第21話 ジェーン・ザ・テンペスト-1

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デスクの上の電話が鳴る。 エトワールは受話器を取った。 「・・・ああ、どうだった?」 ホテルの一室、いつもの彼女の部屋には今日は他の人影はない。 「あーニブルヘイムは完全に沈んだのか・・・リヒャルトも気の毒にな。・・・ああ、後でうちんとこから見舞金出しとく。・・・うん。で、リチャードは? ・・・ふむ、サムトーと一緒に海に消えて生死不明か。まー相手が相手だし死んでるかもな・・・。一応捜索は続けてやってくれよ」 電話の相手は財団軍事部門最高責任者、リヒャルト・シュヴァイツァーの部下の1人だ。 当然シュヴァイツァーはその部下がこうしてエトワールと密に連絡を取るような間柄である事を知らない。 「基地計画は白紙・・・軍事部は当面立て直しに大わらわだな・・・。ああ、んじゃ引き続きヨロシク」 チン、と受話器がフックに戻され、エトワールは窓から空を見上げた。 「全て順調か・・・悪いなリヒャルト、当分大人しくしててくれよ・・・」 アンカー病院の一室。 入院患者のベッドが並ぶ病室に、三銃士カミュとエリックの2人の姿があった。 「・・・1998・・・1999・・・」 病室の床で片腕で腕立て伏せをしているカミュ。 「・・・2000・・・と!」 「ちょ、ちょっと何してるんですか!!?」 看護婦の金切り声に、腕立て伏せを終えたカミュが床から起き上がる。 「よぉナース。いや日課のトレーニングだが」 タオルで汗を拭きつつ平然と答えるカミュ。 「トレーニングだがじゃありませんよ!! 何考えてるんですか!あなたは先日やっと集中治療室を出たばっかりなんですよ!?」 眉を吊り上げて看護婦が怒る。 「まあ、そうカテー事言うな! ところでメシはまだかナース。ハラが減っちまってよ。できれば分厚いステーキを希望するが」 またも平然と言うカミュに看護婦がふらりとよろめいた。 「か、かてー事って・・・。それにステーキだなんて病人が食べるものじゃありませんから!!」 そう言って看護婦はこの病室のもう1人の住人へと顔を向ける。 「エリックさんも!! ここでお仕事しないで下さい!!!」 頑強なカミュと違い、エリックはまだベッドから立ち上がれずにいた。 そしてそのエリックのベッドは膨大な量の書類やファイルに埋もれている。 休むことなくエリックはそれらに目を通し、メモを走り書きしたりしている。 「これは失礼。倒れている間に随分と仕事が溜まってしまっていまして。このままでは退院できても過労ですぐ戻ってくる事になりそうです。今のうちに少しでも減らしておかないと」 眼鏡の位置を直しつつエリックが言う。 諦めたのか看護婦は大きくため息をつくとフラフラと病室を出て行った。 「・・・オイ、ナース飯は・・・行っちまったよバカヤロ」 その看護婦と入れ替わりにシグナルが病室に入ってきた。 「・・・騒々しいな」 言いながら両者の姿を見て、シグナルはその理由を聞く前から察した。 「病院では程ほどにしておけ」 そう言って見舞いの果物の籠を置く。ちなみにそれはローレライが準備して手ぶらのシグナルに持たせたものだった。 「悪いな俺らがやられた事で負担かけちまってよ」 そう言うカミュにシグナルは「気にしていない」と静かに答えた。 「ここへ来る前にルノーを見舞ったんだが・・・」 そしてやや視線を伏せるシグナル。 「彼女は・・・その、随分と敗北がショックだったようだな」 慎重に言葉を探しながら言うシグナル。 カミュとエリックが顔を見合わせる。 「ま、あいつはこういう壁にぶち当たるの初めてだろうからな」 「立ち直れるか?」 そう問うシグナルに、カミュは「さあな・・・」と少し遠い目をした。 「そいつぁわからんな。ダメなら国へ送り返すさ。それだけだ」 そう素っ気無く言うと、カミュは 「しゃーねぇ・・・飯の時間までコーヒーでハラごまかすか」 と病室を出て行った。 「結構、非情な所があるんだな・・・」 その背を見送ったシグナルがぽつりと口にする。 「あれは、少し違いますね」 エリックが微笑む。 「普段我々は努めてその事を頭の外に置いていますが、ルノーも女性ですからね。リーダーは本心では女性に銃士の危険な仕事をさせる事に抵抗があるんですよ」 「・・・最近は女性の方が強いような気もするが」 そう口にしたシグナルの腰で、抗議するかの様に魔剣ローレライが一度カチャンと鳴った。 