ、あ、もうこんばんわの時間かま、適当に座ってください」 フレンダは「あ、はい」と言い、クリーム色のソファにゆっくりと腰を落ち着ける。 「君の知り合いの…ステファニーだっけ?」と男はウェイファラーのレイバンの眼鏡をくいと少しだけ下にやり、フレンダに頬笑む。 フレンダは黒人教師の問いかけに「はい」と答える。 黒人はふふと、口元をほんの少しだけつり上げて笑う。 「知り合いねぇ…?違うなぁ」と黒人教師はにやりと笑い、フレンダを見つめる。 その発言を聞くや、一瞬眉をひそめるフレンダ。 「怪しいものじゃないさ」と黒人は両手を上下にゆっくりと宥めながら再び、笑う。 「………」 「繰り返し言うが、私は怪しいものじゃない」 黒人教師はそういうと教員免許証と警備員の証明書をゴツゴツしたワニ革の財布から取り出してフレンダに見せる。 同時に男は民間軍事会社に所属している証明書をも見せた。 「へぇ…軍人って訳?」 (めっちゃ怪しいじゃない…) 「だね。いやー君には以前お世話になったよ」 黒人教師はわらいながら坊主頭をばりばりと掻きむしる。 フレンダは初めて会ったと男に感謝されるいわれはない、と思いつつ、「あれ?初めてお会いしたんじゃ?」と聞く。 「確かにそうなんだけどさ、前に横田基地で主催したお祭りの警護で君たちが活躍したって話を小耳にはさんでさ」 「あぁ…あの祭の…」 フレンダの目の前にいる男はどうやら横田基地の祭の警護を務めたフレンダの事を知っているようだった。 数々の肩書を持つこの黒人教師のは日米同盟を隠れ蓑にして学園都市に出向している軍人だったのだ。 フレンダは八月の中旬に行われた横田基地の警備を思い出す。 アキュレシー・インターナショナルで過激派のテロを未然に防いだ功績を彼女は思い出す。 しかし、フレンダは今日に限ってはどうでも良いと思う。 あくまで今日来たのはこの男の出自や彼女自身の事を聞くのではなく、唯一の家内である姉の事を聞きにきたのだから。 黒人教師もフレンダの純朴な瞳に込められた意志を感じ取ったのだろうか、「話が逸れちゃったね」と笑うと直後、きりと真剣な表情になり、弁を続ける。 フレンダは男の目をその瞳に捉えるとまっすぐに見据える。 「散々聞かされたよ?かわいい妹がいるって。君は本当にステファニーの知り合いなのか?」 男は自分の出自を話しすぎたことで目の前にいる少女をイライラさせてしまったのではないかと反省する。 そしてこれ以上自分の事を話しても話が進まないと考え、フレンダに自分の知る限りの情報を姉に伝えようと決心した。 「あなたは…ステファニーさんとどういう関係だったんですか?」 フレンダはあえて「さん」とつけて呼ぶ。 まだ、目の前に居る黒人には自分がステファニーの妹である事を伝えていない。 飽くまでフレンダから情報を話すのではなく、男が口を開くのを待つ。 彼女は男と姉の関係が判然とするまで自分と姉の関係を口外する気になれなかった。 「彼女は…教諭である前に一人の軍人だった」 男はフレンダの方を見ながら思い出したようにつぶやき始めた。 答えになってるのかなっていないのかイマイチわからないまま、しかし、黒人男性は話を続ける。 聞く側のフレンダは無表情を装っているこそすれ、黒人教諭の発言に全神経を傾ける。 一語一句聞き逃すまいと内心につぶやく。 フレンダは知っていた。 交通事故で両親が死んだ家でしのぎを削ろうとしてステファニーが若くしてカナダ軍に入隊した事を。 Joint Task Force2、統合タスクフォース2という特殊部隊に入隊した彼女は数年後に退役。 母語である英語の他にフランス語と日本語を学んだ。 そして退役をした後に学園都市にやってきたと言う訳だ。 「…姉の経歴は知っています…今姉がどこにいるのか…知っていますか?」 「確か各地の戦場を転々としてるような…コスタリカで出会った傭兵と一緒に行動しているとか…」 姉。 フレンダは黒人教師の前で姉と確かに言った。 彼も取り立ててその事に関して深く突っ込むようなことはしなかった。 