第6話 地獄の赤、再び


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ガラッと店の戸を開ける音がして2人組の客が入ってきた。
どっちも仕事帰りの労働者だ。
いらっしゃーい。
お冷とおしぼりを出す。
「お、キリエッタ大分サマになってきたじゃねえか」
「ここの制服にも馴染んできたなぁ」
オッサンがた褒めてくださってるよ。
ふふーん、だろ?いい女は何着たって似合うもんなのさ。
腰に手を当てて艶かしくポーズなんかとってみる。
「馬鹿やってないで仕事!! ほらチャーシュー2つあがり!!」
カウンターから怒号が飛んだよ。
おーコワ・・・人使いが荒いねご主人様は。
丼を盆に取りつつ、麺を湯切りする彼女の横顔を見る。
彼女の名前は勇吹。
アタシの雇い主にしてパートナーでもあり、この「ラーメンいぶき」の店長だ。

数ヶ月前にこの町で騒ぎを起こしたアタシは罪人としてしょっ引かれた。
ところが収容された監獄でイザコザがあって、そこも放逐されたアタシに下された処罰は町へ戻っての奉仕活動だった。
ただしそれは代表が容認すればの話だ。
代表は誰か身元引受人になる人物がいれば許可すると条件付でアタシの受け入れを容認した。
ところがアタシの馴染みなんかもう全員死ぬかしょっ引かれるかしちまってる。
もう思いつく名前はイブキお嬢ちゃん1人だけだった。
アタシは監獄から彼女に手紙を一通出した。破り捨てられるんじゃないの?と思ったけど・・・。
彼女はアタシを受け入れた。
「言っておくけど・・・ちゃんと働かないようなら追い出すからね!」
数ヶ月ぶりの再開。
礼を言うアタシにイブキはそう言った。
借りができたねぇ。・・・アタシは自分じゃ自分が義理堅い方だと思ってる。
受けた恩にも恨みにも必ず報いる。それがはぐれ者としてやってきたアタシが自分自身に課したルールだった。
だからさ、まあ・・・・この先きっとどっかでアタシはつまんない死に方するだろうけど、それまではこの店と彼女の為に生きてみようかなと。
なんとなく、そう決めたのだ。

店の扉を開ける音で、感傷に浸りかけていたアタシの意識は現実へ引き戻された。
・・・らっしゃーい! と気を取り直すように殊更元気な声を上げて、そしてアタシの動きは止まった。
「こんばんは。その節はどうも」
店に入ってきた三銃士エリックは、嫌味の無い笑顔を見せてそう挨拶した。
・・・・・何さ、再戦の申し込み?悪いけど今忙しいからそれなら後日にしとくれよ。
いえいえ、とエリックが首を横に振る。
整った顔立ちに額に巻かれた包帯と頬の絆創膏が痛々しい。
つったって、アタシだって見た目は普段通りでもまだ制服の下は包帯と絆創膏まみれだ。
「今日はただ食事をしにきただけですよ。皆でラーメンが食べたいと意見が合いましてね」
そのエリックに続いてぞろぞろと共和国勢が店内に入ってくる。
ルノーに・・・シグナルに・・・・・うあ何この包帯ダルマは・・・・カミュか。
そして最後に
「グッドスメル!グッドスメルだよ!! 食欲をそそられるね! ハッハッハ!!!」
・・・・・なんか、雑誌とか新聞でよく見かける顔が入ってきたよ。

うちのテーブルは4人がけだ。
三銃士と大統領が一つのテーブルにつき、シグナルはまるでそれが当たり前であるかのようにカウンター席に座った。
「・・・・イテテ、くそっバカヤロ、いてえ」
椅子に座ろうとしてカミュがうめいてる。
「まだ外出許可も出てないつーのに無茶するからだバーカ」
ルノーがそっけなく言う。
「うっせえバカヤロ! 俺抜きでラーメンとか行かせるワケねえだろが!」
カミュが吼えた。まあまあお静かに、とエリックがなだめる。
なんか近付きたくないねぇ・・・・まーお仕事だしょうがない。
注文を取りに行く。
ご注文をどうぞー。
「チャーシューメンだ! ジェントルマンは常にチャーシューメンと相場が決まっているものだよ!ハッハッハ!!」
大統領が豪快に注文する。
そうなん?知らないけどさ・・・・。
「タンメンネギ抜き。モヤシとキャベツ大盛り」
「私はラーメンに木耳と味玉を乗せて下さい」
ルノーとエリックがそれぞれ注文する。
「・・・・・ラーメンと餃子」
シグナルが呟いた。
「ホラ何やってんだ怪我人。注文モタモタすんな。これどうだ辛いの好きだろリーダー」
ルノーが指さしたのは赤く大きな字で並んだメニューの中でも一際目立つヘル・レッド・ラーメンの文字だった。
「おおーいいじゃねえかバカヤロ。辛いもん食ってバーッと汗かくか」
はいよーヘルレッドで。

