ロングッシュと別れた俺達はファーガソンの元へ来た。
「あの、ロングッシュさんに紹介されて仕事が無いか来たんですが」
知的な顔をした男性はその声に顔を上げるとあぁ、と呟いた。
「私は病気のコボルトについてではなくその病気について研究しているんだ。今回はその病原体が人間に害をなさないか調べるために病気のコボルトの服を集めて欲しい。大体20着もあればいいね」
「はい、分かりました」
いよいよ外に出ることができる。外のモンスターと戦うことができる。そう思うと俺の心は期待に震えた。
外の世界は広かった。前を見ると道がずっと続き、南には大きな花畑、北は急な丘になっている。俺達はしばらく目の前の道を進んだ。
「あ、あれかな」
ミライナが指差したのは青いマントのような服を羽織った、青白い二足歩行の生き物だ。心なしかふらついているようにも見える。
モンスター図鑑に書かれているものと同じだ。
「それっぽいな。足取りもおぼつかないし」
俺は杖を持って後ろから近づいた。
「私も」
ミライナは背負っていた弓を持ち、矢をつがえて引いた。
「ファイアーボルト!」
「ハッ!」
俺の火弾が焼いた場所に見事矢が命中した。コボルトは悲鳴を上げると怒ってこちらに向かってきた。持っているのは半分さびて手入れもなっていない槍だ。
ミライナは持っているものをやりに持ち替えてコボルトに突進した。経験値により得られるスキルポイントで技を磨くまではこうしてひたすら突いていた方が効率よく戦えるらしい。
俺は続けざまに2発のファイアーボルトを放った。肉がはじけ飛ぶ。
「あっ、ヴァイシス!」
「あん?」
「服は狙わないで!」
そいつは難しい注文だ。なんせミライナに当てないように、なおかつ遠くから狙わないといけないんだからな。
それでもなんとかコボルトを倒し、服を剥ぎ取ろうとする。
「ん~、なかんかあ脱げないな……」
四苦八苦しているうちにコボルトは服と一緒に大地に吸い込まれるように消えてしまった。
「あれ?」
「モンスターは死ぬとあっというまに大地に還るらしい。今度は急ごうぜ」
「あ、そうなんだ。ごめんね」
「気にすんな。さ、次だ」
まもなく次のコボルトが林の間をうろついてるのを見つけた。今度は2匹まとまって動いている。
「私右のを狙うね」
「分かった」
ミライナはまた弓を取り出し、同じように矢をつがえてはなった。しかし矢はストン、という音を立てて近くの木に突き立った。それにコボルトが気付いてミライナの方をにらみつけた。
「ちっ……」
ミライナは舌打ちして次の矢を取り出す。
俺も火弾を放つ。魔力の性質上、魔法は外れることがない。コボルトが逆上してずんずん距離を詰めてくる。
「くそっ」
横でミライナがコボルトの攻撃をかわしつつ槍を突き出しているのが見えた。露出度の高い装備の効果はちゃんとあるようだ。
俺の放つ弾がコボルトの顔にヒットした。
「ぐぎぇっ」
肉の焦げる嫌なにおいを発してコボルトが倒れる。すかさず俺は服を脱がしにかかった。
今度はうまくいった。
「ミライナ、どうだ?」
「うん、結構綺麗な状態で取れたよ」
「そいつはよかった。ところで、今何時だ」
そんなもの分かるわけがない。
遠くまで行くことは予定していなかったから寝袋もテントも無い。そもそもよく考えたら寝袋なんて邪魔だから持っていけるわけがない。
「……」
ミライナと一緒に寝るのか?
「その辺で狩りしてすぐに帰ろっか」
ようやくミライナが口を開いて具体的な案を提示した。
「そうだな」
というわけで俺達はコボルトを30匹ほど倒して服を集めた。
「ひぃ……今ので何着だ?」
「20着だよ。急いで帰ろ」
そういえばもう暗い。急がないとな。
急ぐ、とは休み無しに歩く、という意味だ。
「あ、綺麗な花だね~」
少しずつ移動して狩っていたため入ってきてしまった花畑の中に他の物よりも手入れされた花があった。
「摘んでもいいのかな?」
「おい!」
ミライナがこちらを振り向く。俺は手を振って自分じゃないことをアピールした。
後ろを向くと醜悪な顔つきをしたコボルトが立っていた。まるで世界が自分を中心に回ってますよとでも言いたげな生意気な顔だ。
「その花は俺様のものだ!摘むんなら俺様を倒してからにしろよ!まあ、無理だろうけどな」
と、勝手にまくしたてて飛びかかってきた。
結果から言わせてもらおう。普通のコボルトだ。
「やった!沢山もってこっと!」
無邪気にはしゃいでミライナは20本ほど摘んでから歩き出した。
「……ま、いっか」
花畑を歩くうちに、一人の男が座り込んでいるのを見つけた。切傷を追っている。
「あの、大丈夫ですか?」
「あ?あぁ、くそ、まだあいつの傷が残ってやがる」
誰だか知らないが数センチしか残ってねえじゃねえか。
「あいつ?」
ミライナが小首を傾げるとそいつはいきなり立ち上がって顔を真赤にして熱弁を始めた。
「そうさ!あの生意気なコボルトが俺の花を取りやがったんだ!」
こいつ……大したことないな。俺はそう確信した。
「おい、お前らかけだしだろ?なら先輩の言うことを聞くんだ!あの生意気なコボルトをやっつけて来い!」
「あの……コボルトは私達が倒したんですが……」
そう言ってミライナは花を渡した。
「これがあなたの育てていた花ですね?綺麗です」
「おぉっ、おー!助かった。礼に休息の心得を教えてやる」
どんな場所でも座ることによってHPの回復を促進することができるのだが、このキャンピングマスターなる技術はその速度を1割速めることができるらしい。
「……というわけだ。さ、もういっていいぞ」
「ありがとうございました」
一応頭は下げたが大したことねえな。
またそこから北上して道をみつけ、俺達はそこを歩いた。
「なぁ」
俺はミライナに声をかけた。
「ん?」
「ランサーって弓もやるのか」
「そうだよ、使わない人もいるけど私は使うよ」
「へぇ、お前の先輩はどうなんだ」
レベル100を超えているベテランの冒険家らしい。
「ランサー一筋だってさ。エントラップピアシングっていう分身して瞬間的に大きな火力を発揮するスキルを極めようとしてるよ」
極める、というのはそのスキルのレベルを50にすることをそう言う。経験値によって手に入るスキルポイントでスキルレベルを上げる。上級のものほど上げるのに多くのスキルポイントが必要になってくる。まあ難しいものに多くの練習が必要なのは当然だな。
「お前は……どうするんだ」
「私はガーディアンポストっていう難易度最高のスキルを使えるようになってランサーとアーチャーを両立させたいんだ」
槍を地面に突き刺し、それを媒介にして目標に落雷させる。それがガーディアンポストと呼ばれるスキルだったはずだ。その時に同時に弓を使うってことだな。
「先輩は茨の道っていうけど、絶対に成功させたいんだ」
「そうか……いろいろ考えてるんだな」
「そんなことないよぉ。まだまだ先のことだもん」
ミライナは俺の方を見た。
「ヴァイシスは?」
「俺……俺か?」
「うん。スキルポイントも使ってないみたいだし、どうするの?」
いや、全く決めてないな。
「まあ、そこは秘密ってことで見逃してくれよ」
「なにそれ~。けち」
……何を習得しようか……
いっさみんみんの黒歴史 第二話