「ところで、今日は見舞いだけが用事で来たわけじゃない」 シグナルがそう言って取り出したファイルをエリックに手渡す。 「ボスから連絡があった。補充の銃士が1人来るそうだ」 「ほう?」 ファイルを受け取って目を通すエリック。 「・・・ジェーン? 知らない名前ですね・・・」 「先日入ったばかりだそうだ」 眉をひそめるエリックにシグナルが言う。 とはいえ、エリックは全銃士の名前は当然として次回銃士に選抜されるであろう予備役の事まで完全に把握している。 (まあ、彼の時もサプライズでしたけどね・・・) と、エリックが目の前のシグナルを見て思う。 (閣下もまた茶目っ気を出しましたか。どこかの大物を引き抜いてきたのかもしれませんね) いずれにせよこの大変な時期に送り込んでくるのだ。腕は確かなのだろう。 病院の屋上で手すりにもたれかかる様にしてルノーは下界を見ていた。 彼女は3人の内では一番傷は浅かった。 しかし、精神的なものもあって未だ退院には至っていない。 彼女の足元には静かに青い長い毛並みの狼、彼女の守護神獣の幻狼のダンテが控えている。 吹く風は心地よい。しかし、ルノーの表情は晴れない。 「・・・勝てっこねーよ・・・あんなバケモン。3人でかかったって手も足も出なかったんだ・・・」 どこか虚ろな目をしてルノーが重たい息を吐く。 『・・・・・・・・・・・』 主の呟きが耳に入っているのかいないのか、ダンテは無言のままだ。 「もう・・・帰りたいな・・・共和国に・・・」 か細いルノーの声は風に乗って消えていった。 事務所の電話が鳴る。 それをラゴールが取った。 「はい、こちらウィリアム何でも相談事務所。・・・ええ、・・・なるほど。トウモロコシの刈り入れのヘルプですね。わかりました。午後までに2名派遣します」 チン、と電話を切ってラゴールは手早くメモを取り、地図に印を付けた。 「トウモロコシの刈り入れの仕事が入った。ミヤモトとシイタケで行ってくれ。場所はここだ」 資料を受け取ったジュベイとシイタケマンが出かけて行った。 そこに電話がまた鳴る。 「はい、こちらウィリアム何でも相談事務所。・・・はい、風呂の湯沸かし器の故障ですか、わかりました」 電話を切って、またもラゴールがメモを取って地図に印を付ける。 「2番通りのスミスさん宅で湯沸かし器の故障だ。ベルナデット行ってくれ。手に余るようなら業者を呼べ。業者の連絡先も付けておく」 「はいはい・・・ソツの無い男ね、本当に」 呆れた様にも感心している様にも取れるため息をついて、ガチャガチャと道具箱を取り出してベルナデットが出かけて行った。 一息ついたラゴールに声をかける者があった。 「・・・あの、ちょっといいですか?」 エリスだった。 「その、ラゴールさんにお願いがあって・・・」 今は2人の他に人影の無い2階のロビーに出てエリスが言う。 そしてそのまま少し黙ってしまう。 ラゴールは無言で彼女の次の言葉を待った。 「私を・・・鍛えて欲しいんです!」 やがて決心したのか、思いつめた様にエリスが言った。 「このままじゃ私だけいつまでも役に立てないから・・・。でもおじさまは私が強くなるのあんまり賛成してくれないし・・・」 語尾はかすれる様に小さくなる。 「・・・いいだろう」 ラゴールの返事にエリスが顔を輝かせた。 「俺の目から見てお前には確かに未熟な部分がある。教えてやれる事もあるだろう」 「本当ですか!? ・・・ありがとうございます!! どんな辛い修行でも耐えますから!!!」 ・・・・10分後。 2人はエプロン姿でキッチンにいた。 エリスの手には鯛と出刃包丁がある。 「エリスリーデル、お前の料理の腕は確かにかなりのものだ。しかし和食に難がある。和食の基本は魚を上手く捌く所から始まる。・・・まずは鱗の落とし方から教えてやろう」 「・・・うっうっ・・・そうじゃなくって・・・そうじゃなくって・・・」 しくしくと泣きながらエリスは鱗を落とした。 そしてその2人の姿を心中穏やかで無く見つめる者がいる。 「・・・強力なライバル登場です・・・!! 落ち着きません・・!!!!」 ペンを握り締めてジュピターはぶるぶる震えている。 「何でキッチンのとこだけそんな対抗意識燃やすのよ」 そんなジュピターにDDが半眼でツッコんだ。 [[第20話 6>第20話 Chaser of Ocean-6]]← →[[第21話 2>第21話 ジェーン・ザ・テンペスト-2]] ----
