「第10話 多層都市パシュティリカ-6」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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ドーンとテーブルの中央に盛られた大量のギョウザを呆然と眺める。
「お代りは自由だぞ。さあどんどん食べてくれ」
がっはっはとバルカンが豪快に笑う。
・・・・いや、朝からこの山盛りのギョウザはな・・・・。
見てるだけで胸焼けになりそうだ。
ガ・シアとの戦いから一夜が明けていた。
私と仲間達はバルカンの屋敷に部屋を用意してもらった。
ベルナデットは自分の屋敷に来ればいい、と言ったのだがバルカンがそれを止めた。
「お主の家はしばらくは連日来客で溢れ返る事になろう。そんな中に居たのではウィリアム達も気が休まるまい」
との事であった。
まあ国家の重要人物が4年ぶりに帰還したのだ。そういう事もあるかもしれない。
幸いにしてマチルダの傷は浅かったのだが、彼女のペガサスはダメージが大きく、暫く静養が必要だとの事であった。
とりあえずは皇宮の幻獣医が診てくれているので安心か。
そのマチルダはといえば昨日から何だか気付けば私の方をチラチラと伺っているので落ち着かない。
まあ子供だったのがいきなりこの姿になったのだから気になるのだろう。
そしてこの朝食だが・・・・。
丼にドカッに盛られたご飯に、チキンのスープに、山盛りギョウザ。
ふと見るとジュウベイとマチルダとルクは気にせず普通に食べている。
・・・・むう、私は朝はもうちょっと軽いものがいいなぁ・・・。
「しっかり食べておけよ。食事が終わったら皆でロードワークだ」
え・・・走るの!?
朝食後1時間程休んで我々は渡されたトレーニングウェアに着替えてジョギングを開始した。
先頭で笛を鳴らしながらバルカンが走っている。
・・・元気な老人だなぁ・・・。
誰に何を言われなくても毎朝トレーニングをしているルクは平然としているが、ジュウベイはヒーヒー言っている。
マチルダも平然としているな。まあ現役の軍属だしな彼女は。
「戻ったら筋トレだぞ!!」
ぬああああこの上筋トレまでやんのか!!!!
「当然だ! お前達にはこれからも激しい戦いが待っているのだぞ! 身体を鍛えておかんでどうする!!」
確かにそれはそうなのだが・・・何故かそれ以外の意図が感じられてしょうがないんだが・・・。
「昼食を挟んで午後からはスパーリングだ」
ホラ!!! レスラーにされるよ絶対!!!!
「デビュー戦の日取りも決めなくてはな・・・リングネームは『マッドティーチャー』でどうだ」
しかもヒールだよ!!!!
幸いにして昼食が済むとバルカンは神官達に仕事があると皇宮へ引きずられていった。
やれやれ・・・やっと一息つける。
折角貴重な資料を多く保有している歴史ある大国に滞在しているのだ。
色々と資料など当たってみたい所だな。
等と考えていると・・・・。
「あの・・・」
と、ルクがマチルダに声をかけている。
「はい? 何でしょう?」
「お願いがあります。マチルダ・・・私に稽古をつけて欲しいのですが」
ルクが真剣な顔で言った。
ふむ、とマチルダがちょっと考え込む。
「では、まずちょっと手合わせしてみましょう」
そして顔を上げると、マチルダはそう言って微笑んだ。
バルカンの屋敷の敷地内には大掛かりなトレーニング施設がある。
中にはトレーニング機材やリング等一通りの設備が揃っていた。
そこで互いに練習用の刃止めをした槍を構えたルクとマチルダが対峙する。
私とジュウベイもそれを見物に来ていた。
うーむ・・・。と2人を見てジュウベイが唸っている。
「ルクにはすまんが、勝つのはマチルダじゃのう。打ち合って7合と言った所か」
小声でジュウベイが言う。
「私たちフォーリーヴズクローバーは全員『エレメンタルアーツ』という精霊をその身に宿らせて戦闘力を高める闘法を使いますが、今はそれは使用しません」
マチルダがそう言って構えた。
ゴルゴダと戦った時に見せたあの加速か。
参ります、と一礼したルクがマチルダに突きかかる。
鋭い突きの応酬が続いたかと思うと、ジュウベイの予見した通り7合目の打ち合いでマチルダの槍がルクの槍を大きく弾き飛ばした。
「・・・参りました」
ルクが項垂れる。
「ふむー・・・・大体わかりました。槍捌きで少し私に教えてあげられる事があるかもしれません。しばらく一緒に修行しましょう」
マチルダのその言葉に顔を上げたルクが瞳を輝かせる。
そしてありがとうございます、と深々と頭を下げた。
修行か・・・・。
確かに私も鍛えなければな。
ベルナデットを身内として護るというのであれば、それは取りも直さず残る魔人たちと戦う覚悟を決めなくてはならないという事だ。
あの紅蓮の炎の化身、グライマーと。
恐るべき水流使い、ヴァレリアとその執事ベイオウルフと。
最初の出会い以来姿を見せていない魔女ナイアールと。
最強と言われる狂皇ラシュオーン・・・魔人ゼロと。
・・・そして全てを喰らい尽くす意識体であるという『貪るもの』と。
戦ったことがあるのはグライマーとヴァレリアだが、正直今の力でもその2人に勝てるとは思えない。
考えつつ、飛ばされたルクの槍を拾いに行く。
・・・お、あれか・・・て、何か槍のすぐ脇に転がってる・・・。
あれは・・・。
「・・・・不器用・・で・・・すいませ・・ん・・・・」
サンド高クラーケンだー!!!!!!!!
驚いて仰け反った瞬間、私はドクンと一度大きく脈打ってガクンと身体が大きく震えた。
瞬く間に視点が低くなる。
・・・・って!!! ちょっとこれまさかちょっと!!!!!!
見つめる掌が小さい。
また私は少年の姿に戻ってしまっていた。
・・・・・・・くそーっ!! どうして!!!?
一回戻ったのに!!!!
お前のせいか!!!
思わずサンド高クラーケンにフライングニードロップを決める。
「・・・・不器ョッッ!!!!」
こうして午後のトレーニングルームにサンド高クラーケンの悲鳴が響き渡ったのだった。
~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~
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