彼女も自分が知り合いと言って嘘をついていた事を謝るのではなく、真実を話す事でそれを清算する。 「姉」と言ってフレンダは自分の鼓動が高鳴るのを確かに知覚する。 そして屈託の無い笑顔で自分を迎えてくれる姉の顔を想像する。 既に聞き及んでいる情報といえども、やはり他人から姉の事聞くと新鮮な気持ちになれた。 いや…既に聞き及んでいる情報?とフレンダは頭にふと疑問符が浮かび上がる。 初めて彼女が聞く情報が一つだけあったから。 (行動を共にしている傭兵…?一体誰?) フレンダはステファニーとともに行動している傭兵という情報を今まで眉唾だと断じて信じようとはしなかった。 しかし、真剣な表情で話す黒人を見ると彼が嘘をついている様には見えなかった。 彼女はその傭兵の詳しい情報に関して聞きだそうと思い、考えると同時に「どんな人なんですか?」と男に問いただしていた。 「あー…自衛隊からフランス傭兵部隊に入って、オーストリアのコブラ特殊部隊に入った後はフリーの傭兵をやっているって聞いたなぁ…」 「その人の名前は?」 フレンダは身を乗り出していた。 二人を隔てる机が無かったら、彼女はずいと詰め寄っていただろう。 男はそんなフレンダの様子を見て、しかし「すまない、名前までは…」と悔しそうに坊主頭をざらと触る。 「そうですか…わかりました」 フレンダは落胆する。 結局、姉がどこにいるのかはわからずじまいだった。 しかし、姉の事を覚えている男に礼を言おうとして「今日は…」と言いかけた時だった。 黒人の男が「そういえば、これは機密情報なんだけどね」と人差し指を口に当てる素振りをする。 「八月の第一週に警備員に雇われた傭兵の凄腕スナイパーがいたって聞いたな…それともしかしたら関係があるかもしれない」 フレンダはがばっと首をあげて男の方をまっすぐに見据える。つい先程まで落胆していた彼女が一転して瞳をキラキラと輝かせている。 男はその動作を視界に捉えつつ弁を続ける。 「派手な戦い方を好むステファニーと対照的な凄腕の狙撃手…考えられない組み合わせではない」 「その狙撃手…どこの警備員の部署が要請したか分りますか?」 「いやぁ…かさねがさねで申し訳ないがそこまでは機密上、こちらも把握できる権限がないんだ、すまない…」 フレンダは男が悔しそうに顔をゆがめているのを見て、わかりました、と頷く。 しばらくの沈黙の後、男が再び口を開く。 「姉を探してるのか…?」 「えぇ」 「何で姉を探すんだい?」 「私の唯一の家族だからです…。死んでほしくないから…」 フレンダ自身もいつ死ぬとも知れない。 唯一の肉親である姉を見つけて、彼女はここから脱出しよう、そう心に決めた。 黒人の教諭が「家族のつながりは重要だからな」とあたりさわりのない言葉を述べてその場は終わりとなった。 短い会話だったが、フレンダは姉を探す手がかりを十分に得たと思った。 ともあれ、学園都市に要請されて狙撃を行った人物を割り出さなければ、と彼女は自分に言い聞かせる。 「ここらへんでいいわ」 「じゃあ、また何かあったら気軽に学校にでも来てくれ」 フレンダは結局最終下校時刻を回っているから、という理由で男の車で送迎された。 彼女を乗せたダイムラークライスラー300Cはアイテムのアジトの近くまで行く。 アジトの場所を特定されるのを警戒したフレンダがアジトの大分前で車を止めてもらう様に指示する。 男の運転するクライスラー300Cは律儀に指定された場所に止まる。 フレンダは丁寧にお辞儀をすると小気味の良いクラクションの音が帰ってきた。 車は甲州街道に繋がる道に接続する道に消えて行く。 アジトに着くと滝壺がいた。 「ただいまー」 「おかえりフレンダ。遅かったね」 「ちょっと色々あってさ」 「お姉ちゃんのこと?」 フレンダはうんと頷く。 フレンダは滝壺には気を許しているのだろう。 姉の事に関してフレンダは滝壺には腹蔵なく話していた。 