佐天「…アイテム?」13

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佐天「…アイテム?」13」(2011/05/29 (日) 23:37:42) の最新版変更点

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あらすじ 佐天の指示の元、アイテムは美琴とSプロセッサ社で戦火を交えた。 その頃、北京のゲットーで行われた華僑の掃討戦。 華僑の資料をあさっていた、砂皿緻密とステファニーはアイテムと書かれた冊子を見つける。 そこに記載されていたのはステファニーの実の妹、フレンダだった。 ステファニーは砂皿と協力して学園都市に向かうことを決心する。 <第二部> ――八月下旬 相変わらず暑さが続く。 佐天は柵川中学の制服のポケットから鍵を取り出す。 最近、白井たちと一緒に行ったゲーセンで取ったUFOキャッチャーのゲコ太ストラップがついている鍵を取り出す。 「ただいまー」 ガチャガチャとドアを開け、ローファーを揃えずに脱ぎ、学校のバックをぽいっと投げる。 そしてベッドにぼふん、と倒れかかる。 学生寮に帰ると誰もいなくても、自然と「ただいま」と言ってしまう。 一人暮らしに慣れていない証拠だろうか。 そんな事をぼんやりと考えながら熱気でまいっている体を佐天は起き上がらせる。 (ジュースのも…) 喉を潤そうと考え、彼女が冷蔵庫に向かったと時だった。 ういーん…ういーん… 彼女の携帯電話が鳴る。 それはアイテムが任務を遂行して、麦野が佐天によこしてくる任務終了を告げるメールだった。 (いつもお疲れ様、皆) 内心に佐天はアイテムに対して謝意の気持ちをつぶやく。 佐天が学校に登校したり、補習に参加したり、遊んでいる間にもアイテムは戦い続ける。 以前も言ったが、彼女たちはさまざまな理由で学校を欠席している。 学園都市と銘打っておきながらも学校に通うことのない生徒がいると言う矛盾。 彼女達はその矛盾の中に生きている存在なのだ。 (よっし…まず上に報告しなきゃね…) 冷蔵庫に行くことをあきらめ、ポチポチとタッチパネルを動かしていく佐天。 アイテムが任務終了の旨のメールをよこすと、佐天は未だ見たことのない治安維持機関に任務が終了したことの連絡をする。 (上…ってどんな人達なんだろう) ポチポチとタッチパネルで、メールを作成しながら佐天は“上”の正体を考える。 メールの送り主の名前だと“学園都市治安維持機関”となっているが、果たしてそれが何なのかもわからない。 (上の指示…っていうのも果たしてどうなんでしょーねー…) 佐天は不意に自分が学園都市に良いように扱われているのではないかと考える事がある。 しかし、それも実際に銀行に振り込まれている金を見れば霧散してしまう。 彼女は“上”に報告するメールを作成すると、狭いベランダに出て干していた洗濯物をしまう。 しまうためにベランダに出ると、ベランダは日差しに照らされていてかなり熱かった。 学生寮から見える立川の市街地は夕日に照らされて真っ赤になっている。 とても綺麗に見えたし、逆に真っ赤に燃えている不気味なオブジェ群にも見えた。 ――数日後、学園都市、柵川中学校学生寮 「初春~宿題わかんない~」 佐天はそういうと机に置いてあるコップに注いだお茶をくいっと飲み干す。 夏休みの宿題をためにためた佐天は親友の初春に宿題を手伝ってもらっているのだ。 「佐天さんー…頑張りましょうよ!もう少しで学校始まっちゃいますよ!」 「えー!初春、答え分かるんでしょ?だったら教えてよ!ねっ!?」 手を合わせて「頼む!」とまるで武士の様にお願いする佐天に初春はついつい答えを言いたい衝動に駆られる。 が、ここは我慢。情けは人の為にならずだ。 「だぁめです!ちゃんと自分で考えましょうよ!佐天さん!」 「ふぁーい」 シャープペンを鼻と唇の間に挟んで腕をだるそうに後頭部に持って行くと佐天は最近買った大きいソファに寄っかかった。 初春の喝に応えつつも宿題は全く手につかない。 (最近…仕事入ってこないなぁ…) 宿題の山から目をそむけ、佐天は天井を見上げながらおもむろに考える。 