デスクの上の電話が鳴る。 エトワールは受話器を取った。 「・・・ああ、どうだった?」 ホテルの一室、いつもの彼女の部屋には今日は他の人影はない。 「あーニブルヘイムは完全に沈んだのか・・・リヒャルトも気の毒にな。・・・ああ、後でうちんとこから見舞金出しとく。・・・うん。で、リチャードは? ・・・ふむ、サムトーと一緒に海に消えて生死不明か。まー相手が相手だし死んでるかもな・・・。一応捜索は続けてやってくれよ」 電話の相手は財団軍事部門最高責任者、リヒャルト・シュヴァイツァーの部下の1人だ。 当然シュヴァイツァーはその部下がこうしてエトワールと密に連絡を取るような間柄である事を知らない。 「基地計画は白紙・・・軍事部は当面立て直しに大わらわだな・・・。ああ、んじゃ引き続きヨロシク」 チン、と受話器がフックに戻され、エトワールは窓から空を見上げた。 「全て順調か・・・悪いなリヒャルト、当分大人しくしててくれよ・・・」 アンカー病院の一室。 入院患者のベッドが並ぶ病室に、三銃士カミュとエリックの2人の姿があった。 「・・・1998・・・1999・・・」 病室の床で片腕で腕立て伏せをしているカミュ。 「・・・2000・・・と!」 「ちょ、ちょっと何してるんですか!!?」 看護婦の金切り声に、腕立て伏せを終えたカミュが床から起き上がる。 「よぉナース。いや日課のトレーニングだが」 タオルで汗を拭きつつ平然と答えるカミュ。 「トレーニングだがじゃありませんよ!! 何考えてるんですか!あなたは先日やっと集中治療室を出たばっかりなんですよ!?」 眉を吊り上げて看護婦が怒る。 「まあ、そうカテー事言うな! ところでメシはまだかナース。ハラが減っちまってよ。できれば分厚いステーキを希望するが」 またも平然と言うカミュに看護婦がふらりとよろめいた。 「か、かてー事って・・・。それにステーキだなんて病人が食べるものじゃありませんから!!」 そう言って看護婦はこの病室のもう1人の住人へと顔を向ける。 「エリックさんも!! ここでお仕事しないで下さい!!!」 頑強なカミュと違い、エリックはまだベッドから立ち上がれずにいた。 そしてそのエリックのベッドは膨大な量の書類やファイルに埋もれている。 休むことなくエリックはそれらに目を通し、メモを走り書きしたりしている。 「これは失礼。倒れている間に随分と仕事が溜まってしまっていまして。このままでは退院できても過労ですぐ戻ってくる事になりそうです。今のうちに少しでも減らしておかないと」 眼鏡の位置を直しつつエリックが言う。 諦めたのか看護婦は大きくため息をつくとフラフラと病室を出て行った。 「・・・オイ、ナース飯は・・・行っちまったよバカヤロ」 その看護婦と入れ替わりにシグナルが病室に入ってきた。 「・・・騒々しいな」 言いながら両者の姿を見て、シグナルはその理由を聞く前から察した。 「病院では程ほどにしておけ」 そう言って見舞いの果物の籠を置く。ちなみにそれはローレライが準備して手ぶらのシグナルに持たせたものだった。 「悪いな俺らがやられた事で負担かけちまってよ」 そう言うカミュにシグナルは「気にしていない」と静かに答えた。 「ここへ来る前にルノーを見舞ったんだが・・・」 そしてやや視線を伏せるシグナル。 「彼女は・・・その、随分と敗北がショックだったようだな」 慎重に言葉を探しながら言うシグナル。 カミュとエリックが顔を見合わせる。 「ま、あいつはこういう壁にぶち当たるの初めてだろうからな」 「立ち直れるか?」 そう問うシグナルに、カミュは「さあな・・・」と少し遠い目をした。 「そいつぁわからんな。ダメなら国へ送り返すさ。それだけだ」 そう素っ気無く言うと、カミュは 「しゃーねぇ・・・飯の時間までコーヒーでハラごまかすか」 と病室を出て行った。 「結構、非情な所があるんだな・・・」 その背を見送ったシグナルがぽつりと口にする。 「あれは、少し違いますね」 エリックが微笑む。 「普段我々は努めてその事を頭の外に置いていますが、ルノーも女性ですからね。リーダーは本心では女性に銃士の危険な仕事をさせる事に抵抗があるんですよ」 「・・・最近は女性の方が強いような気もするが」 そう口にしたシグナルの腰で、抗議するかの様に魔剣ローレライが一度カチャンと鳴った。 「ところで、今日は見舞いだけが用事で来たわけじゃない」 シグナルがそう言って取り出したファイルをエリックに手渡す。 