第12話 邂逅と再開と-4

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ここに至るまでに、私は一体どれだけの選択肢を間違えてきたのだろうか。 もしも過去へ戻ってやり直せるのなら、この争いの未来を食い止める事は果たしてできたのだろうか。 思わずそんな事を考えてしまう。 その私の目の前では、バックに龍と虎を浮かべてエリスとマチルダが対峙していた。 互いに笑顔・・・しかしぶつかり合う殺気で周囲から小鳥や小動物の気配が消えている。 ・・・まるで火山が噴火する前触れのようにだ。 「逃げずに勝負を受けた事だけは褒めてあげるわ」 エリスが笑った。捕食者の目で。 「いいえ~わざわざ勝利者の花束を添えて迎え入れて下さるなんて感激です~」 マチルダは余裕だ。しかしその全身は臨戦体勢で隙が無い。 「おじさま! メニューを決めて!!!」 え? 私が決めるの!? 「当然でしょうおじさまが審査するんですから!」 ・・・むぅ、しかしそれだと私の味の好みを知っているエリスが有利になってしまうだろう。 む、とエリスが黙りこくった。そして顎に右手を添えて何事か思案している。 沸点は低いが公平なのがエリスの利点だ。 「それもそうね。じゃあおじさまが誰か審査員を集めて。おじさまを入れて5人もいれば公平に審査ができるでしょ」 結局話はそれで落ち着き、夕刻に勝負が開始される事になった。 アレイオンを首尾よく捕まえて審査員を頼みつつ、残る人員の調達も頼んだ。 メニューはハンバーグステーキとした。他に適当なものが思いつかなかった。 ふと、中庭に佇むエリスを見つける。彼女は材料の到着を待って後は調理するだけの身だ。 声をかけて、後ろから近付く。 「・・・おじさまはずっと小さいままなの?」 問われて、いや、と首を横に振った。 今だけらしい。直に元に戻る。 今は頭一つ分背が高いエリスを見上げる。 「・・・私は、構わないから」 ・・・? エリスが私の髪に手を伸ばし、一房つまんで手に取った。 「おじさまが子供でもお爺さんでも、私は構わないから。・・・・あ、でもやっぱり子供はちょっと困るかな・・・私の方が先にお婆ちゃんになっちゃう」 ・・・・・・・・・・・・・。 唐突に、彼女を幸せにしてあげたいと思った。・・・いや、『私にそんな資格はない』  だから、幸せになって欲しい。 せめて幸せになる手助けがしてあげられたら、と思う。 脳裏にふと、1人の女性の姿が甦った。 只1人愛した女性。・・・そして私がこの手で殺めた女性・・・。 いつかその酬いが、この身に追いついてくるその時まで・・・。 感傷に浸っていたらにわかに表が騒がしくなった。 ・・・? 何だろう。 豪奢に飾り付けられた輿竜が大勢の衛士と神官らしき者たちを伴ってバルカンの屋敷に入ってきた。 その従者たちの傅く中、天蓋の付いた輿より、白い衣の老人がゆっくり降りてくる。 誰だろう? かなり位の高い人物のようだが・・・・。 従者の1人、神官らしき装束の人物が朗々とした声で周囲に告げる。 「お控えませい。神皇ユーミル様のお越しでございます」 !!! 慌ててエリスと2人、腰を落として頭を下げる。 「お料理勝負の審査員を務めて下さいます。ご案内をお願いしたい」 ぶー!!!!!!! 誰連れてくるんだあの乳マニア!!! 「・・・・まあ、いいんじゃない?」 声がかかって脇を見上げる。ベルナデットがいつの間にか隣にいた。 「何が原因で廃人状態脱出できるかわからないし、何でも刺激になる事は試してみればいいのよ」 まあそんな刺激物は出てこんだろうが・・・・マチルダの料理は見たこと無いのでわからないけど・・・・。 それにしても・・・・。 神皇を見る。・・・・わからなかった。違いすぎるのだ、あの先日アレイオンと見た肖像画の人物と。 肖像画に描かれていた神皇は精気に満ち溢れた3~40代と思わしき姿だった。今のあの長い髭の老人はどう見ても7~80代だ。 とてもあの皇姫の父親とは思えない。 ・・・・あの肖像画はそんなに前に描かれたものなのだろうか・・・。 そのあたりの疑問をベルナデットにぶつけてみる。 「・・・ううん、あの肖像画はそんなに描かれたものじゃないわ。