ここ最近は仕事の案件が著しく少なくなっているようで、麦野からも「今日は仕事ないの?」と連絡が来る位だった。 彼女が治安維持機関に連絡した所、何でも学園都市で名をあげて目立ちたいヤツがいるとか。 治安維持機関もその縄張り争いに必死らしい。 しかし、上位下達の最も下、つまり最前線で働くアイテムの面々や佐天には知るよしもない話しだ。 (なんだっけ…確か…スクールだったけ?そこのリーダーが交渉権がなんだかんだ…) 佐天は結局は自分たちには関係の無い話だな、と思う反面、麦野をアイテムのご意見番として、「金がない」といってくるアイテムのクレームにも対応しなければならない。 なのでここ最近無駄にアイテムとの電話が多くなっている。 最初は麦野から、掛ってくる電話の対応にうんざりさせられたが、彼女たちと話せば案外面白く、ついつい長電話になってしまうこともあった。 しかし、アイテムと佐天の関係は仕事を受注して、通達する係とそれを実行する部隊の関係でしかない。 やはり最終的にはじゅんぐりまわってお金の話になってしまうのだった。 (スクール…なんなんだろう?学校って意味だよね…ってか仲良くやりましょうよー…同じ治安維持機関の端くれじゃないの?) スクール…おそらく同じ暗部の組織で学園都市の治安を維持している部隊なのだろう。 学園都市を守る…目的は同じなのにもかかわらず…。 何無駄な事してんのよ、と佐天は他人事のように考える。 醜い縄張り争いは最前線で戦うアイテムにとっては想像すら出来ない事だろう。 しかし、そうした争いの弊害を直接的に被るのは縄張り争いをしている上ではなく、やはり最前線で身を粉にして戦う人たちなのだ。 佐天は戦いをしないこそすれ、アイテムに連絡を行う役目を受け持っている。 彼女はスクールという組織に漠然と仕事を取られ、なんだよ、全く…と思いつつも平和が一番!と考え、再び机に溜まりに溜まった宿題と取っ組み合うのであった。 とここで初春が何かを思い出したように「あっ!」とつぶやく。 佐天が「なに?」と言うよりも早く初春は弁を続けた。 「そう言えば、佐天さん。昨日風紀委員の詰め所に御坂さんが遊びに来たんですけどね?」 「御坂さんが?」 初春は「はい」とにっこりわらいながら答える。 佐天はあのSプロセッサ社の戦いの後に数回美琴にあっているが、特に何もなく話す事が出来た。 (私も…よくアイテムと戦った御坂さんと普通に話せたよなぁ…) 佐天は我ながら自分のクソ度胸と二面性に感心した。 二面性というかなんというか、精神が分裂してしまったのではないか?と思うくらいだったが、案外に普通に話せるものだ。 「で、御坂さんがなんだって?」佐天は初春に興味深そうな話を聞くように首をかしげる素振りをする。 なんでも初春いわ「“今度新しく見つけた喫茶店があるから四人で行こう”って言ってましたよ?パフェが美味しいらしんですよ」だとか。 佐天は両の手を会わせて期待に胸ふくらます初春を見つつ「へぇ~」とため息を吐く。 初春は「その為にも!」と語気を強くして喋り続ける。 「放課後残らない必要がありますねよね?佐天さん?宿題はしっかりやりましょう!」 初春はそう言うと人差し指をズイ!っと佐天に向ける。 彼女は「ひー!」と悲鳴をあげる。 いつからだろうか? “みんな”と言う言葉に抵抗を覚え始めたのは。 多分、あのSプロセッサ社の戦いの前後からだろう。 初春がいう“みんな”には白井と美琴が含まれている。 佐天は美琴に会うのが気まずかった。 勝手に気まずいと思っているのは佐天だけだが、どうしても美琴に会うとあの戦いの時に一人で学生寮に籠もっていたことを思い出すのだ。 友人を失うかもしれない。そう思ったあの日の夜。 意を決してこんな仕事辞めてやろうか、と思ったが、結局辞めれなかった。 それは友人を失うというリスクと自分が人に言うことが出来ない仕事をしているという環境に居続ける事を秤にかけて、出した彼女の答えだった。 学園都市の最奥を知れる存在だとか、友人達の様に何か秘密を持って行動している事が最初はうらやましいと思った。 反面、今ではそんなものクソ喰らえだ、と思っている自分も居る。 