epilogue


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薄暗い『始まりの舟』の居住エリアの地面に、ツカサは倒れていた。
彼女は姉を・・・セシルを庇って命を落した。
その身体の生命活動は既に停止している。
だが、ツカサの身体にもネイロスによる再生細胞が組み込まれていた。
ネイロス本人程の強力な再生能力は無いが、それでも細胞はツカサの身体を再び生命活動を開始できるまでに復元していた。
ドクン、と倒れたその身が一度大きく震えた。
「・・・かっ・・・ごふっ!」
咳き込んでツカサがゆっくりと身を起こす。
「はぁっ・・・はぁっ・・・ね、姉さん・・・」
立ち上がったツカサはそう呟くと、フラつく足取りでいずこかへと去っていった。


水晶洞窟の最下層にある大広間。
そこにピョートル配下の2人、赤い髪の女エウロペアと鬼人の土鬼がいる。
「逃がしたか・・・。さてピョートルに何と言われるやら」
言葉ほどには口惜しそうではなく、エウロペアが苦笑して呟いた。
そして彼女は倒れているDDに歩み寄った。
「お前のした事は無駄ではなかったようだ」
もう息をしていないDDに向かってそう言葉をかけると、エウロペアは屈んでDDを抱き上げた。
「・・・どうする気だ?」
土鬼が訝しげに問う。
「手厚く葬ってやると言ったのでな」
それだけ言うとエウロペアはDDを抱かかえたまま歩き出した。
その後ろに無言の土鬼が続き、2人は通路の先へ消えていった。


居住ブロックの一角、崩れた瓦礫に財団総帥ギャラガー・C・ロードリアスは腰掛けていた。
多大なマナを消費したものの、既に傷は完全に癒えている。
魔王石は3つまで奪われ、残るは背に埋め込んである1つのみとなったが、例え魔王石の無い状態であってもギャラガーは強大な永劫存在だ。
並ぶ者無き魔力を誇り、今や伝説として失われている筈の魔術を操り、魔術を行使せずとも肉弾戦であらゆる戦士をねじ伏せる事のできる究極の存在。
この世の支配者。
それが彼、ギャラガー。そのはずであった。
そのギャラガーが今、傷は癒えても立ち上がることができずにいる。
先程の戦い・・・ウィリアム・バーンハルトとの死闘で自身が敵に背を向けたのだという事実を未だ彼が受け入れられずにいるからだった。
「私はこの世の指導者・・・」
ギャラガーが呟く。
確かにあの時、自分は恐怖を感じていた。
奴の使う未知の力に怯えたのだ。
「この私が、恐怖したというのか・・・」
自身を支えてきた絶対という自信の喪失。それは誰かに脅かされると言う未だかつてギャラガーの味わった事が無い状況。
「ふふふ・・・」
ギャラガーが笑う。常人ならば自己崩壊に至ってもおかしくない程の心神喪失から自らの意思の力で立ち直る。
「ならば・・・私はその恐怖を糧として更なる高みを目指そう」
ギャラガーが立ち上がった。
ウィリアム・バーンハルトに再び挑む為に。
奴は負傷した仲間達を抱えている。そう遠くへ行ってはいまい。
そう考えて1歩踏み出した時、ギャラガーの耳に、コツとハイヒールが地面を打つ音が届いた。
「こちらでしたか・・・総帥閣下」
「霧呼か」
現れた柳生霧呼をギャラガーが見る。
「探しました。コアブロック付近におられるものと」
言われてギャラガーは自身の位置を初めて考える。
そう言えば随分コアブロックから距離のある場所まで来ている。
「ウィリアム・バーンハルトを相手に不覚を取った」
ギャラガーは事実を正直に口にした。
それは既にその現実を彼が受け入れるのだと決意した証拠でもある。
「同じ醜態は晒すまい。次は私が奴をねじ伏せる番だ」
ギャラガーが歩き出す。
その後姿を見ながら、霧呼は少しの間両手を組んで顎に右手を添えて何事か考えていたが、
「・・・申し訳ないのですが、それはやめていただけます?」
とギャラガーに声をかけた。

