第6話 緑の魔術師と人喰いキュウリ-3

「第6話 緑の魔術師と人喰いキュウリ-3」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

第6話 緑の魔術師と人喰いキュウリ-3」(2010/07/16 (金) 22:28:22) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

#image(第6話3.jpg,right) 私は声のした方を見た。 そこには異形の存在がいた。 生き物のようでもあり、鎧のようでもあり、人のようでもあり、植物のようでもある。 グリーンメタリックカラーのボディが禍々しい気配を持って私の前に立っていた。 「我が名はカイザーキューカンバー。偉大なる野菜の世界の支配者だ」 大変だ、皇帝だ。キュウリの皇帝が出た! 皇帝は十数体のキュウリを従えている。そのキュウリも先ほどまでのどのキュウリとも違うシャープなデザインに禍々しい気配を持っていた。 さしずめ親衛キュウリと言ったところであろうか。 「次はお前だ」 皇帝が私に向かって1歩踏み出した。 それにしても強い・・・・この威圧感・・・・これは一昨年西方山脈で高原寺院遺跡を探索していた時に遭遇したストームドラゴンと同等か悪くすればそれ以上のものだ。 私はため息をついて、首を横に振る。 「フ、命乞いか。無駄な事だぞ。既に貴様の命運は尽きている」 そうではない。順番が違う。 私がお前と戦う事があるとしたら、それは彼が私にこの場を譲ると言った時だよ、皇帝陛下。 そう、私はサイカワが飛ばされた方を見た。 「何を馬鹿な。貴様の仲間は既に息絶えている」 皇帝が言ったその時、瓦礫が崩れ下からサイカワが立ち上がった。 「何! 我のヘルシーベジタブルブラスターを食らってまだ息があるだと!?」 名前が全然威力に釣り合ってない必殺技だった。 だがサイカワの傷は決して浅いものではない。顔の側面を伝った血が顎からぽたぽたと地面に落ちる。 だが一瞬私を見たその目は「自分がやる」と言っていた。 サイカワが1歩前に出る。杖を投げ捨てる。襟の結び紐を解いて首元を開く。 サイカワが1歩前に出る。ターバンを脱いで眼鏡を外す。 サイカワが1歩前に出る。口元の血を手の甲で拭う。その口元に獰猛な笑みが浮かぶ。 「・・・・ナメるなよ青野菜」 「光合成もできぬ不完全な生命が」 皇帝が掌を無造作にサイカワに向けて突き出す。何か放った様には見えなかったが、サイカワの左肩口の衣服が千切れ、左後方の木の幹が砕け散った。 両者の間の気が昂ぶっていく。空気がビリビリと震える。 「絶望して命乞いをしろ。泣き叫んで祈れ。そして・・・・」 皇帝が、サイカワがやや体勢を低く構えを取る。 「粉々に砕け散れ」 ドン!!!!! 爆発音がして突風が吹き荒れる。両者が同時に地面を蹴ったのだ。 一瞬で互いの距離は零になる。 「フンッ!!」「はあッッ!!!」 打ち出された拳が真正面からぶつかり合った。そこから周囲に波紋状に衝撃波が走る。 間近にいた親衛キュウリがそれだけで爆散した。 余談であるが、この時、ここより遥か北東の聖地ウェルディンでは大神官マルキストがシードラゴン島の方角を仰ぎ見て 「ご覧なさい。かの方角にて世界の運命を決める戦いが始まりましたよ」 と神官たちに語ったという。 皇帝相手では大きな魔法を使う隙は無いと判断したのであろう、サイカワは魔力を全て肉体の強化に回して肉弾戦を挑んだのだった。 しかし魔術ほど格闘に長けていないサイカワにとってそれは危険な賭けではないのか。見たところ皇帝の格闘術は熟練した格闘家以上のものだ。 サイカワはそれでも怯まない。 「お前たちはほとんどが水分だ!栄養素も豊富とは言えず他の野菜で充分補える!!わざわざ食べなくても何の問題も無い!!!」 言ってる事がただの理論武装した好き嫌いの人だ。 「愚かな・・・・緑黄色は健康的な食材の象徴!! そして瑞々しさとキレのある食感!! その良さがわからぬとは!!!」 お前はお前で食べられたいのか皇帝。 