いざ、電話をする仕事を辞めようと思っても、佐天は躊躇してしまうのだった。 それはやはり彼女が抱えている劣等感や周囲の能力者の会話を思い出すたびに思うことだった。 (やっぱり…辞められないよ!ただの無能力者は嫌だよ…!) “周囲の能力者”と言うのが佐天が気を許せる友人なのだ…。 佐天は普段一緒に居る四人でする会話を思い出すたびに劣等感を感じずには居られないのだった。 しかし、彼女がこうしたどす黒い感情に包まれるのは日常生活の中のほんの少しだった。 (我ながらグダグダ…情けない…) そう思いつつも佐天は電話の仕事を辞められなかった。 結局は自分の今置かれている環境でそれなりのお金を得、良い暮らしをしている。 美琴との事もあの戦いの時の事を意識しなければいつもどうりやっていける、彼女がそう考えたからだった。 (何事も、時間が忘れさせてくれる) 彼女はそう思った。 彼女が実際に電話の女として得た報酬でゲーム機や私服もちょっと買ったりしている。 ガラにも無く親に仕送りをしている。 内訳としては一月で使い切れず、余ったお金を学園都市外の両親の宅に送金している事にしてるのだが、当の両親は気付くこともないだろう。 初春には親に送金している事だけを言うと「へぇ!私なんて余ったお金パソコンとか観賞植物買っちゃいますよ!」と驚いていた。 親に仕送りをすること。 それは親孝行かもしれないが、佐天はこれを一つの免罪符としていた。 ここ最近は少なくなったとは言え、仕事がなくなった訳ではない。 ひとたび仕事が始まれば誰かが傷つき、もしかしたら死ぬかもしれない。 彼女が上から受注したオーダーをアイテムに伝える事で死人が出る。 佐天はその直接の犯人でこそないが、彼女の命令が無ければ存命できたハズの人物も少なからず居た事だろう。 誰かの父であり、誰かの母であり、子であり…、そうした人たちの命を絡め取る仕事は決して気持ちのいいものではない。 しかし、人は“慣れ”という恐ろしい機能を持っている。 初めてアイテムの報告で死人が出た時、佐天は自分の命令によって人を殺したことに苛(さいな)まれた。 しかし、いまではただの報告書に載る数字の羅列同然と化してしまった。 彼女にとっては命の重みは等しい訳ではないのだった。 そんな環境に慣れてしまった彼女であったが、死んでしまった人たちに謝罪の意志も込めて、金の一部を親に送金している。 それは佐天が自分なりに考えた謝罪の気持ちの表れなのかもしれない。 しかし、謝罪といっても暗部の戦いで亡くなった人の遺族に送金するのが妥当であるが、彼女にそこまでする勇気は無かった。 恐かったのだ。 遺族から何かしら言われることが。 しかし、一番彼女が恐れていたこと…。 それは…いつか治安維持機関から自分に仕事が宛がわれなくなり、いつもの何もない、無能力者としての生活に戻ることだったのだ。 友人は居る。交友関係にも表面上は何も起きていない。 ただ、彼女は今の環境が変わることに恐れていた。 ………。 考え事をしつつ彼女はうとうとと寝てしまっていた。 「佐天さん~?すいませんー!起きて下さいー!」 「はっ!ごめん、初春!」 「いきなり謝ってどうしたんですか?嫌な夢でも?」 初春はその優しい表情を佐天に向ける。 どっぷりと嫌な事を考えていた佐天は「いや、ごめんなんもない」と言って初春を見る。 彼女の屈託のない笑顔が佐天にとってはやけにまぶしくかった。 初春の掛け声で不意に佐天は我に帰ると、学習机にある小さい時計をちらと見る。 最終下校時刻まであと少しだった。 「ごめん、考え事して寝ちゃってたわ」 「宿題から逃避するんじゃなくて、しっかり取り組みましょうね。じゃ、最終下校時刻が近くづいてるんでもう帰りますね?」 そういうと初春は玄関に向かう。 彼女はローファーをひょいと履き、佐天の家を出る。 佐天はひょこひょこ歩いて行く彼女に手を振る。 「まったねぇ~!初春ぅ~!」 「そんなおっきぃ声出さないでださぃ~!!恥ずかしいですよ~!」 佐天は真っ赤な夕焼けの光に初春がまるで溶けて見えなくなるまで手を振り続けた。

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