最終話 ぼくらの故郷-4

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イブキが拳に力を込める。大気が震える。 その輝く瞳が捉えるのは目の前にいるキリエッタ。 「はあああああっっっ!!!!」 渾身の力を込めてイブキが足元の地面を殴りつけた。 ゴアッ!!!と衝撃波が地表を走る。 地面には幾筋ものヒビが走り、周辺の建物の窓ガラスが砕け散った。 地面はまるで地震の様にグラグラと揺れている。 「・・・・くっ、なんて馬鹿力だい! ・・・・けどねぇ」 揺れる大地に踏ん張りを効かせてキリエッタが前を見る。 予想通り、イブキは崩れ落ちる瓦礫の中を一直線にキリエッタに向かってきている。 「目くらましとしちゃ三流だね!!! これで終わりさ!!!お嬢ちゃん!!!!」 鞭を振るう。 その必殺の一撃はまたイブキを打ち据えて後方へと押し戻す。 ・・・・そのはずだった。 ビシッ!!とその鞭が何かに巻き付いて止まる。 「・・・・・何ッッ!!???」 それは倒れてきた街灯だった。先ほどイブキが「気弾を外したフリをしてポールを削っていた」街灯だ。 キリエッタが慌てて鞭を振り解いて手元へと巻き戻す。 しかしその時には既に、イブキはキリエッタの懐へ到達していた。 「・・・・たった、これだけの距離が・・・・・」 「くっ!!!イブキッッ!!!!!」 キリエッタが鞭を手放して短刀を懐から引き抜いた。 「随分遠かったわ!!!! サソリのキリエッタ!!!!!」 その短刀の一撃が届くより速く、イブキの拳はキリエッタの胸部中央に炸裂した。 ドォン!!!と轟音を響かせてキリエッタが後方へ大きく吹き飛び、壁に叩き付けられた。 「ぐはッッ!!!!」 ビシッとキリエッタが叩き付けられた場所を中心にして壁の四方へ蜘蛛の巣状の亀裂が走る。 「・・・・やるじゃ・・・ない・・のさ・・・・お嬢・・ちゃ・・ん・・・・」 そのままずるずると壁にもたれ掛かるようにして崩れ落ちたキリエッタはがっくりと項垂れて動かなくなった。 「・・・ラーメン食べてないから、負けるのよ。キリエッタ」 ふんっ、と鼻を鳴らしてイブキが胸を張る。 「皿洗いからやり直しなさい!!」 「・・・・カッ・・・こりゃ、かなわん、かなわんわい・・・・ヒッヒッ」 満身創痍のビャクエンが乾いた笑い声を上げた。 既に両手の手甲の爪は全て折れて無くなってしまっている。 刀を構えた姿勢のまま、アヤメは静かにビャクエンを見ていた。 「娘・・・主の勝ちじゃ・・・・殺るがええ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 アヤメが刀の切っ先をすっと下へ落とした。 「お断りします。私の剣は命を奪う剣ではありません」 「何ぃ? 甘っちょろい事を抜かすな娘! 父の仇を討ちたく・・・・う・・・・」 ビャクエンが胸元をかきむしるようにして苦しげな表情を浮かべた。 そしてごぼっと赤黒い血の塊を吐き出す。 「!?」 アヤメが驚愕する。その吐血が自分の攻撃によるものではない事は明らかだった。 「・・・・病を・・・・・道理で父と戦った時より動きが鈍いと思いました・・・・」 「ヒャッヒャッ・・・・不摂生が祟ってのぅ! どうせこのままでも来年の春は迎えられぬ身よ。だから殺せ娘!病なんぞで果てるのは真っ平ゴメンじゃて!死ぬなら死合いに限るわ!! ヒャッヒャッヒャッ!!」 逡巡するアヤメ。しかしやはり彼女は首を横に振る。 「できません。・・・すぐに治療を受けて下さい」 アヤメの言葉にビャクエンが苦々しげに顔を歪めた。 「・・・・・主には、失望したわい」 バン!と突然地を蹴ってビャクエンがアヤメに飛び掛った。 そして渾身の力を込めて彼女を突き飛ばす。 「うっ!」 不意を突かれたアヤメが吹き飛ばされて路上に転がった。 「娘! その甘さ捨てる事じゃ!! そうすればきっと一級の剣士になれるわい!! 楽しみじゃのぅ! ヒャッヒャッヒャッ!!」 突き飛ばしてアヤメを自分から遠ざけたビャクエンが笑う。