打ち合いが続き、徐々にサイカワの劣勢が顕著になってきた。 そしてついにサイカワが片膝を地につく。 「ここまでのようだな。人間にしてはよくもった。褒めてやろう」 皇帝がサイカワの脳天に打ち下ろすべく、その拳を振り上げた。 「終わりだ。眠るがいい」 「残念ながら眠るのはお前です、皇帝。その位置が中心」 その瞬間、皇帝を中心に光る魔方陣が地面に浮かび上がった。 「何だと!? クッ!これは何だ!!身動きがとれぬ!!!」 「無駄ですよ。その魔方陣に取り込まれたキュウリは指先一つ動かす事はできません」 これはまたえらく対象の限定された魔術だな。 サイカワは戦いながらこの魔方陣を地面に描いていたのだ。 「何か、言い残す事はありますか」 光の槍を頭上に浮かべてサイカワが皇帝に問う。 「・・・・世界に散らばる我が同胞達よ・・・・・キュウリの時代を・・・築くのだ」 それが皇帝カイザーキューカンバーの最後の言葉となった。 胸板を光の槍で貫かれ爆発するまでのわずかな間、皇帝は最後の力を振り絞って雄々しく胸を張った。 戦いは終った。 よろめいたサイカワを支える。もう体力気力共に限界だろう。 「ありがとうございます。・・・・先生、手出しされませんでしたね」 サイカワが微笑んで言う。 まあ魔方陣を描いていたのがわかったからな。 あれがダメそうなら流石に割って入るつもりであったが・・・・。 「全部お見通しですか・・・・流石は・・・・・・・」 懐かしい通り名で呼んでくれる。なんだ、最初から彼は私の事を知っていたのか。 正直もうその名前で呼ばれるのは恥ずかしいので遠慮したい。 国を出る時に置いてきた名前だ。 彼を背負う。これはもう町までこのまま戻るしかなさそうだ。 「先生・・・これから一緒に・・・・世界中のキュウリを滅ぼす旅に・・・出ましょう・・・・」 そうつぶやいてサイカワは眠りに落ちた。 ・・・・いや、行かんからねマジで。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ [[第6話 2>第6話 緑の魔術師と人喰いキュウリ-2]]← → [[第7話 紅い記憶>第7話 紅い記憶-1]]
&blankimg(第6話3-1.jpg,width=250,height=380) 私は声のした方を見た。 そこには異形の存在がいた。 生き物のようでもあり、鎧のようでもあり、人のようでもあり、植物のようでもある。 グリーンメタリックカラーのボディが禍々しい気配を持って私の前に立っていた。 「我が名はカイザーキューカンバー。偉大なる野菜の世界の支配者だ」 大変だ、皇帝だ。キュウリの皇帝が出た! 皇帝は十数体のキュウリを従えている。そのキュウリも先ほどまでのどのキュウリとも違うシャープなデザインに禍々しい気配を持っていた。 さしずめ親衛キュウリと言ったところであろうか。 「次はお前だ」 皇帝が私に向かって1歩踏み出した。 それにしても強い・・・・この威圧感・・・・これは一昨年西方山脈で高原寺院遺跡を探索していた時に遭遇したストームドラゴンと同等か悪くすればそれ以上のものだ。 私はため息をついて、首を横に振る。 「フ、命乞いか。無駄な事だぞ。既に貴様の命運は尽きている」 そうではない。順番が違う。 私がお前と戦う事があるとしたら、それは彼が私にこの場を譲ると言った時だよ、皇帝陛下。 そう、私はサイカワが飛ばされた方を見た。 「何を馬鹿な。貴様の仲間は既に息絶えている」 皇帝が言ったその時、瓦礫が崩れ下からサイカワが立ち上がった。 「何! 我のヘルシーベジタブルブラスターを食らってまだ息があるだと!?」 名前が全然威力に釣り合ってない必殺技だった。 だがサイカワの傷は決して浅いものではない。顔の側面を伝った血が顎からぽたぽたと地面に落ちる。 だが一瞬私を見たその目は「自分がやる」と言っていた。 サイカワが1歩前に出る。杖を投げ捨てる。襟の結び紐を解いて首元を開く。 サイカワが1歩前に出る。ターバンを脱いで眼鏡を外す。 サイカワが1歩前に出る。口元の血を手の甲で拭う。