ユーミルの年齢は60台半ば・・・これは本当なら竜の血が濃くて長命な皇家の者なら普通の人間の30台くらいの外見のはずの年齢。彼は妻を亡くした時に、一晩であの肖像画の姿から今の老いた姿になったのよ」 外見までもそんなに変わり果ててしまったのか・・・・。 そして日は蔭り、勝負の時がやってきた。 エリスもマチルダもエプロン姿で既にスタンバイしている。 審査員席には私とアレイオンと神皇ユーミルとキャムデン宰相とバルカンの5人がいた。 「・・・悪だッ!! 心の闇を感じさせる料理を出すがいい!!!」 「料理はレスリングだ! リングの上の躍動感を料理で表現するがいいぞ」 メチャクチャ言うとる。立場的には何ら問題の無い高貴な方々であるが人間的には致命傷を負っている。 「・・・・10:4でマチルダさんですね・・・。エリスリーデルさんには気の毒ですが・・・」 お前はお前で料理が出る前から何を審査しとる。 そして係の合図で料理が開始された。 む・・・・。 内心で感嘆する。エリスの手際の良さ、鮮やかさは常日頃からよく知っている事だが、マチルダもそれに勝るとも劣らない手さばき。 ・・・これは、ひょっとするとひょっとするかもしれんな・・・。 しかもこの審査方式・・・私は手元の2つの手持ちのプレートを見た。 それぞれエリスとマチルダのイラストが可愛く描かれている。・・・誰これ描いたの・・・上手いな・・・。 審査が終了したら、勝ったと思った方のプレートを上げるのだ。 点数製なら双方に同じ点をつけて波風立たないようにしたかったが・・・。 こうなれば止む無し、一切の私情を捨てて厳格に料理の味のみで判断するか・・・。 等と葛藤している内に料理は終了し、審査員の前にはそれぞれ2つの皿が並んだ。 エリスは・・・ビーフシチューソースか。マチルダはキノコのソースだ。森の民であるエルフらしいとも言える。 いただきます、と感謝の言葉を口にしてそれぞれ食べてみる事にする。 う・・・・・・。 これはまずい・・・いや味は美味い・・・どちらもだ。 甲乙が付けられん・・・・。 見れば他の審査員も神皇以外は難しい顔をしていた。 ・・・どうする・・・どうすればいい・・・・? どっちを選べばいいのだ・・・・!? その時、急に下腹部に激しい痛みを覚えて私は呻いた。 アレイオンも青ざめて腹を押さえている。 突如キャムデン宰相がバン!とテーブルの上に飛び上がる。 「キャーッカッカッカッカッカッカ!!!! 効いてきたようだなぁ!!! 挽肉に強力な下剤を仕込んでおいたッッ!! これぞ悪!!!!!」 なんだとおおおおおおおおおお!!!!! ・・・つか、お前も食べたろうが・・・・!!!! 「・・・・・あ、来た」 急に素になった宰相が青ざめてしゃがみ込んだ。 ・・・そこから先の事は、よく覚えていない。 飛び交う怒号と、駆け抜ける5人の男たち。 そして紙がない絶望感。 忘れられない、悪夢の夜であった。 翌朝、私はひたすらに重い目蓋を根性で押し上げながら皆におはよう、と挨拶した。 昨夜は何時間もトイレの住人だった。 すっかり寝不足だ。 厨房から賑やかな声がして、私はそちらを見た。 エリスとマチルダが2人で朝食の準備をしている。 談笑しながらだ。 ・・・・・これは一体? 「意気投合したみたいよ。マチルダが料理だけじゃなくて家事全般万能だってわかってね」 結局泊まったのか、ベルナデットがテーブルに新聞を広げながら言う。 「というか、家事ができるっていうだけであそこまで喜ばれるのは異常。皆で暮らしているのに」 そう言ってDDとルクを見るベルナデット。慌てて目をそらす2人。 やる気がないDDと、力加減がわからずに破壊をもたらすルク。 ・・・まあ、仲良くなったのならそれに越した事はないな・・・。 そうしてふと庭に目をやると、そこには逆さまに吊り下げられてボコボコにされたキャムデン宰相が風に吹かれて揺れていたのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ [[第12話 3>第12話 邂逅と再開と-3]]← →[[第13話 四王国時代の終焉>第13話 四王国時代の終焉-1]]

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