第9話 舞い戻ってきた男

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#image(第9話.jpg,right) 『お前は必ずアタシの所へ来るよ。あの小生意気なDDを連れて必ずね』 どうにもあの日からあのナイアールと名乗った魔女の言葉が耳に残ってしょうがない。 DDとはあのレディ・ダイヤモンドダストの事なのか。 何故あの魔女の口からその名が出るのだろう。彼女は今もこの島のどこかで生きているのだろうか・・・・。 今は情報が少なすぎる。考えすぎずに気に留めておく程度にしよう。 ある日の昼下がり。 私とエリスは昼食を取る店を探しながら町を歩いていた。 ちょうどいい具合にレストランがある。 しかし店内から響く絶叫。 「さっ、さっ、さっサラダにキュウリー!!!!!!!!」 ガシャーン!と何か食器でも割れる音が続く。 ・・・・・ここはやめておこう。 ラーメンでいいか、とラーメンいぶきへの道を行こうとしたその時。 「その男」と私はすれ違った。 背の高いがっしりとした体格の鷲鼻に顎鬚にバンダナの男。 この町に着いたばかりなのか、荷物が入っていると思われる旅行用の大きな皮袋を背負っている。 年中冒険者達がやってくるこのアンカーの町でそんな出で立ちの人間とすれ違うこと等珍しくも何ともない。 だが瞬間私は何とも言えない戦慄を感じた。 脳髄に微かな電流を流されたような感触。 周囲に撒き散らしているわけではないが、その男の深い部分に、冷たく暗い何かを感じたのだ。 横のエリスは何もわからなかったのであろう、「おじさま、どうしたの?」とキョトンとした顔で私を見ていた。 なんでもないよ、と彼女に笑ってみせる。 すると私がその男の後姿を見送っている事に気付いたゲンジが声をかけてきた。 「おー、あんニャロウまーたここへ帰ってきやがったのか」 知り合いか、と尋ねる。 「へっ、知り合いも何も前一緒に仕事してた仲だぜ。ありゃぁ、お嬢の船団で6番船任されてた鳴江漂水ってヤツだ」 ゲンジが言う「お嬢」とはレディ・ダイヤモンドダストの事だ。 なるえひょうすい・・・・・DDの船団で一艘任されていた男か・・・・。 「お嬢がいなくなってよォ、俺っちらは半分はここ残って町やってく事にしてよぉ、残りの半分は島出て散り散りになったんだぜ。あんニャロウも島ぁ出てったクチだが、数年に1回フラッフラ戻ってきやがるのよ」 ゲンジはあまりいい顔をしていない。 「ま、昔っから何考えてるかわかんねーヤロウだったぜ。みょーな凄みがあるから一部の連中には人気あったんだけどよォ」 確かに他のDDの船団のメンバーだった人間とはヒョウスイは異質な雰囲気を持っていた。 まあ私の知る船団メンバーはここに残っている面子だけだが・・・・。 そのヒョウスイに2度目に出会ったのは、やはりある日の昼下がりだった。 その日私はエリスと別行動しており、昼食もレストランで1人でとっていた。 そこへヒョウスイは声をかけてきた。 「どーも、ウィリアム先生。自分は鳴江漂水ってモンなんですが、ここ相席よろしいですかね?自分この町2年ぶりなんですがね、最近先生が大活躍して有名人だって聞いてね。是非お話したいと思ってたとこなんですわ」 ヒョウスイは愛想よく笑っている。しかしこの男からは相変わらず日の当たらぬ場所の匂いが・・・・闇の気配がした。 私は構わない、と言った。ヒョウスイが私の向かいの席に腰を降ろしてウェイトレスに注文をする。 「お近づきのシルシにね。こういうのはどうです」 ヒョウスイは荷物からクビナガスギザルを取り出してテーブルにどすんと乗せた。 目の前ででろーんとされて食後のコーヒーが不味くなる。 ・・・・・いきなり仕掛けてきたか・・・この男・・・・。 