それはフレンダが超電磁砲との戦いの後で滝壺に見出した姉の様なぬくもりや優しさによるものなのかもしれない。 「何か進展あった?」 「うん。お姉ちゃんと傭兵のペアを組んでる人が八月一日に警備員の要請で来学して狙撃をしてるんだってさ」 「なるほど。だったら警備員の部署にあたってみればもしかしたら新しい情報が手に入るかもね」 フレンダは「そうだね」とちょっぴり嬉しそうに笑う。 姉と再会した時のことを考えているのだろうか。フレンダは顔をほころばせる。 その表情は滝壺にかわいいと思わせると同時に、反面ちょっとの寂しさを感じさせた。 「ねぇ?フレンダ?」と滝壺は気付けばフレンダに話しかけていた。 なぜ、寂しさを感じたのか。彼女はその正体を自分で知ってしまった気がした。 そしてその正体を聞かずにはいられなかったのだ。 フレンダは「何?」ときょとんとした表情で滝壺の顔を覗きこむ。 「もし、お姉ちゃんが見つかったらフレンダはどうするの?」 自分ではその答えを出したつもりだった。 しかし、いざ口に出そうと思うとはばかられるのは何故だろうか。 アイテムに入ってからは約十数万という安月給で学園都市の治安維持に影ながら貢献してきた。 姉の背中に憧れて学園都市にやってきた彼女は、姉の所在を見つけようと思い、気付けば学園都市の暗部に転落していた。 暗部に墜ちた時、即ちアイテムに入った時、から今に至るまで、この組織には特に何も感慨深いものなどなかった。 ただ、この最先端の街の裏で繰り広げられる生命のやり取りに従事していただけ。 しかし、そんな彼女が姉が見つかったらどうする?という単純な質問に答える事に躊躇していた。 それはアイテムに何も思い入れがない彼女自身が最も以外に感じていることだった。 (まさか…自分はこの環境に満足していたって訳?) そんな感情、や環境、馬鹿らしいと吐いて捨ててしまいたい衝動にフレンダは駆られる。 しかし、どうしても滝壺を前にして答える事が出来ない。 自分は葛藤しているのだろうか? (…まさか私はアイテムをやめたくないって事?) 姉を探そうと思い、学園都市の裏事情にどんどん足を突っ込んでいった彼女は今では立派に身体ごととっぷりこの学園都市の闇に浸かっている。 アイテムをとんずらして自由になりたいと思っている反面、認めたくはないが、自分の現状の環境に満足しているのかもしれない。 「…私は…お姉ちゃんが見つかったら…ここを出ようと思う…」 やっと絞り出した言葉のなんと力のない事か。 自分がどんな表情で言ったのだろうか。フレンダは知る由もない。 しかし、恐らくフレンダ自身が驚くほど顔を歪めていただろう。 滝壺はそんなフレンダの顔をじぃっと見つめている。 今日の夕方、第十四学区で黒人と話し、アイテムを抜けて、学園都市を出ようと決心したフレンダ。 しかし、自分とともに暗部を駆け抜けた滝壺の前ではその事をいうのに躊躇しなければならなかった。 アイテムのメンバーを知り合い程度にしか考えていなかったフレンダ。 繰り返しになるが、彼女自身が最もこの事に驚いていた事は言うまでもない。 (さっきあの黒人教師と話してた時は学園都市から抜けたいって思ってたけど…本当の所どうなのよ?ねぇ!) フレンダは自分に言い聞かせるが答えが出ない。 姉に会いたい、その気持ちは勿論ある。でなきゃ、わざわざ暗部に落ちたりなどしない。 しかし、なぜ、その事を滝壺に言えない?アイテムの他のメンバーに密告される事を恐れている?いや、そんな矮小な気持ちではない。 滝壺という最近できたもう一人の姉…の様な存在と離れ離れになることが嫌だから? 「滝壺と離れたくないからかもしれないなぁ」 気付けば口に出していた。 実の姉に会いたいと思う反面、自分の要求通りに応えてくれる姉の様な存在、滝壺と離れたくないのだ、とフレンダは思った。 彼女の出した答えを聞いていた滝壺は何と答えていいかわからない、といった感じで所在なさげにキョロキョロとあたりを見回していた。 「そ、それって、フレンダが私の事お姉ちゃんみたいな人って思ってるから離れたくないってこと?」 