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「佐天「…アイテム?」14」(2011/05/29 (日) 23:42:38) の最新版変更点
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あらすじ
佐天は電話の女としての仕事に罪悪感を感じていた。
何故なら自分の命令で人の命が奪われているから。
その罪悪感を払拭したいと思い、彼女は親に仕送りをしていた…。
そんな事までしつつも彼女は電話の女を辞めようとは思わなかった。
結局は何も出来ない無能力者ですごす事がなにより嫌だった佐天。
彼女はかつてアイテムと戦火を交えた美琴にも自分の事をひた隠しにして交友関係を続ける。
――とある雑木林(初春と佐天が宿題をして数日後)
「はい、今日の任務終了って訳よ」
(あっついわねー…猛暑ね…)
フレンダは学園都市の雑木林で暗部の任務を終えた事を麦野に携帯電話越しに伝え、リラックスする。
拳銃、シグザウエルP.228を腰のガン・ホルスターに収納しながらつぶやく。
彼女の足下にふと視線を転じてみると、ぼてりと男性が寝そべっている。
どうやら彼はフレンダに麻酔弾で眠らせられた様だ。
『はい、お疲れ、今浜面そっちにむかってるからぁ。電話の女に連絡しとくねー』
アイテムのリーダー麦野の声が受話器越しに、フレンダの耳朶を打つ。
彼女は「了解」と麦野に任務の終了報告を済まし、雑木林の木陰に身を寄せる。
木と木の合間から差し込む夏の光はまるでフレンダを焼き殺そうとしているかの様。
そんな、さながら殺人光線に耐えかねて、彼女は休息を取ろうと考えたのだった。
(ったく夏はやだねぇ…ってか夏に外に出るのがヤダ。暑すぎ)
任務の内容と言うよりも、任務を遂行する環境―即ち天候―がフレンダの集中力を根こそぎ奪っていった。
今回の任務も無事に終了したとはいえ、やはり極端な暑さは集中力が鈍るということもあり、彼女にとってかなりネックなのだそうだ。
地理的に言えば、学園都市は日本国の東京都西部の盆地に位置している。
盆地は熱気が滞留し、うだる様な暑さが形成されるのだ。
フレンダは服の胸元のあたりをパタパタとさせながら熱気から逃れようとするが、余計に汗が滴り落ちてくるので辞めた。
そしてぼんやりとここ最近の生活を思い返してみる。
そんなフレンダの思索にふと浮かんでくるのは、滝壺理后だった。
(最近、夜、滝壺とばっかいるなぁ…)
超電磁砲との激闘を繰り広げ、約一週間ほど。
それ以後、フレンダは仕事が終わったり、仕事が無い日もなにかとアイテムの共同アジトに身を寄せていた。
何故なら、同じアイテムの構成員、滝壺がそこにいるから。
彼女は別に百合だとか、レズビアンだとか、そういう気質があるわけではない。
超電磁砲と戦い戦線離脱して滝壺とともにアジトに帰った時だ。
(あん時に不意に感じたのよねぇ…お姉ちゃんっぽいんなぁって…)
フレンダは共同アジトのベッドで不意に滝壺に姉のぬくもりを感じた。
雰囲気も性格も全く違う滝壺と彼女の姉。
しかし、暖かくフレンダを包み込む様なぬくもりが二人にはあった。
その夜以降、フレンダはアイテムのみんなには秘密でいつも滝壺に甘えていた。
(今日も滝壺暇だったら甘えちゃおうかなぁ…)
イタズラとかそんな気は彼女には全くなかった。
ただ、純粋に甘えたい、フレンダは姉であるステファニーの姿を滝壺に見いだしていた。
滝壺も滝壺で甘えてくるフレンダをとがめることも否定をする事もせず、ただ「いいよ」と彼女の要望に付き合っている。
滝壺の純粋な優しさにフレンダも安心して身を預けていたのだった。
(我ながら…バカよねぇ…今更ながらお姉ちゃんのぬくもりだなんだって…そりゃ、会いたいけどさぁ…)
実際どこにいるかもわからないし、と悲観的な思考に陥るフレンダ。
いつまでも滝壺に甘えてちゃダメだ、とフレンダは自分に喝を入れる。
フレンダはとにかくここ最近よく姉の事を考えていた。
その度に断片的に思い出す、カナダに居たときの記憶。
フレーザー河でのアトランティックサーモン・フィッシングや冬に姉と一緒に行ったゲレンデ。
姉はスノーボードが得意だったな、とフレンダは思い出す。
そして姉の姿に憧れて始めたスノーボード。
学園都市に来てからは暗部の仕事でめっきりいけなくなってしまったゲレンデ。
「はぁ」とフレンダはため息をはきつつ、姉との懐かしい思い出を思い出す。
優しく包み込む様な母性本能とでも言おうか、滝壺のぬくもりから姉と暮らしていた時の記憶をよみがえらせる。
性格、容姿、年齢、ありとらゆる事が違うにも関わらず、ステファニーと滝壺が被ってみえる。
(滝壺に甘えれば甘えるほど…結局、本当のお姉ちゃんに会いたいって思う訳よ…)
すこし感傷的な気分に浸り、ちょっとだけ浮かない表情を作り上げる。
そのとき、フレンダの耳に不意に車のクラクション音が届く。
浜面の運転するシボレー・アストロが到着を告げる音だった。
(お、浜面きたきた!)