さて何で反撃したものかと手持ちの荷物の内容を考えていると。 「いいえ!間に合っています!」 元気のいい声がして横からテーブルにもう1匹クビナガスギザルがどすんと置かれた。 見ればいつの間に来たのかエリスが胸を張っている。 どっからそれ出してきたのかわからんけどありがとう。 テーブルの上のでろーんが2匹になった。 「やるねェ、お嬢ちゃん」 ヒョウスイがニヤリと笑った。 私の隣に座って注文を済ませたエリスとヒョウスイが互いに自己紹介する。 そこへヒョウスイの頼んだシーフードピザが届いた。 するとでろーんが1匹ひょいと首を伸ばしてそのピザをくわえた。 「あ」「あ」 ヒョウスイとエリスの声がハモった。 でろーんそのまま美味そうにピザをむしゃむしゃ食べ始める。 ふっと笑って優雅に髪をかきあげるエリス。 「策士策に溺れる、と言ったところね」 そこへエリスの頼んだショートケーキが届いた。 するともう1匹のでろーんがひょいと首を伸ばしてそのケーキをくわえる。 「あ」「あ」「あ」 今度は私も声を出してしまった。3人の声がハモる。 エリスは美味そうにケーキを食べるでろーんを涙目でふるふる震えながら睨んでいる。 「・・・・クックック・・・・あっはっはっはっは!!」 突然天井を仰いで哄笑するヒョウスイ。 「・・・・・はー、こいつはいいや。先生今日はこれで失礼しますよ。先生がたとは長い付き合いになりそうだ」 ヒョウスイは伝票を手にとって立ち上がった。 「今日の払いは持ちますよ。またお会いしましょうや」 おい払いはいいからでろーん1匹持って帰れ。 その時でろーんが1匹テーブルから頭落として床にぶつけて 「オ”ェ」 と妙な悲鳴を上げたのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ [[第8話 地獄のラーメン対決]]← →[[第10話 アンカー 夕暮れ時]]
『お前は必ずアタシの所へ来るよ。あの小生意気なDDを連れて必ずね』 どうにもあの日からあのナイアールと名乗った魔女の言葉が耳に残ってしょうがない。 DDとはあのレディ・ダイヤモンドダストの事なのか。 何故あの魔女の口からその名が出るのだろう。彼女は今もこの島のどこかで生きているのだろうか・・・・。 今は情報が少なすぎる。考えすぎずに気に留めておく程度にしよう。 ある日の昼下がり。 私とエリスは昼食を取る店を探しながら町を歩いていた。 ちょうどいい具合にレストランがある。 しかし店内から響く絶叫。 「さっ、さっ、さっサラダにキュウリー!!!!!!!!」 ガシャーン!と何か食器でも割れる音が続く。 ・・・・・ここはやめておこう。 ラーメンでいいか、とラーメンいぶきへの道を行こうとしたその時。 「その男」と私はすれ違った。 &blankimg(第9話.jpg,width=170,height=272) 背の高いがっしりとした体格の鷲鼻に顎鬚にバンダナの男。 この町に着いたばかりなのか、荷物が入っていると思われる旅行用の大きな皮袋を背負っている。 年中冒険者達がやってくるこのアンカーの町でそんな出で立ちの人間とすれ違うこと等珍しくも何ともない。 だが瞬間私は何とも言えない戦慄を感じた。 脳髄に微かな電流を流されたような感触。 周囲に撒き散らしているわけではないが、その男の深い部分に、冷たく暗い何かを感じたのだ。 横のエリスは何もわからなかったのであろう、「おじさま、どうしたの?」とキョトンとした顔で私を見ていた。 なんでもないよ、と彼女に笑ってみせる。 すると私がその男の後姿を見送っている事に気付いたゲンジが声をかけてきた。 「おー、あんニャロウまーたここへ帰ってきやがったのか」 知り合いか、と尋ねる。 「へっ、知り合いも何も前一緒に仕事してた仲だぜ。