「・・・・で、どうすんのよボスこれから。我々はどっかの誰かさんがみっともなく負けたお陰で目的から遠ざかったわけだが」
わざとらしくカミュを見て言うルノー。
カミュは不機嫌そうにタバコをくわえてライターをカチカチと鳴らした。
なんとなく手持ち無沙汰で空いたテーブルを拭きながらアタシは連中の話に耳を傾けてみる。
「敗戦の代償として彼らが私に要求したのはしばらく町の自治に口出しするなという事だった。当分は自治に関しては口出しはしない。しかしだ!!!」
ぐわっと拳を振り上げる大統領。
なんていうか声デカいねぇこのオヤジ。店の客皆びびっちまってるよ。
「我々の最終目的はあくまでもゲートだ!!『神の門』だよ!!それさえ手に入れる事ができれば自治などはどうでもいいことだ!! お前達は引き続き、神の門の情報を入手し、その奪取を目的に活動したまえ!!!」
「しかし四葉がもう来るんだろ? うちはガチンコしか能の無い奴がこのザマだ。不利じゃないか?」
カミュが不機嫌そうに横を向いてタバコをすぱすぱと吹かした。
・・・四葉か・・・。
結構前に一度だけ仕事でカチ合って戦いになった事があったっけかね・・・・。
恐ろしく強い奴だったねぇ・・・。最大の武器である天馬での騎乗攻撃、それを捨ててわざわざ徒歩でアイツはアタシとやりあった。それでも互角・・・いやちょっとアタシの方が分が悪かったか・・・。
なんてったっけね・・・。確かその後何年かして団長まで上り詰めたって聞いたんだよねぇ。ああ、そうだマチルダだ。『彗星のマチルダ』
「ノープロブレム!! ノープロブレムだよルーシー!!」
大統領の大声で我に返る。
「本国に増援は既に手配してある!! 間も無くもう2人、銃士が到着するはずだ!! ハッハッ!!」
「誰をお呼びに?」
エリックが尋ねる。
「『JOKER』と『アビス能収』だ!」
「色モンコンビじゃねーか」
ふーっとルノーがため息をつく。
「ハッハッ!! 確かにエキセントリックな2人だがね! だが2人ともお前達がいなければ三銃士を名乗ってもおかしくない腕だ!! 上手く使いたまえよボーイ!!」
バンバンとカミュの肩を叩く大統領。
カミュが痛みに顔をしかめる。

そこへチャーシューメンとタンメンとラーメンが出来上がってきたので届ける。
早速大統領がチャーシューを食べて麺をすすった。
「・・・・うーん、デリシャス!! グッドだよ!! ハッハッハ!!」
満足そうだね。まーイブキのラーメンの腕は凄いしね。
アタシも最初食べた時は驚いた。
他3人も概ね満足そうだね。
そこへ、ヘルレッドラーメンが出来上がってくる。
「やっと来たかバカヤロ。さー食うぜ!!」
ずずーっと一気に麺をすするカミュ。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
そして動きが止まった。
「・・・・ボーイ?」
大統領がその顔を覗き込んだ。
「・・・・・・・バはッッ!!!!!!」
カミュが鼻と耳から大量の麺を噴出する。
飛び散るスープを大統領が浴びた。
「・・・・世界の車窓から!!!!!」
倒れて意識を失う大統領。
同じく椅子ごと倒れて絶叫を上げ続けるカミュ。
「・・・・・転職しようかな」
その惨状を眺めてタンメンを啜りながらルノーがポツリと呟いたのだった。

~キリエッタ回想より~