「ボスから連絡があった。補充の銃士が1人来るそうだ」 「ほう?」 ファイルを受け取って目を通すエリック。 「・・・ジェーン? 知らない名前ですね・・・」 「先日入ったばかりだそうだ」 眉をひそめるエリックにシグナルが言う。 とはいえ、エリックは全銃士の名前は当然として次回銃士に選抜されるであろう予備役の事まで完全に把握している。 (まあ、彼の時もサプライズでしたけどね・・・) と、エリックが目の前のシグナルを見て思う。 (閣下もまた茶目っ気を出しましたか。どこかの大物を引き抜いてきたのかもしれませんね) いずれにせよこの大変な時期に送り込んでくるのだ。腕は確かなのだろう。 病院の屋上で手すりにもたれかかる様にしてルノーは下界を見ていた。 彼女は3人の内では一番傷は浅かった。 しかし、精神的なものもあって未だ退院には至っていない。 彼女の足元には静かに青い長い毛並みの狼、彼女の守護神獣の幻狼のダンテが控えている。 吹く風は心地よい。しかし、ルノーの表情は晴れない。 「・・・勝てっこねーよ・・・あんなバケモン。3人でかかったって手も足も出なかったんだ・・・」 どこか虚ろな目をしてルノーが重たい息を吐く。 『・・・・・・・・・・・』 主の呟きが耳に入っているのかいないのか、ダンテは無言のままだ。 「もう・・・帰りたいな・・・共和国に・・・」 か細いルノーの声は風に乗って消えていった。 事務所の電話が鳴る。 それをラゴールが取った。 「はい、こちらウィリアム何でも相談事務所。・・・ええ、・・・なるほど。トウモロコシの刈り入れのヘルプですね。わかりました。午後までに2名派遣します」 チン、と電話を切ってラゴールは手早くメモを取り、地図に印を付けた。 「トウモロコシの刈り入れの仕事が入った。ミヤモトとシイタケで行ってくれ。場所はここだ」 資料を受け取ったジュベイとシイタケマンが出かけて行った。 そこに電話がまた鳴る。 「はい、こちらウィリアム何でも相談事務所。・・・はい、風呂の湯沸かし器の故障ですか、わかりました」 電話を切って、またもラゴールがメモを取って地図に印を付ける。 「2番通りのスミスさん宅で湯沸かし器の故障だ。ベルナデット行ってくれ。手に余るようなら業者を呼べ。業者の連絡先も付けておく」 「はいはい・・・ソツの無い男ね、本当に」 呆れた様にも感心している様にも取れるため息をついて、ガチャガチャと道具箱を取り出してベルナデットが出かけて行った。 一息ついたラゴールに声をかける者があった。 「・・・あの、ちょっといいですか?」 エリスだった。 「その、ラゴールさんにお願いがあって・・・」 今は2人の他に人影の無い2階のロビーに出てエリスが言う。 そしてそのまま少し黙ってしまう。 ラゴールは無言で彼女の次の言葉を待った。 「私を・・・鍛えて欲しいんです!」 やがて決心したのか、思いつめた様にエリスが言った。 「このままじゃ私だけいつまでも役に立てないから・・・。でもおじさまは私が強くなるのあんまり賛成してくれないし・・・」 語尾はかすれる様に小さくなる。 「・・・いいだろう」 ラゴールの返事にエリスが顔を輝かせた。 「俺の目から見てお前には確かに未熟な部分がある。教えてやれる事もあるだろう」 「本当ですか!? ・・・ありがとうございます!! どんな辛い修行でも耐えますから!!!」 ・・・・10分後。 2人はエプロン姿でキッチンにいた。 エリスの手には鯛と出刃包丁がある。 「エリスリーデル、お前の料理の腕は確かにかなりのものだ。しかし和食に難がある。和食の基本は魚を上手く捌く所から始まる。・・・まずは鱗の落とし方から教えてやろう」 「・・・うっうっ・・・そうじゃなくって・・・そうじゃなくって・・・」 しくしくと泣きながらエリスは鱗を落とした。 そしてその2人の姿を心中穏やかで無く見つめる者がいる。 「・・・強力なライバル登場です・・・!! 落ち着きません・・!!!!」 ペンを握り締めてジュピターはぶるぶる震えている。 「何でキッチンのとこだけそんな対抗意識燃やすのよ」 そんなジュピターにDDが半眼でツッコんだ。 [[第20話 6>第20話 Chaser of Ocean-6]]← →[[第21話 2>第21話 ジェーン・ザ・テンペスト-2]] ----

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