ありゃぁ、お嬢の船団で6番船任されてた鳴江漂水ってヤツだ」 ゲンジが言う「お嬢」とはレディ・ダイヤモンドダストの事だ。 なるえひょうすい・・・・・DDの船団で一艘任されていた男か・・・・。 「お嬢がいなくなってよォ、俺っちらは半分はここ残って町やってく事にしてよぉ、残りの半分は島出て散り散りになったんだぜ。あんニャロウも島ぁ出てったクチだが、数年に1回フラッフラ戻ってきやがるのよ」 ゲンジはあまりいい顔をしていない。 「ま、昔っから何考えてるかわかんねーヤロウだったぜ。みょーな凄みがあるから一部の連中には人気あったんだけどよォ」 確かに他のDDの船団のメンバーだった人間とはヒョウスイは異質な雰囲気を持っていた。 まあ私の知る船団メンバーはここに残っている面子だけだが・・・・。 そのヒョウスイに2度目に出会ったのは、やはりある日の昼下がりだった。 その日私はエリスと別行動しており、昼食もレストランで1人でとっていた。 そこへヒョウスイは声をかけてきた。 「どーも、ウィリアム先生。自分は鳴江漂水ってモンなんですが、ここ相席よろしいですかね?自分この町2年ぶりなんですがね、最近先生が大活躍して有名人だって聞いてね。是非お話したいと思ってたとこなんですわ」 ヒョウスイは愛想よく笑っている。しかしこの男からは相変わらず日の当たらぬ場所の匂いが・・・・闇の気配がした。 私は構わない、と言った。ヒョウスイが私の向かいの席に腰を降ろしてウェイトレスに注文をする。 「お近づきのシルシにね。こういうのはどうです」 ヒョウスイは荷物からクビナガスギザルを取り出してテーブルにどすんと乗せた。 目の前ででろーんとされて食後のコーヒーが不味くなる。 ・・・・・いきなり仕掛けてきたか・・・この男・・・・。 さて何で反撃したものかと手持ちの荷物の内容を考えていると。 「いいえ!間に合っています!」 元気のいい声がして横からテーブルにもう1匹クビナガスギザルがどすんと置かれた。 見ればいつの間に来たのかエリスが胸を張っている。 どっからそれ出してきたのかわからんけどありがとう。 テーブルの上のでろーんが2匹になった。 「やるねェ、お嬢ちゃん」 ヒョウスイがニヤリと笑った。 私の隣に座って注文を済ませたエリスとヒョウスイが互いに自己紹介する。 そこへヒョウスイの頼んだシーフードピザが届いた。 するとでろーんが1匹ひょいと首を伸ばしてそのピザをくわえた。 「あ」「あ」 ヒョウスイとエリスの声がハモった。 でろーんそのまま美味そうにピザをむしゃむしゃ食べ始める。 ふっと笑って優雅に髪をかきあげるエリス。 「策士策に溺れる、と言ったところね」 そこへエリスの頼んだショートケーキが届いた。 するともう1匹のでろーんがひょいと首を伸ばしてそのケーキをくわえる。 「あ」「あ」「あ」 今度は私も声を出してしまった。3人の声がハモる。 エリスは美味そうにケーキを食べるでろーんを涙目でふるふる震えながら睨んでいる。 「・・・・クックック・・・・あっはっはっはっは!!」 突然天井を仰いで哄笑するヒョウスイ。 「・・・・・はー、こいつはいいや。先生今日はこれで失礼しますよ。先生がたとは長い付き合いになりそうだ」 ヒョウスイは伝票を手にとって立ち上がった。 「今日の払いは持ちますよ。またお会いしましょうや」 おい払いはいいからでろーん1匹持って帰れ。 その時でろーんが1匹テーブルから頭落として床にぶつけて 「オ”ェ」 と妙な悲鳴を上げたのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ [[第8話 地獄のラーメン対決]]← →[[第10話 アンカー 夕暮れ時]]

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