その口元に獰猛な笑みが浮かぶ。 「・・・・ナメるなよ青野菜」 「光合成もできぬ不完全な生命が」 皇帝が掌を無造作にサイカワに向けて突き出す。何か放った様には見えなかったが、サイカワの左肩口の衣服が千切れ、左後方の木の幹が砕け散った。 両者の間の気が昂ぶっていく。空気がビリビリと震える。 「絶望して命乞いをしろ。泣き叫んで祈れ。そして・・・・」 皇帝が、サイカワがやや体勢を低く構えを取る。 「粉々に砕け散れ」 ドン!!!!! 爆発音がして突風が吹き荒れる。両者が同時に地面を蹴ったのだ。 一瞬で互いの距離は零になる。 「フンッ!!」「はあッッ!!!」 打ち出された拳が真正面からぶつかり合った。そこから周囲に波紋状に衝撃波が走る。 間近にいた親衛キュウリがそれだけで爆散した。 余談であるが、この時、ここより遥か北東の聖地ウェルディンでは大神官マルキストがシードラゴン島の方角を仰ぎ見て 「ご覧なさい。かの方角にて世界の運命を決める戦いが始まりましたよ」 と神官たちに語ったという。 皇帝相手では大きな魔法を使う隙は無いと判断したのであろう、サイカワは魔力を全て肉体の強化に回して肉弾戦を挑んだのだった。 しかし魔術ほど格闘に長けていないサイカワにとってそれは危険な賭けではないのか。見たところ皇帝の格闘術は熟練した格闘家以上のものだ。 サイカワはそれでも怯まない。 「お前たちはほとんどが水分だ!栄養素も豊富とは言えず他の野菜で充分補える!!わざわざ食べなくても何の問題も無い!!!」 言ってる事がただの理論武装した好き嫌いの人だ。 「愚かな・・・・緑黄色は健康的な食材の象徴!! そして瑞々しさとキレのある食感!! その良さがわからぬとは!!!」 お前はお前で食べられたいのか皇帝。 打ち合いが続き、徐々にサイカワの劣勢が顕著になってきた。 そしてついにサイカワが片膝を地につく。 「ここまでのようだな。人間にしてはよくもった。褒めてやろう」 皇帝がサイカワの脳天に打ち下ろすべく、その拳を振り上げた。 「終わりだ。眠るがいい」 「残念ながら眠るのはお前です、皇帝。その位置が中心」 その瞬間、皇帝を中心に光る魔方陣が地面に浮かび上がった。 「何だと!? クッ!これは何だ!!身動きがとれぬ!!!」 「無駄ですよ。その魔方陣に取り込まれたキュウリは指先一つ動かす事はできません」 これはまたえらく対象の限定された魔術だな。 サイカワは戦いながらこの魔方陣を地面に描いていたのだ。 「何か、言い残す事はありますか」 光の槍を頭上に浮かべてサイカワが皇帝に問う。 「・・・・世界に散らばる我が同胞達よ・・・・・キュウリの時代を・・・築くのだ」 それが皇帝カイザーキューカンバーの最後の言葉となった。 胸板を光の槍で貫かれ爆発するまでのわずかな間、皇帝は最後の力を振り絞って雄々しく胸を張った。 戦いは終った。 よろめいたサイカワを支える。もう体力気力共に限界だろう。 「ありがとうございます。・・・・先生、手出しされませんでしたね」 サイカワが微笑んで言う。 まあ魔方陣を描いていたのがわかったからな。 あれがダメそうなら流石に割って入るつもりであったが・・・・。 「全部お見通しですか・・・・流石は・・・・・・・」 懐かしい通り名で呼んでくれる。なんだ、最初から彼は私の事を知っていたのか。 正直もうその名前で呼ばれるのは恥ずかしいので遠慮したい。 国を出る時に置いてきた名前だ。 彼を背負う。これはもう町までこのまま戻るしかなさそうだ。 「先生・・・これから一緒に・・・・世界中のキュウリを滅ぼす旅に・・・出ましょう・・・・」 そうつぶやいてサイカワは眠りに落ちた。 ・・・・いや、行かんからねマジで。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ [[第6話 2>第6話 緑の魔術師と人喰いキュウリ-2]]← → [[第7話 紅い記憶>第7話 紅い記憶-1]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: