第14話 渓谷の一族-3

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ムーミンたちに案内された遺跡の入り口は、地滑りがあったと思わしき断崖の削れた位置にあった。 長く土に埋もれて隠れていたものなのだろう。 案内してくれたムーミンに丁寧に礼を述べるとシンラ達3人は遺跡へ足を踏み入れた。 「キヲツケテ」 「ナカハ、カナリ、フカイ」 「ムラノモノ、モグッテミタ。デモ、ズイブンモグッテモ、マダサキガアッタ」 そう言ってムーミンたちは3人を見送った。 遺跡へと足を踏み入れた3人。 周囲は石造りであり、緩やかに風が吹き込んでいた。 「・・・中は深い、ですか」 魂樹がそう言ってジュピターを見た。 「好都合ですね。それならば追いつける可能性が大きい」 ジュピターがそう言って肯く。 そして魂樹とジュピターは並んでそれぞれ通路の奥へと片手を上げてかざした。 「行きますよ」 「はい。ジュピター様」 2人が意識を集中すると、召び出された風精(シルフ)達が遺跡の深部へと無数に散っていった。 精霊走査(エレメンタルサーチ)・・・高速で遺跡内を駆け巡るシルフ達の描き出す遺跡の構造図が2人の脳内に流れ込んでくる。 およそ2分後には2人は全14層にも及ぶ深大な遺跡の構造の大部分を把握した。 最深部に数ブロック、シルフが遮断され内部の走査ができなかったエリアがある。 恐らくはそこが中枢区域(コアブロック)なのだろう。 しかしそこまでの道順はもう完全に把握した。 「行きましょう!」 魂樹がそう言って、3人は走り出した。 しかし走り出して間も無く、3人は自分達の見通しが甘過ぎた事を思い知った。 あるブロックに足を踏み入れた途端、周囲が緑色に光ると視界がぐにゃりと歪んだのだ。 「・・・くっ!! トラップ!!!」 先頭を走っていた魂樹が風の壁を作って後続の2人を後方へ弾き飛ばした。 そして1人その光に飲まれ、消えていった。 光に飲まれた魂樹は強制転移させられ、あるブロックへと飛ばされた。 中空へ投げ出され、地面に綺麗に着地すると素早くシルフを飛ばして自らの位置を確認する。 (・・・8層の南東部・・・でも深部へのルートから外れた場所) そして改めて魂樹は周囲を見回した。 遺跡の造りは入り口周辺の石造りのものから金属に変わっている。 極めて近代的・・・いや、『未来的』とも言える造りだ。 「・・・・大したモンだよなぁ。古代人てのもよ。こんなもん作っちまうんだからな」 「・・・!!!!!」 男の声がして魂樹が咄嗟に弓を構えた。 その鏃の指す先に、ダウンのジャケットを着た黒スーツの後姿があった。 「けどよ。こんだけのもの作れるだけの賢い生き物がどうしていつまでもつまんねー殺し合いだの戦争だのを止められないんだ?」 「・・・・お前は・・・・」 灰色の髪の毛に見覚えがある。 「お前にはそれがわかるかい? ・・・なあ、魂樹・ナタリー・フォレスティアさんよ」 そして男はゆっくり魂樹の方を振り返った。 「銃士、アビス能収!!!!」 魂樹が叫ぶ。 男はやはり船上で会った不死身の銃士だった。 魂樹が周囲を見回す。アビス以外の人影を探して。 「あの薄気味悪い人形使いはどこ・・・・?」 周囲を警戒の視線で見回しながら魂樹が問う。 「ああ、JOKERは今回は別件で動いてる。ここには来てねえ。この遺跡へは別の銃士と来た。・・・ま、もっとも1人で吹っ飛ばされちまったんでこの場には俺1人だがな」 ・・・この男も仲間とはぐれたのか。恐らくはあの転移のトラップに足を踏み入れて。 「先行してトラップを食らう役目はいつも不死身の俺だからな。本当、ツイてねえぜ」 肩をすくめてため息をつくアビス。 「お前も1人みたいだな。なら飛ばされなかった仲間が上にいるのか。だとしたら、そいつらもツイてねぇなぁ・・・・今日俺が一緒に来てる仲間はJOKERよりずっとキツいぜ?」 「・・・・・・・!!!」 上に残した2人・・・ジュピターとシンラが別の銃士と遭遇する・・・!! 魂樹の全身に緊張が走った。 その魂樹の周囲に灰色の半透明の人影が無数に浮かび上がった。 「・・・バッドラックメモリー・・・!!」 「ま、はぐれたモン同士仲良くしようや。時間もある事だしな・・・」 楽しくも無し、と・・・いつもの渋い表情でそうアビスは言った。 転移した魂樹を追い、遺跡内を走るジュピターとシンラは5層中程に到達していた。 常人の数倍の速度だった。 ・・・そして、その速度故に先行していたその2人に追いついた。 「・・・おや」 黒スーツの2人組。その内1人が足を止めて振り返った。 ブロンドの男だ。 