フレンダはクラクションを聞くと、浮かない表情を打ち消し、強引にいつもの笑顔をにんまりと作る。
そして彼女は「浜面遅いっ!」と言い、浜面の運転する車に乗り込んだ。
「あぁ、わりぃ。道が混んでてよ」
「結局私をあっつい中待たせて…!」
浜面はぺこぺことフレンダに頭を下げつつも車を走らせる。
二人は麦野達がいるであろうファミレスに直行していった。
――多摩センター近辺(フレンダが任務を行っている時)
佐天は学園都市のとあるホールに向かっていた。
なんでも今日は講演会に呼ばれたとか。
(やっばい!間に合わないかも!)
このクソ暑い中、多摩センター駅から降りるやいなや全力で彼女はホールまで突っ切っていく。
目的地のホールは既に視野に入れているのだがいかんせんとおい。しかも軽く傾斜ががっている。
(なんなのよ!合同会議って!)
内心に愚痴りつつ、彼女は数分走る。
そして汗びっしょり。
柵川中学の制服の中に入っているタオルを取るとおでこにぷつぷつと浮かび上がっている汗をぐいっと拭き取る。
そして電話をして得た収入で買ったハミルトン・カーキ・シークイーンの腕時計を見る。
(ぎりぎりね…!ホールはあっちか!)
彼女は講演会が開催されるホールの位置を館内に設置されているマップで確認すると、一気に走っていく。
佐天がドアをあけると、壇上に講演会の進行の人物とおぼしき金髪の女性が上がっていく最中だった。
彼女が回りをキョロキョロを見回すと誰もいない。
中規模のホールで百人ほどは入るであろうこのホールに何故誰もいないのだろうか。
疑問に思いつつも彼女は周りを見回すが誰もいない。
どうしよう、そう不意に思った時、壇上の女性から声が掛かった。
『最後ね、そこの列の席に座って下さい』
佐天は壇上から不意に掛かった声に大声で答える愚行を演じることだけはなんとか避ける事に成功する。
無言で何度かうんうん頷くと彼女は司会の女性とおぼしき人物の言われるがままに座席に座った。
佐天はなんとか講演が始まるぎりぎり前に着席する事が出来たようだった。
『本日は皆様お集まり頂き有り難うございます。テレスティーナです』
佐天は自分の周りと壇上をきょろきょろと見回す。
女の発言が正しいなら、自分以外に誰かいても良いはずだ。
テレスティーナとかいう女と二人きりな訳がない。
佐天の疑問がテレスティーナに伝わったのだろうか。
このテレスティーナはホールの奇妙な状況を解説する。
『実は光学プロジェクターであなた方と私以外の姿が見えないように細工しております。どうかご了承下さい』
金髪の女は壇上で恭しく頭をぺこりと下げる。
ぎりぎりでホールに来た身分の佐天だったが、余りに丁寧なその動作になんとなしに嫌な感覚を覚える。
定型句の様な挨拶を述べると話しの本題に移行していく。
内容は学園都市の治安維持についてだった。
(治安維持機関の連絡で来てみれば、何か難しい話しだなぁ…初春のスカートめくりでもしてれば良かった)
電話をかける仕事を始めて三週間ほどたった今。
佐天は徐々に仕事の要領を心得ていた。
佐天は壇上に居る女の話にはあまり興味が湧かず、ただぺらぺらと話している女をぼんやりと見つめていた。
イヤに空調が効いたホールで彼女はいやいやながら、肘掛けに肘を当てて、自分の顔を支えながら退屈そうにテレスティーナの話しを聞く。
『学園都市の治安はやはり警備員と風紀委員だけでは守りきれません』
『公式では学園都市は警備員と風紀委員で秩序を保っていますが、実際にそれだけでは治安維持や防諜面で多分に不備が生じてしまいます』
佐天は面倒くさそうにしながらも、テレスティーナの話しを聞きながら「そうなのよねぇ」と内心につぶやく。
それは彼女がここ最近アイテムに連絡をする様になってから気づいたことだった。
結局は教師と生徒だけで学園都市を守ろうなんて考えが絵空事なのだ。
現に佐天の電話一つで学園都市の機密を盗みだそうとするスパイを捕獲したり、殺害したこともあった。
土台、教師と生徒で多摩丘陵と多摩の盆地を守ろうとするのがおかしい。
『今回お集まり頂いた皆様のお陰で学園都市の治安は守られています』
お集まり頂いた方々…やはり佐天と同じように暗部の組織に連絡をしている同業の人達のことだろうか。
彼女は光学プロジェクターで見えないこそすれ、自分の周りにも同じ仕事をしている人達がいるんだ、と考える。
そして自分の行っている事はやっぱり正しいことなの?と佐天は自分に問い質した。
佐天はホールに同じく出席しているであろう連絡要員達に取りたてて、親近感は沸かなかったが、自分と同じ事をしてる人達がいるんだと考え少し安心した。
それは人殺しをしているのは自分だけではない、という安心感かもしれないし、正義の為に、学園都市の為に働いているんだ、といった安心感なのかもしうれない。
佐天はその安心感を特に分析しようとはせず、テレスティーナの話を引き続き、めんどくさいながらも聞くことにした。
『私もMARと言った警備員の一部所を任されていますが、やはり産業スパイや技術漏洩を完全に阻止する事は難しい』
女は心底悔しそうに表情をゆがめ、下を向くと、首を横に数回振る。
佐天は「MARって何?」と首をかしげるとその疑問を見計らっていたのか、彼女が「MARとは…」と話しを始めた。
テレスティーナによれば、なんでもMARと言うのはMulti Active Rescueの略称で邦訳が“先進状況救助隊”とかいう警備員下の一組織だ。
(何だそれ?初めて聞くわね)
佐天は初めて聞く組織名だな、と内心一人ごちる。
が、彼女は私の知らない組織が一つあっても不思議じゃないな、と自己解釈し、疑義は挟まない事にした。
『今後も学園都市の技術を狙う輩は増えると思われます…』
佐天はテレスティーナの話しを聞くのにうっとうしさを感じつつもやることが無いので聞く。
自分に興味の無い話程聞かされてうざったいものはないが、我慢だ!と内心に叱咤激励すると同時に早く終われ、と祈った。
『今後は学園都市から不正に脱出する人物には厳罰を適用し、学園都市の防諜や治安維持によりいっそう注力し…』
テレスティーナの講演が続いていく。
対照的に佐天の意識はゆっくり遠のいていく…。
睡魔だった。
――同日、学園都市のレストラン「ジョセフ」
麦野、滝壺、絹旗の三人は既に店内の窓側座席に鎮座していた。
しかもなぜかイライラしている。伝票はドリンクバーが三人分。
卓におかれたグラスは一つもない。
「あー!完全にミスった。人選ミスよ!」
「超どうしたんですか、麦野」
絹旗が映画の雑誌の特集から目を離し、雑誌からちらと顔をのぞかせて麦野に質問する。
麦野は絹旗の質問に「ドリンク係がいない」と言い切ると卓に指を当ててトントンとリズムとる。よほどイライラしているようだ。
「あぁ、超そういう事ですか。なら自分が取りに行きますよ」
「あら?ホント?助かるわね。じゃ、私メロンソーダ」
絹旗はしぶしぶながらドリンク係を買って出た。
何も浜面に義理立てするつもりは毛頭ない。ただ、いらいらしている麦野がちょこちょこと視界に入り、雑誌を読むのに集中できないからだ。
そこで絹旗はさっさと麦野達にドリンクを渡して、早い話が黙らせちまおうと考えたのだ。