ギャラガーが足を止めた。
霧呼の言葉を聞いてではない。
言葉だけなら彼は黙殺していた。
足を止めたのは、霧呼が言葉と同時に強い殺気を放ったからだった。
「舐められたものよな。・・・今ならこの私を殺せると踏んだか、柳生霧呼」
振り返ったギャラガーが無表情のまま霧呼を見据えた。
霧呼はそんなギャラガーを見て微笑んでいた。
「私を殺め、財団と『神の門』を狙うか?」
「生憎と・・・」
霧呼が静かに首を横に振る。
「そういったものには私は興味がございませんね。貴方の『計画』もまるで賛同はしていませんでしたけど、したければすればいいと思っていましたし・・・ただ」
霧呼が瞳をやや細める。
「舟を・・・これ以上破壊されるのは困るんです。私にとっては神の門などよりも舟自体の方がずっと大事なので・・・」
「・・・どういう事だ?」
ギャラガーが眉を顰める。
「言葉の通りです、総帥閣下。貴方は・・・少し調子に乗って舟を破壊し過ぎました。そうなったら貴方を殺そうとは決めていましたけど、事実その通りになってしまった事には私なりに残念にも思いますね・・・」
ふふ、と悠然と微笑む霧呼。
「思った通りに行くのか試してみたらどうだ。お前の力でこのギャラガーを果たして殺せるのかどうかな」
ギャラガーが右手を高く上げ、その先に真紅の光弾を作り出す。
「痴れ者め・・・消し飛ぶがいい」
ドン!!と勢い良く光弾が放たれる。
唸りを上げて激しく回転しながら迫る光弾に対し、霧呼は回避しようとはせずに右手を差し出した。
それで・・・お終いだった。
光弾は音も無く消失する。
「・・・!?」
ギャラガーが目を見張る。
霧呼の手の中には、握り拳程の大きさの星空があった。
「舐められたものだと、貴方はおっしゃいましたけど・・・」
突如、ぶわっと霧呼の手の中の星空が爆発的に周囲に広がった。
「・・・・・・・!!!!!」
瞬く間に星空は周囲を覆いつくし、その光景を一変させる。
無限に続く星の海に、霧呼とギャラガーは浮遊していた。
「私に言わせれば、ずっと舐めていたのは貴方の方です。貴方は私を舐めていたし、ウィリアム・バーンハルトを舐めていたし、世界を舐めていたでしょう? 最も貴方はその誤りを指摘すれば、受け入れて正せるだけの器もある方でしたけど。・・・でもただの1度の誤りで全て失ってしまう事もあるんですよ」
唐突にギャラガーは全身を強い力で引かれ、咄嗟に身構えて持ち堪えた。
引き寄せられる方向を見て、その表情が凍り付く。
・・・眼前に巨大な惑星が迫っていた。
自分はその惑星に向けて吸い寄せられているのだ。
「最終幻想(Eine letzte Phantasie)・・・『冥王星』(Pluto)」
ゴッ!!!!と引き寄せる力が一気に強くなった。
「オオオ!! ・・・おおおおおおおおお!!!」
ギャラガーが咆哮する。
ボロボロとその身が崩れていく。
崩れた破片は即石化し、無数の小さな石の欠片となって冥王星に向けて流れていく。
「貴方の求める理想郷は・・・奈落の底にお作りなさいな」
そう言って霧呼は静かに目を閉じた。
その眼前でギャラガーは完全に石化すると粉々に砕け散り、星に吸い込まれて消えていった。

星海は消え、霧呼が元の居住ブロックへと帰還する。
「・・・終わった?」
声をかけられて霧呼がそちらを見ると、瓦礫にエトワールが腰掛けている。
それは先程ギャラガーが座っていたのと同じ場所だった。
「ええ。・・・何か言いたい事があった?」
そう霧呼が問うと、エトワールはうーん、と唸った。
「まー、最後に『今までありがとー』とか言いたかった気もするけど、場違いだったろうしなー。うち嫌いじゃなかったしね、マイアンクル。まーうちにとってはキリコの方がずっと大事だったワケですが!」
そう言って立ち上がったエトワールがばふっと霧呼に抱きついた。
そのエトワールの頭を霧呼は優しく撫でた。
「そっちはどうだったの?」
霧呼の服に顔を埋めていたエトワールが見上げる。
「ちゃんと飛ばしてきたよーん。まあ、世界中に散っちゃったけどね。そこまでの準備してなかったから」
「この場を離脱させられたのなら、それでいいわ」
そのまま暫く2人は動かなかった。
「・・・これで、財団はピョートルの物になるわね」
やがて霧呼がポツリと呟く。
「えー・・・ヤダなぁそれ。ムカつく」
エトワールが顔を顰める。
「仕方が無いわ。・・・ここまで全部のカードを伏せたまま乗り切った彼の作戦勝ちよ。私は『ハイドラ』を全員失ったし、貴女は元々そういうの興味がないから手札に強いカード1枚も無いのだし」
「金勘定上手い奴なら沢山抱えてるんだけどなー」
口を尖らせるエトワール。
「アイツ・・・総帥になるかな?」
霧呼が首を横に振る。
「彼は計算高いから、『名』より『実』を取るわ。・・・都合の良い後釜を据えて後見の立場から財団を動かすでしょうね」
「あー・・・フリードリヒか」
エトワールが従兄弟の名を口にする。
「そうね。もうあちらの家への働きかけもバッチリみたいだし・・・」
とん、と霧呼が瓦礫に腰を下ろした。
その隣にエトワールも座る。
「暫くの間は、好きにさせてあげるわ。私も少し疲れたし、当分はのんびりしたいわね」
「どっか行こうよキリコ。旅行とか」
瞳を輝かせてそう提案してくるエトワールに、霧呼はそうね、と微笑を返した。
その座って寄り添う2人の視線の先では、巨漢の老いた覆面レスラーが
「皆はどこだーッッッッ!!!!!」
と絶叫していたのだった。