「これはこれは」 ブロンドの男が眼鏡の位置を直した。 「・・・三銃士、エリック・シュタイナー。そして・・・」 ジュピターがエリックの隣の男を見た。 シルバーブロンドの髪の半獣人の青年を。 「・・・元七星、シグナル」 シグナルは答えず、ただ鋭い瞳で追いついて来た2人を見ていた。 「そこをどいて」 シンラが1歩前に出た。 彼女にしては珍しく、その声には焦りがあった。 「急いでるの。どいて」 「なるほど・・・しかし奥へ用事があるのは我々も一緒なんですよ。・・・そして、場合によっては『誰よりも早く』奥へ着く必要があるんです。鬼人のお嬢さん」 エリックがシンラに立ちはだかった。 「交戦するのか、参謀」 シグナルが魔剣ローレライの柄に手をかけた。 「それで我々もここに留まったのでは本末転倒ですね」 エリックがシグナルを見た。 その視線からシグナルはエリックの意図を察した。 「了解した。・・・ローレライ!!」 魔剣から背に翼を持つ女性が実体化する。 「奴らの相手をしてやれ、ローレライ」 「わかりました。・・・お気をつけて、マスター」 ローレライが手にしたランスを構えてシンラと向き合った。 「それでは、我々は失礼しますよ」 エリックがそう言って、銃士2人はシンラたちに背を向けて遺跡の奥へと歩き始めた。 去り際にジュピターをチラリと見るエリック。 (・・・本気を出せば簡単に追いついてくるのでしょうが・・・) 恐らくは彼はそうしまい、とエリックには確信に近い予想をしている。 (それでも、もしも彼らが再度追いついてくるようなら・・・・) 眼鏡の奥の瞳が鋭い輝きを放つ。 (その時は、私の守護契約者をお見せする事になるでしょうね) シンラの振るった大剣とローレライのランスが真正面からぶつかり合った。 ガキィン!!!!!と金属音が響いて火花が散る。 鬼人(オーガ)であるシンラの豪腕から繰り出される一撃の破壊力は人間のそれとは比べ物にならない。 しかしローレライはそれを真正面から受け止めて涼しい顔をしている。 「どうしました。力技で押し切れなければもうお終いですか」 ブン!とランスを振るうローレライ。 その空中に弧を描く軌跡にいくつもの白い光が浮かんだ。 「・・・・!!!!」 咄嗟にシンラが横っ飛びにかわす。 そのシンラを無数の白い光の矢がかすめていった。 「・・・レイオブムーンライト。その程度の力しかないのであれば、到底マスターや三銃士の方々の相手は務まりません。ここで大人しくしている事ですね」 (・・・強い) 少し下がって2人の戦いを見ていたジュピターが内心で感嘆する。 (見たところ彼女は鳥乙女〔セイレーン〕・・・セイレーンはそもそも戦闘力の高い種族ではないはず。それなのにあの力量・・・一体どれ程の死線を潜り抜けて己を練磨してきたのでしょうね・・・) 対するシンラは動きに精彩を欠いている。 魂樹の事が気がかりで戦いに集中できないのだろう。 (加勢するしかなさそうですね) ジュピターがポケットから青い宝石のついた銀色の指輪を取り出した。 そしてその指輪を指にはめようとしたその時・・・。 通路に銃声が響き渡った。 「!!!!!!」 咄嗟に構えたランスで銃弾を弾くローレライ。 「・・・・新手!!!!!」 ジュピターの居る場所より更に奥、通路の先の闇を睨んで叫ぶローレライ。 その通路の奥よりカツーン、カツーンとブーツの底が石畳を叩く音が響いてくる。 「いい展開になってるじゃねえか。実にいいよ。私好みだ」 通路から姿を見せた黒髪のエルフが、硝煙の上がるリボルバーの銃口をフーッと吹いた。 「王様、お先にどーぞ。この娘は私がもらいますが、構いませんね?」 そう言ってジュピターを見たジュデッカがニヤリと笑った。 その言葉にジュピターが返事をするよりも早く、立ち上がったシンラがローレライの脇を抜けて行く。 「待ちなさい!! ・・・・ッ!!!」 シンラに向け、ランスを振るいかけたローレライが弾かれた様にジュデッカを見た。 「そうそう・・・集中した方がいい。一瞬でも気を散らせば取り込まれるぜ。 ・・・今お前の目の前にいるものが、お前の『死』なんだからな」 内心でゾッとしたローレライが半歩後ずさった。 脳裏に浮かんだのは確かに自分に向けて白い手を伸ばす死神のイメージだった。 「全力で踊れ。お前が居る場所が境界線だ」 両手に構えた銃を向けて、場違いなほどに優しい笑顔でジュデッカがそう言った。 [[第14話 2>第14話 渓谷の一族-2]]← →[[第14話 4>第14話 渓谷の一族-4]]

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