「うん…滝壺、あったかいよ。だからかもしれないなぁ。私、ここ最近滝壺に甘えすぎだし、離れたくないって思っちゃったのかもしれないね☆」 「なんて反応すればいいかわからないよ、フレンダ」 「ご、ごめん…あはは…」 滝壺は確かに包容力がある。しかも自分の意見を言わないし、話を聞くのがうまい。しかも優しいときた。 姉の様な存在に見えていた滝壺は一人の女性としても非常に魅力のある存在に見えた。 このまま一緒にずっと…フレンダはそんな事を考えつつ頭を振ってその考えを頭の中から払しょくする事に努める。 あくまで滝壺は姉の様な存在であって、恋愛の対象ではない。 しかし、そう思えば思うほど、目の前にいる滝壺理后という女性が魅力的な女性に見えた。 「フレンダ。ご飯にしようよ」 「あ、うん!」 フレンダのゆがんだ思考は滝壺の声に突如、遮られ、夕ご飯にする事になった。 暗部で蓄えた潤沢な資金を利用して今日も宅配のご飯を注文する事にした。 「結構おいしかったね、滝壺」 「うん。シャケ弁当、初めて頼んでみたけど結構おいしかった」 二人は夕食で頼んだ弁当セットの感想を各々述べるとリビングにあるソファにぐったりと腰を落ち着ける。 「ねぇ、滝壺?」 「何?フレンダ」 「いつもありがとうね、私のおままごとに付き合ってもらって」 フレンダは横に座っている滝壺の表情をうかがうように、のぞきこみながら,日ごろ一緒に居てくれている事についての感謝の言葉を述べる。 滝壺は「ううん、いいよ」といつものやさしい表情で答える。 「ちょっと、目つぶって?」 フレンダの抑揚のない声が滝壺の耳朶に響く。 滝壺は素直に目をつぶり、なんで?フレンダと言おうとするが、そのセリフが彼女の口から出る事はなかった。 何故なら、滝壺の唇がフレンダの唇でふさがれたから。 「…ん」 「感謝の印だよ、滝壺。ううん、お姉ちゃん、いつもありがとね」 フレンダは少しだけ顔を赤らめて前髪を恥ずかしそうに掻き分けながら言うと、にこりと笑って見せた。 当の滝壺は自分が何をされたかいまいち理解してないような表情だが、自分の唇に手を当てる。 滝壺はつい先ほどまでそこにフレンダの唇が重ねられていただろう箇所をゆっくり自分でなぞっていく。 「ねぇ、フレンダ」 「な、何?」 「海外の人は姉妹でもあーゆーキスをするの?」 フレンダの顔がみるみる赤くなっていった。 「結局…」 「結局?」 「滝壺!ゴメン!」 フレンダはがばっ!と頭を垂れる。 海外でも唇はあんまりしないって訳よ…とフレンダは小さい声でつぶやく。 フレンダは顔を赤らめながら天井を所在なさげにぼーっと見つめる。 今日一日で色々なことがあった。 電話の女の正体が自分よりも断然年下の少女だった。 そしてその彼女を尾行して聞いた姉の情報。 錯綜するこの環境の中で、フレンダは誰かに甘えたいのかもしれない。 そして、その甘えが少しだけ変質した。 滝壺の姉の様な抱擁力と、まるで小動物の様な小さく、かわいらしい一面。 それらを同時に直視したフレンダは一瞬後者の姿に見せられたのだった。 ――同日、学園都市のジャンクションエリア 調布 夜 巨大な壁…と言われて想像するもの…万里の長城、ベルリンの壁、西サハラの壁…。 それらとは規模こそ違えこそすれ、外敵や侵略者から防備するといった名目で敷設された学園都市の壁もそれらの壁と同じ効力を持つ。 「あー、見えてきましたねぇ」 「あぁ」 砂皿が運転する黒のレクサスIS350Cはサンルーフを全開にあけ、首都高を乗り継ぎ、学園都市の行政下に置かれている調布ジャンクションに向かって下りていく。 ジャンクションの左右に広範に広がる壁。 これが日本と学園都市との間に言わば、国境を構成している壁だった。 そこを越え、壁の下をくりぬかれたトンネルをくぐっていくと一気に視界が開ける。そこが学園都市だ。 「お前にとっては…久しぶりだな、ステファニー」 「えぇ…ここのどこかに妹がいるんですね…」 ステファニーは砂皿と話をしながら現れては後ろに流れていく巨大なビル群を見回す。 