第16話 ウィリアム何でも相談所


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アンカーの町は大騒ぎだった。
町へ帰還した私はまずDDをエンリケの所へ案内した。
エンリケは自分の気持ちをまったく言葉にする事ができずに、ただ黙って涙してDDを抱きしめた。
周りのDD縁の人物たちは手放しで大喜びしていた。
DDはずっと照れくさそうであったが、時折優しい目で皆を見ていた。
その表情は普段の彼女よりとても大人びていてドキリとさせられる。
私は私で大騒ぎされた。
いきなり若返ったのだから当然だろう。
DDが帰還し、連れて帰ったウィリアムは若返った・・・・このニュースは瞬く間に町全体に広がった。
町中は祭りになり、商店はすべて営業をやめてどこでも振舞い酒が出された。
騒ぎは深夜まで続いて尚喧騒は止む事が無かった。

ふう・・・・・。
私は喧騒から逃れようと夜風に当たりにきた。
3階建てのうぐいす隊の屯所の屋上だ。
手すりに肘をかけて眼下を眺める。
どこもまだ明かりがついていて笑い声や音楽が途切れる事が無い。
・・・・これは、明日は皆起きられんな。
苦笑してグラスをかたむける。
「なーんだこんなとこいたのか。どこ行ったのか探してしまったぞー」
同じくグラスを持ったDDが私に並んで手すりにもたれかかった。
主役がこんな所にいていいのかね?
いいのいいの、とDDは笑った。
そして、しばし2人の間に沈黙が舞い降りる。
「・・・それで、どうする?これから」
DDが静かに尋ねた。
「まだこの島にいる?それとも出る?どっちにしたって私は一緒にいるしえりりんも多分そうだろうけど」
私はまだ当分はこの島にいるよ。しかし・・・・。
わからないな、エリスに関してはまだなんとなくわかるが、DDが何故そのように私と行動を共にするのかがよくわからない。
エンリケには市の代表を代わってくれと言われていたようだが?
「あはは、ないない。あいつだって私が受けると思って言ってないよ。私がそういうの一番苦手で向いてなくて嫌がるってわかってるはずだしね」
では貿易の仕事をもう一度やろうとは?
「んー、それもないね。あの時は賞金の使い道に悩んでたのと、後仲間が欲しくてさー1人だったし。だから船で色々な国を回る仕事したら仲間も集まるし、あっちこっちで出会いもあるじゃん?だから船買ってああいう事始めたんだ。やってる時は楽しかったし、仲間も沢山できたけど、一度終った事だからねー。だからまた1から同じ事を繰り返そうとは思わない」
そう言ってDDはぐいっとグラスをあおった。
「ウィルはさー・・・・・いっつもあんな事してんの?」
あんな事?
「会った事も無い人がピンチに陥ってたら毎度飛び込んで助けてるわけ?自分の命が危なくても」
いやそんな事は無い。というかそもそもそんなシーンにお目にかかったのはあれが初めてだよ。
「じゃあこの次に、私じゃない人間が同じような事なってるの見つけたら?やっぱり行く?」
どうだろうな。その時になってみないとわからない。この次は逃げ出すかもしれないな。
「・・・・ウソだね」
隣を見た。DDが私を見ていた。吸い込まれそうな深い藍色を湛えた瞳で私を真っ直ぐに。
「この次もウィルは行くよ。私にはそれがわかる」
すっとDDが手すりを離れた。
トン、と背中に軽い衝撃がある。DDが私の背に自分の背をぶつけた。
背中同士を合わせて私たちは重なり合った。
「だから私は一緒にいるよ。次があった時に、ウィルは私が死なさない」
私に背を合わせたままDDが空を見上げた。
「・・・・私の命は、ウィルにあげるよ」
つぶやくように言ったDDの台詞は夜風に溶けて消えていった。

それから数日して、私たちは宿を引き払った。
本格的な長期滞在に備えてオフィスを借りる事にしたのだ。
つてをあれこれ当たってみて結局シンクレアの薬局の二階を借りる事にした。
建物自体がかなり大きく、1フロアでも部屋数が多く事務所と住居を兼ねるのに充分だった。
またシンクレアが条件付で安価で話に乗ってくれたという事情もある。
そして家財道具の持ち込み等引越し作業の日が来た。
馴染みが大勢手伝いに来てくれた。
「軽い軽い。やはり引越し作業と言えば筋肉!!筋肉の出番ですな」
かなり重量のありそうな大き目のクロゼットをテッセイが1人で運んでいく。やはりこういうシーンでは誰よりも頼りになる男だ。
「ほーれ女子供はどいてな」
ジンパチがダンボールを抱えて行った。
DDは早めに据え付けたオフィスお応接セットのソファにねそべって漫画雑誌を広げてせんべいをかじっていた。
あっはっはと時折大笑いしている。
「ちょっと居候!! あなたも少しは働いたらどうなの!!」
動き回っていたエリスがDDに文句を言っている。
「えー? やってたよー。何か机を運びやすいようにバラバラに分解したらもう何もするなって言われた」
「ダメ人間ですかあなたは!!!」
エリスがDDを指差して怒鳴った。
「ただのダメ人間じゃないぞー。最強のダメ人間だもん」
なんかもの凄くダメそうに聞こえるな。
「よーし看板をかけますよー。せーの」
表でカルタスがピーッ、ピーッと笛を吹いている。
・・・・・看板?
気になって表に出てみる。
するとカルタスの合図に合わせて屋上からロープで皆が看板を降ろしている所だった。
ちょっと待て、何の看板だ。何故看板が出てくる。
私は慌てて看板に書かれている文字を読む。
「ウィリアム何でも相談所」
ぶふーっ!!! 何だこれは!!!
何でも相談してくるんじゃありません!!!!
そこへ気だるそうにシンクレアが出てきた。
「おーいい出来だ。有志がお金出し合ってくれて引っ越し祝いだってあれ」
引っ越し祝いで開業させんなや!!
「どうせやる事変わんないんだし看板あげといた方が潔いって。ほらアメあげるから」
呆然としてる私の口にシンクレアがアメを放り込んだ。
何と言ってよいものかわからずもごもごアメを舐めていたらイブキがバイトを大勢引き連れてやってきた。
皆手に岡持ちを持ってる。
「ハーイ引越しラーメン来たよー。私の故郷じゃ引越しにはラーメン!冠婚葬祭にもラーメン!土日にはラーメン!後その他の曜日も大体5日くらいはラーメンなんだ」
ウソつけもうそれ一年中ラーメンしか食べてないぞ!
「おお!じゃあ上の皆さんを呼んできましょう!!」
カルタスがやってくる。ちょうどそこへゲンジが出てきた。
「エレベーターがついたぜ。これで2階まで一々階段昇らなくてもいいってこった」
「はっはっはでは利用者第一号です」
カルタスがエレベーターに乗り込んだ。
「オイ鼻ァ!パネルの下の赤いボタンだ」
「これですか?」
ごそごそとカルタスが動く音がする。
「それだけぁ押しちゃいけねえ。そのボタンは・・・・」
ドーン!!!と激しい爆発音がしてカルタスの乗ったエレベーターは底部から激しく炎を噴出しながら天井を突き破り空の彼方へと消えていった。
「・・・・・緊急用の脱出・・・ってあーあー押しちまいやがった」
私はゲンジを殴り倒すと皆と一緒に空に敬礼した。
青空には親指をビシっと立てたカルタスの笑顔が重なって見えたのであった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~