第13話 来訪者


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火炎を自在に操る魔人、グライマーからこのシードラゴン島が世界を脅かす力を持った魔人達を封じ込める場所であると私は聞かされた。
彼らは千年に一度のチャンス・・・・封印された者の内、誰か一人だけがこの島から開放されるというその時へと向けて策動しているという。
彼らは果たして一体何をしようとしているのか・・・・。
そして、今この島が直面している脅威は、内部にいる魔人達ばかりではなかった。

その日、私はアンカーの町の代表、エンリケと話す機会があった。
そして彼は私に悩みを打ち明けてきた。
ここしばらくで、島の外からやってくる冒険者達の数が倍近くになっていると、増えているのは犯罪者崩れの危険な連中であると言う事。
「始めは彼らが起こす犯罪が問題だった。しかし、最近それは沈静化しつつあったのだ。その代わりに・・・・・」
彼らは徒党を組み、徐々に巨大な集団になりつつあるという。
「先生、私はこれは全て誰かが裏で糸を引いている気がするんだよ。危険な冒険者が大量に島に入ってきたのも、今現在集団になりつつあるのも・・・・」
初めから誰かに仕組まれた事のような気がする、とエンリケは深いため息をついた。
「こんな時、団長がいてくれたらと思ってしまうよ。私は元々率先して物事を決めて皆を引っ張っていくのは苦手でね」
エンリケが苦笑する。
「400人足らずから始まったこの町も今では人口10万に届こうかという大きな町になった。初めは団長を待とう、とそれだけで始めた事だが、今はもうそれだけではない。他に大事なものが沢山できてしまったよ・・・・」
静かで穏やかな口調だった。しかしその中には強い決意が感じられる。
「私は、この町を守りたいのだ」

「聞いたことがあるわ。『シャーク』の事でしょ?」
宿に戻り、資料を整理していた私を手伝っていたエリスが言う。
シャーク・・・・鮫・・・?
「うん、あいつら自分達の集団をそう呼んでるんですって。だから鮫の刺青したりマーク刻んだ物を身に付けてる奴が多いのよ」
ほう、それは初耳だった。町で鮫の印を見かけたら気をつけないとな。
するとそこにノックの音がした。
ドアを開けると宿の娘がメモを渡してきた。私に預かったと。
礼を言ってメモに目を通す。

・・・・・!!・・・・・・

一気に時間が数十年巻き戻ったような、そんな錯覚がする。
このメモ一つで人を呼び付けるやり方は今も変わらないんだな・・・・。
私はエリスに人と会ってくると告げると、コートを取って宿を出た。

メモに指定されたバーは、スフィーダの店のような大衆酒場ではなく、アンカーでも最高級に属する店だった。
大通りから1本入った道で営業している。
よく来たばかりでこんな店を探し当てるなぁ・・・・。
扉を開けて店内に入る。
彼女は、カウンター席にいた。
彼女はいつもその場所だった。
すました横顔も、当時と何も変わらない。
ただ刻まれた皺が私と彼女が最後に会ってからの時の流れを感じさせた。
「やあ、ウィル。久しぶりね」
彼女がグラスを上げてほんの微かに笑って見せた。
久しぶりだ、ノルン・クライフ准将。
「生憎と今は中将よ。誰かさんが身勝手に国を飛び出して行った時も確か中将だったかしら?」
そうか、あれから20年近く経つしな・・・・。
「大将にとも言われたのだけどそれは辞退したの。私もそろそろ家でゆっくりしたいわ」
一番上の孫はそろそろ士官学校を卒業するのだと彼女は言った。
「老けたわね、ウィル」
お互いにな、ノルン。
若い頃に散々つるんで無茶をした人間の老成した姿を見るのは何だか不思議で複雑な心境だった。
それで、どうして私がこの島にいると?
「おやおや、とぼけないでウィル。あなたがお宅に電信を打ったのでしょう」
ああ、その件か・・・・。
魔女ナイアールと遭遇した後、私は自宅へ電信を打っていた。旅に出る時に置いて出た愛用の神剣エターナルブルーをこの島に送って欲しい、と。
「あの神剣はあなた個人の所有物だけど、元老院の方々の中には帝国の財産だと思い込んでいる人が多いのよ。護衛も無しに国外に持ち出せるなんて思わないほうがいいわ」
呆れたようにノルンが嘆息した。
「・・・・まったくもう、あの電信一本で軍部は大騒ぎになったのよ。『あの剣帝バーンハルトが国外で神剣を必要とするような事態に巻き込まれている』って。危うく一個大隊に一級待機命令が出るところだったんだから」
う、なんという事だ、そんな大事になっていたとは・・・・。
国を離れて20年も経つ人間が自分の武器を送ってくれと家に連絡を入れただけだと言うのに。
「自分がどれくらい大事に思われているのかまるでわかっていないようね・・・・。今でもあなたの名前を出して召集をかければ軍部の3割の人間は無条件で駆けつけてくると思うわよ」
むう・・・・それで君がわざわざ来たのか。
「ええ、剣は追って信頼できる人間にこの島へ届けさせるわ。でもその前に話してみなさい。何があったのか、何をしようとしているのか」
私はこの島に来てからの出来事をかいつまんで彼女に説明した。
「・・・・しっかり世界がどうにかなりそうな話に巻き込まれてるじゃないの・・・・」
話を聞き終えた彼女がやれやれとでも言いたそうにこめかみをおさえた。
その時私の前にすっとグラスが差し出された。
マスターを見る。
「あちらの方からです」
初老のマスターは穏やかにカウンターの端の席を指した。
なんか濃い大男がこっちにウィンクして手を振っている。ヤバい。
グラスは青汁だった・・・・ヤバい。
名刺が添えられているので見てみる。
『ハードゲイ ホセ・バルディーノ』・・・・・・・ヤバい本気でヤバい。
てゆか名刺にハードゲイて書くなよ!
「・・・・相変わらずモテるのね」
ノルンの言葉が死刑宣告にしか聞こえない。
「話は大体わかったし、私はこれで失礼するわね。ごゆっくり・・・」
あああああ行っちゃった! 私も離脱しなくては!! でもホセが腰を低く落としたどう見てもタックルの構えでこちらを伺ってる!!
あれは紛れもなく獲物を狙う猛禽類の目だ。
タックルの構えのまま、ホセがじりじりと距離を詰めてきた。こめかみを汗が伝う。凄まじい緊張感であった。
「・・・・シャァッ!!」
ホセが仕掛けてきた! 私はタックルを右に切る。
机と椅子を吹き飛ばしてホセが前のめりに倒れた。今しかない!!
私はホセに組み付いて後ろから羽交い絞めにした。
マスターッッ!!!
叫ぶ。上着を脱ぎ捨てたマスターがカウンターに飛び乗ってそのままドロップキックを仕掛ける。
上空から突き刺さるようなキックは綺麗にホセのアゴに入った。
客A!!!
私の叫びに応じて奥の席で静かに飲んでいた身なりの良い紳士が木製の椅子を振り上げてホセに殴りかかった。
頭部に炸裂した椅子がバラバラに壊れる。
ラーメン!!!
窓ガラスを突き破ってイブキが店内に転がり込んでくる。
そのまま高く跳躍した彼女はホセの延髄に鋭いハイキックを決めた。
ようやく白目をむいてホセが昏倒する。
・・・・・かつてない強敵だった。ホセ・バルディーノ。安らかに眠るがいい・・・・。
私はマスター達と熱い握手を交わして宿へと引き上げていったのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~