そして腰に下げたひょうたん型の容器を手に取りぐいっとあおった。 「わしゃ一足先に地獄でその様を見物させてもらう事にするわい!! ヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!」 ビャクエンが容器を足元に叩き付ける。パリンと音を立てて容器は砕け散り、カッ!と周囲を閃光が走った。 続いてドォン!!!!と周囲に爆音が轟く。 咄嗟に顔を伏せたアヤメが再び顔を上げると、先程までビャクエンが立っていた場所は轟々と燃え盛る火柱となっていた。 「・・・・自分の命まで・・・軽んじて・・・・」 下唇を噛んで、アヤメは火柱を見つめ続けた。 「先生っ!」 駆け寄って来たセシルが私に抱きついてくる。 私がタイタンと交戦している間にエリスが救出してきてくれたのだ。 「う・・・我慢・・・今は我慢・・・・」 エリスはそんな私たちを眺めてなにやらぶつぶつ言っている。 ケガはないかい? 「平気よ。少しすりむいたくらい。でも怖かった!」 そう言ってもう一度ぎゅっと抱きついてくる。 辛いだろうが・・・歌えるか? 「うん、大丈夫。皆待っててくれてるし」 セシルが微笑む。まだ少し顔色は悪かったが、それでも彼女の瞳の輝きを見て私は大丈夫だろう、とそう思った。 一緒にいてあげたいのだが、まだ行かなくてはならない場所があるんだ。エリス、すまないが彼女を頼む。あとそっちで転がってる伊東も。 「おじさま、気をつけてね。私の撃沈号使って」 縁起悪い名前のエリスの自転車だった。 「先生、どこへいくの? ステージ見て欲しかった・・・・」 そう言うセシルになんと答えたものかしばし悩む。 ・・・・すまないね。この町を狙ってる悪い奴らがいてね・・・行かなくては。 そう言ってエリスの自転車に跨る。 そして最後にがんばれ、と声をかけて走り出した。 「・・・・ヒーローって、本当にいるのね。お話の中だけだと思ってた」 そう言うセシルにエリスが微笑む。 「いるのよ、ヒーロー。朴念仁で不精ヒゲだけど、最高にカッコいいんだから!」 走りながら各ポイントの様子を尋ねる。 『銀行前、イブキよ。キリエッタ撃破したわ』 『放送局前、アヤメです。・・・ビャクエン撃破しました』 『代表事務所前、シトリンだけど、ごめんトーガやっつけたのに逃がしちゃって・・・』 『本部のカイリだ! バーなんとか倒しちゃったもんね! 見たかウィリアム僕の凄さ!!!』 指輪から順に聞こえてくる声に耳を傾ける。 よし、ここまで概ねこちらの予定通りだ・・・・。 カイリにシャークの本部の位置を告げたのは私だった。素直に頼んだら行ってくれないような気がしたので、わざと離した場所に配置して本部の場所をそれとなく教えておいた。 こちらの予定通りにカイリは単独で本部へ向かってくれた。 私の予想が確かなら、そこには「重要人物が誰もいない」か、「ヴァーミリオンがいてすぐ倒される」はずだった。 シトリン、トーガはどちらの方角へ逃げた? 『え? うん・・・と、東の方角だけど』 よし、オルヴィエ七巻だ。映像を出してくれ。 『え? ・・・・七巻って、海に面したあの東の林? いいけど、あんなとこ何があるの?』 オルヴィエが本を開いてその上に映像を投影する。女王の白蛇に意識を集中してその映像を見る。 『・・・・・!! 誰かいる!』 やはりな。 町全体を見渡せて、尚且つ何かあった時に町から見えないように船を寄せて脱出するにはあの位置しかない。 そこに、いるはずだ。 そう読んでいた。 映像がはっきりしてくる。 スーツにロングコートの背の高い男・・・・左手で書類カバンを持っている。そして右手は・・・・。 中身の無い袖だけが風に揺れていた。 ・・・・待ってろ、今行く。 私は人気の無い町外れの路地を自転車で駆け抜けたのだった。 [[最終話 3>最終話 ぼくらの故郷-3]]← →[[最終話 5>最終話 ぼくらの故郷-5]]

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