「滝壺さんは何がいいんですか?」
「うーん…私はコーラかな…ありがとう、絹旗」
ぼんやりと天井で回転しているプロペラの様なものを見つめながら滝壺は鷹揚に絹旗の質問に答える。
絹旗は「わかりました」と答えると座席に座るなり脱ぎすてたナイキのターミネーターを再び履きなおす。
そして絹旗はかかとを踏んだままぎこちない足取りでドリンクバーに向かっていった。
浜面とフレンダが来たのはドリンクバーに絹旗が向かい、戻ってきた時だった。
いやぁ、遅れてごめん!と元気よくフレンダがいつも通り、元気いっぱい!という風な素振りで手を合わせて軽い調子で謝る。
浜面も「わりわり道が混んでてよ」、と頭をかきながら窓側座席に腰を落ち着けようとするが…まだ座れない様だった。
「浜面、やっと来たのね…全く…絹旗があんたがこない間にドリンク係を買って出てくれたんだから」
「そうなのか?絹旗、ありがとな」
ちゃんちゃらおかしい会話だが異論をはさむ人はアイテム内には誰も居なかった。
永久指定ドリンクバー係の浜面は既にその負け犬根性もたっぷりしみついたのか、ドリンクバー係を辞すことをあきらめているようだ。
まるで座る素振りを含めて冗談だったといわんばかりに浜面は立ち上がる。
すると彼は「何が良い?」とアイテムのメンバーに聞きはじめた。
各々のドリンク注文を受けてさながら一人私服のアイテム専属店員の様に浜面はドリンクバーと窓側座席を行き来した。
アイテムのメンバーの喉が潤い、ご飯も食べ終わり、いつものぼーっとする時間がやってくる。
この時にやっと浜面はお昼ご飯にありつけるのだ。
「いやぁ…冷えたハンバーグもうめぇなぁ…」
「憐れって訳よ…浜面」
フレンダが浜面の肩をポンポンと叩く。
今日の仕事で迎えに来てもらったねぎらいのつもりだろうか、とにかくフレンダは浜面を励ましてやった。
浜面は「ありがとな、フレンダ」と言いながらハンバーグにかぶりつく。
麦野が不意に言葉を発したのはこの時だった。
「ねぇ、電話の女って誰なんだろうね…」
――立川駅前
佐天はテレスティーナとかいう人の講演会を聞き、空腹でぐぅとなるお腹を押さえながらモノレールを下りた。
彼女は初春とランチを食べる約束をしていたので約束のレストランに向かっていった。
(何だったんだろう。今日の講演会…なんかお前らは表には出ないけど、頑張れ的な?)
テレスティーナの言ったことを噛み砕きまくり佐天テイストに解釈した結果たどり着いた答えがコレ。
途中ウトウトしてしまった事もあり、何を話したかは断片的にしか記憶していない。
(確か…学園都市から不法に出ようとしている人たちには厳重に対処しろとか…)
なんか物騒だなぁ、と他人事のように佐天は考える。
彼女はここ最近初春とよく遊んでいた。
「風紀委員の夏季公募に遅れちゃいますよ!」と初春は悲鳴に近い叫びをあげつつも彼女は手際よく夏季公募の課題や宿題をこなしているそうだ。
宿題をスラスラと解く彼女を想像し、やっぱ初春は頭いいなぁ、などと考えながら佐天は立川駅前のオブジェで彼女を待った。
すると少したってから柵川中学の制服姿で初春が佐天の前にやってきた。
「す、すいません!風紀委員の警邏活動中に熱中症者が出て、付き添いで病院に向かっていました…!」
初春はそういうと「すいません、佐天さん」と申し訳なさそうに頭を下げる。
佐天は「いいよ私も今来たんだし」と言うと彼女はほっと肩をなでおろした。
「いやぁ、最近暇で暇で…と言う訳で初春!そこのレストラン行こうよ」
「ジョセフですか?いいですよー」
二人は駅からちょっとだけ歩いたレストランに向かっていく。