数年前に学園都市を離れた時よりもさらに多くの高層ビル群が立ち並んでいる。 彼女はかつて同じ学校で教鞭を採った教諭達や警備員で知り合った他学区の教諭達の顔をおぼろげに思いだしてみる。 (もう、知り合いはあんまりいないのかな…?) 学園都市の生活に飽き、世界を見てみたいと思って自分の足で気の向くままに勝手に世界を旅して、傭兵になった。 そして、結局はここに戻ってくるのか、我が儘なお姉ちゃんだね、とフレンダの事を考えながら内心につぶやくとステファニーは左右に流れていく夜景を再び目で追っていく。 「砂皿さんはここに最近来たんですよね?」 「あぁ。かつてお前が所属していた組織…アンチスキルとか言ったか。教員だけで構成される警備部隊だったか…」 「そうですね、警備員は教諭だけで基本的に構成されています」 「ふん。それで技術漏えいを防ごうと言うのが土台無理な話なんだよ、ま、その話しはいいとして、俺は八月の最初にここに来た」 「じゃ、砂皿さんにとっては久しぶりって言うよりかは、またかよって感じですね」 「あぁ」 砂皿とステファニーは基本的に二人一組で行動している。 しかし、要請があった場合、それぞれ単独で行動する事もある。 例えば、砂皿は八月の冒頭で警備員の要請にこたえて狙撃を敢行した事もあった。 「八月の狙撃のおかげかどうかはわからないが、武器の搬入は比較的楽だったな」 「えぇ。結構多めに見てくれましたね。気付かないの武器がほとんどでしたけど」 暑さでサンルーフを全開にして走るIS350Cの後部座席の下には大量の武器が隠匿され、持ちこまれていた。 ジャンクションを下りる時には厳密な審査はないですしね、とステファニー。 後部座席には二つのアタッシュケースが置かれていた。名目はただのアタッシュケース。 だが、その中身は二つともヘッケラー&コッホ社のMP5クルツ・コッツァーが収納されていた。 先述したが、後部座席のシートの下には武器が収納されている。 それらはそれぞれ二人のえもので今後の戦いのパートナーでもあるのだ。 狙撃を最上の暗殺手段と考えている砂皿はM16突撃銃をカスタムしたSR25をばらして車に搭載した。 コッツァーのはいっているトランクの中にはSR25に着脱できる各種光学照準器や暗視装置等、また大量の予備弾が仕込まれていた。 また、在日米軍基地で武器の横流しをしてもらうために事前に取得しておいた大量のドル札も入っていた。 そんな砂皿緻密とは対照的に、ステファニーは派手好きな破壊魔とでもいおうか。 アタッシュケースに入れられているヘッケラー&コッホが改修したM4カービンの新モデルであるHMK416を持参した。 赤外線や各種光学照準器を装備しているが、あくまでレールに接続するだけで使うことはないだろう。 HMK416よりも、その銃の下部レールに接続されているグレネードランチャーが彼女の派手にぶちかます性格を如実に表しているようだ。 一般人が見たらおおよそ卒倒する様な兵装だが、学園都市の能力者や警備員との戦闘が起きないとも限らない。 妹を学園都市から連れ出すにはそれなりの覚悟が求められるのだ。 「にゃはーん、取りあえず、今日は適当にアジト構えちゃいましょっか?」 「そうだな」 ステファニーの提案に砂皿は首肯するとカーナビで至近にあるホテルをサーチする。 検索でヒットしたホテルに二人を乗せたツードアクーペが勢いよく向かっていく。 戦端が始まるまでまだ相当の期間を待たなければならない。 北京で押収した学園都市の裏組織…暗部とでも言おうか? そのファイルに掲載されているフレンダの情報以外はまだ何もわからない。 しかし、状況が更新されるまでそう時間はかからないだろう。 妹を救出する為、姉に会う為。二つの思いが交差するとき、物語は始まる。

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